| 【発明の名称】 |
ピストンリング |
| 【発明者】 |
【氏名】田中 昭二
【氏名】福留 弘人
【氏名】今井 慎一
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| 【要約】 |
【課題】ピストンリングの疲労強度を向上する。
【解決手段】ピストンリング1はマルテンサイト系ステンレス鋼からなる。ピストンリング1の外周面を除く上下面と内周面に、ビッカース硬さでHV700以上の窒化層2を形成し、その下にビッカース硬さでHV700未満の窒化層3を形成する。そしてピストンリング1の外周面にのみイオンプレーティングによる硬質皮膜4を被覆する。HV700以上の窒化層2とイオンプレーティングによる硬質皮膜4は、上下面と外周面とで形成されるコーナ部の少なくとも片方のコーナ部付近で、接しておらず、互いに離間して設け、その離間間隔は、0.001〜0.3mmの範囲にある。窒化層2,3はピストンリング1の上下面にのみ形成することもできる。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 上下面のみあるいは上下面と内周面のみに窒化層が形成され、外周面にイオンプレーティングによる硬質皮膜が被覆されているピストンリングにおいて、前記上下面のうちの少なくとも片面におけるビッカース硬さHV700以上の窒化層と、前記外周面のイオンプレーティングによる硬質皮膜とが接しておらず、互いに離間して設けられていることを特徴とするピストンリング。 【請求項2】 前記HV700以上の窒化層とイオンプレーティングによる硬質皮膜の離間間隔が、0.001〜0.3mmの範囲にあることを特徴とする請求項1記載のピストンリング。 【請求項3】 前記ピストンリングがマルテンサイト系ステンレス鋼からなることを特徴とする請求項1又は2記載のピストンリング。 【請求項4】 前記イオンプレーティングによる硬質皮膜が、CrN、Cr2N、CrNとCr2Nの混合、あるいはこれらとCrとの混合、もしくはTiNからなっていることを特徴とする請求項1,2,又は3記載のピストンリング。 【請求項5】 前記イオンプレーティングによる硬質皮膜の結晶中に、酸素及び炭素のうちの少なくとも1種が固溶されていることを特徴とする請求項4記載のピストンリング。 【請求項6】 前記イオンプレーティングによる硬質皮膜の厚さが、1〜80μmの範囲にあることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のピストンリング。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、内燃機関のピストンに装着されるピストンリングに関する。 【0002】 【従来の技術】近年、エンジンの高出力化や排気ガス規制の対応に伴って、ピストンリングの使用環境は益々過酷になっている。特に、耐久性を増すために全面窒化したマルテンサイト系ステンレス鋼の母材にイオンプレーティングによる硬質皮膜を被覆したピストンリングにおいては、疲労強度が低下することが問題となっている。そこで、特開平5−172248号や特公平6−25597号(特開昭62−120471号)において、鋼製ピストンリングの上下面と内周面のみに窒化層を形成し、外周面にイオンプレーティングによる硬質皮膜を被覆したピストンリングが提案されている。なお、これらの公報には、ピストンリングの上下面と外周面とで形成されるコーナ部付近で、イオンプレーティングによる硬質皮膜と窒化層とが接していないという記載はない。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】上記ピストンリングは、過酷なエンジン条件下においては、疲労強度不足が指摘されている。 【0004】本発明の目的は、ピストンリングの疲労強度を向上することにある。 【0005】 【課題を解決するための手段】本発明は、上下面のみあるいは上下面と内周面のみに窒化層が形成され、外周面にイオンプレーティングによる硬質皮膜が被覆されているピストンリングにおいて、前記上下面のうちの少なくとも片面におけるビッカース硬さHV700以上の窒化層と、前記外周面のイオンプレーティングによる硬質皮膜とが接しておらず、互いに離間して設けられていることを特徴とする。 【0006】厳しい運転条件のエンジンは、ピストンリングには特に曲げ応力がかかる。曲げ応力はピストンリングの外周側のコーナ部に特にかかる。燃焼圧が高いエンジンにおいてはピストンリングの下面側のコーナ部に負荷がかかり、回転数の高いエンジンにおいてはピストンリングにフラッタリングが起こることにより上面側のコーナ部に負荷がかかる。そこで、ピストンリングの外周側のコーナ部においてHV700以上の窒化層とイオンプレーティングによる硬質皮膜とが上下面のうちの少なくとも片面側で接していないようにすることにより負荷を緩和でき、ピストンリングの疲労強度を向上することができる。ピストンリングの外周側のコーナ部において上下面のうちのどちらの側をHV700以上の窒化層とイオンプレーティングによる硬質皮膜とが接しないようにするかは、エンジンの種類により異なるが、上下面のどちらの側においても接していないようにするのがより好ましい。 【0007】上記HV700以上の窒化層とイオンプレーティングによる硬質皮膜の離間間隔は、疲労強度向上の点から0.001mm以上が望ましく、耐摩耗性の点から0.3mm以下が望ましい。 【0008】上記ピストンリングの材質としては、マルテンサイト系ステンレス鋼が望ましい。 【0009】上記窒化層は、ガス窒化や塩浴窒化等で形成される。 【0010】上記イオンプレーティングによる硬質皮膜は、CrN、Cr2N、CrNとCr2Nの混合、あるいはこれらとCrとの混合、もしくはTiN等からなり、皮膜結晶中に、酸素及び炭素のうちの少なくとも1種が固溶されているのが望ましい。 【0011】上記イオンプレーティングによる硬質皮膜の厚さは、1〜80μmの範囲にあるのが望ましい。 【0012】 【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。 【0013】図1は、本発明の一実施形態を示している。図1(a)において、ピストンリング1はマルテンサイト系ステンレス鋼からなる。ピストンリング1の外周面を除く上下面と内周面には、ビッカース硬さでHV700以上の窒化層2が形成され、その下にビッカース硬さでHV700未満の窒化層3が形成されている。そしてピストンリング1の外周面にのみイオンプレーティングによる硬質皮膜4が被覆されている。イオンプレーティングによる硬質皮膜4は、例えばCrNからなり、皮膜厚さは1〜80μmの範囲にある。HV700以上の窒化層2の厚さは1〜110μmの範囲にある。 【0014】HV700以上の窒化層2とイオンプレーティングによる硬質皮膜4は、上下面と外周面とで形成されるコーナ部付近で、接しておらず、互いに離間して設けられている。図1(b)は上面側の部分を代表して示しているが、下面側も同じように形成されている。HV700以上の窒化層2とイオンプレーティングによる硬質皮膜4の離間間隔は、0.001〜0.3mmの範囲にある。 【0015】以下、上記ピストンリング1の製造方法を説明する。 【0016】上記ピストンリング1は、イオンプレーティングし、その後窒化処理した後、上下面を研磨加工することにより製造される。 【0017】■イオンプレーティングによる硬質皮膜の被覆方法ピストンリングをアセトン溶液中で超音波洗浄後、アークイオンプレーティング装置の炉内にセットし、真空引きを行う。炉内圧力が1×10−3Pa以下に排気された後、シースヒータによりピストンリングを493〜723°Kまで加熱する。加熱直後は、ピストンリングに吸着していたガスが放出されて炉内圧力が上昇するが、再び圧力が低下する。圧力が低下して5×10−3Pa以下になった後、ピストンリングにバイアス電圧を−800〜−1000V印加し、陰極のCrターゲットと陽極との間で真空アーク放電を発生させてCrを蒸気化、イオン化し、プロセスガスである窒素ガスを導入して、メタルボンバードを行った。10分間メタルボンバードを行った後、窒素ガスを4×10−1〜1.5Paになるまで導入し、バイアス電圧を−20〜−70V印加して、所定時間被覆してCrN皮膜を形成する。 【0018】なお、皮膜結晶中に酸素及び炭素のうちの少なくとも1種を固溶させるには、プロセスガスとして、酸素のみを固溶させるには窒素ガスと酸素ガスの混合ガスを使用し、炭素のみを固溶させるには窒素ガスとCH4、C2H4及びC2H2ガスの中の少なくとも1種とを含む混合ガスを使用し、酸素及び炭素を固溶させるには窒素ガスと酸素ガスとCH4、C2H4及びC2H2ガスの中の少なくとも1種とを含む混合ガスを使用すればよい。 【0019】■窒化処理窒化処理は、ガス窒化法あるいは塩浴窒化法等で行われる。窒化処理後のピストンリングの一部分の縦断面図を図2の(a)及び(b)に示す。2はピストンリング1の上下面と内周面にのみ形成されたHV700以上の窒化層、3はHV700以上の窒化層2の下に形成されているHV700未満の窒化層、4はピストンリング1の外周面のみに被覆されたイオンプレーティングによる硬質皮膜(CrN皮膜)である。図2(a)は、HV700以上の窒化層2とイオンプレーティングによる硬質皮膜(CrN皮膜)4とが、上下面と外周面とで形成されるコーナ部付近で接している例を示しており、図2(b)は、HV700以上の窒化層2とイオンプレーティングによる硬質皮膜(CrN皮膜)4とが、上下面と外周面とで形成されるコーナ部付近で重なっている例を示している。 【0020】■上下面の研磨加工窒化処理後、ピストンリング1の上面と下面をそれぞれ研磨加工して、図1に示されているように、HV700以上の窒化層2とイオンプレーティングによる硬質皮膜4とが、上下面と外周面とで形成されるコーナ部付近で、接せず、互いに離間して設けられているようにする。なお、図1は、上下面におけるHV700以上の窒化層2と外周面のイオンプレーティングによる硬質皮膜4とが、接しておらず、互いに離間して設けられている例を示したが、エンジンによっては、上下面のうちの片面におけるHV700以上の窒化層と外周面のイオンプレーティングによる硬質皮膜とが接していないように構成することもある。上下面のそれぞれの研磨加工量を調整することによって、窒化層2と硬質皮膜4とが、上下面のうちの少なくとも片面のコーナ部付近で、接せず、互いに離間しているように形成することができる。 【0021】なお、HV700以上の窒化層2とイオンプレーティングによる硬質皮膜4とが、上下面と外周面とで形成されるコーナ部付近で、接しておらず、互いに離間して設けられているのは、次の方法によって分かる。 【0022】ピストンリング1の切断面をナイタールエッチングすると、HV700以上の窒化層2とイオンプレーティングによる硬質皮膜4がナイタールにより腐食して、互いに異なる色に変色するので、両者の境界が明瞭になる。したがって、ピストンリング1の上下面と外周面とで形成されるコーナ部付近を顕微鏡でみれば、HV700以上の窒化層2とイオンプレーティングによる硬質皮膜4が互いに離間していることが分かり、かつ、両者の離間間隔を測定することができる。なお、ナイタールは、硝酸5体積%とエチルアルコール又はメチルアルコール95体積%とから構成されている。 【0023】図3は、本発明の別の実施形態を示している。本実施形態が上記実施形態と相違する点は、窒化層2,3が形成されている部位のみであり、その他の点は上記実施形態で説明したピストンリングと同一である。すなわち、ピストンリング1の外周面及び内周面を除く上下面には、ビッカース硬さでHV700以上の窒化層2が形成され、その下にビッカース硬さでHV700未満の窒化層3が形成されている。そしてピストンリング1の外周面にのみイオンプレーティングによる硬質皮膜4が被覆されている。 【0024】以下、本発明のピストンリングについて疲労試験を行った結果を説明する。 【0025】図4に示すねじり疲労試験機を使用して、表1に示すピストンリングの疲労試験を行った。 【0026】 【表1】
【0027】表1において、■イオンプレーティングによる硬質皮膜と窒化層との離間間隔の欄における+の数値は、イオンプレーティングによる硬質皮膜と窒化層とが離間しており、その離間間隔の長さl(図1(b)参照)を示し、0の数値は、イオンプレーティングによる硬質皮膜と窒化層とが接していることを示し、−の数値は、イオンプレーティングによる硬質皮膜と窒化層とが重なっており、その重なった部分の長さl(図2(b)参照)を示している。 ■イオンプレーティングによる硬質皮膜の膜厚は、全て30μmであり、同一の皮膜特性である。 ■ピストンリングの母材は、全て17Crマルテンサイト系ステンレス鋼である。 ■ピストンリングは全てイオンプレーティング後に窒化を行った。 ■ピストンリングはφ88×軸方向幅1.5×半径方向長さ2.5(mm)である。 【0028】図4は、ねじり疲労試験機の要部を示している。ねじり疲労試験機は、評価するピストンリング10の呼称径を内径に持つシリンダ11を有し、シリンダ11の上面に押さえプレート12が固定されている。押さえプレート12は、評価するピストンリング10の呼称径よりも小さい内径を有しており、シリンダ11内に配置されたピストンリング10の外周側の上面を押さえる役目をする。シリンダ11内に配置されたピストンリング10の内周側の上下面は、ホルダ13,14,15で構成される環状溝16に挿入されて保持される。ホルダ13,14,15は、シャフト17に固定されたホルダ固定部材18に固定されている。シャフト17は図示外の油圧シリンダによって上下動するように構成されている。したがって、シャフト17が上下動すると、ピストンリング10の外周側は押さえプレート12で押さえられたまま、ピストンリング10の内周側が上下動するため、ピストンリング10のコーナR部にねじり応力が与えられる。 【0029】試験条件:ピストンリング10の合い口を閉じた状態で、ピストンリング10のコーナR部にねじり応力を与え、ピストンリング10が折損したときの繰り返し数を測定した。ピストンリング10の内周側の変位量を変化させることにより、ピストンリング10のコーナR部にかかるねじり応力を変化させた。 回転数:3500rpm変位量:0.1〜0.6mm【0030】図5の試験結果に示されているように、比較例1〜5は折損強度が低く、実施例1〜3は折損強度が高い。 【0031】 【発明の効果】以上説明したように本発明のピストンリングは疲労強度が向上する。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000215785 【氏名又は名称】帝国ピストンリング株式会社
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| 【出願日】 |
平成11年4月7日(1999.4.7) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100085822 【弁理士】 【氏名又は名称】岡部 健一
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| 【公開番号】 |
特開2000−291800(P2000−291800A) |
| 【公開日】 |
平成12年10月20日(2000.10.20) |
| 【出願番号】 |
特願平11−100040 |
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