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【発明の名称】 快削性鉄系焼結部品およびその製造方法
【発明者】 【氏名】山西 祐司

【氏名】筒井 唯之

【氏名】石井 啓

【要約】 【課題】鉄系焼結部品のある程度の硬さを保持しながら被削性を大幅に改善する。

【解決手段】P:0.1〜1.0重量%、Si:2.0〜3.0%の少なくとも1種とCを含む快削性鉄系焼結部品である。この快削性焼結部品は、鉄系材料の圧粉体または仮焼結体に硼素を含む水溶液またはアルコール溶液を塗布し、または気孔中に含浸させた後に焼結することにより硼素を含有し、かつ、表面部の基地硬さがHv150〜250である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 P:0.1〜1.0重量%、Si:2.0〜3.0%の少なくとも1種とCを含む鉄系材料の圧粉体または仮焼結体に、硼素を含む水溶液またはアルコール溶液を塗布しまたは気孔中に含浸させた後に焼結し、表面部の基地硬さをHv150〜250にすることを特徴とする快削性鉄系焼結部品の製造方法。
【請求項2】 P:0.1〜1.0重量%、Si:2.0〜3.0%の少なくとも1種とCを含む快削性鉄系焼結部品であって、この快削性焼結部品は、鉄系材料の圧粉体または仮焼結体に硼素を含む水溶液またはアルコール溶液を塗布し、または気孔中に含浸させた後に焼結することにより硼素を含有し、かつ、表面部の基地硬さがHv150〜250であることを特徴とする快削性鉄系焼結部品。
【請求項3】 前記鉄系材料の圧粉体または仮焼結体は、Cを0.1〜2.0重量%、Cuを1.0〜5.0重量%含有していることを特徴とする請求項2に記載の快削性鉄系焼結部品。
【請求項4】 前記硼素を含む水溶液またはアルコール溶液は、硼酸、硼酸化物、硼素の酸化物、硼素のハロゲン化物、硼素の硫化物、硼素の水素化物、フッ化硼素系の化合物のいずれか1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項2または3に記載の快削性鉄系焼結部品。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、快削性鉄系焼結部品およびその製造方法に係り、特に、炭素を含む鉄系焼結部品の圧粉体または仮焼結体の表面の一部または全体に、硼素を含む溶液(以下、表面改質剤と称する)を浸透させ、これを焼結することによって浸透した部分のみの硬さを低下させて被削性を改善する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】鉄系の焼結合金は、ニアネットシェイプに製造できるため、加工に要する製造コストを削減でき、しかも比重の大きく異なる元素や固溶しにくい異種合金を分散させること等が可能であり、耐摩耗性などの特性を付与することができるため、種々の技術分野で多用されている。たとえば、自動車や自動二輪車等の機械部品には、複雑な形状であっても機械加工をかなり省略することが可能であることから、鉄系焼結合金製の機械部品が動弁系や軸受など多岐にわたって応用されている。しかしながら、そのような鉄系焼結合金製の機械部品であっても、多くのものは機械加工を施す必要があるため、被削性が悪いことが欠点となっている。
【0003】鉄系焼結合金の被削性を改善するために、従来、原料粉として硫黄を含有する鉄粉を使用したり、硫化物を原料粉に添加、混合する方法や、焼結体を硫化水素ガス雰囲気で硫化処理する方法などが採用されている。しかしながら、改削成分である硫黄を焼結合金の基地中に分散させる方法では、被削性の改善には限界がある。また、硫黄は、焼結合金の強度を低下させる元素であり、特に、靭性を低下させる原因になるとともに、焼結合金の腐食を促進する恐れもあるので用途に制限がある。
【0004】また、焼結合金の気孔中に樹脂などを充填する技術も提供されている。このような焼結合金では、切削加工中に気孔中の樹脂がチップブレーキングの起点となるため、切屑の分断性が良好である。しかしながら、このような方法では、使用する樹脂の種類によってはバイト等の切削工具の寿命を短くするものがあり、しかも、焼結合金の用途によっては、切削加工後に気孔から樹脂を抜き取る必要が生じる場合があるという欠点がある。
【0005】そこで、本出願人は、特開平9−157706号公報において、炭素を含む鉄系材料の圧粉体または仮焼結体に、硼素を含む水溶液またはアルコール溶液を塗布し、または気孔中に含浸させた後に焼結する鉄系焼結材料の改質方法を提案した。この提案に係る技術によれば、炭素の基地中への拡散が硼素によって抑制され、鉄系焼結材料の所望の部分の硬さを低下させて被削性を向上させることができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、近年の自動車部品の高性能化の要請に伴い、更なる被削性の改善が要求されるようになってきた。よって、本発明は、上記した先の提案に係る鉄系焼結材料をさらに改良した快削性鉄系焼結部品とその製造方法を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】一般に、鉄系焼結部品の炭素含有量が増えると材料が硬くなり、それに伴って被削性が低下することが知られている。ところが、本発明者の検討によれば、鉄系焼結部品の基地が純鉄に近くて硬さがあまりに低いと、逆に切削工具の摩耗が増加するという知見を得た。図1は、C量を変えることで作製した、種々の硬さを有する4種類(A〜D)のFe−1.5Cu−C系焼結部品と、前述の特開平9−157706号公報に開示された手法により被削性を改善したFe−1.5Cu−C系焼結部品(E)を切削加工した場合の切削工具の摩耗量を示す線図である。従来、硬さが最も低い部品Aの被削性が最も優れており、工具摩耗量が最も少ないと予想していたが、実際は、図1から判るように、部品の表面部の硬さがHv110〜120(load荷重=100gf)である最も軟質な部品Aの摩耗量が最も多く、硬さがHv200〜230の部品Cで最小となっている。そして、硬さがHv150〜250であれば、切削工具の摩耗量が部品Aの摩耗量に対して大幅に低減されることが判る。これは、鉄系焼結部品の基地であるフェライトは粘性が高いため、切削加工の際に刃先に凝着摩耗が発生するためと考えられる。また、図1より、特開平9−157706号公報に開示された手法により被削性を改善したものは、最も摩耗量が少なく、被削性改善の効果が顕著に表れているが、基地硬さを高めて、凝着摩耗の発生を抑制することによって、更なる被削性改善の余地が存在することが考えられる。そこで、本発明者は、フェライトを合金化して硬さを高めたところ、所定の範囲の硬さのときに切削工具の摩耗が著しく低減されることを見出した。
【0008】本発明の快削性鉄系焼結部品の製造方法は上記知見に基づいてなされたもので、P:0.1〜1.0重量%、Si:2.0〜3.0%の少なくとも1種とCを含む鉄系材料の圧粉体または仮焼結体に、硼素を含む水溶液またはアルコール溶液を塗布しまたは気孔中に含浸させた後に焼結し、表面部の基地硬さをHv150〜250にすることを特徴としている。なお、ここでHvとは、100gfの荷重をかけた場合のヴィッカース硬さのことを指す。
【0009】また、本発明の快削性鉄系焼結部品は、P:0.1〜1.0重量%、Si:2.0〜3.0%の少なくとも1種とCを含む快削性鉄系焼結部品であって、この快削性焼結部品は、鉄系材料の圧粉体または仮焼結体に硼素を含む水溶液またはアルコール溶液を塗布し、または気孔中に含浸させた後に焼結することにより硼素を含有し、かつ、表面部の基地硬さがHv150〜250であることを特徴としている。
【0010】本発明においては、まず、鉄系材料の圧粉体または仮焼結体の表面の一部または全部に、硼素を含む水溶液またはアルコール溶液からなる表面改質剤を浸透させる。次に、鉄への浸炭が行われる温度と通常の非酸化性ガス雰囲気中で加熱する。これにより、鉄系材料のうち硼素を含む表面改質剤を浸透させた部位の被削性を著しく改善することができる。本発明者の検討によれば、硼素により被削性が改善される理由は次のとおりである。
【0011】すなわち、浸透させられた硼素の化合物(例えば酸化硼素(B))は、焼結のための昇温で温度がCの基地への拡散温度より低い500℃程度となると溶解し、これが圧粉体または仮焼結体に含まれる黒鉛粉の表面を覆う。これにより、黒鉛粉のCがフェライト基地に拡散してパーライトを生成することができず遊離黒鉛として残留し、これが固体潤滑剤として機能し被削性を著しく改善する。しかも、加工の必要な箇所のみの改質であるため、材料自体の機械的性質を変化させることがない。さらに、表面改質層の厚さおよび硬さが表面改質剤の濃度、浸透時間および方法の調製により容易に制御することができる。特に、本発明では、鉄系材料にPおよびSiを含有させることにより、表面部の基地硬さを上記のように設定しているため、被削性の更なる改善を達成している。
【0012】P:Pの含有量が0.1重量%未満であると、フェライト強化の作用が乏しく、その結果、表面部の硬さが得られずに被削性の改善効果が乏しくなる。一方、Pの含有量が1.0重量%を上回ると、焼結中でのFe−P液相の発生量が多くなり、焼結中の圧粉体の型くずれが生じ易くなる。よって、Pの含有量は0.1〜1.0重量%とした。なお、Pは単味粉の形態で添加することも可能であるが、毒性が強いため、Fe−P合金粉の形態で添加することが望ましい。
【0013】Si:Siは単味粉の形態で添加する方が早く基地中に拡散するが、純Siは高価であるため、工業的にはFe−Si合金粉の形態で添加する方が経済的であり望ましい。Siの含有量が2.0重量%未満であると、フェライト強化の作用が乏しく、その結果、表面部の硬さが得られずに被削性の改善効果が乏しくなる。一方、Siの含有量が3.0重量%を上回ると、Fe−Si合金粉末が硬くなって成形時の圧縮性が低下する。その結果、成形体に必要な密度が得られず強度が低下する。よって、Siの含有量は2.0〜3.0重量%とした。
【0014】ここで、本発明における仮焼結体とは、圧粉体を黒鉛が拡散しない程度に焼結したものを言い、その焼結温度は900℃以下である。また、本発明の鉄系材料としては、Fe−C系であれば効果があり、その例として、構造用焼結合金として著名であり、広く用いられているFe−Cu−C系合金を挙げることができる。Fe−Cu−C系合金を用いる場合、Cを0.1〜2.0重量%、Cuを1.0〜5.0重量%含有しているものを使用することが望ましい。
【0015】Cは黒鉛粉末の形態で添加されるが、その添加量(つまりCの含有量)が0.1重量%未満であると、基地中に拡散する炭素の量、すなわち改質されない部分の炭素の量があまりにも少なく、所望の強度が得られないばかりでなく、改質部の遊離黒鉛の量が少なくて被削性改善の効果が得られなくなる。一方、黒鉛粉末の添加量が2.0重量%を上回ると、拡散抑制の取りこぼしが多く生じてパーライトが生じるようになる。
【0016】また、Cuも基地中に拡散して強化するが、Cuの含有量が1.0重量%未満ではその効果が乏しい。一方、Cuを5.0重量を超えて含有すると、軟質なCu相が生じて強度が低下するとともに、焼結時にCu液相の発生による寸法収縮、および液相発生によりFe基地へ容易に拡散したCuによるCu膨張現象により製品の各部でミクロ的な収縮と膨張が生じ、結果として製品全体の寸法変化のばらつきが大きく、寸法精度が悪くなる。なお、Cuは単味粉の形態で添加され、Cu粉末および黒鉛粉末の平均粒径は、通常に用いられる範囲の1〜10μmである。
【0017】表面改質剤の主成分である硼素は、硼素単体の他に、硼酸、硼酸化物、硼素の酸化物、硼素のハロゲン化物、硼素の硫化物、硼素の水素化物、フッ化硼素系の化合物のいずれかが良いが、特に硼素の酸化物が効果的である。そして、これらのうち1種または2種以上を水またはアルコールに溶解させて表面改質剤とする。表面改質剤の溶解濃度、浸透時間および浸透方法を変化させることにより、所望の表面改質層の厚さおよび硬さを得ることができる。仮焼結体に対する表面改質剤の浸透は、成形体の場合よりも容易である。成形体に適用する場合には、成形体に脂肪酸の潤滑剤が含まれているので、成形体を有機溶剤で脱脂した後に表面改質剤を塗布または含浸することが望ましい。
【0018】本発明は、焼結部品の表面に切削加工を施したり、サイジングを施す必要がある自動車エンジンのベアリングキャップ、シンクロナイザーハブ、汎用エンジン用の各種ギヤ、OA機器部品、工作機械部品などに適用することにより、加工性および工具寿命を向上させることができる。
【0019】
【実施例】以下、具体的な実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
A.焼結体の作製表1に示す配合比で原料粉末を用意し、これをV型ミキサーで30分間混合した後に、混合粉末を密度6.6g/cmに圧粉成形し、外径32mm、内径15mm、高さ10mmの圧粉体を各5個づつ作製した。次いで、それぞれの圧粉体を690℃の還元性ガス雰囲気で加熱して仮焼結体を作製した。なお、表1中の配合量の単位は重量%である。次に、酸化硼素をエタノールに溶解させ、10g/100mlの濃度の表面改質剤を調製した。次いで、表面改質剤を満たした容器に仮焼結体を浸漬し、容器を真空チャンバーに収容して真空引きを行うことにより、仮焼結体内部のガスを表面改質剤で置換した。次に、各仮焼結体を1130℃の還元性ガス(分解アンモニアガス)雰囲気で60分間加熱して焼結した。
【0020】
【表1】

【0021】B.試験方法■切削試験各焼結体に対して切削試験を行い、工具刃先の逃げ面摩耗幅を工具摩耗量として評価した。切削試験は、立方晶窒化硼素(CBN)製のスローアウエイチップを用いてNC旋盤で行い、切削速度を180mm/分、送りを0.04mm/rev、切込量を0.15mmとし、水溶性切削油を用いて7000mの距離を切削した。次いで、切削加工部位を研磨してランダムにマイクロビッカース硬さを測定し、その平均値とともに工具摩耗量を表1に併記した。
【0022】■曲げ強さ試験各焼結体に対しJIS Z2248(金属材料曲げ試験)の3点曲げ方法で曲げ強さを測定し、その平均値とともに曲げ強さを表1に併記した。
【0023】C.評価■P含有量の影響表1からPの含有量が互いに異なる試料を抜き出して表2に記載した。また、表2に記載したP含有量と表面部の基地硬さおよび工具摩耗量を図2に示した。図2から判るように、Pの含有量が0.1重量%になると表面部の基地硬さが大きく上昇し、Pの含有量が増えるに従って硬さが増加している。また、Pの含有量が0.1重量%のときに工具摩耗量が飛躍的に減少していることも判る。ただし、Pの含有量が1.0重量%を超える試料No.5では、表1および表2の備考欄にも注記したが、焼結中にFe−P液相の発生量が多くて型くずれが生じ、焼結体を形成することができなかった。このように、Pの含有量を0.1〜1.0重量%とした本発明の数値限定の根拠を確認する結果が得られた。また、Siと共存した場合でも本発明の効果が有効であることが確認された。
【0024】
【表2】

【0025】■Si含有量の影響表1からSiの含有量が互いに異なる試料を抜き出して表2に併記した。また、表2に記載したSi含有量と表面部の基地硬さおよび工具摩耗量を図3に示した。図3から判るように、Siの含有量が2.0重量%になると表面部の基地硬さが大きく上昇し、Siの含有量が増えるに従って硬さが増加している。また、Siの含有量が2.0重量%のときに工具摩耗量が飛躍的に減少していることも判る。さらに、Siの含有量が3.0重量%を上回る試料No.9では、被削性は良好であるが、別に行った曲げ強さ試験の結果、顕著な強度の低下が判明している。このように、Siの含有量を2.0〜3.0重量%とした本発明の数値限定の根拠を確認する結果が得られた。
【0026】■Cu含有量の影響表1からCu粉の添加量(Cuの含有量)が互いに異なる試料を抜き出して表3に記載した。また、表3に記載したCu粉添加量と表面部の基地硬さおよび工具摩耗量を図4に示した。図4から判るように、Cu粉の添加による顕著な基地硬さ、工具摩耗量の変化はないが、Cu粉の添加により強度は向上し、添加量の増加にしたがい強度が向上している。ただし、試料No.16では、Cu液相の発生とCu膨張現象が増加したことにより寸法精度が低下していた。このように、Fe−C系合金においても本発明の効果が確認でき、さらにCuの含有量を1.0〜5.0重量%の範囲で被削性を低下させることなく強度の改善が確認され、本発明における数値限定の根拠を確認する結果が得られた。
【0027】
【表3】

【0028】■C含有量の影響表1から黒鉛粉の添加量(Cの含有量)が互いに異なる試料を抜き出して表3に併記した。また、表3に記載した黒鉛粉添加量と表面部の基地硬さおよび工具摩耗量を図5に示した。図5から判るように、黒鉛粉末の添加量が0.1重量%のときに工具摩耗量が飛躍的に減少していることが判る。また、黒鉛添加量が2.0重量%を上回る試料No.21では、パーライトが生成されたために工具摩耗量が増加した。このように、Cの含有量を0.1〜2.0重量%とした本発明の数値限定の根拠を確認する結果が得られた。
【0029】
【発明の効果】以上説明したように本発明においては、部品の一部または全部に硼素を分散させるとともに表面部の硬さをHv150〜250としているので、黒鉛からのCの拡散を防止するとともに遊離黒鉛として残存させ、ある程度の硬さがありながら被削性を飛躍的に向上させることができる。
【出願人】 【識別番号】000233572
【氏名又は名称】日立粉末冶金株式会社
【出願日】 平成10年11月17日(1998.11.17)
【代理人】 【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
【公開番号】 特開2000−144209(P2000−144209A)
【公開日】 平成12年5月26日(2000.5.26)
【出願番号】 特願平10−326536