トップ :: C 化学 冶金 :: C04 セメント;コンクリ−ト;人造石;セラミツクス;耐火物

【発明の名称】 高靭性FRC材料およびその調合法
【発明者】 【氏名】閑田 徹志

【氏名】渡辺 茂雄

【氏名】福元 敏之

【氏名】ビクター シー リー

【要約】 【課題】汎用のPVA短繊維を用いて引張ひずみが1%以上を示すクラック分散型のFRC材料を得る。

【解決手段】材令28日の硬化体の引張試験において引張ひずみが1%以上を示すクラック分散型の繊維補強セメント複合材料(FRC材料)であって,下記〔F1〕のPVA短繊維を,水セメント比(W/C×100)40%以上で且つ砂セメント比(S/C)が1.0以下(0を含む)の調合のマトリクスに,1.5超え〜3vol.%の配合量で,3次元方向にランダムに分散配合してなる高靭性FRC材料。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 材令28日の硬化体の引張試験において引張ひずみが1%以上を示すクラック分散型の繊維補強セメント複合材料(FRC材料)であって,下記〔F1〕のPVA短繊維を,水セメント比(W/C×100)40%以上で且つ砂セメント比(S/C)が1.0以下(0を含む)の調合のマトリクスに,1.5超え〜3vol.%の配合量で,3次元方向にランダムに分散配合してなる高靭性FRC材料。
〔F1〕
繊維強度:1000〜1500MPa未満,見かけの繊維強度:700〜1000MPa未満,繊維直径:40〜50μm,繊維長さ:5〜20mm。
【請求項2】 材令28日の硬化体の引張試験において引張ひずみが1%以上を示すクラック分散型の繊維補強セメント複合材料(FRC材料)であって,下記〔F2〕のPVA短繊維を,水セメント比(W/C×100)が30%以上で且つ砂セメント比(S/C)が1.0以下(0を含む)の調合のマトリクスに,1〜3vol.%の配合量で,3次元方向にランダムに分散配合してなる高靭性FRC材料。
〔F2〕
繊維強度:1500MPa以上で2400MPa以下,見かけの繊維強度:1000MPa以上で1800MPa以下,繊維直径:50μm以下,繊維長さ:5〜20mm。
【請求項3】 繊維直径が40μm未満である請求項2に記載の高靭性FRC材料材料。
【請求項4】 引張ひずみが2%を超える請求項1,2または3に記載の高靭性FRC材料。
【請求項5】 FRC材料のマトリクスと繊維の摩擦付着強度が1〜6MPa,化学付着強度が40MPa以下である請求項1,2,3または4に記載の高靭性FRC材料。
【請求項6】 マトリクス中にPVA短繊維を分散配合した繊維補強セメント複合材料(FRC材料)の調合にさいし,下記の〔数1〕の式(5) で求まるコンプレメンタリエネルギーJ'bと,式(1)の関係を有するマトリクスの破壊靭性Jtip との間で,3Jtip <J'bの関係が成立するPVA短繊維を使用し且つマトリクスの調合を決定することを特徴とするPVA短繊維を用いた高靭性FRC材料の調合法。
【数1】

ただし,σa :マルチクラック発生時の作用応力δa :マルチクラック発生時のクラック中央部の開口変位σc :繊維による架橋応力σc(δ) :繊維による架橋応力σcと開口変位δの関係σpeak:最大架橋応力δpeak:σpeakに対応する開口変位を表す。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,PVA繊維(Polyvinyl Alcohol 系繊維,通称ビニロン繊維と呼ばれている)を配合した高靭性の繊維補強セメント複合材料(FRC材料)に関する。
【0002】
【従来の技術】近年,FRC材料研究の進歩により,引張ひずみが数パーセントに達するような極めて靭性に富むFRC材料(高靭性FRC材料)が開発され,新しい構造材として注目を集めている。この高靭性FRCの引張応力−ひずみ関係は,鋼材に類似の挙動となることから,Pseudo-Strain-Hardening Behavior (擬似ひずみ硬化性挙動) と呼ばれ,初期ひび割れ点以降のひずみは,載荷軸に垂直に発生する多数の微細クラック(マルチクラック)によってもたらされる。
【0003】例えば,Liらは,高性能ポリエチレン(PE)繊維によるFRCを対象とした研究を行って,当該PE繊維を体積比で2%混入した複合材料により5%を越える引張ひずみを実現するとともに,提案したマイクロメカニクス設計理論により実験結果を予測することができると報告している〔Matrix Design for Pseudo-Strain-Hardening Behavior Fiber Reinforced Cementitious Composites, Materials and Structure, RILEM, Vol.28, p.586-595, 1995〕。
【0004】しかし,従来提案された高靭性FRC材料は,使用できる繊維の種類が高強度を有する高性能ポリエチレン繊維(マトリクス中で破断する見かけの繊維強度が約2400MPaにも達する)に限られている。したがって,実験室的には高靭性FRC材料が開発されたとしても,高性能ポリエチレン繊維を使用するものでは建設材料用途には高価に過ぎ,また,この繊維は市場への供給量も限られているので,従来提案された高靭性FRC材料を実際に建設市場で実用化することは困難である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】したがって,本発明は,安価な汎用材料であるPVA繊維(マトリクス中の見かけ繊維強度は高性能ポリエチレン繊維の1/2〜1/3程度でしかない)を用いて高靭性FRCを実現することを課題としたものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明によれば,材令28日の硬化体の引張試験において引張ひずみが1%以上を示すクラック分散型の繊維補強セメント複合材料(FRC材料)であって,下記〔F1〕のPVA短繊維を,水セメント比(W/C×100)が40%以上で且つ砂セメント比(S/C)が1.0以下(0を含む)の調合のマトリクスに,1.5超え〜3vol.%の配合量で,3次元方向にランダムに分散配合してなる高靭性FRC材料を提供する。
〔F1〕
繊維強度:1000〜1500MPa未満,見かけの繊維強度:700〜1000MPa未満,繊維直径:40〜50μm,繊維長さ:5〜20mm。
【0007】さらに本発明によれば,材令28日の硬化体の引張試験において引張ひずみが1%以上を示すクラック分散型の繊維補強セメント複合材料(FRC材料)であって,下記〔F2〕のPVA短繊維を,水セメント比(W/C×100)が30%以上で且つ砂セメント比(S/C)が1.0以下(0を含む)の調合のマトリクスに,1〜3vol.%の配合量で,3次元方向にランダムに分散配合してなる高靭性FRC材料を提供する。
〔F2〕
繊維強度:1500MPa以上で2400MPa以下,見かけの繊維強度:1000MPa以上で1800MPa以下,繊維直径:50μm以下好ましくは40μm未満で,好ましくは20μm以上,繊維長さ:5〜20mm。
【0008】本発明に従うPVA繊維配合の高靭性FRC材料は,マトリクスと繊維の摩擦付着強度が1〜6MPa,化学付着強度が40MPa以下である。
【0009】そして,本発明によれば,モルタル中にPVA短繊維を3次元方向にランダムに配合させてなる繊維補強セメント複合材料(FRC材料)の調合にさいし,下記の式(5) で求まるコンプレメンタリエネルギーJ'bと,式(1) の関係を有するマトリクスの破壊靭性Jtip との間で,3Jtip <J'bの関係が成立するPVA短繊維を使用し且つマトリクスの調合を決定することを特徴とするPVA短繊維を用いた高靭性FRC材料の調合法を提供する。
【0010】
【数2】

ただし,σa :マルチクラック発生時の作用応力δa :マルチクラック発生時のクラック中央部の開口変位σc :繊維による架橋応力σc(δ) :繊維による架橋応力σcと開口変位δの関係σpeak:最大架橋応力δpeak:σpeakに対応する開口変位を表す。ここに,Jtip はマトリクスの調合すなわち水セメント比や砂/セメント比によって制御可能な値であり,実験によってその値を確認することができる。例えば大岸,小野:セメントペースト, モルタルの破壊靭性に及ぼす試験要因効果,「コンクリート工学」Vol.25, No.2, PP.113-125。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明に従うPVA繊維配合の高靭性FRC材料は引張ひずみ1%以上,好ましくは2%以上を有する。本明細書で言う「引張ひずみ」は材令28日以上の硬化体の引張試験で得られる応力−歪み曲線において,最大引張応力値でのひずみ量(%)を言う。実際には,材令28日での試験体の引張試験(例えば後記の実施例に示すように断面30mm×13mmの試験体を80mmの試験区間で引張試験を行う)における引張ひずみ(%)で代表される。
【0012】この引張ひずみが1%以上であることは,載荷方向(応力方向)とほぼ直角方向に多数のクラック(マルチクラック)が発生するクラック分散型の破壊現象が生じていることを意味する。これまでも,PVA繊維配合のFRC材料それ自体は知られているが,その引張ひずみは高々0.5%程度であり,マルチクラック発生による引張ひずみ1%以上を達成したPVA繊維配合のFRC材料は例を見ない。
【0013】例えば特開平5−24897号公報では,直径と長さが異なる2種のPVA繊維(ビニロン繊維)を配合することにより厚付け可能でひび割れ抵抗に優れたモルタルが開示されているが,繊維無添加のものと比べた曲げ靭性は高々20倍でであり,この値から推定すると引張ひずみは0.5%以下である(引張ひずみ約1%では,曲げ靭性は繊維無添加のものの約80倍以上となる筈である)。
【0014】本発明者らは,マルチクラックの発生要因であるSteady State Cracking 現象(SSC現象)をPVA繊維で実現すべく種々の試験研究を重ねたところ,用いるPVA繊維の性質と,マトリクスの性質をうまく組み合わせると,PVA繊維であっても引張ひずみ1%以上,好ましくは2%以上の高靭性FRC材料が得られることがわかった。
【0015】すなわち,下記のPVA短繊維F1を,水セメント比(W/C×100)が40%以上で砂セメント比(S/C)が1.0以下(0を含む)の調合のマトリクスに,1.5超え〜3vol.%の配合量で,3次元方向にランダムに分散配合させた場合(配合・と言う)と,下記のPVA繊維F2を,水セメント比(W/C×100)が30%以上で砂セメント比(S/C)が1.0以下(0を含む)の調合のマトリクスに,1〜3vol.%の配合量で,3次元方向にランダムに分散配合させた場合(配合・と言う)には,クラック分散型の高靭性FRC材料が得られることがわかった。
【0016】〔F1〕
繊維強度:1000〜1500MPa未満,見かけの繊維強度:700〜1000MPa未満,繊維直径:40〜50μm,繊維長さ:5〜20mm。
〔F2〕
繊維強度:1500MPa以上で2400MPa以下,見かけの繊維強度:1000MPa以上で1800MPa以下,繊維直径:50μm以下好ましくは40μm未満で,好ましくは20μm以上,繊維長さ:5〜20mm。
F1とF2における「見かけの繊維強度」は,当該PVA繊維が実際のFRC材料中で破断する強度であり,これは実際のFRC材料中の繊維について破断試験することにより実測できる。
【0017】F1を用いる配合・においては,マトリクスの水セメント比が40%未満ではこの繊維にとってはマトリクスの弾性係数と破壊靭性が高くなってマルチクラックが発生せず,1%以上の引張ひずみが発生しない(後記比較例1〜2参照)。また,砂セメント比が1.0を超えるとこの繊維にとってはマトリクスの弾性係数と破壊靭性が高くなってマルチクラックが発生せず,1%以上の引張ひずみが発生しない(後記比較例3参照)。したがって,F1繊維を用いる場合のマトリクスは水セメントが40%以上,好ましくは42%以上,さらに好ましくは44%以上とし,砂セメント比は1.0以下,好ましくは0.7以下,さらに好ましくは0.5以下とする。しかし,この調合のマトリクスであっても,F1繊維の配合量が1.5vol.%以下ではマルチクラックが発生しない(比較例4参照)ので,F1繊維の配合量を1.5vol.%より多くする必要がある。しかし,あまり多く配合しても効果は飽和するので3vol.%以下とする。
【0018】また,この調合のマトリクスと繊維配合量であっても,F1繊維の長さが5mm未満であると,マルチクラックが発生しないので(比較例5参照),5mm以上の長さのものを使用する必要がある。しかし,20mmより長いものを使用しても,前記の配合量ではマルチクラックが発生しなくなる。したがってF1繊維の長さは5〜20mmとする必要があり,好ましくは6〜20mm,さらに好ましくは8〜15mmである。
【0019】他方,F2を用いる配合・においては,マトリクスの水セメント比が30%未満ではこの繊維にとってはマトリクスの弾性係数と破壊靭性が高くなってマルチクラックが発生せず,1%以上の引張ひずみが発生しない。また砂セメント比が1.0を超えるとこの繊維にとってはマトリクスの弾性係数と破壊靭性が高くなってマトリクスが発生せず,1%以上の引張ひずみが発生しない。したがって,F2繊維を用いる場合のマトリクスは水セメントが30%以上,好ましくは32%以上,さらに好ましくは35%以上とし,砂セメント比は1.0以下,好ましくは0.7以下,さらに好ましくは0.5以下とする。しかし,この調合のマトリクスであっても,F2繊維の配合量が1.0vol.%以下ではマルチクラックが発生しがたいので,F2繊維の配合量を1.0vol.%より多くする必要がある。しかし,あまり多く配合しても効果は飽和するので3vol.%以下とする。
【0020】また,この調合のマトリクスと繊維配合量であっても,F2繊維の長さが5mm未満であると,マルチクラックが発生しないので,5mm以上の長さのものを使用する必要がある。しかし,20mmより長いものを使用しても,前記の配合量ではマルチクラックが発生しなくなる。したがってF2繊維の長さは5〜20mmとする必要があり,好ましくは6〜18mm,さらに好ましくは6〜15mmである。
【0021】以下に,本発明の内容をさらに具体的に説明する。前記のSSC現象が起こる際には,下記の(1) 式が成り立つ。
【0022】
【数3】

【0023】繊維による架橋応力σc と開口変位δの関係σc(δ)は架橋則(Bridging Law) と一般に呼ばれ,FRCの機械的性質を規定する最も重要な性能である。FRCの架橋則は,開口変位δだけでなく,実際には,構成材料である繊維,マトリクス,さらに繊維/マトリクス界面の性質を表すパラメーターの関数として, 次の(2) 式で表される。
【0024】すなわち, σc =(δ:繊維の性質,マトリクスの性質,界面の性質) ・・(2)ここで,繊維の性質としては,繊維長さ Lf (mm)
繊維径 df (mm)
繊維弾性係数 Ef (GPa)
見かけの繊維強度σnfu(MPa)
が挙げられ, マトリクスの性質としては,マトリクス性係数 Em (GPa)
マトリクス破壊靭性 Km (MPam0.5)があり,繊維とマトリクスの界面の性質としては,摩擦付着強度 τi (MPa)
化学付着強度:τs (MPa)
がある。
【0025】さらに,マルチクラックが起こるためには,次の(3) 式の条件を満たさなければならない。
σa <σpeak ・・(3)ここに,σpeakは最大架橋応力である。またσa は式(1) で示したようにマルチクラック発生時の作用応力,実際にはSSC現象が起こるときの架橋応力である。(1) 式と(3) 式から,次の条件が最終的に導き出される。
J'b /Jtip >1 ・・(4)ここで,J'b は式(5) で示される。
【0026】
【数4】

【0027】δpeakはσpeakに対応する開口変位,J'b は後述するσc(δ)曲線のコンプリメンタリエネルギ(Complementary Energy )である。
【0028】これら(1) 〜(5) に従う高靭性FRCの条件を,高性能ポリエチレン繊維よりも強度が低く親水性であるPVA繊維で満たすためには,PVA繊維のマトリクス中での化学結合付着および繊維破断を(2) 式の架橋則において考慮する必要がある。本発明者らはこれらの現象について実験的および解析的検討を行い,PVA繊維を用いた場合の架橋則として〔数5〕〔数6〕を得た。
【0029】
【数5】

【0030】
【数6】

【0031】〔数5〕〔数6〕において,(i)は,繊維長Lf が短いため破断する繊維の割合が比較的小さな場合,(ii)は,Lf が長いため多くの繊維で破断が起こる場合を表している。さらに(i)および(ii)の両条件で,σc1は繊維破断が始まる開口変位δに達する以前のFRC材料の架橋応力,σc2はそれ以降のFRC材料の架橋応力を示している。したがって,σc2は後記の〔表1〕に示したパラメータ全ての関数として表現されるが,σc1は繊維破断に関わるパラメータ(見かけの繊維強度σnfuおよび見かけの繊維強度低減係数f')に無関係である。
【0032】〔数5〕〔数6〕の架橋則の特徴点は,PVA繊維のマトリクス中での化学結合付着強度τs を考慮し,さらに見かけの繊維強度σnfuの考え方を導入して,繊維破断の条件を実際に即した形にした点にあり,これによって,破断する繊維の割合の過少評価や繊維破断強度の過大評価が発生しないようにしたものである。
【0033】〔試験〕3種類の異なるPVA繊維(以下,ビニロン繊維ともいう)を用いてFRCを調合し,一軸引張試験を行う。これら3種類のFRCでは,マトリクスの調合を同一とし,繊維の特性の違いが引張挙動へ与える影響を明らかにすることができるようにした。表1に,使用するビニロン繊維の物性をまとめて示す。マトリクスは,水とセメント比45%および砂率40%のモルタルで,繊維の分散を促進するために増粘剤を加えた。
【0034】
【表1】

【0035】表1の値のうち,見かけの繊維強度σnfuは, 実際の複合材料中で繊維が破断する強度であり,これは,繊維メーカーのカタログ値より小さくなるという実験上の知見に基づいている。さらに,この破断強度は,繊維配向角度が大きくなるほど減少することが分かっており,f' はこの強度低減効果を現す係数である。また,摩擦付着強度τi および化学付着強度τs は,マトリクスに埋め込んだ単繊維の引き抜き試験をもとに算出した。スナビング係数fは,繊維の付着強度が繊維の配向角度により見かけ上高くなる効果を表した係数である。
【0036】実験に用いた3種類のFRCは,混入した繊維種類で区別し,14μm−PVA,40μm−PVA,および37μm−HPVAと記す。14μm−PVAは実際にカーテンウオール製品に用いられている調合にほぼ同一で,繊維径14μmの極細径ビニロン繊維を体積比で1.25%混入し,比較用として試験する。40μm−PVAには繊維径40μmの太径のビニロン繊維を体積比で2%混入した。この繊維は太径であり,繊維強度および弾性係数が14μm径のものより低くなっている。3番目の37μm−HPVAには太径の高強度繊維を体積比で1.5%用いた。この繊維は太径ではあるが,高い繊維強度と弾性係数を有する。
【0037】各FRCの引張試験を,30×13mmの断面を有する引張試験体について試験区間80mmで行った。ひずみの測定には試験体の両側に治具を介して取り付けたひずみゲージ式変位計を用いた。試験は材令28日で最低3体の試験体を用いて行った。
【0038】この試験の結果,3種類のFRCの引張試験では異なるひび割れ性状が観察された。14μm−PVAの試験体では,1−2本のクラックしか発生しなかった。しかし,40μm−PVAおよび37μm−HPVAの試験体では,試験体表面全体にわたって多数のクラックが発生した。このクラックの様子を37μm−HPVAのものについて図1に示す。
【0039】このようなひび割れ性状を反映して,実験で得られた3種類のFRCの引張応力−ひずみ曲線は互いに異なるものとなった。それらの引張応力−ひずみ曲線を図2に示した。
【0040】図2から明らかなように,14μm−PVAでは最大ひずみが0.5%以下であるのに対して,40μm−PVAでは1.5%程度,37μm−HPVAでは2.5%程度のひずみが観察された。図2の応力−ひずみ曲線において,応力の上昇と下降の鋭い繰り返しはクラックの発生に対応しており,この応力の上下動の繰り返しの数がクラック発生数を示している。14μm−PVAと他の2つのFRCでは,明らかにこの応力の上下動の起こった数に大きな違いがあり,先に述べたクラックの発生数に関する観察の結果と対応している。
【0041】図3は表1の値を前記の式(2) に代入して得た各FRCの架橋応力(σc ) とクラック開口変位 (δ) との関係を示す図である。図3に見られるように,3種類のσc −δ曲線はそれぞれ大きく異なっており,最大架橋応力の比較では,37μm−HPVAが最も大きく,14μm−PVAが最も小さい。また,前記の式(5) で与えられるJ'b( コンプリメンタルエネルギ) は, 各FRCにおいて,σpeak (最大架橋応力) と各曲線の差をδpeakまで積分した値として,図中に影を付した領域の面積で示される。
【0042】各FRCのJ'b は,図3に見られるように大きく相違しており,特に14μm−PVAのものでは,37μm−HPVAのものに比べて極めて小さく,架橋能力が低いことがわかる。このような架橋性能の大きな相違が図2に示すような引張挙動の違いとなって現れていると見てよい。
【0043】図4は,各FRCについて,式(2) によって得られたσpeak (最大架橋応力)と引張強度の実測値の関係を示したものである。マルチクラックを生じる高靭性FRCでは,最大架橋応力σpeakが引張強度と対応することになる(図中の破線で示す直線)が,通常のFRCの場合には必ずしもそうではない。これは次の理由による。即ち,通常のFRCの場合,引張強度がマトリクスの初期きれつ強度で決定されることが多く,この初期きれつ強度は内包する初期欠陥の大きさに大きく依存する。したがって,初期欠陥が小さければ引張強度は大きくなる。一方,高靭性FRCの場合には初期きれつ強度は初期欠陥の大きさには鈍感となり,引張強度は架橋応力の最大値によって決定される。事実,マルチクラックを生じた40μm−PVAおよび37μm−HPVAでは,σpeakと引張強度はよい対応を示しているのに対して,マルチクラックを生じなかった14μm−PVAでは,σpeakは引張強度を過少評価している。
【0044】図5は,各FRCについての引張ひずみとJ'b/Jtip の関係を示したものである。図5に見られるように,J'b/Jtip と引張ひずみとの間には相関があり,J'b/Jtip が1より小さい14μm−PVAでは引張ひずみが0.4付近であるのに対し,J'b/Jtip が3.6および6の40μm−PVAおよび37μm−HPVAでは引張ひずみが2.0および2.7付近である。
【0045】すなわち,14μm−PVAはJ'b/Jtip <1であり,前記の(4) 式を満たしていないが,これは,実験でマルチクラックが観察されなかったことと対応しており,マルチクラックが観察されなかったことを反映して終局ひずみが0.5%以下と小さくなっている。一方,40μm−PVAではJ'b/Jtip >3を満たしており,数多くのクラックが実験で観察されたことと一致している。また,これらのクラックによって引張ひずみが2%近くに達しており,14μm−PVAと比較して急増している。J'b/Jtip がさらに大きな37μm−HPVAでは40μm−PVAよりも引張ひずみがのびて3%に近づいている。しかし,14μm−PVAから40μm−PVAへの変化に比べるとこの引張ひずみの伸びは小さく,マルチクラックの生成が飽和に近いことを示している。
【0046】このように,J'b/Jtip が1を越えて大きくなるほどマルチクラックの密度が大きくなり,終局ひずみが増加することになる。J'b/Jtip が3程度の値を越えるとマルチクラックの密度はほぼ飽和するようになる。換言すれば,J'b/Jtip が3以上であれば,PVA繊維であっても確実にマルチクラックを発生させることができ,クラック分散型のFRC材料が得られる。以下に本発明に従う高靭性FRC材料の代表的な実施例を挙げる。
【0047】
【実施例】表2に,PVA繊維を用いた高靭性FRC材料の配合(水セメント比,砂セメント比,繊維混入量),マトリクス特性,繊維特性,界面特性並びに機械的性能を示した(実施例1〜10)。各特性の評価や引張試験は本文の試験の項で説明したとおりのものである。PVA繊維としては,A,BおよびCの3種を使用し,それらの長さと混入量を変化させた。
【0048】繊維Aは,繊維径=42μm,繊維強度=1200MPa,見かけの繊維強度=806MPaのものであり,〔F1〕に属する。繊維Bは,繊維径=37μm,繊維強度=2000MPa,見かけの繊維強度=1340MPaのものであり,〔F2〕に属する。繊維Cは,繊維径=14μm,繊維強度=2200MPa,見かけの繊維強度=1666MPaのものである。
【0049】同じPVA繊維を用いたが,マルチクラックが発生せず,したがって,引張ひずみが1%未満であったFRC材料の配合,マトリクス特性,繊維特性,界面特性並びに機械的性能を比較例1〜7として表2に併記した。
【0050】表2において「ひび割れ分散」はマルチクラックの発生状況を示しており,◎印はマルチクラックが発生したもの,△印はマルチクラックにまでは至らないが数本のクラックが発生したもの,×印は単一クラック破壊が起きたものである。
【0051】
【表2】

【0052】表2から,実施例1〜10のものは,A〜CのいずれのPVA繊維でも3を越えるJ'b/Jtip を有し,マルチクラックが発生し,引張ひずみ1%以上を示すクラック分散型の高靭性FRCであることがわかる。
【0053】これに対し,比較例1のものは水セメント比を45から35に代えた以外は実施例1と同一であり,このため,マトリクスの弾性係数と破壊靭性が実施例1より高くなっているが,このマトリクスでは,同じ〔F1〕繊維を用いても,水セメント比が40%未満であるために引張ひずみが0.5%と低く単一クラック破壊が起きている。
【0054】比較例2のものは,水セメント比を45から27に代えた以外は実施例2と同一であり,このためマトリクスの弾性係数と破壊靭性が実施例2より高くなっているが,このマトリクスでは,同じ〔F1〕繊維を用いても,水セメント比が40%未満であるために,引張ひずみが0.8%となり,クラック分散が不十分である。
【0055】比較例3のものは,砂セメント比を0.4から2に代えた以外は,実施例1と同一であり,このためマトリクスの弾性係数と破壊靭性が実施例1より高くなっており,このマトリクスでは同じ〔F1〕繊維を用いても,砂セメント比が0.5を超えるために引張ひずみが0.5%となり,クラック分散が起きない。
【0056】比較例4のものは,繊維の混入量を2%から1.5%に代えた以外は,実施例1と同じであるが,この混入量では引張ひずみは0.7%程度しか得られず,クラック分散が不十分である。
【0057】比較例5のものは,繊維の長さを12mmから4mmに代えた以外は,実施例1と同じであるが,繊維長さが5mm未満であるため,引張ひずみは0.5%と低く単一クラック破壊が起きている。
【0058】比較例6のものは,B種繊維の長さを12mmから4mmに代えた以外は,実施例6と同じであるが,繊維長さが5mm未満であるため,引張ひずみは0.7%であり,単一クラック破壊が起きている。
【0059】比較例7のものは,水セメント比を65%から45%に代えた以外は,実施例10と同じであり,このため,マトリクスの弾性係数と破壊靭性が実施例10より高くなっているが,このマトリクスでは同じC種の繊維との組合せでも引張ひずみが0.7%であり,単一クラック破壊が起きている。
【0060】
【発明の効果】以上説明したように,本発明によると,汎用繊維であるPVA繊維を用いてクラック分散型のFRC材料が実現でき,その経済性と高靭性を兼備することから各種建設材料分野に多大の貢献ができる。
【0061】例えば本発明材料では,破壊靭性が金属のアルミニウムと同等の水準(通常のコンクリートの100倍のオーダー)まで向上するため,材料内部に必ず存在する初期欠陥の大きさに材料挙動が左右されにくくなる。したがって,材料の信頼性が大きく増すことにより,部材を設計する際に安全率を低減して実際の材料強度により近い許容応力とすることができる。
【0062】また,鉄筋コンクリート構造物の短スパンせん断部材(例えば,耐震壁,短スパンばり,短柱)は,大きな水平力を負担する割に変形能力が小さく,構造物が脆性破壊する大きな要因の一つとなっているが,この短スパンせん断部材に本発明材料を用いれば,高い変形能力を活かして,変形能力が高く且つ大きなせん断力を負担する部材,すなわちエネルギ吸収能力が非常に優れた部材とすることができ,構造物全体の耐震性能を大きく向上させることができる。
【0063】さらに,鉄骨系の建設構造物(鉄骨造,SRC造,鋼管コンクリート造等)でも同様に,本発明材料を耐震壁として用いた場合には,周辺の鉄骨系フレームの変形に追従し,非常に高いエネルギ吸収能力を発揮する部材とすることができる。通常の鉄筋コンクリート造の壁ではこのような変形に追従できず,周辺フレームが抵抗力を十分発揮する前に小さな変形で耐力を失ってしまう。
【0064】さらに,本発明材料のせん断強度を利用することにより,せん断補強筋のない鉄筋コンクリート部材とすることができる。このような部材は,その高い変形能力により,せん断補強筋を用いた通常の鉄筋コンクリート部材よりも高い靭性を発揮することが可能である。
【0065】さらに本発明材料では,引張応力が作用したときに発生する個々のひび割れ幅をある小さな値(例えば0.1mm)以下に制御することができる。この機能を用いて,例えば,可視ひび割れの入らない外装材とすることが可能である。また,水の浸透圧はひび割れ幅の3乗に比例すると言われていることから,ひび割れ幅を小さく制御することで,水の侵入による鉄筋の腐食を低減し,高耐久性の鉄筋コンクリート部材とすることができる。さらに,漏水に対する抵抗性を高めることができるため,例えば,廃棄物処理場の遮水層等に有用である。
【0066】また,本発明材料の高いエネルギ吸収能力により優れた耐衝撃性能が期待できる。この性能により,列車や車両の車止め壁への利用が考えられる。また,本材料は,釘打ちによる接合が可能である。したがって,木材の代替としての利用が考えられる。例えば,角材や合板の代わりに本材料を成形して作成した柱・はり・平面部材により,住宅の骨組みを釘打ち接合によって施工することも可能である。このことにより,木材使用量の低減による環境対策と住宅の高耐久性化を図ることが可能となる。
【出願人】 【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
【識別番号】598085618
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ミシガン
【氏名又は名称原語表記】University of Michgan
【住所又は居所原語表記】Ann Arbor, Michigan 48109, U.S.A.
【出願日】 平成10年6月19日(1998.6.19)
【代理人】 【識別番号】100076130
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 憲治
【公開番号】 特開2000−7395(P2000−7395A)
【公開日】 平成12年1月11日(2000.1.11)
【出願番号】 特願平10−173657