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【発明の名称】 溶媒の回収方法
【発明者】 【氏名】河内 秀夫

【氏名】辻中 正博

【氏名】小原 功一郎

【氏名】和地 俊

【要約】 【課題】容易に熱分解、または縮合等の反応によって塩化水素ガスを発生する3級クロル末端を有する塩素化有機化合物を含有した溶媒をステンレスのような一般的な材質の蒸留塔による蒸留でリサイクル可能にする。

【解決手段】ピリジン、メチルピリジンのような塩基性の有機溶媒あるいは水酸化ナトリウム水溶液のようなアルカリ水溶液を共存させ、あるいは蒸留前に処理槽を設け、あるいは蒸留缶を用いる等して蒸留に先だって上記のような塩基性の有機溶媒あるいはアルカリ水溶液を用いて塩素化物の分解、すなわち塩化水素ガスを発生させる操作をおこなった上で蒸留をおこなう方法によって塩化水素ガスの発生を抑え、ステンレスのような一般的な材質の利用を可能にし、工業的に安価で実用的な方法を提供するに至った。
【特許請求の範囲】
【請求項1】3級炭素−塩素結合を有する化合物を含有する溶媒を塩基と接触させた後、蒸留をおこなうことを特徴とする溶媒の回収方法。
【請求項2】3級炭素−塩素結合を有する化合物を含有する溶媒を塩基と接触させた後に、3級炭素−塩素結合を有する化合物の分解により発生する塩化水素を、塩基により中和することを特徴とする請求項1記載の溶媒の回収方法。
【請求項3】3級炭素−塩素結合を有する化合物が、−C(CH32Clで表される基を有することを特徴とする請求項1又は2記載の溶媒の回収方法。
【請求項4】3級炭素−塩素結合を有する化合物が式1:C66-n〔C(CH32Cl〕n (1)
(式中、nは1以上4以下の整数である。)で表されることを特徴とする請求項3記載の溶媒の回収方法。
【請求項5】塩基が、金属水酸化物又は金属アルコキシドであることを特徴とする請求項1、2、3、4記載の溶媒の回収方法。
【請求項6】塩基として、金属水酸化物の水溶液を用いることを特徴とする請求項5記載の溶媒の回収方法。
【請求項7】溶媒が炭化水素であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6記載の溶媒の回収方法。
【請求項8】溶媒が水との共沸点を持つものであり、溶媒と水との共沸混合物を凝縮回収することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7記載の溶媒の回収方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、不純物として3級炭素−塩素結合を有する化合物を含有する有機溶媒から、蒸留により有機溶媒を回収する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、環境への配慮や生産コスト低減の要求等により、反応、晶析、抽出等に用いた溶媒を廃棄することなく、蒸留等の回収操作によってリサイクル使用することが広くおこなわれるようになっている。通常の場合、一旦反応、晶析、抽出等に用いた溶媒は反応原料や副生成物、あるいは少量の製品(以下、これらをまとめて不純物という)を含有しており、特に晶析、抽出に用いた溶媒は一般的に多くの不純物を含有している。これら不純物が残留したままの溶媒を再使用すると反応が阻害される場合もあり、そのような場合、溶媒回収、精製をおこなう蒸留塔のような装置の設計については細心の注意を払う必要がある。塩素化反応プロセスに用いた溶媒のリサイクルは、■一旦使用した溶媒が多くの副生成物(すなわち種々の塩素化物等)や場合によっては溶媒自体の塩素化物からなる不純物を含有していること、■さらにその不純物(塩素化物)が不安定な物質である場合が多いことから、装置設計が特に困難である。不安定な塩素化物は、溶媒の蒸留回収の際に、例えば蒸留装置のリボイラー内で加熱された時などに分解し、塩化水素ガスを発生して装置の腐食をひきおこしたり、ガスの発生量が多い場合には蒸留塔内を上昇する蒸気量が大幅に減少し、蒸留操作そのものができなくなることもある。この場合、蒸留塔の腐蝕防止のために例えばグラスライニングのような耐腐蝕材料を使用することも考えられるが、その場合設備自体が非常に高価なものとなり、溶媒のリサイクルによるコスト面でのメリットは失われてしまう。本発明者らは今回実際に3級炭素−塩素結合を有する芳香族炭化水素の晶析操作に使用した溶媒のリサイクルを試みて、上記のような問題に遭遇し、その解決のための検討をおこなったものである。
【0003】本発明は、不純物として3級炭素−塩素結合を有する化合物を含有する有機溶媒の蒸留操作をおこなうことにより、再利用可能な有機溶媒を回収する方法に関するものである。さらに具体的に言えば、不純物を含有する溶媒から再利用可能な溶媒を蒸留により回収する際、不純物である3級炭素−塩素結合を有する化合物の加熱による熱分解または縮合反応等により発生する塩化水素を、中和により除去することによって、塩化水素の発生に伴うプロセス面での問題を解決する方法に関する。塩化水素ガスの発生により、例えば安全性の確保のため単位操作が煩雑になる、あるいは蒸留装置の材質を耐腐食性のものにする必要があるといった問題が発生する。
【0004】本発明は、加熱による熱分解または縮合反応等により、容易に塩化水素を発生する3級炭素−塩素結合を有する化合物を含有する溶媒を、ステンレス等の一般的な材質で製作した蒸留塔によって回収、リサイクルすることを可能にする方法を提供するものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、塩化水素の発生による操作上あるいは材質上の悪影響を防ぎ、蒸留による溶媒の回収・リサイクルを容易にすることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは鋭意検討の結果、3級炭素−塩素結合を有する化合物等の不純物を含有する溶媒中に塩基を加え、塩化水素を中和により除去することによって、実質的に塩化水素ガスを出さずに溶媒を蒸留回収できることを見いだし、本発明をなすに至った。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明は、3級炭素−塩素結合を有する化合物を含有する溶媒を塩基と接触させた後、蒸留をおこなうことを特徴とする溶媒の回収方法に関する。
【0008】本発明の3級炭素−塩素結合を有する化合物は、従来公知の化合物であれば特に制限はないが、通常、一般式2:−C(R1)(R22Cl (2)
(式中、R1、R2は炭素数20以下の炭化水素基を示す。)で表される基を有する化合物であり、好ましくは−C(CH32Clで表される基を有する化合物であり、さらに好ましくは式1:C66-n〔C(CH32Cl〕n (1)
(式中、nは1以上4以下の整数である。)で表される化合物である。
【0009】本発明の3級炭素−塩素結合を有する化合物は、カチオン重合開始剤として優れるものである。
【0010】本発明の溶媒としては、従来公知の溶媒であれば特に制限はなく、例えば炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、エステル類、アミド類等を使用することができる。この中でも炭化水素、ハロゲン化炭化水素が好ましく、さらに炭化水素としてはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン、トルエン等が好ましく、ハロゲン化炭化水素としては、塩化ブチル、クロロベンゼンが好ましい。溶媒としてはヘキサン又はヘプタンが特に好ましい。
【0011】本発明において使用する塩基としては、従来公知の塩基を特に制限無く使用することが出来るが、通常使用するものとしては、例えばピリジン、メチルピリジン及びトリエチルアミン等の塩基性の有機化合物、ナトリウムメトキサイド、ナトリウムエトキサイド、カリウムメトキサイド及びカリウムt−ブトキサイド等の金属アルコキシド、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウム等のカルボン酸の金属塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム及び水酸化リチウム等の金属水酸化物、水素化ナトリウム及び水素化カルシウム等の金属ハイドライド等を挙げることが出来る。また、本発明の塩基は水溶液(すなわち塩基性の水溶液)の状態で用いることも可能であり、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム及び水酸化リチウム等の金属水酸化物については、水溶液として使用することが好ましい。これらの中でも、水酸化ナトリウムの水溶液又は水酸化カリウムの水溶液がより好ましい。また本発明の塩基が金属アルコキシドである場合は、アルコール溶液として使用することが好ましい。
【0012】本発明の溶媒の回収方法の操作手順としては、3級炭素−塩素結合を有する化合物を含有する溶媒を蒸留回収するにあたって、■塩基存在下で中和反応をおこないながら溶媒を蒸留する方法と、■蒸留前に処理槽を設け、あるいは蒸留缶を用いる等して蒸留に先だって塩素化物の加熱分解、すなわち塩化水素を発生させ、それを塩基により中和する方法が実施可能である。そのうち好ましい方法としては蒸留に先立って塩基存在下で加熱処理をおこない、その後蒸留する方式があげられ、もっとも好ましい方法として蒸留前に処理槽を設け、あるいは蒸留缶を用いる等して蒸留に先立って塩素化物の加熱分解、すなわち塩化水素を発生させる操作およびアルカリ水溶液による中和をおこない、大部分の塩素化物を分解した上で分液等の操作をおこなわずに同じ液組成のまま引き続き蒸留をおこなう方法があげられる。この場合、回収すべき溶媒が水との共沸点を持つとその組成以上には精製できないが、非水溶性の溶媒であれば簡単な静置分離等により水と分けて回収することができる。本発明において、大部分の塩素化物を分解する際の温度は、通常0〜250℃であり、好ましくは10〜180℃で、より好ましくは20〜150℃である。
【0013】また本発明において、溶媒の蒸留の際の温度は、通常30〜300℃であり、好ましくは40〜200℃で、より好ましくは50〜180℃である。
【0014】本発明の方法では塩化水素ガスはほとんど発生せず、蒸留塔はステンレスのような一般的な材質のもので問題なく使用できる。なお、静置分離等では回収された溶媒はその中に飽和水分量に相当する水分を含有するので、必要があれば、溶媒を再使用する前に脱水操作をおこなうことが好ましい。
【0015】
【実施例】以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0016】(実施例1)内容積500ミリリットルの耐圧容器に3級炭素−塩素結合を有する芳香族炭化水素である1,4−ビス(α−クロロイソプロピル)ベンゼン(以下p−DCCという)の晶析に使用したヘキサン(p−DCC及びその副生成物、クロロベンゼンを含む)200g、10%水酸化ナトリウム水溶液90gを仕込み、密閉状態で100℃に加温し4時間攪拌混合して分解をおこなった。その後一旦冷却し、全量を500ミリリットルの蒸留缶容器に移して内径20mm、高さ1400mm、理論段数10段のガラス製充填塔で蒸留し、ヘキサンを回収した。回収したヘキサンをガスクロマトグラフにより分析したところ、不純物はみられなかった。また共沸回収された水のpHをpH試験紙で調べたところ、中性を示し、塩化水素は発生していないことがわかった。
(比較例1)p−DCCの晶析に使用したヘキサン(p−DCC及びその副生成物、クロロベンゼンを含む)200gを500ミリリットルの蒸留缶容器に仕込み、内径20mm、高さ1400mm、理論段数10段のガラス製充填塔で蒸留し、ヘキサンを回収した。回収途中より塔頂に取り付けた水酸化ナトリウム水溶液入りトラップ管へ白色のガスが流れ込む様子が見られ、トラップ管が激しく発熱した。塩化水素ガスの流入により中和熱のためと考えられる。その後さらにトラップ管へ流れ込むガスの量は多くなり、蒸留缶温度を上げても塔頂温度は上がらなくなり、ヘキサンが還流しなくなって回収はストップした。冷却後、装置を分解したところ塩化水素の激しい刺激臭がした。
【0017】
【発明の効果】本発明によれば、3級炭素−塩素結合を有する化合物を含有した溶媒から再利用可能な溶媒を蒸留により回収する際、不純物である3級炭素−塩素結合を有する化合物の加熱による熱分解または縮合反応等により発生する塩化水素を、中和により除去することによって、塩化水素の発生に伴うプロセス面での問題を解決することができる。
【0018】具体的には、塩化水素ガスの発生に伴う、例えば安全性の確保のため単位操作が煩雑になる、あるいは蒸留装置の材質を耐腐食性のものにする必要があるといった問題を解決することが出来る。
【0019】本発明によれば、ステンレスのような一般的な材質の蒸留塔を用いて溶媒を回収すること、すなわち簡便な設備により溶媒を回収することが可能である。これまでは、塩化水素等の腐食性ガスを発生する不純物を多く含む溶媒は、使い捨てるか、あるいは高価な耐腐食性材質を用いた蒸留塔を設置する必要があったが、本発明の方法によれば、簡便な設備でしかも腐食性ガスをほとんど発生させることなく容易に溶媒のリサイクルをおこなうことができ、製造プロセスとして実用的な方法を提供するものである。また、本発明のさらなる効果として、腐食性ガスから作業者を保護するための保護具も比較的簡便なもので済むということも挙げることができる。
【出願人】 【識別番号】000000941
【氏名又は名称】鐘淵化学工業株式会社
【出願日】 平成11年3月19日(1999.3.19)
【代理人】
【公開番号】 特開2000−273052(P2000−273052A)
【公開日】 平成12年10月3日(2000.10.3)
【出願番号】 特願平11−75088