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【発明の名称】 抗腫瘍剤
【発明者】 【氏名】赤池 孝章

【氏名】前田 浩

【氏名】小川 道雄

【要約】 【課題】腫瘍局所のHO-1を阻害することにより、腫瘍の持つ自己防御システムを破綻させ、腫瘍を酸化的ストレスに対し脆弱となし、もってその増殖を抑制する抗腫瘍剤を提供する。またOH-1阻害作用により、制癌剤や免疫賦活剤などのラジカルによる制癌作用を高める抗腫瘍剤を提供する。

【解決手段】ヘム酸化酵素の阻害剤からなる抗腫瘍剤、特には亜鉛プロトポルフィリン(ZnPP)等金属プロトポルフィリンあるいはその誘導体を有効成分とする抗腫瘍剤。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 生体由来のヘム酸化酵素ヘムオキシゲナーゼの阻害作用をもつ抗腫瘍剤。
【請求項2】 ヘム酸化酵素ヘムオキシゲナーゼの阻害剤である請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項3】 阻害作用の主要組成成分が金属プロトポルフィリン(MPP)である請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、腫瘍のもつ酸化的ストレス抵抗作用を阻害または抑制することによって制癌剤あるいは免疫賦活剤等、宿主が内因性に有する抗腫瘍効果を発揮する薬剤に関する。
【0002】
【従来の技術】ヘムオキシゲナーゼ(heme oxygenase:HO)は、ヘム(heme)を酸化的に分解し、鉄、一酸化炭素(carbon monoxide:CO)、およびビルベルジン(biliverdin)を産生する酵素であり、HO-1と、HO-2の2種類のアイソフォーム(isoforme)が存在することが報告されている(Maines et al.:Proc.Natl. Acad. Sci. USA,71:4293−4297,1974)。また、HO-1は、炎症性サイトカイン、重金属、紫外線、一酸化窒素(nitric oxide:NO)、活性酸素などにより誘導されるストレス蛋白の一種であることも報告されている(Maines et al.:Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol., 37:517−554,1997; Yet et al. ; J. Biol. Chem.,272:4295−4301,1997; Shibahara S. et al.:Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:7865−7869,1985;Takahashi K. et al.: J.Neurochem., 67:482−489, 1996)。
【0003】よって、HO-1は、酸化的ストレスに対して誘導され、生体防御反応に関与していることが考えられる。その抗酸化作用の一つとして、ヘムの分解によって産生されたビルベルジンが、活性酸素種を消去する作用を持つことが報告されている(Maines et al. :Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol., 37:517−554, 1997 ;Kim et al. :J. Biol. Chem., 270: 5710−5713, 1995)。
【0004】以前我々は、ラット腹水肝癌細胞であるAH136Bを用いた実験にて、本腫瘍に浸潤した宿主由来のマクロファージより高濃度の一酸化窒素(NO)が産生されていることを報告した(Doi K. et al. :Cancer, 77:1598―1604, 1996)。ここでNOは、血管透過性の亢進を促進させることにより、腫瘍増殖を促進させる方向へ働いていることを示したが、以前にさまざまな腫瘍細胞において、高濃度のNOは、細胞障害作用を持つことも報告されている(Bastian et al. :J. Biol. Chem.,269:5127−5131, 1994; Hibbs et al. :Biochem. Biophys. Res. Commun., 157:87−94, 1988; Lepoivre M. et al. :J. Biol. Chem., 269: 21891−21897, 1994)。
【0005】そこで我々は、腫瘍局所において、その高濃度のNOに対し何らかの自己防御機構が働いているのではないかと推測し、その一つとしてHO-1に着目し、腫瘍におけるその役割について解析してきた。まず、実験腫瘍AH136B細胞を2×106個を160g雄のドンリュウラット(Donryu rat)の足背の皮下に移植して作成した16日目の固型腫瘍に対し、Nothern blottingおよびWestern blottingを施行し、この腫瘍からHO-1 mRNAおよびタンパクが発現していることを確認し、さらにその酵素活性を測定した。
【0006】また、HO-1 mRNAのantisence probeを用いたin situ hybridizationを施行し、HO-1 mRNAが腫瘍細胞内で発現していることを確認した。さらに、以前、in vitro にてある種の腫瘍細胞においてNO刺激によりHO-1が誘導されることが報告されているが(Takahashi K. et al. : J. Neurochem. ,67:482−489,1996 ;Hara E. et al. :Biochem. Biophys. Res. Commun. ,224:153−158, 1996)、今回我々も、AH136B細胞培養液中に、NO放出剤であるS-nitroso-N-acetyl penicillamine(SNAP)を加え、その後のHO-1 mRNAの発現をNothern blotting にて解析したところ、SNAPの濃度依存性にHO-1 mRNAの発現を強く認めた(図1)。
【0007】よって、NOによる細胞障害作用および、酸化的ストレスに対し、腫瘍細胞よりHO-1が誘導され、腫瘍の生存に寄与していることが示唆された。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】固型腫瘍においては、その高度な細胞増殖により、循環不全による虚血障害を受けやすいだけでなく、好気的エネルギー代謝に伴って生じる酸素ラジカルにより、腫瘍細胞は常に酸化ストレスにさらされているものと思われる。加えて、腫瘍細胞は固型腫瘍局所に浸潤したマクロファージ由来のNOや酸素ラジカル(活性酸素)などの宿主由来の抗腫瘍物質による侵襲にさらされている。そのため、腫瘍組織は何らかの自己防御システムを発現しているものと考えられる。
【0009】我々は、その腫瘍のもつ自己防御システムの発現型の一つとして、HO-1に着目し、腫瘍局所におけるHO-1の発現について解析を行ってきた。よって本発明の目的は、腫瘍局所のHO-1を阻害することにより、腫瘍の持つ酸化ストレス(ラジカル、ショック)などに対する自己防御システムを破綻させ、腫瘍増殖を抑制し、宿主(ヒト)側にとって有利な状況をもたらすことである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、宿主生体由来のヘム酸化酵素の阻害作用を持つ抗腫瘍剤に関する。とくには金属プロトポルフィリン(MPP)、さらには亜鉛プロトポルフィリン(ZnPP)で代表される、ヘム分解酵素[ヘムオキシゲナーゼ]の阻害剤を有効成分とする抗腫瘍剤に関するものである。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明におけるZnPPの抗腫瘍作用に関しては、ラットを用いた動物実験において、固型腫瘍に対し経動脈的にHOの競合阻害剤であるZnPPを投与した場合、腫瘍の増殖が抑制されることにより確認されている。
【0012】ZnPPは、5〜10%のジメチルスルフォキサイド(dimethyl sulfoxide :DMSO)溶液もしくは、弱アルカリ溶液に可溶であり、さらにリポソーム化、リピッドマイクロスフィアへの溶解も可能であり、これらの経動脈および静脈投与が可能である。また、ポリ乳酸マイクロスフィア溶液とした場合は、経動脈投与が可能である。さらに、低毒性量を含有する組成物の形で経口投与も可能である。
【0013】ZnPPは分子量626.04のメタロポルフィリン(MPP)であり、プロトポルフィリンのピロール環の窒素原子にZnイオンが結合した構造の複合体である。既にin vitro およびin vivoの実験にて、HO活性を抑制することが報告されている(Shaw−Fang Y. et al. :J. Biol. Chem. , 272:4295−4301,1997 ;Suematsu M. et al.:J. Clin. Invest. ,96:2431−2437, 1995)。一般にはIX型プロトポルフィリンの複合体の入手が容易であるが、もちろん他の異性体の複合体であってもよい。
【0014】また、ZnPPに限らず、錫プロトポルフィリン(SnPP)、クロムプロトポルフィリン(CrPP)、マンガンプロトポルフィリン(MnPP)も強いHO阻害作用をもつことが報告されている(Drummond :Ann. N. Y. Aca. Sci. ,514:87−95, 1987)ので、ZnPP以外の他の金属のプロトポルフィリンも同様の抗腫瘍効果が容易に期待できる。 また水、油等への溶解性改良之目的のために、側鎖にエステル基、水酸基、カルボキシル基などを付与した誘導体も同様に使用できる。
【0015】
【実施例】[実施例1](ZnPPのHO阻害活性)
ZnPPの5〜10%濃度のDMSO溶液を調製した。
【0016】160g雄のドンリュウラット(Donryu rat)の足背に、AH136B腫瘍細胞を2×106個皮下注して作成した16日目の固型腫瘍および、同ラットの肝臓、脾臓を採取し、10倍量のホモジネートバッファー(0.25M sucrose,20mM potassium phosphate buffer (pH7.4),2mM EDTA,2mM PMSF,10μg/ml leupeptin)を加え、氷冷にてポリトロンホモジナイザーを用いホモジナイズした。4℃10,000×gにて30分間遠心分離した上清を、さらに4℃105,000×gにて60分間遠心分離して得られた沈殿物をミクロソーム画分とし、これに100mMのpotassiumphosphate buffer(pH7.4)を加え4℃にて2秒間ソニケーションを行った。
【0017】反応液は、タンパク量1〜3mgのミクロソーム画分、ビリベルジンリダクターゼの供給源として正常肝のタンパク量3mgのサイトゾール画分、ヘミン33μM、NADPH333μM、50mM potssium phosphate buffer(pH7.4)を総量3mlとなるように調整した。このとき、タンパク量の測定はローリー法により行った。この反応液を37℃にて15分間反応させた後、0.01M HClを0.1ml加え反応を停止させた。その後、等量のクロロホルムにて産生されたビリルビンを抽出し、分光光度計にてビリルビンの濃度を測定した。モル吸光度係数を50mM-1cm-1とし、465nmと530nmの吸光度の差をもってビリルビン濃度を算出した。
【0018】その結果、腫瘍、肝臓、脾臓のHO活性は、それぞれ5.254、2.057、5.369(nmolbilirubin/mg protein/h)であり、腫瘍と肝臓の間に有意差を認めた。さらに、ZnPPのHO抑制効果を見るために、反応液にミクロソーム画分タンパク1mgあたり、15および30μMのZnPPを加え、同様にHO活性を測定したところ、いずれの組織おいても高度の抑制を認め、15μモル/mgにおいては平均7.5%、30μモル/mgにおいては平均5.1%まで活性が抑制された(図2)。
【0019】[実施例2] (ZnPPの腫瘍増殖抑制効果)
160g雄のドンリュウラット(Donryu rat)の足背に、AH136B腫瘍細胞を2×106個皮下注して作成した7日目の固型腫瘍に対し、ラットをジエチルエーテル麻酔下に開腹し、腫瘍反対側の総腸骨動脈より外径1.0mmのポリエチレンカテーテル(Clay Adams社)をその先端が大動脈分岐部に達するように挿入固定し、ZnPP溶液(5%DMSO溶液)を腫瘍の栄養動脈を介して腫瘍局所へ注入した。ZnPPはひとつの腫瘍に対し、100μg/200μlずつ、また、コントロール群には5%DMSO溶液を200μlずつ投与した。腫瘍サイズの計測は(a×b2)π/6(a:腫瘍縦径、b:腫瘍横径)を用いて算出し、動注時の容積を100%としてその経時的変化を比較検討した。統計学的分析はStudent's t testにて行い、P<0.05をもって有意差ありと判定した。
【0020】その結果、コントロール群においては動注前と同様に腫瘍の増大傾向を認めたにもかかわらず、ZnPP投与群においてはほぼ完全に腫瘍の増大が抑えられ、動注後3日目以降は両群間に有意差を認めた(図3)。しかし、全経過を通じて両群間に体重変化や活動性の差異は認められず、今回の投与量(1.0μモル/kg)においては全身的な毒性は少ないものと考えられた。また、ZnPP投与後1日目および7日目の腫瘍のHO活性を測定したところ、投与後1日目においてZnPP投与群で有意にHO活性の低下を認めた(図3)。
【0021】
【発明の効果】本発明は、今後ZnPPをはじめとするHO阻害剤の固型癌に対する抗腫瘍剤としての応用の可能性を示唆するものである。さらに我々は、各種制癌剤の投与により、HO-1の誘導がもたらされ、これが薬剤耐性化の一因となっていることを示す知見も得ており、HO-1を標的とした化学療法が固型腫瘍に対する普遍的治療法になり得るものと考える。また、多くの制癌剤や免疫賦活剤の作用はフリーラジカル(NO、スパーオキサイド、H2O2、その他)の発生により抗腫瘍効果を発揮すると考えられている。これに対して、腫瘍組織でのHO-1の誘導は、これらの抗癌剤のラジカルによる抗腫瘍作用を減弱する訳で、このHO-1の阻害剤でそれを抑制阻害できれば、制癌作用を高めるものといえる。
【出願人】 【識別番号】000201320
【氏名又は名称】前田 浩
【出願日】 平成11年1月28日(1999.1.28)
【代理人】 【識別番号】100070493
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和 (外1名)
【公開番号】 特開2000−219627(P2000−219627A)
【公開日】 平成12年8月8日(2000.8.8)
【出願番号】 特願平11−19769