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【発明の名称】 騒音低減手段を備えた車両及びその方法
【発明者】 【氏名】飯田 明由

【氏名】流川 博光

【氏名】高野 靖

【要約】 【課題】空力的騒音を低減できる車両を提供する。

【解決手段】車両の騒音発生箇所、例えば鉄道車両1の屋根に設置されている集電装置3の舟板11や、集電装置3を取り囲むように形成された防風カバー5の切り欠き部27を挟む側壁26の部分に、周囲空気温度を上昇させて騒音を低減する騒音低減手段として、各々加熱装置19、29を備える。加熱装置19、29で舟板11や切り欠き部27の周囲の空気の温度を上昇させた場合、空気の密度や粘度が小さくなることで、舟板11や切り欠き部27の周囲の空気流の乱流や渦流の発生が低減し、空気流が舟板11や切り欠き部27周囲の側壁26の部分に衝突する力が小さくなることで、空力音からなる騒音を低減する
【特許請求の範囲】
【請求項1】 車両の騒音発生箇所周囲の空気温度を上昇させて騒音を低減する騒音低減手段を備えてなる車両。
【請求項2】 前記騒音低減手段が加熱手段であり、該加熱手段が前記騒音発生箇所と、該騒音発生箇所の車両の進行方向に対して前方部分との少なくとも一方に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両。
【請求項3】 前記騒音低減手段が、車両の付属装置からの廃熱を熱源として前記騒音発生箇所周囲の空気温度を上昇させることを特徴とする請求項1に記載の車両。
【請求項4】 前記騒音発生箇所が、車両の屋根に設けられた集電装置と、該集電装置を下降させたときに、該集電装置が該集電装置の周囲に形成された防風カバーに接触しないために、該防風カバーの側壁に形成された切り欠き部とであることを特徴とする請求項1乃至3に記載の車両。
【請求項5】 車両の騒音発生箇所の周囲空気温度を上昇させて騒音を低減する騒音低減方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両に係り、特に、騒音低減手段を備えた車両に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の車両では、車両周囲の空気の流れを整流すること、また、車両の進行方向から見た空気が衝突する部分の投影面積を小さくすることなどにより、車両周囲の空気の乱流や渦流などによる風切り音や振動音、そして、空気流の衝突による衝突音や振動音などからなる空力的な騒音を低減している。例えば、高速で走行する鉄道車両では、集電装置などでの空力的な騒音が特に大きく、特開平8−98306号公報では、集電装置の車両への取付け部となる碍子部分への空気流を遮蔽し、防風カバーに車両の屋根から集電装置に向けて緩やかな上り勾配となるスロープ部を設け、さらに、防風カバーの横幅を狭くし、空気流が衝突する部分の投影面積を小さくすることで、空気流による風切り音、衝突音、振動音などの空力的な騒音を低減している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、車両の形状や車両を構成する部材の形状の設計には制限があり、車両周囲の空気の流れを整流することなどによる空力的な騒音の低減には限界がある。例えば、特開平8−98306号公報では、防風カバーの横幅を狭くしているため、集電装置を下降させて収納状態にした場合に、集電装置の左右に張出した舟板やホーンなどと防風カバーとが接触しないようにし、舟板やホーンなどと防風カバーとの間の電気的な絶縁を確保するための一定の空気絶縁距離を設けなければならない。したがって、防風カバー側壁の集電装置の舟板やホーンなどに対応する部分には、切り欠き部が形成されている。このため、防風カバーの投影面積を小さくし、かつ、防風カバーを空気の整流効果を有する形状にしても、この防風カバー側壁の切り欠き部で風切り音、振動音、衝突音などによる空力的な騒音が発生する。また、集電装置周囲の空気流は、防風カバーによって、防風カバーがない場合よりも流速が遅くなってはいるが、車両の走行速度が増せば集電装置周囲の空気流の速度も増し、集電装置で発生する空力的な騒音は、車両の走行速度の増加と共に大きくなる。このため、車両の高速化に伴って増大する集電装置などで生じる空力的な騒音を、防風カバーなどによる空気流の整流や減速作用のみで低減することは難しい。
【0004】本発明の課題は、空力的騒音を低減できる車両を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、空気の温度を上昇させた場合、空気の密度や粘度が小さくなる性質に基づいてなされたものであり、空気の密度や粘度が小さくなることで物体周囲の空気流の乱流や渦流の発生が低減し、空気流が物体に衝突する力が小さくなる。これにより、空力的に発生する音、すなわち空力音からなる騒音を低減するものである。
【0006】つまり、車両の騒音発生箇所の周囲空気温度を上昇させて騒音を低減する騒音低減方法により上記課題を解決するものであり、このため、本発明の車両は、騒音発生箇所の周囲空気温度を上昇させて騒音を低減する騒音低減手段を備えている。
【0007】また、騒音低減手段が加熱手段であり、この加熱手段が騒音発生箇所と、この騒音発生箇所の車両の進行方向に対して前方部分との少なくとも一方に設けられていれば、騒音発生箇所の発熱で騒音発生箇所周囲の空気温度を上昇させることができる。さらに、騒音発生箇所の前方の空気温度を上昇させ、温度の高い空気を騒音発生箇所に流すことでも騒音発生箇所周囲の空気温度を上昇させることができる。
【0008】一方、騒音低減手段が、車両の付属装置からの廃熱を熱源として騒音発生箇所周囲の空気温度を上昇させれば、廃熱を利用できるため省エネルギー効果があるので好ましい。
【0009】また、主な騒音発生箇所が、車両の屋根に設けられた集電装置と、この集電装置を下降させたときに、この集電装置がこの集電装置の周囲に形成された防風カバーに接触しないためにこの防風カバーの側壁に形成された切り欠き部とである。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明を適用してなる車両の一実施形態を図1及び図6を参照して説明する。図1は、本実施形態の車両の集電装置及び防風カバーの斜視図である。図2は、本実施形態の車両の先頭部を示す図である。図3は、本実施形態の車両の連結部を示す図である。図4は、温度と騒音の低減レベルの関係を示す図である。図5は、集電装置と防風カバー周囲での騒音の分布を示す図である。なお、本実施形態の車両は最高速度が時速250Km以上に達する鉄道車両であり、最高速度付近で走行中は、台車から発生する走行音による騒音よりも、空力的な騒音の方が大きくなっており、この空力的騒音の主な発生源は、集電装置と集電装置を囲む防風カバーなどである。
【0011】本実施形態の車両1の屋根2には、図1に示すように、車両の屋根2上に集電装置3と、集電装置3を囲むように形成された防風カバー5が取付けられている。集電装置3は、集電装置3を屋根1に絶縁状態で据え付けるための4本の碍子7、4本の碍子7で4隅を支持された平板状のカバー9、カバー9を貫通し、中央部で屈曲する昇降アーム11、昇降アーム11の上端部に車両の進行方向12に対して左右に張出しすように設けられた舟板13、舟板13の上部に設けられ、架線と接する帯状のすり板15、そして、舟板13の両端部から張出し、下方に湾曲した棒状のホーン17などからなる。昇降アーム11と舟板13とには、各々、昇降アーム11と舟板13などを加熱して、昇降アーム11と舟板13の周囲の空気の温度を上昇させるためのヒータなどからなる加熱装置18、19が設置されている。
【0012】防風カバー5は、集電装置3と電気的に絶縁するための所定の空気絶縁距離を設けて設置されている。このため、集電装置3の周囲には、防風カバー5に囲まれた空間23が形成されている。防風カバー5の車両の進行方向12に対して前後部分は、集電装置3に向かって漸次高くなるような傾斜を有するスロープ部25になっており、集電装置3の両側方部分は、側壁26になっている。各々の側壁26の中央部には、側壁26の上縁部から下方に向かって切り欠き部27が形成されており、この切り欠き部27によって、集電装置3を下降させて収納状態にしたときに、舟板13やホーン17などが防風カバー5に接触しないようになっている。側壁26の切り欠き部27を挟む部分には、各々、切り欠き部27周囲の空気の温度を上昇させるためのヒータなどからなる加熱装置29が設けられている。
【0013】先頭車両31では、図2に示すように、先頭部33の台車34の進行方向12に対して前方に設けられた床下カバー35に、この床下カバー35側部周囲の空気の温度を上昇させるためのヒータなどからなる加熱装置37が設けられている。なお、床下カバー35は、車両31の先頭部33から台車34に向かって漸次幅が広くなる略V字形状に形成されている。さらに、図3に示すように、車両1間の連結部39の幌41を支持する幌枠42にも、連結部39周囲の空気の温度を上昇させるためのヒータなどからなる加熱装置43が設けられている。
【0014】ところで、本発明は、車両が走行しているときに車両周囲の空気流の乱流や渦流などによって起こる風切り音や振動音、空気流が衝突することによって起こる衝突音や振動音、つまり流体力の作用によって発生する空力音からなる騒音を、空気の性質である温度依存性を利用して低減するものである。すなわち、空気の密度や粘度は、温度に反比例するので、空気の温度を上昇させることで、この空気の密度や粘度を小さくし、乱流や渦流の発生を抑え、また、流体が物体に衝突する力を小さくすることで、騒音を低減するものである。
【0015】例えば、空力音をPa、空気の密度をρ、音速をc、物体の代表寸法をD、その物体の周囲の空気流速をUとすると、【0016】
【数1】

【0017】と表わすことができる。さらに、音速cは空気密度ρの平方根に反比例し、空気密度ρは温度tにほぼ反比例するので、【0018】
【数2】

【0019】となり、空力音Paは、温度tのほぼ3乗に反比例することがわかる。さらに、物体が振動して起こる振動音は、温度のほぼ2乗に反比例している。また、空力音の放射効率は、音速の2乗に反比例し、音速は、空気の密度の平方根に反比例していることから、空力音の放射効率は、空気の密度にほぼ比例している。したがって、騒音を発生する車両部分の周囲の温度を上げることで、発生する空力音を低減することができ、さらに、空力音の放射効率、すなわち騒音の周囲空間への伝搬効率を低くすることができるので、空力的な騒音を低減することができる。
【0020】このような、空気温度の上昇による空力音による騒音の低減効果の一例を示すと、図4に示すように、外気温をほぼ20℃としたとき、騒音発生箇所が外気温とほぼ同じ温度であるときの騒音に対して、騒音発生箇所の温度が42℃〜43℃のとき、すなわち、外気温に対して騒音発生箇所の温度が22℃〜23℃高いときに約1dBの騒音低減効果が得られている。この騒音の低減効果は、温度の変化にほぼ比例しており、騒音の低減レベルは、温度の上昇に伴ってほぼ直線的に増加して行く。
【0021】ここで、本実施形態と同型で、加熱装置19、29が設けられていない鉄道車両の集電装置3と防風カバー5で発生する騒音のレベルを調べた結果の一例を示すと、図4のように、集電装置3の舟板31と昇降アーム11、そして、切り欠き部27の進行方向に対して前側の防風カバー5の部分などから大きな騒音が発生している。このため、本実施形態の車両1では、図1に示したように、大きな騒音が発生する集電装置3の昇降アーム11と舟板13、そして、防風カバー5の切り欠き部27を挟む部分に、各々の周囲の空気温度を上昇させるために加熱装置18、19、29を設置している。このとき、防風カバー5の切り欠き部27を挟む部分に設けられた加熱装置29では、進行方向12に対して前側に位置する加熱装置29のみを加熱するようにしてもよい。
【0022】加熱装置18、19、29、37、43は、各加熱装置18、19、29、37、43が設けられた各々の部分の温度が、一定温度、例えばほぼ50℃に保たれるように制御されている。また、各加熱装置18、19、29、37、43が設けられた各部分の温度が、外気温に対して、一定温度高い状態、例えばほぼ30℃高い状態になるように制御されていてもよい。なお、加熱温度やその制御方法は、温度を上昇させる部分、つまり集電装置3の昇降アーム11と舟板13、そして、防風カバー5の切り欠き部27を挟む部分、先頭車両31の床下カバー35、連結部39の幌枠42などの耐熱性などに応じて決定されるものである。
【0023】このように、本実施形態の車両1では、騒音を発生する部分である集電装置3の昇降アーム11と舟板13、そして、防風カバー5の切り欠き部27を挟む部分、先頭車両31の床下カバー35、連結部39の幌枠42などに設置された加熱装置18、19、29、37、43で、各部の周囲の空気温度を上昇させることができるので、空力音からなる騒音を低減することができる。
【0024】また、本実施形態では、加熱装置29を特に大きな騒音を発生する部分である防風カバー5の切り欠き部27を挟む部分にのみ設置したが、図6に示すように、防風カバー5のスロープ部25表面から空間23側の壁面にかけて加熱装置45を、切り欠き部27の周囲部分に加熱装置47を設置し、防風カバー5のほぼ全体を発熱させるようにしてもよい。
【0025】さらに、本実施形態では、加熱装置18、19、29を、騒音を発生する部分である集電装置3の昇降アーム11と舟板13、そして、防風カバー5の切り欠き部27を挟む部分に設置したが、図6に示すように、防風カバー5のスロープ部25に加熱装置49を設置し、進行方向12に対して前側に位置するスロープ部25の加熱装置49を発熱させることで、スロープ部25上を流れる空気の温度を上昇させ、この暖められた空気を集電装置3の昇降アーム11と舟板13、防風カバー5の切り欠き部27を挟む部分に流すようにしてもよい。
【0026】また、本実施形態では、集電装置3の昇降アーム11と舟板13、そして、防風カバー5の切り欠き部27を挟む部分にヒータなどからなる加熱装置18、19、29、37,43を設けたが、図8に示すように、台車34の位置に設けられたモータ51や、駆動装置類や空調機器類などからなる床下機器53からの廃熱をヒートパイプ55を介して、集電装置3の昇降アーム11と舟板13、そして、防風カバー5の切り欠き部27を挟む部分などに伝え、昇降アーム11と舟板13、そして、防風カバー5の切り欠き部27を挟む部分を発熱させるようにしてもよい。このようにすれば、省エネルギー効果が高くなるので好ましい。もし、構造的に昇降アーム11と舟板13に対してヒートパイプ55を設置しにくい場合には、防風カバー5のスロープ部25に廃熱を導き、昇降アーム11と舟板13にスロープ部25で暖められた空気が流れるようにすればよい。
【0027】さらに、図9に示すように、防風カバー5に囲まれた空間23内の屋根2にヒートパイプ55に連通する放熱口57を設けて空間23内を熱することで、集電装置3の周囲や防風カバー5の切り欠き部27の周囲の空気の温度を上げてもよい。
【0028】また、本発明は、本実施形態の構成の車両に限らず、様々な構成の車両に適用することができる。本実施形態では、スロープ部25を有する防風カバー5や中央部で屈折する昇降アーム11を備えた集電装置3などについて説明したが、例えば、流線形状の防風カバーや、翼型構造、菱形リンク構造の昇降手段を備えた集電装置などにも適用することができる。
【0029】さらに、本発明は、本実施形態の騒音発生箇所、すなわち集電装置3の昇降アーム11と舟板13、防風カバー5の切り欠き部27を挟む部分、先頭車両31の床下カバー35、連結部39の幌枠42などに限らず、車両の様々な騒音発生箇所、例えば集電装置3のホーン17、台車34、車両1の連結部の切妻面、先頭車31のワイパーや屋根上のアンテナなどの突起物などにも適用することができる。
【0030】
【発明の効果】本発明によれば、車両の空力的騒音を低減できる。
【出願人】 【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
【出願日】 平成11年5月25日(1999.5.25)
【代理人】 【識別番号】100098017
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 宏嗣
【公開番号】 特開2000−341803(P2000−341803A)
【公開日】 平成12年12月8日(2000.12.8)
【出願番号】 特願平11−144312