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【発明の名称】 シール摺動部材用樹脂組成物及びこれを用いたシール摺動部材
【発明者】 【氏名】山本 徹之

【要約】 【課題】シール機能を維持しつつ、生産性及び経済性を向上させることができるシール摺動部材用樹脂組成物及びこれを用いたシール摺動部材の提供を目的とするものである。

【解決手段】軸部及び軸受部2のどちらか一方と、その摺動部分に粉状異物が侵入するのを防止する環状のリップ部3とを有する軸受用のシール摺動部材1であって、それらが熱可塑性エラストマーにグリースを分散含有させた樹脂組成物で一体に形成するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱可塑性エラストマーにグリースを分散含有させたシール摺動部材用樹脂組成物。
【請求項2】 上記グリースの含有率が2重量%以上20重量%以下である請求項1に記載のシール摺動部材用樹脂組成物。
【請求項3】 上記グリースが、炭化水素油を基油とし、ステアリン酸リチウム塩を粘稠剤とする請求項1又は請求項2に記載のシール摺動部材用樹脂組成物。
【請求項4】 上記熱可塑性エラストマーが、JIS−A硬度で80以上90以下のものである請求項1、請求項2又は請求項3に記載のシール摺動部材用樹脂組成物。
【請求項5】 軸部及び軸受部のどちらか一方と、その摺動部分に粉状異物が侵入するのを防止する環状のリップ部とが、上記請求項1から請求項4に記載のシール摺動部材用樹脂組成物で一体に形成されているシール摺動部材。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、複写機、プリンター、ファクシミリなどの現像部、特にトナーなどの微粉体と接触する部位への使用に好適な軸受及び回転軸用のシール摺動部材及びこれに用いる樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】上記複写機等の現像部におけるトナー等と接触する部位には、従来、図7に示すようなシール機能付軸受101や、図8に示すようなシール機能付回転軸111などのシール摺動部材が使用され、現像部からトナーが漏洩しない構成を採っている。
【0003】かかるシール機能付軸受101は、回転軸を支承する軸受部102と、軸受部102の外周に装着されるゴム製のOリング103と、軸受部102の支承面の一端側に配設されるゴムシール104とからなる。このOリング103は当該シール機能付軸受101の外周からトナーが漏れることを防止し、ゴムシール104はその環状リップ部105によりシール機能付軸受101と回転軸との間からトナーが漏れることを防止している。なお、軸受部102には自己潤滑性を有するポリアセタールなどが使用され、Oリング103及びゴムシール104にはニトリルゴム、フッ素ゴムなどが使用されている。
【0004】またシール機能付回転軸111は、円柱状の軸部112と、この軸部112に嵌合する中空短円柱状のシール部113とからなる。このシール部113は軸部112が支承されるハウジング114に当接し、トナーが漏れることを防止している。なお、軸部112には金属、樹脂などが使用され、シール部113にはウレタン樹脂製等の発泡体が使用されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記従来のシール摺動部材であるシール機能付軸受101及びシール機能付回転軸111にあっては以下に示す不都合がある。すなわち、(1)上記シール機能付軸受101は、そのトナーをシールする機能及び軸受としての機能は満足すべきものであるが、軸受部102、Oリング103及びゴムシール104からなる複数の部品を組合せた構成をとっているため、当該シール機能付軸受101の組立には時間と手間を必要とする。また、それらの部品には高価なもの(特にゴムシール104)を含むことからも、製品全体としてコストアップは不可避である。
【0006】(2)シール機能付回転軸111も、同様に、軸部112とシール部113とを組合せた構成であるため、組立が困難であり、かつ、コストアップを招いている。
【0007】(3)かかる組立の困難性を回避すべく、シール機能付軸受101をゴムシール104に使用するゴム素材で一体成形し、軸受部102とは別体のゴムシール104やOリング103をなくしたシール機能付軸受も開発されているが、製造が困難で、コストアップを招くという問題を有している。そのため、当該シール機能付軸受を構成するゴム素材の変更や製造方法の改善が図られたが、その改善も構造上の限界から満足できるものではなく、逆に、シール機能を低下させるといった問題が生じている。
【0008】本発明はこれらの不都合に鑑みてなされたものであり、シール機能を維持しつつ、生産性及び経済性を向上させることができるシール摺動部材用樹脂組成物及びこれを用いたシール摺動部材の提供を目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するためになされた発明は、熱可塑性エラストマーにグリースを分散含有させたシール摺動部材用樹脂組成物である。グリースは、一般的に、合成油、鉱物油などの基油と、ステアリン酸塩、ウレア化合物などの粘稠剤とから構成されており、粘稠剤が基油を保持して半固体状態になっている。従って、当該樹脂組成物に含有されたグリースは粘稠剤が基油を取り込んだ形で分散するため、当該樹脂組成物から基油が噴き出ることを抑制し、長期間安定した摩擦抵抗及び摩耗の低減機能が発揮できる。
【0010】従って、当該樹脂組成物を用い、軸部及び軸受部のどちらか一方と、その摺動部分にトナー等の粉状異物が侵入することを防止する環状のリップ部とを有するシール摺動部材を一体に形成すると、摺動部分の摩擦抵抗及び摩耗を長期間安定して低減させることができる。
【0011】上記グリースの含有率は、2重量%以上20重量%以下が好ましい。これは、グリースの含有率が2重量%より小さいと、上述のような摩擦抵抗及び摩耗の低減機能が十分に発揮できず、逆に、上記含有率が20重量%を超えると、当該樹脂組成物の製造において、押出機等による混練が困難になることからである。
【0012】上記グリースは、炭化水素油を基油とし、ステアリン酸リチウム塩を粘稠剤とするとよい。基油に炭化水素油を用いるのは、摺動部分に滲み出しても、熱可塑性エラストマーや周辺部品に悪影響を及ぼしにくいからである。また、粘稠剤にステアリン酸リチウム塩を用いると、グリースが分子構造上、極性、水素結合などの相互作用を受けやすく、その結果、基油を材料中に安定して保持でき、摩擦抵抗及び摩耗の低減機能の安定化及び長期間化を促進することができる。
【0013】上記熱可塑性エラストマーは、JIS−A硬度で80以上90以下のものが好ましい。これは、熱可塑性エラストマーのJIS−A硬度が上記範囲より小さいと、金型等からの取り出し時に変形が生じる等、生産性が低減し、逆に、JIS−A硬度が上記範囲を超えると、摺動個所での接触力が大きく、摩擦熱でトナーが融着し、さらなる摺動抵抗の増大を招くおそれがあることからである。ここで「JIS−A硬度」とは、JISに規定するスプリング式硬さ試験(A形)による硬度を意味する。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、適宜図面を参照しつつ本発明の実施の形態を詳説する。図1から図4はそれぞれ本発明の第1実施形態から第4実施形態に係るシール摺動部材を示す模式的断面図である。
【0015】図1のシール摺動部材1は、シール機能付軸受であり、回転軸を支承する円筒状の軸受部2と環状のリップ部3とを、後述する樹脂組成物で一体に形成したものである。このリップ部3は、軸受部2の一端側から半径方向内向きかつ軸受部2方向に傾斜させて突設されている。また、リップ部3の形状は、根元側から先端(内径端)側に行くに従って厚みが薄くされ、つまり断面形状が鋭角に形成されている。
【0016】当該シール摺動部材1は、軸受部2に嵌合する回転軸の外周面にリップ部3が押圧力を及ぼしつつ当接する。かかるリップ部3によって、当該シール摺動部材1を介するトナーの漏洩が防止できる。従って、従来の軸受がトナー等の微粉末の侵入を防止するために必要であったゴムシール等が不要になる。
【0017】当該シール摺動部材1を構成する樹脂組成物は、グリースと熱可塑性エラストマーとを含有するものである。従来、シール摺動部材に自己潤滑性を与えるために、鉱物油を含有させる手段があったが、鉱物油だけであると成型品表面に鉱物油が容易に噴き出て、摩擦抵抗及び摩耗を低減する機能を長期間安定して発現されない。また、シリコン変性したウレタン系熱可塑性エラストマー(大日精化(株)社製の商品名「レザミンPS−22490」)、フッ素系潤滑剤を含有したウレタン系熱可塑性エラストマー(日本ミラクトラン(株)社製の商品名「ミラクトランF598FCOO」)などを用い、耐摩擦性、耐摩耗性を向上させようとしたものがあるが、摩耗が大きくシール摺動部材には適さない。当該シール摺動部材1はグリースを含有することで、上記従来の手段による不都合を解決し、長期間安定して摩擦抵抗及び摩耗を低減させることができる。かかる作用を有効に発揮させるためには、グリースの含有率は2重量%以上20重量%以下が好適である。
【0018】上記樹脂組成物に使用する熱可塑性エラストマーとしては、特に制限されるものではなく、例えば、オレフィン系、スチレン系、エステル系、アミド系、ウレタン系、シリコン系、フッ素系などが挙げられる。但し、エステル系、アミド系及びウレタン系熱可塑性エラストマーが、耐摩耗性を有しており、シール摺動部材に適している。当該熱可塑性エラストマーのJIS−A硬度は80以上90以下が好ましい。
【0019】上記樹脂組成物に使用するグリースは、特に限定されるものではなく、一般的なグリースが使用できる。但し、エステル系、アミド系及びウレタン系熱可塑性エラストマーには、炭化水素油を基油とし、ステアリン酸リチウム塩を粘稠剤とするグリースが好適である。これらのグリースが特に、分子構造上、極性、水素結合などの相互作用を受けやすく、基油を安定して材料中に保持できるからである。
【0020】当該シール摺動部材1の製造方法としては、シール摺動部材1と同一の形状の内部空間を有する金型に、上述の樹脂組成物を射出成形する方法が好ましい。かかる射出成形によれば、複雑な形状のものを容易に製造することができる。
【0021】図2のシール摺動部材4は、軸受部5とリップ部6が樹脂組成物で一体に形成されている点で、図1のシール摺動部材1と同様である。ただし、このリップ部6は、その先端が軸受部5から離隔するように傾斜し、軸受部5側へのトナー侵入防止効果を高めている。当該シール摺動部材4を構成する樹脂組成物も上記シール摺動部材1の樹脂組成物と同様である。
【0022】図3のシール摺動部材7は、軸受部8と外向きに傾斜するリップ部9とが一体に形成されている点で図2のシール摺動部材4と同様である。ただし、当該シール摺動部材7は、上記シール摺動部材4と異なり、円筒状の外周面に凸条部10が一体に形成されている。この凸条部10は断面半円形に突出するものであり、周方向に1周連続するものである。この凸条部10により、従来の軸受に必要であったOリングを用いなくても、トナーの漏洩を防止する効果が果たせ、さらに凸条部10を一体に形成することで、トナーの漏洩防止効果の完全性を高めることができる。なお、当該シール摺動部材7を構成する樹脂組成物も上記シール摺動部材1の樹脂組成物と同様であり、摩擦抵抗の低減及び耐摩耗性の向上が図られる。
【0023】図4のシール摺動部材11はシール機能付回転軸であり、円柱状の軸部12と環状のリップ部13とが、樹脂組成物で一体に形成されたものである。このリップ部13は、上述のリップ部3と同様の形状であり、軸部12をハウジング(軸受)14に支承させたときにハウジング14に当接するように形成され、軸部12とハウジング14の間からのトナー漏れを防止している。なお、当該シール摺動部材11を構成する樹脂組成物も上記シール摺動部材1の樹脂組成物と同様であり、摩擦抵抗の低減及び耐摩耗性の向上が図られる。
【0024】
【実施例】以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきものではないことはもちろんである。
【0025】(1)実験1[実施例1]JIS−A硬度が83のアミド系熱可塑性エラストマー(富士化成(株)社製の商品名「TPAE−10HP」)100重量部と、合成油系グリース(協同油脂(株)社製の商品名「マルテンプD No.2」)6.95重量部とを、ヘンシェルミキサーで混練し、この混練物を押出機にてペレット状にし、その後、射出成形により図3のシール摺動部材7と同様の形状に形成して、実施例1のシール摺動部材を得た。なお、当該合成油系グリースは、基油に合成油を用い、粘稠剤にステアリン酸リチウムを用いたものである。
【0026】[実施例2]JIS−A硬度が83のウレタン系熱可塑性エラストマー(大日精化(株)社製の商品名「レザミンP2183」)100重量部と、合成油系グリース(協同油脂(株)社製の商品名「マルテンプSC−C」)6.95重量部を用いた以外は実施例1と同様にして実施例2のシール摺動部材を得た。なお当該合成油系グリースは、基油に合成油を用い、粘稠剤に芳香族ウレアを用いたものである。
【0027】[実施例3]JIS−A硬度が83のエステル系熱可塑性エラストマー(東洋紡(株)社製の商品名「ハイトレル3083」)100重量部と、グリース(協同油脂(株)社製の商品名「エクセライトEP」)14重量部とを用いた以外は実施例1と同様にして実施例3のシール摺動部材を得た。なお、当該グリースは、基油にエステル系合成油を用い、粘稠剤に芳香族ウレア化合物を用いたものである。
【0028】[実施例4]JIS−A硬度が83のオレフィン系熱可塑性エラストマー(トクヤマ(株)社製の商品名「PER T310E」)100重量部と、グリース(協同油脂(株)社製の商品名「エクセライトEP」)14重量部とを用いた以外は実施例1と同様にして実施例4のシール摺動部材を得た。
【0029】[実施例5]JIS−A硬度が83のスチレン系熱可塑性エラストマー(JSR(株)社製の商品名「TR2003」)100重量部と、グリース(協同油脂(株)社製の商品名「エクセライトEP」)14重量部とを用いた以外は実施例1と同様にして実施例5のシール摺動部材を得た。
【0030】[比較例1]図7のシール機能付軸受101と同様に、ポリアセタール製の軸受部にOリングとゴムシールを装着して比較例1のシール摺動部材を得た。
【0031】[特性の評価]上記実施例1〜5及び比較例1の軸受用のシール摺動部材を用いて、トナー漏れの有無を評価する実験を行った。この実験に用いる評価機15は、図5に示すように、円筒状のハウジング16の両端に一対のシール摺動部材17を嵌合し、かかる一対のシール摺動部材17に1本の円柱状のステンレス製回転軸18を支承させる。この回転軸18は、その一端にモータ19が連結され、外周部にトナーを攪拌する攪拌スクリュー20を設けた。またハウジング16の内部にはトナーを充填した。かかる評価機15を1000時間運転し、トナー漏れの有無を調査した。その結果を下記の表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】上記表1に示しように、実施例1〜5のシール摺動部材についてはトナー漏れは発生せず、比較例1のシール摺動部材と同等のシール機能、軸受機能を有することが確認された。また、実施例1〜5のシール摺動部材は、比較例1のシール摺動部材と比較して、部品点数が大幅に削減でき、生産性ひいては経済性に優れることがわかる。
【0034】(2)実験2[実施例6]JIS−A硬度が90のアミド系熱可塑性エラストマー(富士化成(株)社製の商品名「TPAE−8」)100重量部と、合成油系グリース(協同油脂(株)社製の商品名「マルテンプD No.2」)6.95重量部とを、ヘンシェルミキサーで混練し、この混練物を押出機にてペレット状にし、その後、射出成形により図4のシール摺動部材11と同様の形状に形成して、実施例6のシール摺動部材を得た。
【0035】[実施例7]JIS−A硬度が90のウレタン系熱可塑性エラストマー(大日精化(株)社製の商品名「レザミンP4070」)100重量部と、合成油系グリース(協同油脂(株)社製の商品名「マルテンプSC−C」)6.95重量部とを用いた以外は実施例6と同様にして実施例2のシール摺動部材を得た。
【0036】[比較例2]図8のシール機能付回転軸111と同様に、ステンレス製の軸部に発泡ウレタン製のシール部を装着して比較例2のシール摺動部材を得た。
【0037】[特性の評価]上記実施例6、7及び比較例2の回転軸用のシール摺動部材を用いて、トナー漏れの有無を評価する実験を行った。この実験に用いる評価機21は、図6に示すように、円筒状のハウジング22の両端部(軸受)23に回転軸用のシール摺動部材24を支承させ、該シール摺動部材24のリップ部25をハウジング22の両端23に当接させたものである。このシール摺動部材24にはモータ26が連結され、ハウジング22内にはトナーが充填されている。かかる評価機21を1000時間運転し、トナー漏れの有無を調査した。その結果を下記の表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】上記表2に示しように、実施例6、7及び比較例2の回転軸用のシール摺動部材についてはトナー漏れは発生せず、一体型ではない従来の比較例2のシール摺動部材と同等のシール機能、軸受機能を有することが確認された。また、実施例6、7のシール摺動部材は、比較例2のシール摺動部材と比較して、部品点数が削減でき、生産性ひいては経済性に優れることがわかる。
【0040】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のシール摺動部材用樹脂組成物及びこれを用いたシール摺動部材によれば、ゴムシールやOリングを用いた従来のシール機能付軸受と同等の軸受機能及びシール機能を有し、また、シール部を用いた従来のシール機能付回転軸と同等の回転軸機能及びシール機能を有しており、さらに、部品点数の削減によるコストダウン及び生産性の向上を図ることができる。
【出願人】 【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
【出願日】 平成11年5月14日(1999.5.14)
【代理人】 【識別番号】100065868
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 嘉宏 (外2名)
【公開番号】 特開2000−320684(P2000−320684A)
【公開日】 平成12年11月24日(2000.11.24)
【出願番号】 特願平11−134196