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【発明の名称】 リップ型シール
【発明者】 【氏名】宮井 一郎

【要約】 【課題】高圧条件でのシールリップ13のヘタリを防止し、耐圧性及び密封性を向上させる。

【解決手段】合成樹脂からなるシールリップ13の正面側にリップカバー14が添設されている。リップカバー14は薄肉の鋼板からなり、シャフト2の外周への装着状態におけるシールリップ13とほぼ対応する湾曲形状を呈する。リップカバー14の先端に形成された段差部14aの内周には、軸周への装着によって拡径されるシールリップ13の先端部13の外周面と密接することによって、シールリップ13とリップカバー14の間を機内空間S1に対して密封するOリング15が保持されている。このため、シールリップ13には、機内空間S1の高圧の流体圧力が作用しないようになっている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ハウジングの内周に固定されるケースに、密封対象空間側へ延びる内径側の端部がシャフトの外周面と密封的に摺接されるシールリップと、このシールリップの前記密封対象空間側の面に添設され適当な弾性を有する金属薄板からなるリップカバーと、が保持され、前記シールリップとリップカバーとの間が前記密封対象空間に対して密閉されたことを特徴とするリップ型シール。
【請求項2】 請求項1の記載において、リップカバーの肉厚が0.05〜0.25mmであることを特徴とするリップ型シール。
【請求項3】 請求項1の記載において、リップカバーが、金属薄板からなる複数のカバープレートを厚さ方向に互いに重合すると共に互いに密封的に接合したものであることを特徴とするリップ型シール。
【請求項4】 請求項1乃至3のいずれかの記載において、シールリップとリップカバーとの間の密封が、このシールリップとリップカバーの先端間に保持されたパッキングによりなされたことを特徴とするリップ型シール。
【請求項5】 請求項1乃至3のいずれかの記載において、シールリップとリップカバーとの間の密封が、このシールリップとリップカバーの間に保持されたエラストマからなるシートによりなされたことを特徴とするリップ型シール。
【請求項6】 請求項1乃至3のいずれかの記載において、シールリップとリップカバーとの間の密封が、このシールリップとリップカバーの先端同士を互いに接着することによりなされたことを特徴とするリップ型シール。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は機器の軸封を行うリップ型シールに関し、特に、密封対象流体が著しく高圧となる条件での耐久性を向上させる技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来から、例えば流体圧縮機に使用される軸封装置として、図10に示すようなリップ型シール100がある。この種のリップ型シール100は、流体圧縮機の軸受部ハウジング1の内周面にOリング103を介して密嵌固定される金属製のケース101に、内径部が密封対象である機内空間S1側へ向けて湾曲して延びるPTFE(四フッ化エチレン樹脂)等の合成樹脂材からなるシールリップ102の外径部を密着状態に保持してなる構造を備え、シールリップ102の内径端部102aがシャフト2の外周面と気密的に摺接することによって、機内空間S1内の圧縮流体が大気側空間S2側へ漏れるのを阻止するものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この種のリップ型シールは、機内空間S1が著しく高圧になる条件では、圧縮流体の圧力によって図10(B)に示されるようにシールリップ102が変形され、シャフト2の外周面との摺動面積及び面圧の増大による摺動発熱量の増大や潤滑不足の発生を来し、高熱及び高圧による永久変形(ヘタリ)や材質の劣化を起こして密封性能が早期に損なわれるおそれがあった。
【0004】本発明は、上記のような事情のもとになされたもので、その技術的課題とするところは、密封対象空間が著しく高圧になる条件下でも、シールリップの安定した摺動状態を確保して、優れた密封性能を維持することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上述した技術的課題は、本発明によって有効に解決することができる。すなわち本発明に係るリップ型シールによる軸封構造は、ハウジングの内周に固定されるケースに、密封対象空間側へ延びる内径側の端部がシャフトの外周面と密封的に摺接されるシールリップと、このシールリップの前記密封対象空間側の面に添設され適当な弾性を有する金属薄板からなるリップカバーとが保持され、前記シールリップとリップカバーとの間が前記密封対象空間に対して密閉されたものである。金属板からなるリップカバーはシールリップに対する密封対象空間の圧力を遮断するものであり、しかも適当な弾性を有するため、シャフトに対する前記シールリップの適正な密封面圧及び追随性を確保することができる。
【0006】本発明における一層好ましい構成においては、リップカバーの肉厚が0.05〜0.25mmであり、また、リップカバーが、金属薄板からなる複数のカバープレートを厚さ方向に互いに重合すると共に、互いに密封的に接合したものとする。
【0007】また、本発明において、シールリップとリップカバーとの間の密閉は、例えばこのシールリップとリップカバーの先端間に保持されたパッキングによりなされるか、このシールリップとリップカバーの間に保持されたエラストマシートによりなされるか、このシールリップとリップカバーの先端同士を互いに接着することによりなされる。
【0008】
【発明の実施の形態】[実施形態1]図1は、本発明に係るリップ型シールの実施形態1を示す半断面図であり、このうち(A)は機器への装着状態、(B)は未装着状態を示すものである。この図における符号1は流体圧縮機の軸受部のハウジング、符号2はこのハウジング1の内周に回転自在に挿通されたシャフトで、シャフト2の軸周は、ハウジング1の内周面に固定されたリップ型シール10によって軸封されており、その図中右側が密封対象である機内空間S1、左側が大気側空間S2である。
【0009】この実施形態のリップ型シール10は、外ケース11と、この外ケース11の内周に嵌合された内ケース12とによって、シールリップ13と、このシールリップ13の機内空間S1側(以下、正面側という)に添設されたリップカバー14が、その外径部を一体的に保持された構造を有する。
【0010】これを更に詳しく説明すると、外ケース11は鋼材等の金属板からなるものであって、その大気側空間S2側(以下、背面側という)の端部から内周側へ延びる鍔部11aを有する。内ケース12も鋼材等の金属板からなるものであって、前記外ケース11の外周円筒部11bの内周面に嵌合されると共にカシメ部11cによって固定され、その背面側の端部に内周側へ延びる鍔部12aを有する。そしてシールリップ13とリップカバー14の外径部は、前記外ケース11の鍔部11aと内ケース12の鍔部12aとの間に軸方向に挟圧された状態で保持されている。
【0011】シールリップ13は、内径部が機内空間S1側へ湾曲して延びPTFE等の低摩擦の合成樹脂材からなるものであって、図1(B)に示される未装着状態では湾曲部の曲率が小さく、その内径はシャフト2の外径よりも小さい。そして内周にシャフト2を挿通することによって、図1(A)に示されるように内径部が拡径され、その先端部13aの内周面が、シャフト2の外周面に対して所要の面圧で密接される。
【0012】すなわちこのリップ型シール10は、外ケース11が、ハウジング1の内周面にOリング3を介して圧入されると共に、前記ハウジング1の内周面における前記Oリング3の装着部より大気側に円周方向に連続して形成された段差面1aと、前記Oリング3の装着部より機内側に形成された環状溝1bに嵌着した止め輪4との間に拘束されることによって、前記ハウジング1に固定され、シールリップ13の先端部13aの内周面がシャフト2の外周面と密封的に摺接されることにより、機内空間S1の高圧流体が軸周から大気側空間S2へ漏洩するのを防止するものである。
【0013】リップカバー14は、例えば肉厚が0.05〜0.25mmの薄肉の鋼板からなるものであって、シャフト2の外周への装着状態におけるシールリップ13とほぼ対応する湾曲形状に成形されている。また、このリップカバー14における内径側の先端部には、円周方向連続して外周側へ屈曲形成された段差部14aを有し、その内周には、パッキングとしてOリング15が保持されている。そしてこのOリング15は、軸周への装着によって拡径されるシールリップ13の先端部13aの外周面と、前記段差部14aとの間に挟着された状態となり、シールリップ13とリップカバー14の先端間を機内空間S1に対して密閉するものである。
【0014】以上の構成によれば、シールリップ13の正面側はリップカバー14で覆われており、しかもその外径部同士は外ケース11と内ケース12の鍔部11a,12a間で挟圧されることにより互いに密接しており、先端部間はOリング15により密閉されているので、機内空間S1の流体圧力はリップカバー14で受けることになり、シールリップ13には前記圧力が縮径方向の変形力として直接作用することがない。このため、前記圧力が著しく高圧となる場合でも、シャフト2の外周面に対するシールリップ13の先端部13aの摺動負荷の増大が著しく緩和され、ヘタリを有効に防止することができる。
【0015】上述のように、リップカバー14は機内空間S1の流体圧力によるシールリップ13の先端部13aの摺動負荷を抑えるものであるが、剛体ではなく、薄肉に形成されたことによってある程度の弾性を有するため、外周からの流体圧力によって縮径方向へ僅かに弾性変形され、合成樹脂材からなるシールリップ13の先端部13aに適当な緊迫力を与える。そして、この緊迫力は、前記流体圧力に比例して変化するため、前記流体圧力の上昇に伴う漏洩圧力の上昇に対抗する密封面圧を得ることができる。
【0016】また、リップカバー14が適当な弾性を有することによって、シャフト2の僅かな偏心に対するシールリップ13の先端部13aの追従性が確保される。したがって、このようなシャフト2の偏心状況においても良好な密封性能を発揮することができる。
【0017】図2は、上記実施形態1によるリップ型シール10と、先に説明した図10に示される従来構造によるリップ型シール100の漏洩試験を、次の試験条件において実施した結果を示すものである。
[試験条件]
シャフトの回転数・・・・・・5000rpm密封対象空間の圧力・・・・0.5MPa密封液の温度・・・・・・・・・・80℃密封液の種類・・・・・・・・・・油試験時間・・・・・・・・・・・・・・100時間この試験結果から明らかなように、上記実施形態のリップ型シール10によれば、100時間の累積漏洩量が従来のリップ型シール100に比較して著しく少なく、0.5MPa(5気圧)の高圧条件でも優れた密封性能を維持可能であることが確認された。
【0018】[実施形態2]次に図3は、本発明に係るリップ型シールの実施形態2を示す半断面図であり、このうち(A)は機器への装着状態、(B)は未装着状態を示すものである。この実施形態2において、外ケース11、内ケース12及びシールリップ13は、先に説明した実施形態1と同様のものである。
【0019】リップカバー14における内径側の先端部には、円周方向連続して外周側へ屈曲形成されたテーパ部14bを有し、その内周には、パッキングとして環状エラストマ14cが一体的に焼付成形(加硫接着)されている。この環状エラストマ14cは、軸周への装着によって拡径されるシールリップ13の先端部13aの外周面に適当な潰し代をもって密接するものである。したがってこの構成によれば、実施形態1とほぼ同様の効果を実現することができ、しかも前記環状エラストマ14cは脱落するおそれがない。
【0020】[実施形態3]次に図4は、本発明に係るリップ型シールの実施形態3を示す装着状態の半断面図である。この実施形態3において、外ケース11、内ケース12及びシールリップ13は、先に説明した各実施形態と同様のものである。
【0021】リップカバー14における内径側の先端部14dには、パッキングとして、軸方向一側に円周方向に連続した溝を有する断面略コ字形のエラストマからなる環状のキャップ16が、前記溝において密接状態に嵌合又は接着されており、軸周への装着によって拡径されるシールリップ13の先端部13aの外周面に、適当な潰し代をもって密接されるようになっている。したがってこの構成によれば、シールリップ13の正面には機内空間S1の流体圧力が縮径方向の変形力として直接作用することがないので、実施形態1とほぼ同様の効果を実現することができる。
【0022】[実施形態4]次に図5は、本発明に係るリップ型シールの実施形態4を示す装着状態の半断面図である。この実施形態4も、外ケース11、内ケース12及びシールリップ13は、先に説明した各実施形態と同様のものである。
【0023】シールリップ13とリップカバー14との間には、その全域に、エラストマで成形された弾性シート17が介在している。この弾性シート17は、外径部17aが、シールリップ13及びリップカバー14の外径部と共に、外ケース11の鍔部11aと内ケース12の鍔部12aとの間に軸方向に挟圧された状態で保持されており、図示の装着状態において、前記シールリップ13とリップカバー14との対向面の前面に密接されるものである。
【0024】この構成によれば、弾性シート17は、シールリップ13とリップカバー14の間を機内空間S1に対して密閉することにより、前記シールリップ13の正面に前記機内空間S1の流体圧力が作用しないようにする機能と、シャフト2の偏心に対するシールリップ13の内径部の追従性を良好にするクッション機能を有するものである。したがってこの実施形態4においても、実施形態1とほぼ同様の効果を実現することができる。
【0025】[実施形態5]次に図6は、本発明に係るリップ型シールの実施形態5を示す装着状態の半断面図である。この実施形態5は、図5に示された実施形態4における弾性シート17の内径側の先端部に断面略コ字形の嵌合部17aを形成し、この嵌合部17bを、リップカバー14の先端部14dに密接嵌合したものである。換言すれば、弾性シート17の先端に、図4に示された実施形態3のキャップ16を一体的に形成した形状を有するものであり、機内空間S1に対するシールリップ13とリップカバー14の間の密封を、一層確実に行うことがてきる。
【0026】[実施形態6]次に図7は、本発明に係るリップ型シールの実施形態6を示す装着状態の半断面図である。この実施形態6も、外ケース11、内ケース12及びシールリップ13は、先に説明した各実施形態と同様のものである。
【0027】リップカバー14には、その表面全体に、エラストマからなる薄膜14eが一体的に焼付接着されている。そしてこの薄膜14eのうち、リップカバー14の背面に被着された部分は、図示の装着状態において、全面がシールリップ13に密接されることによって高圧流体の侵入を防止するものである。したがってこの実施形態6においても、実施形態1と同様の効果を実現することができる。
【0028】[実施形態7]次に図8は、本発明に係るリップ型シールの実施形態7を示す装着状態の半断面図である。上述した各実施形態は、いずれもシールリップ13とリップカバー14との間を密閉する手段として、エラストマからなる部材を介在させたものであるのに対し、この実施形態7は、シールリップ13の先端部13aの外周面とリップカバー14の先端部14d同士を、接着部Bdを介して全周にわたって互いに接着したものである。なお、外ケース11、内ケース12及びシールリップ13は、上述の各実施形態と同様のものである。
【0029】この構成によれば、接着部Bdは、シールリップ13とリップカバー14の間をその先端部13a,14d間で機内空間S1に対して密閉する機能を有するため、前記シールリップ13の正面には機内空間S1の流体圧力が作用しない。したがって、先の各実施形態とほぼ同様の効果を実現することができ、しかもエラストマからなる部材が不要であるため、部品数の増大を来さない。
【0030】[実施形態8]次に図9は、本発明に係るリップ型シールの実施形態8を示す装着状態の半断面図で、このうち(A)は機器への装着状態、(B)は(A)の一部を拡大したものである。この実施形態8においては、リップカバー14が、鋼板等の金属薄板からなる2枚のカバープレート141,142を互いに厚さ方向に重合すると共に、その先端部141a,142a同士を溶接部Wdにおいて全周にわたって互いに溶接したものである。そしてこれらカバープレート141,142の肉厚の和が、例えば0.05〜0.25mmとなっている。
【0031】リップカバー14を構成する2枚のカバープレート141,142のうち、背面側のカバープレート142の先端部142aの内周面は、シールリップ13の先端部13aの外周面と接着部Bdを介して互いに接着されている。また、カバープレート141,142及びシールリップ13の外径部同士は、外ケース11と内ケース12の鍔部11a,12aの間で挟圧されることにより互いに密接されている。なお、外ケース11、内ケース12及びシールリップ13は、上述の各実施形態と同様のものである。
【0032】この構成によれば、溶接部Wdはカバープレート141,142の間をその先端部141a,142a間で機内空間S1に対して密封する機能を有し、接着部Bdは、シールリップ13とカバープレート142の間をその先端部13a,142a間で機内空間S1に対して密封する機能を有するものである。このため、背面側のカバープレート142及びシールリップ13の正面には機内空間S1の流体圧力が作用せず、上記各実施形態と同様の効果が実現される。また、リップカバー14が、厚さ方向に2枚のカバープレート141,142に分割されていることから、その弾性が向上し、シールリップ13の追従性を一層良好にすることができる。
【0033】なお、リップカバー14を構成するカバープレートの数は、圧力条件等によって決定されるものであり、すなわち2枚以上であっても良い。また、先に説明した実施形態1〜6におけるリップカバー14も、それぞれ同様に複数のカバープレートを重合した構成することができる。
【0034】
【発明の効果】本発明に係るリップ型シールによると、密封対象空間の圧力が直接シールリップに作用しないため、高圧条件において、シールリップが前記圧力によって縮径方向に大きく変形されてシャフトとの摺動面積及び面圧が著しく増大することがない。このため、シールリップの摺動負荷増大によるヘタリを有効に防止することができ、しかもリップカバーの弾性によって、漏洩力に対応する適正な密封面圧を与えることができるので、高圧条件下での優れた耐圧性及び密封性を実現することができる。
【出願人】 【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
【出願日】 平成11年4月22日(1999.4.22)
【代理人】 【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
【公開番号】 特開2000−304138(P2000−304138A)
【公開日】 平成12年11月2日(2000.11.2)
【出願番号】 特願平11−114425