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【発明の名称】 包接複合体を製造するための塩の選別法
【発明者】 【氏名】イェスーク・キム

【要約】 【課題】包接複合体を製造するための塩の選別法を提供すること。

【解決手段】化合物の1種類またはそれ以上の塩を探索する方法であって、該塩のシクロデキストリンへの溶解度は所望の標的溶解度と等しいまたはより大であり、該化合物の塩の系列を得、該系列中のそれぞれの塩の該シクロデキストリン水溶液への平衡溶解度を測定し、そしてそれぞれの測定された溶解度と該標的溶解度とを比較することを含む上記方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 以下の方法:化合物の1種類またはそれ以上の塩を探索する方法であって、該塩のシクロデキストリンへの溶解度は所望の標的溶解度と等しいまたはより大であり、該化合物の塩の系列を得、該系列中のそれぞれの塩の該シクロデキストリン水溶液への平衡溶解度を測定し、そしてそれぞれの測定された溶解度と該標的溶解度とを比較することを含む上記方法;を用いて探索したまたは選択された化合物の塩およびシクロデキストリンを含む、組成物。
【請求項2】 以下の方法:特定の医薬品化合物の塩の系列の範囲内から、該塩およびシクロデキストリンを含む物質の組成物を製造する場合に用いるのに有用な塩を決定する方法であって、a.該系列の塩を得;
b.該系列中の該塩それぞれの、シクロデキストリン水溶液への平衡溶解度を測定し;そしてc.該シクロデキストリン溶液への溶解度が所望の標的溶解度と等しいまたはより大の該系列中の塩を有用な塩として選別することを含む上記方法;を用いて探索したまたは選択された化合物の塩およびシクロデキストリンを含む、組成物。
【請求項3】 以下の方法:特定の医薬品化合物の塩の系列の範囲内から、該塩のシクロデキストリン中包接複合体を含む物質の組成物を製造する場合に用いるのに有用な塩を決定する方法であって、a.治療的効力に必要な該医薬品化合物の量を決定し;
b.医薬品化合物の該量を投与するための最大全用量を選択し;
c.該最大全用量を製剤化するのに必要な該化合物の塩の最小限必要な溶解度を計算し;
d.該系列の塩を得;
e.該塩のそれぞれの該シクロデキストリンへの平衡溶解度を測定し;そしてf.該シクロデキストリン溶液への平衡溶解度が、該最大全用量と等しいまたはそれ未満の全用量を製造させるのに十分である該系列からの塩を有用な塩として選別することを含む上記方法;を用いて探索したまたは選択された化合物の塩およびシクロデキストリンを含む、組成物。
【請求項4】 前記塩および前記シクロデキストリンの物理的混合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】 前記塩および前記シクロデキストリンの物理的混合物である、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】 前記塩および前記シクロデキストリンの物理的混合物である、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】 前記シクロデキストリンと一緒に複合体形成された前記塩の予備成形乾燥包接複合体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】 前記シクロデキストリンと一緒に複合体形成された前記塩の予備成形乾燥包接複合体である、請求項2に記載の組成物。
【請求項9】 前記シクロデキストリンと一緒に複合体形成された前記塩の予備成形乾燥包接複合体である、請求項3に記載の組成物。
【請求項10】 水溶液である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】 水溶液である、請求項2に記載の組成物。
【請求項12】 水溶液である、請求項3に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、医薬品化合物の塩およびシクロデキストリンを含む物質の組成物を製造する場合に用いるための該塩を選別する方法に関する。特に、本発明は、シクロデキストリン水溶液中に極めて溶解性である塩を探索する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】薬剤剤形の製剤化は、しばしば、目的の薬物の不十分な水溶性および/または安定性によって妨げられ、それが次に、その治療的用途を厳しく制限することがある。逆に、適当な製剤化による薬物溶解性および安定性の増加は、それによって、薬物の増加した治療的効率をもたらすことがある。薬物の溶解性および安定性を増加させるために、有機溶媒、エマルジョン、リポソームおよびミセルの使用、製剤溶媒系のpHおよび誘電率の調整、化学修飾、並びにシクロデキストリンなどの適当な複合体形成剤を用いる薬物の複合体形成のような種々の方法が用いられてきた。
【0003】シクロデキストリンは、時には、シャルジンガーデキストリンと称され、ビラーズ(Villiers)によって、ジャガイモデンプンに対するバチルス・アミロバクター(Bacillus amylobacter)の消化物として1981年に最初に単離された。シクロデキストリン化学の基礎は、シャルジンガー(Schardinger)によって1903〜1911年の間に築かれた。しかしながら、1970年まで、実験室では少量のシクロデキストリンしか製造できなかったし、しかもその高い製造費用が、産業におけるシクロデキストリンの利用を妨げていた。近年、シクロデキストリン製造および精製において劇的な改良がなされ、シクロデキストリンははるかに安価になったし、それによってシクロデキストリンの産業用途が可能になった。
【0004】シクロデキストリンは、外面上にヒドロキシル基および中心に空洞を有する環状オリゴ糖である。それらの外面は親水性であり、したがって、通常、それらは水溶性であるが、その空洞は親油性を有する。大部分の一般的なシクロデキストリンは、それぞれ、6、7および8α−1,4−結合グルコース単位から成るα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンである。これらの単位数は空洞の寸法を決定する。
【0005】シクロデキストリンは、その空洞中に分子全体またはその若干の部分を取込むことによって広範囲の疎水性分子と一緒に包接複合体を形成することができる。形成された複合体の安定性は、ゲスト分子がシクロデキストリン空洞中にいかに十分に適合しているかに依る。一般的なシクロデキストリン誘導体は、α−、β−およびγ−シクロデキストリンのヒドロキシエチル誘導体のアルキル化(例えば、メチル−およびエチル−β−シクロデキストリン)若しくはヒドロキシアルキル化により、または主要なヒドロキシル基をサッカライド(例えば、グルコシ−およびマルトシル−β−シクロデキストリン)によって置換することにより形成される。β−シクロデキストリンに対するプロピレンオキシド付加によるヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンおよびその標品、並びにβ−シクロデキストリンに対するエチレンオキシド付加によるヒドロキシエチル−β−シクロデキストリンおよびその標品は、グラメラ(Gramera)らの特許(1969年8月発行の米国特許第3,459,731号明細書)で20年以上前に記載された。
【0006】シクロデキストリンは、極めて多数の化合物の溶解性、分散速度および/または安定性を増加させるのに用いられてきたが、シクロデキストリン複合体形成が不可能であるかまたは何の利点も生じない多数の薬物が存在することもまた知られている。J.セチュリ(Szejtli)、Cyclodextrins in Drug Formulations:Part II,Pharmaceutical Technology,24-38,1991年8月を参照されたい。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】多数の医薬品化合物は、塩形成が可能である場合、それらの薬学的に許容しうる塩の一つまたは別の形で投与される。このような塩全てが水性基剤中に自由に可溶性ではないが、しかしながら、それによって、目的の塩とシクロデキストリンとの複合体形成は、しばしば、塩の水溶性を増加させる手段として探求される。従来、薬物の塩は簡単に解離することによってシクロデキストリン含有水性基剤中に溶解して、荷電した薬物分子および対イオンを生成すること、および解離した(すなわち、荷電した)薬物分子は、シクロデキストリンと一緒に包接複合体を形成するゲスト分子であることが考えられる。この結果は、特定のシクロデキストリン中のある与えられた薬物の塩の中では、平衡溶解度に差がないという確信である。したがって、特定の水性シクロデキストリン中の特定の薬物について溶解状態図を作成する場合(すなわち、シクロデキストリン濃度の関数としての水性シクロデキストリン中の薬物塩の最大平衡溶解度のプロット)、薬物の種々の塩は、同様の勾配を有する線として描かれるはずである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、化合物の1種類またはそれ以上の塩を選別し、選択しまたは探索する方法であって、該塩のシクロデキストリンへの溶解度は所望の標的溶解度と等しいまたはより大であり、該化合物の塩の系列を得、該系列中のそれぞれの塩の該シクロデキストリン水溶液への平衡溶解度を測定し、そしてそれぞれの測定された溶解度と該標的溶解度とを比較することを含む上記方法を提供する。所望の標的溶解度より大の平衡溶解度を有する1種類または複数の塩は、したがって、1種類または複数の所望の塩であるように選択される。
【0009】シクロデキストリンの使用に精通している者は、塩を形成するであろう、シクロデキストリンと一緒に複合体を形成するであろう、そして不十分な水溶性を有する任意の医薬品化合物に対して本発明が適応性を有することを理解するであろう。
【0010】類似の態様において、本発明は、特定の医薬品化合物の塩の系列の範囲内から、該塩およびシクロデキストリンを含む物質の組成物を製造する場合に用いるのに有用な塩を決定する方法であって、a.該系列の塩を得;
b.該系列中の該塩それぞれの、シクロデキストリン水溶液への平衡溶解度を測定し;そしてc.該シクロデキストリン溶液への溶解度が所望の標的溶解度と等しいまたはより大の該系列中の塩を有用な塩として選別することを含む上記方法を提供する。
【0011】本発明は、更に、医薬品化合物の薬学的に許容しうる塩およびシクロデキストリンを含む物質の組成物であって、該塩が上記方法によって探索されたまたは選択された上記組成物を提供する。好ましい実施態様において、該組成物は、シクロデキストリン中に複合体形成された塩の包接複合体である。
【0012】本明細書中で用いられる「物質の組成物」という言いまわしは、特に、乾燥した物理的混合物であり、乾燥した包接複合体であり、そして溶解した包接複合体の水溶液である医薬品化合物およびシクロデキストリンの組成物を包含する。例えば、該組成物は、乾燥シクロデキストリンと物理的に混合された医薬品化合物の乾燥混合物を含むことができる。組成物は、好ましい実施態様において、該組成物が、後で還元することができるシクロデキストリンによって複合体形成された化合物の(予備成形された)包接複合体を含むように、凍結乾燥されたまた他の方法で、例えば、真空オーブン中若しくは他の適当な装置で乾燥された水溶液を更に含むことができる。組成物はまた、溶液自体、すなわち、医薬品化合物とシクロデキストリンと水とを含むことができる。包接複合体は、それらが予備成形されようと、in situ 成形されようと、または in vivo 成形されようといずれにせよ、「物質の組成物」という用語の範囲内である。
【0013】更に具体的な実施態様において、本発明は、特定の医薬品化合物の塩の系列の範囲内から、該塩のシクロデキストリン中包接複合体を含む物質の組成物を製造する場合に用いるのに有用な塩を決定する方法であって、a.治療的効力に必要な該医薬品化合物の量を決定しまたは選択し;
b.医薬品化合物の該量を投与するための最大全用量を決定しまたは選択し;
c.該最大全用量を製剤化するのに必要な該化合物の塩の最小限必要な溶解度を計算し;
d.該系列の塩を得;
e.該塩のそれぞれの該シクロデキストリンへの平衡溶解度を測定し;そしてf.該シクロデキストリンへの平衡溶解度が、該最大全用量と等しいまたはそれ未満の全用量を製造させるのに十分である該系列からの塩を有用な塩として選別することを含む上記方法を提供する。
【0014】化合物の「塩の系列」に対する上記論及は、当然ながら、該化合物が塩形成可能であるべきであることを意味する。更に、「特定の医薬品化合物の塩の系列」という専門用語は、特定の医薬品化合物の任意の2種類またはそれ以上の異なる塩を意味する。該系列は、一つの群として集めることができるし、そしてその塩のいずれかが、有用な塩/シクロデキストリン組成物を製造するのに有用であるかどうかを確認するために「平行して」試験することができるし、またはその群のそれぞれのメンバーを別々に、例えば、異なった時間でおよび異なった場所で試験することができる。塩の系列は、任意の方法で、例えば、それらを製造することによってまたは販売業者にそれらの予備製造を注文することによって「得る」ことができる。「塩」という用語は、概して、薬学的に許容しうる塩を意味する。塩は、無水物でありうるし、または水和物などの1種類若しくはそれ以上の溶媒和化合物の、それらの混合物を含めた形でありうる。塩は、種々の多形型で存在しうる。
【0015】本明細書中で用いられる「所望の標的溶解度」とは、試験される化合物に必要な、通常は予め決定されるかまたは予め選択される最小溶解度でありうる。必要な最小溶解度は、概して、治療的必要性に基いて選択されるであろう。例えば、化合物(「化合物X」)20mgを非経口的に注射によって投与するのが望ましいこと、および注射時の痛みを最小限にするために2ml以下の注射容量を投与することが望ましいことを想定されたい。したがって、化合物Xの塩は、「有用」であるために、選択された水性シクロデキストリン中において、溶解度が活性型の化合物Xの10mg/mlに等しいまたはより大である必要があると考えられる。
【0016】塩のある与えられた系列の範囲内で最も可溶性の塩は、ある与えられた用途に対して最も有用な候補でなくてもよい。化学的安定性、吸湿性および沈殿の可能性などの因子も考えられうるが、標的溶解度より大であるが系列中で測定される最大値未満の溶解度を有する候補の選択のために考慮される。
【0017】一方、時々、特定の化合物の塩の系列中の全ての塩から最高溶解度を有する塩を見つけることが単に望まれることが実際にある。この場合、「所望の標的溶解度」は、単に、種々の塩候補中での平衡溶解度の比較によって塩の系列中で見出された最高溶解度である。例えば、化合物Xの塩の包接複合体を用いてカプセル剤または錠剤などの乾燥経口剤形を製造することが望まれる場合、剤形中の包接複合体の量を最小限にすることによって剤形自体の大きさを最小限するために、利用可能な最も可溶性の塩を見つけることが単に望まれることがありうる。
【0018】「最大全用量」とは、剤形が目的としている患者または患者集団を考慮して、剤形中に含まれるべき賦形剤および液剤(例えば、注射用)を含めた用量の最大寸法を意味する。典型的に、注射用の最大全用量は、成人に対して約2mlであると考えられる。錠剤またはカプセル剤の最大全用量は、典型的に、その剤形が飲込み可能であることを確実にするように2グラムである。寸法、重量および容量は、それらが特定の患者集団に応じて変化しまたは変動しうるという意味を有する。
【0019】本発明は、特に、特定のシクロデキストリン対して、特定の化合物のシクロデキストリン水溶液への溶解度が、用いられた塩と無関係ではないという発見に基く。すなわち、同じ化合物の種々の塩は、しばしば、同じシクロデキストリン中で広く異なった溶解度を示すことがある。同じシクロデキストリン中において化合物の種々の塩によって示された示差的な溶解度現象は、当該技術分野においてこれまで知られていなかった。更に、溶解度の等級順序、すなわち、シクロデキストリン水溶液中の塩の系列の溶解度の順序の増加または減少は、必ずしも塩の水への溶解度の順序と相関しないことが確認された。
【0020】特定のシクロデキストリン中での種々の塩のこのような示差的溶解度の発見は、シクロデキストリン含有水溶液中の電離性化合物の全溶解度が、溶液中に様々な形で存在する化合物の種類全部の溶解度の総和であるということを示す従来の知見によれば、驚くべきことであり且つ意外であった。シクロデキストリン含有溶液中において、これは、下記の式、全薬物溶解度=非電離型の遊離薬物部分+非電離型の複合薬物部分+遊離型の荷電薬物部分+複合型の荷電薬物部分によって表すことができる。
【0021】更に、従来、塩の形の電離性化合物は、式、【0022】
【化1】

【0023】(式中、【0024】
【化2】

【0025】であり、DHXは塩基性化合物の酸付加塩であり、DH+は溶液中の荷電型であり、X-は対イオンであり、Dは溶液中の非電離型であり、H+は溶液のpHによって指定されるプロトン濃度であり、そしてKaは解離定数である)によって記載されるように、その溶解度によって生成物を解離させることによって水溶液中に溶解すると考えられる。したがって、特定の化合物に対して、種々の塩の形は、Kspによって指定される種々の水性溶解度を有すると考えられる。上記式は、更に、一定の電離状態(すなわち、一定のpH)において、特定の化合物に対する種々の塩の形の内での溶解度の差は、特定のシクロデキストリンの存在下でも不存在下でも同じであるはずであるということを示す。したがって、相溶解度ダイヤグラムを、シクロデキストリン濃度の関数として、特定のシクロデキストリンを含有する水溶液中の特定の化合物に対して作成する場合、該化合物の種々の塩は、異なる切片を有するが同じ勾配を有する線として描かれるはずである。したがって、従来の確信に基いて、対イオンは複合体形成過程において役割を果たさないと考えられるので、特定の化合物の種々の塩が、同じシクロデキストリン中に示差的に溶解すると考える根拠はない。
【0026】更に、示差的溶解度の現象は、それが、特定の化合物の種々の塩の系列を試験し且つ望まれる高い溶解度を与える塩を選択し、それによってシクロデキストリンへの可溶性がより小さい塩に相対してより少ない量のシクロデキストリンの使用を可能にすることにより、シクロデキストリン中のその化合物の添加量を増加させる能力を可能にするので重要である。その現象は、水中の一定濃度の包接複合体を想定して、適当な極めてシクロデキストリン可溶性の塩を選択することによって注射容量を減少させることができるので、非経口(すなわち、注射による)投与の場合に特に重要である。上記のように、極めてシクロデキストリン可溶性の塩を探索することにより、本発明は、更に、シクロデキストリンへの可溶性がより小さい塩の包接複合体の量に相対して同様により少ない量の包接複合体を用いることにより、(錠剤およびカプセル剤などの)乾燥剤形の寸法を減少させる機会を提供する。
詳細な考察患者に対して投与される医薬品化合物の量は有効量である。その量、経口、非経口等のような投与方式、および投薬計画(例えば、用量を分割するかどうかおよび投与回数)は、当然ながら、投与される化合物、患者集団等によって変化するであろう。特定の製剤中で用いられるシクロデキストリンの量は、生物学的利用能を増加させる量であろう。少量のシクロデキストリンは、混合物である剤形中に存在する場合でも、包接複合体を in vivo で形成することによって生物学的利用能を向上させ、したがって、非複 合体形成薬物に相対してその薬物の生物学的利用能を増加させることができる。概して、製剤中のシクロデキストリンの量は、通常、シクロデキストリン対薬物のモル比が0.1:1〜100:1、好ましくは、0.25:1〜10:1、更に好ましくは、0.5:1〜5:1であるようにある。製剤が水溶液である場合、それは、シクロデキストリンを広範囲の濃度で、例えば、5重量%(w/v)〜100重量%(w/v)を越えるまで含むことができる。高濃度のシクロデキストリンでは、製剤は幾分粘稠になり且つエリキシル剤またはシロップ剤として経口投与しやすい。
【0027】本発明は、概して、現在知られているものを含めたシクロデキストリンに適用できる。有用なシクロデキストリンとしては、α、βおよびγシクロデキストリン、メチル化シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPBCD)、ヒドロキシエチル化β−シクロデキストリン(HEBCD)、1個または2個のグルコースまたはマルトースがシクロデキストリン環に対して酵素的に結合している分岐状シクロデキストリン、エチル−およびエチルカルボキシメチルシクロデキストリン、ジヒドロキシプロピルシクロデキストリン、並びにスルホアルキルエーテルシクロデキストリンがある。置換度は臨界的であるとは考えられないが、ここに述べたシクロデキストリンは、本質的に、当該技術分野において知られている(シクロデキストリン分子全体につき)いくらかの置換度を有することがありうる。シクロデキストリンの混合物も、一つの種類も、本発明によって剤形を製造するのに適している。
【0028】HPBCDは当該技術分野において周知であり、例えば、ヤンセン・バイオテク(Janssen Biotech)N.V.からの「Encapsin HPB」と称する公報R81216号を参照されたい。SBECDもまた知られており、どちらもステラ(Stella)らによる且つどちらも本明細書中にそのまま援用される米国特許第5,376,645号明細書および同第5,134,127号明細書で開示された。
【0029】塩形成が可能な化合物の薬学的に許容しうる酸または塩基付加塩は、慣用法によって当該技術分野において知られているように、当然ながら、該化合物が酸付加塩を生成するかまたは塩基付加塩を生成するかどうかに応じて適宜に、約1化学当量の薬学的に許容しうる酸または塩基によって該化合物の溶液または懸濁液を処理することによって製造することができる。その塩が(例えば、結晶質として)自然に沈殿する場合、濾過によるような慣用法によって塩を単離することができるし、またはさもなければ、濃縮および/または非溶媒の添加によって単離することができる。例えば、以下の実施例で用いられた塩は、最初に、一定量のジプラシドン(ziprasidone)遊離塩基を秤量し、そしてそれを溶媒、典型的には有機溶媒、水、または2種類若しくはそれ以上の溶媒の混合物に対して加えることによって製造された。用いられた1種類または複数の溶媒は、塩をスラリーから単離するかまたは溶液から単離するのが望ましいかどうかに依存しうる。塩を溶液から単離するのが望ましい場合、溶媒は、撹拌しながら加熱して、溶解を促進することができる。所望の対イオンに対応して約1モル当量の酸または塩基を適宜に、または僅かに過剰に、撹拌しながら加える。簡単な実験によって測定することができる時間、典型的には何時間かの後、固体を濾過によって集め且つ洗浄することができる。
【0030】化合物の薬学的に許容しうる塩の包接複合体は、既知の方法によって慣用的に形成されうる。すなわち、所望の薬学的に許容しうる塩の包接複合体は、所望の濃度の製品溶液を製造するのに十分な量のシクロデキストリンの水(または他の適当な薬学的に許容しうる水性基剤)中予備製造溶液に対して塩を直接的に加えることによって in situ 形成されうる。或いは、薬物およびシクロデキストリンを、水に対して別個にまたは混合物として一緒に加えることができる。製品溶液は、包接複合体の保存寿命に応じて、直ちに用いるかまたは(室温でまたは低温で)貯蔵することができる。薬学的に許容しうる保存剤または他の賦形剤を加えて、化学的、物理的または微生物分解に対して剤形を安定にさせることができる。SBECDをシクロデキストリンとして用いる場合、SBECDは、概して、その未知塩の形で用いられるので、その製品溶液は、患者に対して投与するのに(溶液が貯蔵されていた場合は室温まで再加温して)、必要とされる等張性に調整することなくそのまま用いることができる。等張性を調整する必要がある場合、それは、当該技術分野において知られているように、適当な量の等張性調整剤を加えることによって調整することができる。
【0031】或いは、水性シクロデキストリン中の塩の包接複合体を、通常は凍結乾燥によって最初に単離することができる。単離された包接複合体は、その保存寿命の間(通常、少なくとも2年間)室温で貯蔵し、そして必要に応じて調製して製品溶液にすることができる。製品溶液が必要とされる場合、それは、単離された包接複合体を、患者に対する経口、非経口または他の投与経路に必要な濃度の溶液を生じるのに十分な量の水または他の水性基剤中に溶解させることによって製造することができる。等張性を調整することが必要ならば、それは、当該技術分野において知られているように慣用的に、等張性調整剤を加えることによって達成されうる。
【0032】或いは、薬物の塩およびシクロデキストリンを含む固体物理混合物は、経口摂取後に胃腸液中に溶解する錠剤またはカプセル剤の形で製造されうる。このような混合物は、更に、口腔用、舌下用、鼻腔用、局所用または経皮用剤形中に包含されうる。このような組成物はまた、軟質ゼラチンカプセル剤中に液剤または懸濁剤として包含されうる。
【0033】ある与えられたシクロデキストリン中の種々の塩の異なった溶解度の現象は一般的である。本発明は、任意の特定の化合物、化合物の種類、または任意の特定のシクロデキストリンに限定されない。むしろ、本発明は、塩に対して一般的に適用できる。更に、本発明は、任意の特定の剤形または投与経路に限定されない。むしろ、本発明は、化合物の塩の増加した溶解度が望まれる時はいつでも有用である。
【0034】例示のために、以下の考察は、構造【0035】
【化3】

【0036】を有する具体的な化合物ジプラシドンに関する。それは、米国特許第4,831,031号明細書で開示され、神経弛緩薬として有用性があり、したがって、抗精神病薬として有用である。当業者は、当然ながら、ジプラシドンの塩に関する内容が、概して他の塩にも同 様に適用できることを理解するであろう。
【0037】シクロデキストリン(SBECDおよびHPBCD)中の種々のジプラシドンの溶解度試験は、それぞれの塩の、等量のシクロデキストリン中の最大平衡溶解度を比較することによって行われた。多数の種々の実験プロトコルを想定し且つ実行することができる。以下のプロトコルは、平衡塩溶解度の比較のための標準溶液として40%水性シクロデキストリンを用いるが、その濃度は限定されると考えるべきではない。比較標準として役立てるために、他の濃度も用いることができる。用いられたHPBCDは、ワカー・ケミー(Wacker Chemie)から商業的に購入された。用 いられたSBECDは、米国特許第5,376,645号明細書の実施例3で記載されたもののラインに沿った方法によって製造されたβ−シクロデキストリン1分子当たり平均6.5のスルホブチル基による置換度を有する。
【0038】シクロデキストリン(SBECDまたはHPBCD)の水中40%(w/v)溶液は、脱イオン水約250mLおよび電磁撹拌棒が入っている500mLビーカーにシクロデキストリン200gを加えることによって製造された。内容物を、シクロデキストリンの水への分散が完全になるまで撹拌し、通常は約1時間で十分であった。次に、溶液を500mLメスフラスコに移し、そして脱イオン水を標線まで加えた。容量測定された溶液から5mLを、ねじ込みキャップ付きの10mLガラスバイアルに中にピペットで移した。過剰の固体ジプラシドン塩試験候補および電磁撹拌棒をバイアルに加えた。バイアル内容物は、平衡に達するのに十分な時間の余裕をみるために周囲温度で4日間撹拌した。電磁撹拌機からはずした時点で、試料は存在する未溶解固体を有し、用いられた条件下での飽和溶液を示した。内容物を清浄なねじ込みキャップ式バイアル中に Millex-GS 0.2μmフィルターを介して濾過し、そして薬物濃度をHPLC法によって測定した。
【0039】HPLC検定の例として、溶解した化合物の量は、0.05Mリン酸二水素カリウム緩衝液60%およびメタノール40%から成る無勾配移動相を40℃において流速2mL/分で用いるC18 Puresil(ウォーターズ・アソシエーツ(Waters Associates) の登録商標)カラムを用いることによって測定することができる。検出は、229nmの波長での紫外線吸収によることができる。定量化は、HPLCピーク高さ(または面積)と、既知の濃度の標準のピーク高さ(または面積)に対する濃度の標準プロットから得られたピーク高さ(または面積)との比較によって容易に行うことができる。従来通り、ジプラシドン標準濃度は、用いられた紫外線検出器の吸光度に対する直線範囲の濃度の範囲内にあるように選別される。バイアル試験溶液を濾過した後に得られた飽和平衡溶液は、標準プロットの直線範囲に達するように連続様式で希釈される必要がありうるし、そして希釈は、無勾配移動相を加えることによって行うことができる。
【0040】上記手順はまた、他の濃度のシクロデキストリン中のジプラシドンの溶解度を測定するのに用いられた。これを行い且つデータを用いて種々のジプラシドン塩について溶解状態図を作成することにより、溶解状態図はそれぞれの塩に対して直線であるが勾配は異なることが確認され、それによって、種々のジプラシドン塩は同じシクロデキストリン中で異なる平衡溶解度を有することがありうることが確認された。種々のジプラシドン塩についてこれを行うことによって作成された溶解状態図を図1で示す。
【0041】上記HPLC手順(カラムおよび無勾配移動相を含む)を用いて、多数のジプラシドン塩を試験して、40%HPBCD中および40%SBECD中のそれぞれの平衡溶解度を測定した。結果を表1で報告する。
【0042】
【表1】

【0043】注記:mgAは、遊離塩基として計算されたジプラシドンの(mgでの)重量を示し、分子量=412.9;NT=試験されなかったβ−シクロデキストリンスルホブチルエーテル(SBECD)の分子量:2163;40%(w/v)=400g/L=0.18M;
ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPBCD)の分子量:1309;40%(w/v)=400g/L=0.31M前述のように、塩の系列の水への溶解度の順序は、シクロデキストリン水溶液への溶解度の順序と必ずしも平行していない。表1はこの点を例示する。例えば、ジプラシドンのエシレート塩は、タルトレートの2倍も水溶性である。これらの同様の2種類の塩の溶解度は、水性HPBCD中でほぼ同様であり、そして水性SBECD中では逆になる。
【0044】表1は、試験された特定のジプラシドン塩候補およびシクロデキストリン溶液について、ジプラシドンの最も高い溶解度はジプラシドンメシレートを40%SBECD中に溶解させることによって達成されうることを示す。ジプラシドン80mg/日のジプラシドンの治療用量を患者に対して供給するには、必要とされる40%溶液の量を以下のように計算することができる。
【0045】80mgA/日 × 1ml/44mgA = 1.8ml/日したがって、本発明を用いると、ジプラシドンの塩について上記で具体的に例示したように、治療的に有用な塩包接複合体、すなわち、所望の治療用量の化合物を供給する包接複合体を探索することができる。
【0046】図1から判るように、ジプラシドン塩溶解度は、水中のシクロデキストリン濃度の関数として直線的である。これは、水性シクロデキストリン中に溶解しうる特定の塩の最大量を、当該技術分野において知られているように、このような溶解状態図から直接的に(すなわち、検量プロットとして適当な線を用いて)測定するこができるし、または適当な線の勾配(およびそれが非ゼロである場合、y切片)が計算された場合に計算することができることを例示している。
【0047】前述のように、包接複合体は、患者に対する経口または非経口投与用、通常は筋肉内投与用に製剤化されうる。皮下および静脈内投与も適している。包接複合体はまた、慣用的な形で、例えば、錠剤、カプセル剤、経口懸濁剤用の散剤、および1回用量を含有する単位用量パケット(当該技術分野において「サシェ(sachet)」と称される)として経口投与されうる。それらはまた、口腔用または舌下用錠剤として、鼻腔用スプレー剤として、局所用クリーム剤中で、経皮パッチで、および坐剤として投与されうる。
【0048】以下の実施例は、本発明を更に開示し且つ例証する。
【0049】
【実施例】実施例1および2は、ジプラシドンを用いて本発明を例証する。
実施例1SBECD溶液300mg/mlを、水などの薬学的に許容しうる水性基剤中にSBECDを溶解させることによって調製する。ジプラシドンメシレートをそのSBECD溶液中に溶解させて、濃度を27.3mg/ml(20mgA/ml)にする。0.2μmフィルターを介して溶液を滅菌濾過する。濾過した溶液をガラスバイアルに入れて、経口によってまたは筋肉内、静脈内若しくは皮下経路によって投与することができる製品溶液を製造する。
実施例2製品溶液を実施例1で記載のように製造する。製品溶液が入っているガラスバイアルを凍結乾燥器中に入れ、そして製品溶液を凍結乾燥させる。バイアルおよびそれらの凍結乾燥した内容物を室温で必要になるまで貯蔵し、必要な時点で、それらを経口によってまたは筋肉内、静脈内若しくは皮下経路によって投与するために水または薬学的に許容しうる水性緩衝液によって還元する。
【0050】以下の実施例は、特定の包接複合体が特定の用量を供給する投薬量を計算する仕方、そして更に、注射容量を最小限にする仕方を例証する。
実施例3不十分に(水に)可溶性の薬物である化合物Aは、分子量350のカルボン酸である。それは、成人に対して75mgA/日(「mgA」は、遊離酸である活性化合物のミリグラムを意味する。)および子供に対して25mgA/日の好ましい用量で投与される。塩基付加塩の下記の系列は、40%(w/v)水性シクロデキストリン中でそれぞれに示された溶解度を有する。
【0051】
遊離酸 2mgA/ml塩A 13mgA/ml塩B 38mgA/ml塩C 52mgA/ml塩D 37mgA/ml塩E 5mgA/ml成人に対して2ml以下および子供に対して0.5ml以下の注射用として投与するための標的用量を決定する。塩B(75mgAを供給するのに2.0ml注射)および塩C(75mgAを供給する注射用量1.4ml)は成人に適していることが確認される。他の塩は全て25mg供給するのに0.5mlより多く必要なので、塩Cだけが子供に適している(25mgAを供給するのに0.48ml)。
実施例4−ジプラシドンメシレートジプラシドン遊離塩基1gを、イソプロピルアルコール20mLに対して加えた後、メタンスルホン酸140mgを加えた。数分後、生成されたスラリーは、それが沈殿するにつれて濃厚になり且つ色が若干明るくなった。5μmポリテトラフルオロエチレン膜を介する濾過によって塩を集めた。
実施例5−ジプラシドンエシレートジプラシドン遊離塩基1gを、THF 45mLおよび水1mLに対して加え、そして混合物を撹拌しながら60℃まで加熱した。混合物を60℃で2時間保持し、その時点で、遊離塩基は全て溶解した。エタンスルホン酸156mgを加え、撹拌を60℃で更に2時間持続した。この間に、混合物は淡橙色から曇った状態になり、その時点で加熱を止め、そして塩が沈殿し始めた。混合物を、撹拌を続けながら室温まで一晩中冷却した。次に、実施例5の場合と同様に濾過によって塩を集めた。
実施例6−ジプラシドンタルトレートジプラシドン遊離塩基1gを水60mLに対して加え、得られたスラリーを撹拌しながら50℃まで3時間加熱した。L−酒石酸900mgを加えた。50℃での加熱および撹拌を更に6時間続けた後、混合物を40℃で一晩中撹拌した。次に、溶液を冷却し、そして実施例5の場合と同様に塩を集めた。
【出願人】 【識別番号】593141953
【氏名又は名称】ファイザー・インク
【出願日】 平成9年5月6日(1997.5.6)
【代理人】 【識別番号】100089705
【弁理士】
【氏名又は名称】社本 一夫 (外4名)
【公開番号】 特開2000−86539(P2000−86539A)
【公開日】 平成12年3月28日(2000.3.28)
【出願番号】 特願平11−291178