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【発明の名称】 ディスクブレーキ装置
【発明者】 【氏名】栗田 洋敬

【氏名】山縣 裕

【氏名】小池 俊勝

【要約】 【課題】アルミニウム合金製ブレーキディスク本体に耐摩耗性が高い金属を設ける構造を採りながら、ブレーキディスクに熱応力が発生することがなく、しかも製造コストが低いディスクブレーキ装置を提供する。

【解決手段】アルミニウム合金製ブレーキディスク本体11の摩擦面に、耐摩耗性が高い金属からなるめっき層13を形成する。このめっき層13の全域に微細な網目状のクラック15を形成する。ブレーキパッドを前記めっき層13の金属材料より硬度が低い材料によって形成した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ブレーキディスクをブレーキパッドで挟圧するディスクブレーキ装置において、前記ブレーキディスクの本体をアルミニウム合金によって形成し、このブレーキディスク本体の摩擦面に、耐摩耗性が高い金属からなるめっき層を形成し、このめっき層の全域に微細な網目状のクラックを形成したことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】 請求項1記載のディスクブレーキ装置において、ブレーキパッドをめっき層の金属材料より硬度が低い材料によって形成するとともに、交換可能としたことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項3】 請求項2記載のディスクブレーキ装置において、ブレーキパッドを合成樹脂系材料によって形成したことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項4】 請求項2記載のディスクブレーキ装置において、ブレーキパッドを、Cuを含有する焼結材によって形成したことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車や自動二輪車などの車両に用いるディスクブレーキ装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車や自動二輪車などの車両に装備するディスクブレーキ装置は、円環板状に形成したブレーキディスクをブレーキパッドで挟圧する構造のものがある。この種のディスクブレーキ装置は、走行性能および燃費を向上させるためにブレーキディスクを可及的軽量に形成することが要請されている。ブレーキディスクの軽量化を図るためには、ハブに固定する板状の部分(以下、この板状部をブレーキディスク本体という。)をアルミニウム合金によって形成することが考えられる。
【0003】ブレーキディスク本体をアルミニウム合金によって形成する場合には、耐摩耗性を向上させるためにブレーキディスク本体の表面に鉄系金属製のドーナツ状円板を接合し、これによって摩擦面を形成している。この種のブレーキディスクとしては、例えば特開平5−26268号公報に開示されたものがある。
【0004】この公報に示されたブレーキディスクは、ブレーキディスク本体をアルミニウム合金によって形成するとともに、このブレーキディスク本体の表面におけるブレーキパッドが摺接する位置に鋳鉄製のドーナツ状円板を摩擦圧接やアルフィン接合によって接合している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかるに、アルミニウム合金は鋳鉄などの鉄系金属に較べて熱膨張率が大きいから、アルミニウム合金製ブレーキディスク本体に鋳鉄製円板を接合する構造では、制動時の温度上昇に伴って発生する熱応力によってブレーキディスクに曲がりや撓みが生じる。曲がりや撓みがあると回転方向に対して摩擦面および接合面が例えばθの傾斜をもつことになり、摩擦力に加え回転力にcosθを乗じた回転力の接合面方向成分の剪断力が接合面に作用するので、剥離し易くなる。このため、鋳鉄部分がブレーキディスク本体から剥離してしまうことがあった。また、摩擦面への法線方向の荷重には押圧力に加え回転力にsinθを乗じた回転力の法線方向成分が作用するので、ブレーキパッドあるいはブレーキディスク本体の摩耗を大きくしてしまうことがあった。この結果、ディスクブレーキ装置の耐久性を低下せしめる問題があった。
【0006】また、摩擦圧接法やアルフィン接合法によって鋳鉄製円板をブレーキディスク本体に接合するためには、特殊な接合装置が必要で、ブレーキディスク本体さらにはディスクブレーキ装置の製造コストが高くなってしまうという問題もあった。
【0007】本発明はこのような問題点を解消するためになされたもので、アルミニウム合金製ブレーキディスク本体に耐摩耗性が高い金属層を設ける構造を採りながら、金属層の剥離は摩耗につながる曲がりや撓みを生じ難くしてブレーキ機能の信頼性を高め、しかも製造コストが低くてよいディスクブレーキ装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するために、本発明に係るディスクブレーキ装置は、アルミニウム合金製ブレーキディスク本体の摩擦面に、耐摩耗性が高い金属からなるめっき層を形成し、このめっき層の全域に微細な網目状のクラックを形成したものである。
【0009】本発明によれば、ブレーキディスク本体の摩擦面のめっき層がクラックによって互いに分離された無数の微細な金属片状とされる。前記金属片は、ブレーキディスク本体が熱膨張してもこれに追従することができる。このため、ブレーキディスク本体に曲がりや撓みを生じ難く、制動時にブレーキパッドが前記めっき層を押圧しつつ摺接しても、めっき層には押圧力が、めっき層とブレーキディスク本体との接合面には押圧力に摩擦係数を乗じた摩擦力による剪断力と、押圧力による圧縮力とが作用するのみであり、大きな剪断力やめっき層への大きな法線力とはならない。
【0010】また、アルミニウム合金製ブレーキディスク本体に耐摩耗性が高い金属からなる金属層をめっきによって形成しているから、耐摩耗性が高い金属をブレーキディスク本体に設けるための特別な接合装置が不要になる。すなわち、ディスクブレーキ装置を構成するブレーキディスクを安価に製造可能になる。
【0011】請求項2に記載した発明に係るディスクブレーキ装置は、請求項1に記載した発明に係るディスクブレーキ装置において、ブレーキパッドをめっき層の金属材料より硬度が低い材料によって形成するとともに、交換可能としたので、ブレーキディスクより大きさが小さく安価となるブレーキパッドを先に摩耗するようにしており、ブレーキパッドの交換により安価にディスクブレーキ装置の保守を可能とする。
【0012】請求項3に記載した発明に係るディスクブレーキ装置は、上述した発明に係るディスクブレーキ装置において、ブレーキパッドを合成樹脂系材料によって形成したものであり、請求項4に記載した発明に係るディスクブレーキ装置は、上述した発明に係るディスクブレーキ装置において、ブレーキパッドを、Cuを含有する焼結材によって形成したものである。
【0013】請求項3または請求項4記載の発明によれば、既存のブレーキパッドを使用することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】第1の実施の形態以下、本発明に係るディスクブレーキ装置の一実施の形態を図1ないし図6によって詳細に説明する。図1は本発明に係るディスクブレーキ装置を示す断面図、図2はブレーキキャリパーの断面図、図3はブレーキディスクの要部を拡大して示す断面図、図4はめっき層のクラックを模式的に示す図である。図5はブレーキディスクの製造方法を説明するための工程図、図6はめっきの前処理を説明するための工程図である。
【0015】これらの図において、符号1で示すものはこの実施の形態によるディスクブレーキ装置である。このディスクブレーキ装置1は、自動二輪車の前輪用のもので、前輪用ハブ2に固定したブレーキディスク3と、フロントフォーク4に固定したブレーキキャリパー5とを備えている。図1において符号6は前輪の車軸を示し、符号7はスポーク、8はリムを示す。
【0016】前記ブレーキディスク3は、ブレーキディスク本体11をアルミニウム合金によって円環板状に形成し、このブレーキディスク本体11における前記ブレーキキャリパー5のブレーキパッド12(図2参照)が摺接する摩擦面(ブレーキディスク本体11の外周部分の表裏両面)に図3に示すようにめっき層13を形成しており、径方向の内側の部位を前記ハブ2に固定用ボルト14(図1参照)によって固定している。
【0017】前記めっき層13は、Fe,Fe−Cr合金,Cr,Niなどの耐摩耗性が高い金属からなり、ブレーキディスク本体11に電解めっきを施すことによって形成している。このめっき層13には、図3および図4に示すように、微細な網目状のクラック15をめっき形成範囲の全域に形成している。このようにクラック15を形成することにより、ブレーキディスク本体11の摩擦面に、クラック15によって互いに分離された微細な金属片13aが多数形成される。
【0018】前記ブレーキキャリパー5は、図2に示すように、前記ブレーキディスク3の両側方にブレーキパッド12をマウントした支持プレート12aが、ボルト12bにより着脱可能に取付けられた油圧ピストン16をそれぞれ設けた従来周知の構造を採っている。制動時には、一対のブレーキパッド12が油圧ピストン16によってブレーキディスク3の両面に押付けられ、二つのブレーキパッド12でブレーキディスク3を挟圧する。
【0019】ブレーキパッド12は、前記ブレーキディスク1のめっき層3を形成する金属材料より硬度が低い材料によって形成している。ブレーキパッド12の材料としては、例えば合成樹脂系のものや、Cuを含有する焼結材などの従来周知のものが挙げられる。このようにブレーキパッド12の硬度を相対的に低く設定することによって、制動時の摩擦で前記めっき層が摩耗してしまうのを阻止することができる。
【0020】次に、上述したように構成したブレーキディスク3を製造する方法を図5および図6によって詳細に説明する。
【0021】ブレーキディスク3は、ブレーキディスク本体11を所定の形状に成形し、このブレーキディスク本体11に電解めっきを施すことによって形成する。
【0022】すなわち、先ず、図5中にステップS1で示すように、溶解したアルミニウム合金をノズル(図示せず)から所定半径の標的に向けて噴霧状に噴射させ、生成されるアルミニウム合金の噴霧滴を冷気あるいは常温空気中を通過させることにより途中で冷却させて半凝固状態とし、この半凝固状態のアルミニウム合金の噴霧滴を所定半径の略円柱状に積み上げさせるスプレーフォーミングにより、例えば所定半径が350mmのアルミニウム合金粒が固まった状態の円柱を形成する。
【0023】ステップS2において、このアルミニウム合金粒円柱を切断し、厚さ例えば50mmの円盤を作製する。ステップS3におけるプリ鍛造により、厚さ例えば50mmの円盤を30mm程度に圧縮するとともに中心に穴を形成して密度を上げたドーナツ状の円盤を作製する。このドーナツ状の円盤がビュレットである。
【0024】このビュレットをステップS4で示す鍛造工程で表面硬度がHRE=55〜88で厚さが15mmのドーナツ状円盤とする。このドーナツ状円盤をステップS5のT6処理、すなわち溶体化温度の500℃に4時間保持した後に水冷する溶体化処理と、続いて200〜300℃に4時間保持した後に空冷する時硬化処理を行い、表面および内部硬度がHRE=90〜100程度とする。
【0025】ステップS6の粗加工により、内外形加工、取付け穴加工、そして円盤面の加工を行う。円盤面のうち摩擦面は研磨前の表面粗さとしてRa25μm程度に下加工を施しておく。ステップS7の仕上げ加工において摩擦面を表面粗さがRa1〜3.5μm程度となるまで研磨する。仕上げ加工が終了した後、ステップS8で示すようにめっき工程に移行する。
【0026】めっき工程S8では、先ず、図6に示すようにブレーキディスク本体11にめっき前処理を施し、その後、電解めっきを実施する。
【0027】めっき前処理は、一般的に実施されている電解めっき時の前処理と同等の処理内容で、図6中にステップP1で示す脱脂工程と、ステップP2で示す酸洗い工程と、ステップP3で示すアルカリエッチング工程と、ステップP4で示す酸活性工程と、ステップP5で示す亜鉛置換工程と、ステップP6で示す硫酸浸漬工程と、ステップP7で示す亜鉛置換工程と、これらの各工程間およびステップP7の亜鉛置換工程の後に実施する水洗工程とによって実施する。
【0028】なお、ステップP1〜P7の各工程においては、表5に示す通り、所定の組成を含有する処理液(ベースは水)を収容し所定の浴温に保持される各浴槽に、ブレーキディスク本体11を所定の処理時間浸漬して行う。これらの前処理を施すことにより、次工程のめっき処理におけるめっき層と母材であるアルミニウム合金層との密着性を向上させている。
【0029】このめっき前処理を実施した後、ステップP8でブレーキディスク本体11に電解めっきを施す。めっきは、めっき液の静止浴中にブレーキディスク本体11を陰極として陽極とともに浸漬させ、これらを直流電源に接続することによって実施する。また、このめっきは、ブレーキディスク本体11に生成されるめっき層13の厚みが概略20μmあるいはそれ以上となるまで実施する。
【0030】なお、このステップP8のめっき処理において、例えばFeめっき、あるいはFe−Cr合金めっきを施す場合には、表6に示すめっき処理条件により行う。すなわち、表示するめっき液組成、液温に保持しためっき液を満たした静止浴を使い、表6に示す電流密度、めっき時間でめっきすると、概略表6に示すめっき膜厚、硬さのめっき層が得られる。めっき膜厚を20μm以上とするためには、電流密度を表中の値より大きくするか、あいるいは及びめっき時間を表中のものより長くする。
【0031】ブレーキディスク本体11は、めっき液に浸漬させる以前に、ブレーキディスク本体11の摩擦面のみにめっき層13が形成されるように他の部位にマスク(図示せず)を設けておく。なお、このようなマスクを使用することなく、ブレーキディスク3の外表面の全域にめっき層13を形成してもよい。
【0032】なお、厚みが少なくとも10μmより厚くなるようにめっき層13を形成することによって、特別な処理を施すことなく、めっき層13に図3および図4に示すようにクラック15が発生する。めっき層の膜厚が10μm程度であると、図4に示すクラック15内側のめっき層金属片に内接する円の直径dが大きなものでも約1.5mm程度となる。これはめっき層に縮まろうとする内部応力が発生しているからであり、膜厚が増加するとこの内部応力によりめっき面に網目状のクラックが発生するからである。
【0033】めっき工程が終了したブレーキディスク本体11は、特別な後加工を施すことなく前記ハブ2に取付ける。しかる後、自動二輪車を走行させて前輪ブレーキを使用する。このとき、ブレーキパッド12と前記めっき層13の外表面との摩擦により生じる摩擦熱でめっき層13の温度が高くなると、めっき層に較べてアルミニウム合金製のブレーキディスク本体11の方が熱膨張係数が大きく、ブレーキディスク本体11の方が伸びようとするが、めっき層はクラックの幅が拡がってブレーキディスク本体11の伸びを阻害せず、摩擦面が歪むことがない。すなわち、ブレーキ操作中にブレーキパッド12により局部的に大きな摩擦力が作用する結果となる曲がりや撓み等の歪みが生じることがなく、ブレーキパッド12を大きく摩耗させたり、ブレーキディスク本体11に部分的な偏摩耗を生じさせることがなく、さらに耐摩耗性を向上させるために設けためっき層がブレーキディスク本体11から剥がれることはない。
【0034】したがって、上述したように構成したブレーキディスク3は、ブレーキディスク本体11をアルミニウム合金によって形成して軽量化を図ることができるとともに、摩擦面にめっきによって形成した金属で耐摩耗性を向上させることができ、軽量化と耐摩耗性の向上の両方を実現することができる。
【0035】また、耐摩耗性を高めるための金属を温度変化のないめっきによって形成しており、この製造方法を実施するためのめっき装置は汎用の静止浴タイプのもの、あるいはめっき液を循環させる高速めっきタイプのものを使用することができるから、耐摩耗性が高い金属をブレーキディスク本体11に設けるため熱溶融を伴なう接合装置に較べ摩擦面の歪みを小さくできるので、歪取りや再研磨が必ず必要になることはない。
【0036】なお、クラック15内側のめっき層金属片に内接する直径dが大きなものでも約1.5mm程度の場合、仮にクラック15内側のめっき層金属片がそれと接合するブレーキディスク本体11の伸びを阻害するとしても、めっき層金属片の大きさは小さく、めっき層金属片の部位に生じる反り、曲がり等は小さく、ブレーキパッド12により局部的に大きな摩擦力が作用し、めっき層とブレーキディスク本体11との接合面に大きな剪断応力が作用することにはならず、このクラック15内側のめっき層金属片が剥がれることにはならない。また、めっき膜厚が大きくなるにしたがい、めっき時めっき面にクラック15が入っても内部応力が残留し易く、ブレーキ操作による摩擦熱によりこのクラック15内側のめっき層金属片がブレーキディスク本体11により拡げられようとし、めっき層金属片にさらに微細なクラックが発生する。
【0037】めっき層の膜厚が20μm程度以上あると、このめっき層金属片へのさらなる微細なクラックの発生が確実に起きるようになる。この微細なクラックによりブレーキ操作中、より確実にめっき層がブレーキディスク本体11の伸びを阻害することがなくなり、反り、曲がり等の歪みに起因するめっき層の剥がれを無くすことができる。
【0038】すなわち、この実施の形態によるブレーキディスク3の製造方法は、めっき工程で金属層にクラックを形成し、かつめっき層厚さを20μm程度以上とすることで、ブレーキディスク3を実際に使用することによってめっきによるクラックをさらに微細なクラックに移行させる方法を採っているので、めっきによって形成された金属層に専らクラックを形成するための装置や特別な処理も不要である。
【0039】これによりブレーキディスク3を安価に製造することができ、その分ディスクブレーキ装置1を安価にすることができる。また、ブレーキディスク3はブレーキパッド12より大きくなるのでコストが高くなり易く、ブレーキディスク3のめっき層13の硬度よりブレーキパッド12の硬度を下げることにより使用時間における交換限界(耐久時間)をブレーキディスク3よりブレーキパッド12の方を短くすることで、ディスクブレーキ装置1の保守経費を少なくすることができる。
【0040】第2の実施の形態めっき層13のクラック15は、めっき後にめっき層13を加熱することによって、制動時の摩擦熱を用いなくても微細な網目状に形成することができる。この実施の形態によるブレーキディスクの製造方法を図7および図8によって詳細に説明する。
【0041】図7は加熱によりクラックを形成するブレーキディスクの製造方法を説明するための工程図、図8はこの実施の形態による製造方法によって形成されたブレーキディスクの要部を拡大して示す断面図である。これらの図において、前記図1ないし図6によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明は省略する。
【0042】この実施の形態によるブレーキディスクの製造方法を実施するためには、先ず、図7中にステップS1〜ステップS6で示す工程を経てブレーキディスク本体11を所定形状に形成し、次いで、ステップS7でめっきを施す。ここでは、耐摩耗性が高いめっき層金属としてFe−Cr合金を採用する例を示す。このときの表面金属めっき処理条件は表6による。なお、このめっき層金属としては、Fe−Cr合金の他に、Fe,Cr,Niなども使用することができる。
【0043】この実施の形態を採る場合には、めっきは、めっき層13の厚みが10〜100μm程度の範囲内に入るように行う。めっき方法は第1の実施の形態を採るときと同様である。第1の実施の形態を採る場合にはめっき層13を厚みが20μmより厚くなるように形成しなければならないが、この実施の形態を採る場合には、第1の実施の形態を採るときよりめっき層13の厚みを薄くしても確実にさらなる微細な網目状のクラックが形成される。
【0044】めっき工程が終了した後、図7中にステップS8で示すように約500℃で5時間加熱する。この加熱は、ブレーキディスク本体11を加熱炉(図示せず)などに挿入して行う。この加熱工程でめっき層13が加熱されることによって、めっき層13に微細な網目状のクラック15が形成され、図8に示すように、ブレーキディスク本体11の摩擦面に微細なFe−Cr合金からなる金属片13aがクラック15によって互いに分離された状態で多数形成される。
【0045】この方法によれば、ブレーキディスク本体11の全体を加熱するため、全体が均一に熱膨張し、めっき時の内部応力によるクラックに加え、より微細かつ均一にクラックを発生させることができ、部分的に大きなめっき層金属片となることがない。めっき層金属片の内接円の大きさが大きくばらつくことはない。
【0046】より微細な網目状のクラック15を形成するためには、母材(アルミニウム合金)とめっき層の熱膨張率の差から加熱温度を約400℃以上に設定すればよい。この実施の形態で示したように加熱温度を500℃に設定すると、めっき層13を形成するFeまたはCrの原子がブレーキディスク本体11へ、ブレーキディスク本体11を形成するアルミニウム合金の原子がクラック15を有するめっき層13へ拡散し合い、これら両者の間に図8中に符号17で示す拡散層が形成される。拡散層17は、加熱温度が約500℃であれば処理時間5時間程度で形成することができる。
【0047】なお、拡散速度は処理温度に指数関数的に比例して増加するので、500℃より下げて400℃以下とすると、逆に拡散速度は低下し拡散層形成に非常な長時間を要する。一方、処理温度を600℃以上とするとアルミニウム合金製のブレーキディスク本体11が部分的に溶解するようになり、ブレーキディスク本体11が変形する不都合が生じてしまう。また、クラック15のうちめっき時のものは拡散層17に残留し、加熱による新たなクラックは主にめっき層に形成される。
【0048】上述したようにめっき後にめっき層13を400℃以上に加熱するによってめっき層13に微細な網目状のクラック15を形成しても、第1の実施の形態を採るときと同等の効果を奏する。
【0049】この実施の形態で示したように、めっき層13とブレーキディスク本体11との間に拡散層17が形成されるように加熱を行うことにより、めっき層13の密着強度を増大させることができる。これにより、ブレーキディスク3の耐久時間を長くし、ディスクブレーキ装置1の保守経費を少なくすることができる。
【0050】第3の実施の形態めっき層13のクラック15は、めっき層13を形成する金属に浸硫窒化処理を施すことによっても微細な網目状に形成することができる。この実施の形態によるブレーキディスクの製造方法を図9によって詳細に説明する。
【0051】図9は浸硫窒化処理によってクラックを形成するブレーキディスクの製造方法を説明するための工程図である。同図において、前記図1ないし図8によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明は省略する。
【0052】この実施の形態によるブレーキディスクの製造方法を実施するためには、先ず、図9中にステップS1〜ステップS7で示す工程を経てブレーキディスク本体11を所定形状に形成し、次いで、ステップS8でめっきを施す。ここでは、耐摩耗性が高い金属としてFe−Cr合金を採用する例を示す。なお、この金属としては、Fe−Cr合金の他に、Fe,Cr,Niなども使用することができる。めっきは、めっき層13の厚みが10〜100μm程度の範囲内に入るように行う。めっき方法は第1の実施の形態を採るときと同様である。第1の実施の形態を採る場合にはめっき層13を厚みが20μmより厚くなるように形成しなければならないが、この実施の形態を採る場合には、第1の実施の形態を採るときよりめっき層13の厚みを薄くしてもよい。
【0053】めっき工程が終了した後、ステップS10で示すようにガス浸硫窒化処理を実施する。このガス浸硫窒化処理は、表7に示すガス浸硫窒化処理条件で行う。すなわち、N2,H2S,NH3 混合ガスの雰囲気の炉中でめっき後のブレーキディスク本体11を加熱することによって行う。加熱温度は500℃±50℃、加熱時間は約5時間である。
【0054】このようにガス浸硫窒化処理を実施することによって、めっき層13の金属の硬度を増大させることができるとともに、ガス浸硫窒化処理時にめっき層13が加熱されることによって、めっき層13に微細な網目状のクラック15が形成される。すなわち、第2の実施の形態を採る場合に較べて硬度が高い微細なFe−Cr合金製金属片13aがクラック15によって互いに分離された状態でブレーキディスク本体11に多数形成される。
【0055】上述したようにめっき後にガス浸硫窒化処理を実施し、めっき層13に微細な網目状のクラック15を形成しても、第1の実施の形態を採るときと同様に耐摩耗性が高いとともにめっき層が剥がれ難いという効果を奏する。
【0056】また、ガス浸硫窒化処理を実施するときの温度が第2の実施の形態を採る場合と同様に高温であるため、めっき層13を形成するFeまたはCrの原子とブレーキディスク本体11を形成するアルミニウム合金の原子とが互いに拡散し合い、これら両者の間に拡散層17(図8参照)が形成される。このため、めっき層13の密着強度を増大させることができる。
【0057】さらにまた、めっき層13の硬度を上げることができるので、摩耗しにくく耐久時間を延ばすことができ、ディスクブレーキ装置の保守はブレーキディスクより安価なブレーキパッド12を交換するのみで可能となる。
【0058】第4の実施の形態めっき層13のクラック15は、めっき層13にバニッシングのような機械的な加工を施すことによっても微細な網目状に形成することができる。この実施の形態によるブレーキディスクの製造方法を図10によって詳細に説明する。
【0059】図10はバニッシングによってクラックを形成するブレーキディスクの製造方法を説明するための工程図である。同図において、前記図1ないし図9によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明は省略する。
【0060】この実施の形態によるブレーキディスクの製造方法を実施するためには、先ず、図10中にステップS1〜ステップS6で示す工程を経てブレーキディスク本体11を所定形状に形成し、次いで、ステップS7でめっきを施す。ここでは、耐摩耗性が高い金属としてFe−Cr合金を採用する例を示す。なお、この金属としては、Fe−Cr合金の他に、Fe,Ni,Crなども使用することができる。
【0061】めっきは、めっき層13の厚みが10〜100μm程度の範囲内に入るように行う。めっき方法は第1の実施の形態を採るときと同様である。第1の実施の形態を採る場合にはめっき層13を厚みが20μmより厚くなるように形成しなければならないが、この実施の形態を採る場合には、第1の実施の形態を採るときよりめっき層13の厚みを薄くしてもよい。
【0062】めっき工程が終了した後、ステップS11で示すようにバニッシングを実施する。このバニッシングは、めっき層13にローラ(図示せず)を押付けて転動させることによって行う。
【0063】このようにバニッシングを実施することによって、めっき層13に微細な網目状のクラック15が形成される。
【0064】バニッシングが終了した後、Fe−Cr合金からなるめっき層13の硬度を増大させるために、図10中にステップS10で示すようにめっき層13にガス浸硫窒化処理を施す。ガス浸硫窒化処理を施すことによって、めっき層13の硬度が増大するばかりか、前記第3の実施の形態を採るときと同様にクラック15の微細化を図ることができるとともに、めっき層13とブレーキディスク本体11との間に拡散層17(図8参照)が形成されてめっき層13の密着強度が増大する。ガス浸硫窒化処理の処理条件は第3の実施の形態を採るときと同様である。
【0065】なお、バニッシング後は、ガス浸硫窒化処理の代わりに第2の実施の形態を採るときと同様に加熱処理を実施することもできる。加熱温度を400℃以上に設定することによってクラック15の更なる微細化を図ることができる。加熱温度が約500℃であれば、めっき層13とブレーキディスク本体11との間に拡散層17が約5時間程度で効率的に形成されてめっき層13の密着強度を増大させることができる。
【0066】上述したようにバニッシングによってめっき層13に微細な網目状のクラック15を形成しても、第1の実施の形態を採るときと同等の効果を奏する。
【0067】第5の実施の形態めっき層13とブレーキディスク本体11との間には、別の金属めっき層を形成することができる。この実施の形態によるブレーキディスクおよびその製造方法を図11および図12によって詳細に説明する。
【0068】図11はめっき層とブレーキディスク本体との間に中間めっき層を形成した他の実施の形態を示す断面図、図12はめっき工程を説明するための工程図である。これらの図において、前記図1ないし図10によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明は省略する。
【0069】図11において、符号18で示すものは中間めっき層である。この中間めっき層18は、この実施の形態ではブレーキディスク本体11にめっきによって形成している。中間めっき層18を形成する金属材料は、耐腐食性が高い金属、例えばNiである。この中間めっき層18とブレーキディスク本体11との間と、中間めっき層18と外側のめっき層13との間には拡散層17が形成されている。
【0070】このブレーキディスク3を製造するためには、第1の実施の形態を採るときと同様にブレーキディスク本体11を所定の形状に形成し、図12中にステップP1〜ステップP7で示すめっき前処理とその後の水洗を実施した後に、ステップP9で示すようにNiめっきを実施する。
【0071】このNiめっきは、ブレーキディスク本体11の外表面にめっき層13を形成するために用いるめっき装置を使用して実施する。めっき条件は、ブレーキディスク本体11の外表面にめっき層13を形成するときと同様である。
【0072】Niめっき工程が終了した後、水洗を行い、Niめっき層(中間めっき層18)とブレーキディスク本体11との間に前記拡散層17を形成するために加熱処理を実施する(ステップP10)。このときの加熱温度も500℃以上に設定する。拡散層17が形成されることによってNiめっき層の密着強度が増大する。
【0073】中間層としてのめっき膜厚は0.1〜5μm程度あれば耐食性上十分で厚くする必要はない。薄くすることで、めっき時の内部応力によるクラック発生もなくまたブレーキング時の発熱による熱膨張に追従することが可能となり、このNiめっき層にクラックが発生してしまうのを阻止することができる。また、Niは熱膨張係数がアルミニウム合金に近いため、発生する熱応力も小さく、クラックはより生じ難い。
【0074】加熱後、ステップP8で示すようにめっきを実施し、前記Niめっき層の外面に耐摩耗性が高い金属からなる例えば例えばFe,Fe−CrあるいはCr等のめっき層13を形成する。めっき条件は第1の実施の形態を採るときと同様である。
【0075】このめっき工程が終了した後、前記第2〜第4の実施の形態を採るときと同様の手順で前記めっき層13に微細な網目状のクラック15を形成するとともに、このめっき層13と前記Niめっき層13との間に拡散層17を形成する。
【0076】この実施の形態で示したように中間めっき層18を内部に形成することにより、外表面のめっき層13のクラック15から浸入した水がアルミニウム合金製のブレーキディスク本体11に接触するのを耐腐食性が高い金属(Ni)からなる中間めっき層18によって阻止することができる。
【0077】このため、この実施の形態によるブレーキディスク3は、雨水などがかかってもブレーキディスク本体11が腐食されることはなく、腐食が原因で外表面のめっき層13が剥離するのを阻止することができる。しかも、外表面のめっき層13と中間めっき層18の両方をめっきによって形成しているから、2種類の金属層を一つのめっき装置によって形成することができ、製造コストを低く抑えることができる。
【0078】中間めっき層18を形成するNiは、アルミニウム合金より熱膨張率が高いものの、鋳鉄などの鉄系金属に較べて熱膨張率がアルミニウム合金に近いため、アルミニウム合金製ブレーキディスク本体11が熱膨張するときに発生する熱応力は相対的に小さい。このため、中間金属層18を形成したことが原因でブレーキディスク3に曲がりや撓みが生じたり、外表面のめっき層13がブレーキディスク本体11から剥離してしまうことはない。
【0079】なお、ブレーキディスク3の摩擦面のめっき層13に微細な網目状のクラック15を形成する方法は、上述した各実施の形態で示した方法に限定されることはなく、適宜変更することができる。また、本発明に係るディスクブレーキ装置1は、自動二輪車の他に、自動車や自動三輪車、雪上車などの他の車両にも適用することができる。
【0080】
【実施例】ブレーキディスク本体11を形成するアルミニウム合金としては、例えば、下記の表1中に合金1〜合金3として示したものを使用することができる。
【0081】
【表1】

【0082】表1に示す合金1を使用することによりブレーキディスク3の強度が高くなり、合金2,3を使用することによって耐熱性が高くなる。すなわち、一般的なアルミニウム合金では、制動時の温度上昇により強度低下し容易に変形が生じる。このため、Fe,Zrを添加し、強度、耐熱性を向上させた。ディスク材の製造は、スプレーフォーミングによるビュレット作製による。これは、金属組成中の結晶粒径を微細化(1μm以下)とし、強度向上を図っている。これら合金は、鋳造による成形はできない。溶かすと粗大なAl−Feの金属間化合物が晶出するため脆くなってしなう。そこで、鍛造により成形を行う。
【0083】ブレーキパッド12の材料としては、下記の表2〜表4に示したものを使用することができる。表2および表3は合成樹脂材製パッドの材料例を示し、表4は焼結材製パッドの材料例を示す。
【0084】
【表2】

【0085】
【表3】

【0086】
【表4】

【0087】表2および表3中、補強部材や研磨粒子としてめっき層金属より硬い成分を含むものもあるが、母材を含めた全体硬度はめっき層より低くすることで、めっき層と同等の交換限度とするかめっき層より早く交換限度に達するようにする。表4中に示した材料で形成した焼結材製パッドは、硬度がHV相当で50以下になる。なお、表4中にその他として示した材料は、組成比が10%以下になるものである。
【0088】各実施の形態を採るときに実施するめっき前処理は、下記の表5に示した条件で実施した。
【0089】
【表5】

【0090】ブレーキディスクの外表面にFeめっきまたはFe−Cr合金めっきを施す場合のめっき条件を下記の表6に示す。
【0091】
【表6】

【0092】表6中に示す各項目には、Feめっき、Fe−Crめっきとも膜厚が20μmになり、Feめっきの硬度がHVで300〜400、Fe−Crめっきの硬度がHVで600〜700になるようにめっきを実施する場合の値を記載している。
【0093】めっき層13に形成される微細な網目状のクラック15は、幅が1〜10μmになり、クラック密度が10〜30mm/mm2 である。このとき、クラック15による網目形状の内接円の直径dはほとんどのものが1.5mm以下となる。クラック密度とは、めっき表面1mm2 当たりのクラック15の長さ(mm)を合計したもののことである。クラック密度とは、めっき表面1mm2 当たりのクラック15の長さ(mm)のことである。拡散層17は、厚みが1〜50μm程度である。中間金属層18は、材料金属がNiの場合には厚みが0.1〜5μm程度である。
【0094】ガス浸硫窒化処理は、下記の表7に示す条件で実施した。
【0095】
【表7】

【0096】表7で示す条件によってガス浸硫窒化処理を実施すると、Feめっきの場合には硬度がHVで750程度(700〜800)になり、Fe−Cr合金めっきの場合には硬度がHVで1250程度(1100〜1350)になる。
【0097】なお、上述した各実施の形態では、ハブ2へのブレーキパッド12による摩擦熱を逃がすことができる効果を狙って熱伝導性のよいアルミニウム合金製ブレーキディスク本体11の内周部をハブ2に直接固定する例を示したが、ブレーキディスク本体11の表面積が大きいなどブレーキパッド12が当接する部位以外の放熱性が充分である場合には、ブレーキディスク本体11としては、内周部に円環状の鉄系合金製取付板を取付け、この取付板を介してハブ2に取付ける構造を採ることができる。また、ブレーキディスク本体11は、外周部に円環状の鉄系合金製取付板を取付け、この取付板を介してハブ2に取付けることもできる。この構造を採る場合には、ブレーキディスク本体11の内周側にブレーキパッドを摺接させる。
【0098】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、ブレーキディスク本体の摩擦面に、クラックによって互いに分離された微細な金属片が多数形成される。この金属片は、ブレーキディスク本体が熱膨張してもこれに追従することができる。このため、アルミニウム合金製ブレーキディスク本体に耐摩耗性が高い金属を設ける構造を採りながら、制動熱が原因でブレーキディスクに曲がりや撓みが発生したり、めっき層がブレーキディスク本体から剥離するのを阻止することができる。
【0099】さらに、アルミニウム合金製ブレーキディスク本体に耐摩耗性が高い金属からなる金属層をめっきによって形成しているから、耐摩耗性が高い金属をブレーキディスク本体に設けるための特別な接合装置が不要になる。
【0100】したがって、ブレーキディスクが軽量で、しかも耐久性が高いディスクブレーキ装置を低いコストで提供することができる。
【0101】請求項2記載の発明によれば、制動時にブレーキパッドが前記めっき層に摺接すると、相対的に硬度が低いブレーキパッドが摩耗するから、ブレーキディスクが摩耗することを阻止することができ、ブレーキパッドを交換することにより安価にディスクブレーキ装置の保守が可能になる。
【0102】請求項3または請求項4記載の発明によれば、既存のブレーキパッドを使用することができるから、製造コストがより一層低いディスクブレーキ装置を提供することができる。
【出願人】 【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
【出願日】 平成10年12月3日(1998.12.3)
【代理人】 【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
【公開番号】 特開2000−170804(P2000−170804A)
【公開日】 平成12年6月23日(2000.6.23)
【出願番号】 特願平10−344745