トップ :: C 化学 冶金 :: C23 金属質材料への被覆;金属質材料による材料への被覆;化学的表面処理;金属質材料の拡散処理;真空蒸着,スパツタリング,イオン注入法,または化学蒸着による被覆一般;金属質材料の防食または鉱皮の抑制一般

【発明の名称】 溶射材料およびそれを溶射して形成した皮膜を有する部材
【発明者】 【氏名】佐藤 隆夫
【氏名】垂水 清弘
【氏名】道方 優成
【氏名】堀江 能久
【氏名】安岡 淳一
【課題】溶射材料とそれを溶射して形成した皮膜を有する部材の提供。

【解決手段】a.3価の金属元素Al,Ti,V,Cr,Fe,Co,Rh,In,希土類(Sc,Yおよびランタノイド)の1種以上と、b.aと異なる希土類(Sc,Yおよびランタノイド)の1種以上とからなる、1種以上の複酸化物含有量が5体積%以上であり、残部Ia属を除く金属酸化物またはSiの酸化物の1種以上からなる溶射材料で、溶射皮膜を形成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 a.3価の金属元素Al,Ti,V,Cr,Fe,Co,Rh,In,希土類(Sc,Yおよびランタノイド)の1種以上と、b.aと異なる希土類(Sc,Yおよびランタノイド)の1種以上とからなる複酸化物を含有することを特徴とする溶射材料。
【請求項2】 2種以上の複酸化物を含有する請求項1記載の溶射材料。
【請求項3】 複酸化物含有量が5体積%以上であり、残部Ia属を除く金属酸化物またはSiの酸化物の1種以上からなる請求項1または2記載の溶射材料。
【請求項4】 請求項1、2または3の溶射材料を溶射して形成した皮膜を有することを特徴とする部材。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、溶融金属耐食性、溶融塩耐食性、耐酸化性、耐熱衝撃性、耐ビルドアップ性、耐薬品性、耐海水性等を要求される製鉄、造船、製紙、自動車製造、家庭電化製品製造、事務用機器製造、建築等の各業界で、製造または使用される製品、機器、部品等に溶射して、特定の機能を付与するための溶射材料と、それらの機能を有する溶射皮膜を形成された部材に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、前記各業界の構成部材には一部にセラミックスを溶射して使用されているが、全面的に溶射して使用されているとはいえなかった。これは、目的とする耐食性、耐高温酸化性、金属との耐ビルドアップ性等においてセラミックスは優れているとはいえ、サーメットより格段に優れているともいえず、また、皮膜の強度、緻密性、密着性、耐熱衝撃性に問題があり、実機に適用しにくいためである。従来の代表的なセラミックス溶射材料としてはAl23、Cr23、MgAl24、Al23+TiO2等が使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記従来の材料では、十分な機能を発揮しないか、もしくは好ましい機能を有してはいるが欠点も合わせ持っている等、満足できるものはなかった。例えばもっとも一般的なセラミックスとして知られているAl23、Cr23は、次のような問題点がある。
Al23:この物質自身は、耐酸化性、耐薬品性とも良好であるが、形成された溶射皮膜に亀裂が多く、この亀裂に沿ってガス、溶液等が浸透して機材を侵食するため、溶射皮膜の剥離が生ずる。結果的には、耐酸化性、耐薬品性がないことになる。
Cr23:Al23と同様であるが、特にAlを含む溶融亜鉛浴等では、Alの濃度が高くなるとCr23がAlによって還元されるため、皮膜自体が侵される。
さらにこれらにほぼ共通した欠点として溶射効率の低さがある。これらの欠点を解消するために特願平9−122904号発明では、希土類を含む種々の酸化物を組み合わせることを提案している。その他、特開平4−350154号公報において、SiO2を他の酸化物に加えて耐熱衝撃性を改善することが提案されている。しかしながら、これら提案は単純に種々の酸化物を組み合わせただけのものであるため、ある酸化物の利点を有すると同時に別の酸化物の欠点も有しているため、一応の効果はあるものの満足できるものではなかった。本発明は、前記従来技術における問題点を解決し、すべての特性を満足する溶射皮膜が形成できる溶射材料と、この溶射材料で形成した溶射皮膜を有する部材を提供することを目的としている。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、希土類の複酸化物あるいは希土類を含む複酸化物を主成分とする溶射皮膜が要求される特性のすべてに優れていることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0005】前記の知見に基づいてなされた本発明は、a.3価の金属元素Al,Ti,V,Cr,Fe,Co,Rh,In,希土類(Sc,Yおよびランタノイド)の1種以上と、b.aと異なる希土類(Sc,Yおよびランタノイド)の1種以上とからなる、1種以上の複酸化物を含有することを特徴とする溶射材料を要旨としている。
【0006】また、前記複酸化物含有量が5体積%以上であり、残部Ia属を除く金属酸化物またはSiの酸化物の1種以上からなる溶射材料も本発明の要旨とするものである。さらに、前記溶射材料を溶射して形成した溶射皮膜を有する部材も本発明の要旨である。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明の構成と作用を説明する。本発明の溶射材料構成成分の複酸化物は、複数の目的構成金属からなる一相酸化物であり、各構成金属元素単体の酸化物のどれとも異なった相である。多くの場合、本発明に用いる複酸化物は、各構成金属単体の酸化物と異なる結晶構造(イルメナイト型構造、ペロブスカイト型構造、ガーネット型構造等の結晶構造)をとるが未知のものも多く(特に多元系の場合)、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards:International Center for Diffraction Data発行)に収録されていないものも多い。
【0008】本発明溶射材料は、前記定義の複酸化物を含有しているものである。これらの点において、前述した特願平9−122904号発明の単純な酸化物の組合せとは概念を異にするものである。
【0009】本発明溶射材料構成成分の複酸化物製造原料は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩等が使用できる。その製造方法は、a.所定の原料を混合し、アーク炉等で溶融後、粉砕、分級する方法b.原料を混合後、成形、焼結、粉砕、分級する方法c.原料を混合したのち、混合物を造粒、焼結、解砕、分級する方法d.ゾル−ゲル法により複酸化物の微粒子を合成後、造粒、焼結、解砕、分級する方法e.a.〜d.等の方法で得られた複酸化物の1種または2種以上を造粒する方法(さらに必要に応じ、焼結、解砕、分級操作を行なうことも出来る。)等が採用される。しかし、本発明の材料がこれらの製造方法によって限定されるものではない。
【0010】複酸化物の解砕、分級後の粒度は、用途、使用する溶射機により決定されるが、概ね500〜5μmである。
【0011】さらに、本発明では前記の複酸化物のみでも溶射材料として使用できるが、用途によっては基材との熱膨張の整合や経済性等により、これ等を少なくとも5体積%以上含み、残部Ia属を除く金属酸化物またはSiの酸化物の1種以上からなる溶射材料を溶射した場合のほうが好適な場合もある。複酸化物が5体積%未満の含有では、その効果は期待できない。これ等各酸化物は混合しても良いが、一方の酸化物中に他方の酸化物が析出した複合物がより好適である。
【0012】また用途によっては、溶射皮膜内残留応力緩和のため、Ni−Cr、Co−Cr、Co−Cr−Mo、MCr−Al−Y等の熱間耐食合金、あるいはWC−Co、WB−WC−Co等の、溶融金属にある程度耐食性のあるサーメット材料のボンドコートを用いてもよく、これ等が本発明を制限するものではない。
【0013】溶射皮膜厚さは、用途に応じ5〜1000μmの範囲で施されれば良いが、残留応力効果の発現から10〜500μmが好適である。さらに、重クロム酸(H2CrO4および/またはH2Cr27)、無機コロイド化合物または金属アルコキシド等のいずれかを主成分とする溶液を、溶射皮膜に含浸・焼成することによる封孔処理を施してもよく、これ等の適用も本発明を制限するものではない。
【0014】
【発明の効果】本発明の複酸化物含有溶射材料は、従来のセラミックス溶射材料に比べて次のような特徴を備えている。
a.従来のセラミックスは、溶射中(加熱、溶融、飛翔、付着の各過程を含む)において、溶射材料の構造、組成等に変化をきたす場合が多い。例えば、α−Al23 → β−Al23TiO2(ルチル) → TiO(1-X)等である。このような現象が生じると、材料が本来持っている特性は期待できなくなる。しかし、本発明で用いる複酸化物は結晶構造が安定しており、溶射施工前後において、構造、組成の変化はみられない。
【0015】b.プラズマのエンタルピーを上げるために作動ガスに水素を混合することがよく行なわれるが、このような還元雰囲気においても、本発明溶射材料により形成された溶射皮膜は最終的に還元されず、溶射材料と同じ構造、組成を保持する。これは、希土類元素の酸素親和力が非常に大きいため、たとえ高温で水素により還元されたとしても、皮膜として堆積するまでに環境の酸素と結合し、元の複酸化物に戻るためと考えられる。例えばCr23は作動ガスが水素の場合、皮膜中に金属Crが析出するが、YCrO3の場合は、金属Crは見つからない。
【0016】c.溶射効率が非常に高い。一般的に従来のセラミックス溶射材料の溶射効率は20〜40%程度であるが、本発明溶射材料の溶射効率は50%以上であり、中には80%近いものもある。
【0017】上記の特徴により、次のような優れた特性が示される。
溶融金属耐食性が良好溶融金属に濡れにくくかつ反応も生じ難い。これは溶射皮膜に含まれる希土類との複合酸化物が、Al等を含有する活性溶融金属と接しても還元されない性質に起因していると推定される。
【0018】溶融塩耐食性機構は解明されていないが、各種の溶融塩に侵され難く、長期間浸漬して使用できる。
耐酸化性が良好すでに酸素と強固に結合しているため、酸素と反応しない。耐ビルドアップ性が良好金属と反応し難いため、熱処理炉内ロール等における金属のビルドアップを生じにくい。
【0019】耐熱衝撃性が良好溶射皮膜の熱伝導率が高いためと推測されるが、500℃からの水冷で剥離しない。
耐薬品性が良好鉄、非鉄産業では、線、板等の酸船上やアルカリ洗浄等が行なわれるが、本発明に係る溶射皮膜は構成元素単独の酸化物に比べ、腐食または溶解されにくい。また製紙業でもこれ等薬品にロールが曝されるが、同様であり、しかも、必要とされる紙離れも良い。
【0020】耐海水性が良好海水中もしくはその飛沫帯で使用される機器は海水による腐食が進行する。例えばこの環境で使用される油圧シリンダーのロッドに本発明の溶射皮膜を適用すれば腐食を防ぐことが出来る。さらにこの部材に要求される摺動特性も良好である。
【0021】
【実施例】本発明を実施例により具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。本発明溶射材料の成分である複酸化物の製造例および比較例の溶射材料を説明する。
製造例1(J−1)
Al2310モルとLa2310モルをボールミルで混合し、これを10mmφ×5mmhのタブレットに成形し、公知の酸化雰囲気炉で1600℃×4h焼成し、これを公知の機器で粉砕・分級して−45+10μm(45μm以下10μm以上)の粉末を得た。この粉末をX線回折により分析したところ、LaAlO3以外のピークは見つからなかった。
【0022】製造例2(J−2)
Cr2310モルとY2310モルとから、製造例1と同様な方法で粉末を得た。この粉末をX線回折により分析したところ、CrYO3以外のピークは見つからなかった。
【0023】製造例3(J−3)
Cr2320モルとY2310モルとから、製造例1と同様な方法で粉末を得た。この粉末をX線回折により分析したところ、CrYO3とCr23以外のピークは見つからなかった。この粉末をプラズマ溶射した溶射皮膜断面の反射電子組成像の画像解析より、CrYO3の面積率を測定してその体積率を求めたところ、CrYO3は13体積%であった。
【0024】製造例4(J−4)
製造例2で製造した粉末15体積%と、市販のCr23溶射材料85体積%とを混合した粉末を、プラズマ溶射した溶射皮膜断面の反射電子組成像の画像解析よりCrYO3の面積率を測定してその体積率を求めたところ、CrYO3は14体積%であった。
【0025】製造例5(J−5)
Ce2(CO33・2H2O10モルとAl2310モルとをボールミルで混合し、これを10mmφ×5mmhのタブレットに成形し、CO2とH2Oを除去するために公知の酸化雰囲気炉で1200℃×2h仮焼した後、公知の酸化雰囲気炉で1600℃×4h焼成し、これを公知の機器で粉砕・分級して−45+10μmの粉末を得た。この粉末をX線回折により分析したところ、CeAlO3以外のピークは見つからなかった。
【0026】製造例6(J−6)
製造例2で製造した粉末50体積%と、製造例5で製造した粉末50体積%とを、ボールミルで混合・微粉砕して平均粒径1μmの微粉末を得た。この微粉末をスプレードライヤーで造粒後、焼結、解砕、分級して−45+10μmの粉末を得た。
【0027】製造例7(J−7)
製造例5で製造した複酸化物の溶射材料と、市販の8重量%Y23を固溶した部分安定化ZrO2(以下8YSZと記述する)溶射材料(−45+10μm粒度の粉末)を体積比3:7で混合した。
【0028】製造例8(J−8)
製造例5で製造した複酸化物の溶射材料と、市販のAl23−40wt%TiO2溶射材料(−45+10μm粒度の粉末)を体積比3:1で混合した。
【0029】ボンドコート例1(B−1)
ボンドコートとしてWC−30%WB−12%Coを高速ガス溶射した。
ボンドコート例2(B−2)
ボンドコートとして市販のCoNiCrAlY(Ni:32%、Cr:21%、Al:8%、Y:0.5%、Coバランス)を、高速ガス溶射した。
【0030】封孔処理例1(F−1)
主成分が6%重クロム酸水溶液を溶射皮膜に含浸後、450℃×1h加熱処理して封孔する。
封孔処理例2(F−2)
主成分がアルコキシシラン系SiO2の10%アルコール溶液を溶射皮膜に含浸後180℃×1h加熱処理して封孔する。
【0031】比較例1(H−1)
市販のWC−12wt%Coの溶射材料。
比較例2(H−2)
市販の8重量%Y23を含む部分安定化ZrO2の溶射材料。
比較例3(H−3)
Cr2322モルとY230.4モルとから、製造例1と同様な方法で粉末を得た。この粉末をX線回折により分析したところ、CrYO3とCr23以外のピークは見つからなかった。この粉末をプラズマ溶射した溶射皮膜断面の反射電子組成像の画像解析よりCrYO3の面積率を測定してその体積率を求めたところ、CrYO3は4体積%であった。
【0032】比較例4(H−4)
市販のCr23溶射材料。
比較例5(H−5)
市販のAl23溶射材料比較例6(H−6)
市販のAl23−10wt%TiO2溶射材料【0033】製造例、比較例およびボンドコート例についての溶射条件基材に#70アルミナグリッドでブラスト処理(空気圧4kg/cm2)した後、トップコートはプラズマ溶射で、ボンドコートは高速ガス溶射で、それぞれの溶射を実施した。
プラズマ溶射(スルーザメテコ社製10M溶射機による)
使用ガス Ar−H2 ガス流量 Ar 2.7m3/h2 0.5m3/h 出力 30kW(500A×60V)
溶射範囲 75〜125mm パウダー量 20〜50g/min【0034】
高速ガス溶射(スルーザメテコ社製ダイヤモンド溶射機による)
燃焼ガス 酸素圧力 10.3バール プロピレン圧力 6.9バール エアー圧力 5.2バール 溶射距離 150〜200mm 溶射パウダー送給量 38g/分【0035】実施例1試験片の作成基材(材質:SUS316L、寸法:30mm×300mm×5mmt)に、本発明製造例および比較例の溶射皮膜を形成し、溶融金属に対する濡れ性、反応性を調査するための試験片を作成した。この場合、トップコート、ボンドコート共、膜厚は50μmとした。
【0036】各製造例および比較例の溶射材料を前記試験片に溶射して形成した溶射皮膜の溶融金属に対する濡れ性、反応性を調査した結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】表1において、No.1〜No.10は本発明例、No.11〜No.16は比較例である。460℃溶融亜鉛浴中に、10日、30日、60日浸漬後取り出して濡れ性、反応性を比較したところ、本発明溶射皮膜は60日浸漬後においても、すべてが同じ条件の従来技術による比較例に比べて良好な状態であった。比較例では、先行発明に相当するNo.13およびNo.14が良い結果を示した。
【0039】この結果から、本発明複酸化物溶射材料により形成された溶射皮膜は、溶融金属に対する耐食性・耐剥離性に優れたものであることが明らかである。前記実施例は、溶融亜鉛めっき浴に適用した結果であるが、溶融アルミニウムめっき浴や溶融亜鉛−50%アルミニウムめっき浴に適用しても同様な結果が得られており、本発明の効果が確認されている。
【0040】実施例2薄鋼板の連続焼鈍用熱処理炉内ロールとしての特性調査耐ビルドアップ性調査用試験片として、SUS304基材(50mm×30mm×5mmt)に、実施例1と同様の溶射法および各製造例、比較例の溶射材料を使用して溶射皮膜を形成し、トップコート層50μm、ボンドコート層60μmとした。これ等の試験片を、図1に示す装置によって耐ビルドアップ性の評価を行なった。
【0041】試験は以下に示す条件で、図1に示すように2枚の溶射試験片1の間(B面とC面の間)と、上側試験片の上面(A面)に、ビルドアップ原料2を散布し、半月形ロール3で荷重をかけながら往復運動を行ない、A、B、C各面のビルドアップ状況を評価した。試験結果を表2に示す。
ビルドアップ試験条件温度 850℃雰囲気 N2−5%H2荷重 8.5kgビルドアップ原料 Fe34粉試験時間 4時間【0042】評価は、以下に示す基準で得られる得点のA、B、C各面の合計点数(9点満点)で行なった。
ビルドアップ評点(MN値)
得点 ビルドアップ状況 3 横にするとビルドアップ原料が落ちる。
2 ガーゼで擦るとビルドアップ原料が落ちる。
1 ピンセットで擦るとビルドアップ原料が落ちる。
0 以上の方法でビルドアップ原料が落ちない。
【0043】
【表2】

【0044】表2においてNo.1〜No.8は本発明例、No.9〜No.12は比較例である。熱処理炉中のロールへの鉄分ピックアップ特性を調べるシュミレーションテストの結果、本発明に係る溶射皮膜は、いずれもMN値が7以上となり、比較例に比べて耐ピックアップ性が格段に良いことがわかった。
【0045】実施例3希硫酸等の酸性水溶液に対する耐食性についての調査実施例2と同じ寸法の試験片[SUS304基材(50mm×30mm×5mmt)]に、実施例1と同様の溶射法および各製造例、比較例の溶射材料を使用して溶射皮膜を形成し、トップコート層30μm、ボンドコート層60μmとした。これ等の試験片を10%硫酸溶液に浸漬し、溶射皮膜が剥離するまでの日数によって比較した。その結果を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】試験片はいずれも封孔処理を行なっていない。封孔処理を行なうと、剥離までの日数は長くなるが、溶射皮膜の耐食性評価がしにくくなるため封孔処理なしで比較した。
【0048】表3においてNo.1〜No.5は本発明例、No.6〜No.9は比較例である。10%硫酸溶液に浸漬して、溶射皮膜が剥離するまでの回数は、本発明例によるものが比較例に比べて非常に長くなっていて、耐食性の良いことがわかる。腐食性液を用いる工程に使用するロールへの溶射材料として最適である。
【0049】実施例4鋼製の油圧または空気圧シリンダー用ピストンロッド、ジャッキラム、軸および弁等の可動部品用溶射皮膜特性の調査船舶、水門、建設機械あるいは可動橋などを作動させる、鋼製の油圧または空気圧シリンダー用ピストンロッド、ジャッキラム、軸および弁その他の可動部品は、非常に苛酷な使用環境に曝されて腐食、摩耗を受けやすくなる。そのためにこれ等可動部品の表面には、耐食、耐摩耗性に優れた特性をもつ加工が施されている。本発明溶射材料を使用した溶射皮膜を前記可動部品に適用した場合の耐食性、耐摩耗性、摺動性および耐剥離性の評価のため、次のようなシュミレーション評価試験を行なった。
【0050】噴霧腐食試験SS400の試験基材(50mm×100mm×10mm)に実施例1と同様の溶射法および各製造例、比較例の溶射材料を使用して溶射皮膜を形成し、トップコート層300μm、ボンドコート層50μmとした。噴霧腐食試験は、JIS D 0201(キャス試験)に従って、腐食液(塩化ナトリウム(試薬)を蒸留水またはイオン交換脱塩水で5±1重量%になるように溶解する。この塩溶液に酢酸(試薬)を0.1〜0.3%添加し、溶液が25℃においてpH:3.0〜3.1の範囲になるように調整する。)を使用し、試験温度50℃にて実施した。その結果を表4に示す。評価は、赤錆発生までの時間で行なった。
【0051】
【表4】

【0052】この結果本発明により形成された溶射皮膜は、1000時間経過後も赤錆の発生がなく良好であったが、比較例のものはいずれも赤錆の発生が認められた。
【0053】また、溶射皮膜の剥離性を試験するために、JIS G 4051 S45CH 90mmφ×1300mmのロッドに前記と同様の溶射皮膜を形成し、繰り返し曲げ試験を行なった。実用状態に近似させるため、ボンドコートは50μm厚さに、その上のトップコートは300μm厚さに溶射皮膜を形成した。
【0054】試験は、60t疲労試験機を使用し、次の条件で行なった。
支点間距離 :1000mm撓み量 :2mm温度 :常温サイクル :1Hz曲げ回数 :10,000回判定基準 :皮膜に割れ・剥離がないこと本発明の溶射皮膜を形成した試験用ロッドは表4に示すように、10,000回の繰り返し曲げ変形を受けても溶射皮膜の剥離はなく、十分実用に耐えうることが確認出来て、比較したセラミックス溶射皮膜よりも良好もしくは同等であった。
【0055】本発明を、実際の油圧シリンダーのピストンロッドに適用し、パッキング材との摺動性について検討した。その結果、耐食性合金下地層に、溶射および封孔処理をした溶射皮膜の油圧シリンダーのピストンロッドは、従来使用されているクロムめっきと同等の摺動性が得られた。
【0056】実施例5樹脂フィルムおよび紙製造用設備に使用するロールとしての特性の調査上記設備に使用するロールの特性のうちで特に重視される搬送するフィルム、紙との離型性(紙についていえば紙離れのよさ)について調査した。実施例2と同一条件で試験片[SUS304基材(50mm×30mm×5mmt)]を作成し、溶射表面粗度をRmax≒3.0に調整して、下記の試験条件で図2に示す順序で試験を実施した。
試験条件試験対象 :新聞紙試験温度 :常温試験片引張速度 :206mm/min.
試験順序 :図2ビーカー26に、試験液27としてNo.1は水を、No.2は市販の事務用糊材を使用した10%のり液を使用して、これらに試験片21表面と同じ幅(30mm)の新聞紙22を浸漬し(図2a)、225g/cm2の荷重をかけたローラ23により、試験液27に浸漬した新聞紙22を試験片21表面に圧着する(図2b)。次に新聞紙22の上に吸取り紙25をのせ、平均382g/cm2の重り24を乗せて余剰水分を吸収する(図2c)。その後再度ローラ23により圧着し(図2d)、試験片21から上方へ新聞紙22を引っ張って剥がす。試験結果を表5に示す。参考のため、従来使用されているクロムめっきのテスト結果も示した。この結果、本発明に係る溶射材料と、それにより形成された溶射皮膜を有する部材は、紙離れ特性に優れていることが明らかである。
【0057】
【表5】

【0058】さらに溶融塩耐食性、耐酸化性、耐熱衝撃性等を調査したところ、いずれにおいても優れた効果が確認された。
【出願人】 【識別番号】390030823
【氏名又は名称】日鉄ハード株式会社
【識別番号】592222204
【氏名又は名称】パウレックス株式会社
【出願日】 平成10年9月10日(1998.9.10)
【代理人】 【識別番号】100095854
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 昇
【公開番号】 特開2000−87208(P2000−87208A)
【公開日】 平成12年3月28日(2000.3.28)
【出願番号】 特願平10−272487