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【発明の名称】 不斉誘導化試薬化合物
【発明者】 【氏名】大類 洋

【氏名】赤坂 和昭

【要約】 【課題】不斉識別・分離能を高め、しかも蛍光特性をより顕著なものとした不斉誘導化試薬と、これを用いた不斉識別・分離の方法を提供する。

【解決手段】次式(1)
【特許請求の範囲】
【請求項1】 次式(1)
【化1】

(R1 およびR2 は、いずれか一方が水素原子を、他方が炭化水素基を示し、Xは、水素原子もしくは活性有機酸残基を示し、ピレン環は有機置換基を有していてもよいことを示す)で表わされる不斉誘導化試薬化合物。
【請求項2】 請求項1の不斉誘導化試薬化合物を、次式(2)
【化2】

(RaおよびRbは、各々別異の有機置換基を示し、nは0または1以上の数を示す)で表わされる不斉分枝カルボン酸誘導体と反応させて次式(3)
【化3】

で表わされるエステル化合物を合成して不斉分枝カルボン酸誘導体を不斉識別することを特徴とする不斉識別方法。
【請求項3】 不斉識別がHPLC分離として行われる請求項2の不斉識別方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この出願の発明は、不斉誘導化試薬化合物とこれを用いた不斉識別方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】従来より不斉誘導化法は、光学分割のための間接的手法の一つとして最もよく知られている方法である。この方法は、キラル化合物に対して不斉誘導化試薬を反応させてジアステレオマーに誘導して光学異性体を分析するという手法により構成されている。
【0003】しかしながら、数多くの不斉誘導化試薬がこれまでに報告されているものの、対象とするキラル化合物のキラル中心が、導入した不斉誘導化試薬のキラル中心から構造的に離れている場合には、ジアステレオマー誘導化体の分離、分析が極めて難しく、分離、分析が不可能な場合も少くないという問題がある。たとえば、次式【0004】
【化4】

【0005】で表わされるようなキラル中心を持つカルボン酸化合物の場合には、キラル誘導化試薬によりエステル化反応させてジアステレオマーに誘導したとしても、キラル中心が相互に離れすぎてしまうため、キラル識別ができず、光学異性体をHPLC、GC等で分離することができないという問題があった。そこで、この出願の発明者は、以上のとおりの従来技術の問題点を解消し、キラル中心が相互に離れた位置となる場合にも効果的にキラル分析することのできる不斉誘導化試薬として次のアントラセン化合物を開発し、これを用いた方法を提案した。
【0006】
【化5】

【0007】(式中のRaおよびRbは、各々、水素原子、または炭化水素基を示し、Rは、水素原子、もしくは有機酸残基を示し、かつ、RaおよびRbがともに水素原子であることはなく、RaおよびRbが結合する炭素原子1および炭素原子2の少くともいずれかがキラル中心となることを示す)
このアントラセン化合物は、前記の分枝カルボン酸化合物のようなキラル中心が構造的に離れている場合でも良好な不斉分離性を有し、しかもアントラセン環構造部が蛍光性を示すことから蛍光識別に有用であることが発明者らによって明らかにされている。
【0008】発明者らは、このアントラセン化合物について検討を進める過程において、その不斉識別・分離能をより高め、しかも蛍光特性をより顕著にすることが可能ではないかと考え、このことを課題として鋭意検討を進めてきた。
【0009】
【課題を解決するための手段】この出願の発明は、以上のとおりの課題を解決するものとしてなされたものであって、次式(1)
【0010】
【化6】

【0011】(R1 およびR2 は、いずれか一方が水素原子を、他方が炭化水素基を示し、Xは、水素原子もしくは活性有機酸残基を示し、ピレン環は有機置換基を有していてもよいことを示す)で表わされる不斉誘導化化合物試薬を提供する。また、この出願の発明は、前記の不斉誘導化試薬化合物を、次式(2)
【0012】
【化7】

【0013】(RaおよびRbは、各々別異の有機置換基を示し、nは0または1以上の数を示す)で表わされる不斉分枝カルボン酸誘導体と反応させて次式(3)
【0014】
【化8】

【0015】で表わされるエステル化合物を合成して不斉分枝カルボン酸誘導体を不斉識別することを特徴とする不斉識別方法と、不斉識別がHPLC分離として行われる不斉識別方法とを提供する。
【0016】
【発明の実施の形態】この出願の発明は、前記のとおりの特徴を有するものであるが、以下にその実施の形態について説明する。前記の式(1)で表わされるこの発明の不斉誘導化試薬化合物は、符号R1 およびR2 のいずれか一方がキラル中心となる特有な構造を有している。そして、CH−π、π−π相互作用の蛍光発色基としてのイミド環を持つピレン環構造を有してもいる。
【0017】式(1)における符号R1 およびR2 は、いずれか一方が水素原子で他方が炭化水素であるが、この場合の炭化水素基は、たとえばアルキル基、シクロアルキル基、アリール基であり、これらは不斉誘導化を阻害しない適宜な有機置換基を有していてもよい。同様にピレン環も炭化水素基をはじめとする適宜な有機置換基を有していてもよい。
【0018】符号Xは水素原子または活性有機酸残基であって、反応活性なエステルを形成する有機酸残基でもよいことを示している。このような活性有機酸残基としては、たとえばトリフルオロメタンスルホン酸残基:−SO2 CF3 等がある。式(1)で表わされる不斉誘導化試薬化合物は、たとえばピレンジカルボン酸無水物を、H2 N−CR1 −CR2 −OHで表わされるアミノアルコール化合物と反応させてジカルボキシイミド化合物に変換して前記符号Xが水素原子の化合物とすることや、さらにこの化合物を活性有機酸と反応させてエステル化合物を合成し、符号Xが活性有機酸残基を示す化合物とすることにより製造することができる。
【0019】もちろん、これ以外の合成経路による製造も様々に可能とされる。そして式(1)で表わされるこの発明の不斉誘導化試薬化合物は、キラル分子の不斉識別、そのジアステレオマーの光学異性体の分離に有効に使用されることになる。この化合物は、発明者らがすでに提案している前記のアントラセン型試薬よりも良好な識別・分離特性を有し、しかもより強い蛍光強度を与えるものである。
【0020】特に、この発明の不斉誘導化試薬としての式(1)で表わされる化合物は、式(2)で表わされ、RaおよびRbが結合する炭素原子がキラル中心となる不斉化合物の不斉識別・分離に有用なものである。式(2)の不斉分枝カルボン酸誘導体では、符号RaおよびRbは、各々が異なる有機置換基を示し、この有機置換基としては、たとえばアルキル基、アリール基、等の炭化水素基や、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボニルオキシ基等である。RaおよびRbが炭化水素基である場合は、各々は相違している。
【0021】このように、キラル中心が構造的に不斉誘導化試薬のキラル中心より離れている不斉分枝カルボン酸誘導体の不斉識別・分離が効率的に可能とされ、しかも強い蛍光強度が検知可能とされることは特筆されるべきことである。そこで以下に実施例を示し、さらに詳しくこの発明について説明する。
【0022】
【実施例】(実施例1)不斉誘導化試薬化合物の合成次の反応式に沿って不斉誘導化試薬化合物を合成した。
【0023】
【化9】

【0024】<1>Acepyrenequinone(2)の合成滴下漏斗及び塩化カルシウム乾燥管を付した500mlの三口フラスコにAlCl3 10.01g、pyrene5.00g、及びジクロロメタン300mlをとり、氷冷下を激しく攪拌しながら(COCl)2 3.81g加えた。滴下終了後、6時間氷冷を続け、更に室温で20時間以上反応させた。反応終了後、氷水中に注ぎ、500mlのクロロホルムで10回抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮し、シリカゲルカラム(1kg、トルエン/酢酸エチル=40:1)で精製し、オレンジ色結晶を得た(収量1.92g、収率30.3%)。
<2>Pyrene−1,10−dicarboxylic acid (3)の合成Acepyrenequinone(2)1.92gをジオキサン60mlに溶解し、氷冷しながら、2NNaOH溶液18ml及び30%過酸化水素溶液15mlを加え、室温で26時間攪拌した。反応終了後、希硫酸溶液を加え酸性とし、Pyrene−1,10−dicarboxylic acid (3)を淡黄色粉末として得た(収量2.0g、収率93.0%)。
<3>Pyrene−1,10−dicarboxylic anhydride(4)の合成Dean−Stark 管及び冷却管を付した三口フラスコにPyrene−1,10−dicarboxylic acid (3)660mgをとり、無水酢酸400mlを加え8時間加熱還流させた。加熱を続けながらDean−Stark 管より溶媒を除いた(約150ml)後、ゆっくりと室温まで冷却し、黄色針状結晶を得た(収量490mg、収率79.0%)。
<4>(S)&(R)−2−(1,10−pyrenedicarboximido)−1−propanol(S−5&R−5)の合成Dean−Stark 管及び冷却管を付した三口フラスコにPyrene−1,10−dicarboxylic anhydride(4)80mg、及びトルエン100mlをとり、加熱還流させながら、(S)−2−amino −1−propanol或いは(R)−2−amino −1−propanolを0.5ml、及び1−ブタノール5mlを加え、17時間還流を続けた。反応後、Dean−Stark 管より溶媒をできるだけ除き、酢酸エチルを加え水洗した後、硫酸マグネシウムで乾燥させ減圧濃縮しシリカゲルカラム(50g、トルエン/酢酸エチル=10:1)で精製し、黄色結晶を得た(S−5:収率70.2%、R−5:収率69.5%)。
<5>(S)&(R)−1−(1,10−pyrenedicarboximido)−2−propanol(S−6&R−6)の合成Dean−Stark 管及び冷却管を付した三口フラスコにPyrene−1,10−dicarboxylic anhydride(4)80mg、及びトルエン100mlをとり、加熱還流させながら、(S)−1−amino −2−propanol或いは(R)−1−amino −2−propanolを0.5ml、及び1−ブタノール5mlを加え、17時間還流を続けた。反応後、Dean−Stark 管より溶媒をできるだけ除き、酢酸エチルを加え水洗した後、硫酸マグネシウムで乾燥させ減圧濃縮しシリカゲルカラム(50g、トルエン/酢酸エチル=10:1)で精製し、黄色結晶を得た(S−6:収率73.8%、R−6:収率67.8%)。
【0025】反応プロセス<4><5>により合成した化合物5(S,R)並びに6(S,R)の物性値並びに蛍光特性は次のとおりであった。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】(実施例2)実施例1により得られた化合物5および6の不斉誘導化試薬を用いて、次の反応式に沿ってエステル化合物を合成することでキラルな分枝カルボン酸誘導体の不斉識別を行った。
【0029】
【化10】

【0030】すなわち、試薬及び分枝カルボン酸をジクロロメタンに溶解後、ジメチルアミノピリジン(DMAP)及びジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を加え、室温で脱水縮合反応を行い、エステルへと導き、反応後、生成したエステル誘導体をTLCで分離・精製を行った後、HPLC分析に供した。HPLC条件は次のとおりとした。
【0031】
【表3】

【0032】2−(1,10−pyrenedicaroboximido)−1−propanol(5)及び1−(1,10−pyrenedicaroboximido)−2−propanol(6)の各々のHPLC不斉識別の結果を表4と図1並びに表5と図2に示した。
【0033】
【表4】

【0034】
【表5】

【0035】試薬5の場合に図1に示したように5−methylheptanoateを2本のピークへと分離することができなかったが、それ以外には、試薬5および試薬6のいずれの試薬によっても、2〜6位にメチル基とエチル基による不斉を有する分枝カルボン酸の誘導体は異なった保持時間を与え、HPLCにより不斉識別されていることが確認された。特に、試薬6は、6−methyloctanoanteを除き、アントラセンイミド型試薬よりも良好な分離特性を示した。また、試薬5により6−methyloctanoanteが最も良く分離した。いずれにおいても、ピレン型試薬は相当するアントラセン型試薬よりも良好な分離特性を与えた。
【0036】一方、ピレンイミド型試薬はメタノール中でアントラセンイミド型試薬より3倍強い蛍光強度を与え、HPLCの蛍光検出において10-16 〜10-15 molレベルの検出が可能となることがわかった。
【0037】
【発明の効果】この出願の発明により、以上詳しく説明したとおり、不斉識別・分離能を高め、しかも蛍光特性をより顕著なものとした、新しいピレン型不斉誘導化試薬と、これを用いた不斉識別・分離の方法が提供される。
【出願人】 【識別番号】396020800
【氏名又は名称】科学技術振興事業団
【出願日】 平成10年8月19日(1998.8.19)
【代理人】 【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
【公開番号】 特開2000−63292(P2000−63292A)
【公開日】 平成12年2月29日(2000.2.29)
【出願番号】 特願平10−232969