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【発明の名称】 強誘電体薄膜とその成膜用原料溶液および成膜方法
【発明者】 【氏名】牧 一誠

【氏名】曽山 信幸

【氏名】森 暁

【氏名】影山 謙介

【氏名】松浦 正弥

【氏名】小木 勝実

【要約】 【課題】ゾルゲル法等の塗布法により成膜されるPZT、PLZT、チタン酸ビスマスなどの強誘電体薄膜における表面形態の均一性を改善し、結晶粒が微細で粒径のばらつきがなく、余分な相が混在しない膜を得る。

【解決手段】各成分金属または2以上の成分金属を含む加水分解性または熱分解の金属化合物、その部分加水分解物、および/またはその部分重縮合物を有機溶媒中に含有する溶液からなり、かつ該金属化合物がTiおよび/またはZrのオキソ錯体を含有する原料溶液を塗布に用いる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 Tiおよび/またはZrを含有する複合金属酸化物からなる強誘電体薄膜を成膜するための原料溶液であって、各成分金属または2以上の成分金属を含む金属化合物、その部分加水分解物、および/またはその部分重縮合物を有機溶媒中に含有する溶液からなり、かつ該金属化合物がTiおよび/またはZrのオキソ錯体、その部分加水分解物、および/またはその部分重縮合物を含んでいることを特徴とする強誘電体薄膜の成膜用原料溶液。
【請求項2】 該Tiおよび/またはZrのオキソ錯体の金属原子数が、原料溶液中に存在する金属原子の合計原子数に対して0.001 倍以上である、請求項1記載の強誘電体薄膜の成膜用原料溶液。
【請求項3】 強誘電体薄膜が一般式:Pb1-x Lax (Zry Ti1-y)1-x/43(式中、0≦x<1、0≦y≦1)で表されるものである、請求項1または2記載の強誘電体薄膜の成膜用原料溶液。
【請求項4】 強誘電体薄膜がチタン酸ビスマスである、請求項1または2記載の強誘電体薄膜の成膜用原料溶液。
【請求項5】 請求項1ないし4のいずれか1項に記載の原料溶液を耐熱性基板に塗布し、加熱して金属酸化物膜を成膜し、必要に応じて膜が所望の厚さになるまで塗布と加熱を繰り返し、前記加熱中または塗布と加熱の繰り返し後に膜を結晶化温度以上で焼成することからなる、強誘電体薄膜の形成方法。
【請求項6】 請求項5記載の方法により形成された強誘電体薄膜。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電気的および/または光学的性質により各種の誘電体デバイスへの応用が期待できる金属酸化物系の強誘電体薄膜を形成するための成膜用原料溶液と、これを用いた強誘電体薄膜の成膜方法および形成された強誘電体薄膜に関する。本発明の成膜用原料溶液は、表面形態が均一で電気的特性に優れた強誘電体薄膜を形成することができる。
【0002】
【従来の技術】一般式:Pb1-x Lax (Zry Ti1-y)1-x/4O3(0≦x<1、0≦y≦1)で示される組成を有する金属酸化物、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)およびランタンドープチタン酸ジルコン酸鉛(PLZT)は、ペロブスカイト型結晶構造を持つ強誘電体であり、その高い誘電率と優れた強誘電特性や光学特性から、これらの化合物の薄膜は、既にキャパシタ膜、光センサ、光回路素子などに使われている他、不揮発性メモリといった新たな誘電体デバイスへの応用が期待されている。また、チタン酸ビスマス(Bi4Ti3O12) も層状ペロブスカイト構造 (ペロブスカイト構造とBi2O3 が層状に積層した結晶構造) の強誘電体材料であり、これも上と同様の用途への応用が期待されている。
【0003】書換え可能メモリの主流であるDRAMは揮発性メモリであって、記憶保持のために周期的に電流を流す必要があり、消費電力が大きいことが、環境面から問題になっている。そこで、不揮発性で記憶を長期間保持できるため消費電力が少なく、DRAMと互換性のある強誘電体メモリが注目を集めている。強誘電体メモリは、上記の特徴に加えて、書き込み電圧が低く、高速書き込みが可能で、書換え可能回数が多く、ビット書換え可能で、ランダムアクセスが可能といった利点もあり、実用化を目指した研究が現在進められている。
【0004】強誘電体メモリは、DRAMのキャパシタ部分を強誘電体薄膜で置き換え、強誘電体の自発分極のヒステリシス現象を利用して、この薄膜に記憶機能を持たせたものである。この強誘電体メモリの強誘電体薄膜材料としては、自発分極が大きいPZT系材料が有利である。
【0005】一般に金属酸化物型の強誘電体薄膜は、各種の物理的気相成長法、化学的気相成長法、および湿式成膜法を利用して成膜することができるが、代表的な成膜法としては、物理的気相成長法であるスパッタリング法、化学的気相成長法であるMOCVD法、および湿式成膜法であるゾルゲル法が挙げられる。このうち、通常最も安価かつ簡便に強誘電体薄膜を成膜できるのはゾルゲル法である。
【0006】ゾルゲル法は、原料となる各成分金属の加水分解性の化合物、その部分加水分解物および/またはその部分重縮合物を含有する原料溶液を基板に塗布し、塗膜を乾燥させた後、例えば空気中で約400 ℃に加熱して金属酸化物の膜を形成し、さらにその金属酸化物の結晶化温度以上(例、約700 ℃)で焼成して膜を結晶化させることにより強誘電体薄膜を成膜する方法である。原料の加水分解性の金属化合物としては、金属アルコキシド、その部分加水分解物もしくは部分重縮合物といった有機化合物が一般に使用されている。
【0007】ゾルゲル法に似た方法として、有機金属分解 (MOD) 法がある。MOD法では、熱分解性の有機金属化合物、例えば、金属のβ−ジケトン錯体 (例、金属アセチルアセトネート) やカルボン酸塩 (例、酢酸塩) を含有する原料溶液を基板に塗布し、例えば空気中または含酸素雰囲気中等で加熱して、塗膜中の溶媒の蒸発および金属化合物の熱分解を生じさせて金属酸化物の膜を形成し、さらに結晶化温度以上で焼成して膜を結晶化させる。従って、原料化合物の種類が異なるだけで、成膜操作はゾルゲル法とほぼ同様である。
【0008】このようにゾルゲル法とMOD法は成膜操作が同じであるので、両者をミックスした方法も可能である。即ち、原料溶液が加水分解性の金属化合物と熱分解性の金属化合物の両方を含有していてもよく、その場合には塗膜の加熱中に原料化合物の加水分解と熱分解が起こり、金属酸化物になる。
【0009】以下では、ゾルゲル法、MOD法、およびこれらがミックスされた方法を包含する用語として「ゾルゲル法等」と称する。ゾルゲル法等は、安価かつ簡便で量産に適しているという利点に加えて、膜の組成制御が容易で、成膜厚みが比較的均一であるという特徴がある。従って、比較的平坦な基板上に強誘電体薄膜を形成するのには最も有利な成膜法であるといえる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】従来のゾルゲル法等で成膜したチタン酸・ジルコン酸系の強誘電体薄膜は、表面に凹凸があり、その成膜粒子の粒径が不均一である。例えば、この方法で成膜されたPZTまたはPLZTの薄膜は一般に、粒径1000 nm 程度またはそれ以上の粗大なペロブスカイト結晶粒領域と微細なジルコニア結晶粒領域とに分かれた不均一な表面形態を有している。
【0011】表面形態に不均一な個所があると、電気的特性も場所により不均一となることが予想される。従って、この膜から微細なキャパシタ膜を切り出した場合に、切り出した場所により電気的に劣ったものになる可能性があり、製品の信頼性または歩留りが大きく損なわれることから、不均一な表面形態は強誘電体薄膜にとって大きな障害となる。
【0012】本発明は、この問題点の解消を目指したものであり、ゾルゲル法等によりTiおよび/またはZrを含有する強誘電体薄膜を成膜する場合に、表面形態が均質な強誘電体薄膜を形成することができる成膜用の原料溶液と、この原料溶液を用いた強誘電体薄膜の成膜方法および成膜された強誘電体薄膜を提供することを課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題を解決するために研究を重ねた結果、ゾルゲル法等に用いる成膜用原料溶液が、原料の金属化合物としてTiおよび/またはZrのオキソ錯体(金属に酸化物イオンO2-が配位した錯体) を含有していると、成膜された強誘電体薄膜の表面形態の均一性が飛躍的に向上し、上記問題点を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0014】本発明は、Tiおよび/またはZrを含有する複合金属酸化物からなる強誘電体薄膜をゾルゲル法等により成膜するための溶液であって、各成分金属または2以上の成分金属を含む金属化合物、その部分加水分解物、および/またはその部分重縮合物を有機溶媒中に含有する溶液からなり、かつ該金属化合物がTiおよび/またはZrのオキソ錯体、その部分加水分解物、および/またはその部分重縮合物を含有していることを特徴とする強誘電体薄膜成膜用の原料溶液である。
【0015】このTiおよび/またはZrのオキソ錯体の量は、このオキソ錯体の金属原子数が、原料溶液中に存在する金属原子の合計原子数に対して0.001 倍以上であることが好ましく、より好ましくは 0.005〜0.5 倍である。
【0016】また、強誘電体薄膜は、■一般式:Pb1-x Lax (Zry Ti1-y)1-x/43 (式中、0≦x<1、0≦y≦1)で表されるものであるか、または■チタン酸ビスマスであることが好ましい。
【0017】本発明によれば、上記の原料溶液の塗布と加熱により成膜された強誘電体薄膜も提供される。この成膜は、常法に従って実施すればよい。即ち、この原料溶液を耐熱性基板に塗布し、加熱して金属酸化物膜を成膜し、必要に応じて膜が所望の厚さになるまで塗布と加熱を繰り返し、前記加熱中または塗布と加熱の繰り返し後に膜を結晶化温度以上で焼成することにより、強誘電体薄膜を成膜することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】本発明で成膜する強誘電体薄膜は、TiとZrの一方または両方を含有する複合酸化物型の強誘電体材料の薄膜である。かかる強誘電体材料の例としては、■一般式:Pb1-x Lax (Zry Ti1-y)1-x/43 (式中、xは0または1より小さい小数、yは0、1または1より小さい小数)で示される組成を持つ、ペロブスカイト型結晶構造の複合酸化物と、■層状ペロブスカイト構造のチタン酸ビスマス(Bi4Ti3O12) とが挙げられる。
【0019】■の複合酸化物は、PT (チタン酸鉛) 、PZT (チタンジルコン酸鉛) およびPLZT (ランタン含有チタンジルコン酸鉛) などを包含するが、これに限られるものではない。また、この■または■の強誘電体材料は、微量のドープ元素を含有することができる。ドープ元素の例としては、Ca、Sr、Ba、Hf、Sn、Th、Y、Sm、Dy、Ce、Bi、Sb、Nb、Ta、W、Mo、Cr、Co、Ni、Fe、Cu、Si、Ge、U、Scなどが挙げられる。その含有量は、上記一般式における金属原子の原子分率で0.05以下である。
【0020】このような強誘電体薄膜を、代表的には成分金属のアルコキシド、有機酸塩、β−ジケトン錯体といった加水分解性または熱分解性の有機金属化合物を含有する原料溶液を用いて、ゾルゲル法等により成膜する方法は、当業者にはよく知られている (例、特開昭60−236404号公報参照) 。本発明は、この原料溶液が、金属化合物としてTiおよび/またはZrの有機または無機オキソ錯体を含有する点に特徴があり、この特徴を除けば、溶液組成や成膜方法は一般に従来のゾルゲル法等と同様でよい。
【0021】原料として好ましい金属化合物は、加水分解性または熱分解性の有機金属化合物である。例えば、アルコキシド、有機酸塩、β−ジケトン錯体などが代表例であるが、金属錯体については、アミン錯体をはじめとして、各種の他の錯体も利用できる。β−ジケトンとしては、アセチルアセトン (=2,4-ペンタンジオン)、ヘプタフルオロブタノイルピバロイルメタン、ジピバロイルメタン、トリフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトンなどが挙げられる。
【0022】原料として好適な有機金属化合物の具体例を示すと、鉛化合物およびランタン化合物としては酢酸塩 (酢酸鉛、酢酸ランタン) などの有機酸塩ならびにジイソプロポキシ鉛などのアルコキシドが挙げられる。チタン化合物としては、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、テトラi−ブトキシチタン、テトラt−ブトキシチタン、ジメトキシジイソプロポキシチタンなどのアルコキシドが好ましいが、有機酸塩または有機金属錯体も使用できる。ジルコニウム化合物は上記チタン化合物と同様である。
【0023】なお、原料の金属化合物は、上述したような1種類の金属を含有する化合物の他に、2種以上の成分金属を含有する複合化した金属化合物であってもよい。かかる複合化金属化合物の例としては、PbO2[Ti(OC3H7)3]2 、PbO2[Zr(OC4H9)3]2などが挙げられる。
【0024】各成分金属の原料として使用する金属化合物を、適当な有機溶媒に一緒に溶解して、強誘電体材料である複合金属酸化物 (2以上の金属を含有する酸化物) の前駆体を含有する原料溶液を調製する。
【0025】使用する溶媒は、原料の金属化合物に応じて、これを溶解できるものから適宜選択すればよい。一般的には、アルコール、カルボン酸、エステル、ケトン、エーテル、シクロアルカン、芳香族系溶媒などから選ばれた1種もしくは2種以上の溶媒を使用することができる。
【0026】アルコールとしては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノールなどのアルカノール類、シクロヘキサノールといったシクロアルカノール類、ならびに2−メトキシエタノールといったアルコキシアルコール類が使用できる。金属化合物がアルコキシドを含む場合には、溶媒はアルコールまたはアルコールを含む混合溶媒とすることが好ましい。
【0027】カルボン酸溶媒の例は、n−酪酸、α−メチル酪酸、i−吉草酸、2−エチル酪酸、 2,2−ジメチル酪酸、 3,3−ジメチル酪酸、 2,3−ジメチル酪酸、3−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2−エチルペンタン酸、3−エチルペンタン酸、 2,2−ジメチルペンタン酸、 3,3−ジメチルペンタン酸、 2,3−ジメチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3−エチルヘキサン酸などが挙げられる。
【0028】エステル系溶媒の例としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸tert−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、酢酸sec-アミル、酢酸tert−アミル、酢酸イソアミルなどが挙げられる。
【0029】ケトン系溶媒の例は、アセトン、メチルエチルエトン、メチルイソブチルケトンである。エーテル系溶媒は、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルといった鎖式エーテル、ならびにテトラヒドロフラン、ジオキサンといった環式エーテルを包含する。シクロアルカン系溶媒の例は、シクロヘプタン、シクロヘキサンなどである。芳香族系溶媒としては、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0030】溶液中に含有させる各金属化合物 (後述するTiおよび/またはZrのオキソ錯体も含めて) の割合は、成膜しようとする強誘電体薄膜中における組成比とほぼ同じでよい。但し、一般に鉛化合物は揮発性が高く、金属酸化物に変化させるための加熱中または結晶化のための焼成中に蒸発による鉛の欠損が起こることがある。そのため、この欠損を見越して、鉛をやや過剰 (例、2〜20%過剰) に存在させてもよい。鉛の欠損の程度は、鉛化合物の種類や成膜条件によって異なり、実験により求めることができる。
【0031】金属化合物を有機溶媒中に溶解させた溶液は、そのまま原料溶液としてゾルゲル法等による成膜に使用することができる。或いは、造膜を促進させるため、この溶液を加熱して、加水分解性の金属化合物 (例、アルコキシド) を部分加水分解ないし部分重縮合させて成膜に使用してもよい。即ち、この場合には、原料溶液は、少なくとも一部の金属化合物については、その部分加水分解物および/または部分重縮合物を含有することになる。
【0032】部分加水分解のための加熱は、温度や時間を制御して、完全に加水分解が進行しないようにする。完全に加水分解すると、原料溶液の安定性が著しく低下し、ゲル化し易くなる上、均一な成膜も困難となる。加熱条件は、温度が80〜200 ℃、時間は 0.5〜50時間程度が適当である。加水分解中に、加水分解物が−M−O−結合(M=金属)により部分的に重縮合することがある。このような重縮合が部分的であれば許容される。
【0033】原料溶液は少量の安定剤を含有していてもよい。安定剤の添加により、原料溶液の加水分解速度、重縮合速度等が抑えられ、その保存安定性が改善される。安定剤として有用な化合物を挙げると、β−ジケトン類 (例、アセチルアセトン、ヘプタフルオロブタノイルピバロイルメタン、ジピバロイルメタン、トリフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等) 、ケトン酸類 (例、アセト酢酸、プロピオニル酢酸、ベンゾイル酢酸等) 、これらのケトン酸のメチル、プロピル、ブチル等の低級アルキルエステル類、オキシ酸類 (例、乳酸、グリコール酸、α−オキシ酪酸、サリチル酸等) 、これらのオキシ酸の低級アルキルエステル類、オキシケトン類 (例、ジアセトンアルコール、アセトイン等) 、α−アミノ酸類 (例、グリシン、アラニン等) 、アルカノールアミン類 (例、ジエタノールアミン、トリエターノルアミン、モノエタノールアミン等) が例示される。
【0034】安定剤の添加量は、原料溶液中に存在する金属元素の合計原子数に対する安定剤分子数で 0.1〜5倍の量が好ましく、より好ましくは 0.2〜3倍である。安定剤は、原料溶液の製造工程のどの段階で添加してもよいが、後述する共沸蒸留を行う場合には、この蒸留後に添加することが好ましい。また、前述した金属アルコキシドの部分加水分解を行う場合には、その前に安定剤を添加しておく方が、加水分解速度の制御が容易となることから好ましい。なお、安定剤を添加した場合には、塗布後の加水分解を促進させるために、原料溶液に少量の水を添加してもよい。
【0035】原料溶液が、金属アルコキシドと金属カルボン酸塩の両者を含有する場合には、金属アルコキシドと混合する前に、金属カルボン酸塩に付随する結晶水を除去しておくことが好ましい。この結晶水の除去は、金属カルボン酸だけをまず溶媒に溶解させ、この溶液を蒸留して溶媒との共沸蒸留により脱水することにより実施できる。従って、この場合の溶媒は水と共沸蒸留可能なものを使用する。金属カルボン酸塩の結晶水を除去せずに金属アルコキシドと混合すると、金属アルコキシドの加水分解が進行しすぎたり、その制御が困難となることあり、部分加水分解後に沈殿を生ずることがある。
【0036】原料溶液の濃度は特に制限されず、利用する塗布法や部分加水分解の有無によっても異なるが、一般に金属酸化物換算の合計金属含有量(後述するオキソ錯体に由来する金属も含む)として 0.1〜20wt%の範囲が好ましい。
【0037】本発明に係る原料溶液は、Tiおよび/またはZrのオキソ錯体を含有する。オキソ錯体とは、酸化物イオンO2-が配位した錯体のことである。原料溶液中のTi化合物とZr化合物の全部を、このようなTiおよびZrのオキソ錯体にしてもよい。しかし、TiやZrのオキソ錯体は、例えばこれらの金属のアルコキシドに比べて高価であり、全部をオキソ錯体にすると成膜コストが高くなるので、Ti化合物および/またはZr化合物の一部だけをオキソ錯体にすれば十分である。
【0038】TiおよびZrのオキソ錯体の代表例は、TiOL2またはZrOL2 (式中、Lは1価アニオン型の配位子を意味する) で示される化合物である。配位子Lは有機化合物と無機化合物のいずれから誘導されたものでもよい。
【0039】有機配位子の例は、アルコール、カルボン酸、β−ジケトン、β−ケトエステル、β−イミノケトン等から誘導されたアニオンである。即ち、有機配位子Lは、アルコキシレート、カルボキシレート、β−ジケトネート (=β−ケトエノレート) 、β−エノールエステル、β−イミノエノール等でよい。代表的なアニオンは、アルコキシレート (例、エチレート、イソプロピレート、n−ブチレート、t−ブチレート、メトキシエチレート、エトキシエチレート等) およびβ−ジケトネート [アセチルアセトネート (=2,4-ペンタンジオナト) 、ジピバロイルメタネート等) である。無機配位子の例としては、ハロゲンイオン、硝酸イオン(NO3- ) 、水酸イオン (OH- ) 等が例示される。また、配位子の一部または全部がアミンもしくはアンモニアであってもよい。
【0040】別のオキソ錯体として、O2-が2個の金属イオンを架橋したμ−オキソ錯体と呼ばれる種類のものがある。例えば、L3Ti−O−TiL3またはL3Zr−O−ZrL3で示される化合物、さらには次式で示される構造の化合物が例示される。配位子Lは、上記と同様でよい。
【0041】
【化1】

【0042】また、Tiのオキソ錯体は、Tiのアルコキシド、カルボン酸塩、β−ジケトン錯体、β−ケトエステル錯体、β−イミノケト錯体、ヒドロキシ錯体等に、酸化剤を添加して酸化させることにより合成してもよい。Zrのオキソ錯体も、同様な方法で合成してもよい。酸化剤としては、硝酸、オゾンガス、酸素(空気)、過塩素酸、NOx ガス、ペルオキソ酸、過酸化水素、過酸化水素水等が好ましい。
【0043】Tiおよび/またはZrのオキソ錯体は、原料溶液に任意の時点で添加することができる。このオキソ錯体が結晶水を持つ化合物である場合には、前述したように金属有機酸塩に由来する結晶水を共沸蒸留により除去する前に添加し、共沸蒸留でオキソ錯体の結晶水も除去することが好ましい。一方、オキソ錯体が結晶水を持たない化合物である場合には、共沸蒸留による水の除去の後に添加する方が好ましい。
【0044】加水分解性の金属化合物、特に金属アルコキシド類を部分加水分解ないし部分重縮合させるために加熱する場合には、オキソ錯体はこの加熱の前と後のいずれに添加してもよい。加熱前に添加した場合には、加熱中にオキソ錯体が一緒に部分加水分解または部分重縮合を受けることがある。従って、この場合には、オキソ錯体の部分加水分解物および/または部分重縮合物が原料溶液中に含まれることになる。しかし、オキソ錯体のオキソ配位子 (O2-) は安定であるので、加熱後もこの配位子は錯体中に残留すると考えられる。
【0045】Tiおよび/またはZrのオキソ錯体が原料溶液中に存在すると、その原料溶液から成膜された強誘電体薄膜の表面形態が著しく向上する。具体的には、結晶粒が微細になり、かつ膜全体を通して粒径がほぼ均一となってバラツキがなくなる上、ジルコニア相といったペロブスカイトまたは層状ペロブスカイト以外の相が見られなくなる。これは、TiやZrのオキソ錯体の結晶化温度が低いため、膜の仮焼時および/または結晶化アニール (焼成) 時に、まず多数のTiO2またはZrO2結晶が基板上に均一に生成し、これが初期核となって結晶成長するため、均一で微細な結晶粒からなる強誘電体薄膜が形成されるためであると推測される。
【0046】このように結晶粒が微細かつ均一で、ペロブスカイト(または層状ペロブスカイト)以外の相が生成しなくなるため、電気的特性も膜全体で均一となり、強誘電体薄膜のどの部分からデバイスを作製してもほぼ同じ品質の製品が得られ、製品の信頼性が向上する。
【0047】この効果を得るためには、Tiおよび/またはZrのオキソ錯体の金属原子数が、原料溶液中に存在する金属元素の合計原子数に対して0.001 倍以上であることが好ましく、より好ましくは0.005 倍〜0.5 倍である。
【0048】上述したように、この原料溶液から従来のゾルゲル法等と同様に強誘電体薄膜を成膜することができる。まず、基板上に原料溶液を塗布する。塗布は、スピンコーティングにより行うのが普通であるが、ロール塗布、噴霧、浸漬、カーテンフローコート、ドクターブレードなど他の塗布法も適用可能である。塗布後、塗膜を乾燥させ、溶媒を除去する。この乾燥温度は溶媒の種類によっても異なるが、通常は80〜200 ℃程度であり、例えば 100〜180 ℃の範囲でよい。但し、次の金属酸化物に転化させるための加熱の際の昇温中に溶媒は除去されるので、塗膜の乾燥工程は必ずしも必要ない。
【0049】その後、仮焼工程として、塗布した基板を加熱し、有機金属化合物を完全に加水分解または熱分解させて金属酸化物に転化させ、金属酸化物からなる膜を形成する。この加熱は、加水分解の必要なゾルゲル法では水蒸気を含んでいる雰囲気、例えば、空気または含水蒸気雰囲気 (例、水蒸気を含有する窒素雰囲気) 中で行われ、熱分解させるMOD法では含酸素雰囲気中で一般に行われる。加熱温度は、金属酸化物の種類によっても異なるが、通常は 150〜550 ℃の範囲であり、例えば 300〜450 ℃である。加熱時間は、加水分解および熱分解が完全に進行するように選択するが、通常は1分ないし2時間程度である。
【0050】ゾルゲル法等の場合は、1回の塗布で、強誘電体薄膜に必要な膜厚とすることは難しい場合が多いので、必要に応じて、上記の塗布と (乾燥と) 加熱を繰り返して、所望の膜厚の金属酸化物の膜を得る。こうして得られた膜は、非晶質であるか、結晶質であっても結晶性が不十分であるので、分極性が低く、強誘電体薄膜として利用できない。
【0051】そのため、最後に結晶化アニール工程として、その金属酸化物の結晶化温度以上の温度で焼成して、ペロブスカイト型(層状ペロブスカイト型)の結晶構造を持つ結晶質の金属酸化物薄膜とする。なお、結晶化のための焼成は、最後に一度で行うのではなく、各塗布した塗膜ごとに、上記の仮焼に続けて行ってもよいが、高温での焼成を何回も繰り返す必要があるので、最後にまとめて行う方が経済的には有利である。
【0052】この結晶化のための焼成温度は通常は 500〜800 ℃の範囲であり、例えば 600〜750 ℃である。従って、基板としては、この焼成温度に耐える程度の耐熱性を有するものを使用する。結晶化のための焼成 (アニール) 時間は、通常は1分から2時間程度であり、焼成雰囲気は特に制限されないが、通常は空気または酸素である。
【0053】耐熱性の基板材料としては、シリコン (単結晶または多結晶) 、白金、ニッケルなどの金属類、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)、石英、窒化アルミニウム、酸化チタンなどの無機化合物が挙げられる。キャパシター膜の場合には、基板は下部電極である。下部電極は、例えば、Pt、Pt/Ti、Pt/Ta、Ru、RuO2、Ru/RuO2、RuO2/Ru、Ir、IrO2、Ir/IrO2、Pt/Ir、Pt/IrO2などでよい (/の前が上層) とすることができる。
【0054】このようにして成膜された強誘電体薄膜の膜厚は、誘電体デバイスの用途によっても異なるが、通常は 500〜4000Å程度が好ましい。得られた強誘電体薄膜は、前述したような各種の誘電体デバイスに有用である。
【0055】
【実施例】実施例で使用したオキソ錯体以外の原料金属化合物は次の通りである。
Pb:酢酸鉛3水和物La:酢酸ランタン1.5 水和物Ti:チタンテトライソプロポキシドZr:ジルコニウムテトラn−ブトキシド(実施例1〜9)適当な反応容器に酢酸鉛3水和物と酢酸ランタン1.5 水和物と溶媒の2−メトキシエタノールと表1に記載したTiまたはZrのオキソ錯体 (結晶水を持つ化合物の場合) を装入し、生成した溶液から水を共沸蒸留により除去した。こうして脱水した溶液に、チタンテトライソプロポキシドおよびジルコニウムテトラn−ブトキシドと、表1に記載したTiまたはZrのオキソ錯体 (結晶水を持たない場合)を添加して溶解させた。なお、オキソ錯体の金属分を含めて、原料金属化合物は、Pb:La:Zr:Tiの原子比が110:1:52:48 となる割合で使用した。
【0056】この溶液に安定剤としてアセチアセトン (=2,4-ペンタンジオン) を、原料溶液中に存在する金属元素の合計原子数に対して1倍の分子数となる量で添加して溶解させた。その後、水を、原料溶液中に存在する金属元素の合計原子数に対して1.5 倍の分子数となる量で添加し、さらに溶媒の2−メトキシエタノールを添加して、酸化物換算の原料化合物の合計含有量が10wt%となるように濃度を調整した。この溶液を窒素雰囲気下で3時間還流加熱し、原料化合物のアルコキシド類を部分加水分解 (ないしはさらに部分重縮合) させ、原料溶液を得た。
【0057】(実施例10〜12)適当な反応容器に酢酸鉛3水和物と酢酸ランタン1.5 水和物と溶媒の2−メトキシエタノールを装入し、生成した溶液から水を共沸蒸留により除去した。こうして脱水した溶液に、チタンテトライソプロポキシドおよびジルコニウムテトラn−ブトキシドを添加して溶解させた。次いで、この溶液に安定剤としてアセチアセトンを、原料溶液中に存在する金属元素の合計原子数 (後で加えるオキソ錯体の分も含む) に対して1倍の分子数となる量で添加して溶解させた。
【0058】その後、水を、原料溶液中に存在する金属元素の合計原子数 (同上) に対して1.5 倍の分子数となる量で添加し、さらに溶媒の2−メトキシエタノールを添加して、酸化物換算の原料化合物の合計含有量 (後から加えるオキソ錯体の分を含む) が10wt%となるように濃度を調整した。この溶液を窒素雰囲気下で3時間還流加熱し、原料化合物のアルコキシド類を部分加水分解 (ないしはさらに部分重縮合) させた。最後に、表1に記載した、結晶水を持たないTiまたはZrのオキソ錯体を添加し、原料溶液を得た。この例でも、オキソ錯体の金属分を含めて、原料金属化合物は、Pb:La:Zr:Tiの原子比が110:1:52:48 となる割合で使用し、最終的に酸化物換算の原料化合物の合計含有量が10wt%となるように少量の2−メトキシエタノールで濃度調整した。
【0059】(比較例1)最後にTiまたはZrのオキソ錯体を添加しなかった以外は、実施例10〜12と同様にして、原料溶液を調製した。
【0060】これらの実施例および比較例の原料溶液を用いて基板上にPLZT系強誘電体薄膜を成膜した。基板は Si(100)ウェーハ/SiO2 (5000Å)/Pt (2000Å) であった。原料溶液は、スピンコート (3000 rpm×15秒) により基板に塗布し、空気中350〜400 ℃で10分間加熱して金属酸化物の膜を得た。この塗布と加熱を計5回繰り返し、最後に結晶化のために酸素中700 ℃で5分間焼成して、膜厚が約200nmで、ペロブスカイト型結晶構造を持つPLZTの強誘電体薄膜を得た。
【0061】こうして成膜されたPLZT薄膜の表面をSEMで観察し、結晶粒の平均粒径を測定すると共に、結晶粒径のばらつきおよびペロブスカイト相以外の相 (例、ジルコニア相) の有無を判定した。平均粒径は、薄膜表面のSEM写真から計算により求めた粒子の平均切片長である。これらの結果を次の表1に、オキソ錯体の種類および量と一緒にまとめて示す。
【0062】
【表1】

【0063】表1からわかるように、本発明に従って、原料溶液がTiまたはZrのオキソ錯体を含有していると、結晶粒が微細 (500 nm以下、オキソ錯体の添加分子数が0.1倍以上になると150 nm以下) で、粒径にばらつきがなく、またペロブスカイト相以外の相(例、ジルコニア相)が存在しない、表面形態が均一な強誘電体薄膜が成膜された。一方、TiまたはZrのオキソ錯体を含有しない比較例の原料溶液から成膜した強誘電体薄膜は、結晶粒1400 nm と粗大であり、粒径のばらつきが観られ、さらにジルコニア相などのペロブスカイト以外の相が観察され、表面形態が不均一であった。
【0064】
【発明の効果】本発明によれば、ゾルゲル法等により成膜された強誘電体薄膜の表面形態の不均一性を著しく軽減することができ、結晶粒が微細で、結晶粒径にばらつきがなく、ペロブスカイトまたは層状ペロブスカイト相以外の相が存在しない強誘電体薄膜を成膜することができる。従って、電気的特性が場所によりばらつかずに膜全体で均質になるため、この強誘電体薄膜から誘電体デバイスを作製すると、信頼性の高い製品を歩留りよく製造することができる。
【出願人】 【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
【出願日】 平成10年6月15日(1998.6.15)
【代理人】 【識別番号】100081352
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 章一
【公開番号】 特開2000−1368(P2000−1368A)
【公開日】 平成12年1月7日(2000.1.7)
【出願番号】 特願平10−167119