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【発明の名称】 芳香族硫黄化合物の製造方法
【発明者】 【氏名】荒井 勇

【氏名】山口 努

【氏名】肥田 陽子

【要約】 【課題】簡単な操作で、置換基を有する芳香族チオール類および芳香族ジスルフィド類を、収率よく、かつ純度よく製造する方法を提供する。

【解決手段】(A)複数の置換基を有する芳香族ハロゲン化合物に、(B)特定範囲の炭化水素基を有する(1)ヒドロカルビルメルカプチドアルカリ金属塩;および/または(2)ヒドロカルビルメルカプタンとアルカリ金属化合物を、(C)非プロトン極性溶媒の存在下に反応させて、芳香族チオエーテル類とし、(D)プロトン酸の存在下に炭化水素基を脱離させて芳香族チオール類を製造する。また、そのようにして得られた芳香族チオール類を酸化して、芳香族ジスルフィド類を製造する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)一般式(I):Yn−Ar−Xm (I)
(式中、Arは、芳香族炭化水素残基を表し;Xは、Ar中の芳香環の炭素原子に結合しているハロゲン原子を表し;Yは、Ar中の芳香環の炭素原子に結合しているハロゲン原子、ニトロ基、ニトリル基、スルホン基、スルファモイル基およびヒドロカルビルスルホニル基からなる群より選ばれる1種または2種以上の置換基を表し;mは、1以上の整数であり;nは、0または1以上の整数である)で示される芳香族ハロゲン化合物に、(B)(1)一般式(II):【化1】

(式中、R1、R2およびR3は、それぞれアルキル基またはアリール基を表し、ただし、R1、R2およびR3のいずれか2個がアリール基の場合、残余は水素原子でもよく;Mは、アルカリ金属原子を表す)で示されるヒドロカルビルメルカプチドアルカリ金属塩;および/または(2)(a)一般式(III):【化2】

(式中、R1、R2およびR3は、前述のとおりである)で示されるヒドロカルビルメルカプタン、および(b)アルカリ金属、その水酸化物、炭酸塩、水素化物もしくはアルコキシドを、(C)非プロトン極性溶媒の存在下に反応させて、一般式(IV):【化3】

(式中、Y、Ar、R1、R2、R3、mおよびnは、前述のとおりである)で示される芳香族チオエーテル類を製造し;得られた該チオエーテル類を(D)プロトン酸と反応させることを特徴とする、一般式(V):Yn−Ar−(SH)m (V)
(式中、Y、Ar、nおよびmは、前述のとおりである)で示される芳香族チオール類を製造する方法。
【請求項2】 (A)の芳香族ハロゲン化合物が、一般式(Ia):【化4】

(式中、XおよびYは、前述のとおりであり;mは、1〜6の整数であり、nは、0または1〜5の整数であり、ただし、m+nは6以下である)で示され、一般式(Va):【化5】

(式中、Yは前述のとおりであり;mおよびnは、上記のとおりである)で示される芳香族チオール類を製造する、請求項1記載の方法。
【請求項3】 Xが、塩素原子である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】 Yが、塩素原子である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】 nが、2である、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】 mが、1である、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】 (B)として(2)、すなわち(a)一般式(III)で示されるヒドロカルビルメルカプタンと、(b)アルカリ金属、その水酸化物、炭酸塩、水素化物またはアルコキシドとの組合せを用いる、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】 請求項1〜7のいずれか1項記載の方法によって、一般式(V)で示され、mが1である芳香族チオール類を製造し、ついでこれを酸化して、一般式(VI):Yn−Ar−S−S−Ar−Yn (VI)
(式中、ArおよびYは、前述のとおりであり;nは、0または1以上の整数である)で示される芳香族ジスルフィド類を製造する方法。
【請求項9】 請求項2記載の方法によって一般式(Va)で示され、mが1である芳香族チオール類を製造し、ついでこれを酸化することにより、一般式(VIa):【化6】

(式中、Yは前述のとおりであり;nは0または1〜5の整数である)で示される芳香族ジスルフィド類を製造する、請求項8記載の方法。
【請求項10】 請求項1〜7のいずれか1項記載の方法において、(D)のプロトン酸として濃硫酸を用い、水を除去しながら一般式(V)で示される芳香族チオール類を製造するとともに酸化して、一般式(VI)で示される芳香族ジスルフィド類を製造する、請求項8または9記載の方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、芳香族ハロゲン化合物から芳香族チオール類を製造する方法に関し、また該芳香族チオール類を経て芳香族ジスルフィド類を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般式(Va):【化7】

(式中、Yは、たがいに同一でも異なっていてもよい、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、ニトリル基およびスルホン基を表し;mは、1〜6の整数であり、nは、0または1〜5の整数であり、ただし、m+nは6以下である)で示される芳香族チオール類、および一般式(VIa):【化8】

(式中、Yおよびnは、上記のとおりである)で示される芳香族ジスルフィド類は、医薬、農薬などの中間体として広く用いられる。また、芳香族ジチオール類は、電子材料などの中間体として用いられている。
【0003】このような置換基を有する芳香族モノチオール類、芳香族ジチオール類または芳香族ジスルフィド類の製造方法として、いくつかの方法が提案されている。
【0004】たとえば、工業化学雑誌70巻8号114〜118頁(1967)には、多塩化ベンゼンを、液体アンモニアに溶解した硫化水素ナトリウムと、オートクレーブ中で反応させて、その1個の塩素原子をメルカプト化するハロゲン化芳香族チオール類の製造方法が記載されている。この方法によると、4〜6個の塩素原子を有する多塩化ベンゼンからは高収率でハロゲン化芳香族チオール類が得られるが、トリクロロベンゼンからジクロロチオフェノールを得る収率はわずか17〜20%しかなく、かつ液体アンモニアを取扱う繁雑さや、オートクレーブ中の高圧反応であるための工業的な制約がある。
【0005】特公昭44−26100号公報には、アミノ基を有するハロゲン化芳香族化合物を亜硝酸ナトリウムと濃塩酸でジアゾニウム化し、ついでO−エチルジチオ炭酸カリウムと反応させた後、水酸化ナトリウムを加えて還流させる方法により、ハロゲン化芳香族チオール類を得る方法が開示されている。この方法は繁雑であるばかりか、ジアゾニウム塩を扱うので危険を伴い、好ましくない。
【0006】特開昭56−156257号公報には、1,3,5−トリクロロベンゼンまたは1−ブロモ−3,5−ジクロロベンゼンとアルカリ金属硫化物を、ジエチレングリコールのような溶媒の存在下に反応させる、3,5−ジクロロチオフェノールの製造方法が開示されている。この方法は、比較的簡単な操作で目的物が得られるが、収率が低く、副生成物が多いので、精製が困難である。
【0007】Zhur. Org. Khim. 11巻1132頁(1975)には、酸化トリウムの存在下に、ハロゲン化アリールに硫化水素を反応させて芳香族チオール類を得ているが、550℃以上の高温を必要とし、収率もよくない。
【0008】特開平2−48564号公報には、一方のベンゼン環にニトロ基を有するジアリールスルフィドに、求電子置換反応によって他方のベンゼン環にハロゲン原子、ニトロ基のような置換基を導入し、ついで水酸化ナトリウムのような塩基性物質の存在下に、チオフェノールとの間で交換反応を行うことにより、該置換基で核置換されたチオフェノール類を得る方法を開示している。しかしながら、この方法は繁雑であり、またチオフェノール類のベンゼン環に多数の置換基を導入するには適さない。
【0009】特開昭61−72749号公報には、o−ハロフェノールにN,N−ジアルキルカルバモイルハライドを反応させて、O−o−ハロフェニル−N,N−ジアルキルカルバメートを合成し、これを加熱により転位反応させてS−o−ハロフェニル−N,N−ジアルキルカルバメートとした後、加水分解してo−ハロチオフェノールを製造する方法を開示している。しかしながら、この方法は煩雑な多段反応であるうえ、不安定で取り扱いにくいカルバモイルハライドを用いる必要がある。また、転位反応を高温で行うために副反応を生じるので不利であり、特にハロゲン以外の置換基を導入する場合に著しく不利である。
【0010】特開平2−295968号公報には4−ハロベンゼンスルフィン酸、特開平3−181455号公報には4−ハロベンゼンスルホニルクロリド、特開平5−186418号公報にはハロベンゼンスルフェニルハライドを、それぞれ鉱酸の存在下に亜鉛末のような金属粉末を用いて還元して、対応するハロゲン化チオフェノールを製造する方法が開示されている。しかしながら、これらの反応は、いずれも鉱酸の存在下に還元を行うために、特殊な装置が必要である。特開平5−140086号公報には、モノハロベンゼンを塩化亜鉛のような触媒の存在下に一塩化硫黄と反応させ、その反応生成物を、亜鉛などの還元剤によって還元して、ハロチオフェノール類を得る方法が開示されている。この方法も、上記と同様に還元反応であるため、同様の問題がある。
【0011】特開平4−182463号公報には、多ハロゲン化ベンゼンに、硫化水素ナトリウム、硫化ナトリウム、硫化カリウムのような硫化物を反応させて、ハロゲン化チオフェノール類を得る方法が開示されている。
【0012】これらの方法においては、反応が遅いために、ハロゲン化芳香族チオール類が、原料のハロゲン化ベンゼンと反応して芳香族スルフィド類になりやすく、ハロゲン化芳香族チオール類の収率を低下させている。
【0013】特開平4−198162号公報には、多ハロゲン化ベンゼンにチオグリコール酸塩を反応させて、ハロゲン化芳香族チオール類を得る方法が開示されている。また、特開平5−178816号公報には、ハロゲン化フェニルチオグリコール酸を、塩基の存在下に、硫化水素ナトリウムや芳香族チオールのような硫化物と反応させて、ハロゲン化芳香族チオール類を得る方法が開示されている。しかしながら、これらの方法では、高純度の芳香族チオール類を収率よく得ることはできない。
【0014】特開平8−143533号公報には、チオアニソール類の硫黄原子に結合したメチル基を、塩素ガスにより塩素化してハロゲン化チオアニソール類とし、これを加水分解してハロゲン化芳香族チオール類を得る方法が開示されている。さらに、上記の特開平8−143532号公報には、上記のハロゲン化チオアニソール類の加水分解を鉱酸の存在下に行うこと、および該加水分解反応によって得られたハロゲン化芳香族チオール類を、過酸化水素のような酸化剤によって酸化二量化して、ハロゲン化芳香族ジスルフィド類が得られることが開示されている。しかしながら、この方法では、チオアニソール類を得るために揮発性で臭気のあるメチルメルカプタンを用いるうえに、メチル基を塩素化するために塩素ガスを導入するという煩雑な工程が必要である。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、芳香族ハロゲン化合物より、置換基を有する芳香族チオール類および芳香族ジスルフィド類を、簡単な操作により、優れた収率と純度で製造する方法を提供することである。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決するために研究を重ねた結果、芳香族ハロゲン化合物を、特定構造のヒドロカルビルメルカプチドアルカリ金属塩と反応させ、得られた芳香族チオエーテル類をプロトン酸によって分解することにより、その目的を達成しうることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0017】すなわち、本発明は、(A)一般式(I):Yn−Ar−Xm (I)
(式中、Arは、芳香族炭化水素残基を表し;Xは、Ar中の芳香環の炭素原子に結合しているハロゲン原子を表し;Yは、Ar中の芳香環の炭素原子に結合しているハロゲン原子、ニトロ基、ニトリル基、スルホン基、スルファモイル基およびヒドロカルビルスルホニル基からなる群より選ばれる1種または2種以上の置換基を表し;mは、1以上の整数であり;nは、0または1以上の整数である)で示される芳香族ハロゲン化合物に、(B)(1)一般式(II):【化9】

(式中、R1、R2およびR3は、それぞれアルキル基またはアリール基を表し、ただし、R1、R2およびR3のいずれか2個がアリール基の場合、残余は水素原子でもよく;Mは、アルカリ金属原子を表す)で示されるヒドロカルビルメルカプチドアルカリ金属塩;および/または(2)(a)一般式(III):【化10】

(式中、R1、R2およびR3は、前述のとおりである)で示されるヒドロカルビルメルカプタン、および(b)アルカリ金属、その水酸化物、炭酸塩、水素化物もしくはアルコキシドを、(C)非プロトン極性溶媒の存在下に反応させて、一般式(IV):【化11】

(式中、Y、Ar、R1、R2、R3、mおよびnは、前述のとおりである)で示される芳香族チオエーテル類を製造し;得られた該チオエーテル類を(D)プロトン酸と反応させることを特徴とする、一般式(V):Yn−Ar−(SH)m (V)
(式中、Y、Ar、mおよびnは、前述のとおりである)で示される芳香族チオール類を製造する方法に関する。また、このような方法によって、一般式(V)で示され、mが1である芳香族チオール類を製造し、ついでこれを酸化して、一般式(VI):Yn−Ar−S−S−Ar−Yn (VI)
(式中、ArおよびYは、前述のとおりであり;nは、0または1以上の整数である)で示される芳香族ジスルフィド類を製造する方法に関する。
【0018】なお、本明細書において、「芳香族チオール類」は、特に限定されない限り、芳香族モノチオール類のほか、芳香族ジチオール類、芳香族トリチオール類など、複数のメルカプト基を有する芳香族化合物を包含する概念として用いる。
【0019】本発明の製造方法は、代表的には、上記の反応により、(A)の芳香族ハロゲン化合物が、一般式(Ia):【化12】

(式中、XおよびYは、前述のとおりであり;mは、1〜6の整数であり、nは、0または1〜5の整数であり、ただし、m+nは6以下である)で示され、一般式(Va):【化13】

(式中、Yは、前述のとおりであり;mおよびnは、上記のとおりである)で示される芳香族チオール類を製造する方法に関する。また、このような方法によって、一般式(Va)で示され、mが1である芳香族チオール類を製造し、ついでこれを酸化して、一般式(VIa):【化14】

(式中、Yは、前述のとおりであり;nは、0または1〜5の整数である)で示される芳香族ジスルフィド類を製造する方法に関する。
【0020】
【発明の実施の形態】本発明の芳香族チオール類の製造方法の第1工程は、(A)芳香族ハロゲン化合物を(B)有機硫黄化合物と反応させて、芳香族チオエーテル類を製造する工程である。
【0021】本発明に用いられる(A)芳香族ハロゲン化合物は、芳香環の炭素原子に結合している少なくとも1個のXを有する、炭素系芳香環化合物の誘導体である。
【0022】Arは、芳香族炭化水素残基であり、Arとしては、ベンゼン環、ビフェニル環、テルフェニル環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環などの芳香環の残基;およびそれらにメチル、エチル、プロピル、ブチルのような炭化水素基が置換しているものを包含する。(B)との反応性から、上記の炭化水素基で置換されていない芳香環残基が好ましく、ベンゼン環残基が特に好ましい。
【0023】Xは、Ar中の芳香環の炭素原子に結合し、(B)との反応に寄与するハロゲン原子であり、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が例示される。(A)が容易に入手でき、かつ副生物の処理が容易なことから、塩素原子または臭素原子が好ましい。
【0024】mは、1以上の整数であり、Arがベンゼン環の場合は1〜6の整数である。反応生成物が比較的単純であり、特に得られる芳香族チオール類を酸化して、ジスルフィド結合を有する生成物を得ようとするときは、mが1であることが好ましい。
【0025】Yは、Ar中の芳香環の炭素原子に結合し、目的物である芳香族チオール類または芳香族ジスルフィド類に置換基として導入され、またYの存在によって、(A)と(B)との反応が促進される。Yは、ハロゲン原子、ニトロ基、ニトリル基、スルホン基、スルファモイル基またはヒドロカルビルスルホニル基を表す。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられ、ヒドロカルビルスルホニル基としては、メチルスルホニル、フェニルスルホニル、p−トルイルスルホニルなどが例示される。Yが複数個存在するとき、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよい。またYがハロゲン原子のとき、Xと同一であっても異なっていてもよい。
【0026】nは、0または1以上の整数であり、Arがベンゼン環残基の場合、0または1〜5の整数である。nが大きいほど(A)と(B)との反応が容易に進行し、続いて行われる脱離反応により置換芳香族チオール類の収率が高いが、他の芳香族チオール類の合成法と比較して、相対的に高い収率および純度で置換芳香族チオール類が得られることとから、nが2または3であることが好ましい。
【0027】(B)は、(A)との反応によって芳香環にメルカプト基を導入するものである。(B)としては、下記の(1)および/または(2)が用いられる。すなわち、(1)は、分子中に特定構造の1価の炭化水素基を有するヒドロカルビルメルカプチドアルカリ金属塩であり;(2)は、(a)同様の1価の炭化水素基を有するヒドロカルビルメルカプタンと、(b)アルカリ金属、その水酸化物、炭酸塩、水素化物もしくはアルコキシドの組合せである。(2)の組合せは、系中で(1)を形成する前駆物質であり、生成した(1)が(A)と反応して、芳香族チオエーテル類を得ることができる。容易に入手できることから、(B)として(2)の組合せを用いることが好ましい。
【0028】(1)および(2)に含有される1価の炭化水素基は、一般式(VII):【化15】

(式中、R1、R2およびR3は、前述のとおりである)で示される、脂肪族または芳香族の1価の第三級炭化水素基、または1価のジアリール第二級炭化水素基であり、t−ブチル、t−ペンチル、t−ヘキシル、t−オクチル、t−デシル、t−ドデシル、1−メチル−1−エチルプロピル、1,1−ジエチルプロピル、1,1,4−トリメチルペンチルのような第三級アルキル基;1−メチル−1−フェニルエチル、1,1−ジフェニルエチル、トリチルのような第三級芳香族炭化水素基;およびベンズヒドリルのような、硫黄原子に結合する炭素原子に2個のアリール基が結合した第二級芳香族炭化水素基が例示され、合成が容易で、反応および酸による脱離が容易なことから、t−ブチルおよびベンズヒドリルが好ましい。Mは、アルカリ金属原子であって、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなどが挙げられ、ナトリウムおよびカリウムが好ましい。
【0029】このような(1)としては、ナトリウムt−ブチルメルカプチド、ナトリウムt−ペンチルメルカプチド、ナトリウムt−ヘキシルメルカプチド、ナトリウムt−ドデシルメルカプチド、ナトリウム−1,1−ジフェニルエチルメルカプチド、ナトリウムトリチルメルカプチドのような第三級ヒドロカルビルメルカプチドナトリウム塩;ナトリウムベンズヒドリルメルカプチドのような第二級ヒドロカルビルメルカプチドナトリウム塩;ならびに対応するヒドロカルビルメルカプチドリチウム塩およびカリウム塩が例示される。
【0030】(2)は、(a)上記のような1価の炭化水素基を有するヒドロカルビルメルカプタンと、(b)アルカリ金属、その水酸化物、炭酸塩、水素化物またはアルコキシドとの組合せである。(a)としては、前述の(1)で例示された1価の炭化水素基を有するヒドロカルビルメルカプタンが例示され、t−ブチルメルカプタンおよびベンズヒドリルメルカプタンが好ましい。
【0031】(b)としては、上記のアルカリ金属のほか;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのようなアルカリ金属炭酸塩;水素化ナトリウム、水素化リチウムのようなアルカリ金属水素化物;ならびにナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、ナトリウムブトキシドのようなナトリウムアルコキシド、および対応するリチウムアルコキシドおよびカリウムアルコキシドが挙げられる。
【0032】用いる(a)と(b)の量は、一方が過剰でも反応は進行するが、(a)に対する(b)のモル比として1.0〜1.5が好ましく、1.0〜1.1がより好ましく、1.0が最も好ましいが、(a)の残存が好ましくない場合は、(b)を若干過剰に用いてもよい。
【0033】(A)との反応に供する(B)の量は、(B)を(2)の組合せで用いる場合は系中で生成する(1)の理論量に換算して、(A)中のX1モルに対して通常1〜3モルの範囲であり、1.0〜1.1モルが好ましく、反応後に(A)を除去する煩雑さを避けることから、1.0モルが最も好ましい。
【0034】本発明に用いられる(C)非プロトン極性溶媒は、(A)と(B)との反応による芳香族チオール類の反応を著しく促進する反応溶媒である。(C)としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが例示され、反応促進効果が優れていることから、ジメチルスルホキシドが好ましい。
【0035】(C)の量は、反応にあずかる化合物を溶解ないし分散させ、系を撹拌するのに必要な量であり、具体的には、(A)と(B)の合計量1モルに対して通常200g以上であり、400〜1,200gの範囲が好ましい。
【0036】(A)芳香族ハロゲン化物と(B)硫黄化合物から芳香族チオエーテル類を合成する工程は、上記の(C)非プロトン極性溶媒の存在下に行う。たとえば、(B)として(1)ヒドロカルビルメルカプチドアルカリ金属塩を用いる場合、該(1)および(A)を上記(C)に溶解させる。(B)として(2)、すなわち(a)と(b)を用いる場合は、(a)および(b)を(C)に溶解させておき、35〜60℃に加熱すると、反応が速やかに進行して(1)が形成されるので、ついでこれを上記と同様に(A)と反応させる。
【0037】(A)と(B)の反応は、室温〜200℃で進行させることができる。(A)のnとmの合計が2〜4のように比較的小さい場合は、好ましくは50〜120℃に昇温して、反応を促進することが効果的である。mが2以上のときは、100〜200℃で反応させることが好ましい。なお、Yがニトロ基の場合、およびArがベンゼン環でnとmの合計が5または6のときは、室温でも反応が充分に進行するので、室温が好ましい。
【0038】芳香族チオール類の製造方法の第2工程は、第1工程で得られた、前述のような特定範囲の構造の1価の炭化水素基が硫黄原子に結合した芳香族チオエーテル類をプロトン酸と反応させることにより、該芳香族化合物より炭化水素基を脱離させて、芳香族チオール類を得る工程である。
【0039】プロトン酸としては、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸のようなハロゲン化水素酸;硫酸;酢酸、トリフルオロ酢酸のようなカルボン酸;ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸のようなスルホン酸類などが例示され、触媒能が高く、不揮発性で加熱反応に適し、効果的に炭化水素基の脱離を行いうることから、p−トルエンスルホン酸およびメタンスルホン酸が好ましい。これらのプロトン酸は、水和物の形で反応に供してもよいが、この場合、反応が極端に遅いので、脱水して用いることが好ましい。
【0040】(D)プロトン酸の使用量は、各種の炭化水素基に対して適度の脱離反応速度が得られ、かつ好ましくない副反応を生じないことから、反応に供される芳香族チオエーテル類1モルに対して通常0.1〜5モルの範囲であり、0.2〜3モルが好ましく、1.0モルが特に好ましい。
【0041】反応を促進し、かつ副反応を抑制するために、反応は通常100〜200℃で行われ、100〜150℃が好ましい。反応温度の制御を容易にし、かつ脱離反応によって生じたイソブチレンのような炭化水素を吸収するために、トルエン、キシレン、メシチレンのような炭化水素類;アニソールのようなエーテル類など、反応温度領域に沸点を有する溶媒類の還流下に反応を行うことが好ましい。また、特にトルエン、アニソールのように水と共沸しうる溶媒を用い、プロトン酸を水和物または水が存在する状態で反応系に加えて、脱水しながら反応を進めることもできる。
【0042】このようにして、芳香族チオエーテル類の合成と、該チオエーテル類の炭化水素基の脱離反応とを組み合わせることにより、収率よく、また純度よく、芳香族チオール類を合成できる。
【0043】このようにして得られた芳香族チオール類は、各種化合物の合成のための中間体として用いてもよく、またm=1である芳香族チオール類を酸化により二量体化して、芳香族ジスルフィド類を製造してもよい。
【0044】該酸化反応は、酸化剤を加えて撹拌することによって行うことができる。酸化剤としては、塩素、臭素、ヨウ素、過酸化水素、硫酸、過酢酸、塩化第二鉄、次亜塩素酸ナトリウムなどを用いることができる。簡便に実施できて良好な収率が得られることから、ヨウ素が好ましい。また、空気または酸素を導入して酸化反応を行ってもよい。反応は常温でも進行するが、必要に応じて加熱または冷却して行ってもよい。さらに、反応を円滑に進行させるために、芳香族チオール類をトルエン、キシレンのような有機溶媒に溶解させた後に、上記の反応を行ってもよい。
【0045】硫酸のようなプロトン酸は、芳香族チオエーテル類から芳香族チオール類を合成する際の反応剤としても用いられる。したがって、硫酸のような、酸化剤としても機能するプロトン酸を用い、適切な反応条件を選ぶことにより、芳香族チオエーテル類から、mが1である芳香族チオール類の合成と、芳香族ジスルフィド類の合成を、1段階で行うことができる。たとえば、95%濃硫酸を用いて、芳香族チオエーテル類から炭化水素基の脱離反応を行うとき、単にトルエンの還流下に反応を行わせると、芳香族チオール類と、それが酸化して二量化した芳香族ジスルフィド類の両方が得られる。それに対して、トルエンとの共沸によって脱水しながら反応を進めると、芳香族チオエーテル類から芳香族チオール類を単離することなく、理論量に対して70%以上の高収率で、芳香族ジスルフィド類を製造できる。
【0046】
【発明の効果】本発明によれば、芳香族ハロゲン化合物から、置換基を有する芳香族チオール類および芳香族ジスルフィド類を、収率よく、かつ純度よく製造できる。本発明の方法は、特に他の方法では収率よく得られない二置換芳香族チオール類および二置換ジスルフィド類の製造に、特に有用性が高い。
【0047】本発明によって得られる芳香族チオール類および芳香族ジスルフィド類は、医薬、農薬、電子材料などの中間体として有用である。
【0048】
【実施例】以下、実施例によって、本発明をさらに詳細に説明する。実施例中、部は重量部を表し、組成の%は重量%を表す。以下の反応式および表において、t−Buはt−ブチル基を、Phはフェニル基を、またDMSOはジメチルスルホキシドを表す。本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0049】実施例1【0050】
【化16】

【0051】第1工程撹拌機、ジムロート冷却器、温度計および滴下ロートを備えた反応器に、窒素雰囲気下で、t−ブチルメルカプタン18.0部、ジメチルスルホキシド200部および85%水酸化カリウム15.4部を仕込み、50℃で30分間撹拌することにより、系中でカリウムt−ブチルメルカプチドを合成した。続いて、1,3−ジクロロベンゼン29.4部を加えて撹拌しつつゆっくり昇温し、120℃で7時間加熱した。ついで室温まで冷却し、水200部およびトルエン200部を加えて撹拌した後、静置して分液した。有機相を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、ついでトルエンを減圧で留去した。液状の残留物の減圧蒸留により、沸点140℃/32Torrの留分として、無色透明の液体33.0部を得た。
1H-NMR(CDCl3): δ 7.54 (dd, J=1.7, 2.0Hz, 1H), 7.41 (ddd, J=1.3, 2.0, 7.6Hz, 1H), 7.34 (ddd, J=1.3, 1.7, 7.6Hz, 1H), 7.25 (t, J=7.6Hz, 1H), 1.29(s, 9H).【0052】この結果、得られた生成物は、3−クロロフェニルt−ブチルスルフィドであることを確認した。収率は、理論量に対して82%であった。
【0053】
【化17】

【0054】第2工程撹拌機、ジムロート冷却器、温度計、ディーンスタルク捕集器を備えた反応器に、窒素雰囲気下で、3−クロロフェニルt−ブチルスルフィド20.1部、p−トルエンスルホン酸一水和物19.0部およびトルエン100部を仕込み、水を除去しながら、5時間加熱還流した。室温まで冷却し、水150部を加えて撹拌した後、静置して分液した。有機相に10%水酸化ナトリウム水溶液200部を加え、撹拌した後、静置して分液した。水相に12N塩酸水溶液を加えて、pHを2に調整したところ、底部に油状物が析出した。トルエン100部を加えて、析出した油状物を抽出した。得られた有機相を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水した。ついでトルエンを減圧で留去し、減圧蒸留により、沸点110℃/30Torrの留分として、無色透明の液体9.5部を得た。
1H-NMR(CDCl3): δ 7.25 (m, 1H), 7.12 (m, 3H), 3.48 (s, 1H).【0055】この結果、得られた生成物は、3−クロロチオフェノールであることを確認した。収率は、理論量に対して65%であった。
【0056】実施例2【0057】
【化18】

【0058】第1工程1,3−ジクロロベンゼンの代わりに、1,3,5−トリクロロベンゼン36.3部を加え、その後の加熱条件を80℃、5時間とした以外は、実施例1の第1工程と同様にして、沸点75℃/0.4Torrの無色液体37.8部を得た。
1H-NMR(CDCl3): δ 7.42 (d, J=2.0Hz, 2H), 7.36 (t, J=2.0Hz, 1H), 1.31 (s,9H).【0059】この結果、得られた生成物は、3,5−ジクロロフェニルt−ブチルスルフィドであることを確認した。収率は、理論量に対して80%であった。
【0060】
【化19】

【0061】第2工程3−クロロフェニルt−ブチルスルフィドの代わりに、第1工程で得られた3,5−ジクロロフェニルt−ブチルスルフィド23.5部を加え、還流時間を3時間とした以外は、実施例1の第2工程と同様にして、pHを2に調整したところ、結晶が析出した。これをろ別して、無色針状結晶13.3部を得た。
融点:62℃;
1H-NMR(CDCl3): δ7.15 (s, 3H), 3.55 (s, 1H).【0062】この結果、得られた生成物は、3,5−ジクロロチオフェノールであることを確認した。収率は、理論量に対して74%であった。
【0063】実施例3【0064】
【化20】

【0065】実施例2の第1工程と同様の方法によって、3,5−ジクロロフェニルt−ブチルスルフィドを得た。実施例1の第2工程で用いた反応器に、窒素ガス雰囲気下で、該3,5−ジクロロフェニルt−ブチルスルフィド23.5部、キシレン100部およびメタンスルホン酸1.9部を加え、窒素ガスを流して、生成するイソブチレンを除去しながら、加熱還流を10時間行った。以下、実施例2の第2工程と同様にして生成物の精製を行い、pHを2に調整したところ、結晶が析出した。これをろ別し、無色針状結晶12.4部を得た。
融点:62℃;
1H-NMR(CDCl3): δ7.15 (s, 3H), 3.55 (s, 1H).【0066】この結果、得られた生成物は、3,5−ジクロロチオフェノールであることを確認した。収率は、理論量に対して69%であった。
【0067】実施例4【0068】
【化21】

【0069】第1工程t−ブチルメルカプタンの添加量を36.1部、85%水酸化カリウムの添加量を29部とし、1,3−ジクロロベンゼンの代わりに、ヘキサクロロベンゼン57.0部を加え、加熱せずに室温で一夜撹拌した以外は、実施例1の第1工程と同様にしてトルエンの留去まで行ったところ、淡黄色結晶状の残留物を得た。これをイソプロパノールから再結晶して、無色針状結晶64.5部を得た。
融点:142℃;
元素分析値 C1418Cl42として、計算値 C:42.87%,H:4.63%、実測値 C:42.64%,H:4.27%;
1H-NMR(CDCl3): δ 1.42 (s, 9H).【0070】この結果、得られた生成物は、ビス(t−ブチルチオ)テトラクロロベンゼンであることを確認した。収率は、理論量に対して83%であった。
【0071】
【化22】

【0072】第2工程3−クロロフェニルt−ブチルスルフィドの代わりに、第1工程で得られたビス(t−ブチルチオ)テトラクロロベンゼン39.2部を加え、還流時間を1時間とし、また分液後に加える10%水酸化ナトリウム水溶液の量を400部とした以外は、実施例1の第2工程と同様にして、pHを2に調整したところ、結晶が析出した。これをろ別して、白色結晶26.0部を得た。
融点:260℃;
1H-NMR(CDCl3); δ 4.86 (s, 1H).【0073】この結果、得られた生成物は、テトラクロロベンゼンジチオールであることを確認した。収率は、理論量に対して93%であった。
【0074】実施例5【0075】
【化23】

【0076】第1工程1,3−ジクロロベンゼンの代わりに、氷冷下でp−ニトロクロロベンゼン31.6部を加え、室温で30分撹拌した以外は、実施例1の第1工程と同様にして、沸点99℃/0.5Torrの無色液体36.8部を得た。
1H-NMR(CDCl3): δ 8.17 (d, J=8.9Hz, 2H), 7.68 (d, J=8.9Hz, 2H), 1.35 (s,9H).【0077】この結果、得られた生成物は、4−ニトロフェニルt−ブチルスルフィドであることを確認した。収率は、理論量に対して87%であった。
【0078】
【化24】

【0079】第2工程3−クロロフェニルt−ブチルスルフィドの代わりに、第1工程で得られた4−ニトロフェニルt−ブチルスルフィド21.1部を加え、還流時間を4時間とした以外は、実施例1の第2工程と同様にして、pHを2に調整したところ、結晶が析出した。これをろ別して、淡黄色結晶11.2部を得た。
融点:77℃;
1H-NMR(CDCl3): δ 8.09 (d, J=8.9Hz, 2H), 7.36 (d, J=8.9Hz, 2H), 3.80 (s,1H).【0080】この結果、得られた生成物は、4−ニトロチオフェノールであることを確認した。収率は、理論量に対して72%であった。
【0081】実施例6【0082】
【化25】

【0083】第1工程t−ブチルメルカプタンの添加量を36.0部、85%水酸化カリウムの添加量を29部とし、添加後の加熱条件を130℃で3時間とした以外は、実施例2の第1工程と同様にしてトルエンの留去まで行ったところ、淡黄色結晶状の残留物を得た。これをメタノールから再結晶して、無色板状結晶45.8部を得た。
融点:89℃;
1H-NMR(CDCl3): δ 7.61 (t, J=1.6Hz, 1H), 7.53 (d, J=1.6Hz, 2H), 1.30 (s,18H).【0084】この結果、得られた生成物は、3,5−ビス(t−ブチルチオ)クロロベンゼンであることを確認した。収率は、理論量に対して79%であった。
【0085】
【化26】

【0086】第2工程3,5−ジクロロフェニルt−ブチルスルフィドの代わりに、第1工程で得られた3,5−ビス(t−ブチルチオ)クロロベンゼン28.9部を加え、還流時間を12時間とし、分液後に加える10%水酸化ナトリウム水溶液の量を400部とした以外は、実施例2の第2工程と同様にして、無色針状結晶16.5部を得た。
融点:55℃;
1H-NMR(CDCl3): δ 7.03 (s, 3H), 3.47 (s, 2H).【0087】この結果、得られた生成物は、5−クロロ−1,3−ベンゼンジチオールであることを確認した。収率は、理論量に対して93%であった。
【0088】実施例7【0089】
【化27】

【0090】第1工程実施例1の第1工程に用いたのと同様の付帯装置を備えた反応器に、窒素雰囲気下で、ジメチルスルホキシド300部と、鉱油中に分散させた濃度63.2%の水素化ナトリウム34.2部を仕込み、室温で30分間撹拌した。次に、t−ブチルメルカプタン81.2部をゆっくり滴下し、40℃で30分間撹拌した後、1,3,5−トリクロロベンゼン36.2部を加えてゆっくり昇温し、150℃で2時間加熱した。ついで、室温まで冷却し、水400部とトルエン200部を加えて撹拌した。静置し、分液して有機相をとり、これを10%水酸化ナトリウム水溶液で、ついで飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水した後、トルエンを減圧で除去した。残留物をイソプロピルアルコールで再結晶して、無色板状結晶41.0部を得た。
融点:132〜133℃;
1H-NMR(CDCl3): δ 7.24 (s, 3H), 1.30 (s, 27H).【0091】この結果、得られた生成物は、1,3,5−トリス(t−ブチルチオ)ベンゼンであることを確認した。収率は、理論量に対して60%であった。
【0092】
【化28】

【0093】第2工程実施例1の第2工程に用いた反応器に、窒素ガス雰囲気下で、上記のようにして得られた1,3,5−トリス(t−ブチルチオ)ベンゼン34.3部、キシレン100部およびメタンスルホン酸9.6部を加え、窒素ガスを流して、生成するイソブチレンを除去しながら、加熱還流を7時間行った。続いて、トルエン500部を滴下しつつ、加熱して該トルエンを5時間還流させるとともに一部を留去することにより、イソブチレンを完全に除去した。ついで室温まで冷却し、水100部を加えて撹拌し、分液して有機相をとった。これに10%水酸化ナトリウム水溶液600部を加えて撹拌し、分液によって水相をとり、以下、実施例2の第2工程と同様にして生成物の精製を行い、pHを2に調整したところ、結晶が析出した。これをろ別して、無色針状結晶13.0部を得た。
融点:56〜59℃;
1H-NMR(CDCl3): δ 6.94 (s, 3H), 3.41 (s, 3H).【0094】この結果、得られた生成物は、1,3,5−トリメルカプトベンゼンであることを確認した。収率は、理論量に対して75%であった。
【0095】実施例8【0096】
【化29】

【0097】第1工程実施例2の第1工程で用いたのと同じ反応器に、窒素雰囲気下で、ジフェニルメタンチオール44.0部、ジメチルスルホキシド200部および純度96%のナトリウムメトキシド12.4部を仕込み、50℃で30分撹拌した。続いて、1,3,5−トリクロロベンゼン36.3部を加え、以下、加熱条件を80℃、3時間とした以外は、実施例2の第1工程と同様にしてトルエンの留去まで行ったところ、無色油状の残留物を得た。残留物をメタノールから再結晶して、無色板状結晶64.8部を得た。
融点:54℃;
1H-NMR(CDCl3): δ 7.40 (d, J=7.4Hz, 4H), 7.31 (t, J=7.4Hz, 4H), 7.24 (t,J=7.4Hz, 2H), 7.09 (t, J=1.7Hz, 1H), 7.06 (d, J=1.7Hz, 2H), 5.56 (s, 1H).【0098】この結果、得られた生成物は、3,5−ジクロロフェニル(ベンズヒドリル)スルフィドであることを確認した。収率は、理論量に対して94%であった。
【0099】
【化30】

【0100】第2工程3,5−ジクロロフェニルt−ブチルスルフィドの代わりに、第1工程で得られた3,5−ジクロロフェニル(ベンズヒドリル)スルフィド34.5部を加え、還流時間を8時間とした以外は、実施例2の第2工程と同様にして、pHを2に調整したところ、結晶が析出した。これをろ別して、白色結晶11.6部を得た。
融点:62℃;
1H-NMR(CDCl3): δ 7.15 (s, 3H), 3.55 (s, 1H).【0101】この結果、得られた生成物は、3,5−ジクロロチオフェノールであることを確認した。収率は、理論量に対して65%であった。
【0102】実施例9【0103】
【化31】

【0104】第1工程実施例2の第1工程で用いたのと同じ反応器に、窒素雰囲気下で、ナトリウムt−ブチルメルカプチド22.4部、ジメチルスルホキシド200部および1,3,5−トリクロロベンゼン36.3部を加え、80℃で5時間加熱し、以下、実施例2の第1工程と同様にして、沸点75℃/0.4Torrの無色液体37.8部を得た。このものの1H-NMR(CDCl3)のチャートは、実施例2の第1工程の生成物と同じチャートが得られた。
【0105】この結果、得られた生成物は、3,5−ジクロロフェニルt−ブチルスルフィドであることを確認した。収率は、理論量に対して80%であった。
【0106】
【化32】

【0107】第2工程ガラス製オートクレーブに、窒素雰囲気下で、第1工程で得られた3,5−ジクロロフェニルt−ブチルスルフィド23.5部、および臭化水素25%を含む酢酸溶液161.8部を仕込み、加圧下に還流状態で3時間加熱した。ついで室温まで冷却して、反応生成物を別の容器に移し、水150部およびトルエン100部を加えて撹拌した後、静置して分液した。以下、実施例2と同様の処理を行ったところ、結晶が析出した。これをろ別して、白色結晶15.1部を得た。
融点:62℃;
1H-NMR(CDCl3): δ 7.15 (s, 3H), 3.55 (s, 1H).【0108】この結果、得られた生成物は、3,5−ジクロロチオフェノールであることを確認した。収率は、理論量に対して84%であった。
【0109】実施例10【0110】
【化33】

【0111】実施例1の第2工程に用いたのと同様の反応器に、窒素雰囲気下で、実施例2の第1工程で得られた3,5−ジクロロフェニルt−ブチルスルフィド23.5部、95%濃硫酸10.3部およびトルエン50部を仕込み、撹拌しつつ加熱して3時間還流した。室温まで冷却し、水150部およびトルエン50部を加えて撹拌した後、静置して分液した。有機相に10%水酸化ナトリウム水溶液200部を加え、撹拌して再び分液して有機相をとり、これを飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水した後、トルエンを減圧留去して、淡黄色液体を得た。これをメタノールで処理し、無色針状結晶8.8部を得た。
融点:65℃;
1H-NMR(CDCl3): δ 7.33 (d, J=1.7Hz, 4H), 7.23 (t, J=1.7Hz, 2H).【0112】この結果、有機相より得られた生成物は、ビス(3,5−ジクロロフェニル)ジスルフィドであることを確認した。収率は、理論量に対して49%であった。
【0113】合わせた水相に12N塩酸水溶液を加えて、pHを2に調整し、析出した結晶をろ別して、無色針状結晶4.3部を得た。
融点:62℃;
1H-NMR(CDCl3): δ 7.15 (s, 3H), 3.55 (s, 1H).【0114】この結果、水相より得られた生成物は、3,5−ジクロロチオフェノールであることを確認した。収率は、理論量に対して24%であった。
【0115】実施例11【0116】
【化34】

【0117】反応溶液として用いるトルエンの量を100部とし、水分を除去しながら還流を3時間行った以外は、実施例8と同様の反応を行い、同様の手順で反応生成物の精製を行った。有機相から、融点65℃の無色針状結晶12.9部を得た。その1H-NMRチャートは、実施例8の有機相から得た結晶の1H-NMRチャートとよく一致していた。このことから、有機相から得られた生成物は、ビス(3,5−ジクロロフェニル)ジスルフィドであることを確認した。収率は、理論量に対して72%であった。
【0118】合わせた水相から、融点62℃の無色針状結晶0.4部を得た。同様にその1H-NMRチャートから、生成物は3,5−ジクロロチオフェノールであることを確認した。収率は、理論量に対して2%であった。
【0119】実施例12【0120】
【化35】

【0121】実施例1の第2工程に用いたのと同様の反応器に、窒素雰囲気下で、実施例6の第2工程で得られた3,5−ジクロロチオフェノール17.9部、95%濃硫酸20.7部およびトルエン100部を仕込み、水を除去しながら還流を6時間行った。室温まで冷却し、水150部を加えて撹拌した後、静置して分液した。有機相に10%水酸化ナトリウム水溶液200部を加えて撹拌した後、静置して、分液により有機相をとり、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水した後、トルエンを減圧で留去して、無色針状結晶17.5部を得た。
融点:65℃;
1H-NMR(CDCl3): δ 7.33 (d, J=1.7Hz, 4H), 7.23 (t, J=1.7Hz, 2H).【0122】この結果、得られた生成物は、ビス(3,5−ジクロロフェニル)ジスルフィドであることを確認した。収率は、理論量に対して98%であった。
【0123】実施例13【0124】
【化36】

【0125】実施例10に用いたのと同様の反応器に、同様の3,5−ジクロロチオフェノール17.9部、トルエン50部および水50部を仕込み、撹拌して均一に分散させた後、ヨウ素12.7部をトルエン30部に溶解させた溶液を滴下した。室温で30分間撹拌した後、静置して、分液により有機相をとり、5%チオ硫酸ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水した後、トルエンを減圧で留去して、無色針状結晶17.3部を得た。
融点:65℃;
1H-NMR(CDCl3): δ 7.33 (d, J=1.7Hz, 4H), 7.23 (t, J=1.7Hz, 2H).
【0126】この結果、得られた生成物は、ビス(3,5−ジクロロフェニル)ジスルフィドであることを確認した。収率は、理論量に対して98%であった。
【出願人】 【識別番号】591028544
【氏名又は名称】日本ファインケミカル株式会社
【出願日】 平成11年2月23日(1999.2.23)
【代理人】 【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇 (外2名)
【公開番号】 特開2000−143616(P2000−143616A)
【公開日】 平成12年5月26日(2000.5.26)
【出願番号】 特願平11−44449