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【発明の名称】 ビニル系ポリマー製造工程におけるモノマー回収率の向上方法
【発明者】 【氏名】柏原 邦夫

【氏名】中島 定男

【要約】 【課題】ビニル系ポリマー製造工程におけるモノマー回収系のモノマーの重合を抑制し、モノマー回収率の向上を図るとともに、回収系から排出されるオリゴマーを含む重質分の抜出量を低減し、さらに回収系分溜塔の温度を高めて運転効率を上げることのできる方法を提供する。

【解決手段】ビニル系ポリマー製造工程におけるモノマー回収系に、ニトロキシルラジカル類を添加することを特徴として構成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ビニル系ポリマー製造工程におけるモノマー回収系に、ニトロキシルラジカル類を添加することを特徴とするモノマー回収率の向上方法。
【請求項2】 ニトロキシルラジカル類が、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル及び4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルから選ばれた1種以上である請求項1記載のビニル系ポリマー製造工程におけるモノマー回収率の向上方法。
【請求項3】 ビニル系ポリマー製造工程が、ポリスチレン製造工程あるいはアクリロニトリル/ブタジエン/スチレンコポリマー製造工程である請求項1乃至2記載のビニル系ポリマー製造工程におけるモノマー回収率の向上方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ビニル系ポリマー製造工程におけるモノマー回収系においてモノマーの重合を抑制することにより、該回収系でのモノマー回収率を向上させ、併せてモノマー回収塔の運転効率を高める方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレンコポリマー、スチレン/ブタジエンコポリマー、ブタジエン/アクリロニトリルコポリマーなどビニル系ポリマー製造工程においては、重合工程の後にポリマー中に残存している未反応モノマー、およびオリゴマーを分離・除去しポリマーの品質向上を図っている。
【0003】一方、分離したモノマーおよびオリゴマーは、回収系にて分溜し精製モノマーは重合系に戻し、オリゴマーを含む重質分は分溜塔ボトムより抜き出している。このモノマーおよびオリゴマーには多量のラジカルが含まれており、純粋のモノマーに比べると遥かに重合活性が高い状態となっている。従って回収系、特にその分溜塔で熱が加わるとモノマーの一部が重合し、モノマー回収率の低下や、装置内での汚れの原因となる。そこで従来は回収系の温度を低く抑えるなど運転条件を緩和して対処してきた。重合禁止剤を添加する方法は、このモノマーやオリゴマーの重合活性が大きいために充分な効果が発揮せず、効果を上げようとすると多量の添加が必要となる。さらに精製モノマーに重合禁止剤が混入すると重合工程に影響を及ぼすことが懸念されるなど、重合禁止剤を使用することはなかった。しかし、このモノマーの回収工程においては、かなりの量のモノマーが重合し、無駄に排気されているのが実情である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、ビニル系ポリマー製造工程におけるモノマー回収系のモノマーの重合を抑制し、モノマー回収率の向上を図るとともに、回収系から排出されるオリゴマーを含む重質分の抜出量を低減し、さらに回収系分溜塔の温度を高めて運転効率を上げることのできる方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、モノマー回収系に、微量のニトロキシルラジカル類を添加することにより、その目的を達成しうることを見いだし本発明をなすに至った。
【0006】すなわち、本請求項1の発明は、ビニル系ポリマー製造工程におけるモノマー回収系に、ニトロキシルラジカル類を添加することを特徴とするモノマー回収率の向上方法であり、請求項2の発明は、ニトロキシルラジカル類として2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル及び4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルから選ばれた1種以上を添加することによるビニル系ポリマー製造工程におけるモノマー回収率の向上方法であり、請求項3の発明は、ビニル系ポリマー製造工程が、ポリスチレン製造工程あるいはアクリロニトリル/ブタジエン/スチレンポリマー製造工程であるビニル系ポリマー製造工程におけるモノマー回収率の向上方法である。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明で用いるニトロキシルラジカル類は、好ましくは分子中にピペリジン骨格を有するものであり、具体的には2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル等が挙げられる。ニトロキシルラジカル類は1種類を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0008】本発明方法におけるビニル系ポリマー製造工程は、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリイソプレン、ポリブタジエン、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレンコポリマー、スチレン/ブタジエンコポリマー、ブタジエン/アクリロニトリルコポリマーなどの製造工程である。
【0009】本発明方法におけるモノマー回収系は、これらビニル系ポリマー製造工程におけるポリマーから分離した未反応モノマーとオリゴマーの混合物から未反応モノマーを回収する系である。該回収系に入る成分は、モノマーおよびオリゴマーであるが、その中に多量のラジカルを含み、さらに重合開始剤を含んでいることもあり、極めて重合反応が進み易い状態となっている。その結果、モノマー回収系、特に熱の加わるモノマー分溜塔ではモノマーの一部が重合して消費されオリゴマーなどの重質成分となっていく。本発明方法におけるニトロキシルラジカル類は、系中のラジカルと効率的に反応し、該ラジカルを消滅させ、重合を抑制する作用を有している。
【0010】ニトロキシルラジカル類の添加場所は、モノマー回収系で重合の起きている場所より上流部の任意の場所であり、例えばポリマーより分離したオリゴマーを含むモノマーを一時的に貯蔵する回収槽、モノマー分溜塔へのフィードラインなどである。回収モノマーが重合するのは分溜塔内が多いことを考慮すると、モノマー分溜塔のフィードラインに連続的に注入するのが好ましいといえる。
【0011】ニトロキシルラジカル類は、適当な溶媒に溶かした溶液として工程に添加するのが実用上好ましい。このとき用いる溶媒は、その工程上許容される溶媒から選ばれ、例えばポリスチレン工程の場合にはスチレンモノマーに、ポリアクリロニトリルの場合にはアクリロニトリルモノマー、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレンコポリマー工程の場合にはスチレンモノマー、あるいはアクリロニトリルモノマーである。その溶液濃度は任意に選ばれ、用いる溶媒、適用上の状況により適宜決められる。
【0012】ニトロキシルラジカル類の添加量は、ビニルモノマーの種類、工程条件などにより異なり一律に規定できないが、目安としては該モノマーおよびオリゴマー混合物に対し1〜100ppm、好ましくは、5〜50ppmである。ニトロキシルラジカル類を100ppmより多く添加しても、その添加量に見合った効果の向上がみられず、経済的な見地から不利なことがある。
【0013】このように、ニトロキシルラジカル類は、少ない添加量で大きな重合抑制効果を発揮するので、実用上極めて有利である。
【0014】本発明方法において、本発明本来の効果が損なわれない限りにおいて、ニトロキシルラジカル類と共に他の公知の重合禁止剤を併用することは何ら妨げるものではない。
【0015】本発明方法によりニトロキシルラジカル類を添加することによって、モノマー回収系での重合が抑制されるので、回収系より抜かれる重質分の量が少なくなり、回収モノマー量が増えることとなる。さらにモノマー分溜塔の温度を従来より高くすることが可能となり、回収系の運転効率を高くすることができる。
【0016】
【実施例】次に、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0017】(テストに用いた重合禁止剤)
H−1:4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルH−2:4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルH−3:2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルTBC:ターシャリーブチルカテコールDNP:ジニトロフェノール【0018】(テスト方法)
実施例1ポリスチレン重合工程における重合後に分離した未反応モノマーおよびオリゴマーの混合液200gに、ニトロキシルラジカル類を所定量加え、30mmHgの減圧下110℃で4時間還流加熱した。次いで、この液に9倍量(重量)のメタノールを加えて液中のポリマーを析出させた。1μmPTFEメンブランフィルター〔東洋濾紙(株)製〕で濾過しポリマーを濾別し、分離ポリマーを105℃にて2時間乾燥した後、秤量し、生成ポリマー量を求めた。ポリマー量は、用いた混合液に対しての重量%に換算し表1に示した。
【0019】比較例として、ニトロキシルラジカル類を全く加えないで加熱温度90℃、あるいは110℃とした場合、およびニトロキシルラジカル類の代わりに従来公知の重合禁止剤を10000ppm添加し、加熱温度110℃の場合について同様に行った。
【0020】
【表1】

【0021】比較例1実施例1におけるポリスチレン重合工程で分離した未反応モノマーおよびオリゴマーの混合液の代わりに、純度の高いスチレンモノマー〔和光純薬(株)試薬〕を用いて、同様の方法で生成ポリマー量を求めた。表2にこの結果を示した。
【0022】
【表2】

【0023】実施例2アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂製造工程における重合後に分離した未反応モノマーおよびオリゴマーの混合液〔モノマー中のアクリロニトリルとスチレン混合比は、概略1:2(重量比)であった〕200gに、ニトロキシルラジカル類を所定量加え、40mmHgの減圧下110℃で4時間還流加熱した。次いで、この液に9倍量(重量)のメタノールを加えて液中のポリマーを析出させた。1μmPTFEメンブランフィルター〔東洋濾紙(株)製〕で濾過しポリマーを濾別し、分離ポリマーを105℃にて2時間乾燥した後、秤量し、生成ポリマー量を求めた。ポリマー量は、用いた混合液に対しての重量%に換算し表3に示した。
【0024】比較例として、ニトロキシルラジカル類を全く加えないで加熱温度90℃、あるいは110℃にした場合、およびニトロキシルラジカル類の代わりに従来公知の重合禁止剤を10000ppm添加し、加熱温度110℃の場合について同様に行った。
【0025】
【表3】

【0026】実施例1および比較例1のテスト結果から、モノマー回収系でのモノマーおよびオリゴマーの混合液は、高純度モノマーに比べて極めて重合が進む易いことがわかる。また、実施例1および2のテスト結果から、モノマー回収系での未反応モノマーおよびオリゴマーの混合液に重合禁止剤を添加しない場合には、110℃になるとポリマー生成量が多くなるが、本発明のニトロキシルラジカル類を加えることにより110℃でもポリマー生成は低く抑えられることがわかる。
【0027】
【発明の効果】本発明方法により、ビニル系ポリマー製造工程におけるモノマー回収系のモノマーの重合を抑制することができ、モノマー分溜塔でのモノマー回収率を向上させ、併せて該分溜塔の運転効率を高めることができる。
【出願人】 【識別番号】000234166
【氏名又は名称】伯東株式会社
【出願日】 平成10年8月11日(1998.8.11)
【代理人】 【識別番号】100085109
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 政浩
【公開番号】 特開2000−53594(P2000−53594A)
【公開日】 平成12年2月22日(2000.2.22)
【出願番号】 特願平10−226398