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【発明の名称】 摺動部材及びその製造方法
【発明者】 【氏名】岩下 誉二

【氏名】山下 信行

【要約】 【課題】Al合金を相手材として高温・高負荷で使用される摺動部材の耐Al凝着性を高めることにある。

【解決手段】ピストンリング1の全表面にガス窒化層2を形成し、上下面のガス窒化層2上に、0.5〜5μmの大きさの瘤状に析出した表面組織を有するダイヤモンドライクカーボン皮膜3を0.5〜30μmの厚さで形成する。ダイヤモンドライクカーボンは、1.アモルファス炭素構造、2.ダイヤモンド構造を一部有するアモルファス炭素構造、3.グラファイト構造を一部有するアモルファス炭素構造の何れかの形態をとる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 摺動面にダイヤモンドライクカーボン皮膜を有する摺動部材であって、前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜が0.5〜5μmの大きさの瘤状に析出した表面組織を有することを特徴とする摺動部材。
【請求項2】 前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜が硬質Crめっき皮膜、ガス窒化層又はイオンプレーティング皮膜の上に形成されていることを特徴とする請求項1記載の摺動部材。
【請求項3】 前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜が摺動面に直接形成されていることを特徴とする請求項1記載の摺動部材。
【請求項4】 前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜がSi、Ti、W、Cr、Mo、Nb、及びVの群から選ばれた1又は2以上の元素を含むことを特徴とする請求項1,2又は3記載の摺動部材。
【請求項5】 前記摺動部材の相手材がAl合金製であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項6】 前記摺動部材がピストンリングであり、前記摺動面がピストンリングの上下面の少なくとも一面である請求項1〜5のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項7】 摺動面をラッピング加工又はブラスト加工して、表面粗さを0.05〜1μmRaに仕上げた後、ダイヤモンドライクカーボン皮膜を被覆することを特徴とする摺動部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、往復動内燃機関に使用されるピストンリング等の摺動部材に関し、特にAl合金製ピストンのリング溝に組み付けられるピストンリングに適用して有効である。
【0002】
【従来の技術】最近のエンジンは高出力化、高回転化、長寿命化され、更に排気ガス規制に対応する必要がある。このため、ピストンリングの使用環境は益々苛酷になっている。通常、このようなエンジンのピストンリングの上下面には、Crめっき皮膜や窒化層やPVD皮膜が形成される例が多い。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、窒化層やPVD皮膜を有するピストンリングは、ピストンリングの上下面がAl合金製ピストンのリング溝側面と高温下で衝突を繰り返すと、ピストンリングの上下面にAl凝着を生じて、リング溝の摩耗を増大させることがある。
【0004】これに対して、固体潤滑材を含有させた合成樹脂被覆をピストンリングの上下面に施すと、エンジン運転の初期にAl凝着を抑止できることが知られている。しかし、樹脂被覆は、耐摩耗性が低いので、Al凝着抑止効果が長続きしない不都合がある。
【0005】他方、ピストンの頂面と外周面とリング溝と、ピストンリングとに人造ダイヤモンド材の薄い被覆を施して耐久性を高めることが、特開平3−260362号に記載されている。しかし、特開平3−260362号は、人造ダイヤモンド材の薄い被覆の詳細について何等説明していない。
【0006】また、ダイヤモンドライクカーボン皮膜に関して以下の提案がある(特開平5−179451号)。フェライトを含む鉄系材料で構成される一方の摺動面と組み合わせる他方の摺動面にW及び/又はSiが分散したアモルファス炭素を主成分とする皮膜を形成し、フェライト組織の凝着を抑制する。この技術は例えばパワーステアリング機構に使用される油圧バルブ装置に使用される。しかし、特開平5−179451号は、Al合金製のピストンと組み合わされるピストンリングの上下面におけるAl凝着については全く記載していない。
【0007】本発明の目的は、Al合金を相手材として高温・高負荷で使用される摺動部材の耐Al凝着性を高めることにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、摺動面にダイヤモンドライクカーボン皮膜を有する摺動部材であって、前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜が0.5〜5μmの大きさの瘤状に析出した表面組織を有することを特徴とする。
【0009】上記本発明の皮膜を形成しているダイヤモンドライクカーボンは、次の何れかの形態をとる。
1.アモルファス炭素構造2.ダイヤモンド構造を一部有するアモルファス炭素構造3.グラファイト構造を一部有するアモルファス炭素構造【0010】本願発明者は、種々の条件で析出したダイヤモンドライクカーボン皮膜の性状を調査する過程で、瘤状に析出した表面組織を有するダイヤモンドライクカーボン皮膜は、層状に析出した表面組織を有する皮膜と比較すると、・皮膜の密着性が著しく高いこと・Al凝着が起きにくいことを見出した。Al凝着は、皮膜の脱落やピット等の欠陥部で発生しやすいので、本発明のダイヤモンドライクカーボン皮膜にAl凝着が起きにくい性質は、密着性が高いことによるものと考えられる。
【0011】ダイヤモンドライクカーボン皮膜の析出組織が密着性に及ぼす機構は不明であるが、・瘤状に析出した表面組織を有する皮膜は、瘤と瘤の境界が緩衝作用を果たし、局部に生じた歪みが遠方に伝わり難い。
・瘤状に析出した表面組織を有する皮膜は、内部歪みが低い状態で析出する。
ためと考えられる。
【0012】表面から見た瘤の大きさは、0.5〜5μmの大きさがよい。瘤の大きさが0.5μmを下回ると、ダイヤモンドライクカーボン皮膜は滑らかな層状の表面組織を有する皮膜となり、瘤の大きさが5μmを上回ると、脱落やピットが生じ易くなる。
【0013】本発明の瘤状に析出した表面組織を有する皮膜を得るには、被覆面に不均一で微細な凹凸を形成した後、ダイヤモンドライクカーボン皮膜を被覆する。不均一で微細な凹凸は、ラッピング加工やブラスト加工等で形成できる。ここで、被覆面の凹凸は、表面粗さで0.05〜1μmRaの範囲がよい。
【0014】被覆面の凹凸が細かすぎると、ダイヤモンドライクカーボン皮膜は滑らかな層状の表面組織を有する皮膜となり、剥離や割れが生じやすくなる。また、被覆面の凹凸が大きすぎると、ダイヤモンドライクカーボン皮膜の表面粗さが大きくなって、摺動特性が悪化する。同時に、脱落やピットも生じ易くなる。同じ表面粗さでも、砥石研磨で形成した面は、規則的な研磨痕が形成されるので好ましくない。このような研磨面の上に析出するダイヤモンドライクカーボン皮膜は、滑らかな層状の表面組織を有する皮膜となる。そして、溝状の研磨痕の部分から剥離が生じ易い。
【0015】本発明のダイヤモンドライクカーボン皮膜の表面粗さは、0.07〜1.5μmRaの範囲が好ましく、ピストンリングに適用する場合、皮膜厚さは、0.5〜30μmの範囲とするのがよい。皮膜厚さが0.5μmを下回ると、ピストンリング寿命が短くなり、30μmを上回ると、密着性が低下し、結果として耐Al凝着性が低下する。
【0016】ダイヤモンドライクカーボン皮膜は摺動面に直接、あるいは硬質Crめっき皮膜、ガス窒化層又はイオンプレーティング皮膜の上に形成される。
【0017】ダイヤモンドライクカーボン皮膜は、耐スカッフ性が本来高いが、Si、Ti、W、Cr、Mo、Nb、及びVの群から選ばれた1又は2以上の元素(金属及び炭化物の一方又は両方の形態で存在)を5〜40原子%含ませることによって、耐スカッフ性、耐摩耗性、及び耐Al凝着性を向上させることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図1により説明する。
【0019】図1(a)において、ピストンリング1の全表面にはガス窒化層2が5〜150μmの厚さで形成されており、上下面のガス窒化層2上に、Si、Ti、W、Cr、Mo、Nb、及びVの群から選ばれた1又は2以上の元素を5〜40原子%含むダイヤモンドライクカーボン皮膜3が0.5〜30μmの厚さで形成されている。ダイヤモンドライクカーボン皮膜3は0.5〜5μmの大きさの瘤状に析出した表面組織を有している。ダイヤモンドライクカーボン皮膜3の硬度はHV700〜2000の範囲内にある。
【0020】図1(b)は別の例を示す。ピストンリング1の上下面と外周面に、硬質Crめっき皮膜あるいは窒化クロム(CrN、Cr2 N)や窒化チタン(TiN)等のイオンプレーティング皮膜4が形成されており、上下面の皮膜4上に上記ダイヤモンドライクカーボン皮膜3が0.5〜30μmの厚さで形成されている。硬質Crめっき皮膜の場合、皮膜厚さは5〜150μm、イオンプレーティング皮膜の場合、皮膜厚さは1〜150μmである。
【0021】図1(c)は、ダイヤモンドライクカーボン皮膜3とは別種の耐摩耗表面処理層(ガス窒化層2、あるいは硬質Crめっき皮膜やイオンプレーティング皮膜4)を形成せずに、上記ダイヤモンドライクカーボン皮膜3をピストンリング1の上下面に0.5〜30μmの厚さで直接形成した例である。なお、ピストンリング1の外周面には上記ダイヤモンドライクカーボン皮膜3が形成された。
【0022】なお、上記実施形態では、ダイヤモンドライクカーボン皮膜3をピストンリング1の上下面に形成した例を示したが、上下面の一方の面にだけ形成することもできる。
【0023】上記ダイヤモンドライクカーボン皮膜3は、反応性イオンプレーティング法、あるいは反応性スパッタリング法等のPVD法によって被覆することができる。例えば、真空チャンバ内でピストンリングを回転させつつ不活性ガスを導入し、イオンボンバードメントでピストンリング表面を清浄化した後、炭素の供給源であるメタン等の炭化水素ガスをチャンバに導入し、ピストンリング近傍をプラズマ状態に保つと同時に、Si、Ti、W、Cr、Mo、Nb、及びVの群から選ばれた1又は2以上の元素を蒸発させる反応性イオンプレーティング法で、上記ダイヤモンドライクカーボン皮膜3をピストンリングに被覆することができる。この際、反応ガス中の炭化水素ガス分圧を調整することによって、Si、Ti、W、Cr、Mo、Nb、及びVの群から選ばれた1又は2以上の原子を炭化物として析出させることができる。Si、Ti、W、Cr、Mo、Nb、及びVの群から選ばれた1又は2以上の元素の含有比率は、これらの蒸発速度及び反応ガス圧力を調整することによって調整できる。
【0024】以下、本発明をピストンリングに適用した試験結果を説明する。
【0025】12Crステンレス鋼製で、ガス窒化処理(表面硬度:HV1100、窒化深さ:70μm)した圧縮リングの上下面を、表1に示す種々の方法で研磨加工した。
【0026】

【0027】次いで、前述した反応性イオンプレーティング法で、Si:15%を含むダイヤモンドライクカーボン皮膜を圧縮リングの上下面に被覆した。皮膜厚さは2μmであった。
【0028】研磨加工後及びダイヤモンドライクカーボン皮膜被覆後のピストンリングの表面のSEM写真を図2(実施例1)と図3(比較例1)に示す。
【0029】次に、圧痕試験を説明する。
【0030】ロックウェル硬さ試験機でダイヤモンドライクカーボン皮膜の上から圧子を押し込み、圧痕の周囲を観察してクラック及び剥離の有無を実体顕微鏡(倍率100倍)で観察した。圧子は先端の曲率半径0.2mm、円錐角120度のダイヤモンド製で、押込荷重は588.4Nである。結果を表2に示す。
【0031】

注):〇はクラック及び剥離無し、×はクラック及び剥離発生を示す。
【0032】次に、実機試験を説明する。
【0033】直列4気筒、排気量:2000cc、シリンダ径:φ86mmのガソリンエンジンに前記の圧縮リングを組み付け、5000rpm、全負荷の条件で運転し、10時間毎にエンジンを分解して圧縮リングを観察し、Al凝着が発生する時間を調査した。結果を図4に示す。実施例1〜2の圧縮リングは比較例1〜3の圧縮リングに比べて耐Al凝着性がかなり優れていることがわかる。比較例1〜3の圧縮リングがAl凝着し易いのは、主として皮膜の密着性が劣り、脱落やクラックの部分からAl凝着するためと考えられる。
【0034】
【発明の効果】以上説明したように本発明の摺動部材は、密着性に優れ、耐Al凝着性に優れているので、高温下でAl合金を相手材として摺動する摺動部材に好適に利用できる。
【出願人】 【識別番号】000215785
【氏名又は名称】帝国ピストンリング株式会社
【出願日】 平成10年10月15日(1998.10.15)
【代理人】 【識別番号】100085822
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 健一
【公開番号】 特開2000−120869(P2000−120869A)
【公開日】 平成12年4月28日(2000.4.28)
【出願番号】 特願平10−309439