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【発明の名称】 ガス圧縮機用メカニカルシ―ル
【発明者】 【氏名】池田 康浩

【氏名】中原 信雄

【氏名】下村 孝夫

【要約】 【課題】ガス圧縮機の回転軸2を軸封するメカニカルシール3において、回転軸2と回転側摺動環33との間のシール部及び静止側摺動環31と回転側摺動環33との密封摺動部Sからの漏洩量を低減する。

【解決手段】回転軸2と回転側摺動環33の間が、軸パッキング34と、その機内空間P側に配置されたシールリップ35とによる二段のシール構造となっている。機内空間Pからシールリップ35を漏洩したガスは軸パッキング34によってシールされて密閉隙間Tに溜まり、機内空間Pが低圧になった時に、差圧によってシールリップ35の先端リップ部35aが開かれ、密閉隙間Tから機内空間Pへ戻る。エラストマからなるシールリップ35は、スプリング受金具36によって補強され、かつガスの透過可能領域が制限される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガス圧縮機のシールハウジング(1)側に固定的に配置された静止側摺動環(31)にスプリング(38)の付勢力により摺接される回転側摺動環(33)が、回転軸(2)の外周に軸パッキング(34)を介して軸方向移動自在に支持され、前記軸パッキング(34)の機内空間(P)側にシールリップ(35)が配置され、このシールリップ(35)は、基部(35a)が前記回転側摺動環(33)に密着固定されると共に、前記軸パッキング(34)と反対側を向いた先端リップ部(35b)が前記回転軸(2)の外周面と密接されてなることを特徴とするガス圧縮機用メカニカルシール。
【請求項2】 請求項1の記載において、シールリップ(35)が、スプリング(38)の付勢力を回転側摺動環(33)に伝達するスプリング受金具(36)に一体的に設けられたことを特徴とするガス圧縮機用メカニカルシール。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は軸封技術に属するものであって、特に、冷凍サイクルにおいて冷媒ガスを圧縮する冷凍機コンプレッサ等、ガス圧縮機の回転軸を軸封するメカニカルシールに関するものである。
【0002】
【従来の技術】カーエアコンのような空調装置には、従来、冷媒として生物に無害で変質せず、不燃性の安全なフロンR12(CFCl)が使用されて来た。ところが、フロンR12は大気中に放出されても変質せずにそのまま蓄積されて大気の大循環により成層圏へ運ばれるため、地表付近では殆ど存在しなかった波長0.19〜0.25μmの紫外線により分解されて塩素Clが分離し、この塩素Clが成層圏のオゾンOと結合して酸化塩素ClOと酸素分子Oを作り、更にこの酸化塩素ClOが周囲の酸素原子Oと反応することによって、塩素Clと酸素分子Oを作り、このような反応の繰り返しによって成層圏のオゾンOと酸素原子Oの量が加速度的に減少して行くといったオゾン層破壊が問題となる。そしてこのようなオゾン層破壊の防止対策のため、近年、冷媒ガスとして塩素を含まないフロンR134aに変更されたが、フロン等は、微量でも地表からの長波(赤外線)放射を吸収して地球温暖化を来す温室効果に大きく関わっていることが新たな問題となっている。したがって、フロンR134aに代わる冷媒の研究が行われているが、現在最も有力視されているのは二酸化炭素COである。
【0003】一方、空調装置の冷媒機コンプレッサの軸封装置として用いられるメカニカルシールの典型的な従来例としては、図4に示すようなものがある。すなわちこの種のメカニカルシール100は、前記冷凍機コンプレッサのシールハウジング1側にOリング102を介して非回転状態に装着されたメイティングリング101と、回転軸2側にケース104及びOリング105を介して軸方向移動自在に装着されてこの回転軸2と一体的に回転されるシールリング103と、前記ケース104に保持されて前記シールリング103をメイティングリング101に押し付けるコイルスプリング106とを備え、静止側摺動環である前記メイティングリング101と、回転側摺動環であるシールリング103との間に密封摺動部Sを形成して、その外周側に連なる図中右側の機内空間Pの冷媒ガス及び冷凍機油が、大気側空間Qへ漏洩するのを防止するものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】冷凍機コンプレッサは、フロンR134aからなる冷媒ガスを用いた場合、通常の使用条件では吸入圧力が0.2MPa、吐出圧力が1.5MPa、停止時圧力が1.0MPa程度であるが、COからなる冷媒ガスを用いた場合は、吸入圧力が3.0MPa、吐出圧力が8.0MPa、停止時圧力が5.0MPa程度にそれぞれ上昇する。通常、メカニカルシール100における冷媒ガスの漏れ経路は、密封摺動部S、シールハウジング1と静止側摺動環101との間のOリング102によるシール部、及び回転軸2と回転側摺動環103との間のOリング105によるシール部の三箇所であるが、COはエラストマに対する気体透過性が高いため、機内空間Pの圧力が上昇すると、エラストマ製であるOリング102,105を大気側空間Qへ透過することによる冷媒COガスの漏洩量が増大する。
【0005】シールハウジング1とメイティングリング101との間における冷媒COガスの漏洩量を低減するには、例えばOリング102に代えてシール幅の大きいカップガスケットを装着することによって透過距離を大きくするか、あるいはOリング102を複数装着することによって多段のシールとすることが有効である。ところが、回転軸2とシールリング103との間も同様に、シール幅の大きいカップガスケットでシールしたり、Oリング105を軸方向に複数並べて装着することは、次の点で問題がある。
【0006】まず、この種のメカニカルシール100は、Oリング105によって回転軸2とシールリング103の軸方向相対移動が円滑に許容されているが、このOリング105に代えてカップガスケットを装着した場合は、その接触シール面積が大きいために回転軸2の軸方向振動や変位に対するシールリング103の軸方向作動性が損なわれる。このため、例えば回転軸2が図4における右側へ僅かに変位したような場合には、この回転軸2と共にシールリング103がコイルスプリング106を圧縮する方向へ変位しようとするので、密封摺動部Sの面開きによって漏れを生じ、逆に回転軸2が図4における左側へ僅かに変位したような場合は、これと共にシールリング103がメイティングリング101側へ変位しようとするので、密封摺動部Sの面圧が増大して摩耗を促進させてしまう。
【0007】また、回転軸2とシールリング103との間にOリングを軸方向に並べて介在させた場合は、機内空間Pの圧力が低下した時に、二つのOリング間の漏洩ガスの圧力によって、相対的に機内空間P側にあるOリングが機内空間Pに押し出されてしまい、密封機能を奏し得なくなる。
【0008】本発明は、上記のような従来の問題に鑑みてなされたもので、その主な技術的課題とするところは、冷凍機コンプレッサのようなガス圧縮機の回転軸を軸封するメカニカルシールにおいて、回転軸と回転側摺動環との間のシール部及び静止側摺動環と回転側摺動環との密封摺動部からの漏洩量を低減することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上述した技術的課題は、本発明によって有効に解決することができる。すなわち本発明に係るガス圧縮機用メカニカルシールは、ガス圧縮機のシールハウジング側に固定的に配置された静止側摺動環にスプリングの付勢力により摺接される回転側摺動環が、回転軸の外周に軸パッキングを介して軸方向移動自在に支持され、前記軸パッキングの機内空間側にシールリップが配置され、このシールリップは、基部が前記回転側摺動環に密着固定されると共に、前記軸パッキングと反対側を向いた先端リップ部が前記回転軸の外周面と密接されてなる構成を備える。
【0010】上記構成によれば、回転軸と回転側摺動環の間が、軸パッキングと、この軸パッキングの機内空間側に配置されたシールリップとによる二段のシール構造となっている。このため、密封対象のガスがシールリップによるシール面を通過したり、あるいはシールリップを透過しても、この密封対象ガスは、前記軸パッキングによってシールされることになり、最終的な漏洩量が有効に低減される。
【0011】また、シールリップを漏洩した密封対象ガスは、軸パッキングとシールリップとの間の密閉隙間に溜まる。そしてこれによって前記密閉隙間のガス圧力が、ガス圧縮機の停止時に機内空間の圧力低下によって相対的に高圧になると、その差圧によって、軸パッキングと反対側を向いたシールリップの先端リップ部が開かれるので、前記密閉隙間の漏洩ガスが機内空間へ戻される。
【0012】また、上記本発明に係るメカニカルシールの構成において一層好ましくは、シールリップが、スプリングの付勢力を回転側摺動環に伝達するスプリング受金具に一体的に設けられる。すなわち、この場合のスプリング受金具は、エラストマからなるシールリップを補強する機能を兼備するものであり、しかもシールリップにおけるガスの透過可能領域を制限するものである。
【0013】
【発明の実施の形態】図1は本発明に係るガス圧縮機用メカニカルシールを、二酸化炭素からなる冷媒ガス(以下、冷媒COガスという)を用いるカーエアコンの冷凍機コンプレッサの軸封部に装着した好ましい一実施形態を示すもので、図中の参照符号1はガス圧縮機としての前記冷凍機コンプレッサのシールハウジング、参照符号2はこのシールハウジング1の内周から機内に挿通されて、内燃機関のクランク軸からの駆動力を電磁クラッチ(図示省略)を介して伝達されることにより回転してコンプレッサの内部機構を駆動させる回転軸である。前記シールハウジング1と回転軸2との間には、本発明によるメカニカルシール3が装着されている。
【0014】メカニカルシール3は、シールハウジング1側に非回転状態に装着された静止側摺動環であるメイティングリング31と、回転軸2側に装着されてこの回転軸2と一体的に回転する回転側摺動環であるシールリング33が、軸方向対向端面31a,33a同士で密接することによって密封摺動部Sを構成している。このメカニカルシール3の軸方向両側の軸周空間のうち、シールハウジング1の図中右側の空間Pが密封対象の冷媒COガスが存在する機内空間、前記密封摺動部Sの内周側に連なる図中左側の空間Qが機外に開放された大気側空間である。
【0015】メカニカルシール3の構成について更に詳しく説明すると、メイティングリング31は、例えばセラミックス材料からなるものであって、シールハウジング1の軸孔の機内側開口部に拡径形成された環状段差部11に収容され、エラストマからなるカップガスケット32を介して前記シールハウジング1に固定的に密嵌されている。前記カップガスケット32は、軸心を通る平面で切断した断面形状が略L字形を呈するものであって、互いに対向する前記環状段差部11とメイティングリング31の外周面及び背面(密封摺動部Sと反対側の端面)との間に密接状態で介在し、シールハウジング1とメイティングリング31との間を密封している。このカップガスケット32の外周部には密封性を高めるために円周方向に連続した複数のシール突条32aが形成され、前記環状段差部11の内周面に適当な潰し代をもって密接している。
【0016】一方、シールリング33は例えばカーボン材からなるものであって、メイティングリング31からみて機内空間P側に配置され、回転軸2の外周面に軸パッキングとしてのエラストマ製Oリング34を介して軸方向移動自在に支持されている。これを更に詳細に説明すると、シールリング33の内周面には、内周側及び背面側(密封摺動部Sと反対側)に開放されると共に円周方向に連続した凹部33bが形成されており、前記Oリング34は、この凹部33bと回転軸2の外周面との間に適宜潰し代をもって介在している。
【0017】シールリング33の内周面において、Oリング34が装着された凹部33bの背後には、それよりも大径の第二の凹部33cが形成されており、この第二の凹部33cにはシールリップ35が装着されている。そしてこのシールリップ35とOリング34との間には円周方向に連続した密閉隙間Tが画成されている。
【0018】シールリップ35はエラストマ材料で成形されたものであって、環状のスプリング受金具36が一体的に埋設もしくは接着された基部35aの外周縁において、前記第二の凹部33cに密嵌状態に圧入固定され、Oリング34と反対側かつ内周側へ向けてテーパ状に延びる先端リップ部35bが、回転軸2の外周面と密接されている。前記スプリング受金具36は、軸心を通る平面で切断した断面形状が略L字形を呈し、シールリップ35を補強すると共に、後述するコイルスプリング38の付勢力をシールリング33に伝達する機能を有するものである。
【0019】シールリング33の背後には軸方向に適当な間隔でSPCC等の金属製の鍔状のケース37が配置されており、その内周が、回転軸2の外周面に形成されたテーパ状段差部21に軸方向に係止されると共に、このテーパ状段差部21の円周方向一部に形成された切欠部21aと円周方向に係合している。また、前記ケース37の外周部には、軸方向に延びる複数の係合爪37aが円周方向等間隔で形成されており、各係合爪37aは、シールリング33の外周面に円周方向等間隔で形成された軸方向に延びる複数の係合凹部33dの各々と軸方向相対移動可能な状態に遊嵌係合している。
【0020】すなわち、回転軸2の回転トルクは、そのテーパ状段差部21に係合されたケース37を介して、その係合爪37aからシールリング33に伝達される。このためシールリング33は、回転軸2と一体的に回転される。
【0021】ケース37内には、SWPB等からなる円錐状コイルスプリング38が軸方向に適宜圧縮された状態で装着されている。このコイルスプリング38は、大径である後端部38aが前記ケース37の後部壁面外周部に担持され、小径の先端部38bがシールリップ35の基部35aに一体に設けられたスプリング受金具36に当接している。すなわちコイルスプリング38の軸方向圧縮荷重が、回転軸2と一体に回転するシールリング33に、前記スプリング受金具36及びシールリップ35の基部35aを介して与えられることにより、このシールリング33の端面33aがメイティングリング31の端面31aに適当な面圧で押し付けられ、密封摺動部Sを形成するのである。
【0022】以上の構成を備えるメカニカルシール3によれば、機内空間Pに存在する冷媒COガスは、シールハウジング1とメイティングリング31との間ではカップガスケット32によって大気側空間Qへの漏洩を防止される。前記冷媒COガスは、エラストマからなるカップガスケット32を低圧側へ透過しようとするが、このカップガスケット32は、シールハウジング1の環状段差部11とメイティングリング31との対向面間の全域に介在しているため、冷媒COガスの透過距離が長くなり、漏洩力を著しく減衰させる。
【0023】一方、上記冷媒COガスは、回転軸2とシールリング33との間ではシールリップ35及びOリング34による二段のシール構造によって大気側空間Qへの漏洩を防止される。また、冷媒COガスはエラストマ中をある程度透過することができるが、エラストマからなるシールリップ35は、先端リップ部35bを除く大部分に二酸化炭素の透過できないスプリング受金具36が一体化されているので、冷媒COガスの透過可能領域が著しく制限される。
【0024】シールリップ35の先端リップ部35bと回転軸2との密接部を通過したり、あるいはシールリップ35のエラストマ材料中を透過することによって僅かに漏洩する冷媒COガスは、Oリング34によって大気側空間Qへの漏洩を阻まれて密閉隙間Tに溜まるので、この密閉隙間Tにおける漏洩ガス圧が僅かに上昇する。しかし、冷凍機コンプレッサの駆動によって、停止時には飽和蒸気圧であった機内空間Pの圧力が急激に低下すると、図2に矢印Fで示すように、相対的に高圧になる前記密閉隙間Tの冷媒COガスが、前記先端リップ部35bを回転軸2の外周面から押し開くようにして、機内空間Pへ戻る。このため、密閉隙間Tの冷媒COガス圧が大気側空間Qよりも著しく上昇することがなく、このためOリング34から大気側空間Qへの冷媒COガスの漏洩が有効に抑えられる。
【0025】また、シールリップ35はその先端リップ部35bが回転軸2の外周面に接触しているが、その接触幅及び接触荷重が小さく、しかも前記先端リップ部35bは柔軟に変形可能であるため、回転軸2に対するシールリング33の相対的な軸方向作動性を損うものではない。したがって、例えば回転軸2が図1における右側へ変位したような場合にも、シールリング33はコイルスプリング38の付勢力によってメイティングリング31との密接位置に保持されるので、密封摺動部Sに面開きを発生することはなく、逆に回転軸2が図1における左側へ変位した場合も、この回転軸2とOリング34及びシールリップ35との摩擦力による密封摺動部Sの面圧の増大は僅かである。
【0026】図3は、上述の実施形態のメカニカルシール3を用いて冷凍機コンプレッサを軸封した場合と、先の図4に示す従来技術によるメカニカルシール100を用いて軸封した場合について下記の条件で漏洩試験を行い、冷媒COガスの漏洩量を比較したものである。この試験結果から明らかなように、上記実施形態のメカニカルシール3によれば従来のメカニカルシール100に比較して冷媒COガスの漏洩量を著しく低減できることが確認された。
試験条件冷媒ガス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・CO冷媒ガス圧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4MPa試験温度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20℃【0027】
【発明の効果】本発明に係るガス圧縮機用メカニカルシールによると、回転軸と回転側摺動環の間からの漏洩を、軸パッキングとシールリップとによる二段のシール構造によって有効に低減し、しかも回転軸に対する回転側摺動環の軸方向作動性を損なわないので、回転軸の軸方向変位等による静止側摺動環と回転側摺動環との密封摺動部における漏洩量の増大や摩耗を有効に抑えることができる。
【出願人】 【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
【出願日】 平成10年12月25日(1998.12.25)
【代理人】 【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
【公開番号】 特開2000−193099(P2000−193099A)
【公開日】 平成12年7月14日(2000.7.14)
【出願番号】 特願平10−368789