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【発明の名称】 鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛溶接方法
【発明者】 【氏名】小川 恒司

【氏名】夏目 松吾

【氏名】山下 賢

【要約】 【課題】溶接入熱量を抑えることなく、高硬度多層肉盛溶接を行うことができる鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛溶接方法を提供する。

【解決手段】鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛溶接方法において、Hを溶接入熱量[J/cm]とし、Iを溶接電流[A]とし、Eを溶接電圧[V]とし、vを溶接速度[cm/min]としたとき、H=60×I×E/vで算出される溶接入熱量Hの値は初層において2000を超え6000未満であり、上盛層において5000を超える値に制限すると共に、初層の予熱温度又はパス間温度を150℃以下、上盛層のパス間温度を350℃以下に制限する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛溶接方法において、Hを溶接入熱量[J/cm]とし、Iを溶接電流[A]とし、Eを溶接電圧[V]とし、vを溶接速度[cm/min]としたとき、H=60×I×E/vで算出される溶接入熱量Hの値は初層において2000を超え6000未満であり、上盛層において5000を超える値に制限すると共に、初層の予熱温度又はパス間温度を150℃以下、上盛層のパス間温度を350℃以下に制限することを特徴とする鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛溶接方法。
【請求項2】 溶接材料として、金属外皮にフラックスを充填してなるフラックス入りワイヤであって、金属外皮及びフラックスのいずれか一方又は双方から添加される成分元素の合計がワイヤ全重量当たり、C:2.0乃至7.0重量%、Si:3.5重量%以下、Mn:1.5重量%以下、Ni:3.0重量%以下、Cr:10.0乃至35.0重量%及びMo:6.0重量%以下であるフラックス入りワイヤを使用することを特徴とする請求項1に記載の鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛溶接方法。
【請求項3】 ガスシールドアーク溶接により施工されることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛溶接方法。
【請求項4】 セルフシールドアーク溶接により施工されることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛溶接方法。
【請求項5】 サブマージドアーク溶接により施工されることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛溶接方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛溶接方法に関し、特に、石炭又は骨材等を粉砕する設備の磨耗部材の耐磨耗肉盛溶接及び補修肉盛溶接に使用される鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、石炭又は骨材等を粉砕する設備の磨耗部材は耐磨耗性が要求されることから、ニハード鋳鉄又は高クロム鋳鉄の鋳造品部材が使用されている。このような鋳造部品の耐磨耗性向上又は補修を目的として、従来より高硬度金属による多層肉盛溶接が実施されていた。
【0003】しかし、高硬度金属はその硬さが増すと靭性又は延性が低下して、多層肉盛溶接を行うと、剥離又は欠けを生じ易いという問題点がある。これを防止するため、高硬度金属の多層肉盛溶接において溶接入熱量を規制する方法が、特許第2518126号公報に開示されている。
【0004】これは低入熱施工を行うことにより、高硬度溶接金属に微細な間隔で溶接割れを形成させて残留応力を開放し、剥離又は欠けを抑制するものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上述の特許第2518126号公報に開示されている多層盛溶接施工法では、過度の低入熱施工は溶接の能率性を著しく損なうのみならず、融合不良又は溶け込み不足等の溶接欠陥を発生させ、かえって高硬度金属の剥離又は欠けを助長するという問題点がある。
【0006】本発明はかかる問題点に鑑みなされたものであって、溶接入熱量を抑えることなく、高硬度多層肉盛溶接を行うことができる鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛溶接方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明に係る鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛溶接方法は、鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛溶接方法において、Hを溶接入熱量[J/cm]とし、Iを溶接電流[A]とし、Eを溶接電圧[V]とし、vを溶接速度[cm/min]としたとき、H=60×I×E/vで算出される溶接入熱量Hの値は初層において2000を超え6000未満であり、上盛層において5000を超える値に制限すると共に、初層の予熱温度又はパス間温度を150℃以下、上盛層のパス間温度を350℃以下に制限することを特徴とする。ここで、高硬度とは、ビッカース硬さで600以上のことである。
【0008】本発明においては溶接材料として、金属外皮にフラックスを充填してなるフラックス入りワイヤであって、金属外皮及びフラックスのいずれか一方又は双方から添加される成分元素の合計がワイヤ全重量当たり、C:2.0乃至7.0重量%、Si:3.5重量%以下、Mn:1.5重量%以下、Ni:3.0重量%以下、Cr:10.0乃至35.0重量%及びMo:6.0重量%以下であるフラックス入りワイヤを使用することが好ましい。
【0009】また、本発明においては、ガスシールドアーク溶接、セルフシールドアーク溶接又はサブマージアーク溶接により施工することができる。
【0010】本発明においては、溶接入熱を下げることなく、剥離又は欠けのない高硬度金属の多層肉盛溶接をすることができる。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。本願発明者等は以上の課題を解決するため鋭意研究を行った結果、高硬度金属の多層肉盛溶接における上盛金属の割れは初層に発生した溶接割れが連続して、成長するものであり、上盛層の溶接においては割れを形成させるためにあえて溶接入熱量を抑える必要がないことを見出した。
【0012】以下、本発明の鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛溶接方法における数値限定理由について説明する。
【0013】初層の溶接入熱量Hの値:2000を超え6000未満初層の溶接金属に微細な溶接割れを形成するために、初層の溶接入熱量Hの値は6000未満とする。初層の溶接入熱量Hの値はより好ましくは4500以下とする必要がある。一方、初層の溶接入熱量Hの値は少なくとも2000以下では融合不良又は溶け込み不足が生じて剥離又は欠けを引き起こす。好ましくは、初層の溶接入熱量Hの値は3000以上とする。従って、初層の溶接入熱量Hの値は2000を超え6000未満とする。更に好ましくは、初層の溶接入熱量Hの値は3000以上4500未満とする。
【0014】初層の予熱温度又はパス間温度:150℃以下初層の溶接金属に微細な溶接割れを形成するためには初層の予熱温度又はパス間温度は150℃以下とする必要がある。従って、初層の予熱温度又はパス間温度は150℃以下とする。
【0015】上盛層の溶接入熱量Hの値:5000を超える上盛層の溶接入熱量Hの値は、上盛金属の融合不良又は溶け込み不足を防止するために、最低でも5000を超える必要がある。より好ましい、上盛層の溶接入熱量Hの値は6000以上である。従って、上盛層の溶接入熱量Hの値は5000を超えるものとする。更に好ましくは、上盛層の溶接入熱量Hの値は6000以上である。
【0016】上盛層のパス間温度:350℃以下下盛層の割れを伝播させて、上盛層に微細な間隔の溶接割れを形成するためには、上盛層のパス間温度は350℃以下とする必要がある。従って、上盛層のパス間温度は350℃以下とする。
【0017】以上の各要素を同時に制限することにより、鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛溶接において、溶接金属の剥離又は欠けを防止することができる。
【0018】フラックス入りワイヤ:C:2.0乃至7.0重量%、Si:3.5重量%以下、Mn:1.5重量%以下、Ni:3.0重量%以下、Cr:10.0乃至35.0重量%及びMo:6.0重量%以下更に、溶接材料として、成分調整が比較的容易なフラックス入りワイヤを使用し、フラックス入りワイヤ全重量当たりの成分元素を制限することにより、鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛溶接における溶接金属の剥離又は欠けをより一層防止することができる。従って、フラックス入りワイヤの化学組成は、C:2.0乃至7.0重量%、Si:3.5重量%以下、Mn:1.5重量%以下、Ni:3.0重量%以下、Cr:10.0乃至35.0重量%及びMo:6.0重量%以下とする。
【0019】
【実施例】以下、本発明に係る鋳鉄母材の高硬度金属多層肉盛溶接方法の実施例について、本発明の範囲から外れる比較例と比較してその効果を具体的に説明する。
【0020】表1及び表2に示す金属外皮を使用して、フラックス入りワイヤを製作した。各ワイヤの化学成分を表3乃至表5に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
【表5】

【0026】次に、このフラックス入りワイヤを使用して、供試母材として、高クロム鋳鉄を使用して、表6に示す溶接条件に基づいて多層肉盛溶接を行った。なお、肉盛層は、厚さが55mm、肉盛幅が150乃至160mm、肉盛長さが400乃至410mmである。
【0027】多層肉盛溶接を行った後に、測定点を10点とし、肉盛溶接層の面を5mmピッチで30kgfの荷重でビッカース硬さ(Hv)を測定した。このビッカース硬さを肉盛断面硬度とした。なお、高硬度とは、Hv=600以上のことである。
【0028】また、外観検査として、各層毎に目視により、融合不良の有無を検査した。なお、1層当たりの融合不良発生個数で評価した。1層当たりの融合不良発生個数が5個以下を◎とし、5乃至10個を○とし、10個を超えるものを×とした。
【0029】更に、衝撃試験として、重量が4kgの鋼製ハンマを速度6m/secの速度で30回、肉盛金属の表面に衝突させた。試験後に、剥離又は欠けの発生の有無を目視により評価した。これらの結果を表7乃至表15に示す。
【0030】なお、表中に記載の「緩衝肉盛層」とは、最大肉厚が7mmのオーステナイト系ステンレス(SUS309)のことである。
【0031】
【表6】

【0032】
【表7】

【0033】
【表8】

【0034】
【表9】

【0035】
【表10】

【0036】
【表11】

【0037】
【表12】

【0038】
【表13】

【0039】
【表14】

【0040】
【表15】

【0041】上記表7乃至表15に示すように、本発明の範囲内にある実施例No.1乃至27の高硬度金属多層肉盛溶接方法においては、いずれも良好な結果を示した。
【0042】一方、本発明の範囲から外れる比較例No.28乃至39の多層肉盛溶接法においては、いずれも良好な結果を得ることができなかった。比較例No.28の溶接方法は、初層の入熱が低いために初層に融合不良が多く発生した。また、衝撃試験において、初層及び上盛層に剥離又は欠けを生じ靭性及び延性が乏しかった。
【0043】比較例No.29は、初層の入熱が低いために初層に融合不良が多く発生した。また、衝撃試験において、初層及び上盛層に剥離又は欠けを生じ靭性及び延性が乏しかった。
【0044】比較例No.30は、初層及び上盛層の入熱が低いために初層及び上盛層に融合不良が多く発生した。また、衝撃試験において、初層及び上盛層に剥離又は欠けを生じ靭性及び延性が乏しかった。
【0045】比較例No.31は、上盛層の入熱が低いために上盛層に融合不良が多く発生した。また、衝撃試験において、上盛層に剥離又は欠けを生じ靭性及び延性が乏しかった。
【0046】比較例No.32は、初層の入熱が低いために初層及び上盛層に融合不良が多く発生した。また、衝撃試験において、初層及び上盛層に剥離又は欠けが生じ靭性及び延性が乏しかった。
【0047】比較例No.33は、緩衝肉盛層に初層の入熱が低く溶接を施工したため、初層に融合不良が多く発生した。また、衝撃試験において、初層及び上盛層に剥離又は欠けを生じ靭性及び延性が乏しかった。
【0048】比較例No.34は、初層の入熱が高く、上盛層の入熱が高いために上盛層に融合不良が多く発生した。また、衝撃試験において、上盛層に剥離又は欠けを生じ靭性及び延性が乏しかった。
【0049】比較例No.35は、初層の入熱が高く、上盛層の入熱が低いために、初層においては良好な結果を示したものの、上盛層に融合不良が多く発生した。また、衝撃試験において、上盛層に剥離又は欠けを生じ靭性及び延性が乏しかった。
【0050】比較例No.36は、初層の入熱が高く、融合不良がなかったが、衝撃試験において、初層及び上盛層ともに剥離又は欠けを生じ靭性及び延性に乏しかった。
【0051】比較例No.37は、初層の入熱が低いために初層に融合不良が多く発生した。また、衝撃試験においては、初層及び上盛層に剥離又は欠けを生じ靭性及び延性が乏しかった。
【0052】比較例No.38は、初層の入熱及び上盛層の入熱が共に低くく、また上盛層の初層及び上盛層に融合不良が多く発生した。また、パス間温度が高いために、衝撃試験において、初層及び上盛層に剥離又は欠けを生じ靭性及び延性が乏しかった。
【0053】比較例No.39は、初層のパス間温度が高いために、衝撃試験において、初層及び上盛層に剥離又は欠けを生じ靭性及び延性が乏しかった。
【0054】
【発明の効果】以上詳述したように本発明においては、することにより、溶接入熱を抑えることなく、靭性及び延性に優れる高硬度金属多層肉盛溶接をすることができる。
【出願人】 【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
【出願日】 平成11年2月9日(1999.2.9)
【代理人】 【識別番号】100090158
【弁理士】
【氏名又は名称】藤巻 正憲
【公開番号】 特開2000−233276(P2000−233276A)
【公開日】 平成12年8月29日(2000.8.29)
【出願番号】 特願平11−32015