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【発明の名称】 自動変速機の制御装置
【発明者】 【氏名】児島 星

【氏名】藤田 憲次郎

【氏名】臼杵 克俊

【要約】 【課題】ニュートラル制御の解除時にフォワードクラッチを緩やかに係合可能としてショックの発生を未然に防止し、良好な車内環境を実現できる自動変速機の制御装置を提供する。

【解決手段】予備操作の実行によりスリップ判定が下される前に制御解除条件が成立したときに、予めフォワードクラッチの滑りを抑制可能な値として設定されたデューティ率DN+ΔDN+DTHを所定時間TA適用するようにしたため、フォワードクラッチは確実に係合側に操作されて、タービン回転速度Ntが0まで減少した後に完全係合が行われる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 自動変速機の走行段が達成された状態で車両停止条件が成立したときに、上記走行段を達成する特定の摩擦係合要素を係合状態から解放側に操作する予備操作手段と、前記予備操作手段の操作により前記摩擦係合要素の入力回転速度が所定値を越えたときに、スリップ判定を下して摩擦係合要素を所定のスリップ状態に制御するスリップ状態制御手段と、車両発進条件が成立したときに、前記摩擦係合要素を係合状態に復帰させる復帰手段と、前記スリップ判定前に車両発進条件が成立したときに、予め前記摩擦係合要素の滑りを抑制可能な値に基づいて摩擦係合要素を係合側に操作するスリップ抑制手段とを備えたことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動変速機の制御装置に係り、詳しくは走行レンジでの停車中等にトルクコンバータによるクリープ現象を低減する制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】周知のように、Dレンジ(走行レンジ)で停車中の自動変速機は、次回の発進に備えるために変速機構を低速段に保持しており、エンジンのトルクがトルクコンバータを介して駆動輪に伝達されて、車両が僅かに前進する所謂クリープ現象が生じている。シフトポジションをNレンジ(非走行レンジ)に切換えれば、変速機構が中立状態となるためクリープ現象は生じなくなるが、停車の度にシフトポジションを切換えるのは煩雑なため、通常の運転者はDレンジのままフットブレーキによりクリープ現象を押さえ込む操作を行っている。
【0003】しかしながら、このときのエンジンにはクリープ現象の反作用として負荷トルクが加えられるため、その負荷トルクに抗してアイドル回転を維持するために燃料消費量が増大する傾向がある上に、トルクコンバータを介して駆動輪側に伝達されるエンジントルクと制動力との拮抗により、不快なアイドル振動が発生するという不具合がある。
【0004】そこで、Dレンジでの停車中に、低速段(例えば、第1速段)を達成するために係合されていた摩擦要素(以下、フォワードクラッチという)をクリープ現象が発生しない程度のスリップ量に制御する所謂ニュートラル制御を実行し、これによりトルクコンバータを介して伝達されるエンジントルクを減少して、燃料消費量及びアイドル振動の低減を図るようにした制御装置が提案されている。
【0005】ニュートラル制御の概略を説明すると、その開始条件としては、車速0km/h、フットブレーキ操作中、スロットル開度0%、1速段達成から所定時間経過等が設定されており、例えば、Dレンジで走行中の車両が停車して全ての条件が成立したときに、ニュートラル制御が開始される。走行中のフォワードクラッチは係合状態に保持されているため、事前にフォワードクラッチをニュートラル制御時の所定スリップ量付近まで解放側に操作する予備操作が行われる。まず、フォワードクラッチ用ソレノイドのデューティ率を、走行中の100%からクラッチが滑り出す直前の値として設定された所定値までステップ状に減少させ、その後に所定変化率で漸減させる。
【0006】従って、フォワードクラッチは滑り出す直前までは速やかに、その後は緩やかに解放側へと操作され、クラッチが滑り出すと、それ以前に駆動輪側により回転阻止されていたタービンランナが回転し始めるため、例えばタービン回転速度Ntが50rpmを越えた時点で予備操作完了と見なして、タービンが所定のスリップ量となるように制御する。
【0007】そして、フットブレーキ操作の中止、アクセル操作、車速が所定値以上等のニュートラル制御解除条件が成立すると、まず、タービン回転速度Ntが所定変化率で減少するようにフォワードクラッチ用のソレノイドのデューティ率を制御して、フォワードクラッチを係合側へと操作し、例えばタービン回転速度Ntが100rpmを下回ると同期判定を下して、そのときのデューティ率に所定値を加算した若干大きなデューティ率DEを所定時間TE適用することで、クラッチを更に係合側に操作してタービン回転速度Ntを0とし、その後にデューティ率を100%まで増加して完全係合させ発進に備える。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】上記のようにスリップ制御が実際に開始された後にニュートラル制御の解除条件が成立した場合には、何ら問題は生じないが、スリップ制御の開始前で、予備操作によりクラッチが滑り出した直後(例えば、0<Nt<50rpm)に解除条件が成立した場合には、以下に述べる不具合が生ずる。このときには滑り出したクラッチを再び係合させることになるが、上記した解除条件の成立後の処理を適用した場合、図6に二点鎖線で示すように、この時点のタービン回転速度Ntが100rpm(同期判定タービン回転速度)未満であることから、直ちに同期判定が下されてデューティ率DEが適用され、所定時間TE後にデューティ率100%が適用される。デューティ率DE及び所定時間TEは、フォワードクラッチを係合側に操作中の状況を想定して設定されているため、単にこれらの値を適用しただけでは、一旦滑り出した(解放側に移行し始めた)フォワードクラッチを係合させることはできず、その後にデューティ率が100%に増加した時点で、クラッチ油圧の急激な立ち上がりによりフォワードクラッチが急係合してしまう。従って、係合時に大きなショックが発生し、乗員に不快感を与えてしまうという問題があった。
【0009】本発明の目的は、ニュートラル制御の解除時にフォワードクラッチを緩やかに係合可能としてショックの発生を未然に防止し、良好な車内環境を実現することができる自動変速機の制御装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1の発明は、走行段が達成された状態で車両停止条件が成立したときに、走行段を達成する摩擦係合要素を予備操作手段により係合状態から解放側に操作し、その操作により摩擦係合要素の入力回転速度が所定値を越えたときに、スリップ状態制御手段によりスリップ判定を下して摩擦係合要素を所定のスリップ状態に制御すると共に、車両発進条件が成立したときに、復帰手段により摩擦係合要素を係合状態に復帰させ、更に、スリップ判定前に車両発進条件が成立したときに、予め摩擦係合要素の滑りを抑制可能な値に基づいてスリップ抑制手段により摩擦係合要素を係合側に操作するように構成した。
【0011】車両停止条件の成立に伴って摩擦係合要素が解放側に操作されると、その入力回転速度が所定値を越えた時点でスリップ判定が下されて、摩擦係合要素は所定のスリップ状態に制御される。ここで、スリップ判定前に車両発進条件が成立した場合には、一旦滑り出した摩擦係合要素を係合側に操作する必要が生ずる。このときには滑りを抑制可能な値に基づいてスリップ抑制手段により摩擦係合要素が確実に係合側に操作されるため、その後に復帰手段により摩擦係合要素が係合状態に復帰する時点では、入力回転速度が確実に0まで減少して係合ショックの発生が防止される。
【0012】本発明は好適には、前記予備操作手段を、車両停止条件の成立当初に、予め摩擦係合要素が滑り出す直前の値として設定されたスリップ直前値に基づいて摩擦係合要素をステップ状に解放操作し、続いて徐々に解放側に移行させるように構成し、前記スリップ抑制手段を、スリップ直前値を増加補正して摩擦係合要素への操作力として適用するように構成した自動変速機の制御装置として具体化でき、スリップ直前値は、摩擦係合要素の滑りを抑制可能な値と見なすことができるため、摩擦係合要素を確実に係合側に操作可能となる。
【0013】更に、前記予備操作手段を、車両停止条件の成立からスリップ判定までの所要時間を所定値とすべく前記スリップ直前値の学習処理を実行するように構成し、前記スリップ抑制手段を、学習後のスリップ直前値を増加補正して適用するように構成した自動変速機の制御装置として具体化でき、運転状況に拘わらず滑りの抑制に最適な操作力が適用されるため、係合側への操作がより確実なものとなる。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明を具体化した自動変速機の制御装置の一実施例を説明する。図1に示すように、自動変速機1はエンジン2と結合された状態で図示しない車両に搭載されている。エンジン2の出力軸2aはトルクコンバータ3を介して変速機構4に連結され、その変速機構4はディファレンシャルギア5を介して車両の駆動輪と接続されている。エンジン2の出力軸2aと共にトルクコンバータ3のポンプインペラ3aが回転すると、ATF(オートマチック・トランスミッション・フルード)を介してタービンランナ3bが回転駆動され、その回転が変速機構4に伝達される。詳細は説明しないが変速機構4は、複数組の遊星歯車機構、及びその構成要素(サンギア、ピニオンギア、リングギア)の動作を許容又は規制するクラッチやブレーキ類から構成されており、それらのクラッチやブレーキの係合状態を油圧源6から供給されるATFにより適宜切換えて、所望の変速段を得ている。
【0015】ここで、自動変速機1がNレンジ(非走行レンジ)からDレンジ(走行レンジ)に切換えられたとき、変速機構4は発進に備えるために第1速段に切換えられるが、これは変速機構4中のフォワードクラッチ7(前進時に係合するクラッチ)と1速用ブレーキ8とを共に係合することで実現される。そして、後述するように、この摩擦係合要素としてのフォワードクラッチ7のスリップ量を制御することでニュートラル制御が行われる。
【0016】車室内には、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAM,BURAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えたA/T−CU(自動変速機制御ユニット)11が設置されており、自動変速機1の総合的な制御を行う。A/T−CU11の入力側には、エンジン2の回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ12、タービンランナ3bの回転速度Nt(即ち、フォワードクラッチ7の入力回転速度)を検出するタービン回転速度センサ13、車両の走行速度Vsを検出する車速センサ14、フットブレーキの操作を検出するストップランプスイッチ15、エンジン2のスロットル開度θTH(=アクセル操作量)を検出するスロットルセンサ16、ATF油温TOILを検出する油温センサ17、及び運転者にて選択されたシフトポジション(例えば、Nレンジ、Dレンジ、Pレンジ,Rレンジ等)を検出するためのシフトポジションセンサ18が接続されている。又、A/T−CU11の出力側には、前記した油圧源6からの作動油を切換制御して変速機構4のクラッチやブレーキを作動させるための多数のソレノイド19が接続されている。A/T−CU11はスロットル開度θTH及び車速Vsに基づき、図示しない変速点マップに従って変速機構4のクラッチ及びブレーキの係合状態を切換え、変速制御を実行する。
【0017】次に、上記のように構成された自動変速機の制御装置によるニュートラル制御の実行状況を図2乃至図5に従って説明する。図2乃至図4のフローチャートは、Dレンジで走行中の車両が停止したときにフォワードクラッチ7をニュートラル制御するためのものであり、図5のタイムチャートはニュートラル制御の全体的な制御状況を示したものである。
【0018】A/T−CU11は、図2乃至図4に示すニュートラル制御ルーチンを所定時間毎に実行する。まず、A/T−CU11はステップS2でニュートラル制御の開始条件が成立したか否かを判定する。本実施例では以下の開始条件が設定されており、その全てが満たされたとき、つまり、車両が走行状態からほぼ停止状態に移行したと推測されるときに開始条件が成立したと見なす。
【0019】1)ストップランプスイッチ15にてブレーキ操作が検出されたこと。
2)スロットルセンサ16にてアクセル非操作(スロットル開度が所定量未満)が検出されたこと。
3)車速センサ14にて検出された走行速度Vsが所定値未満であること。
ステップS2で開始条件が成立しないときには、NO(否定)の判定を下してルーチンを終了する。又、ニュートラル制御の開始条件が成立したときには、YES(肯定)の判定を下してステップS4に移行し、スリップ判定を行う。ニュートラル制御ではフォワードクラッチ7を所定スリップ量に保持するため、制御の開始に際しては、走行のために係合状態にあったクラッチ7を所定スリップ量付近まで解放側に操作する必要がある。以下、この処理を予備操作と称するが、スリップ判定はこの予備操作の完了を判別するためのものであり、タービン回転速度Ntが0から上昇してスリップ判定値Nt0(例えば、50rpm)を越えたときに、フォワードクラッチ7が所定スリップ量付近まで操作されたと推測し、予備操作完了としてスリップ判定を下す。
【0020】タービン回転速度Ntが未だスリップ判定値Nt0以下で、ステップS4の判定がNOであるときには、ステップS6及びステップS8で予備操作を実行する。まず、ステップS6で予備操作フラグFをセットし、ステップS8でフォワードクラッチ用のソレノイド19のデューティ率Dを算出して出力する。その後、ステップS10で後述するニュートラル制御の解除条件が成立したか否かを判定し、解除条件が成立していないときには前記ステップS4に戻る。ステップS8でのデューティ率Dの算出処理は次式(1)に従って行う。
【0021】D=DN−DNS………(1)ここに、DNは後述のように係合状態のフォワードクラッチ7が滑り出す直前のデューティ率として設定されたスリップ直前値、DNSは0を始点としてステップS8の実行毎に所定割合で増加設定される勾配項である。又、スリップ直前値DNは次式に従って算出する。
【0022】DN=DN0+DNL………(2)ここに、DN0はスリップ直前値DNのベース値、DNLは同じくスリップ直前値DNの学習値であり、これらの値DN0,DNLは、エンジン回転速度NeとATF油温TOILとに応じてマップ設定されており、その時点のエンジン回転速度NeとATF油温TOILとに応じたアドレスから読み出されて用いられる。そして、本実施例では上記ステップS8の処理を実行するときのA/T−CU11が予備操作手段として機能する。
【0023】従って、図5に示すように、ニュートラル制御の開始条件の成立直後に、ソレノイド19のデューティ率Dは100%からスリップ直前値DNまでステップ状に減少し(図5のポイントa)、その後は勾配項DNSに従って漸減する。フォワードクラッチ7は次第に解放側に操作され、係合状態で停止保持されていたタービン回転速度Nt(フォワードクラッチ7を介してタービンランナ3bが駆動輪側と接続されていたため)が上昇し始め、タービン回転速度Ntがスリップ判定値Nt0を越えると、A/T−ECU11はステップS4でYESの判定を下し、ステップS12乃至ステップS18でスリップ制御を実行する。
【0024】まず、ステップS12で予備操作フラグFをクリアし、ステップS14で予備操作フラグFをクリアしてからの本ステップの実行が初回か否かを判定する。初回の実行でステップS14の判定がYESのときには、ステップS16で前記したスリップ直前値DNの学習値DNLを学習した後にステップS18に移行し、ステップS14の実行が2回目以降のときには、直接ステップS18に移行する。
【0025】次いで、ステップS18でトルクコンバータ3のスリップ量ΔN(=Ne−Nt)を予め設定された目標値にすべく、ソレノイド19のデューティ率Dをフィードバック制御する。デューティ率Dの初期値としては、前記ステップS8の予備操作で漸減させた最後のデューティ率Dに所定値ΔDSB(例えば、デューティ率Dの2%)を加算した値を適用する(図5のポイントb)。ステップS18の処理は、ステップS10でニュートラル制御の解除条件が成立するまで繰り返され、図5に示すようにスリップ量ΔNは目標値付近に保持される。そして、本実施例では上記ステップS4及びステップS18の処理を実行するときのA/T−CU11がスリップ状態制御手段として機能する。
【0026】前記ステップS16での学習値DNLの学習処理は、係合状態のフォワードクラッチ7がスリップ制御に移行する際のトルク変動を低減すべく、スリップ直前値DNを最適化するために行われる。概要を説明すると、予備操作の所要時間T(ステップS2でのニュートラル制御の開始条件成立からステップS4でのスリップ判定までの所要時間)について予め実現可能な理想値として目標時間Ttgを設定し(例えば、1sec)、その目標時間Ttgに対して実際の所要時間Tが長い(T>Ttg)ときには学習値DNLを減少させ、逆に所要時間Tが短い(T<Ttg)ときには学習値DNLを増加させる。
【0027】得られた学習値DNLは、前記のようにエンジン回転速度NeとATF油温TOILとに応じたアドレスに格納されて、以降のスリップ直前値のDNの算出に利用される。この処理の繰り返しにより、式(2)から算出されるスリップ直前値DNはスリップ判定時のデューティ率付近まで低減されるため、予備操作中のデューティ率の減少(DNS)が縮小されて、タービン回転がスリップしたときのトルク変動による運転者の違和感を防止する。
【0028】一方、ニュートラル制御の解除条件は以下のように設定されており、そのいずれかが満たされたとき、つまり運転者の発進意志が推測されるときに解除条件が成立したと見なす。
1)ストップランプスイッチ15にてブレーキ操作の中止が検出されたこと。
2)スロットルセンサ16にてアクセル操作(スロットル開度が所定値以上)が検出されたこと。
【0029】3)車速センサ14にて検出された走行速度Vsが所定値以上であること。
解除条件のいずれかが満たされてステップS10の判定がYESになると(図5のポイントc)、A/T−CU11はステップS20に移行して予備操作フラグFがセットされているか否かを判定する。ここで、前記のように予備操作はごく短時間(目標時間Ttg)で完了するため、通常は図5に示すように、スリップ判定が行われて予備操作が完了した後にニュートラル制御の解除条件が成立する。従って、この場合には予備操作フラグFがクリアされているとしてステップS20でNOの判定を下し、ステップS22以降で通常の解除処理を行う。
【0030】まず、ステップS22で解除条件の成立が上記2)に起因するものであるか否か、換言すれば、ブレーキ操作継続の状況下でアクセル操作が開始されて解除条件が成立したか否かを判定する。通常の運転操作では、ブレーキ操作の中止後にペダルを踏み換えてアクセル操作を開始することから、1)に起因して解除条件が成立し、ステップS22ではNOの判定を下して、ステップS24でニュートラル制御に用いた最後のデューティ率Dを初期値として設定する。又、2)に起因して解除条件が成立してステップS22でYESの判定を下したときには、ステップS26で最後のデューティ率Dに所定値ΔDESを加算した値を初期値として設定する。
【0031】その後、ステップS28で解除条件が成立した図5のポイントcの時点のエンジン回転速度Neに基づいて目標変化率ΔNT1を設定し、ステップS30でスロットル開度θTHに基づくスロットル補正量DTHの算出処理を、ステップS32でエンジン回転速度Neに基づくエンジン回転補正量DNEの算出処理を実行する。更に、ステップS34で、前記ステップS24又はステップS26で設定した初期値を用いて、ステップS28で設定した目標変化率ΔNT1に従ってタービン回転速度Ntが低下するように、デューティ率Dをフィードバック制御する。
【0032】詳細はしないが、前記したスロットル補正量DTHは、アクセル踏込み量(エンジントルクの増加量)に応じてフォワードクラッチ7の油圧を増加させることで滑りを抑制するための補正量であり、エンジン回転補正量DNEは、アイドル回転付近で生ずるATFライン圧の変動による影響を排除するための補正量であり、各補正量DTH,DNEはステップS34のフィードバック制御時に適用されることでデューティ率Dに反映され、それぞれの作用を奏する。
【0033】以上の処理によりタービン回転速度Ntは次第に減少し、フォワードクラッチ7は係合側に操作される。ここで、ステップS26でデューティ率Dの初期値を増加補正しているのは、この場合には解除条件の成立後に直ちにエンジントルクが立上がってフォワードクラッチ7に滑りを発生させることが予想されるため、油圧の瞬間的な立ち上げによってこの事態を防止しているのである。
【0034】続くステップS36でA/T−CU11はタービン回転速度Ntが300rpm未満か否かを判定し、YESの判定を下すまではステップS28乃至ステップS34の処理を繰り返す。タービン回転速度Ntが300rpmを下回ってステップS36の判定がYESになると(図5のポイントd)、上記したステップS28乃至ステップS32と同様に、ステップS38で図5のポイントdの時点のエンジン回転速度Neに基づいて目標変化率ΔNT2(|ΔNT2|<|ΔNT1|)を設定し、ステップS40でスロットル補正量DTHの算出処理を、ステップS42でエンジン回転補正量DNEの算出処理を実行する。更にステップS44で、前記ステップS34の処理で用いた最後のデューティ率D(図5のポイントdのデューティ率D)を初期値として、目標変化率ΔNT2に従ってタービン回転速度Ntが低下するように、デューティ率Dをフィードバック制御し、ステップS46で同期判定を行う。この同期判定は、ステップS44でのフィードバック制御によりフォワードクラッチ7が係合付近まで操作されたか否かを判定するための処理であり、具体的にはタービン回転速度Ntが100rpm未満か否かを判定している。
【0035】以上の処理によりタービン回転速度Ntの低下速度はより緩慢なものとなり、ステップS46で同期判定が下されると、ステップS48で、前記ステップS44の処理で用いた最後のデューティ率Dに所定値ΔDFFを加算した値DEを出力し(図5のポイントe)、ステップS50で予め設定された所定時間TEが経過したか否かを判定する。つまり、同期判定した後はオープンループ制御によりフォワードクラッチ7を係合可能と見なして、所定値DEが適用されるのである。
【0036】そして、ステップS48の繰り返しによりフォワードクラッチ7は係合され、タービン回転速度Ntは、このときの車速Vsに対応する値まで低下する。所定時間TEが経過してステップS50の判定がYESになると、ステップS52でデューティ率を100%に保持して(図5のポイントf)、このルーチンを終了する。本実施例では上記ステップS22乃至ステップS52の処理を実行するときのA/T−CU11が復帰手段として機能する。
【0037】よって、油圧の立上げに伴ってフォワードクラッチ7が完全係合されて第1変速段への切換が完了し、運転者のアクセル操作によりエンジン回転速度Neが上昇すると、エンジン2の出力軸2aの回転がトルクコンバータ3を介して変速機構4側に伝達されて、車両が発進する。尚、ニュートラル制御の解除条件が成立(運転者の発進の意志表示)してから実際に第1速段への切換が完了するまでの所要時間はごく短いため、この発進時に運転者が違和感を抱くことはない。
【0038】一方、前記ステップS20で予備操作フラグFがセットされているとしてYESの判定を下したとき、つまり、予備操作の完了以前にニュートラル制御の解除条件が成立したときには、ステップS8の処理により既にフォワードクラッチ7が滑り出した状況を前提とした解除処理をステップS54以降で行う。まず、ステップS54で前記したステップS30及びステップS40と同様に、スロットル開度θTHに基づくスロットル補正量DTHの算出処理を実行し、ステップS56で次式(3)に従って算出したデューティ率Dを出力する。
【0039】D=DN+ΔDN+DTH………(3)ここに、DNは前記ステップS8で適用したスリップ直前値、ΔDNは所定値である。次いで、A/T−ECU11はステップS58で次式(4)に従ってNt減少判定を行う。
ΔNmin+ΔN0<ΔNnow………(4)ここに、ΔNminは(Ne−Nt)n+1>(Ne−Nt)nの条件が成立した時点のスリップ量、ΔNnowは現在のスリップ量、ΔN0は所定値(例えば、150rpm)である。つまり、解除条件の成立後、タービン回転速度Ntの減少に伴ってスリップ量ΔNが所定値ΔN0分だけ増大した(フォワードクラッチ7が係合側に操作された)ときに、上記式(4)の条件が満たされてNt減少判定が下される。Nt減少判定が下されないときには、ステップS60で解除条件の成立から所定時間TAが経過したか否かを判定し、NOの判定を下したときには前記ステップS54に戻る。本実施例では上記ステップS54乃至ステップS60の処理を実行するときのA/T−CU11がスリップ抑制手段として機能する。
【0040】前記のようにスリップ直前値DNは、係合状態のフォワードクラッチ7が滑り出す直前の学習された値であり、換言すれば、予備操作によって生じたフォワードクラッチ7の滑りを抑制して係合側に操作するために好適なデューティ率Dと見なすことができる。そして、ステップS60の所定時間TAは、このスリップ直前値DNの適用により実際にフォワードクラッチ7を係合側に操作可能なだけの長さ(例えば、200msec)に設定されている。更に、このときの係合側への操作を確実なものとするために、前記のようにスリップ直前値DNには所定値ΔDNが加算される。又、スロットル補正量DTHは、前記ステップS34及びステップS44と同じくエンジントルクに応じた滑り抑制を目的としたものである。
【0041】この処理により通常であれば、タービン回転速度Ntは減少し始めるため、ステップS58でNt減少判定が下されて前記ステップS28に移行する。その結果、目標変化率ΔNT1,ΔNT2に従ったフィードバック制御が行われ、その後にデューティ率Dとして値DEが適用され、更に100%が適用されて完全係合される。尚、このときのフィードバック制御の初期値は、ステップS56の処理で用いたデューティ率D(=DN+ΔDN+DTH)を適用する。
【0042】ステップS58でNt減少判定を下す以前にステップS60で所定時間TAが経過すると、ステップS62に移行して同期判定(Nt<100rpm)を行い、ステップS64で解除条件の成立から前記TAより大きい所定時間TB(例えば、600msec)が経過したか否かを判定する。ステップS64で所定時間TBが経過する以前に、ステップS58でNt減少判定を下すか、或いはステップS62で同期判定を下すと、前記ステップS28以降の処理を実行する。
【0043】一方、Nt減少判定或いは同期判定を下す前に所定時間TBが経過してステップS64の判定がYESになると、ステップS66で前記したステップS54と同様に、スロットル開度θTHに基づくスロットル補正量DTHの算出処理を実行し、ステップS68で次式(5)に従って算出したデューティ率Dを出力する。
D=DN+ΔDN+DTH+α………(5)ここに、αは0を始点としてステップS68の実行毎に所定割合で増加設定される勾配項である。その後、ステップS70でNt減少判定及び同期判定を行い、いずれの条件についてもNOのときにはステップS66に戻る。ステップS68の処理によりソレノイド19のデューティ率Dは勾配項αに従って増加して、フォワードクラッチ7を確実に係合側に操作するため、ステップS70のNt減少判定或いは同期判定が必ず下されて、ステップS28以降の処理によりフォワードクラッチ7は最終的に完全係合される。
【0044】次に、上記のように予備操作の完了以前にニュートラル制御の解除条件が成立した場合の制御状況を図6のタイムチャートに従って説明する。このときに実行されるステップS54以降の処理は、前記のようにステップS8の処理により既にフォワードクラッチ7が滑り出している(0<Nt<50rpm)との前提で行われる。従って、以下の説明も図6に示すように、解除条件が成立した時点でタービン回転速度Ntがある程度上昇しているものとして説明する。
【0045】まず、所定時間TA経過以前においては、ステップS56でソレノイド19のデューティ率DとしてDN+ΔDN+DTHが適用されると共に、通常の解除操作(ステップS28以降)への移行条件として、ステップS58のNt減少判定が定められている。この時点では未だスリップ判定が下されていないことから(Nt<50rpm)、ステップS62の条件(Nt<100rpm)を適用すると、直ちに同期判定が下されて無条件で通常の解除操作に移行してしまうため、ステップS62に代えてステップS58の条件が設定されているのである。
【0046】そして、前記のようにスリップ直前値DNが、予備操作によって生じたフォワードクラッチ7の滑りを抑制して係合側に操作するために好適なデューティ率であること、及び、そのスリップ直前値DNを前提として、実際にフォワードクラッチ7を係合側に操作可能なように所定時間TAが設定されていることから、通常であればフォワードクラッチ7の操作方向は解放側から係合側に転じ、図6に実線で示すようにタービン回転速度Ntが減少し始めて、所定時間TAが経過する前にNt減少判定が下される。
【0047】その後、同期判定が下されるまではフィードバック制御が行われ、続いてステップS48でデューティ率DEが適用される。上記したNt減少判定は、その時点のデューティ率D(=DN+ΔDN+DTH)を保持することでタービン回転速度Ntを継続して減少可能な状況にあることを意味している。従って、より大きなデューティ率DEが適用されることで、タービン回転速度Ntは確実に0まで減少し、その後のステップS52でデューティ率Dが100%に増加してクラッチ油圧が急激な立ち上がっても、フォワードクラッチ7はショックを発生することなく完全係合される。
【0048】又、所定時間TA経過後から所定時間TB経過以前においては、通常の解除操作への移行条件として、新たにステップS62の同期判定が定められている。所定時間TA経過までにNt減少判定が下されない場合、図6に破線で示すように、タービン回転速度Ntは逆に上昇して100rpmを越えていると推測される。そこで、デューティ率D(=DN+ΔDN+DTH)の継続によりタービン回転速度Ntが減少し始めてはいるが、Nt減少判定されずに同期判定で通常の解除操作に移行する状況もあり得るとして、ステップS62の条件が設定されているのである。
【0049】更に、所定時間TB経過後においては、ステップS68でデューティ率Dを勾配項αに従って増加させている。所定時間TBが経過してもNt減少判定も同期判定も下されない場合、図6に一点鎖線で示すようにタービン回転速度Ntが上昇し続けている事態が推測されるため、デューティ率Dの増加によってフォワードクラッチ7の滑りの抑制を図っているのである。
【0050】尚、予備操作中のタービン回転速度Ntが上昇する以前にニュートラル制御の解除条件が成立した場合にも、同様にステップS54に移行して、ステップS56でデューティ率DとしてDN+ΔDN+DTHが適用されるが、このときのタービン回転速度Ntは0であるため、何らショックを生ずることなくフォワードクラッチ7の係合がなされる。
【0051】以上のように、本実施例の自動変速機の制御装置では、予備操作の完了以前にニュートラル制御の解除条件が成立したときに、ステップS62の同期判定を禁止した上で、ニュートラル制御開始時のスリップ直前値DNを所定時間TA適用し、フォワードクラッチ7の滑りを抑制して係合側に操作するため、続くデューティ率DEの適用時にタービン回転速度Ntを確実に0まで減少できる。従って、その後の完全係合時のショック発生を未然に防止して、良好な車内環境を実現することができる。
【0052】しかも、スリップ直前値DNは、ステップS16の処理によってエンジン回転速度Ne及びATF油温TOILに応じて学習されるため、運転状況に拘わらず滑りの抑制に最適なスリップ直前値DNを適用することができる。従って、係合側への操作をより確実なものとして、上記したショック防止効果を十分に得ることができる。
【0053】以上で実施例の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施例に限定されるものではない。例えば、上記実施例では、予備操作の完了以前にニュートラル制御の解除条件が成立したときに、ニュートラル制御開始時に学習したスリップ直前値DNを適用したが、フォワードクラッチ7の滑りを抑制可能な値であれば、必ずしもスリップ直前値DNを利用する必要はなく、代わりに予め設定した固定値を適用してもよい。
【0054】更に、上記実施例では、有段式の自動変速機の制御装置に具体化したが、無段式の自動変速機に対する制御装置として具体化することもできる。この場合には、前後進段を切換える摩擦係合要素を制御の対象とすればよい。
【0055】
【発明の効果】以上説明したように本発明の自動変速機の制御装置によれば、スリップ判定前に車両発進条件が成立した場合に、予め滑りを抑制可能な値に基づいて摩擦係合要素を確実に係合側に操作するようにしたため、その後の係合状態に復帰する時点での係合ショックの発生を未然に防止して、良好な車内環境を実現することができる。
【出願人】 【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
【出願日】 平成11年4月16日(1999.4.16)
【代理人】 【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
【公開番号】 特開2000−304125(P2000−304125A)
【公開日】 平成12年11月2日(2000.11.2)
【出願番号】 特願平11−109472