| 【発明の名称】 |
湿式摩擦相手材 |
| 【発明者】 |
【氏名】遠山 護
【氏名】大森 俊英
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| 【要約】 |
【課題】高トルク容量化を目的として、高い摩擦係数を獲得すると同時に、摩擦調整剤による化学吸着膜の生成を可能とする湿式摩擦材を提供する。
【解決手段】本発明の湿式摩擦相手材は繊維を基材とする湿式摩擦材と作動液中で摺動するものであって、金属製の本体と該本体の摺動面に予め形成されたリン酸塩皮膜とを有することを特徴とするものである。金属系相手材の表面に、予め充分なリン酸塩皮膜を施すことによって、摩擦調整剤を配合したATFを用いた場合においても、リン酸塩皮膜による高い摩擦係数を得ることができる。またリン酸塩皮膜に対しては、摩擦調整剤は化学吸着しやすく、強固な吸着膜が形成される。その結果として、良好なμ−v特性を維持することができる。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 繊維を基材とする湿式摩擦材と作動液中で摺動する湿式摩擦相手材であって、金属製の本体と該本体の摺動面に予め形成されたリン酸塩皮膜とを有することを特徴とする湿式摩擦相手材。 【請求項2】 前記リン酸塩皮膜は、リン酸鉄皮膜、リン酸亜鉛皮膜及びリン酸カルシウム皮膜の少なくとも1種である請求項1に記載の湿式摩擦相手材。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、自動車の湿式クラッチの湿式摩擦相手材に関する。一般に自動車の自動変速機には、トルクコンバータに組み合わされて、ロックアップクラッチ及び変速クラッチ等の湿式摩擦クラッチが内装されて用いられている。本発明は特に湿式クラッチの湿式摩擦相手材に関するものである。 【0002】 【従来の技術】一般に自動車の自動変速機と組み合わされて用いられているトルクコンバータには、自動変速機用の作動液、すなわちオートマチックトランスミッションフルード(以下「ATF」という)が満たされている。トルクコンバータに内装されたロックアップクラッチ及び変速クラッチ等の湿式摩擦クラッチはこのATFに浸漬された状態で使用され、機能するものである。一般に湿式摩擦クラッチは繊維を基材する摩擦材と鉄系の金属摩擦相手材からなっている。 【0003】これらの湿式摩擦クラッチに対して、エンジンの高出力化への対応及び変速機の小型・軽量化を目的として、高トルク容量化が求められている。そのために湿式摩擦クラッチには高い摩擦係数が要求されている。またクラッチの変速・係合時のショック及びジャダの発生を防止することが求められている。そのために、湿式摩擦クラッチには、摩擦材と摩擦相手材との間の摩擦係数(μ)が相対すべり速度(v)の低い領域では小さくなる特性、即ちμ−v特性の正勾配性が要求されている。 【0004】つまり、湿式摩擦クラッチには、高トルク容量化の観点から高い摩擦係数が求められ、ジャダ発生等の防止の観点から良好なμ−v特性が求されている。なおここで良好なμ−v特性とはμ−v特性が正勾配性を有していることを意味する。高トルク容量化の実現を目的とする技術としては、特開平4−181022号公報及び特開平4−366029号公報には、湿式摩擦クラッチの摩擦相手材に表面処理を施すという技術が開示されている。前者は摩擦相手材の表面にニッケルリンメッキを施したものであり、後者は金属系の摩擦相手材の表面にセラミックス薄膜を施したものである。これらの技術は湿式クラッチの摩擦相手材を表面処理することにより高い摩擦係数を獲得しようとするものである。 【0005】一方、ジャダ発生等を防止するための技術としては、ATFに摩擦調整剤を添加するものが挙げられる。例えば特開昭63−66299号公報には、不飽和脂肪酸とジアルカノールとの反応生成物等の摩擦調整剤を配合している潤滑油組成物が開示されている。これはATFに係る技術であって、摩擦調整剤をATFに配合することにより、主としてすべり速度の低い領域で摩擦係数を低減し、μ−v特性を正勾配化させる作用を得ようとするものである。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】一般に、ATFに配合される摩擦調整剤等の添加剤については、摩擦材、摩擦相手材の材質、組成によって、その作用・効果が大きく異なっている。通常のATFは、鉄系の金属摩擦相手材とペーパー系摩擦材との組み合わせを想定して、添加剤が配合されている。 【0007】ATFに配合される摩擦調整剤としては、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸の金属塩、アミン、硼酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、金属スルフォネート、金属フェネート、金属サリシレート、コハク酸イミド、ベンジルアミン等が挙げられる。これらの摩擦調整剤は、摩擦材、摩擦相手材の表面に化学吸着膜を形成し、この化学吸着膜によってμ−v特性を正勾配化しようするものである。このことにより、クラッチの変速・係合時のショック、またジャダの発生を防止することができる。 【0008】一方、ATFには、通常ギヤの耐摩耗性・耐焼付き性等の観点から、リン系添加剤、例えばリン酸エステル、亜リン酸エステル、ジチオリン酸亜鉛等が必須の成分として配合されている。かかるリン系添加剤が配合されているATF中で湿式クラッチを摺動した場合には、リン系添加物が鉄系摩擦相手材に対して化学反応し、この化学反応によって当該摩擦相手材の摺動面にリン酸塩皮膜が生成される。このリン酸塩皮膜は、湿式摩擦クラッチにおいて、高い摩擦係数を維持する働きを有することになる。このことにより、高トルク容量化が実現されることになる。 【0009】しかし、変速・係合時のショック、ジャダの発生を防止することを目的として、ATF中に化学吸着性の強い摩擦調整剤を配合したり、あるいは摩擦調整剤を高濃度で配合したりする場合には、当該摩擦調整剤によって、摩擦材、摩擦相手材の表面に化学吸着膜が形成されてしまう。そしてその化学吸着膜の存在により、ATFに配合されているリン系添加剤の化学反応が阻害され、摩擦相手材の表面へのリン酸塩皮膜の生成量が減少することになる。その結果摩擦調整剤によって、良好なμ−v特性を獲得できたとしても、摩擦係数が低下するという問題が生じた。 【0010】一方、高トルク容量化を目的として、金属摩擦相手材の摺動面に予め表面処理を施すことにより、高い摩擦係数を得ることができる。しかし、例えばニッケルリンめっき、及びセラミックス薄膜のように、摩擦調整剤と化学吸着しない皮膜を摩擦相手材の表面に施した場合には、摩擦調整剤が化学吸着しないため、化学吸着膜が形成されないことになる。従ってこの場合には、高い摩擦係数を得ることはできるが、摩擦調整剤が有するμ−v特性を正勾配化するという作用が得られないという問題が生じることになる。 【0011】これらの問題は、金属摩擦相手材に施した表面処理が、高い摩擦係数を得るものであると同時に、当該表面処理がATF中に含まれている摩擦配合剤による化学吸着膜の生成を可能にするものであれば、解決しうる問題である。そこで本発明の目的は、金属摩擦相手材に予め表面処理を施すことによって、高い摩擦係数を獲得すると同時に、摩擦調整剤による化学吸着膜の生成を可能とすることにより、良好なμ−v特性を獲得するところにある。 【0012】 【課題を解決するための手段】本発明の湿式摩擦相手材は、繊維を基材とする湿式摩擦材と作動液中で摺動する摩擦相手材であって、金属製の本体と該本体の摺動面に予め形成されたリン酸塩皮膜とを有することを特徴とするものである。即ち金属系相手材の表面に、予め充分なリン酸塩皮膜を施すことによって、摩擦調整剤を配合したATFを用いた場合においても、リン酸塩皮膜による高い摩擦係数を得ることができる。 【0013】またリン酸塩皮膜に対しては、摩擦調整剤は化学吸着しやすく、強固な吸着膜が形成される。その結果として、良好なμ−v特性を維持することができる。なお前記リン酸塩皮膜は、リン酸鉄皮膜、リン酸亜鉛皮膜及びリン酸カルシウム皮膜の少なくとも1種であることが好ましい。 【0014】 【実施の形態】本発明の湿式摩擦相手材は湿式摩擦材と組み合わされることにより、湿式摩擦クラッチを構成する。この湿式摩擦クラッチは、ATFに浸漬された状態で、トルクコンバータに内装されているロックアップクラッチ、変速クラッチ等として使用されるものである。 【0015】本発明の湿式摩擦相手材は、金属製の本体と当該金属製の本体の表面に予め施されたリン酸塩皮膜からなる。これにより、摩擦係数を高め、高トルク容量化を実現するものである。金属製の本体としては、鉄系金属であることが好ましい。従来から使用されている熱間圧延鋼板を使用することができる。またリン酸塩としては、リン酸鉄、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等の金属リン酸塩が好ましい。 【0016】湿式摩擦材は、繊維系の基材からなるものであればよく、従来から用いられているものをそのまま使用することができる。湿式摩擦クラッチが作動するATFとしては、摩擦調整剤が配合されているものが好ましい。摩擦調整剤が湿式摩擦相手材に吸着し、化学吸着膜を形成し、これにより、良好なμ−v特性を獲得できるからである。 【0017】 【実施例】本発明のリン酸塩皮膜を有する摩擦相手材の製造方法は以下の通りである。リン酸塩皮膜を形成するための処理液として、リン酸鉄処理液、リン酸亜鉛処理液、リン酸カルシウム処理液の3種類を用意した。これら3種類の処理液の組成は表1に示した。 【0018】被表面処理材として、SPHC(熱間圧延鋼板)材を用いた。まず本体の表面を研磨した後に、洗剤を用いて水洗いした。その後アセトンで洗浄し、洗浄された本体を80℃に加熱した0.2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液中に10分間浸漬し、その後当該金属製本体を水洗いした。次に45℃に加熱した15mol/Lの硫酸水溶液に5分間浸漬し、その後水洗いした。 【0019】次に1/20に希釈した処理液(表1参照)を90℃に加熱し、本体を15分間浸漬し、表面にリン酸塩皮膜を形成した。その後水洗いした。アセトン洗浄し、その後50℃の乾燥器に10分間入れて乾燥して本発明のリン酸塩皮膜を有する摩擦相手材を調整した。 【0020】 【表1】
【0021】 【試験】(試験方法)図1に示されるスラスト・カラー型摩擦試験機によって、ATF中で摩擦相手材の摩擦特性を測定した。試験の概略は図1に示したものである。すべり速度、試験時間、摩擦面温度、面圧等の試験条件は、表2に示した。 【0022】すべり速度を0.2m/s、0.4m/s、0.6m/s、0.8m/s、1.0m/s、1.2m/s、1.4m/s、1.6m/s、1.8m/s、2.0m/sと段階的に変えていき、測定を行った。摩擦係数としては、各すべり速度条件において、荷重負荷後30秒後の値を測定した。測定結果としては30分のならし後、評価を行った。 【0023】リング試片には、ペーパー摩擦材が接着されている。摩擦面積は200mm2で、外径はφ25.6mmで、内径はφ20.0mmである。摩擦相手材であるプレート試片には、SPHC(熱間圧延鋼板)材を用いた。SPHC材の表面粗さは0.04〜0.06μmRaである。リン酸塩皮膜処理として、実施例で示したリン酸鉄皮膜処理、リン酸亜鉛皮膜処理及びリン酸カルシウム皮膜処理を行ったものを用いた。 【0024】また比較のためにリン酸塩皮膜処理を行っていないものも用いた。ATFには、市販のDEXRON−II(規格油)に摩擦調整剤としてヒドロキシパルミチン酸を0.2mass%配合したものを用いた。摩耗防止剤としてリン系極圧剤、その他に、粘度指数向上剤、分散剤(コハク酸イミド)、酸化防止剤等も配合されている。摩擦調整剤として用いたヒドロキシパルミチン酸は、試薬のものである。その構造は、長鎖のアルキル基の末端に−OH基と−COOH基の両者を有したものである。この2つの官能基によって、鉄表面への吸着性が高いものとなる。この特徴から固体摩擦低減効果が大きく、湿式クラッチにおける摩擦係数のすべり速度への依存性(μ−v特性)の正勾配化に有効に作用するものである。ATFは150ml用いた。 【0025】試験に際しては、摩擦面最外周1mmの部分に熱伝対を貼り付けて、プレート試片であるSPHC材の表面温度を計測した。試験温度については、この部位での表面温度が120℃で一定になるように、試料油であるATFの温度を80〜125℃の間で調整した。 【0026】 【表2】
【0027】(評価)試験の結果から、予めリン酸塩皮膜処理を施した場合には、皮膜処理のない場合に比べて、高い摩擦係数が実現されていることが確認された。またその際良好なμ−v特性も維持されている。 【0028】 【発明の効果】本発明においては、金属製の摩擦相手材の表面に、摩擦調整剤と化学吸着するリン酸塩皮膜処理を施すことによって、μ−v特性および耐ジャダ性を維持し、またリン酸塩皮膜処理によって、高い摩擦係数を獲得し、高トルク容量化を実現する効果を有する。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000003609 【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
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| 【出願日】 |
平成11年3月30日(1999.3.30) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100081776 【弁理士】 【氏名又は名称】大川 宏
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| 【公開番号】 |
特開2000−283200(P2000−283200A) |
| 【公開日】 |
平成12年10月13日(2000.10.13) |
| 【出願番号】 |
特願平11−89664 |
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