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【発明の名称】 昆虫幼虫の着色方法および着色昆虫幼虫
【発明者】 【氏名】山崎 泰正

【氏名】田村 正啓

【氏名】宇佐美 昭宏

【氏名】渡部 仁

【要約】 【課題】渓流魚などの釣り餌として用いることのできる昆虫幼虫について、有効に昆虫に影響を与えることなく着色できる手段を開発し、任意の色に着色した昆虫幼虫を提供すること。

【解決手段】昆虫幼虫に油溶性染料を含む飼料を摂取させること特徴とする昆虫幼虫の着色方法およびこの方法により得られた着色昆虫幼虫。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 昆虫幼虫に油溶性染料を含む飼料を摂取させること特徴とする昆虫幼虫の着色方法。
【請求項2】 油溶性染料が、バター・イエロー、ズダン・オレンジ、FD&CイエローNo.4、FD&CレッドNo.32、ズダン・ブラウンR、ズダン・レッド(ズダンIII)、ズダン・レッドBB(ズダンIV)、ズダン・ブラックB、ズダン・レッド3R、ズダン・バイオレットR、ズダン・ブルーGL、ズダン・グリーンBB、p−アミノアゾベンゼンから選ばれたものである請求項第1項記載の昆虫幼虫の着色方法。
【請求項3】 昆虫幼虫がハチミツガ類昆虫の幼虫である請求項第1項または第2項記載の昆虫幼虫の着色方法。
【請求項4】 請求項第1項ないし第3項の何れかの項記載の方法により着色された着色昆虫幼虫。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、昆虫幼虫の着色方法に関し、更に詳細には、釣り餌等に用いられる昆虫幼虫の体色を体内から変化させる昆虫幼虫の着色方法に関する。
【0002】
【従来の技術】渓流魚などの釣り餌には、赤い体色をした昆虫幼虫が好まれるため、現在提供されている昆虫幼虫釣り餌についても、その体色を白から赤等任意の色に着色させる要望があった。
【0003】釣り餌用昆虫幼虫のうち、ワカサギ釣りなどに餌として使用されるサシ(ハエの幼虫)については、食紅を用いる着色方法が確立されており、紅サシとして販売されている。
【0004】しかし、渓流釣りに広く使用されているハチミツガ(Galleria mellonela)の幼虫については、紅サシで確立した着色方法ではほとんど着色させることができず、着色したとしても関節部が縞状に一部着色できる程度であった。
【0005】ところで、カイコでは桑葉中のフラボノイド系やカロチノイド系の色素により繭が黄色や緑色、笹色に着色されることが知られている。これは、桑葉中に由来する色素が腸から吸収され体液中に入り、絹糸腺へと移行していることによることが、明らかにされている(藤本ら,1972;中島,1963;浜野ら,1989)。しかしこの手段では、カイコ自体の体表が着色されるわけではなく、昆虫幼虫の着色方法としては全く不十分なものであった。
【0006】更に、例えば釣り餌用の昆虫幼虫では、単に着色するだけなく着色された後も着色されていない昆虫幼虫と同じ様に生存、活動することも要求されており、着色法が昆虫幼虫に影響を与えないものであることも求められている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】従って、渓流魚などの釣り餌として用いることのできる昆虫幼虫について、有効に昆虫に影響を与えることなく着色できる手段を開発し、任意の色に着色した昆虫幼虫の提供が求められており、本発明はこのような要望を解決するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者は、前記カイコ体組織中へ色素が吸収され、移行するとの知見をもとに、種々の色素について、昆虫幼虫に摂取させた場合の着色性や安全性について検討した結果、油溶性染料は昆虫幼虫自体に影響を及ぼすことなく表面近くの脂肪組織に移行し、昆虫幼虫を内部から着色させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】すなわち本発明は、昆虫幼虫に油溶性染料を含む飼料を摂取させること特徴とする昆虫幼虫の着色方法およびこの方法により得られた着色昆虫幼虫を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明において、着色される昆虫幼虫は、体表面近くにある程度の脂肪組織が存在するものであれば、特に制限ないが、好ましいものとしては、ヅヅリガ亜科のガレリア・メロネラ(Galleria mellonela)、アクロイア・グリセラ(Achroia grisella)等のワックスワームと称せされるハチミツガ類が挙げられる。
【0011】また、本発明で使用する染料としては、油溶性染料が用いられる。具体的な油溶性染料の例としては、バター・イエロー、ズダン(Sudan)・オレンジ、FD&CイエローNo.4、FD&CレッドNo.32、ズダン・ブラウンR、ズダン・レッド(ズダンIII)、ズダン・レッドBB(ズダンIV)、ズダン・ブラックB、ズダン・レッド3R、ズダン・バイオレットR、ズダン・ブルーGL、ズダン・グリーンBB、p−アミノアゾベンゼン等が挙げられる。
【0012】上記油溶性染料は、昆虫幼虫の飼料に混ぜ、経口的に摂取させることが好ましい。より具体的には、飼料中の油脂成分に上記油溶性成分を溶解せしめ、これを他の飼料成分と混合し、昆虫幼虫に摂取させればよい。
【0013】油溶性染料の飼料全体に対する油溶性染料の割合は、0.001〜0.5%程度、好ましくは0.01〜0.2%程度である。また、昆虫幼虫に対する油溶性染料の摂取期間は、着色させるべき昆虫幼虫の種類により相違するが、例えばハチミツガの場合であれば、幼虫の生育時期において、5齢期から6齢期程度の期間とすればよい。
【0014】以上のようにして昆虫幼虫を着色させることができるが、この着色昆虫幼虫は、後記実施例に示すとおり、着色しない昆虫幼虫と同様の生存率および羽化率を示し、着色処理が昆虫幼虫に対し特別に影響を与えないことが明らかとなっている。これは、油溶性染料が飼料中の脂肪分に溶解し、大部分が生体活動に用いられないまま体表面近くの脂肪組織に蓄積されるためと解される。
【0015】
【発明の効果】現在、渓流釣りの餌としてハチミツガの幼虫が用いられているが、これは体色の灰色のものと白いもののみが市販されている。しかし、本発明によれば、この幼虫を赤色や黄色、青色等に着色することができ、釣果を高める釣り餌として利用することができる。また、これのみに限らず、着色幼虫はペット用の飼料や教材としての利用が期待される。
【0016】
【実施例】次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0017】実 施 例 1昆虫幼虫の着色試験(外見):ハチミツガ幼虫に各種染料を摂取させ、その体表の着色状態を調べた。試験に用いるハチミツガ幼虫は、片倉工業株式会社生物科学研究所で育成している幼虫体色の白い系統のものを用いた。体表の着色状態は目視により観察した。
【0018】試験は、上記ハチミツガの終齢幼虫を30℃全暗のコンテナ中で飼育し、人工飼料(トウモロコシ粉22%、小麦粉22%、ドライミルク11%、乾燥酵母5.5%、蜜蝋17.5%、蜂蜜11%、グリセリン11%)はWiesner(1992)に下記表1の色素を0.1%或いは0.01%の割合で混合した飼料を摂取させた。
【0019】油溶性色素を添加した飼料の調製は、蜜蝋を加熱溶解した蜜蝋に色素を入れ、混合して着色蜜蝋を調整し、これに蜂蜜とグリセリンを加え約95℃に加熱した後、トウモロコシ粉と小麦粉、ドライミルクを加え、再び飼料温度が95℃となるまで加熱攪拌を継続し、最後に冷却することにより調製した。水溶性色素を添加した飼料は、色素を予め蜂蜜中に混合したことを除いて前記の油溶性色素の飼料調製に準じて行った。調製された大半の飼料は色素により均一に濃く染まったが、アニリン水溶性とアニリンアルコール溶性で調整された飼料はあまり濃く染まらなかった。
【0020】( 結 果 )
【表1】

【0021】表1の結果から明らかなように、ハチミツガ幼虫は番号1〜7の色素を添加した飼料(1〜7)の摂食後約1〜2日で着色した。ズダンIとズダンIIでは淡い橙色に、ズダンIIIとズダンIVでは桃色に、ズダンブラックBとソルベント ブルー35では青色に、p−アミノアゾベンゼンでは黄色に染色された。しかし、番号8〜18の色素を添加した試料を摂取した場合は着色しなかった。
【0022】ハチミツガ幼虫を染色させた色素は全て蜜蝋に溶解する色素(油溶性染料)だった。これら色素の中ではズダンIIIが最も染まり易く、その他の色素ではやや染まりにくいように思われた。これは色素が幼虫の飼料への喰い付きに影響を与え、摂食量に差が出た可能性が考えられる。
【0023】実 施 例 2昆虫幼虫の着色試験(組織内):実施例1で着色が認められたズダンIIIとp−アミノアゾベンゼンで染色されたハチミツガ幼虫について、その体液の着色状態を日立U−2000を用いる波長スキャンで調べた。なお、波長スキャンに当たって、幼虫体液試料は原液を、ズダンIIIとp−アミノアゾベンゼンはアルコールに溶解し、測定した。結果は、図1に示すとおりであり、図2のズダンIIIの波長スキャン、図3のp−アミノアゾベンゼンの波長スキャンの結果との対比から、各幼虫の体液中に染料がとりこまれたことが明かとなった。
【0024】また、着色が認められた幼虫の脂肪体を解剖により観察した結果、脂肪体にも色素が透過していることが分かった。これらの結果より、色素が摂食され腸管内に入った後腸組織を通過し、体液と脂肪体中に入ることによって、幼虫が着色されたものと思われた。なお、着色された幼虫に再び色素を含まない飼料を摂食させると幼虫体色は次第に淡くなり、体外に排泄されることが認められた。
【0025】一方、水溶性の色素を摂食した幼虫では腸管内部に色が認められたが、内容物が排泄されると、元の固有の体色に戻った。体液及び脂肪体も通常の飼料を摂食させたものと変わらなかった。この結果から、水溶性の色素は腸組織を通過し、体液、脂肪体へと移行することができないと判断された。
【0026】実 施 例 3着色昆虫幼虫の生育性試験:実施例1の人工飼料(基本飼料)と、これにズダンIIIを0.1%添加した試料(着色飼料)とを用い、ハチミツガ幼虫50匹をそれぞれ孵化後から22日間飼育し、幼虫として経過する日数、飼育20日後の幼虫体重、健康な幼虫の割合(健幼虫率)および最終的な羽化数を調べた。この結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】表2から明らかなように、ハチミツガ幼虫はズダンIIIの入った飼料を摂取しても以降順調に生育し、色素の入っていない飼料を摂取した幼虫と同様に化蛹、羽化したことから、本発明着色方法で用いる色素は毒性をほとんど示さないと判断される。
【出願人】 【識別番号】591048520
【氏名又は名称】片倉工業株式会社
【出願日】 平成11年4月28日(1999.4.28)
【代理人】 【識別番号】100086324
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 信夫
【公開番号】 特開2000−308434(P2000−308434A)
【公開日】 平成12年11月7日(2000.11.7)
【出願番号】 特願平11−121472