トップ :: B 処理操作 運輸 :: B22 鋳造;粉末冶金




【発明の名称】 ESR溶解法によるインコネル706合金の製造方法
【発明者】 【氏名】石田 斉

【氏名】戸田 晴彦

【氏名】坂本 浩一

【氏名】草道 龍彦

【要約】 【課題】ESR溶解法において、偏析の少ないインコネル706合金とその製造方法を提供する。

【解決手段】質量%で、 Ni:40.0〜43.0%、Cr:15.50〜16.50 %、 Nb:2.30〜3.20%、 Ti:1.50〜1.80%および残部がFeと不可避的不純物からなるインコネル706合金のESR溶解法において、凝固時の冷却速度を 1.5℃/min以上としたESR溶解法によるインコネル706合金の製造方法である。また、上記インコネル706合金のESR溶解法による鋳塊の凝固組織のデンドライト2次アームスペーシングが 200μm 以下であるインコネル706合金鋳塊である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 質量%で、 Ni:40.0〜43.0%、Cr:15.50〜16.50 %、 Nb:2.30〜3.20%、 Ti:1.50〜1.80%および残部がFeと不可避的不純物からなるインコネル706合金の鋳塊を製造するに際し、凝固時の冷却速度を 1.5℃/min以上としたことを特徴とするESR溶解法によるインコネル706合金の製造方法。
【請求項2】 上記インコネル706合金のESR溶解法による鋳塊の凝固組織のデンドライト2次アームスペーシングが 200μm 以下であることを特徴とするインコネル706合金鋳塊。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ガスタービン等に使用される偏析の少ないインコネル706合金をESR溶解法(エレクトロスラグ再溶解法)で製造する技術分野に属するものである。
【0002】
【従来の技術】ESR溶解法は、水冷銅鋳型内に被溶解金属である一次電極をつり下げ、水冷銅鋳型底部に挿入したスラグに接触させ、一次電極−水冷銅鋳型間に大電流を流し、スラグの抵抗熱でスラグを溶解させ、スラグの溶解熱を利用して一次電極を再溶解しながら溶けた溶湯をスラグ内部で精錬しつつ、水冷銅鋳型内に二次鋳塊として積層凝固させることにより、高品質の鋳塊を製造する溶解プロセスである。
【0003】このESR溶解法においては、二次鋳塊と水冷銅鋳型間の熱伝達を良くすることで鋳塊の品質を改善できることが一般に知られている。しかしながら、ESR溶解法では、二次鋳塊と水冷銅鋳型間に凝固収縮によるエアギャップとスラグが凝固した層が生成するため、これが鋳塊−鋳型間の熱伝達を阻害し、鋳塊品質を悪くする。また、インコネル706合金は合金成分にNbなどを含んでおり、これらが凝固の際に偏析し、鋳塊品質を悪化させるため、他の合金と比較して製造が困難な合金である。また、合金成分のNb濃度が高くなるほど偏析が起こり易くなる傾向がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このように、インコネル706合金のESR溶解法による製造において、均質な合金を溶製するためには、最適な操業条件を把握しておく必要がある。特に、Nb濃度の高いインコネル706合金を製造する場合や、外径 800mmを超すような大型の鋳塊などを製造する場合には、製造条件を厳密に制御しなければならない。しかしながら、このような鋳塊においては、製造時の鋳塊の冷却速度などの製造条件が十分に把握されていないため、製品での欠陥の原因となる偏析などが鋳塊内部に起こり、均一な組成を持つ高い品質の合金製品を安定して製造することができなかった。また、これまでの製造方法は経験的な操業に依存しており、最適な操業条件を明確な数値で示したものはない。
【0005】また、高品質の大型鋳塊を製造するために、ESR溶解法において、鋳塊−鋳型間に粉末金属を導入して溶融させ鋳塊−鋳型間の熱伝達を良くする方法や、低融点の溶融金属を充填して鋳塊−鋳型間の熱伝達を良くする方法が、本出願人から出願され特願平07-229172 号に開示してあるが、均質な合金鋳塊を製造するたの定量的な冷却速度および凝固組織のデンドライト2次アームスペーシングの制御については記載されていない。
【0006】本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、ESR溶解法において、冷却速度を制御することにより凝固組織のデンドライト2次アームスペーシングを制御し、偏析の少ないインコネル706合金とその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】その要旨は、質量%で、 Ni:40.0〜43.0%、Cr:15.50〜16.50 %、 Nb:2.30〜3.20%、 Ti:1.50〜1.80%および残部がFeと不可避的不純物からなるインコネル706合金の鋳塊を製造するに際し、凝固時の冷却速度を 1.5℃/min以上としたESR溶解法によるインコネル706合金の製造方法である。
【0008】また、上記インコネル706合金のESR溶解法による鋳塊の凝固組織のデンドライト2次アームスペーシングが 200μm 以下であるインコネル706合金鋳塊である。
【0009】
【発明の実施の形態】ここで、デンドライト2次アームスペーシングとは金属の凝固組織に現れるデンドライト組織のアーム間隔を測定したもので、冷却速度か速くなるとデンドライト2次アームスペーシングが小さくなることが知られており、一定の関係式で表現することができる。また、材料の違いによってもこの関係式は変化し、冷却速度を評価する手段として一般的な指標となっている。
【0010】金属の凝固の際には、液相から固相への変化が起こり、このときにできる固相の形態は様々である。固相の形態は合金組成や凝固条件によっても変化するが、多くの場合、デンドライトと呼ばれる樹枝状の固相が生成される。したがって、液相から固相への遷移過程においては樹枝状の固相とその枝の隙間に液相が共存した状態になる。また、一般に凝固過程では固相から液相に合金成分が押し出されるため、デンドライト樹枝間の液相濃度は初期の成分濃度よりも高い濃度となる。
【0011】この濃度の高い液相が、凝固の進行にともない最終凝固部に向かって濃化した場合や、極端な場合では、ある一部分に集中したりすると、凝固終了時に成分の濃化した領域ができてしまい、鋳塊内部に合金成分の不均一、つまり偏析が生じる。
【0012】したがって、偏析をなくすためには、この合金成分の濃化した液相の移動をできる限り少なくしてやればよいことになる。これには、デンドライトの間隔を狭くすることが効果的であり、樹枝状デンドライトの枝間距離、すなわち、デンドライト2次アームスペーシングが小さければ、結果的に偏析が減ることになる。
【0013】本発明は、凝固時の冷却速度を大きくしてデンドライト2次アームスペーシングを小さくして偏析の少ないインコネル706合金鋳塊を製造するものである。そのためには、凝固時の冷却速度は 1.5℃/min以上とし、より偏析を少なくするためには、冷却速度は 2.5℃/min以上が望ましい。また、鋳塊においては、偏析の少ないインコネル706合金鋳塊としてデンドライト2次アームスペーシングは 200μm 以下とし、より偏析の少ない鋳塊では、デンドライト2次アームスペーシングは 100μm 以下が望ましい。なお、大型の鋳塊を製造する場合には、鋳塊−鋳型間の熱伝達をHeガスやインコネル706合金よりも融点の低い溶融金属を用いた冷却方法を採用することにより本発明に最適な冷却が実現できる。
【0014】
【実施例】ESR溶解法での状況を実際の鋳塊サイズでの溶解で確認することは非常に困難なため、ESR溶解の状況を模擬的に再現するため、一方向凝固実験装置を用いた実験を行なった。一方向凝固実験は様々な凝固過程を模擬する上で最も基本的な実験方法の一つである。溶解した金属を一方向から凝固させることにより、平滑な凝固界面の進行状況を作り出し、基本的な凝固現象を実験的に再現し、凝固過程を確認した。実験は請求項に示した冷却条件を含めた数種類の冷却条件でインコネル706合金を一方向凝固させる試験条件で実施した。
【0015】まず、 Ni:40.0〜43.0%、Cr:15.50〜16.50 %、 Nb:2.30〜3.20%、 Ti:1.50〜1.80%および残部がFeの組成からなるインコネル706合金を30mmφ×80mmの円筒状るつぼ内で溶解し、これをるつぼ下部から冷却することにより所定の冷却条件で溶湯を一方向から凝固させた。このときの冷却条件は表1の通りである。
【0016】
【表1】

【0017】ここで、表1のV (℃/min) は冷却速度、G(deg/mm)は温度勾配、R(mm/min)は凝固界面の移動速度を示し、V=GRの関係が成り立つ。
【0018】表1に示す Ch.No.1-1〜1-4 の各サンプルについて、長手方向に2分割し、分割面を研磨し、研磨面を光学顕微鏡で観察した。研磨面には、デンドライトの樹枝間に液相が満たされていた平らな部分(正常部分)とデンドライトの樹枝状晶が剥き出しになって凹凸になっている部分(欠陥部分)が存在する。この凹凸部分はデンドライト樹枝間の液相が移動し、デンドライトのみが残って凹凸になったものであり、この欠陥部分の面積が大きい場合には液相の移動が起こり易く、偏析が起こり易いことになる。また、欠陥部分の面積が小さい場合には液相の移動が起こり難く、偏析が起こり難いことになる。
【0019】表2に、光学顕微鏡観察面のデンドライト2次アームスペーシング(実施例ではDASと記載)と上記欠陥部分の面積測定結果を示す。表2のDASは各サンプルの観察面における平均値を示し、欠陥率は各サンプルの観察面積に占める欠陥部分の面積を百分率で示したものである。
【0020】
【表2】

【0021】表2の結果をもとに冷却速度とDASとの関係をグラフにしたものが図1である。これを見ると冷却速度が大きくなるとDASが小さくなり、冷却速度が小さくなるとDASが大きくなることがわかる。このように冷却速度とDASとの間には相関関係が存在する。
【0022】また、表2より冷却速度と欠陥率、DASと欠陥率との関係をグラフにしたものを図2、図3に示す。経験上、欠陥率が 2%以下であれば材料として均質であると判定されることから、この条件を満たす冷却速度とDASを図2、3から知ることができる。
【0023】まず、冷却速度と欠陥率との関係についてみると、冷却速度が 1.5℃/min以上であれば欠陥率は 2%以下となる。また、冷却速度が 2.5℃/min以上であれば欠陥率はほぼ 0%となる。次に、DASと欠陥率との関係についてみると、DASが 200μm 以下であれば欠陥率は 2%以下となる。また、DASが 100μm 以下であれば欠陥率はほぼ 0%となる。
【0024】このように、図2の冷却速度と欠陥率、図3のDASと欠陥率との関係からインコネル706合金のESR溶解法において、凝固時の冷却速度を 1.5℃/min以上、望ましくは 2.5℃/min以上の条件で制御するか、あるいは凝固組織のデンドライト2次アームスペーシングを 200μm 以下、望ましくは 100μm 以下にすることにより、偏析のない均質な鋳塊を得ることができる。
【0025】
【発明の効果】以上述べたところから明らかなように本発明のESR溶解法によれば、鋳塊サイズに関わらず、冷却速度または凝固組織のデンドライト2次アームスペーシングを制御することにより偏析のない鋳塊が得られるため、成分の均一な、高温強度に優れ、機械加工性の良いインコネル706合金製品の製造が可能となる。
【出願人】 【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
【出願日】 平成10年9月30日(1998.9.30)
【代理人】 【識別番号】100105692
【弁理士】
【氏名又は名称】明田 莞
【公開番号】 特開2000−102854(P2000−102854A)
【公開日】 平成12年4月11日(2000.4.11)
【出願番号】 特願平10−277715