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【発明の名称】 不斉合成方法および不斉分子認識装置
【発明者】 【氏名】春日 卓

【要約】 【課題】鏡像体(エナンチオマー)が存在する化合物の合成において、一方の異性体のみを選択的に合成することができる不斉合成方法を提供する。また、一方の異性体のみを選択的に検出・定量できる不斉分子認識装置を提供する。

【解決手段】原料となる第1の化合物1の分子構造に適合した形状を有する分子認識孔15を形成する工程と、分子認識孔15に第1の化合物1を取り込ませる工程と、分子認識孔15に取り込まれた第1の化合物1に、特定の方向から第2の化合物2を反応させる工程と、反応生成物3aを分子認識孔15から回収する工程とを有する不斉合成方法。および、上記と同様の分子認識孔15が電極表面に形成された不斉分子認識装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】不斉中心を有し、鏡像体(エナンチオマー)が存在する化合物のいずれか一方の異性体を選択的に合成する不斉合成方法において、原料となる第1の化合物の分子構造に適合した形状を有する分子認識孔を形成する工程と、前記分子認識孔に、前記第1の化合物を取り込ませる工程と、前記分子認識孔に取り込まれた前記第1の化合物に、特定の方向から第2の化合物を反応させる工程と、前記第1の化合物と前記第2の化合物との反応生成物を、前記分子認識孔から回収する工程とを有する不斉合成方法。
【請求項2】前記分子認識孔を形成する工程は、基板上に触媒層を形成する工程と、前記触媒層の上層に、分子認識孔形成層を形成する工程と、前記分子認識孔形成層の上層に、レジストを形成する工程と、前記レジストに所定のパターンを転写する工程と、前記レジストをマスクとして、前記分子認識孔形成層にエッチングを行う工程とを有する請求項1記載の不斉合成方法。
【請求項3】前記分子認識孔形成層は、酸化シリコンからなる請求項2記載の不斉合成方法。
【請求項4】前記分子認識孔形成層は、窒化シリコンからなる請求項2記載の不斉合成方法。
【請求項5】前記分子認識孔形成層は、金属酸化物からなる請求項2記載の不斉合成方法。
【請求項6】前記分子認識孔形成層は、有機高分子膜である請求項2記載の不斉合成方法。
【請求項7】不斉中心を有し、鏡像体(エナンチオマー)が存在する化合物のいずれか一方の異性体を、溶液中から検出する不斉分子認識装置において、溶液中に浸漬された陽極および陰極と、前記陽極および前記陰極に接続する電流計と、前記陽極および前記陰極のいずれか一方の電極表面に形成された、検出の対象となる前記異性体の分子構造に適合した形状を有し、前記異性体を特定の方向からのみ取り込むことが可能である分子認識孔とを有する不斉分子認識装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、不斉中心を有し、鏡像体(エナンチオマー)が存在する化合物の一方の異性体のみを選択的に合成する不斉合成方法、および一方の異性体のみを選択的に検出・定量することができる不斉分子認識装置に関する。
【0002】
【従来の技術】医薬品等に利用される生理活性物質などには、分子内に不斉炭素(炭素原子に結合する4個の基(または原子)がすべて異なる炭素)を有するものが多い。分子中に不斉炭素が存在すると、エナンチオマーあるいはジアステレオマーといった立体異性体が生じる場合がある。本来の生理活性物質とその立体異性体は、代謝酵素の立体選択性などに基づく生体内での代謝の違いから、異なった生理作用を示す場合がある。極端な場合、医薬品成分の立体異性体が催奇形性を有し、薬害問題となることもある。したがって、不斉炭素を有する生理活性物質の人工的な合成を行う場合には、立体選択性をコントロールして、求める立体構造の生成物を選択的に合成できることが好ましい。そのため、立体選択性の高い合成反応の開発が行われてきた。
【0003】式(1)に、二重結合に付加反応を行うことにより、不斉炭素が新たに生じて鏡像体(エナンチオマー)が形成される場合の例(X=O,CH2 ,C(OR)OR’等であり、* は不斉炭素)を示す。
【0004】
【化1】

【0005】原料物質である化合物1に化合物2を反応させると、新たな結合が形成されて互いにエナンチオマーの関係にある化合物3a、3bが一定の比率で生成する。例えば、化合物1においてX=CH2 である場合には、化合物3aまたは化合物3bが合成される経路の遷移状態において立体障害に差がなく、化合物3aと化合物3bが1:1の割合で生成する(ラセミ体)。
【0006】図7は、式(1)に示す反応のエネルギーダイアグラムである。化合物3aが合成される経路を実線で、化合物3bが合成される経路を点線で示す。化合物3aおよび化合物3bが合成される遷移状態のエネルギーに差がない場合には、生成物はラセミ体となる。これらのエナンチオマーは互いに物理的性質が同一であり、分離には比較的複雑なプロセスを要する。
【0007】そこで、予め天然から入手したエナンチオマーのいずれか一方を不斉源として原料物質に用い、医薬品等の生理活性物質を立体選択的に作り分けることが行われている。あるいは、反応を促進する触媒に不斉源を導入し、反応により新たに生成する不斉中心の絶対配置を制御することも行われている。また、不斉分子を化合物に保護基として一時的に導入することにより、生成物の不斉点の絶対配置を制御することも行われている。
【0008】式(2)に、触媒を用いた不斉誘導の例を示す。式(1)の化合物1、2を原料物質とし、不斉置換基R4 * を有する不斉触媒4を反応系に添加して反応が行われる。
【0009】
【化2】

【0010】図8は、式(2)に示す反応のエネルギーダイアグラムである。化合物3aが合成される経路を実線で、化合物3bが合成される経路を点線で示す。図8のエネルギーダイアグラムに示すように、不斉触媒4が存在すると遷移状態5a、5bのエネルギーに差が出ることになる。遷移状態5aと5bは互いにジアステレオマーの関係にあり、エナンチオマーではないため互いにエネルギー状態が異なる。導入された不斉置換基の立体障害などにより、活性化エネルギーEa1、Ea2が異なり、反応速度に顕著な差が生じるため、いずれか一方のエナンチオマーを選択的に生成させることが可能となる。
【0011】式(3)〜式(5)に、不斉保護基を用いた不斉誘導の例を示す。まず、式(3)に示すように反応に先立って、原料物質である化合物1に不斉源となる化合物6を反応させ、化合物1の分子内に一時的に保護基として不斉置換基R5 * を導入する。
【0012】
【化3】

【0013】次に、式(4)に示すように、式(3)の反応により得られた中間生成物7に対し、式(1)に示す化合物2を反応させる。この反応の遷移状態8a、8bは互いにジアステレオマーの関係となり、遷移状態8a、8bのエネルギーが異なるため、活性化エネルギーEa1、Ea2に顕著な差が生じる。
【0014】その後、式(5)に示すように、中間生成物9aから不斉置換基R5 * の脱保護を行うことにより、目的物質である化合物3aが得られる。中間生成物9a、9bは互いにエナンチオマーの関係にあるため、エネルギーを含む物理的性質が同一であるが、式(4)に示す反応において中間生成物9aが大過剰に得られるため、化合物3aが選択的に合成される。
【0015】
【化4】

【0016】
【化5】

【0017】図9は、式(3)〜式(5)に示す反応のエネルギーダイアグラムである。化合物3aが合成される経路を実線で、化合物3bが合成される経路を点線で示す。図9のエネルギーダイアグラムに示すように、不斉置換基R5 * が導入された中間生成物7の活性化エネルギーEa1、Ea2は、遷移状態8aを経る場合と遷移状態8bを経る場合とで大きく異なる。これにより、遷移状態のエネルギーが低い方の化合物が選択的に得られる。
【0018】以下に、エナンチオマーが混在する化合物から、特定の構造の異性体のみを選択的に検出または定量するための従来の方法について説明する。互いにエナンチオマーの関係にある異性体は、旋光性を除く物理的性質が同一であるため、円二色性(CD;circular dichroism)あるいは旋光分散(ORD;optical rotatory dispersion)以外の測定方法では区別することができない。
【0019】したがって、エナンチオマーが混在する試料から、いずれか一方の異性体のみを検出しようとする場合には、通常、液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィー等による分離と、一方の異性体にのみ反応する標識化合物との反応(プレカラムラベル化、あるいはポストカラムラベル化)とを組み合わせて行われる。
【0020】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の従来の不斉合成方法によれば、不斉源となる不斉化合物を原料、あるいは触媒や保護基として使用する必要がある。これらの不斉化合物を得るには合成品から一方のエナンチオマーを分離するか、あるいは、一方のエナンチオマーのみ得られる天然由来の原料から目的化合物を分離精製する必要がある。したがって、大量に入手することが困難であったり、コストが高価になったりする場合が多い。さらに、天然由来の原料を用いると、エナンチオマーが存在する場合であっても、いずれか一方のエナンチオマーしか得られない場合がほとんどである。
【0021】不斉化合物を不斉源とする従来の不斉合成方法については、非常に数多くの研究がなされている。高い収率で目的とする化合物を得るには、膨大な種類の原料物質の探索と、個々の合成反応において反応条件を最適化するための実験が必要である。本発明は上記の問題点を鑑みてなされたものであり、したがって本発明は、鏡像体(エナンチオマー)が存在する化合物の合成において、遷移状態のエネルギーに異性体間で差がない場合にも、一方の異性体のみを選択的に合成することができる不斉合成方法を提供することを目的とする。
【0022】また、前述した従来の不斉分子の認識方法によれば、検出しようとする化合物を試料中から分離し、さらに標識(ラベル化)する工程が必要である。したがって本発明は、エナンチオマーが任意の比率で混合された試料から、一方の異性体のみを選択的に検出・定量することができる不斉分子認識装置を提供することを目的とする。
【0023】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、本発明の不斉合成方法は、不斉中心を有し、鏡像体(エナンチオマー)が存在する化合物のいずれか一方の異性体を選択的に合成する不斉合成方法において、原料となる第1の化合物の分子構造に適合した形状を有する分子認識孔を形成する工程と、前記分子認識孔に前記第1の化合物を取り込ませる工程と、前記分子認識孔に取り込まれた前記第1の化合物に特定の方向から第2の化合物を反応させる工程と、前記第1の化合物と前記第2の化合物との反応生成物を、前記分子認識孔から回収する工程とを有することを特徴とする。
【0024】本発明の不斉合成方法は、好適には、前記分子認識孔を形成する工程は、基板上に触媒層を形成する工程と、前記触媒層の上層に分子認識孔形成層を形成する工程と、前記分子認識孔形成層の上層にレジストを形成する工程と、前記レジストに所定のパターンを転写する工程と、前記レジストをマスクとして、前記分子認識孔形成層にエッチングを行う工程とを有することを特徴とする。
【0025】本発明の不斉合成方法は、好適には、前記分子認識孔形成層は酸化シリコンからなることを特徴とする。あるいは、本発明の不斉合成方法は、好適には、前記分子認識孔形成層は窒化シリコンからなることを特徴とする。あるいは、本発明の不斉合成方法は、好適には、前記分子認識孔形成層は金属酸化物からなることを特徴とする。あるいは、本発明の不斉合成方法は、好適には、前記分子認識孔形成層は有機高分子膜であることを特徴とする。
【0026】これにより、不斉合成の原料となる第1の化合物を特定の配置で固定(捕捉)し、その第1の化合物に対して特定の方向から第2の化合物を接近させることができる。したがって、反応により生じる不斉中心の絶対配置を制御することが可能となる。本発明の不斉合成方法において、化合物分子を捕捉するための分子認識孔は、半導体装置の製造に用いられる微細加工技術を利用して形成することができる。具体的には、リソグラフィ技術やエッチング技術を含む微細パターン形成方法や、分子認識孔の断面形状の加工方法等の微細加工技術、さらに、半導体装置の製造における多様な薄膜形成技術等から、個々の不斉合成に適した方法を適宜選択することが可能である。したがって、分子認識孔を任意の形状に加工することができる。
【0027】また、上記の目的を達成するため本発明の不斉分子認識装置は、不斉中心を有し、鏡像体(エナンチオマー)が存在する化合物のいずれか一方の異性体を、溶液中から検出する不斉分子認識装置において、溶液中に浸漬された陽極および陰極と、前記陽極および前記陰極に接続する電流計と、前記陽極および前記陰極のいずれか一方の電極表面に形成された、検出の対象となる前記異性体の分子構造に類似した形状を有し、前記異性体を特定の方向からのみ取り込むことが可能である分子認識孔とを有することを特徴とする。
【0028】これにより、エナンチオマーや他の化合物が混在する試料中から、クロマトグラフィー等の分離操作や、標識(ラベル)化の反応を行わずに、特定の構造の異性体のみ検出することが可能となる。また、本発明の不斉分子認識装置によれば、検出しようとする異性体が電極上の分子認識孔に固定されると、電極間に電流が流れる。したがって、電流計を用いて電流を測定することにより化合物の定量を行うことも可能である。
【0029】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の不斉合成方法および不斉分子認識装置の実施の形態について、図面を参照して説明する。本発明は、半導体集積回路の製造に用いられる最新の微細加工技術を利用して、不斉化合物の合成、あるいは分子の立体構造の認識を行うものである。微細加工技術により、立体選択的な反応を行うことができる人工的な反応サイトを形成する。例えば、半導体製造技術等で利用されている微細加工技術と同様に、荷電粒子ビームを用いて固体表面に分子構造の一部または全部と同様な三次元構造を形成する。
【0030】これにより、原料化合物の分子は反応が行われる固体表面(例えば触媒層)に、特定の方向からしか接近できなくなる。原料化合物の分子を特定の方向に配向させ、反応を人工的な反応サイト内で進行させることにより、不斉源となる化合物を用いずに不斉化合物を合成することが可能となる。半導体製造技術に用いられる微細加工技術によれば、線幅や解像度の条件が満たされる範囲で任意のパターンを形成することが可能である。したがって、互いにエナンチオマーの関係にある化合物を選択的に作り分けることも可能となる。
【0031】また、本発明においては微細加工技術により分子の一部または全体の三次元構造に適合する孔を加工し、特定の分子の認識が可能な検知素子を形成する。現在、最先端の半導体微細加工技術は、分子量の大きい生理活性物質1分子の大きさにほぼ匹敵する、nmオーダーの大きさの構造を任意に形成できるレベルにある。
【0032】(実施形態1)図1に本発明の不斉合成装置の概略図を示す。この装置は、不斉合成の原料物質および溶媒が充填された反応槽11と、不斉合成が行われる反応サイトを含む分子認識機構12から構成される。反応槽11は不斉合成の反応速度を高くするため、温度コントローラー13および撹拌装置14により最適温度に調整される。分子認識機構12の表面には、微視的には、分子サイズレベルの微細な分子認識孔15が微細加工技術により人工的に設けられている。分子認識孔15の形状は、反応分子および遷移状態の構造に基づいて、最適な構造に設計される。
【0033】分子認識孔15の内部には反応触媒層16が形成される。反応触媒層16に用いられる触媒材料としては、例えばMn、Fe、Co、Cu、Ni、Pt等の各種金属およびその合金等が挙げられる。分子認識孔15は分子認識孔形成材料層15’に開口を設けることにより形成されており、分子認識孔形成材料層15’としては、例えば、SiO2 、SiN等のSi化合物薄膜、金属酸化物薄膜、有機ポリマー膜(フッ素系樹脂も含む)等が挙げられる。
【0034】これらの材料を選択することにより、半導体装置の製造における成膜技術や、リソグラフィ技術によるパターニング工程を含む高精度なエッチング等の微細加工技術を、分子認識孔15の形成に適用することが可能となる。分子認識孔形成材料層15’には、不斉合成反応に対して不活性であり、かつ容易に成膜や加工が行えるものを選択する。
【0035】(実施形態2)図1の分子認識孔15を分子認識機構12の表面に人工的に形成する方法について、図2〜図3を参照して説明する。この方法では、荷電粒子ビームによるパターン形成と、エッチングによるパターンの転写を行い、分子サイズレベルの微細な孔を無数に形成する。まず、図2(A)に示すように、反応触媒層16を基板17上に、例えばメタルCVD(chemical vapor deposition)法あるいはスパッタリング等の方法により成膜する。その上層に、分子認識孔15が形成される材料層(分子認識孔形成材料層15’)を、例えばCVD法により積層させる。さらに、分子認識孔形成材料層15’の上層に荷電粒子ビーム感光レジスト18を成膜する。
【0036】次に、図2(B)に示すように荷電粒子ビームをパターンに沿って照射した後、図2(C)に示すように、現像により荷電粒子ビーム感光レジスト18をパターニングする。図2(C)には照射部が現像液に可溶化するポジ型の場合を示したが、照射部が現像液に不溶化するネガ型の感光レジストであってもよい。続いて、図3(A)に示すように、パターニングされた荷電粒子ビーム感光レジスト18をマスクとして、分子認識孔形成材料層15’にエッチングを行う。これにより、分子認識孔15が形成される。その後、図3(B)に示すように荷電粒子ビーム感光レジスト18を、例えばアッシング処理により除去する。
【0037】さらに、図3(C)に示すように、分子認識孔形成材料層15’に形成された分子認識孔15の内壁を含む全面に、例えば分子認識孔形成材料層15’に用いることができる材料等を薄く成膜して被覆層19を形成し、より口径の小さい分子認識孔15としてもよい。また、分子認識孔15の形状を、不斉合成を行う際の原料化合物の立体構造に類似させるために、分子認識孔形成材料層15’に開口を設けた後、断面に選択的に成膜を行ってもよい。以上の工程により、立体選択的な不斉合成を行うための分子認識孔15が形成される。
【0038】(実施形態3)図4および図5に、人工分子認識サイトを用いた本発明の不斉合成方法の反応機構を模式的に表す。前述した式(1)のように表される、原料化合物1に対する化合物2の付加反応を例として説明する。図4(A)に示すように、人工分子認識機構の表面に設けられた分子認識孔は、原料物質(化合物1)が特定の配置でのみ吸着されるよう設計されている。本実施形態においては、原料物のRe−faceが上側となる配置で分子認識孔に取り込まれるように微細加工が施されている。
【0039】図4(B)に示すように、化合物1の分子に対する反対側からのアプローチ、すなわち、Si−faceが上側となる配置では、置換基R2 の立体的障害により化合物1が分子認識孔内に取り込まれることはない。図5(A)に示すように、化合物1が分子認識孔15内に取り込まれた状態で、分子認識機構12の基板17上に形成されている触媒層(触媒物質)16に化合物1の反応中心が接近する。その結果、図5(A)に示すように、化合物1のRe−faceに対する化合物2の反応が触媒存在下で進行し、化合物3aが生成する。
【0040】一方、図5(B)に示すように、化合物1のSi−faceに対する化合物2の反応は、化合物1と化合物2が接近・衝突することはあり得ても、触媒存在化での衝突は起こらないため、反応速度が著しく小さい。したがって、本実施形態の不斉合成方法によれば、遷移状態(図5(A)に示す状態)を経て化合物3aが選択的に生成され、エナンチオマーである化合物3bの生成は防止される。
【0041】逆に、化合物3bを選択的に合成したい場合には、分子認識孔15を反転させた形状で形成すればよく、例えば天然物から精製する場合のように、エナンチオマーの一方しか得られないという問題が解消される。微細加工技術によれば、原料となる化合物あるいは生成する化合物の絶対配置に適合するように、分子認識孔の形状を任意に加工することが可能である。したがって、本発明の不斉合成方法を化合物合成の種々の反応に適用すれば、不斉合成の自由度を高くすることができる。
【0042】(実施形態4)本発明の不斉合成方法における分子認識孔の形成方法を利用して、特定の化合物を選択的に検出することができる検知素子(センサー)を形成することができる。図6に、人工分子認識孔を電極(本実施形態においては陽極)上に形成した、不斉分子認識装置の概略図を示す。図6は、溶液中から特定の化合物を検出する場合に用いられる不斉分子認識装置の例である。
【0043】図6に示す装置は、化合物の検出を行う試料溶液が注入される溶液槽21と、溶液槽中に浸漬された電極(陽極22および陰極23)、電極に接続された電源24および電流計25を有する。陽極22の表面は、基板17上に分子吸着層16’および分子認識孔形成材料層15’が積層された構造となっており、上記の実施形態1〜3と同様、分子認識孔形成材料層15’に分子認識孔15が設けられている。
【0044】検出しようとする化合物をR6 *-+ とする。陽極上に、検出しようとする化合物の解離したイオンR6 *-のみがアプローチできる微細孔を、微細加工技術を用いて形成しておく。R6 *-が存在すると、電極反応が生じてイオン電流が流れる。このイオン電流を電流計25を用いて測定する。上記の反応を式(6)に示す。
【0045】
【化6】

【0046】上記の本発明の実施形態の不斉分子認識装置によれば、溶液中に特定の化合物が存在するかどうか確認することができる。また、イオン電流を測定することにより、特定の化合物の含有量を調べることもできる。
【0047】本発明の不斉合成方法および不斉分子認識装置の実施形態は、上記の説明に限定されない。例えば、分子認識孔を形成する工程において、エッチングの異方性を制御することにより、分子認識孔を断面がテーパ状となるように形成してもよい。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【0048】
【発明の効果】本発明の不斉合成方法によれば、反応により生じる不斉中心の絶対配置を不斉源となる原料あるいは保護基、触媒等を用いずに制御することが可能となる。また、本発明の不斉合成方法によれば、半導体装置の製造に用いられる微細加工技術を利用して、任意の形状の分子認識孔を加工することができ、広範な反応に適用することが可能である。
【0049】本発明の不斉分子認識装置によれば、目的とする異性体を試料中から分離したり、標識化合物との反応を行わずに、一方のエナンチオマーのみ選択的に検出・定量することが可能となる。
【出願人】 【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニー株式会社
【出願日】 平成10年12月9日(1998.12.9)
【代理人】 【識別番号】100094053
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 隆久
【公開番号】 特開2000−169398(P2000−169398A)
【公開日】 平成12年6月20日(2000.6.20)
【出願番号】 特願平10−349830