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【発明の名称】 メカニカルシール
【発明者】 【氏名】杉山 憲一

【氏名】木村 芳一

【要約】 【課題】メカニカルシールの起動停止時において従動環の摺動部と静止環の滑り面の間で生じる固体接触状態における摩擦が小さく、耐焼付き性能の優れた滑り面形状を提供することにより、密封性能に優れたメカニカルシールを提供すること。

【解決手段】従動環、静止環を具備し、流体を密封する構成のメカニカルシールにおいて、従動環及び静止環の少なくとも一方の滑り面に最大高さRmaxが0.1〜7μmで凹凸ピッチが0.1mm以下の表面粗さを施すか或いは凹部深さが0.1〜7μmで凹凸ピッチが0.1〜5mmのくぼみを施すか、又は一方の滑り面に該表面粗さを施し、他方の滑り面に該くぼみを施す。表面粗さの谷部は流体を保持する機能を有するから、従動環の滑り面と静止環の滑り面の摺動速度が低速の時の耐焼付き性能、冷却効果が向上する。また、くぼみを施すことにより、くぼみに存在する流体により、流体力学的作用(動圧効果)が向上する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 従動環、静止環を具備し、流体を密封する構成のメカニカルシールにおいて、前記従動環及び静止環の少なくとも一方の滑り面に最大高さRmaxが0.1〜7μmで凹凸ピッチが0.1mm以下の表面粗さを施すか或いは凹部深さが0.1〜7μmで凹凸ピッチが0.1〜5mmのくぼみを施すことを特徴とするメカニカルシール。
【請求項2】 従動環、静止環を具備し、流体を密封する構成のメカニカルシールにおいて、前記従動環及び静止環の一方の滑り面に最大高さRmaxが0.1〜7μmで凹凸ピッチが0.1mm以下の表面粗さを施し、他方の滑り面に凹部深さが0.1〜7μmで凹凸ピッチが0.1〜5mmのくぼみを施すことを特徴とするメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は水のような低粘度流体を密封するメカニカルシールに関するもので、特に従動環の摺動部と静止環の摺動部の固体接触時に摩擦が少なく、耐焼付き性能の優れたメカニカルシールに関するものである。
【0002】
【従来の技術】図4はこの種のメカニカルシールの概略構造を示す図である。メカニカルシールは密封端面の動的変位や摩耗などに追従して回転軸の軸方向に動くことができる従動環3と動かない静止環2を具備し、コイルスプリング等の予圧機構7で軸方向に押圧するようになっており、回転軸にほぼ垂直な相対的に回転する密封端面において流体を密封するようになっている。なお、図4において、1はOリング、4はVパッキン、5はノックピン、6はコンプレッションリング、8はカラー、9はドライブピン、10はセントスクリューである。
【0003】上記構造のメカニカルシールにおいて、低粘度流体を密封するメカニカルシールは、油等の高粘度流体の場合に比較して潤滑条件が厳しくなる。従動環3と静止環2はコイルスプリング等の予圧機構7によって滑り面同士が押し付けられている。高速回転時には二層流或いはポンピング作用によって漏れを防止し、部分的固体接触は存在するが、略流体潤滑であり予圧機構7による荷重は殆ど流体膜によって支えられる。一方、起動停止時では境界或いは混合潤滑となり、予圧機構7による荷重は固定接触で支えられる割合が多くなる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】流体の密封性を向上させるためには従動環3と静止環2の接触圧力を大きくする必要があるが、接触圧力が大きすぎると摩擦が増大すると共に、焼付き、滑り面のき裂発生等により滑り面が損傷する危険性が高くなる。従って、密封性を向上させることと、焼付き、滑り面の損傷を防止することは互いに反する関係にあるが、これらの要求を満たすメカニカルシールが要求される。
【0005】境界、混合潤滑域において潤滑液としての油と水を比較すると、油の場合は含有された添加剤により吸着膜が形成されやすくなり、すべり面が保護され耐焼付き性能が向上する。しかしながら、水の場合はプロセス流体であるケースが多く、添加剤を加えることができないため、耐焼付き性能を向上させるためには、摺動材料の選択、微細な形状を表面に加工する等の対策を検討する必要がある。
【0006】本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、メカニカルシールの起動停止時において従動環の滑り面と静止環の滑り面の間で生じる固体接触状態における摩擦が小さく、耐焼付き性能の優れた滑り面形状を提供することにより、密封性能の優れたメカニカルシールを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため請求項1に記載の発明は、従動環、静止環を具備し、流体を密封する構成のメカニカルシールにおいて、従動環及び静止環の少なくとも一方の滑り面に最大高さRmaxが0.1〜7μmで凹凸ピッチが0.1mm以下の表面粗さを施すか或いは凹部深さが0.1〜7μmで凹凸ピッチが0.1〜5mmのくぼみを施すことを特徴とする。
【0008】従動環及び静止環の少なくとも一方の滑り面に上記のような表面粗さを施すことにより、該表面粗さの谷部は流体を保持する機能を有するから、従動環の滑り面と静止環の滑り面の摺動速度が低速の時の耐焼付き性能、冷却効果が向上する。また、くぼみを施すことにより、凹部に存在する流体により、流体力学的作用(動圧効果)が向上する。なお、表面粗さの谷部に存在する流体はくぼみに存在する流体と比較し、流体力学的作用(動圧効果)が小さい。また、くぼみも表面粗さのように流体を保持する機能を有するが、表面粗さほど効果的ではない。
【0009】また、請求項2に記載の発明は、従動環、静止環を具備し、流体を密封する構成のメカニカルシールにおいて、従動環及び静止環の一方の滑り面に最大高さRmaxが0.1〜7μmで凹凸ピッチが0.1mm以下の表面粗さを施し、他方の滑り面に凹部深さが0.1〜7μmで凹凸ピッチが0.1〜5mmのくぼみを施すことを特徴とする。
【0010】従動環及び静止環の一方の滑り面に上記のような表面粗さを施し、他方の滑り面にくぼみを施すことにより、低速時の摩擦摩耗特性の向上(耐焼付き性能の向上+摩擦低減)を図ることができ、耐焼付き性能の向上により、予圧を上げることが可能となり、メカニカルシールにおける流体の密封性が向上する。また、摩擦の低減によりなじみの進行を遅らすことで長寿命化が実現できる。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態例を図面に基づいて説明する。本発明に係るメカニカルシールの概略構成は図4に示すメカニカルシールと同一でありその説明は省略する。本発明に係るメカニカルシールは従動環3と静止環2の滑り面(摺動面)の少なくとも一方に下記のような表面粗さ及びくぼみを施す。また、従動環3と静止環2の滑り面の一方に下記の表面粗さを、他方にくぼみを施す。
【0012】表面粗さ最大高さRmaxが0.1〜7μm、凹凸ピッチが0.1mm以下【0013】くぼみ凹部深さが0.1〜7μm、凹凸ピッチが0.1〜5mm【0014】上記表面粗さは、ラップ加工又はショットブラスト加工で施す。ラップ加工はアルミナやダイヤモンドの硬質砥粒を使って、表面を研磨して表面粗さを施す。砥粒の粒径により面粗度を調整することが可能である。また、ショットブラスト加工はアルミナ等の硬質砥粒を空気圧により材料に吹き付けることにより、表面を削って表面粗さを施す加工で、パターンを形成したマスクを使用することにより、様々なパターンの表面粗さを施すことが可能である。また、従動環及び静止環の摺動部を構成する材料の持つ多孔性の微細な凹凸を表面粗さの凹凸として利用することができる。
【0015】また、くぼみはフォトエッチング、ショットブラスト、レーザ加工で施す。フォトエッチング加工は腐食性液を使って材料表面を加工する方法で、パターンを形成したマスクを用いて、様々なパターンのくぼみを形成することが可能である。また、レーザ加工はレーザによって材料表面を加工する方法で、複雑な形状の加工が可能である。
【0016】図1は本発明に係るメカニカルシールの従動環及び静止環の滑り面の組合わせ例を示す図である。図1(a)は、従動環摺動部11の滑り面に最大高さRmaxが0.1μmの表面粗さを施し、静止環摺動部12の滑り面に最大高さRmaxが0.1μmの表面粗さを施した場合の組合わせを示す。
【0017】図1(b)は、従動環摺動部11の滑り面に最大高さRmaxが0.1〜7.0μm、凹凸ピッチが0.1mmの表面粗さを施し、静止環摺動部12の滑り面に最大高さRmaxが0.1μmの表面粗さを施した場合の組合わせを示す。
【0018】図1(c)は、従動環摺動部11の滑り面に凹部深さが0.1〜7.0μm、凹凸ピッチが0.1〜5mmのくぼみを施し、静止環摺動部12の滑り面に最大高さRmaxが0.1μmの表面粗さを施した場合の組合わせを示す。
【0019】図1(d)は、従動環摺動部11の滑り面に凹部深さが0.1〜7.0μm、凹凸ピッチが0.1〜5mmのくぼみを施し、静止環摺動部12の滑り面に最大高さRmaxが0.1〜7.0μm、凹凸ピッチが0.1mm以下の表面粗さを施した場合の組合わせを示す。
【0020】図1(e)は、従動環摺動部11の滑り面に最大高さRmaxが0.1〜7.0μm、凹凸ピッチが0.1mm以下の表面粗さを施し、静止環摺動部12の滑り面に最大高さRmaxが0.1〜7.0μm、凹凸ピッチが0.1mm以下の表面粗さを施した場合の組合わせを示す。
【0021】図2は図1(a)の組合せ1〜5での摩擦係数、限界軸受圧力(MPa)を求める実験装置の構成例を示す図である。ステンレス鋼或いはTi−6A−4Vで構成された円板状の回転板13と、凹部16が形成されたリング状の固定板15とを具備し、回転板13に回転軸14が固着され、固定板15には加圧軸17が固着されている。加圧軸17は図示しない空気圧装置により上方に向けて荷重Lを加えるように構成されている。
【0022】また、加圧軸17には実験中のトルク変化を検知するトルクメータ18が取付けられている。回転板の下面は図1(a)〜(e)の各組合せの滑り面を有する従動環摺動部11の摺動部となっており、固定板15の上面は図1(a)〜(e)の組合せの滑り面を有する静止環摺動部12の摺動部となっている。
【0023】図3は図2に示す実験装置を用いて、図1(a)〜(e)の組合せ1〜5で摩擦係数、限界軸受圧力(MPa)を求めた結果を示す図である。図2に示す実験装置はその全体が水槽の中に満たされた蒸留水中に浸漬して試験されるようになっている。そして、滑り面の良好な摩擦摩耗特性が必要となるのは、軸受材料の固体接触が生じる起動・停止であることを考慮し、境界或いは混合潤滑下における摩擦摩耗特性を、以下の実験条件により、比較評価している。
【0024】周速は0.5m/sから開始して滑り面が90mm走行するごとに加圧軸17に荷重Lを加え、軸受圧力を0.1MPaずつ増加させる。そして、回転中のトルクが急激に上昇した時点で実験を中止し、その時の軸受圧力を限界軸受圧力として評価している。
【0025】図3の実験結果の限界軸受圧力は3セットの実験を行った平均根である。図3に示すように、組合せ1では摩擦係数が0.15、限界軸受圧力が0.17MPa、組合せ2では摩擦係数が0.38、限界軸受圧力が0.33MPa、組合せ3では摩擦係数が0.27、限界軸受圧力が0.18MPa、組合せ4では摩擦係数が0.11、限界軸受圧力が0.52MPa、組合せ5では摩擦係数が0.26、限界軸受圧力が0.80MPaである。
【0026】
【発明の効果】以上説明したように、各請求項に記載の発明によれば、下記のような優れた効果が得られる。
【0027】請求項1に記載の発明によれば、メカニカルシールの従動環、静止環の少なくとも一方の滑り面に最大高さRmaxが0.1〜7μmで凹凸ピッチが0.1mm以下の表面粗さを施すか或いは凹部深さが0.1〜7μmで凹凸ピッチが0.1〜5mmのくぼみを施すことで、低速の時(起動停止時)における耐焼付き性能及び冷却効果を向上させることができる。また、くぼみに存在する流体による流体力学的作用(動圧効果)により摩擦を低減させ、滑り面の発熱及び亀裂発生を防止することができる。
【0028】また、請求項2に記載の発明によれば、メカニカルシールの従動環及び静止環の一方の滑り面に最大高さRmaxが0.1〜7μmで凹凸ピッチが0.1mm以下の表面粗さを施し、他方の滑り面に凹部深さが0.1〜7μmで凹凸ピッチが0.1〜5mmのくぼみを施すので、上記の表面粗さを施す効果とくぼみを施す効果の組合せにより、接触圧力を大きくすることが可能となり、より密封性の優れたメカニカルシールを提供することができる。さらに、滑り面のなじみにより表面粗さのRmaxが小さくなると次第に耐焼付き性能が劣ってくるが、くぼみによる動圧効果により摩擦が低減するので、なじみの進行を遅らせ、長寿命化が実現できる。
【出願人】 【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
【出願日】 平成10年9月9日(1998.9.9)
【代理人】 【識別番号】100087066
【弁理士】
【氏名又は名称】熊谷 隆 (外1名)
【公開番号】 特開2000−88112(P2000−88112A)
【公開日】 平成12年3月31日(2000.3.31)
【出願番号】 特願平10−255238