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【発明の名称】 人工心臓弁
【発明者】 【氏名】小塚 裕

【要約】 【課題】従来の人工心臓弁は、患者の弁輪と人工心臓弁の縫合弁座との間隙ができる可能性が高く、この間隙において人工心臓弁周囲逆流が発生し、手術後に人工心臓弁心内膜炎、溶血性貧血、腎不全、心不全などの合併症を生じる危険性があるという課題があった。

【解決手段】弁葉および縫合弁座を有する人工心臓弁において、縫合弁座の少なくとも一部に高吸水性ポリマーを使用し、上記高吸水性ポリマーが血液中の水分を吸収して膨潤することにより、患者の弁輪と人工心臓弁の縫合弁座との間隙を消失させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 弁葉および縫合弁座を有する人工心臓弁において、上記縫合弁座の少なくとも一部に高吸水性ポリマーを使用し、上記高吸水性ポリマーが血液中の水分を吸収して膨潤することを特徴とする人工心臓弁。
【請求項2】 縫合弁座にあらかじめ抗生物質含有溶液を吸収させ、上記縫合弁座が移植後に血液中の水分を吸収することによって抗生物質が徐々に溶出可能に構成したことを特徴とする請求項1記載の人工心臓弁。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、心臓の弁が変性、または石灰化して機能不全を起こした心臓弁膜症の患者に弁置換手術を行う際に使用する人工心臓弁に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図4は従来の心臓弁膜症の患者に対して弁置換手術を行う際に使用されてきた人工心臓弁41を示す斜視図であり、図において、42は開閉可能に形成され、血液の流れを一方向に整える弁葉、43はこの弁葉42を支持する弁葉支持部である。44は弁葉支持部43を取り付ける弁口リングである。弁葉42、弁葉支持部43及び弁口リング44は耐久性の高い熱分解炭素からできている。45は縫合弁座であり、悪くなった弁を切除した患者の弁残部(以下、弁輪という)に人工心臓弁を縫合するためのもので、一般的に不活性で血液の付着による血栓が生成しにくいポリエステル、テフロンなどによって形成される。
【0003】次に使用方法として人工心臓弁の移植操作について説明する。まず、心臓弁膜症患者の心臓弁の疾患部位を切除する。次に弁輪のサイズを測定する器具であるサイザーによって、最適のサイズの人工心臓弁を選択する。選択された最適のサイズの人工心臓弁を単結節縫合あるいはマットレス縫合等の方法で弁輪に縫着して移植を完了する。
【0004】人工心臓弁を移植した部位の断面図を図3に示す。図3において図4と同一または相当の部分については同一の符号を付し説明を省略する。図3において、31は弁輪、32は心臓の心室壁、33は心臓につながる血管の脈壁である。通常、縫合弁座45は、弁輪31を覆うように縫着されるので縫合弁座45と弁輪31との間には間隙が生じないはずである。しかし、生体内の弁の形状は完全な円形でなく患者によって形状が異なるために人工心臓弁の形状が合わなかったり、縫合操作時に縫着部位がゆがんでしまったり、さらに患者の弁輪に硬化あるいは石灰化が存在したりすると、縫合弁座45と弁輪31との間に間隙34が生じることがあった。
【0005】従来、前述の縫合弁座45と弁輪31との間隙34を生じないようにするため、縫合弁座45を厚くして縫合弁座の弾力性を上げていた。しかし、縫合弁座45の弾力性を上げると、必然的に縫合弁座が大きくなり、相対的なサイズを合わせると弁口部分が小さくなるため、人工心臓弁の有効弁口面積が相対的に小さくなってしまい、弁における圧較差が増大して血行動態が悪くなるという欠点があった。
【0006】また、従来の人工心臓弁は感染に弱いため、移植後に人工心臓弁心内膜炎を生じることがあった。これを予防するため人工心臓弁の縫着前に人工心臓弁を抗生物質の溶液内に浸す等の試みがなされてきた。しかし、抗生物質がすぐに血液内に流出してしまうため、有効性はほとんど確認できなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】従来の人工心臓弁は上記のように構成されているので、患者の弁輪と人工心臓弁の縫合弁座との間隙ができる可能性が高く、間隙が存在すると人工心臓弁周囲逆流が発生し、手術後に人工心臓弁心内膜炎、溶血性貧血、腎不全、心不全などの合併症を生じる危険性があるという課題があった。
【0008】また、この患者の弁輪と人工心臓弁の縫合弁座との間隙の発生を防ぐために縫合弁座が弾力性に富んだ人工心臓弁を使用していたが、構造上有効弁口面積が小さくなり、弁における圧較差が増大して血行動態が悪くなるという課題があった。
【0009】さらに、従来の人工心臓弁は感染に弱いため、移植後に人工心臓弁心内膜炎を生じることがあったが、これを予防するための有効な方法がないという課題があった。
【0010】この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、弁葉および縫合弁座を有する人工心臓弁において、縫合弁座の少なくとも一部に高吸水性ポリマーを使用したことにより、縫着時には小さな縫合弁座であるので有効弁口面積を小さくすることがなく、縫着後に高吸水性ポリマーが血液中の水分を吸収して膨潤することによって患者の弁輪と縫合弁座との間隙を閉鎖消失させる人工心臓弁を得ることを目的とする。
【0011】また、この発明は、縫合弁座にあらかじめ抗生物質含有溶液を吸収させておき、縫合弁座による血液中の水分の吸収によって抗生物質が徐々に溶出することから手術後の人工心臓弁心内膜炎の発病を予防することができる人工心臓弁を得ることを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】この発明に係る人工心臓弁は、弁葉および縫合弁座を有する人工心臓弁において、縫合弁座の少なくとも一部に高吸水性ポリマーを使用し、上記高吸水性ポリマーが血液中の水分を吸収して膨潤することを特徴とするものである。
【0013】この発明に係る人工心臓弁は、縫合弁座にあらかじめ抗生物質含有溶液を吸収させ、上記縫合弁座が移植後に血液中の水分を吸収することによって抗生物質が徐々に溶出可能に構成したことを特徴とするものである。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、この発明の実施の一形態を説明する。
実施の形態1.図1は、実施の一形態による人工心臓弁の断面図である。図において、1は人工心臓弁、2は弁葉、3は弁葉2を支持する弁葉支持部、4は弁葉支持部3を取り付ける弁口リングである。5は高吸水性ポリマー6を内蔵した縫合弁座である。6は高吸水性ポリマー、7は移植操作中に縫合弁座内の高吸水性ポリマー6が、ただちに水分を吸収することを防止するための被覆布であって、この被覆布7によって、予定しているスピードで水分を吸収できるように調整できる。高吸水性ポリマー6は、文献(高分子新素材 One Point 4、高吸水性ポリマー(共立出版、増田 房義著、1997年6月1日初版9刷発行))記載のポリアクリル酸塩系、イソブチレン/マレイン酸系、デンプン/ポリアクリル酸系、ポリビニルアルコール/ポリアクリル酸塩系、橋かけポリビニルアルコール系、橋かけカルボキシメチルセルロース、アクリル繊維の加水分解系などの高吸水性ポリマーを用いる。
【0015】また、高吸水性ポリマーは、生理食塩水を吸収するものが好ましく、生理食塩水の吸水による膨潤度(重量比)が5倍以上、さらに10倍以上、特に20倍以上、または5〜500倍の範囲、さらに10〜200倍、特に20〜100倍の範囲を有することが望ましい。
【0016】高吸水性ポリマー6は粉末状、細粒状、繊維状、布状、フィルム状、紐状、板状などの形状のものを用いることができる。特に、繊維状、布状、フィルム状、紐状のものは、膨潤したときの形状が均一であるため望ましい。縫合弁座5に上記高吸水性ポリマー6を内蔵する場合は、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂繊維または、熱可塑性樹脂繊維以外の繊維に絡めたり、上記高吸水性ポリマー6を溶解または、分散させた溶液を縫合弁座5の材質に塗布や含浸させて内蔵させる。なお、高吸水性ポリマーの強度及び耐久性を向上させ、高吸水性ポリマー6により縫合弁座5を作成してもよい。以上のように、縫合弁座5の少なくとも一部に高吸水性ポリマー6を使用することが特徴である。
【0017】被覆布7は従来の縫合弁座5に使用されているポリエステルシートあるいはテフロンシートなどがあげられ、移植操作中に高吸水性ポリマー6が吸水して膨潤するのを防ぐため、その織り方や厚さを調節することで、水分の透過性を小さくしてあることが望ましい。また、この他に人体内で無害であり、耐久性に優れたものであれば天然繊維製の布であってもよい。
【0018】また、高吸水性ポリマー6が吸水して膨潤するまでの時間を調節することができるものが望ましいので、被覆布7もしくは縫合弁座5に内蔵した高吸水性ポリマー6をグルコースやコラーゲンなどの血液内で無毒性の物質によってコーティングし、そのコーティングの厚さなどを調節することにより移植操作後コーティング物質が溶けだして、高吸水性ポリマー6が吸水し始める時間を調節することができるようにしてもよい。
【0019】さらに、被覆布7は高吸水性ポリマー6が膨潤して効果的に縫合弁座と弁輪との間隙を埋めるために十分な伸縮性を有しているものが望ましい。
【0020】さらに、移植操作や洗浄時に縫合弁座5が濡れることを防ぐために、縫合弁座5の全体をプラスチック等のカバーで被覆していてもよい。
【0021】人工心臓弁の弁の部分は、全くの機械加工から作成された弁(以下、機械弁という)を用いる他、豚などの心臓から摘出する生体由来の素材である弁(以下、生体弁という)を用いてもよい。
【0022】次に動作について説明する。図2はこの発明の実施の形態1による人工心臓弁を移植した部位の断面図である。移植直後の縫合弁座5は水分の透過性を小さくした被覆布7によって急激な水分の吸収がないので体積が小さい。これより患者の弁輪21と縫合弁座5との間に間隙23が生じている場合がある(図2(a))。移植操作が終了し、移植部位への血流の遮断を解除すると血液が流れ始め、被覆布7を介して高吸水性ポリマー6が血液中の水分を吸収して縫合弁座5が膨潤し、患者の弁輪21と縫合弁座5との間隙23が消失する(図2(b))。
【0023】以上のように、この実施の形態1によれば、人工心臓弁の縫合弁座5に高吸水性ポリマー6を内蔵するため、縫合弁座5の少なくとも一部に高吸水性ポリマー6を使用したので、高吸水性ポリマー6が血液中の水分を吸収して膨潤することによって患者の弁輪21と縫合弁座5との間隙23が消失するため、人工心臓弁周囲逆流が発生を予防する効果を得ることができる。
【0024】また、この実施の形態1によれば、縫着時には小さな縫合弁座であるので有効弁口面積を小さくすることがないので、弁付近における圧較差が少ないという効果を得ることができる。
【0025】実施の形態2.実施の形態2による人工心臓弁は、実施の形態1による人工心臓弁の高吸水性ポリマー6の内蔵量を調節して、あらかじめ抗生物質含有溶液を吸収させておくことで、高吸水性ポリマー6が血液中の水分を吸収し、その保水効果から移植後に抗生物質が徐々に溶出するようにしたものである。
【0026】以上のように、実施の形態2によれば、縫合弁座に含有させた抗生物質が移植操作中もしくは移植操作後ただちに血液中に流出することがなく、高吸水性ポリマー6の保水効果から抗生物質が徐々に溶出するので、術後の人工心臓弁心内膜炎の発病を予防することができる効果が得られる。
【0027】
【発明の効果】以上のように、この発明によれば、弁葉および縫合弁座を有する人工心臓弁の縫合弁座の少なくとも一部に高吸水性ポリマーを使用することにより、縫着時には小さな縫合弁座であるので有効弁口面積を小さくすることがなく、縫着後に高吸水性ポリマーが血液中の水分を吸収して膨潤することによって患者の弁輪と縫合弁座との間隙を閉鎖消失させることができるという効果がある。
【0028】この発明によれば、縫合弁座にあらかじめ抗生物質含有溶液を吸収させ、上記縫合弁座が移植後に血液中の水分を吸収することによって抗生物質が徐々に溶出可能に構成したことにより、移植操作中もしくは移植操作後ただちに血液中に抗生物質が流出することがなく、手術後の人工心臓弁心内膜炎の発病を予防することができるという効果がある。
【出願人】 【識別番号】391042014
【氏名又は名称】株式会社ゲッツブラザーズ
【出願日】 平成10年7月24日(1998.7.24)
【代理人】 【識別番号】100066474
【弁理士】
【氏名又は名称】田澤 博昭 (外1名)
【公開番号】 特開2000−37403(P2000−37403A)
【公開日】 平成12年2月8日(2000.2.8)
【出願番号】 特願平10−210035