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【発明の名称】 強化ガラス板の製造方法
【発明者】 【氏名】酒井 千尋

【氏名】菊田 雅司

【要約】 【課題】NiSを含む不良ガラスを確実に強制破損させることのできる方法を提供する。

【解決手段】強化ガラス板の製造工程で、溶解過程から成形工程を経て製造されたガラス板を徐冷する際に、特定の条件で徐冷を行うことによって、ガラス中に含まれる硫化ニッケルの周囲にクラックを発生させ、次の強化工程で発生する熱応力の差によって自然破損を起こさせて、ガラスを強化と同時に破損させて不良品を除去する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】ガラス板の製造工程に連続して強化ガラス板を製造する方法であって、ガラス板の徐冷工程においてガラス板を一定の温度領域まで降温させ、この温度領域内の一定温度で所定時間保持することにより、ガラス板中に硫化ニッケル(NiS)が含まれている場合は、ガラス板中に含まれているα−NiS(α相)をβ−NiS相(β相)に相転移させて、硫化ニッケルの体積膨張により硫化ニッケル粒子の周囲にクラックを発生させ、前記徐冷工程に続く強化工程においてガラス板を軟化点近くから急冷させることにより、ガラス板の表面層に圧縮応力を発生させた後、発生する熱応力の差によってクラックを急速に伸展させ、ガラス板を強制的に破損させて不良品を排除することを特徴とする強化ガラス板の製造方法。
【請求項2】前記一定の温度領域は160〜280℃であり、またこの温度領域での保持時間は6〜30分である請求項1に記載の強化ガラス板の製造方法。
【請求項3】前記一定の保持温度が280℃のとき、この温度での保持時間は19〜30分以上であり、前記一定の保持温度が260℃のとき、この温度での保持時間は6〜26分であり、前記一定の保持温度が240℃のとき、この温度での保持時間は6〜18分であり、前記一定の保持温度が220℃のとき、この温度での保持時間は6〜12分であり、前記一定の保持温度が200℃のとき、この温度での保持時間は6〜13分であり、前記一定の保持温度が180℃のとき、この温度での保持時間は10〜20分であり、前記一定の保持温度が160℃のとき、この温度での保持時間は15〜30分である、ことを特徴とする請求項2に記載の強化ガラス板の製造方法。
【請求項4】前記保持時間を越えて10分以上さらに保持することを特徴とする請求項3記載の強化ガラス板の製造方法。
【請求項5】ガラス板の製造工程に連続して強化ガラス板を製造する方法であって、ガラス板の徐冷工程においてガラス板を一定の温度まで降温し、さらに極めて緩やかに降温させて再徐冷することにより、ガラス板中に硫化ニッケル(NiS)が含まれている場合は、ガラス板中に含まれているα−NiS(α相)をβ−NiS相(β相)に相転移させて、硫化ニッケルの体積膨張により硫化ニッケル粒子の周囲にクラックを発生させ、前記再徐冷工程に続く強化工程においてガラス板を軟化点近くから急冷させることにより、ガラス板の表面層に圧縮応力を発生させた後、発生する熱応力の差によってクラックを急速に伸展させ、ガラス板を強制的に破損させて不良品を排除することを特徴とする強化ガラス板の製造方法。
【請求項6】前記再徐冷を行うときの徐冷開始温度がガラス粘度logη=13.0以下に相当する温度であり、且つ10℃/分以下の降温速度で再徐冷する請求項5に記載の強化ガラス板の製造方法。
【請求項7】前記板ガラスは、着色成分として少なくともセレン(Se)が添加されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の強化ガラス板の製造方法。
【請求項8】前記板ガラスは、着色成分として酸化第二鉄(Fe2 3 )が添加されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の強化ガラス板の製造方法。
【請求項9】前記板ガラスは、着色成分としてセリウム(Ce)および/またはその他の成分が添加されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の強化ガラス板の製造方法。
【請求項10】前記板ガラスが、着色成分として微量のセレン(Se)が添加されている場合には、前記一定の保持温度を220±20℃の範囲で、上記保持時間を越えてさらに10分以上保持することを特徴とする請求項3記載の強化ガラス板の製造方法。
【請求項11】請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法によって製造された強化ガラス板。
【請求項12】請求項11に記載の強化ガラス板により作られた建築用ガラス板。
【請求項13】請求項11に記載の強化ガラス板により作られた自動車用ガラス板。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、硫化ニッケル(NiS)を含む強化ガラス板を製造工程中で強制的に破損させて、強化ガラス板全体の品質を高める強化ガラス板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】風冷強化板ガラス、特にソーダ石灰組成の板ガラス(フロートガラス)は、建築用の窓ガラスあるいは自動車用サイドガラスやリヤーガラスに広く使用されている。近年、これらの風冷強化ガラスは建材用を中心として開口部に大面積で使用されており、強化ガラス板の厚みは15〜20mmと厚く、総重量もかなり大きい。
【0003】この風冷強化ガラス板は、ガラス板の表面層に表面圧縮応力(例えば2000kg/cm2 以上)を発生させることにより生産されている。
【0004】風冷強化ガラス板に含まれる硫化ニッケル(NiS)異物をはじめとするガラス欠点による強化ガラス板の自然破損を防止するために、強化工程で加熱され常温に戻されたガラス板を再び焼成炉(ソーク炉)の中に挿入して、300℃までの温度に加熱し一定時間保持することによって、主として硫化ニッケル(NiS)を356℃以上で安定なα相から282℃以下で安定なβ相に転移させることにより、約4%の体積膨張を生じさせ、製造された強化ガラス板を強制的に破損させることによって、不良品を除去することが必要に応じて行われている(この方法は、ソーク処理法と呼ばれている)。
【0005】また、強化ガラス板の自然破損を防止するため、強化ガラス板の表裏面に有機材料からなる保護フィルムを貼付することによって、ガラス板が破損した場合にも危険を及ぼさないような工夫もなされている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】従来のソーク処理法は、一度常温にまで冷えた強化ガラスを再度昇温によって所定の温度に保持するため、昇温に多くの時間と熱エネルギーを費やし、またガラス板の板厚の変化に対して、一定温度の保持時間も異なり、生産コストのアップにもつながっている。
【0007】また、ソーク処理法では、強化ガラス板の製造後に加熱処理を行うため、強化ガラス表面に付与された表面圧縮応力が緩和されてしまい、強度の低下が生じてしまう。また、ガラス板の寸法を、切断や研磨によって自由に変更することができず、生産性の効率化の阻害やエネルギーコストの問題も大きく、早期の改善が望まれていた。
【0008】また、強化ガラス板の表裏面に保護フィルムを貼付する方法にあっては、ガラス板の飛散は防止できるが、硫化ニッケル(NiS)の相転移による強化ガラスの自然破損を防止するための根本的な対策になっていない。
【0009】本発明の目的は、ソーク処理法によらず、NiSを含む不良ガラスを確実に強制破損させることのできる方法を提供することにある。
【0010】本発明の他の目的は、NiSを含まない強化ガラス板の製造方法を提供することにある。
【0011】本発明の他の目的は、このような強化ガラスにより作られた強化ガラス板を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、強化ガラス板の製造工程で、溶解過程から成形工程を経て製造されたガラス板を徐冷する際に、特定の条件で徐冷を行うことによって、ガラス中に含まれる硫化ニッケルの周囲にクラックを発生させ、次の強化工程で発生する熱応力の差によって自然破損を起こさせて、ガラスを強化と同時に破損させて不良品を除去する。
【0013】前記特定の条件による徐冷の方法は、2通りある。まず第1の方法は、ガラス板を一定の温度領域まで降温させ、この温度領域で所定時間保持する方法である。一定の温度領域は160〜280℃であり、またこの温度領域での保持時間は6〜30分である。
【0014】この温度領域内の一定温度を定めた場合、その一定温度に保持する時間は、以下のように選ぶのが好適である。
【0015】280℃(19〜30分保持)
260℃( 6〜26分保持)
240℃( 6〜18分保持)
220℃( 6〜12分保持)
200℃( 6〜13分保持)
180℃(10〜20分保持)
160℃(15〜30分保持)
また、板厚の増加によっては含まれるNiSが所定の温度に保持しにくくなることが考えられるので、前記の保持温度の範囲内でさらに10分以上保持することが好ましい。
【0016】第2の方法は、ガラス板を一定の温度まで降温し、ガラスの徐冷点(ガラス粘度logη=13.0)以下のある温度から、10℃/分以下のゆっくりとした速度で再徐冷する方法(長時間除去)である。
【0017】以上の一定温度保持を含む徐冷と長時間徐冷の温度条件は、板厚によって昇温条件が変化する場合には、ガラス表面の時間変化に対する温度変化によって徐冷炉の条件設定を制御することが望ましい。
【0018】ガラス板が、数wt%以下の酸化第二鉄(Fe2 3 )が含有された着色ガラスである場合でも、前記の処理条件内であれば、硫化ニッケルの周囲にクラックを発生させ、次工程の強化ガラス製造過程で破損させて不良品を除くことができる。
【0019】また、ガラス板が、着色性分としてガラス中に微量のセレン(Se)やセリウム(Ce)、あるいはその他の成分が添加されたガラスの場合には、ガラス中の微量成分の違いによらず全ての硫化ニッケルを完全にβ相に相転移させるには、一定温度保持の場合には220±20℃の範囲で、上記保持時間を越えてさらに10分以上保持することが望ましい。この理由は、セレンを添加した着色ガラス中のNiS中にはSe成分が数wt%以上固溶されるものが存在するためである。
【0020】
【発明の実施の形態】溶解過程から成形工程を経て製造されたガラス板を徐冷する際の条件を設定するために、以下のプロセスを順次行う。
(1)常温でガラス内部に硫化ニッケルの欠点を含む試料ガラス板を用意する。これら材料は、表1に示すように、組成(wt%)を変えて、3種類用意した。
【0021】
【表1】

【0022】試料ガラス板1は、表1に示す組成で板厚が10mm、色調は無色のものである。試料ガラス板2は、試料ガラス板1のFe23 の組成を0.01〜1.0wt%とし、着色成分としたものであり、板厚は10mm、色調は淡青色である。試料ガラス板3は、試料ガラス板1のFe23 の組成を0.06〜0.2wt%とし、さらにSeを微量含有させて着色成分としたものであり、板厚は10mm、色調は淡茶色である。
(2)これら各ガラス板試料を、500℃まで昇温可能な顕微鏡(以下、高温顕微鏡と言う)に装着し、450℃以上に加熱することによって、NiSを高温で安定なα相にする。
(3)上記450℃以上の加熱温度からの徐冷の途中で、上記のガラス板試料を160〜280℃の温度域で一定温度になるように保持する。
(4)硫化ニッケルのβ相への相転移に伴う欠点の周囲に発生する圧縮応力の観察によって安定なβ相への相転移の状態を観察する。β相への相転移の確認は、上記の高温顕微鏡下で偏光板をクロスニコルの状態にして、さらに530μm鋭敏色検板を対角位に挿入して、β相に相転移する際の体積増加に伴う硫化ニッケルの粒子の周囲のガラスへの圧縮による残留応力の発生状況と強さを観察することで行った。β相への完全な相転移の状態は、この圧縮応力の状態が最大になる時点(高温顕微鏡下ではレターデーションが最も強くなる時点)で判断した。
(5)上記の過程で、NiSがα相からβ相に相転移したことをグラフ上にプロットする。図1に、そのグラフを示す。縦軸は温度(℃)を、横軸は時間(分)を示す。
(6)上記の(5)で作成したNiSのα相からβ相への相転移の境界とβ相の安定な領域とを知るために、保持温度および/または試料ガラスを異ならせて多数回試験を繰り返す。
【0023】図1に、試料ガラス板1についての最終的なプロットの状態を示す。プロットは、各温度280℃,260℃,240℃,220℃,200℃,180℃,160℃での相転移を示している。○は不完全なβ相を、●は完全なβ相を示す。ここで、「不完全なβ相」とは、α相からβ相が核形成されて徐々に粒子全体でβ相が成長されるような状態を示す。一般的には、NiSは多結晶であり結晶相の全てがβ相に相転移した時点で安定なβ相の領域に入ったと定義する。相転移の発生を示すプロットを囲む曲線20,22を描くと、この曲線20,22の間に挟まれる領域での温度および時間に保持すればよいことがわかる。すなわち、280℃(19〜30分保持)
260℃( 6〜26分保持)
240℃( 6〜18分保持)
220℃( 6〜12分保持)
200℃( 6〜13分保持)
180℃(10〜20分保持)
160℃(15〜30分保持)
である。
【0024】ガラス板試料2,3についても、上記と同様の試験を行った結果、ガラス板試料1と同様の条件が得られた。
【0025】以上は、徐冷の途中に一定温度に所定時間保持する場合であるが、ガラスの徐冷点以下のある温度から、ゆっくりとした速度で徐冷する場合について、ガラス板試料1について、徐冷の速度を変化させながらα相からβ相への相転移をグラフ上にプロットした。図2は、そのグラフを示す。徐冷速度は、それぞれ6℃/分,8℃/分,8.5℃/分,9℃/分,10℃/分,12℃/分,15℃/分とした。図1と同様に、○は不完全なβ相を、●は完全なβ相を示す。図2から、β相に相転移するのに適した徐冷速度は、10℃/分以下であることがわかる。
【0026】以上により徐冷工程において、NiSをα相からβ相に相転移させる温度と処理時間の条件が定まった。
【0027】以上の温度と処理時間の条件は、ガラス内部に含まれる硫化ニッケル粒子そのものに与える条件である。したがって、実際の工程では板厚によって昇温条件が変化するのでガラス表面の時間変化によって徐冷炉の設定を制御することが望ましい。
【0028】図3は、本発明による実際の強化ガラス板の製造工程を示す図である。
【0029】溶解工程10では、ガラス原料が溶解されてガラス素地が作られる。ガラス素地は、次の成形工程12でフロート法によりガラス帯とされ、幅と厚さが決められ成形される。その後、徐冷工程14で徐冷される。このとき、前述した条件で徐冷すると、ガラス中に含まれているNiSはα相からβ相に相転移する。
【0030】例えば、徐冷の途中でガラス板表面温度が220℃になると、220℃の温度を6〜12分保持するように徐冷炉を温度制御する。これにより、NiSをβ相に相転移させてNiS粒子の周囲にクラックを発生させる。
【0031】この状態で、ガラス板は次の強化工程16に送られる。強化工程では、まず、ガラス板は約600℃に加熱される。600℃付近の温度域では、対象としているガラス組成では軟化とクラックの界面での融着が急速には起こらず、したがって徐冷工程で成長したクラックは消滅することはない。続いて、風冷により急速に冷却される。風冷によって急速に冷却される過程で生じる熱応力差によって、硫化ニッケルの粒子の周囲で発生したクラックは急速に拡大し伸展して、ガラス板を確実に自然破壊させる。
【0032】以上の製造工程により、NiSを含むガラス板は確実に除去される。
【0033】
【発明の効果】本発明によれば、ガラス工場で製造された素板ガラスに含まれる硫化ニッケルの周囲にクラックを成長させ、強化ガラスの製造の過程で連続的にまた効果的に除去することができるので、強化ガラスの生産性の省力化や自動化に貢献することができる。また、従来の技術のように、強化ガラスの製造後に再度熱処理する必要が無いので、表面圧縮応力の緩和が起こらず、したがって強化ガラスの本来の製品の品質の低下は無くなる。
【出願人】 【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
【出願日】 平成10年7月7日(1998.7.7)
【代理人】 【識別番号】100086645
【弁理士】
【氏名又は名称】岩佐 義幸
【公開番号】 特開2000−26129(P2000−26129A)
【公開日】 平成12年1月25日(2000.1.25)
【出願番号】 特願平10−191228