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【発明の名称】 複合材製ドリル
【発明者】 【氏名】桑原 光雄

【要約】 【課題】表面が硬く耐摩耗性を有する一方、内部が高靱性を有する複合材製ドリルを提供することを可能にする。

【解決手段】ドリル10を構成する刃部12は、刃先先端16から複数の切刃18を有している。この刃部12のドリル内部に金属リッチな金属部20が設けられ、ドリル表面にセラミックスリッチなセラミックス部22が設けられ、これらの間にドリル内部からドリル表面に向かうに従って金属成分の割合が漸減する傾斜部24が形成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】セラミックス成分と金属成分とを含む複合材で構成されるとともに、ドリル内部からドリル表面に向かうに従って、前記複合材中の前記金属成分の割合が漸減することを特徴とする複合材製ドリル。
【請求項2】請求項1記載のドリルにおいて、前記金属成分の割合が漸減する傾斜部の厚さが、0.3mm〜10mmの範囲内に設定されることを特徴とする複合材製ドリル。
【請求項3】請求項1または2記載のドリルにおいて、前記複合材中の前記金属成分は、周期表のVIII族のFe、NiまたはCoの中から選択される少なくとも一種以上の金属成分であり、前記複合材中の前記セラミックス成分は、WC、TiC、Mo2 C、TaC、NbC、Cr3 2 またはVCの中から選択される少なくとも一種以上のセラミックス成分であり、かつ、セラミックス量が、85wt%≦WC+TiC+Mo2 C+TaC+NbC+Cr3 2+VC≦97wt%に設定されることを特徴とする複合材製ドリル。
【請求項4】請求項1乃至3のいずれか1項に記載のドリルにおいて、前記ドリル表面の硬度がHRA88以上であることを特徴とする複合材製ドリル。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、セラミックス成分と金属成分とを含む複合材で構成される複合材製ドリルに関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、各種の機械加工分野において、ドリルを用いた穿孔加工が行われている。この種の加工作業中には、ドリルに対して種々の応力が作用している。例えば、切削材に押し付け力を付与する際の圧縮応力、食い付き部や切削部に作用する引っ張り応力、さらに加工を行う部分と加工に使用されない部分との間の引っ張り応力等が挙げられる。このため、ドリルによる切削加工が、実際上、不安定となり易く、刃先チッピングや欠損、折損、あるいは、加工穴の寸法精度の低下が惹起されるおそれがあり、高硬度、高強度および高靱性を有するドリルが要求されている。そこで、通常、ドリルの材質として、高速度鋼や超硬等が広く採用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、高速度鋼は、高強度および高靱性を有するものの、耐摩耗性や圧縮強度および剛性に問題がある一方、超硬は、高剛性、高硬度および高圧縮強度を有するものの、靱性に問題がある。言い換えれば、剛性や耐摩耗性を向上させようとすると靱性や強度が劣化する一方、強度や靱性を向上させようとすると剛性や硬度が低下してしまい、特に高速加工および高負荷に耐え得るドリルを製作することは、現実的には極めて困難なものとなっている。
【0004】その際、超硬材や高速度鋼に硬質被膜コーティング等の表面処理を施す工夫がなされているが、ドリル刃先の精度が低下するとともに、高負荷応力下や高温下では被膜の剥がれ等が惹起してしまい、実用に供することができなかった。
【0005】そこで、実際に切削加工を行うドリル表層近傍が高硬度でかつ耐摩耗性を有するとともに、ドリル内部が高強度を有するドリルの開発を検討したところ、本出願人による特許第2593354号や特開平8−127807号公報等に開示されている「セラミックス粉末と金属成分とを含む傾斜機能を有する複合材」を応用することを見い出した。
【0006】すなわち、本発明は、表面が高硬度で内部に向かうに従って靱性や強度等の物性が向上する傾斜機能を有する複合材製ドリルを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明に係る複合材製ドリルでは、セラミックス成分と金属成分とを含む複合材で構成されるとともに、ドリル内部からドリル表面に向かうに従って、前記複合材中の前記金属成分の割合が漸減している。ここで、複合材中の金属成分の割合と硬度、強度および靱性とには相関があり、金属成分の割合が少なくなってセラミックス成分の割合が多くなると、硬度、耐摩耗性および剛性等が向上するものの脆くなってしまう。一方、この脆さを改善するために、金属成分の割合を多くすると、強度および靱性は向上するものの、剛性および耐摩耗性が低下してしまう。
【0008】そこで、実際に加工を行うドリル表面側を高硬度で耐摩耗性を有する物性とし、内部を高靱性で高強度を有する物性とするとともに、前記表面側と前記内部側との間の組成や物性が緩やかに変化するようにすれば、応力集中がなく、所望の耐摩耗性を備えつつ、寸法精度の高い鋭利な刃先を有するドリルを得ることができる。
【0009】このため、ドリル表面近傍のセラミックス粒子は、内部に比べて粒成長を促して粗大化しつつ内部に向かうに従って小さくなり、金属成分がこの粒成長に伴う粒子組成再配列により内部に集積される。従って、実際に加工を行うドリル表面部分の組成がセラミックスリッチで高耐摩耗性を有し、ドリル内部が金属リッチで高強度および高靱性を有するとともに、ドリル内部における応力集中を有効に減少させることが可能になる。
【0010】また、実際に切削を行うドリル表面近傍をセラミックスリッチとし、粒子を粗大化しているために、切削加工時にこのドリル表面近傍に発生する熱の伝達および拡散性が向上する。従って、熱に伴うマイクロクラックの発生を防止して、これにより生ずるチッピングや構成刃先を改善したため、切削性能が大きく向上することになる。
【0011】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の第1の実施形態に係る複合材製ドリル10の一部断面側面図であり、図2は、前記ドリル10の縦断面正面図である。
【0012】ドリル10は、ツイストドリルを構成しており、刃部12とシャンク部14とを一体的に備えている。刃部12には、刃先先端16から複数、例えば、2つの切刃18が所定のねじれ角を有して軸方向(矢印A方向)に設けられている。ドリル10は、セラミックス成分と金属成分とを含む複合材で構成されており、ドリル内部に金属リッチな金属部20が設けられるとともに、ドリル表面にはセラミックスリッチなセラミックス部22が設けられる。金属部20とセラミックス部22との間には、ドリル内部からドリル表面に向かうに従って金属成分の割合が漸減する傾斜部24が設けられている。
【0013】金属成分は、周期表のVIII族元素の鉄(Fe)、ニッケル(Ni)またはコバルト(Co)の中から選ばれる少なくとも一種以上であり、必要に応じてクロム(Cr)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)またはタングステン(W)等が混入される。複合材中の金属成分の割合は、3wt%〜15wt%、より好ましくは、5wt%〜10wt%の範囲内に設定される。
【0014】金属成分が3wt%未満では、金属量が少なくなり過ぎてドリル10が脆くなり、現実的に使用することができないものとなってしまう。金属成分が3wt%以上であると、ドリル10の表面側の金属成分の割合を1wt%以下とすることができ、ドリル内部には相対的に8wt%程度の金属成分を集積することが可能になり、実用に供することができる。なお、素材を焼結した後、刃付け等の加工を施してドリル10を製造する際には、その刃先強度をも考慮する必要があり、金属成分の割合を5wt%以上にすることが望ましい。
【0015】ここで、セラミックス粒子として2μm前後の粉末原料を用いた場合、ドリル表面近傍の粒子は、添加される粒子成長剤や焼結温度、時間および雰囲気等により変化し、例えば、3倍〜30倍程度に成長する。ドリル10において、切刃18の強度が要求される際には、3倍〜6倍程度まで成長させる一方、主に耐摩耗性が要求される際には、10倍〜20倍程度まで成長させる。このとき、ドリル10の表面近傍の金属成分の割合は1wt%〜5wt%程度であり、このドリル10の内部の金属成分の割合は成長度合いや傾斜部24の厚み等により変化し、例えば、表面近傍で5wt%の場合、内部で8wt%〜13wt%程度乃至はそれ以上となる。
【0016】金属成分の割合は、上限が15wt%、より好ましくは10wt%に設定される。例えば、ブローチ盤等における加工や深穴加工では、ガンドリルや長尺なドリル10が用いられ、高剛性と高強度が要求されるとともに、特に、大きな引っ張り強度が要求される。この場合、含有する金属成分の量を増加して折損等を回避しようとする際、金属成分の割合が15wt%以上になると、耐摩耗性が劣化するおそれがある。
【0017】また、金属成分の割合が15wt%に設定され、表面近傍で金属成分が5wt%程度のドリル10において、HRA93程度の硬度を確保しようとした場合、前記ドリル10の直径が25mm程度の大きさであれば、ドリル中央部の金属成分が20wt%以上程度となって、高速度鋼に近い靱性を有して機能的には十分である。
【0018】なお、直径が10mm〜20mm程度のドリル10において、上記のようにドリル中央部の金属成分の量を20wt%以上程度にするためには、複合材中の前記金属成分の割合を10wt%に設定すればよく、これ以上の割合で金属成分を添加しても強度や靱性に寄与することがなく、ドリル10全体の剛性が低下してしまう。
【0019】ドリル10の傾斜部24の厚さは、数100μm、好ましくは0.3mm以上に設定される。ドリル10では、金属成分の量と熱伝導および粒子の大きさと熱伝導に相関があり、発生する熱応力が熱伝達の勾配になるため、傾斜部24の厚さが変化することにより熱応力そのものが変化する。傾斜部24の厚さが数μm〜数10μmでは、発生する熱応力や加工時の応力の緩和量が小さく、金属成分の割合を好適にコントロールしたとしても所望の効果を得ることができない。
【0020】一方、傾斜部24の厚さを大きく設定することが考えられるが、ドリル10が大径なものとなってしまう。実用上のドリル10の直径が25mm程度以下であるため、傾斜部24の厚さの上限を10mmに設定する。
【0021】ドリル10を構成する複合材中のセラミックス成分は、炭化タングステン(WC)、炭化チタン(TiC)、炭化2モリブデン(Mo2 C)、炭化タンタル(TaC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化クロム(Cr3 2 )または炭化バナジウム(VC)の中から選択される少なくとも一種以上を主体とするものであり、必要に応じて窒化物、硼化物あるいは炭窒化物の種々のものをその一部に添加してもよい。
【0022】セラミックス量は、85wt%≦WC+TiC+Mo2 C+TaC+NbC+Cr3 2 +VC≦97wt%に設定される。これらのセラミックス成分は、ドリル10による切削時に実際に切削を行う切刃18を構成しており、耐熱性、耐摩耗性および耐蝕性等の性質を備えている。セラミックス量が97wt%を超えると、金属成分の量が少なくなりすぎ、耐摩耗性は十分であるものの、強度および靱性が低くなって実用に供することが難しい。
【0023】一方、セラミックス成分が85wt%未満では、金属成分が多くなりすぎ、ドリル10のドレス後の使用等においては、耐摩耗性が著しく劣化する場合がある。ドリル10の表面硬度は、HRA88以上である。この値未満では、ドリル10の切刃18に金属成分の露出割合が多くなり、被削材との摩擦係数(μ)が高くなって発熱の増大を招き、前記被削材の加工表面が粗くなるとともに、前記ドリル10の切刃18自体の損耗が大きくなってしまう。
【0024】このように、第1の実施形態に係るドリル10では、高速度鋼に比べて物性的にも有利であり、加工精度および加工面が有効に向上することになる。しかも、ドリル10の交換頻度が少なくなり、長期間にわたって良好に使用することが可能になる。また、ドリル10では、粒成長剤を適宜選択することにより、例えば、金属成分としてニッケルが使用される場合、前記ドリル10の表面硬度がHRA94、さらにHRA98になり、硬質セラミックス被膜コーティングを施した以上の値が得られる。
【0025】図3は、本発明の第2の実施形態に係る複合材製ドリル(油穴付ドリル)10aの一部断面側面図であり、図4は、本発明の第3の実施形態に係る複合材製ドリル10bの一部断面側面図である。なお、第1の実施形態に係るドリル10と同一の構成要素には同一の参照数字に符号aおよびbを付して、その詳細な説明は省略する。
【0026】ドリル10a、10bでは、ドリル内部に金属部20a、20bを有するとともに、ドリル表面にセラミックス部22a、22bを設け、これらの間に傾斜部24a、24bが構成されている。従って、高速度鋼や超硬で構成されるドリルに比べ、高速加工が容易に遂行される等、第1の実施形態に係るドリル10と同様の効果が得られる。
実施例1実施例1では、平均結晶粒径が2.2μmの炭化タングステン(WC)粉末を89wt%、平均粒径が2μmの炭化ニオブ(NbC)粉末を2wt%、平均粒径が2.4μmの炭化タンタル(TaC)粉末を1wt%、および、コバルト(Co)粉末を8wt%の割合で、有機溶媒を媒液としてボールミルを用いて72時間十分に混合した。この混合物を液分が9%になるように調製した後、成形用バインダの影響を回避するためにバインダレスで、金型内静水圧加圧成形法により100MPaの成形圧力にて外接円がφ25mm×150mmの成形体を成形した。
【0027】成形後、窒素ガスを流通させながら50Paで成形体に残存するヘキサンを除去した後、900℃で30×60秒間の仮焼成を行い、成形体の含浸時における崩壊を防止した。さらに、仮焼成体の均質性を向上させるため、焼成後にφ15mmになるように切削加工が施された。次いで、10%濃度のNi塩水溶液中に仮焼成体を浸漬し、その後、130℃の排気型熱風乾燥炉で乾燥処理を施し、仮焼成体内におけるNi濃度の傾斜化を図った。
【0028】一方、上記の基礎物性において、Ni濃度を同一としながら、コバルト量を炭化タングステン量の制御によって増減させ、仮焼成体をNi塩水溶液中に浸漬するとともに、粉体中に埋設して乾燥させることにより均質体を得た。
【0029】これらを十分乾燥させた後、窒素流通下で50Pa、1400℃の温度で1時間保持して焼結処理を施した。その際、基礎物性として、焼結体の表面からの距離と硬度および靱性との関係が図5に示されている。
【0030】ここで、傾斜機能領域は約7mmであり、表面の高硬度均質層の厚さは約0.3mmであり、硬度はHRA93であった。図5に示す市販材の同等製品では、硬度がHRA90.5程度であり、この市販材に比べて、実施例1の硬度が非常に高い値となった。また、靱性は、同一試験条件下の測定において市販品の7MPam1/2 に比べ、内部がその2倍近い値となった。
【0031】さらに、実施例1で得られた焼結体の断面を顕微鏡を用いて観察し、その粒子の大きさを測定したところ、図6に示す結果が得られた。これにより、焼結体の表面近傍の粒子は、内部に比べて3〜4倍程度の大きさに成長していることが判った。
【0032】図7は、均質体組成としたときのコバルト量と強度の関係を、粒成長剤の含浸の有無により比較したものである。これによれば、含浸操作を行うことにより、含浸物がセラミックス粒子の成長を促進するとともに、バインダの役割を担うコバルトと密接に結合し、強度の改善が見られた。すなわち、セラミックス粒子と金属とが従来以上に密接に結合し、強度の改善効果が高くなった。これにより、実施例1で得られた焼結体の各性質は、超硬を凌ぐものであり、ドリルとしての性能が飛躍的に向上するという効果が得られる。
実施例2実施例2では、実施例1に従って成形された焼結体を用いて、図8に示すドリル40が製造された。このドリル40は、直刃型の形状を有している。具体的には、実施例1と同様の組成の複合材を用いて成形体を成形し、この成形体を仮焼成した後、仮加工しておき、10%濃度のNi塩水溶液に浸漬し、乾燥後に同一条件で焼成処理を施した。焼成処理後、刃付け加工等を行ってドリル40を製作した。比較工具として、市販の超微粒子超硬材を同一加工条件および同一刃付け条件にて製作し、アルミ加工ラインでそれぞれの性能を比較する実験を行った。被削材は、高シリコン含有のアルミニウム合金ADC12相当材であった。
【0033】そのテスト結果が、図9に示されている。市販超硬材では、耐摩耗性および強度等が高いにもかかわらず、5000穴を経過した時点で既に構成刃先の形成が見られ、10000穴ではチッピングにより刃先の欠け等も確認された。そして、この時点で加工された穴精度は相当に劣化しており、その後は摩耗によって刃先に欠けが発生してしまった。これに対して、ドリル40では、ドリル内部からドリル表面に向けて金属成分が漸減しており、構成刃先の形成も見られず、しかも加工された穴精度も良好であるという結果が得られた。
【0034】図9に示すように、VB(逃げ面摩耗幅)摩耗量は市販超硬材の1/2となるが、実際の加工ラインでは、市販超硬材の摩耗量に至るまでに100000穴以上となり、3倍以上の耐用性が得られた。これにより、生産ラインの連続性が向上し、高速加工や超高速加工にも適するという利点が得られる。
【0035】
【発明の効果】本発明に係る複合材製ドリルでは、ドリル内部からドリル表面に向かうに従って、複合材中の金属成分の割合が漸減するため、実際に加工を行う切刃部分が高硬度でかつ耐摩耗性を有する一方、ドリル内部が高靱性かつ高強度を有するとともに、この間の組成や物性が緩やかに変化する。これにより、高速加工に適するとともに、耐用性が大幅に向上することになる。
【出願人】 【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
【出願日】 平成11年4月13日(1999.4.13)
【代理人】 【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏 (外1名)
【公開番号】 特開2000−296405(P2000−296405A)
【公開日】 平成12年10月24日(2000.10.24)
【出願番号】 特願平11−105556