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【発明の名称】 シリンダライナ
【発明者】 【氏名】児島 源紳

【氏名】安斉 富士男

【氏名】土居 宗彦

【要約】 【課題】低オイル消費と高い耐スカッフ性能とを同時に満足させるシリンダライナの提供。

【解決手段】シリンダライナの内周面は、ホーニング加工により加工され、内周面にはクロスハッチ状の溝が形成される。加工により内周面の表面粗さが0.4〜0.8μmR3Zであり、かつ内周面の黒鉛開放率が80%以上のシリンダライナが得られる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 シリンダ内壁に固着され、ピストンが内周面を摺動するシリンダライナにおいて、該内周面の粗さが0.4〜0.8μmR3Zであり、かつ該内周面の黒鉛開放率が80%以上であることを特徴とするシリンダライナ。
【発明の詳細な説明】【0001】
【産業上の利用分野】本発明はシリンダライナに関し、特にシリンダブロックを構成するシリンダ内壁に固着されるシリンダライナに関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、自動車エンジン等のシリンダは、エンジンの軽量化及び熱伝導性の向上のため、アルミニウム合金でシリンダブロックが形成され、このシリンダブロックに鋳鉄製のシリンダライナをはめ込むことにより構成されている。このシリンダライナの内周面には、いわゆるオイルコントロールやなじみ性能を発揮できる状態とするために、一般的にホーニング加工が施されている。
【0003】ホーニング加工をより具体的に説明すると、図6に示されているような、ホーニングヘッド5を有するホーニングツールが使用され、ホーニング加工が施される。ホーニングヘッド5のボディ6内には、テーパーコーン8と一体になっているプッシュロッド7が、ボディ6の軸方向に移動可能に設けられている。ボディ6の外周には、ボディ6の軸方向に長い棒状の砥石10を保持するストーンホルダー9が設けられている。ストーンホルダー9の一部はボディ6の軸心に向かう方向に突出しており、テーパーコーン8に当接するテーパー面9aが形成されている。
【0004】プッシュロッド7が、図示せぬ油圧等の手段により鉛直下方へ押し下げられると、テーパーコーン8によってストーンホルダー9がボディ6の半径方向外方へ移動され、砥石10は被加工物1の内周面4に押圧摺動するようになっている。ボディ6は、図示せぬ駆動モータ及び往復運動を行う油圧装置が連結されており、ホーニングヘッド5がVr方向に回転されながら軸方向、即ちVaの方向に往復運動することにより、被加工物1の内周表面4のホーニング加工が行なわれる。
【0005】ホーニング加工により、被加工物1の内周表面4には、図6のAで示されるような、適当なクロスハッチ角及び粗さを有するクロスハッチ溝が形成され、クロスハッチ溝で画成された部分は、プラトウと称される。このクロスハッチによって、前述のオイルコントロール及びなじみ性能といったシリンダライナの機能を発揮することができる。これらの機能が発揮されることにより、被加工物たるシリンダライナは、耐スカッフ性の良い状態となる。
【0006】耐スカッフ性を良好とするために、ホーニング加工を行う際に使用される仕上げ砥石としては、GC800K程度のものが用いられるか、或いは、樹脂、コルク等の軟質系砥石が一般に用いられており、ホーニング加工によるクロスハッチの粗さの値は、いわゆるプラトウHONが施行される場合でも一般に0.8〜2.0μmR3Z程度と比較的大きい値になっていた。なお、R3Zは、表面測定量を意味する。DIN4768で規定される平均表面粗さRzでは、5箇所の測定断面についてそれぞれの、最大ピークと最深の穴部との距離の平均値を求めているが、R3Zは、いわゆる機能表面粗さであり、上端部と下端部の二箇所の平均で求められている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところで、クロスハッチの粗さとエンジンオイルの消費量との関係は、図7のグラフに示される通りである。図7のグラフから分かるように、粗さの値が大きくなるにつれてオイル消費量も多くなり、粗さの値が小さくなるにつれてオイル消費量も少なくなると考えられる。
【0008】従来のシリンダライナでは、上述のように、クロスハッチの粗さの値が0.8〜2.0μmR3Zと比較的大きかったため、エンジンオイルの消費性能が悪く、多量のエンジンオイルが消費されていた。オイル消費性能を向上させるためにシリンダライナ内周面のクロスハッチの粗さを0.8μmR3Z以下にしようとしても、ホーニングの加工能力には限界があり、内周面に塑性フローが発生して、オイル保持能力の高い黒鉛の内周面での開口を閉塞する傾向にあるために、また、シリンダライナ内周に析出する黒鉛であってホーニングにより損傷を受けない黒鉛の割合を示すいわゆる「黒鉛開放率」が、高くない状態となるので、黒鉛の自己潤滑作用による補助潤滑の効果が期待できず、油膜が切れた場合に潤滑作用が働かないために、簡単にスカッフが発生してしまう傾向がある。
【0009】そこで本発明は、低オイル消費と高い耐スカッフ性能とを同時に満足させるシリンダライナを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は、シリンダ内壁に固着され、ピストンが内周面を摺動するシリンダライナにおいて、該内周面の粗さが0.4〜0.8μmR3Zであり、かつ該内周面の黒鉛開放率が80%以上であるシリンダライナを提供している。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明の第1の実施の形態によるシリンダライナについて図1乃至図4に基づき説明する。シリンダライナを製造する際のホーニング加工に用いられるホーニング仕上げ砥石は、繊維状弾性ホーニング仕上げ砥石である。このホーニング砥石の粗さは、GC3000L、又はGC3000LとALS2000との混合と同等である。このホーニング砥石を使用することにより、表面の加工フローの発生を未然に抑えた、超仕上げホーニング加工を施すことができる。
【0012】上述のホーニング加工により形成されたシリンダライナの効果を確認するために試験を行った。試験では、円筒状に形成されたシリンダライナ材に、本発明、従来のそれぞれのホーニング加工を施したものを用いた。
【0013】図2の金属組織顕微鏡写真に示された従来のホーニング加工によるシリンダライナ材の表面には、比較的目の粗いクロスハッチが形成されていることが確認できる。また、図2の写真の下に付されたグラフから分かるように、平面全体にわたって粗さの値は、ばらつきか生じており、平均値も1μmR3Z程度と高くなっている。
【0014】図2に示された、従来のホーニング加工によって形成されたシリンダライナ材の表面と比較して、図1の金属組織顕微鏡写真に示されるように、本発明によるホーニング加工によって形成されたシリンダライナ材の表面は、従来のものと比較して、非常に目の細かいクロスハッチが形成されている。図1に示されるシリンダライナの表面の粗さの値は、図1の写真の下に付されたのグラフから分かるように、平面全体にわたってばらつきが少なく、約0.4μmR3Z程度と低くなっている。また、図1の写真においては、図2の写真では確認できないクロスハッチ上に黒い帯状のものを確認することができる。これは、黒鉛が開口している状態を示しており、黒鉛の自己潤滑作用による補助潤滑機能を発揮できる状態となっていることを示している。
【0015】次に、上記シリンダライナ材を用いて、実験を行った。実験ではまず、平面接触式のスカッフ試験を行った。図3のグラフは、試験結果に基づき作成したものであり、黒鉛の開放率と耐スカッフ性との関係を示している。黒鉛開放率が80%の方が、本発明のホーニング加工によるシリンダライナ材であり、20%の方が従来のホーニング加工によるシリンダライナ材である。このグラフから、黒鉛開放率が高い、本発明によるシリンダライナ材の方が、耐スカッフ性に優れていることが認識できる。
【0016】次に、本発明、従来のホーニング加工によってシリンダライナを形成する際の砥石を、シリンダライナ材の表面に対して摺動するストローク数と表面の粗さの値との関係を調べる実験を行った。シリンダライナ材は、平面接触式スカッフ試験で用いたものと同一組成の材料を用いた。
【0017】図4のグラフは、試験結果に基づき作成したものであり、シリンダライナ材の表面の粗さの値とストローク数との関係を示している。従来のシリンダライナを形成するホーニング加工では、ストローク数を10程度まで増してゆくと、粗さの値は低くなるが、それ以上にストローク数を増すと粗さの値が逆に高くなることが分かる。それに対して、本発明のシリンダライナを形成するホーニング加工によれば、ストローク数を10程度まで増してゆくと従来同様に粗さの値は低くなるが、それ以上にストローク数を増しても粗さの値はほぼ一定となることが分かる。このため、ホーニング加工の際の最適なストローク数を特に定めずに、単にストローク数を多くすれば、本発明によるホーニング加工を行うことができる。
【0018】本実施の形態によるホーニング加工を施すことによって、シリンダライナの内周面の粗さの値を低くすると共に、黒鉛開放率を高くすることができるため、オイル消費量が少なく、且つ、耐スカッフ性の良いシリンダライナを形成することができる。
【0019】次に、本発明の第2の実施の形態によるシリンダライナについて図5に基づき説明する。第2の実施の形態では、上述したホーニング処理を行ってシリンダライナの内周面の粗さの値を予め小さくしておき、その後に、更にシリンダライナの内周面に表面処理を施すものである。表面処理としては、例えば、リューブ処理、チッ化処理等の化成層を形成することが挙げられる。
【0020】図5のグラフは、実験結果に基づくものであり、表面処理前の下地の粗さの値を変化させた場合の、表面処理後の粗さの値を表したものである。図5のグラフからわかるように、表面処理前の下地の粗さを小さくすればするほど、表面処理後の粗さも小さくなることが分かる。このため、シリンダライナの表面処理後の粗さの値を小さくしたい場合には、予めシリンダライナの表面の粗さの値を小さくしておけばよい。
【0021】
【発明の効果】請求項1記載のシリンダライナによれば、シリンダライナの内周表面の粗さの値を低くすると共に、黒鉛開放率を高くすることができるため、オイル消費量が少なく、且つ、耐スカッフ性の良いシリンダライナを形成することができる。
【出願人】 【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
【出願日】 平成11年3月31日(1999.3.31)
【代理人】 【識別番号】100094983
【弁理士】
【氏名又は名称】北澤 一浩 (外2名)
【公開番号】 特開2000−283291(P2000−283291A)
【公開日】 平成12年10月13日(2000.10.13)
【出願番号】 特願平11−91156