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【発明の名称】 カルボニル化合物の立体選択的還元
【発明者】 【氏名】ジャック・ディー・ブラウン

【氏名】ロバート・オー・カイン

【氏名】マイケル・イー・コパック

【要約】 【課題】中間体及び最終医薬生成物の調製のために必要とされている、所望の光学的に活性なアルコールを生産するための立体選択的及び立体特異的な還元方法であって、使用する試薬の量が少なく、約50℃以下、好ましくは約45℃以下の温度で、経済的に可能な期間で行うことができ、高収率で、所望でない光学的異性体に対する所望である光学異性体の比率も高い方法を提供する。

【解決手段】カルボニル化合物の対応する光学活性アルコールへの立体選択的還元方法であって、キラル中心と、プロキラル炭素原子を有するカルボニル基を有する化合物を、メーヤワイン・ポンドルフ・バーレー(MPV)仲介物質と、約50℃又はそれ未満の温度で、過剰量の所望の光学活性アルコールを生成させるのに十分な時間接触させる方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 カルボニル化合物の対応する光学活性アルコールへの立体選択的還元方法であって、キラル中心と、プロキラル炭素原子を有するカルボニル基を有する化合物を、メーヤワイン・ポンドルフ・バーレー(MPV)仲介物質と、約50℃又はそれ未満の温度で、過剰量の所望の光学活性アルコールを生成させるのに十分な時間、接触させる方法。
【請求項2】 該MPV仲介物質が、化学量論量未満の量で存在し、水素供与体を、化学量論量の少なくとも約2倍の量で添加する、請求項1記載の方法。
【請求項3】 強酸の存在下で実施する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】 該酸が、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などのC1-5アルキルスルホン酸、及びトリフルオロメタンスルホン酸からなる群から選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】 該MPV仲介物質が、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムtert−ブトキシド、アルミニウムフェノキシド、及びアルミニウムsec−ブトキシドからなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】 該MPV仲介物質が、アルミニウムsec−ブトキシド又はアルミニウムイソプロポキシドである、請求項5記載の方法。
【請求項7】 該水素供与体が、アルコールである、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】 該アルコールが、イソプロパノールである、請求項7記載の方法。
【請求項9】 該MPV仲介物質が、化学量論量又はそれ以上の量で存在し、該方法を、アルコール性溶媒又は反応物質の非存在下で行う、請求項1記載の方法。
【請求項10】 カルボニル化合物が、該カルボニル基のプロキラル炭素原子に隣接したキラル炭素原子を有する、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】 該カルボニル化合物が、式:【化1】

〔式中、R1及びR2は、独立して、ヒドロカルビル基であり;Xは、Cl、F、Br、又はIであり;そして*は、キラル炭素原子を表す〕で示される化合物の群から選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】 R1が、ヒドロカルビル−CO−NH−であり;そして*、R2及びXが、請求項11記載のとおりである、請求項11記載の方法。
【請求項13】 R2が、アルキル、アリール、アラルキル、アリールチオ、又はアリールチオアルキルである、請求項11又は12記載の方法。
【請求項14】 R1が、式:【化2】

〔式中、mは、0、1、又は2であり;Zは、H、又はN−保護基であり;Yは、独立して、場合により保護されたα−アミノ酸残基である〕で示される基であり;そしてR2が、アリールチオ、アリールチオアルキル、又は場合により保護されたα−アミノ酸側鎖である、請求項11記載の方法。
【請求項15】 カルボニル化合物が、メチル〔3−クロロ−2−オキソ−(S)−1−(ベンジル)−プロピル〕−カルバマートである、請求項1〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】 カルボニル化合物が、ベンジル〔3−クロロ−2−オキソ−(R)−1−(フェニルチオメチル)−プロピル〕カルバマートである、請求項1〜14のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、カルボニル化合物の対応する光学活性アルコールへの立体選択的還元方法に関する。
【0002】
【従来の技術】アルデヒド及びケトンを、対応するヒドロキシ化合物へ還元する反応の重要なものは、メーヤワイン・ポンドルフ・バーレー(MPV)反応であり、これは、多くの場合、還元剤及び酸化剤の両方が、金属アルコキシド触媒の金属中心に配位する環式の6員の遷移状態を介して進行する。
【0003】伝統的には、還元反応の仲介物質として、アルミニウム化合物は、触媒量(化学量論量未満の量)では使用されてきていない。リガンド交換が、通常は緩徐すぎるからである。替わりに、化学量論量のアルミニウム触媒が必要とされている(De Graauw, C.F., et al. (1994),“Meerwein-Ponndorf-Verley Reductions and Oppenauer Oxidations: An Integrated Approach,”Synthesis (October 1,1994) 10: 1007-1016)。
【0004】また伝統的には、水素供与体としてアルコールが反応で使用されてきた。
【0005】
【化3】

【0006】反応速度を上げるためには、仲介物質として、アルミニウムイソプロポキシドが部分的にジイソプロポキシアルミニウムクロリドで置き換えられて使用されてきた(De Graauw, et al.〔1994〕supra)。しかし、化学量論量のアルミニウム化合物を使用する必要がある。
【0007】反応を早めるためには、MPV仲介物質として、アルミニウム化合物の替わりにより少量のランタニド、サマリウム、ジルコニウム、及びハフニウム錯体を使用することが報告されている(De Graauw, C.F., et al.〔1994〕supra)。
【0008】このような反応のためには、酸化アルミニウムの替わりにMPV仲介物質として、トリフルオロメタンスルホン酸の希土類元素塩もまた使用されている(Castellani, C.B., et al. (1993),“Rare earth trifluoromethanesulphonates ascatalysts in some Meerwein-Ponndorf-Verley type reductions”, J. Molec.Catalysis 85:65-74)。この論文は、配位性の低い対イオンを使用することにより、カチオンのサイズの減少と共に、反応速度が上昇することを報告している。スカンジウムトリフルオロメタンスルホナートが、報告されている最良の触媒である。しかし、この試薬の費用を考慮すると、商業的スケールでの使用が制限される。
【0009】ベンズアルデヒドのベンジルアルコールへの還元と組み合わせたシクロヘキサノールのシクロヘキサノンへの酸化においては、トリフルオロ酢酸(THA)とその他のプロトン酸(塩酸、プロピオン酸及びフルオロスルホン酸)により、化学量論的モル比未満(0.5当量に関して)で、反応速度が上昇することが報告されている。しかし、TFA−酸化アルミニウム混合物が、アルドール縮合の強力な触媒であるため、この方法を合成に適用することは、制限される(Kow, R.,et al.〔1977〕,“Rate Enhancement of the Meerwein-Ponndorf-Verley-Oppennauer Reaction in the Presence of Proton Acids”J. Org. Chem. 42: 826-828)。
【0010】化学量論量のトリフルオロ酢酸(TFA)を加えることにより、ある種の、アルミニウムイソプロポキシド仲介MPV還元反応が、室温で約15分間で進行することを可能とすることが報告されている(Akamanchi, K.G. and Varalakshmy,N.R.〔1995〕,“Aluminum Isopropoxide - TFA, a Modified Catalyst for Highly Accelerated Meerwein-Ponndorf-Verley (MPV) Reduction”, TetrahedronLetters 36: 3571-3572)。
【0011】同一の研究者が、高度に反応性なアルデヒドであるp−ニトロベンズアルデヒドの対応するアルコールへの室温でのMPV還元において、イソプロピルアルコール1モル当量を使用することにより、アルミニウムイソプロポキシドのモル比を、0.0833に、TFAのモル比を0.0032にまで低下させることが可能となることを報告している(Akamanchi, K.G. and Varalakshmy, R.N.〔1995〕,“Truly Catalytic Meerwein-Ponndorf-Verley〔MPV〕Reduction”, Tetrahedron Letters, 36:5085-5088)。同一の論文には、ケトンでは、より長い反応時間が必要である、例えばシクロヘキサノンでは6時間、そしてその他のケトンでは22〜24時間が必要であることを示すデータが報告されている。
【0012】Akamanchi, et al.による別の論文には、ジイソプロポキシアルミニウムトリフルオロアセタート(アルミニウムイソプロポキシドをTFAと反応させることによって生成)をMPV仲介物質として使用して、各種アルデヒド及びケトンをアルコールへ15分間〜24時間の範囲の期間で変換することが報告されている。アルデヒドの還元には、試薬1当量が必要である一方、ケトンの還元には、3〜5モル当量のMPV仲介物質が必要であった(Akamanchi, K.G. et al.〔1997〕,“Diisopropoxyaluminium Trifluoroacetate: A New off the Shelf Metal Alkoxide Type Reducing Agent for Reduction of Aldehydes and Ketones”, Synlett: 371-372)。
【0013】前述の報告のいずれも、立体選択的MPV反応のために特定の触媒を使用することは論じていない。
【0014】アリールアルキルケトンの立体選択的MPV還元のために、2−プロパノール中、MPV仲介物質として、キラルサマリウム(III)錯体が、周辺温度で使用されている。しかし、還元のエナンチオ選択性は、アルキル置換基の大きさに高度に感受性であることが示されている。例えば、アルキル基の大きさをメチルからエチルに大きくすると、エナンチオ選択性がエナンチオマー過剰率(e.e.)96%からe.e.73%にまで低下する(Evans, D.A., et al. (1993),“A Chiral Samarium-Based Catalyst for the Asymmetric Meerwein-Ponndorf-Verley Reduction”, J. Am. Chem. Soc. 115: 9800-9801)。
【0015】立体選択的還元反応を促進するために、補助的化合物も使用されている。アルミニウムトリイソプロポキシドを用いた、キラルジオールである(4)−(−)−1−フェニル−2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジオール及び(4)−(+)−1,1′−ビナフタレン−2,2′−ジオールの存在下での、イソプロパノールによって仲介されるアセトフェノンの非対称MPV還元が、報告されている(Xianming, H. and Kellogg, R.M.〔1996〕,“Asymmetric reduction and Meerwein-Ponndorf-Verley reaction of prochiral aromatic ketones in the presence of optically pure 1-aryl-2,2-dimethylpropane-1,3-diols”, Recl. Trav. Chim. Pays-Bas. 115:410-417)。しかし、錯体である補助化合物を必要とするこれらの反応は、キラル補助化合物の費用が高いため、費用がかさむ。
【0016】ジメチルアルミニウムクロリドを用い、α,β−不飽和ケトンを対応する飽和第二級アルコールに変換するために、チオール残基を有するキラルアルコールが使用されている。還元により、アルコールが高いジアステレオ選択性で得られる一方、次の還元性脱硫の工程で、化学量論的に当量のキラルメルカプトアルコールが消費されてしまう(Nishide, K., et al.〔1996〕,“Asymmetric 1,7-Hydride Shift: The Highly Asymmetric Reduction of α,β-Unsaturated Ketonesto Secondary Alcohols via a Novel Tandem Michael Addition - Meerwein-Ponndorf-Verley Reduction”, J. Am. Chem. Soc. 118:13103-13104)。
【0017】4−tert−ブチルシクロヘキサノンを4−tert−ブチルシクロヘキサノールのcis−異性体に変換するためにゼオライトMPV仲介物質が使用され、その立体選択性は、95%以上である(Creyghton, E.J., et al〔1997〕,“Stereoselective Meerwein-Ponndorf-Verley and Oppenauer reactions catalysed by zeolite BEA”, J. Molec. Catalysis A: Chemical 115:457-472)。
【0018】イソプロパノール溶液中でメチル(S)−(1−ベンジル−3−クロロ−2−オキソ−プロピル)−カルバマートを対応するアルコールに還元するために、化学量論量又はそれ以上の量のアルミニウムイソプロポキシドを使用することが、米国特許第5,523,463号及び第5,591,885号に報告されている。生成物である(1S,2S)−(1−ベンジル−3−クロロ−2−ヒドロキシ−プロピル)−カルバマートは、89%純粋な立体異性体として得られた。
【0019】化学量論量又はそれ以上の量のアルミニウムイソプロポキシドをイソプロパノール中で用いて、メチル〔3−クロロ−2−オキソ−(R)−1−(フェニルチオメチル)−プロピル〕−カルバマートを対応するアルコールに還元するためにMPV反応を使用して、再結晶後、純粋な異性体であるメチル(1R,2S)−〔3−クロロ−2−ヒドロキシ−1−(フェニルチオメチル)−プロピル〕−カルバマートが75%の収率で得られている。低級アルキルアナログ及びその他のハロゲン化物置換基を有するアナログでは、この方法は有効であり、純度90%までの立体異性体が得られることが示唆されている。
【0020】前述の参考文献はいずれも、触媒量、つまり化学量論量未満の量でアルミニウムイソプロポキシドを使用してMPV反応を行い、プロキラルケトンの立体選択性を還元反応からも保持することを開示も示唆もしていない。更に、これらの参考文献のいずれも、イソプロパノール若しくはその他のアルコール性溶媒又は反応物質の非存在下でのアリール及びチオアリールカルバマート出発物質についての立体選択的MPV反応を教示も示唆もしていない。更に、これらの参考文献のいずれも、隣接するキラル中心を保持しながら、所望の配向の新たなキラル中心を作成するためのこのような反応を開示していない。
【0021】
【発明が解決しようとする課題】所望の光学活性アルコールを製造するための立体選択的及び立体特異的反応が、中間体及び最終医薬生成物の調製のために必要とされている。立体選択的及び立体特異的MPV反応においてアルミニウムアルコキシドを使用することが望ましい。可能であれば、必要とされるアルミニウム化合物の量を減らし、したがって廃棄する必要がある使用試薬の量を減らすことは、費用及び環境の観点から特に望ましい。更に、約50℃未満、好ましくは約45℃未満の温度で、経済的に可能な期間、例えば1〜3時間以内で、約85%以上の収率で、所望でない光学的異性体に対する所望である光学異性体の比率が95:5又はそれ以上で、反応を行うことが、費用の観点、及び最適な立体選択性又は立体特異性の観点の両方から望ましい。
【0022】
【課題を解決するための手段】定義本明細書では、以下の定義及び略語を使用する:C*は、キラル炭素原子を意味する。「Ac」は、アセチルを意味する。“Boc”は、t−ブチルオキシカルボニルを意味する。“CBZ”は、ベンジルオキシカルボニルを意味する。“MPV”は、メーヤワイン・ポンドルフ・バーレーを意味する。“MSA”は、メタンスルホン酸を意味する。“TFA”は、トリフルオロ酢酸を意味する。
【0023】本明細書の方法に関しての「立体選択的」の語は、所望の光学活性生成物が、所望ではない光学活性生成物よりも過剰量で生成されることを意味する。この過剰量とは、好ましくは約80%以上、つまり所望ではない光学活性生成物に対する所望である光学活性生成物の比率が、約90:10以上であるということである。
【0024】本明細書の方法に関しての「高度に立体選択的」の語は、所望の光学活性生成物を約90%又はそれ以上の過剰量で生成する方法を意味する。特に好ましくは、この過剰量は、少なくとも約94〜96%である。立体選択性は、還元される特定のカルボニル含有化合物に特に適したMPV及びその他の試薬を選択することにより、最適化することができる。
【0025】「カルボニル化合物」は、カルボニル基(−C=O)を含有する任意の化合物である。本発明の方法では、上述したように、C−2においてC=O基をC*−OHに還元することにより、炭素原子は、「キラル炭素原子」になる、つまり炭素が、4個の異なる基と結合するため、2種類のジアステレオマーアルコールが生成され、所望のジアステレオマーが、過剰量で生成される。カルボニル化合物にキラル炭素原子が存在する場合、還元により、ジアステレオマーの混合物が生じる可能性がある。本明細書で使用されている「エナンチオマー過剰」の語は、d,l混合物の一方のエナンチオマーが過剰に存在することを意味する。好ましくは、上述したようにあらかじめキラル炭素、例えばC−1が存在する場合、この炭素原子の立体化学性は、アルコール生成においても完全に保持される。
【0026】「ジアステレオマー過剰」の語は、所望の、新たに形成されたキラリティーと、あらかじめ存在し、保持されたキラル炭素を有する化合物が、所望ではないジアステレオマー化合物よりも過剰量で存在することを意味する。「エナンチオマー過剰」の語は、ジアステレオマー過剰を包含し、1つ又はそれ以上のキラル炭素を有する化合物において、エナンチオマー過剰が、新たに生成されたキラリティーを特異的に意味する状況を記載するのに使用される。
【0027】カルボニル化合物の対応するアルコールへの「還元」は、−C=O基の−C*−OH基への変換を意味する。
【0028】本明細書における「カルボニル化合物」に「対応するアルコール」は、−C=O基の−C*−OH基へのこのような還元が起きたということである。
【0029】本発明のMPV仲介物質に関連して使用される「化学量論量」は、出発物質であるカルボニル化合物1モルに対する当モル量を意味する。
【0030】反応の構成成分を互いに「接触させる」は、反応の構成成分が置かれている媒質及び/又は反応容器を一緒にして、これらが互いに反応することができるようにすることを意味する。好ましくは、反応構成成分を、液状の媒質である担体液体(トルエン、ベンゼン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、テトラヒドロフラン、及び当業界において知られているその他の適当な担体など)であって、それから生成物を容易に、例えば蒸留により、反応の完了後に精製することができる担体液体に懸濁又は溶解する。
【0031】「過剰量の所望の光学活性生成物を生成させるのに十分な時間」とは、所望の光学活性生成物を検出可能な量で生成させるのに十分な時間を意味する。立体選択的及び高度に立体選択的な方法では、所望の光学活性生成物は、所望ではない光学活性生成物が検出可能な量で生成する前に、検出可能な量で生成される。好ましくは、反応物を接触状態で保持する時間は、光学活性生成物の両方に対して約85%の収率、好ましくは光学活性生成物の両方に対して約90%〜95%の収率を得るのに少なくとも十分である。好ましくは、反応に要する時間は、約4時間未満、より好ましくは2時間又はそれ未満、特に好ましくは約1時間又はそれ未満である。
【0032】「アミン基」の語は、第一級、第二級、又は第三級アミン基を意味する。
【0033】「3−ハロ−1−アミノ−2−プロパノン」は、C−1の炭素にアミン基(−NH2、−NHR、又は−NR2)が結合しているものである。本発明の3−ハロ−1−アミノ−2−プロパノンのほとんどは、C−1及びC−2においてヒドロカルビル基で置換されていることができる。
【0034】アミドエチルケトンは、出発物質であるケトンのカルボニル基に隣接する炭素原子に結合したアミド基(R−CO−NR′−)(ここで、Rは、ヒドロカルビルであり、R′は、H又はRである)を有する。ここでも、これらのケトンのほとんどは、C−1及びC−2で置換されていることができる。
【0035】「キラル炭素」は、当業界で知られているように、それに結合した4個の異なる置換基を有するものである。キラル炭素を有する分子は、(S)及び(R)型を有する光学活性異性体として存在する。
【0036】「プロキラル炭素」は、当業界で知られているように、3個の異なる基と結合しており、その4の結合の一つを置き換える反応によりキラルとなることができるものであり、つまり本明細書で記載するケトン化合物については、カルボニルのプロキラル炭素は、Oと2個の異なる基に結合しており、カルボニルを対応するアルコールに還元することにより、カルボニル炭素は、キラルとなる、つまり4個の異なる基と結合するようになる。
【0037】「ヒドロカルビル」の語は、本明細書では、一般的には、水素及び場合によりその他の元素が結合している炭素鎖を含む有機基を意味するために使用される。ヒドロカルビルの炭素鎖のCH2又はCH基及びC原子は、1個又はそれ以上のヘテロ原子(つまり、炭素ではない原子)で置換されていてもよい。適当なヘテロ原子としては、O、S及びN原子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ヒドロカルビルの語としては、アルキル、アルケニル、アルキニル、エーテル、チオエーテル、アミノアルキル、ヒドロキシアルキル、チオアルキル、アリール、及び複素環式アリール基、そして飽和結合及び不飽和結合の混合物、炭素環式基、及びこのような基の組み合わせを有する基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。この語は、直鎖、分岐鎖、及び環式構造、又はこれらの組み合わせをも包含する。ヒドロカルビル基は、場合により置換されている。ヒドロカルビルの置換としては、基内の1又はそれ以上の炭素における、ヘテロ原子を含む基による置換が挙げられる。ヒドロカルビル基の適当な置換基としては、OH、SH、NH2、COH、CO2H、ORa、SRa、NRab、CONRab、及びハロゲン(ここで、Ra及びRbは、独立して、アルキル、不飽和アルキル、又はアリール基である)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】「アルキル」の語は、当業界における通常の意味を有し、直鎖、分岐鎖及びシクロアルキル基を包含することを意図している。この語としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、ネオペンチル、2−メチルブチル、1−メチルブチル、1−エチルプロピル、1,1−ジメチルプロピル、n−ヘキシル、1−メチルペンチル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、4−メチルペンチル、3,3−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、1,1−ジメチルブチル、2−エチルブチル、1−エチルブチル、1,3−ジメチルブチル、n−ヘプチル、5−メチルヘキシル、4−メチルヘキシル、3−メチルヘキシル、2−メチルヘキシル、1−メチルヘキシル、3−エチルペンチル、2−エチルペンチル、1−エチルペンチル、4,4−ジメチルペンチル、3,3−ジメチルペンチル、2,2−ジメチルペンチル、1,1−ジメチルペンチル、n−オクチル、6−メチルヘプチル、5−メチルヘプチル、4−メチルヘプチル、3−メチルヘプチル、2−メチルヘプチル、1−メチルヘプチル、1−エチルヘキシル、1−プロピルペンチル、3−エチルヘキシル、5,5−ジメチルヘキシル、4,4−ジメチルヘキシル、2,2−ジエチルブチル、3,3−ジエチルブチル、及び1−メチル−1−プロピルブチルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。アルキル基は、場合により置換されている。低級アルキル基は、C1−C6アルキルであり、特にメチル、エチル、n−プロピル、及びイソプロピル基が挙げられる。
【0039】「シクロアルキル」の語は、炭化水素環を有するアルキル基、特に3〜7個の炭素原子の環を有するアルキル基を意味する。シクロアルキル基は、その環上にアルキル置換基を有するシクロアルキル基を包含する。シクロアルキル基は、直鎖及び分岐鎖状の部分を有していることができる。シクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、及びシクロノニルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。シクロアルキル基は、場合により置換されていることができる。
【0040】「不飽和アルキル」基の語は、本明細書では、一般的には、1個又はそれ以上の炭素−炭素一重結合が、炭素−炭素二重又は三重結合に変換されているアルキル基を包含するために使用されている。この語は、その最も一般的な意味において、アルケニル及びアルキニル基を包含する。この語は、1個以上の二重若しくは三重結合、又は二重及び三重結合の組み合わせを有する基を包含することを意図する。不飽和アルキル基は、不飽和直鎖、分岐鎖、又はシクロアルキル基を包含するが、これらに限定されるものではない。不飽和アルキル基としては、ビニル、アリル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘキサジエニル、ヘプテニル、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニル、シクロヘキサジエニル、1−プロペニル、2−ブテニル、2−メチル−2−ブテニル、エチニル、プロパルギル、3−メチル−1−ペンチニル、及び2−ヘプチニルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。不飽和アルキル基は、場合により置換されていることができる。
【0041】アルキル、シクロアルキル、及び不飽和アルキル基の置換は、基内の1個又はそれ以上の炭素における、ヘテロ原子を含む基による置換を包含する。これらの基の適当な置換基としては、OH、SH、NH2、COH、CO2H、ORc、SRc、NRcd、CONRcd、及びハロゲン(特に塩素及び臭素)(ここで、Rc及びRdは、独立してアルキル、不飽和アルキル、又はアリール基である)を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。好ましいアルキル及び不飽和アルキル基は、1〜約3個の炭素原子を有する低級アルキル、アルケニル、又はアルキニル基である。
【0042】「アリール」の語は、本明細書では、一般的には、共役パイ電子系を有する少なくとも1個の環を有する芳香族基を意味するために使用され、炭素環式アリール、アラルキル、複素環式アリール、ビアリール基、及び複素環式ビアリール(これらはいずれも、場合により置換されていることができる)を包含するが、これらに限定されるものではない。好ましいアリール基は、1又は2個の芳香族環を有する。
【0043】本発明の非置換アリール化合物と実質的に同一な特性を有し、同一の方法で調製することができ、それと同等である化合物は、アリール基が、1、2、又はそれ以上の単一の置換基(低級アルキル、例えば、メチル、エチル、ブチル;ハロ、例えばクロロ、ブロモ;ニトロ;スルファト;スルホニルオキシ;カルボキシ;カルボ−低級アルコキシ、例えばカルボメトキシ、カルボエトキシ;アミノ;モノ−及びジ−低級アルキルアミノ、例えばメチルアミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、メチルエチルアミノ;アミド;ヒドロキシ;低級アルコキシ、例えばメトキシ、エトキシ;及び低級アルカノイルオキシ、例えばアセトキシを包含するが、これらに限定されるものではない)を有する化合物である。
【0044】「炭素環式アリール」は、芳香族環原子が全部炭素であるアリール基を意味し、フェニル、ビフェニル、及びナフタレン基を包含するが、これらに限定されるものではない。
【0045】「アラルキル」は、アリール基で置換されたアルキル基を意味する。適当なアラルキル基としては、特にベンジル、フェネチル、及びピコリルが挙げられ、これらは、場合により置換されていることができる。アラルキル基は、複素環式及び炭素環式芳香族基を有するものを包含する。
【0046】「複素環式アリール基」は、少なくとも1個の複素環式芳香族環を有する基であって、環に1〜3個のヘテロ原子を有し、残りは炭素原子である基を意味する。適当なヘテロ原子は、酸素、硫黄、及び窒素を包含するが、これらに限定されるものではない。複素環式アリール基としては、特にフラニル、チエニル、ピリジル、ピロリル、N−アルキルピロロ、ピリミジル、ピラジニル、イミダゾリル、ベンゾフラニル、キノリニル、及びインドリル(これらはいずれも場合により置換されていることができる)を挙げることができる。
【0047】「複素環式ビアリール」は、フェニル環がデカリン又はシクロヘキサンに結合する部位に対してオルト、メタ、又はパラ位において、フェニル基が、複素環式アリール基で置換されている複素環式アリールを意味する。複素環式ビアリールとしては、特に複素環式芳香族環で置換されたフェニル基を有する基が挙げられる。複素環式ビアリール基における芳香族環は、場合により置換されていることができる。
【0048】「ビアリール」は、フェニル環がデカリン又はシクロヘキサンに結合する部位に対してオルト、メタ又はパラ位において、フェニル基が、炭素環式アリール基で置換されている炭素環式アリール基を意味する。ビアリール基としては、特に第1のフェニル基がデカリン又はシクロヘキサン構造に結合する部位に対してオルト、メタ又はパラ位において、第2のフェニル環で置換された第1のフェニル基が挙げられる。パラ位における置換が好ましい。ビアリール基における芳香族環は、場合により置換されていることができる。
【0049】アリール基の置換は、芳香族環における1個若しくはそれ以上の炭素原子、又は可能であれば、芳香族環における1個若しくはそれ以上のヘテロ原子における、H原子の非アリール基による置換を包含する。アリール基の適当な置換基としては、特にアルキル基、不飽和アルキル基、ハロゲン、OH、SH、NH2、COH、CO2H、ORe、SRe、NRef、CONRef(ここで、Re及びRfは、独立して、アルキル、不飽和アルキル、又はアリール基である)を挙げることができる。好ましい置換基は、OH、SH、ORe、及びSRe(ここで、Reは、低級アルキル、つまり1〜約3個の炭素原子を有するアルキル基である)である。その他の好ましい置換基は、ハロゲン(より好ましくは塩素又は臭素)、並びに1〜約3個の炭素原子を有する低級アルキル及び不飽和低級アルキル基である。置換基としては、アリール基における芳香族環間に橋かけする基〔−CO2−、−CO−、−O−、−S−、−NH−、−CH=CH−、及び−(CH2)l−(ここで、lは、1〜約5の整数である)など〕、特に−CH2−を挙げることができる。橋かけ置換基を有するアリール基の例としては、フェニルベンゾアートを挙げることができる。置換基としては、また−(CH2)l−、−O−(CH2)l−、又は−OCO−(CH2)l−(ここで、lは、約2〜7の整数である)などの基を、単一の芳香族環中の2個の環原子を橋かけする適当な基として挙げることができる(例えば、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン基におけるように)。アリール基のアルキル及び不飽和アルキル置換基は、それ自体も、置換されたアルキル及び不飽和アルキル基について上述したように、場合により置換されていることができる。
【0050】「アルコキシ基」及び「チオアルコキシ基」(アルコキシ基の硫黄アナログであるメルカプチド基としても知られている)の語も、それらについて一般的に認められている意味を有する。アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、sec−ブトキシ、イソブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、2−メチルブトキシ、1−メチルブトキシ、1−エチルプロポキシ、1,1−ジメチルプロポキシ、n−ヘキシルオキシ、1−メチルペンチルオキシ、2−メチルペンチルオキシ、3−メチルペンチルオキシ、4−メチルペンチルオキシ、3,3−ジメチルブトキシ、2,2−ジメトキシブトキシ、1,1−ジメチルブトキシ、2−エチルブトキシ、1−エチルブトキシ、1,3−ジメチルブトキシ、n−ペンチルオキシ、5−メチルヘキシルオキシ、4−メチルヘキシルオキシ、3−メチルヘキシルオキシ、2−メチルヘキシルオキシ、1−メチルヘキシルオキシ、3−エチルペンチルオキシ、2−エチルペンチルオキシ、1−エチルペンチルオキシ、4,4−ジメチルペンチルオキシ、3,3−ジメチルペンチルオキシ、2,2−ジメチルペンチルオキシ、1,1−ジメチルペンチルオキシ、n−オクチルオキシ、6−メチルヘプチルオキシ、5−メチルヘプチルオキシ、4−メチルヘプチルオキシ、3−メチルヘプチルオキシ、2−メチルヘプチルオキシ、1−メチルヘプチルオキシ、1−エチルヘキシルオキシ、1−プロピルペンチルオキシ、3−エチルヘキシルオキシ、5,5−ジメチルヘキシルオキシ、4,4−ジメチルヘキシルオキシ、2,2−ジエチルブトキシ、3,3−ジエチルブトキシ、1−メチル−1−プロピルブトキシ、エトキシメチル、n−プロポキシメチル、イソプロポキシメチル、sec−ブトキシメチル、イソブトキシメチル、(1−エチルプロポキシ)メチル、(2−エチルブトキシ)メチル、(1−エチルブトキシ)メチル、(2−エチルペンチルオキシ)メチル、(3−エチルペンチルオキシ)メチル、2−メトキシエチル、1−メトキシエチル、2−エトキシエチル、3−メトキシプロピル、2−メトキシプロピル、1−メトキシプロピル、2−エトキシプロピル、3−(n−プロポキシ)プロピル、4−メトキシブチル、2−メトキシブチル、4−エトキシブチル、2−エトキシブチル、5−エトキシペンチル、及び6−エトキシヘキシルを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。チオアルコキシ基としては、上記で具体的に記載したアルコキシ基の硫黄アナログを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0051】「場合による」又は「場合により」は、以降に記載する事項又は状況が起きてもよく、起きなくてもよいことを意味し、その記載が、該事項又は状況が起きる場合、及び起きない場合とを包含することを意味する。例えば「場合により置換されたフェニル」は、フェニル基が、置換されていても、置換されていなくてもよいことを意味し、この記載が、非置換フェニル基及び置換されているフェニル基の両方を包含することを意味している。
【0052】本明細書で使用される「α−アミノ酸」は、天然に存在し、市販されているアミノ酸及びラセミ化合物、並びにその光学異性体を包含する。代表的な天然及び市販されているアミノ酸は、グリシン、アラニン、セリン、ホモセリン、トレオニン、バリン、ノルバリン、ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、オルニチン、ヒスチジン、アルギニン、システイン、ホモシステイン、メチオニン、フェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、フェニルグリシン、o−、m−及びp−チロシン、トリプトファン、グルタミン、アスパラギン、プロリン、並びにヒドロキシプロリンである。α−アミノ酸残基は、NHCH(R)C(O)−基(ここで、Rは、αアミノ酸側鎖である)であるが、そのアミノ酸残基がそれぞれ−N(CH2−CH2−CH2)CHC(O)−及び−N(CH−CHOHCH2)CHC(O)−であるプロリン及びヒドロキシプロリンのアミノ酸残基は除く。αアミノ酸側鎖は、本明細書で定義したαアミノ酸のα炭素上の残基であり、ここで残基は、例えば水素(グリシンの側鎖)、メチル(アラニンの側鎖)であるか、又はメチレン(−CH2−)によりα炭素に結合している基、又はフェニル基である。
【0053】「場合により保護されたαアミノ酸残基」は、場合により保護されたαアミノ酸側鎖を有するαアミノ酸残基を意味する。
【0054】「場合により保護されたαアミノ酸側鎖」は、保護されていないαアミノ酸側鎖(グリシンにおけるH、アラニンにおけるCH3、セリンにおけるCH2OHなど)を包含し、側鎖が、酸素、硫黄又は窒素などのヘテロ原子を含有する場合には、側鎖上のヘテロ原子は、O−、S−又はN−保護基により場合により保護されていることができる。
【0055】「O−、S−又はN−保護基」は、それぞれ酸素、硫黄又は窒素原子に結合し、望ましくない反応から酸素、硫黄、又は窒素官能基を保護し、及び/又はそれが結合している分子の特性(例えば、溶解度、親油性、バイオアベイラビリティなど)を修飾する働きを有する基である。このような保護基は、当業界にはよく知られており、“The Peptides”, E. Gross and J. Meienhofer, Eds., Vol. 3, Academic Press, NY (1981) 及び“Chemistry of the Amino Acids”, J.P. Greenstein and M. Winitz, Vol. 2, J. Wiley and Sons, NY (1961) に多く記載されている。
【0056】ペプチドN末端における、又はアミノ酸側鎖上の、アミノ酸のアミノ官能基の「N−保護基」は、当業界にはよく知られている。公知のアミノN保護基は、“The Peptides”, E. Gross and J. Meienhofer, Eds., Academic Press, NY (1981), Vol. 3, Chapter 1;“Protective Groups in Organic Synthesis”, T.W.Greene, J. Wiley and Sons, NY (1981), Chapter 7;及び“Chemistry of theAmino Acids”, J.P. Greenstein and M. Winitz, J. Wiley and Sons, NY (1961), Vol. 2, pp. 885-924に説明されており;その他の(それほどは知られていない)N保護基としては、メトキシスクシニル基(CH3−OCOCH2−CH2−CO−)、ヒドロキシスクシニル基(HOOCCH2−CH2−CO−)、p−メトキシカルボニルベンゾイル基(p−CH3−OC64−CO−)、p−フェニルスルホンアミドカルボニルベンゾイル基(p−C65−SO2−NHCO−C64−CO−)、及び2−(1−アダマンチル)−エトキシカルボニル基が挙げられる。
【0057】一般に、これらのN保護基は、以下の5種類に該当すると考えられる:N−アシル、N−アルコキシカルボニル、N−アリールメトキシカルボニル、N−アリールメチル、及びN−アリールスルホニル保護基。N−アシル保護基は、低級アルキルカルボニル残基、トリフルオロアセチル残基、メトキシスクシニル残基(CH3−OCOCH2−CH2−CO−)、ヒドロキシスクシニル残基(HOOCCH2−CH2−CO−)、又はフェニルカルボニル(ベンゾイル)残基〔フェニル環においてp−メトキシカルボニル、p−フェニルスルホンアミドカルボニル(p−C65−SO2NHCO−)、p−メトキシ、又はp−ニトロにより場合により置換されている〕である。N−アルコキシカルボニル保護基は、低級アルコキシカルボニル残基又は2−(1−アダマンチル)エトキシカルボニル残基である。N−アリールメトキシカルボニル保護基は、9−フルオレンメトキシカルボニル残基(Fmoc);又はベンジルオキシカルボニル残基〔p−メトキシ、p−ニトロ、p−クロロ、又はo−(N,N−ジメチルカルボキサミド)により芳香族環上で場合により置換されていることができる〕である。N−アリールメチル保護基は、ベンジル残基(p−メトキシ、p−ニトロ、又はp−クロロにより芳香族環上で場合により置換されていることができる)である。N−アリールスルホニル保護基は、フェニルスルホニル残基〔p−メチル(「トシル」)又はp−メトキシにより芳香族環上で場合により置換されていることができる〕である。
【0058】アルギニンアミノ酸側鎖上のグアニジノ官能基の「N−保護基」は、当業界においてはよく知られており、先に引用した“The Peptides”, Vol. 3,pp 60-70及び“Chemistry of the Amino Acids”, Vol. 2, pp. 1068-1077に記載されている。これらとしては、ニトロ、p−トルエンスルホニル、p−メトキシフェニルスルホニル、CMZ、及びBoc N−保護基が挙げられる。
【0059】ヒスチジンアミノ酸側鎖上のイミダゾール官能基の「N−保護基」は、当業界においてはよく知られており、先に引用した“The Peptides”, Vol. 3,pp 70-80及び“Chemistry of the Amino Acids”, Vol. 2, pp. 1060-1068に記載されている。これらとしては、ベンジル、トリフェニルメチル(トリチル)、2,4−ジニトロフェニル、p−トルエンスルホニル、ベンゾイル、及びCBZ N−保護基を挙げることができる。
【0060】トリプトファンアミノ酸側鎖上のインドール官能基の「N−保護基」は、当業界においてはよく知られており、先に引用した“The Peptides”, Vol. 3, pp.82-84に記載されている。これらとしては、ホルミル及びCBZ N−保護基を挙げることができる。
【0061】アミノ酸側鎖上のヒドロキシ官能基の「O−保護基」は、当業界においてはよく知られており、先に引用した“The Peptides”, Vol. 3,pp 169-201及び“Chemistry of the Amino Acids”, Vol. 2, pp. 1050-1056に記載されている。脂肪族性ヒドロキシ官能基については、適当なO−保護基は、ベンジル、tert−ブチル、及びメチル基を包含する。芳香族性ヒドロキシ官能基については、適当なO−保護基は、ベンジル、tert−ブチル、メチル、CBZ、及びトシル基を包含する。
【0062】アミノ酸側鎖上のカルボキシ官能基の「O−保護基」は、当業界においてはよく知られており、先に引用した“The Peptides”, Vol. 3, pp. 101-135に記載されており、メチル、エチル、tert−ブチル、及びベンジル基を包含する。
【0063】アミノ酸側鎖上のチオール官能基の「S−保護基」は、当業界においてはよく知られており、先に引用した“The Peptides”, Vol. 3,pp 137-167及び“Chemistry of the Amino Acids”, pp. 1077-1092に記載されている。これらとしては、メチル、tert−ブチル、ベンジル、p−メトキシフェニルメチル、エチルアミノ−カルボニル、及びCBZ基を挙げることができる。
【0064】本発明は、一連のカルボニル化合物の対応する光学活性アルコールへの立体選択的還元方法を提供する。本方法は、HIVの治療に有用なものなどのプロテアーゼ阻害物質(例えば、サキナビル及びネルフィナビル)の調製における中間体の製造に特に有用である。
【0065】本発明の方法は、キラル中心と、プロキラル炭素原子を有するカルボニル基を有する化合物を、メーヤワイン・ポンドルフ・バーレー(MPV)仲介物質と、約50℃又はそれ未満の温度で、過剰量の所望の光学活性アルコールを生成させるのに十分な時間(通常は、4時間未満)接触させることを含む。
【0066】実施態様においては、サキナビル中間体の調製において特に有用な方法は、(a)カルボニル残基及びキラル炭素原子を有するカルボニル化合物を提供し;
(b)該カルボニル化合物を、水素供与体(イソプロピルアルコールなど)、及びメーヤワイン・ポンドルフ・バーレー(MPV)仲介物質(アルミニウムイソプロポキシドなど)(化学量論量と等しいか、又は好ましくはそれ未満の量、つまり出発化合物であるカルボニル化合物の量に対して、それと等しいか、又は好ましくは1モル当量未満の量)と接触させ;
(c)該カルボニル化合物、MPV仲介物質、及び水素供与体を、約50℃又はそれ未満、好ましくは約42℃又はそれ未満の温度で、過剰量(好ましくは、少なくとも約80%のエナンチオマー過剰率、つまり約90:10の比率)の所望の光学活性アルコールを生成させるのに十分な時間、好ましくは約4時間又はそれ未満、より好ましくは約2時間又はそれ未満の時間、接触させ続けることを含む。
【0067】別の実施態様においては、ネルフィナビル中間体の調製に特に有用である本方法は、(1)カルボニル基及びキラル炭素原子を有するカルボニル化合物を提供し;
(2)該カルボニル化合物を、化学量論量又はそれ以上の量のMPV仲介物質と、好ましくは非極性溶媒の存在下、アルコール性反応物質の非存在下で接触させ;
(3)該カルボニル化合物とMPV仲介物質を、約50℃又はそれ未満、好ましくは約42℃又はそれ未満、より好ましくは約25℃又はそれ未満、特に好ましくは約10℃又はそれ未満の温度で、過剰量(好ましくは、少なくとも約80%のエナンチオマー過剰率、つまり約90:10、好ましくは約97:3の比率)の所望の光学活性アルコールを生成させるのに十分な時間、好ましくは約4時間又はそれ未満、より好ましくは約2時間又はそれ未満の時間、接触させ続けることを含む。
【0068】この実施態様は、分解しやすいカルボニル化合物に特に有用である。アルコール性溶媒又は反応物質が存在しないことによって、このような分解の過程が妨げられるからである。
【0069】所望の光学活性アルコールは、望ましくないエナンチオマー及び/又はジアステレオマーを含有する反応成分から、クロマトグラフィーによる分離、結晶化、又はその他の当業界において知られている方法で精製することができる。
【0070】MPV反応においては、水素供与体は酸化される一方、カルボニル化合物は還元される。代表的には、水素供与体の酸化生成物を除去することによって、反応の平衡が、カルボニル化合物の対応するアルコールへの還元の方向に移行する(イソプロピルアルコールが水素供与体である好ましい実施態様においては、アセトンを、例えば蒸留により除去することができる);しかし、本発明の方法では、水素供与体の酸化生成物を除去する必要がなく、良好な収率が得られる。
【0071】カルボニル化合物は、所望のMPV反応に干渉する構造を有しない、任意のカルボニル含有化合物であることができる。本反応に干渉する構造としては、その他のカルボニル基、又は保護されていない硫黄若しくは窒素基(水素について、水素供与体と競合する)が挙げられる。このような競合する可能性のある官能基が存在する場合には、官能基は、MPV反応の間、保護基を使用するなどの、当業界における通例の任意の方法(以下により詳細に記載する)を用いて保護することができ、場合によりこれらの保護基は、必要であれば後に除去することができる。
【0072】好ましくは、出発物質は、ケトンであり、より好ましくは出発物質は、プロピル基の第1の炭素原子(C−1)上にアミノ置換基を有し、プロピル基の第2の炭素原子(C−2)にカルボニル官能基を有する3−ハロ−1−アミノ−2−プロパノンのコアである。好ましくは、介在する低級アルキル基を介してのかさだかい疎水性基(つまり、以下に記載するように場合により置換された1個又はそれ以上の芳香族環)も、プロピル基の第1の炭素原子(C−1)に結合している。ハロゲンもまた、C−3に直接結合していることができ、又は介在する低級アルキル基を介してカルボニル基に結合していてもよい。その他の置換基もまた、これらが上述したMPV反応に干渉しない限り、C−1又はC−3に存在していることができる。
【0073】本明細書に記載する水素供与体は、還元反応に水素を提供することができる任意の化合物、例えば、アルコール、特に、容易に酸化されうる第一級又は第二級アルコールである。好ましい水素供与体は、エタノール、イソプロパノール、イソボルネオール、ブタン−2−オール、又は2−メチルブタン−1−オールなどのC1-6アルコールである。特に好ましい水素供与体は、イソプロパノールである。好ましくは、水素供与体は、化学量論量よりも多い量、例えば好ましくは出発物質であるケトンに対して約5モル当量で存在する。
【0074】メーヤワイン・ポンドルフ・バーレー(MPV)仲介物質は、反応を仲介することができる、当業界で知られている任意の仲介物質である。このような仲介物質としては、アルミニウム化合物(アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムtert−ブトキシド、アルミニウムフェノキシド、アルミニウムsec−ブトキシド、及びその他のこのような仲介物質として当業界において知られている化合物など);このようなアルミニウム化合物の酸塩(例えば、ジイソプロポキシアルミニウムメタンスルホナート、ジイソプロポキシアルミニウムトリフルオロアセタートなど)を挙げることができる。還元反応を仲介することができるその他の金属アルコキシドとしては、ランタニドアルコキシド(例えば、サマリウムアルコキシド、ガドリニウムアルコキシド、並びにジルコニウム及びハフニウム錯体)を挙げることができる。好ましくは、本明細書で使用するMPV仲介物質は、アルミニウムイソプロポキシドである。「アルミニウムイソプロポキシド」の語は、アルミニウムジ−及びトリ−イソプロポキシド、対応するアルミニウムクロロ−ジ−イソプロポキシド、並びにそれらの酸塩を包含し、好ましくはそれらのメタンスルホナートを包含する。同様に、本明細書で記載するその他のアルミニウム化合物は、「ジ−」及び「トリ−」体を包含する。好ましい実施態様では、MPV仲介物質は、出発物質であるカルボニル化合物の量に対して、約0.5当量の量で使用し、イソプロパノールは、水素供与体として、少なくとも約2倍の化学量論量で使用する。より安定ではないカルボニル出発物質(プロキラルカルボニル炭素に隣接した炭素にアリールチオ置換基、及び/又はその他の不安定なアリール基を有するものなど)については、本工程は、アルコール性反応物質又は溶媒(イソプロピルアルコールなど)の非存在下、化学量論量又はそれ以上の量のMPV仲介物質を用いて行うのが好ましい。
【0075】水素供与体試薬及び化学量論量未満の量のMPV仲介物質を用いたMPV還元工程は、強酸の存在下で行うのが好ましい。強酸は、当業界で知られている任意の強酸であることができる。強酸は、本明細書では、Pka値が2未満である酸であると定義される。メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸(TFA)、トリフルオロメタンスルホン酸、及びぺルフルオロエチレンスルホン酸が、本明細書での使用に好ましい強酸である。より好ましいのが、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、及びその他のC1-5アルキルスルホン酸であり、特に好ましいのが、メタンスルホン酸である。TFAよりも強い酸としては、メタンスルホン酸を、TFAよりも少量で、好ましくは化学量論量未満の量で使用することができる。この酸は、効率的な変換を確実にするのに十分な量、好ましくは存在するカルボニル化合物の量に対して、等しい〜約0.5当量の量で使用する。ある実施態様においては、MPV仲介物質と酸は、出発物質であるカルボニル化合物と接触させる前にあらかじめ反応させて、錯体を形成させる。この場合、MPV仲介物質は、酸塩、又はアルミニウムイソプロポキシドメタンスルホナートなどの錯体であることができる。
【0076】アルコール性反応物質又は溶媒を使用しないMPV反応は、強酸、及びトルエンなどの非極性溶媒を使用せずに行うのが好ましい。ヘキサンは、反応混合物に使用しないのが好ましく、酸もまた使用しないのが好ましい。
【0077】本発明のMPV還元方法は、効率的であり、収率は、選択した光学活性異性体の量に対し、出発物質であるカルボニル化合物の量の割合として、一般的に約85%以上であり、通常は約95%以上である。特に好ましくは、1%又はそれ未満の出発物質であるカルボニル化合物が、未反応のまま残留する。
【0078】好ましい実施態様においては、出発物質であるカルボニル化合物のカルボニル基に隣接する炭素原子(C−1と上記で定義されている)が、キラル炭素原子である。好ましい実施態様においては、化合物は、ハロゲン化アルキル、好ましくは塩化物であり、塩素原子は、C−3にある。本方法は、出発物質におけるC−1のキラル炭素原子の配向の保持に特に適している。反応条件が、比較的穏やかであるからである。
【0079】好ましい実施態様においては、出発物質のキラル炭素原子(C−1)に隣接して保護されたアミノ基(−NHR又は−NR2)が存在する、つまり出発物質は、1−アミノ−2−プロパノンである。
【0080】出発物質であるカルボニル化合物の更なる種類は、式:【0081】
【化4】

【0082】〔式中、*は、キラル炭素原子を表し;R1及びR2は、反応に悪影響を及ぼさない任意の置換基であることができ、独立してヒドロカルビル基であり;そしてXは、Cl、F、Br、又はIであり、好ましくはClである。R2は、好ましくは疎水性基であり、好ましくはアルキル、アリール、アリールチオ、アラルキル、又はアリールチオアルキルである〕で示される化合物からなる群から選択されるプロパノンである。
【0083】出発物質である好ましいカルボニル化合物の種類は、式:【0084】
【化5】

【0085】〔式中、*、R2、及びXは、上述したとおりであり、R3は、ヒドロカルビル基である〕で示されるケトンである。
【0086】本発明で有用な出発物質である好ましいカルボニル化合物の更なる種類は、式:【0087】
【化6】

【0088】〔式中、*及びXは、上述したとおりであり;mは、0、1又は2であり;Zは、H、N−保護基、又は置換されたアルカノイル若しくはアロイル基であり;Yは、独立して、場合により保護されたα−アミノ酸残基であり;そしてR2は、アリールチオ、アリールチオアルキル、又は場合により保護されたα−アミノ酸側鎖である〕で示される化合物からなる群である。
【0089】このような側鎖は、例えばH(グリシン由来)、メチル(アラニン由来)、フェニル(フェニルグリシン由来)、ベンジル(フェニルアラニン由来)、イソプロピル(バリン由来)、2−ブチル(イソロイシン由来)、メチルチオエチル(メチオニン由来)、ヒドロキシメチル(セリン由来)、又はヒドロキシエチル(トレオニン由来)であることができる。アミノ酸由来の反応性側鎖(例えば、ヒドロキシ、アミノ又はカルボキシル基)は、保護されていてもよい。
【0090】本発明に有用な出発物質の更に好ましい種類は、式:【0091】
【化7】

【0092】で示される化合物である。
【0093】出発物質である特に好ましいカルボニル化合物は、メチル〔3−クロロ−2−オキソ−(S)−1−(ベンジル)−プロピル〕−カルバマート、又はベンジル〔3−クロロ−2−オキソ−(R)−1−(フェニルチオメチル)−プロピル〕カルバマートである。
【0094】サキナビルの重要な中間体の製造には、メチル〔3−クロロ−2−オキソ−(S)−1−(ベンジル)−プロピル〕−カルバマートを還元して(1S,2S)−メチル〔3−クロロ−2−ヒドロキシ−1−(ベンジル)−プロピル〕カルバマートを製造することが必要である。本発明の方法は、高度に立体選択的であり、所望のエナンチオマーを、所望ではない(1S,2R)−メチル〔3−クロロ−2−ヒドロキシ−1−(ベンジル)−プロピル〕−カルバマートに対して、少なくとも90%のエナンチオマー過剰率(つまり、(1S,2R)生成物に対する(1S,2S)の比率は、少なくとも約95:5である)、好ましくは約92〜94%又はそれ以上のエナンチオマー過剰率(つまり、(1S,2R)生成物に対する(1S,2S)の比率は、少なくとも約96:4〜97:3又はそれ以上である)で製造する。
【0095】ネルフィナビルの重要な中間体の製造には、ベンジル〔3−クロロ−2−オキソ−(R)−1−(フェニルチオメチル)−プロピル〕−カルバマートを還元してベンジル(1R,2S)−〔3−クロロ−2−ヒドロキシ−1−(フェニルチオメチル)−プロピル〕−カルバマートを製造することが必要とされる。
【0096】サキナビルカルボニル化合物中間体であるメチル〔3−クロロ−2−オキソ−(S)−1−(ベンジル)−プロピル〕−カルバマートの対応するアルコールへの変換においては、担体液体、好ましくはトルエンに、約6:1〜約8:1の溶媒比で、出発物質であるカルボニル化合物を懸濁することによって、出発物質であるカルボニル化合物を水素供与体と接触させる。担体液体中、カルボニル化合物がより濃縮されていると、処理能力がより上昇する。
【0097】形成されたスラリーに、出発物質であるケトンに対して、化学量論量未満、好ましくは約0.3〜約0.7モル当量、特に好ましくは約0.5モル当量の量のMPV仲介物質、好ましくはアルミニウムsec−ブトキシド又はアルミニウムイソプロポキシドを加える。より多量のMPV仲介物質を使用してもよい;しかし、これは廃水の増加を招くため、使用量は、最小限にするのが望まれる。かなり少量、例えば0.1当量又はそれ未満の量のMPV仲介物質を加えることにより、反応速度が著しく低下する。
【0098】水素供与体、好ましくはイソプロパノールを、出発物質であるケトンに対して、化学量論量以上の量、好ましくは約2〜約7当量、より好ましくは約5〜約6当量加える。悪影響がなく、必要であれば、より多量の水素供与体を加えてもよい。より低量を用いてもよいが、約3当量未満の量を用いると、反応速度が、著しく低下する。
【0099】緩やかな発熱反応を最小限にするためには、反応混合物を、好ましくは約0℃〜約15℃に冷却するのが好ましく、酸、好ましくはメタンスルホン酸を反応混合物に加えるのが好ましい。出発物質であるケトンに対して少なくとも約0.5当量の酸を使用するのが好ましい。0.5当量以上、そして反応物と生成物の分解を招く量までの量の酸を使用することができ、それにより反応速度が上昇する。しかし、試薬の費用のため、0.5当量又はそれ未満の量を使用するのが好ましい。約0.5当量未満から、本明細書で請求される収率が、3又は4時間未満では達成されない程度にまで反応を遅くする量にまで、量を引き下げることもできるが、これらはすべて過度の実験をすることなく、当業者によって容易に決定されることである。
【0100】次に反応混合物を、好ましくは室温以上、より好ましくは約38℃及び約42℃の間、そして好ましくは約50℃を超えない温度に加熱する。より高い温度では、ケトン基質の分解、不純物の生成、立体選択性の低下が生じる。加熱程度が低すぎると、反応が遅くなる。例えば、約30℃〜約室温では、反応はよく進行し、優れた光学純度が得られるが、より高温の場合よりも約3〜6時間も長くかかる。
【0101】反応物質は、好ましくは上述した最適温度で、所望の量の選択した光学活性アルコールが製造されるまで接触させ続ける。反応混合物は、各時点で採取し、例えばHPLCにより分析して残留している出発物質の量を測定する。代表的には、約1から2時間後で1%未満の出発物質が残留する。
【0102】次に、反応の発熱効果を最小限にするために、反応混合物を、例えば約15±5℃にまで冷却する。次に酸、例えば塩酸水溶液を加えて、混合物をpH約3にして、MPV仲介物質を解離させる。これにより望ましくない反応が更に進むのを妨げる。次に担体液体を、例えば蒸発又は真空蒸留により除去する。担体液体の除去を助けるために、更に水素供与体を加えてもよく、担体液体の残留濃度が最小限になる、例えばガスクロマトグラフィーで測定して約5%未満になるまでこれを繰り返す。
【0103】次に反応生成物を、例えば好ましくは希塩酸又はその他の適当な酸によりpH約1まで酸性化し、約50〜55℃まで加熱して生成物を溶解し、次に蒸留して生成物を結晶化することによって、精製することができる。結晶化は、冷却し、例えば濾過により生成物を単離することによって補助してもよい。水素供与体及び水中で生成物を洗浄し、乾燥して、方法を完了してもよい。
【0104】ネルフィナビルのカルボニル化合物中間体であるベンジル〔3−クロロ−2−オキソ−(R)−1−(フェニルチオメチル)−プロピル〕−カルバマートを対応するアルコールに変換するには、出発物質であるカルボニル化合物を、MPV仲介物質、好ましくはアルミニウムsec−ブトキシド又はアルミニウムtert−ブトキシドと、好ましくは1又はそれ以上、例えば約1.1までのモル比で、窒素下、トルエン中、約5〜10℃で接触させる。好ましくはテトラヒドロフラン(THF)及び水又はアルコールは存在せず、又は水及びアルコールについては、約0.5%未満、好ましくは0.05%未満の量に保持する。ヘキサンもまた、反応混合物に加えないのが好ましい。
【0105】替わりにベンジル〔3−クロロ−2−オキソ−(R)−1−(フェニルチオメチル)−プロピル〕−カルバマートを対応するアルコールに、出発物質であるカルボニル化合物を、MPV仲介物質、好ましくはアルミニウムイソプロポキシドと、担体液体、好ましくはトルエン中で接触させることによって変換することができる。反応混合物は好ましくは約10℃に冷却し、酸、好ましくはメタンスルホン酸を混合物に加える。反応混合物を約40℃になるまで約60分間加温し、次にケトンが1%未満残留するまで約25℃まで冷却する。反応混合物の反応を停止させ、上述したように処理する。
【0106】反応は、10℃で約2〜3時間の期間で完了する(未反応の出発物質が約1%未満)。次に反応混合物を均一になるまで約1時間の間約65℃まで加熱し、水相を除去し、有機物を留去する。次にヘキサンを加えて、約40%ヘキサン/トルエン混合物を得、混合物を冷却して、生成物を結晶化させる。本方法により、92%の収率が得られ、所望でないジアステレオマーに対する所望のジアステレオマーの比率は97:3である。
【0107】出発物質であるカルボニル化合物に対する所望の光学活性異性体の繰り返し収率90〜92%が、本発明の方法を用いることによって達成され、所望ではない光学活性生成物に対する所望の生成物の比率は、約96:5〜97:3又はそれ以上である。
【0108】
【実施例】本発明を以下の実施例により更に説明する。
実施例1出発物質であるカルボニル化合物、メチル〔3−クロロ−2−オキソ−(S)−1−(ベンジル)−プロピル〕−カルバマートを、溶媒比6:1〜8:1で、トルエンに懸濁した。生成したスラリーに、アルミニウムイソプロポキシド0.5当量及びイソプロパノール6〜7当量を加えた。混合物を10℃に冷却し、メタンスルホン酸(0.5当量)を加え、ポット温度を10〜15℃の範囲に保持した。スラリーを次に40±2℃まで加熱し、30分間その温度で保持した。反応混合物(この段階で均一)を、残留クロロメチルケトンについて分析した。反応を更に30分間進行させ、この時点で混合物を再びサンプリングし、分析した。出発物質であるカルボニル化合物は、HPLCで測定したところ、1%未満存在していた。次に冷却して、バッチ温度を約20〜25℃に低下させた。
【0109】次にスラリーを、十分量の塩酸水溶液でpH約3に酸性化して、アルミニウム錯体を解離させ、混合物をストリッピングして、粘度のあるペースト状として、ほとんどのトルエンを除去した。混合物を、真空蒸留で除去したトルエン/水混合物と等量のイソプロパノールの等量で希釈し、再びストリッピングして、粘度のあるペースト状とし、真空蒸留で除去したのと等量のイソプロパノールで希釈した。この段階で、スラリーに残留しているトルエンの濃度は、ガスクロマトグラフィーで測定したところ、5%未満であった。
【0110】希塩酸でpH1まで酸性化し、次に蒸留したところ、(50〜55℃で水で希釈後)、所望の生成物が、結晶状のスラリーとして得られた。スラリーを24〜28℃まで冷却し、濾過により単離した。湿潤したケークをまず水中の20%イソプロパノール、次に水で洗浄し、真空下、約60℃で一定の重量になるまで乾燥した。
【0111】所望の生成物、メチル(1S,2S)−〔3−クロロ−2−ヒドロキシ−1−(ベンジル)−プロピル〕−カルバマートが、一連の繰り返しの後、出発物質であるカルボニル化合物に対して87〜90%の収率で得られた。還元の粗立体選択性は、94:6〜95:5(S,Rに対するS,S)であった。
【0112】実施例25mmol(1.27g)の量のメチル〔3−クロロ−2−オキソ−(S)−1−(ベンジル)−プロピル〕−カルバマートをトルエン(25ml)に加えて、溶媒比を20:1とした。イソプロピルアルコール1当量を、アルミニウムイソプロポキシド0.1当量と共に加えた。混合物を0〜5℃に冷却し、メタンスルホン酸0.08当量を加えた。スラリーを室温にまで加温し、36〜40時間撹拌した。クロロケトンのトルエンに対する溶解度は低かった。16時間後、対応するアルコールへの変換は、面積規格化(area normalized)HPLCによると24%であった。還元の立体選択性は、93:7(S,Rに対するS,S)であった。
【0113】実施例3温度、時間及び溶媒比の条件を変えて、実施例1及び2の反応物質を用いて試験を行った。結果を表1に示す。この結果により、より低い温度が良好な光学的純度をもたらす一方、出発物質であるカルボニル化合物(ケトン)の過剰量が長時間の反応時間後でも未反応のまま残留するため、40℃の温度が、一般に30℃よりも良好であることが示された。6:1の溶媒比が良好であった;しかし、撹拌と容器間の移行を改善するには、溶媒比を引き上げることが望ましいであろう。
【0114】
【表1】

【0115】実施例4前述の実施例の反応に使用することができた出発物質は、イソプロパノールで希釈した際に約16〜17%のトルエン、及び約1〜2%のTHFを含有していた。したがって、これらの不純物が反応に及ぼす効果を調べるために、試験を行った。結果を表2に示す。これらの不純物は、反応には悪影響を及ぼさないと考えられた。
【0116】
【表2】

【0117】実施例5出発物質20〜50gを用いて、スケールアップした実験を行った。結果は表3に示す。
【0118】
【表3】

【0119】いずれの場合でも、収率は優れており、(S,R)濃度は、正常範囲内であった。表3の最初の実験において(S,R)の濃度が高かったのは、バッチの過剰なストリッピングのために水に対するイソプロピルアルコールが正常比以下になったためである(約22%)。水に対するイソプロピルアルコールの正常比は、30:70の範囲内であり、約2%が、広がっている。粗反応段階における光学的純度もまた、従来の技術による最良の方法での88〜90%に比べて、92〜93%のエナンチオマー過剰率(e.e.)と非常に改善されていた。オキサゾリジノン及びその他の不純物の濃度は、低下し続けた。
【0120】実施例6実施例1で使用したアルミニウムイソプロポキシド触媒の替わりにアルミニウムトリ−n−ブトキシド、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド、又はアルミニウムトリ−t−ブトキシド0.5当量を使用した以外は、実施例1の出発物質と方法を使用した。30分間〜4時間での各化合物でのS,S異性体の収率を、アルミニウムイソプロポキシドのそれと比較し、表4に示した。
【0121】
【表4】

【0122】実施例7実施例1の出発物質4.20g(16.4mmol)、イソプロパノール7.0ml(約6〜7当量)、及びトルエン40mlに溶解したアルミニウムトリ−sec−ブトキシド2.0g(0.5当量、8.2mmol)を、冷却器、不活性ガス系、加熱パッド、温度制御システム、及び機械的撹拌器を備えた250mlの3首の丸底フラスコに入れた。混合物を10〜15℃に冷却し、メタンスルホン酸0.5ml(8.2mmol、0.5当量)を加えた。混合物を30分間かけて40℃まで加温したが、この時点で反応混合物は均一であった。出発物質の1%未満が残留するまで(約0.75〜1.0時間)温度を40±2℃で保持した。反応混合物をHPLCで分析したところ、反応終了時での還元選択性は、95.21%(S,S異性体)対3.01%(S,R異性体)であり、94.8%のエナンチオマー過剰率であった。副生成物であるオキサゾリジノンが、0.86%存在していた。
【0123】実施例8窒素雰囲気下、3首のジャケット付き1リットル容器に、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド117.4mM(28.9g、1.05当量)、及びトルエン150ml(3.7倍量)を入れ、混合物を、窒素下で撹拌しながら、5℃未満になるまで冷却した。固体のベンジル〔3−クロロ−2−オキソ−(R)−1−(フェニルチオメチル)−プロピル〕−カルバマート(40.6g)をトルエン175ml(4.3倍量)中でスラリー化し、一回で反応容器に移した(添加時間約5分間)。混合物を30分間かけて10℃まで暖め、反応が完了するまで10℃で保持した。反応混合物の総量は、440mL(10.8倍量)であった。出発物質の1%未満は、2.0〜3.0時間の総反応時間で未反応のまま残留していた。
【0124】次に混合物を5℃に冷却し、均一になるまで激しく撹拌しながら30分間かけて、25%HCl 70mlを緩徐に加えた。総量は、575ml(14.2倍量)であった。水相を65℃で除去した。有機相を次に60〜65℃で5分間激しく撹拌しながら、60〜65℃で水75mLで1回洗浄し、分離した。留出物の3倍量(120ml)を減圧下で除去した(30分間の除去時間、150mmHgでの留出物の温度50〜55℃、ポット温度65℃)。混合物を65〜68℃で保持し、ヘキサン3.7倍量(150ml)を1時間かけて加えて、ポット温度を65℃に保持しながら40%ヘキサン/トルエン混合物を生成させた。ヘキサン添加完了後、混合物を65〜66℃で1時間保持し、65〜66℃から1時間当り20度の速度で冷却した。次に混合物を5℃で1時間保持した(総結晶化時間4〜6時間)。混合物を25℃で濾過し、濾過は、1:1トルエン/ヘキサンの4倍量で行った。湿潤したケークを、4〜5倍量のヘキサンで洗浄した(総濾過時間15〜30分間)。固体を減圧下(150mmHg)、窒素流下、40℃で4時間乾燥した。
【0125】この方法により、ベンジル(1R,2S)−〔3−クロロ−2−ヒドロキシ−1−(フェニルチオメチル)−プロピル〕カルバマートが、収率92%で、著しい高純度(>98.8%)で得られた。粗還元混合物中の所望のジアステレオマーの選択性は、97.0:3.0よりも高かった。クロロアルコールの1.5%未満が、母液から消失していた。母液中の所望ではないジアステレオマーに対する所望のジアステレオマーの比は、2:5であった。溶媒の容積は、還元の間に20%づつ減少し、酸による反応停止のためには60%減少した。
【0126】酸による反応停止の間、粘度のある懸濁液が生じ、これをよく撹拌することはできなかった。懸濁液は、相分離の前に加熱により30℃で分解した。ある種の固体のクロロアルコールの沈殿が、蒸留の終了に向かって観察された。しかし67℃で30分間激しく撹拌することで、均一な溶液に戻った。結晶化は、約20%ヘキサンを加えた後に開始された。
【0127】実施例9異なる還元剤を用いて実施例8の操作を繰り返して、MPV試薬であるアルミニウムsec−ブトキシドとの比較を行った。表5に示したように結果により、高度な立体選択性、つまり(1R,2S):(1R,2R)=97:3を達成するためにMPV試薬が優れていることが示された。
【0128】実施例10多数のMPV試薬及び多数の異なる溶媒を用いて、実施例8の操作を繰り返した。表6に示すように、結果により、非極性溶媒を用いた際の優れた立体選択性が示された。
【0129】実施例11多数の異なるMPV試薬及び多数の異なる酸を用いて、実施例8の操作を繰り返した。表7に示すように、結果により、出発物質に加える前にメチルスルホン酸及びアルミニウムイソプロポキシドをあらかじめ混合した場合に、98.0:2.0と高い立体選択性が示された。
【0130】本明細書を読み、各種の替わりの実施態様を行うことは、当業者にとっては自明であろう。例えば、本発明は、サキナビル及びネルフィナビル中間体の立体選択的調製について説明されている。当業者にとっては容易に明らかであるように、広範囲のその他のプロテアーゼ阻害物質及びその他の化合物に対する中間体も、過度の実験を行うことなくわずかな変更を行った同様の反応により立体選択的に調製することができる。これらの変更は、本発明の範囲及び思想の範囲内であると考えられる。
【0131】
【表5】

【0132】
【表6】

【0133】
【表7】

【0134】本発明の実施態様は、以下のとおりである。
1. カルボニル化合物の対応する光学活性アルコールへの立体選択的還元方法であって、キラル中心と、プロキラル炭素原子を有するカルボニル基を有する化合物を、メーヤワイン・ポンドルフ・バーレー(MPV)仲介物質と、約50℃又はそれ未満の温度で、過剰量の所望の光学活性アルコールを生成させるのに十分な時間、接触させる方法。
2. 該MPV仲介物質が、化学量論量未満の量で存在し、水素供与体を、化学量論量の少なくとも約2倍の量で添加する、上記1の方法。
3. 強酸の存在下で実施する、上記1又は2の方法。
4. 該酸が、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などのC1-5アルキルスルホン酸、及びトリフルオロメタンスルホン酸からなる群から選択される、上記3の方法。
5. 該MPV仲介物質が、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムtert−ブトキシド、アルミニウムフェノキシド、及びアルミニウムsec−ブトキシドからなる群から選択される、上記1〜4のいずれか1の方法。
6. 該MPV仲介物質が、アルミニウムsec−ブトキシド又はアルミニウムイソプロポキシドである、上記5の方法。
7. 該水素供与体が、アルコールである、上記1〜6のいずれか1の方法。
8. 該アルコールが、イソプロパノールである、上記7の方法。
9. 該MPV仲介物質が、化学量論量又はそれ以上の量で存在し、該方法を、アルコール性溶媒又は反応物質の非存在下で行う、上記1の方法。
10. カルボニル化合物が、該カルボニル基のプロキラル炭素原子に隣接したキラル炭素原子を有する、上記1〜9のいずれか1の方法。
11. 該カルボニル化合物が、式:【0135】
【化8】

【0136】〔式中、R1及びR2は、独立して、ヒドロカルビル基であり;Xは、Cl、F、Br、又はIであり;そして*は、キラル炭素原子を表す〕で示される化合物の群から選択される、上記10の方法。
12. R1が、ヒドロカルビル−CO−NH−であり;そして*、R2及びXが、上記11に記載のとおりである、上記11の方法。
13. R2が、アルキル、アリール、アラルキル、アリールチオ、又はアリールチオアルキルである、上記11又は12の方法。
14. R1が、式:【0137】
【化9】

【0138】〔式中、mは、0、1、又は2であり;Zは、H、又はN−保護基であり;Yは、独立して、場合により保護されたα−アミノ酸残基である〕で示される基であり;そしてR2が、アリールチオ、アリールチオアルキル、又は場合により保護されたα−アミノ酸側鎖である、上記11の方法。
15. カルボニル化合物が、メチル〔3−クロロ−2−オキソ−(S)−1−(ベンジル)−プロピル〕−カルバマートである、上記1〜14のいずれか1の方法。
16. カルボニル化合物が、ベンジル〔3−クロロ−2−オキソ−(R)−1−(フェニルチオメチル)−プロピル〕カルバマートである、上記1〜14のいずれか1の方法。
【出願人】 【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ・ホフマン−ラ ロシユ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【出願日】 平成11年6月8日(1999.6.8)
【代理人】 【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇 (外1名)
【公開番号】 特開2000−26318(P2000−26318A)
【公開日】 平成12年1月25日(2000.1.25)
【出願番号】 特願平11−160585