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【発明の名称】 サイレントチェーン
【発明者】 【氏名】中村 健佐

【氏名】川島 文則

【氏名】藤原 昭

【氏名】矢久保 和重

【氏名】多田 直純

【氏名】吉田 幸生

【要約】 【課題】ピン孔およびピンの摩耗を極力抑制して、耐摩耗性を向上する。

【解決手段】一対の歯部21およびピン孔22が形成された多数のリンクプレート2をピン孔22内に挿入したピン3により連結するとともに、リンクプレート2の最外側にガイドリンク4を配置してサイレントチェーン1を構成する。この場合に、ピン孔22およびピン3の面粗度を0.5μm以下とし、ピン孔22のせん断面長さをピン孔22の軸方向長さの90%以上とするとともに、ピン3に炭化バナジウムの硬化層を形成して、硬化層の厚みを20μm以上とする。さらに、リンク列6の最外側リンクプレート2b1 の板厚t1 をリンク列6の他のリンクプレート2b2 の板厚t2 よりも大きくするとともに、ガイド列5の中央のリンクプレート2a1 の板厚t1 ′をガイド列5の他のリンクプレート2a2の板厚t2 よりも大きくする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 一対の歯部およびピン孔を有する多数のリンクプレートを該ピン孔内に挿入した連結ピンにより連結するとともに最外側にガイドリンクを配置して構成されるサイレントチェーンにおいて、前記リンクプレートのピン孔および前記連結ピンの面粗度をいずれも0.5μm以下とし、前記ピン孔のせん断面長さを該ピン孔の軸方向長さの90%以上とするとともに、前記連結ピンに炭化バナジウムの硬化層を形成して、該硬化層の厚みを20μm以上とした、ことを特徴とするサイレントチェーン。
【請求項2】 請求項1に記載のサイレントチェーンにおいて、前記ガイドリンクを含まないリンク列の最外側リンクプレートの板厚を当該リンク列の他のリンクプレートの板厚よりも大きくするとともに、前記ガイドリンクを含むガイド列の中央のリンクプレートの板厚を当該ガイド列の他のリンクプレートの板厚よりも大きくした、ことを特徴とするサイレントチェーン。
【請求項3】 請求項2に記載のサイレントチェーンにおいて、前記リンク列の最外側リンクプレートの板厚を前記ガイド列の中央のリンクプレートの板厚と同程度にした、ことを特徴とするサイレントチェーン。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐摩耗性を向上させたサイレントチェーンに関する。
【0002】
【従来の技術およびその課題】自動車や自動二輪車等の動力伝達用チェーンとして用いられるサイレントチェーンは、一般に、一対の歯部およびピン孔をそれぞれ有する多数のリンクプレートを各ピン孔内に挿入した連結ピンにより連結するとともに、リンクプレートの最外側にガイドリンクを配置した構造を有している。
【0003】このようなサイレントチェーンの運転時において、各リンクプレートがスプロケットに巻き付く際およびスプロケットから離れる際には、各リンクプレートが連結ピンの回りを屈曲運動し、その結果、各リンクプレートのピン孔の内周面および連結ピンの外周面が摺動して、ピン孔および連結ピンが摩耗する。このピン孔および連結ピンの摩耗は、サイレントチェーン全体の伸びにつながるため、とくにエンジンタイミング用のサイレントチェーンにおいては、このような摩耗を許容範囲内に収める必要がある。
【0004】その一方、サイレントチェーンに引張荷重が作用したとき、この引張荷重は各リンクプレートにより分担される。ところが、従来のサイレントチェーンでは、最外側に配置されたガイドリンクの剛性がリンクプレートの剛性よりも高く、このため、引張荷重の作用時に連結ピンおよびリンクプレートの変形が誘発され、その結果、連結ピンの長手方向中央側のリンクプレートと外側のリンクプレートとで異なる荷重を分担することになる。このような不均一な荷重分担によって、リンクプレートのピン孔および連結ピンに局部的な摩耗が生じる場合がある。
【0005】本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたもので、ピン孔および連結ピンの摩耗を極力抑制することができ、耐摩耗性を向上できるサイレントチェーンを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明に係るサイレントチェーンは、一対の歯部およびピン孔を有する多数のリンクプレートを該ピン孔内に挿入した連結ピンにより連結するとともに最外側にガイドリンクを配置して構成されるサイレントチェーンにおいて、前記リンクプレートのピン孔および前記連結ピンの面粗度をいずれも0.5μm以下とし、前記ピン孔のせん断面長さを該ピン孔の軸方向長さの90%以上とするとともに、前記連結ピンに炭化バナジウムの硬化層を形成して、該硬化層の厚みを20μm以上としたことを特徴としている。
【0007】請求項2の発明に係るサイレントチェーンは、請求項1において、前記ガイドリンクを含まないリンク列の最外側リンクプレートの板厚を当該リンク列の他のリンクプレートの板厚よりも大きくするとともに、前記ガイドリンクを含むガイド列の中央のリンクプレートの板厚を当該ガイド列の他のリンクプレートの板厚よりも大きくしたことを特徴としている。
【0008】請求項3の発明に係るサイレントチェーンは、請求項2において、前記リンク列の最外側リンクプレートの板厚を前記ガイド列の中央のリンクプレートの板厚と同程度にしたことを特徴としている。
【0009】請求項1の発明においては、リンクプレートのピン孔および連結ピンの面粗度をいずれも0.5μm以下としたので、ピン孔および連結ピンの摺動面の面圧を低減でき、これにより、ピン孔および連結ピンの摩耗を低減できる。このような面粗度は、リンクプレートについては、ファインブランキングその他の精密打抜法を採用することにより達成することが可能である。
【0010】なお、ピン孔および連結ピンの面粗度を0.5μm以下としたのは、面粗度をパラメータとした場合におけるチェーンの摩耗試験結果に基づいている。すなわち、後述するように、面粗度が0.5μmのときに、摩耗試験後のチェーンの伸びが許容摩耗伸びに達することによる。
【0011】また、リンクプレートのピン孔のせん断面長さを該ピン孔の軸方向長さの90%以上としたので、ピン孔および連結ピン間の接触面積が大きくなって、ピン孔および連結ピンの摺動面の面圧をさらに低減でき、これにより、ピン孔および連結ピンの摩耗を一層低減できる。このようなせん断面長さについても同様に、ファインブランキングやその他の精密打抜法により達成することが可能であるが、シェービング加工によっても実現可能である。
【0012】なお、ピン孔のせん断面長さをピン孔の軸方向長さの90%以上としたのは、ベアリング長さ(ピンの支持長さ)としては、できるだけピン孔の軸方向長さ全体にわたっている方が好ましいことによる。
【0013】さらに、連結ピンに炭化バナジウムの硬化層を形成して、該硬化層の厚みを20μm以上としたので、連結ピンの摩耗をさらに低減できる。なお、硬化層の厚みを20μmとしたのは、サイレントチェーンの許容摩耗伸びに対応する連結ピンの摩耗深さが計算上約20μmであることによる。
【0014】請求項2の発明では、ガイドリンクを含まないリンク列の最外側リンクプレートの板厚を当該リンク列の他のリンクプレートの板厚よりも大きくしたので、最外側リンクプレートの剛性が他のリンクプレートの剛性よりも高くなっている。これにより、リンク列の最外側リンクプレートの変形を抑制して、ピンの変形を防止でき、各リンクプレートによる荷重分担を均等にできる。その結果、リンクプレートのピン孔および連結ピンに局部的な摩耗が生じるのを防止できる。
【0015】しかも、この場合には、ガイドリンクを含むガイド列の中央のリンクプレートの板厚を当該ガイド列の他のリンクプレートの板厚よりも大きくしたので、ピンの変形をさらに抑制でき、各リンクプレートによる荷重分担をさらに均等にできる。これにより、ピン孔および連結ピンの局部的な摩耗を一層防止できる。
【0016】請求項3の発明では、リンク列の最外側リンクプレートの板厚をガイド列の中央のリンクプレートの板厚と同程度にしたので、同様にピンの変形をさらに抑制でき、各リンクプレートによる荷重分担をさらに均等にできる。これにより、ピン孔および連結ピンの局部的な摩耗を一層防止できる。
【0017】以上のように本発明によれば、ピン孔および連結ピンの摩耗を極力抑制することができ、耐摩耗性を向上できる。
【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施態様を添付図面に基づいて説明する。
第1の実施態様〕図1ないし図5は本発明の第1の実施態様によるサイレントチェーンを説明するための図であって、図1はサイレントチェーンの一部切欠き平面部分図、図2はその正面図、図3ないし図5はサイレントチェーンの摩耗試験結果を示すグラフである。
【0019】図1および図2に示すように、サイレントチェーン1は、各々一対の歯部21およびピン孔22が形成されたリンクプレート2(2aおよび2b)を厚み方向およびピッチ方向(図左右方向)に積層するとともに、これらのリンクプレート2の各ピン孔22内にたとえば断面円形状のピン3を挿入して、各リンクプレート2を枢動可能に連結し、さらに該リンクプレート2の最外側にガイドリンク4を配置した構造を有している。
【0020】またサイレントチェーン1は、ガイドリンク4と同じピッチ方向位置に配置されたリンクプレート2aおよびガイドリンク4からなるガイド列5と、隣り合う各ガイドリンク4,4間の同じピッチ方向位置に配置されたリンクプレート2bからなるリンク列6とから構成されている。ここでは、ガイド列5が4枚のリンクから構成され、リンク列6が3枚のリンクから構成されている例が示されている。
【0021】リンクプレート2は、ファインブランキングその他の精密打抜法により製作されており、ピン孔22の面粗度が0.5μm以下に仕上げられるとともに、ピン孔22のせん断面長さがピン孔の軸方向長さの90%以上確保されている。またピン3には、炭化バナジウム(VC)が被覆処理(つまりコーティング)されており、このVC硬化層の厚みが20μm以上確保されている。さらに、VC硬化層のコーティング後、熱処理されてから研摩処理されており、これにより、ピン3の面粗度が0.5μm以下に仕上げられている。
【0022】なお、従来のサイレントチェーンにおいては、ピン孔の面粗度は2〜3μm程度であって、ピンの面粗度は0.5〜1μm程度である。ピン孔のせん断面長さは、シェービング加工を用いた場合には、ピン孔の軸方向長さの70〜80%程度である。また、従来のピンは浸炭等によって硬化処理が行われている。
【0023】ここで、ピン3およびピン孔22の面粗度を0.5μm以下としたのは以下の理由による。すなわち、ピン3およびピン孔22の面粗度をパラメータとして摩耗試験を行うと、図3に示すように、面粗度が大きくなるほどチェーンの伸びが増大し、面粗度が0.5μmのときにチェーンの伸びが許容摩耗伸びδ0 に達するからである。このことから、ピン3およびピン孔22の面粗度としては、いずれも0.5μm以下であるのが好ましいことが分かる。
【0024】ここで、許容摩耗伸びとは、自動車のエンジンタイミング用のサイレントチェーンの場合、歯飛びを起こさないことはもちろん、バルブタイミングが一定の許容範囲内に収まり得る程度のチェーン伸び(伸び量の元の長さに対する割合)を意味し、具体的には、コンマ数パーセントのオーダーである。
【0025】また、ピン孔22のせん断面長さをピン孔の軸方向長さの90%以上としたのは、ベアリング長さ(ピンの支持長さ)としては、できるだけピン孔の軸方向長さ全体にわたっている方が好ましいことによる。
【0026】また、ピン3に形成されるVC硬化層の厚みを20μm以上としたのは、サイレントチェーンの許容摩耗伸びに対応するピン3の摩耗深さが計算上約20μmであるからである。
【0027】次に、ピンにVC硬化層を形成したサイレントチェーンについて摩耗試験を行うと、図4の実線に示すようになる。また、ピンにVC硬化層が形成されていない従来のサイレントチェーンについて摩耗試験を行うと、同図中の破線に示すようになる。なお、同図中、縦軸のδ0 はチェーンの許容摩耗伸びを示し、横軸のd0 は自動車メーカー側が永年保証する走行可能距離を示している。
【0028】図4から明らかなように、VC処理が施されたサイレントチェーンの場合には、自動車が保証走行距離d0 に到達してもチェーンは許容摩耗伸びδ0 には達しておらず、かなり余裕が残されているのに対し、従来のサイレントチェーンの場合には、保証走行距離d0 に到達する前にチェーンが許容摩耗伸びδ0 に達していることが分かる。
【0029】また、VC処理が施されたサイレントチェーンにおいて、VC硬化層の厚みが十分に確保されていない、すなわちVC硬化層の厚みが数μmからせいぜい10μm程度の場合には、図5中の二点鎖線に示すように、ある走行距離d′の経過後に、ピンが急激に摩耗する結果、保証走行距離d0 に到達する前に許容摩耗伸びδ0 に達してしまうことが分かる。
【0030】このように本実施態様によれば、リンクプレート2のピン孔22およびピン3の面粗度をいずれも0.5μm以下としたので、ピン孔22およびピン3の摺動面の面圧を低減でき、これにより、ピン孔22およびピン3の摩耗を低減できる。
【0031】しかも、本実施態様では、ピン3に炭化バナジウムの硬化層を形成して、該硬化層の厚みを20μm以上としたので、ピン3の摩耗を一層低減でき、チェーン全体の耐摩耗性を向上できる。
【0032】さらに、本実施態様では、ピン孔22のせん断面長さをピン孔22の軸方向長さの90%以上としたので、ピン孔22およびピン3の摺動面の面圧をさらに低減でき、これにより、ピン孔22およびピン3の摩耗を一層低減できる。
【0033】〔第2の実施態様〕図6および図7は本発明の第2の実施態様によるサイレントチェーンを説明するための図であって、図6はサイレントチェーンの一部切欠き平面部分図、図7はその正面図である。これらの図において、前記第1の実施態様と同一符号は、同一または相当部分を示している。
【0034】この第2の実施態様では、ガイド列5が3枚のリンクから構成され、リンク列6が2枚のリンクから構成されている点が前記第1の実施態様と異なっているが、ピン孔22およびピン3の面粗度、ピン孔22のせん断面長さ、ピン3のVC硬化処理については、前記第1の実施態様と同様の処理が施されている。
【0035】したがって、この第2の実施態様においても、ピン孔22およびピン3の摩耗を極力抑制することができ、チェーン全体の耐摩耗性を向上できる。
【0036】〔第3の実施態様〕図8および図9は本発明の第3の実施態様によるサイレントチェーンを説明するための図であって、図8はサイレントチェーンの一部切欠き平面部分図、図9はその正面図である。これらの図において、前記第1の実施態様と同一符号は、同一または相当部分を示している。
【0037】この第3の実施態様では、ガイド列5が5枚のリンクから構成され、リンク列6が4枚のリンクから構成されている点が前記第1の実施態様と異なっているが、ピン孔22およびピン3の面粗度、ピン孔22のせん断面長さ、ピン3のVC硬化処理については、前記第1の実施態様と同様の処理が施されている。
【0038】したがって、この第3の実施態様においても、ピン孔22およびピン3の摩耗を極力抑制することができ、チェーン全体の耐摩耗性を向上できる。
【0039】さらに、この第3の実施態様においては、リンク列6において斜線を施した最外側のリンクプレート2b1 の板厚をt1 とし、ガイド列5において斜線を施した中央のリンクプレート2a1 の板厚をt1 ′とし、リンク列6の他のリンクプレート2b2 およびガイド列5の他のリンクプレート2a2 の各板厚をt2 とするとき、板厚t1 ,t1 ′,t2 の値は、たとえばt1 =t1 ′=1.2(mm)
2 =1.0(mm)
となっており、t1 =t1 ′>t2 の関係がある。
【0040】すなわち、リンク列6の最外側のリンクプレート2b1 の剛性およびガイド列5の中央のリンクプレート2a1 の剛性は、他のリンクプレート2a2 ,2b2の剛性よりも高くなっている。
【0041】これにより、引張荷重の作用時にピン3の変形をさらに抑制して、各リンクプレート2による荷重分担をさらに均等にでき、その結果、ピン孔22およびピン3の局部的な摩耗を一層防止できる。
【0042】なお、各板厚t1 ,t1 ′は同程度の厚みである方が好ましいが、これらは必ずしも同一でなくてよい。
【0043】ここで、図1および図6に示すサイレントチェーンの摩耗試験結果と、図8に示すサイレントチェーンの摩耗試験結果とを比較すると、図10に示すようになる。同図では、図1,図6の場合を一点鎖線で、図8の場合を実線でそれぞれ示している。
【0044】図10から明らかなように、リンク列の最外側のリンクプレートおよびガイド列の中央のリンクプレートの板厚を大きくした図8の場合において、自動車の走行距離が短い初期走行の際に現れるサイレントチェーンの初期摩耗伸びδf は、すべてのリンクプレートの板厚を同一にした図1,図6の場合のサイレントチェーンの初期摩耗伸びδf ′よりもかなり小さくなっている。これにより、図8に示すサイレントチェーンでは、自動車が保証走行距離に到達した場合のチェーンの伸びをさらに小さくすることができる。
【0045】
【発明の効果】以上のように本発明に係るサイレントチェーンによれば、ピン孔および連結ピンの面粗度をいずれも0.5μm以下とし、ピン孔のせん断面長さを該ピン孔の軸方向長さの90%以上とするとともに、連結ピンに炭化バナジウムの硬化層を形成して、該硬化層の厚みを20μm以上としたので、ピン孔および連結ピンの摩耗を極力抑制することができ、耐摩耗性を向上させることができる効果がある。
【出願人】 【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
【識別番号】000113447
【氏名又は名称】ボーグ・ワーナー・オートモーティブ株式会社
【出願日】 平成10年8月21日(1998.8.21)
【代理人】 【識別番号】100103241
【弁理士】
【氏名又は名称】高崎 健一
【公開番号】 特開2000−65155(P2000−65155A)
【公開日】 平成12年3月3日(2000.3.3)
【出願番号】 特願平10−251926