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【発明の名称】 内燃機関用ピストン
【発明者】 【氏名】渡辺 正彦

【氏名】杉崎 聡

【要約】 【課題】補助ピストンリングを配設することにより、未燃焼混合気体を燃焼させる内燃機関用ピストンを提供する。

【解決手段】圧縮ピストンリング10の隣側でピストン本体1cに形成した補助ピストンリング溝9aに嵌挿して、最もピストン冠面1aに近い位置に、未燃HC8のクレビス部12内への侵入を防止するために圧縮ピストンリング10よりシール力が弱い補助ピストンリング9を配設する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】圧縮ピストンリングより弱い力でシリンダ壁に圧接する補助ピストンリングを、ピストン本体の圧縮ピストンリングの隣側で最もピストン冠面に近い側に形成した補助ピストンリング溝に嵌挿して配設したことを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項2】前記補助ピストンリングの内周側の少なくとも一部に凹凸状の切り欠きを有することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用ピストン。
【請求項3】少なくとも一部の切り欠きは、その最深部がピストン本体の補助ピストンリング溝両側のトップランド外周面より外側にあることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関用ピストン。
【請求項4】前記補助ピストンリングは、トップランド外周面より外側にある切り欠きの最深部近傍の内周面から外周面までのリング幅がピストン冠面に向かって増大することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関用ピストン。
【請求項5】前記補助ピストンリングは、周方向への回り止め機構を有しており、前記切り欠きの深さが排気ポート側よりも吸気ポート側の方が大きいことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の内燃機関用ピストン。
【請求項6】前記補助ピストンリングの排気ポート側にある部分は、その内周面全体がトップランド外周面より内側にあることを特徴とする請求項3〜請求項5のいずれか1つに記載の内燃機関用ピストン。
【請求項7】前記ピストン本体の補助ピストンリング溝は前記補助ピストンリングの切り欠きの凸部とゆるく嵌合する凹凸形状を有することを特徴とする請求項2〜請求項6のいずれか1つに記載の内燃機関用ピストン。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、内燃機関用ピストンに関し、特に排気中のHC(炭化水素)低減を可能とする内燃機関用ピストンに関する。
【0002】
【従来の技術】従来の内燃機関用ピストンとして、例えば実開平5−42661号公報に開示された技術がある。ピストン本体のトップランド部外周とシリンダ内壁との間に所定幅の間隙を形成し、該間隙を跨ぐようにトップランド部に、断面コ字状の圧縮ピストンリングを嵌め込み、圧縮ピストンリングとシリンダ内壁のシール機能の向上、バッククリアランス部内への燃焼ガスの侵入防止を図ったものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、複雑なコ字状の圧縮ピストンリングでは、圧縮ピストンリングとシリンダ内壁とのシール性を確保することが困難であり、また、圧縮ピストンリングの摺動部分の耐磨耗性の信頼性も乏しく、さらに圧縮ピストンリング溝に応力集中が発生し、トップランド部が破損する可能性がある等の問題がある。
【0004】また、一般構造の圧縮ピストンリングをピストン冠面に近づけてクレビス部を縮小して未燃焼混合気体(以下、未燃HCという。)の低減を図ることは、圧縮ピストンリングとシリンダ内壁との強い力で圧接している摺動面の油膜が燃焼火炎の侵入によって燃焼破壊され焼き付きを生じることとなるため限界がある。本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたもので、補助ピストンリングを配設することにより、未燃HCを燃焼させる内燃機関用ピストンを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】請求項1に係る発明は、圧縮ピストンリングより弱い力でシリンダ壁に圧接する補助ピストンリングを、ピストン本体の圧縮ピストンリングの隣側で最もピストン冠面に近い側に形成した補助ピストンリング溝に嵌挿して配設したことを特徴とする。
【0006】請求項2に係る発明は、前記補助ピストンリングの内周側の少なくとも一部に凹凸状の切り欠きを有することを特徴とする。請求項3に係る発明は、少なくとも一部の切り欠きは、その最深部がピストン本体の補助ピストンリング溝両側のトップランド外周面より外側にあることを特徴とする。
【0007】請求項4に係る発明は、前記補助ピストンリングは、トップランド外周面より外側にある切り欠きの最深部近傍の内周面から外周面までのリング幅がピストン冠面に向かって増大することを特徴とする。請求項5に係る発明は、前記補助ピストンリングは、周方向への回り止め機構を有しており、前記切り欠きの深さが排気ポート側よりも吸気ポート側の方が大きいことを特徴とする。
【0008】請求項6に係る発明は、前記補助ピストンリングの排気ポート側にある部分は、その内周面全体がトップランド外周面より内側にあることを特徴とする。請求項7に係る発明は、前記ピストン本体の補助ピストンリング溝は前記補助ピストンリングの切り欠きの凸部とゆるく嵌合する凹凸形状を有することを特徴とする。
【0009】
【発明の効果】請求項1に係る発明によれば、圧縮ピストンリングよりピストン冠面に近づけて配設した補助ピストンリングは、シリンダ壁と弱い力で圧接しつつ摺動するため、燃焼火炎にさらされても焼き付きを生じない。また、弱い力で補助ピストンリングがシリンダ内壁に圧接して装着されているため、燃焼圧力が補助ピストンリングを越えて圧縮ピストンリング溝に到達し、背圧となって圧縮ピストンリングをシリンダ内壁に押し付けるため、該圧縮ピストンリングのシール力は確保しつつ、未燃HCのクレビス部への侵入は抑制できる。そのため、クレビス部内に侵入し、そのまま排出される未燃HCの量が減少し、最終的に未燃HCの排出量を低減できる。
【0010】また、請求項2に係る発明によれば、補助ピストンリングの内周側の少なくとも一部に凹凸状の切り欠きを有することにより、補助ピストンリング溝のばね定数が低減し、補助ピストンリングのシリンダ内壁への追従性が向上する。また、請求項3に係る発明によれば、少なくとも一部の切り欠きは、その最深部がピストン本体のトップランド外周面より外側にあることにより、該外側にある切り欠きを貫通してクレビス部でのガス流動が増大するので、膨張行程においてクレビス部内からの未燃HCの排出が促進され、排気行程で未燃HCがクレビス部内に留まることを抑制でき、その結果、未燃HCの排出量をより低減できる。
【0011】また、未燃HCが補助ピストンリングを介してクレビス部内に侵入する際も、シリンダ内壁とは離れた側から流入するので、低温のシリンダ内壁の消炎作用を受けにくく、未燃状態でクレビス部内に留まる未燃HCの量を低減できる。さらに、燃焼圧が補助ピストンリングに背圧となってかかることを抑制できるので、補助ピストンリングをより薄くしたり、よりピストン冠面に近づけて配設できるなど、設計の自由度が向上する。
【0012】また、請求項4に係る発明によれば、補助ピストンリングのリング幅が変化する円周部分の傾斜に案内されて、未燃HCがシリンダ内壁から離れた方向に排出されるので、消炎作用を受けにくくなり、未燃HCの低減効果が増大する。また、請求項5に係る発明によれば、補助ピストンリングの周方向への回り止め機構を有しており、切り欠きの深さが排気ポート側よりも吸気ポート側の方が大きいことにより、貫通孔の大きさが排気ポート側よりも吸気ポート側の方が大きくなり、相対的にクレビス部内に流入し、排出する未燃HCが吸気ポート側の方が排気ポート側より多くなる。この結果、排気ポート側のクレビス部から流出した未燃HCがそのまま排気ポートから流出することが抑制される。一方、吸入ポート側のクレビス部から流出した未燃HCは、排気ポートまで距離があるので、排出前に燃焼されるか、次の燃焼行程で燃焼されるので未燃HCの排出量をより効果的に低減できる。
【0013】また、請求項6に係る発明によれば、補助ピストンリングの、排気ポート側にある部分は、その内周面全体がトップランド外周面より内側にあるため、排気ポート側の切り欠きには貫通孔が形成されず、未燃焼混合気体の排気ポート側のクレビス部への侵入、クレビス部から排出がなくなるので請求項5の効果をより高めることができる。
【0014】また、請求項7に係る発明によれば、ピストン本体の補助ピストンリング溝は前記補助ピストンリングの切り欠きの凸部とゆるく嵌合する凹凸形状を有するため、該補助ピストンリング溝がリング回り止め構造を兼ねるので、他の回り止め機構が不要となり、同時に補助ピストンリング溝の耐久強度が高くなる。
【0015】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る内燃機関用ピストンの全体縦断面図である。シリンダヘッド3bには、吸気ポート4と排気ポート6が連接されており、各々について吸気弁5及び排気弁7が配設されている。シリンダ3内を摺動自由なピストン1は、ピストン本体1cと、該ピストン本体1cの頂部外周壁に装着された複数のピストンリングとで構成されている。即ち、ピストン本体1cの外周壁には、オイルリング溝11a及び圧縮ピストンリング溝10aが形成されており、それぞれオイルリング11及び圧縮ピストンリング10が嵌挿され、これらの外周部分はシリンダ内壁3aに油膜を介して接している。
【0016】また、シリンダヘッド3b下面と、シリンダ内壁3aと、ピストン冠面1aとによって囲まれた領域によって燃焼室2が形成されている。なお、図1では圧縮ピストンリング10は1個だけ備えているが、本実施の形態では複数個備えてもよい。かかる基本的な構成を備えたピストン1において、本発明に係る構成として図2及び図3に示すように、トップランド1bに圧縮ピストンリング10の隣側で最もピストン冠面1aに近い側に補助ピストンリング溝9aを形成し、該補助ピストンリング溝9aに圧縮ピストンリング10より弱い力でシリンダ内壁3aと圧接する補助ピストンリング9を、嵌挿して装着する。
【0017】図1は、特に吸気ポート4から混合気が送られて、吸気弁5が閉じ、燃焼が進んだ状態(燃焼行程)を示しており、未燃HC8が燃焼室2の壁面部分近傍に相当する低温領域内(以下、クエンチ部13という。)全域に存在している。燃焼が進むにつれ、燃焼ガスの体積は膨張するので、ピストン1を下方に摺動させる力が作用し、この力がクランク軸(図示せず)を回転させる。
【0018】このとき、燃焼圧によりクレビス部12に燃焼火炎と一緒に未燃HC8が最上面の圧縮ピストンリング10の上部とトップランド1bの外周側面とシリンダ内壁3aで囲まれた領域(以下、クレビス部12という。)内に侵入しようとするが、前記補助ピストンリング9があるため、未燃HC8のクレビス部12への侵入が抑制される。そのため、クレビス部12内に侵入し、そのまま排出される未燃HC8の量が減少し、最終的に未燃HC8の排出量を低減できる。
【0019】また、弱い力で補助ピストンリング9がシリンダ内壁3aに圧接して装着されているため、燃焼圧力が補助ピストンリング9を越えて圧縮ピストンリング溝10aに到達し、背圧となって圧縮ピストンリング10をシリンダ内壁3aに押し付けるため、該圧縮ピストンリング10のシール力は確保され、この部分からの未燃HC8の排出防止も確保される。
【0020】また、圧縮ピストンリング10よりピストン冠面1aに近づけて配設した補助ピストンリング9は、シリンダ内壁3aと弱い力で圧接しつつ摺動するため、燃焼火炎にさらされても焼き付きを生じることもない。次に、第2の実施の形態について説明する。このものは図4に示すように、補助ピストンリング9の一部内周側に凹凸状の切り欠き14を設けたものである。このように、補助ピストンリング9の内周側に凹凸状の切り欠き14を有することにより、補助ピストンリング溝9aのばね定数が低減し、補助ピストンリング9のシリンダ内壁3aへの追従性が向上する。なお、切り欠き14の形状は、図4に示すような波形である必要はなく、凹凸のある形状ならばどのような形状でもよい。
【0021】次に第3の実施形態について説明する。このものは前記補助ピストンリング9の内周に形成した凹凸の切り欠き14の寸法関係を図5のように設定する。ここで、ΦDは、補助ピストンリング9の外径であり、ピストン本体1cへの装着時はシリンダ内壁3aの径と一致する。また、ΦDL はトップランド1bの外径である。また、Φdは補助ピストンリング9の最小内径であり、前記トップランド外径ΦDL より小さく形成されて補助ピストンリング9を補助ピストンリング溝9a内に嵌合させる。また、ΦDK は補助ピストンリング9の最大内径であり、切り欠き14の最深部における内径である。そして、前記切り欠き14の最深部の内径ΦDK が前記トップランド外径ΦDL よりも大きく形成され、これにより切り欠き14のトップランド1bより外周側にはみ出る部分に貫通孔15が形成される。この貫通孔15は、燃焼圧力は十分伝達させることができ、未燃HC8の通過は抑制できる大きさに設定される。したがって、この貫通孔15により、補助ピストンリング9はクレビス部12へ燃焼圧力は速やかに伝えて圧縮ピストンリング10の背圧によるシール力は確保しつつ、未燃HC8のクレビス部12への侵入は抑制できる。
【0022】また、前記貫通孔15を貫通してクレビス部12でのガス流動が増大するので、膨張行程においてクレビス部12内からの未燃HC8の排出が促進され、排気行程で未燃HC8がクレビス部12内に留まることを抑制でき、その結果、未燃HC8の排出量をより低減できる。また、未燃HC8が補助ピストンリング9を介してクレビス部12内に侵入する際も、シリンダ内壁3aとは離れた側から流入するので、低温のシリンダ内壁3aの消炎作用を受けにくく、未燃状態でクレビス部12内に留まる未燃HC8の量を低減できる。
【0023】また、燃焼圧が補助ピストンリング9に背圧となってかかることを抑制できるので、補助ピストンリング9をより薄くしたり、よりピストン冠面1aに近づけて配設できるなど、設計の自由度が向上する。次に、第4の実施の形態について説明する。このものは、図6に示すように、補助ピストンリング9のトップランド1bより外周側にある切り欠き14の最深部近傍の内周面から外周面までのリング幅がピストン冠面1aに向かって増大するように形成されている。この構造によれば、補助ピストンリング9のリング幅が変化する内周部分の傾斜に案内されて、未燃HC8がシリンダ内壁3aから離れた方向に排出されるので、消炎作用を受けにくくなり、未燃HC8の低減効果が増大する。
【0024】次に、第5の実施の形態について説明する。このものは、図7に示すように、合口をリング溝から突出するピンで係合するなどの周知のピストンリングの周方向への回り止め機構を備えると共に、前記補助ピストンリング9の切り欠き14の深さが排気ポート6側よりも吸気ポート4側の方が大きくなるように設定したものである。ここで、切り欠き14の深さは、吸気ポート4側及び排気ポート6側とでそれぞれ別けて一様に形成してもよく、また、最も吸気ポート4寄りの位置と最も排気ポート6寄りの位置とを比較して、切り欠き14の深さの差が最大となるように、徐々に変化させてもよい。
【0025】このような構造であれば、貫通孔15の大きさが排気ポート6側よりも吸気ポート4側の方が大きくなり、相対的にクレビス部12内に流入し、排出する未燃HC8が吸気ポート4側の方が排気ポート6側より多くなる。この結果、排気ポート6側のクレビス部12から流出した未燃HC8がそのまま排気ポート6から流出することが抑制される。一方、吸気ポート4側のクレビス部12から流出した未燃HC8は、排気ポート6まで距離があるので、排出前に燃焼されるか、次の燃焼行程で燃焼されるので未燃HC8の排出量をより効果的に低減できる。
【0026】また、第6の実施の形態として、補助ピストンリング9の排気ポート6側にある部分において、その内周面全体がトップランド1b外周面より内側にあれば、排気ポート6側の切り欠き14には貫通孔15が形成されず、未燃HC8の排気ポート6側のクレビス部12への侵入、クレビス部12からの排出をより少なくすることができ、前記第5の実施形態の効果がより強化される。
【0027】また、第7の実施の形態は、図8に示すように、トップランド1bの補助ピストンリング溝9aと前記補助ピストンリング9の切り欠き14とがゆるく嵌合する凹凸形状を有するようにしたものである。この場合、切り欠き14の最大内径は、トップランド径ΦDL 以上として貫通孔15が形成されるようにしてあり、該貫通孔15が吸気ポート4側の方が、排気ポート6側より大きくなるように設定してあり、前記第5、第6の実施の形態と同様の効果が得られるようにしてある。
【0028】また、該補助ピストンリング溝9aがリング回り止め構造を兼ねるので、他の回り止め機構が不要となり、同時に補助ピストンリング溝9aの耐久強度が高くなる。なお、切り欠き14及び補助ピストンリング溝9aの形状は、図7の通りでなくても、ピストン本体1cと補助ピストンリング9が略嵌合し、補助ピストンリング9の切り欠き14と補助ピストンリング溝9aとの間で、トップランド径ΦDL 以上の所に貫通孔15が形成されればどのような形状でもよい。
【出願人】 【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
【出願日】 平成10年9月17日(1998.9.17)
【代理人】 【識別番号】100078330
【弁理士】
【氏名又は名称】笹島 富二雄
【公開番号】 特開2000−88104(P2000−88104A)
【公開日】 平成12年3月31日(2000.3.31)
【出願番号】 特願平10−263237