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【発明の名称】 定植用里芋苗の増殖育成方法
【発明者】 【氏名】柴橋 輝夫

【氏名】広野 直芳

【氏名】五十鈴川 寛司

【氏名】松田 成美

【氏名】山川 隆平

【氏名】土屋 光春

【氏名】佐藤 寧

【氏名】大木 淳

【要約】 【課題】気候的な条件で収穫期が遅くなってしまう里芋が、他の温暖な地域から出回り始める時期に対抗して、本格的な収穫期である十月期以前に収穫、供給できる定植用里芋苗の新規な増殖育成方法。

【解決手段】里芋生長点を無菌状態で摘出して茎頂培養することにより、1生長点からウイルスフリー化した多芽体の塊茎を多数育成、増殖した上、それら多芽体の塊茎を培養室から取り出して再び1個ずつに分割し、用土の充填されたセルトレイの各セル毎に各々1個ずつの塊茎を浅植えで直接用土に植え付け、温床トンネル内において、セルトレイ毎、底面吸水による水分管理と所定の温度管理とを所定期間実施し、里芋塊茎の発根を促進してから徐々に外気に馴化させて定植条件に慣らした後、完全に温床トンネルを外し、適宜灌水管理をしながら定植苗にまで育成するようにした定植用里芋苗の増殖育成方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 里芋生長点を無菌状態で摘出して茎頂培養することにより、1生長点からウイルスフリー化した多芽体を多数育成、増殖した上、それら個々の多芽体を塊茎毎に分割し、当該塊茎1個ずつを、無菌培養状態から解放した環境下にあり、底面吸水可能な置床用容器内の用土に浅植え状に直接植え付け、温度、光量管理可能な施設内において、植え付けられた容器毎、底面給水による水分管理と温度管理、光量管理とを所定期間実施して里芋塊茎からの発根を促進した後、徐々に外気に馴化させながら定植苗にまで生育するようにしたことを特徴とする定植用里芋苗の増殖育成方法。置床【請求項2】 里芋生長点を無菌状態で摘出して茎頂培養することにより、1生長点からウイルスフリー化した多芽体を多数育成、増殖した上、それら個々の多芽体を塊茎毎に分割し、当該塊茎1個ずつを、無菌培養状態から解放した環境下にある用土の充填されたセルトレイの各セル毎に浅植え状として直接用土に植え付け、温度、光量管理可能な施設内において、植え付けられたセルトレイ毎、底面給水による水分管理と温度管理、光量管理とを所定期間実施して里芋塊茎からの発根を促進した後、徐々に外気に馴化させながら定植苗にまで育成するようにしたことを特徴とする定植用里芋苗の増殖育成方法。
【請求項3】 里芋生長点を無菌状態で摘出して茎頂培養することにより、1生長点からウイルスフリー化した多芽体を多数育成、増殖した上、それら個々の多芽体を塊茎毎に分割し、当該塊茎1個ずつを、無菌培養状態から解放した環境下にある用土の充填されたセルトレイの各セル毎に浅植え状として直接用土に植え付け、温床トンネル内において、植え付けられたセルトレイ毎、底面給水による水分管理と温度管理、光量管理とを所定期間実施して里芋塊茎からの発根を促進した後、徐々に外気に馴化させる管理を終えてから、完全に温床トンネルを外し、適宜灌水管理をしながら定植苗にまで育成するようにしたことを特徴とする定植用里芋苗の増殖育成方法。
【請求項4】 里芋生長点を無菌状態で摘出して茎頂培養し、ウイルスフリー化した多芽体を得た上、その多芽体の塊茎を1個ずつに分割してから再び無菌培養し、それら分割育成した多芽体を更に増殖することにより、1生長点から多芽体を多数育成、増殖するようにした工程、前記工程から得た多芽体を1塊茎毎に分割し、それらの1個ずつを、無菌培養状態から解放した環境下にある用土の充填されたセルトレイの各セル内に、その生長点が埋もれてしまわない浅植え状として直接用土に植え付けてしまう工程、植え付けられたセルトレイ毎、底面給水可能とする給水容器内にセットした上、温度、光量と水分等の管理下で密閉状の温床トンネル内に所定期間設置しておき、里芋塊茎からの発根を促進する工程、その後、温床トンネルの密閉状態を徐々に解除していき、所定期間に渡って温度管理、光量管理と給水管理とを続けながら茎葉を徐々に外気に馴化させる工程、完全に温床トンネルを外し、適宜灌水管理をしながら定植苗にまで育成する工程、以上の工程からなることを特徴とする定植用里芋苗の増殖育成方法。
【請求項5】 里芋生長点を無菌状態で摘出して茎頂培養し、ウイルスフリー化した多芽体を得た上、その多芽体の塊茎を1個ずつに分割してから再び無菌培養し、それら分割育成した多芽体を更に増殖することにより、1生長点から多芽体を多数育成、増殖するようにした工程、前記工程から得た多芽体を1塊茎毎に分割し、それらの1個ずつを、無菌培養状態から解放した環境下にある用土の充填されたセルトレイの各セル内に、その生長点が埋もれてしまわない浅植え状として直接用土に植え付けてしまう工程、植え付けられたセルトレイ毎、底面給水可能とする給水容器内にセットした上、パイプハウス内に用意した密閉状の温床トンネル内に設置して25〜30℃程度の温度管理と光量管理、給水管理下で約2週間程度育成し、里芋塊茎からの発根を促進する工程、その後、温床トンネルの密閉状態を徐々に解除していき、所定期間に渡って20〜25℃程度の温度管理と光量管理、給水管理とを続けながら茎葉を徐々に外気に馴化させる工程、完全に温床トンネルを外し、適宜灌水管理をしながら定植苗にまで育成する工程、以上の工程からなることを特徴とする定植用里芋苗の増殖育成方法。
【請求項6】 茎頂培養によってウイルスフリー化され、1生長点から多数の多芽体とした後、培養室から取り出して再び1個ずつに分割した上、置床用容器内の用土に、各塊茎を、その生長点が埋もれてしまわない浅植えで直接用土に植え付けてしまう工程において、その次の工程で塊茎からの発根がより促進されるよう、1個ずつに分割されて植え付けられる塊茎から葉と根とを取り除き、塊茎と葉柄とからなる状態にして用土中に挿し芽の要領で浅植えしてくようにした、請求項1ないし5何れか記載の定植用里芋苗の増殖育成方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の目的】この発明は、東北地方、特に山形県を中心とした地域の初秋の風物詩ともなっている「芋煮会」、即ち、河原等の屋外に大釜を用意し、薪を燃料にして大鍋一杯に、里芋をはじめ、コンニャク、ネギ、人参等といった好みの具に牛肉あるいは豚肉を加え、醤油仕立てまたは味噌仕立てで煮込み汁風に仕上げ、飲み食いしながら親しい人々との親睦を深め、秋晴れの下で自然を満喫するという行楽行事において、醤油仕立てでも味噌仕立てでも欠くことのできない収穫したての大量の里芋を、気候的な条件で収穫期が遅くなってしまう「芋煮会」の本場の地においても、地場産の新鮮な里芋としてその時期に間に合わせて生産、供給できるようにする同時に、「芋煮会」以外の使用で秋の味覚としての里芋の全国的な需要に対しても、他の温暖な地域から出回り始める時期に対抗して、従前からの栽培方法では出遅れとなってしまう東北地方の本格的な収穫期である十月期以前に収穫、供給できるようにし、当地の栽培農家が供給単価の面でも有利な里芋栽培が可能になるようにする、定植用里芋苗の新規な増殖育成方法を提供しようとするものである。
【0002】
【従来技術】東北地方で生産される各種農産園芸物は、その気候条件に合った固有の収穫物、例えばリンゴやサクランボに代表されるような果実類をはじめ、カラシ菜、青菜、紅花等といった葉菜類等特定の収穫物だけに限定されている訳ではなく、気候の温暖な地域において栽培、収穫されている種類のものも決して少なくはなく、しかも、それら全国共通に栽培、収穫されているものの場合であっても、その多くは、温暖な地域から生産されるものに比較しても何等品質の点で劣らないどころか、中にはそれ以上の品質が誇れる農産園芸物も数多く見受けられ、したがって、降雪地帯とはいえ、各種農産園芸物の生産地として決して見劣りはしないものの、如何せん、その気候的な条件から一般に収穫期は遅れ、市場に出回る時期がどうしても後手に回らざるを得ず、農産園芸物の種類によっては、その収穫時期の遅れのため、旬のものとして得られる筈の高値相場という固有の生産者利益の恩恵に浴することが極めて難しくなるものも見受けられる。
【0003】その一つに、山形県の名物行事の一つとして全国的にも有名になり始めている「芋煮会」において、決して欠かすことのできない中心的な食材となっている「里芋」が挙げられる。この里芋は、本来インドや中国等の熱帯アジアが原産地とされ、南方民族の移動に連れて日本にもたらされ、古代から土着している極めて歴史の古い根菜類の一つであり、その品種も多くて約200種類にも及ぶといわれているが、我が国では、「子イモ用品種」、「親イモ子イモ兼用品種」、「親イモ用品種」、それに「葉柄用品種」に大別されるものが主流であって、特に、一般の食用としては「子イモ用品種」、例えば、石川早生や土垂、烏播やその流れを汲むもの等が多く栽培されてきている。
【0004】里芋の一般的な栽培、収穫方法は、年を越して上手に保存され、消耗の少ない40〜50グラム程度の種芋を選び、四月中旬から下旬に掛けて、夏に乾燥し難い畑地を選んで畝立てし、10cm程の植え溝内に直接種芋を上向きにして25〜40cm間隔(種芋の種類による。)で植え付け、5〜6cm程度の比較的薄めに覆土した後、畝面にポリエチレンマルチをして地温を上げ、芽が出始めた頃、時期を間違わないようにしてポリエチレンマルチに孔を開け、芽出しをするか、あるいは、早取りや収量増産を狙って、植え付け時期の1ヵ月前位から、優良な種芋をフレーム内に並べ、畑土を3〜5cmの厚さに掛けて潅水した上、フレーム全体をビニールシートで覆って日中温度を上げ、夜間はさらにコモ掛けをする等する催芽作業を実施してから、畝立てした所定の畑地に移植するかした上、生長に合わせた最適な時期に土寄せ作業を何回か施すと共に、異常乾燥を来さないよう注意深く水管理をしたり、あるいは必要な施肥をして栽培管理を続け、芽出し栽培をしたものでは、西南温暖地域で八月中旬頃の早い時期に、また、直接畑植え付けたものでは、地域にもよるが、十月中、下旬頃に掛けて本格的な収穫時期を迎えるという方法によっている。
【0005】したがって、この一般的な直植え栽培によるものでは、一世帯当り消費支出全国一(平成九年度家計調査年報)を誇る山形で、その主たる消費原因ともなっている「芋煮会」到来時期の九月に到底間に合わず、他県からのもので間に合わせるしかなく、大量消費地であるにも拘らず、県内生産者の栽培意欲を殺ぐ結果になっていて、その作付け面積では全国シェアの僅か1%程度に止まってしまっており、その実情打開のため、シェアの拡大と収穫時期の調整とを画策して、芽出し、移植栽培も指導されていない訳ではないものの、上記したような従前からの種芋をそのまま管理、移植する栽培方法では、寒冷地という気候条件に加え、他作物栽培時期との競合の問題や労働力不足に悩む県内生産農家の特殊事情等も絡んで、これまでのところでは全くその成果が上がってこないことから、農政の一翼を担っている山形県立園芸試験場等指導的な立場ある試験研究機関等では、消費量全国一の立地条件を生かした生産農家育成のために、更に有効な里芋増産推進策の模索が、長年に渡って続けられてきている。
【0006】里芋収穫時期の調整と収量増産とに有効な栽培方法の一つとして、芽出し、移植栽培方法が重要な決め手となり得ることは、従前から関係者間において周知された事実となっていたが、その栽培方法が、従前からの直植え栽培方法と同様、種芋に頼っている限り、優良な種芋の大量確保と越年管理の問題や、芽出し管理の作業労働力の確保と他作物栽培間における作業調整の問題等々、幾つかの困難で生産効率向上には程遠い問題が何処までも付きまとうことから、その打開策として、従前からの芽出し、移植栽培方法に代わり、茎頂培養によるウイルスフリー化した丈夫で優良な里芋定植用苗の生産可能性について、その試験、研究を開始した。
【0007】この茎頂培養技術を生かして栽培効果を上げていくには、ウイルスフリ―苗を短期間に大量供給できる体制を整備しなければならず、現在までのところ、そのための体制として養液栽培等を採用すると共に、光、温度、湿度を完全にコントロ―ルする等、集約的な管理のできるバイオファクトリ―内での生産に限られており、生産農家においてそれらの施設導入は、経済的にも人的能力の点においてもかなりの困難性を伴うことから、茎頂培養を利用するにしても、より簡便な定植苗作り技術ができないものかとの判断から、様々な試行錯誤と度重なる試作実験とを繰り返してきた結果、里芋の種固有の特性、即ちその発根力と耐水性(塊茎が浸水状態下で腐ることなく生き続けていける性質)の高さに着目し、その特性を生かした効率的な茎頂培養の可能性が出てきた。
【0008】即ち、一般の植物であれば、発根培地による発根までの管理を培養ビン内において厳密に実施してから取り出し、徐々に温度や光、湿度等の環境に馴化させる操作を必要とするため、どうしても整備されたバイオファクトリ―内での管理栽培とならざるを得なかったのに対し、この発明では、「里芋」の特性を生かすことにより、培養ビン内での発根管理をしないままで簡易に発根、馴化させ得ることが初めて確認されたことから、従前までのような大掛かりなバイオファクトリ―を必要としないでも、茎頂を培養して茎葉、根を生長させる栄養繁殖法により、遺伝的に均一でウイルスフリー化した「里芋」のク―ロン苗を効率良く大量生産可能にする苗生産技術のための新規な定植用里芋苗の増殖育成方法を実現化することに成功したものであり、以下では、その構成の詳細を順次説示していくことにする。
【0009】
【発明の構成】この発明の定植用里芋苗の増殖育成方法は、次のとおりの構成をその要旨とするものである。即ち、里芋生長点を無菌状態で摘出して茎頂培養することにより、1生長点からウイルスフリー化した多芽体を多数育成、増殖した上、それら個々の多芽体を塊茎毎に分割し、当該塊茎1個ずつを、無菌培養状態から解放した環境下にあり、底面吸水可能な置床用容器内の用土に浅植え状に直接植え付け、温度、光量管理可能な施設内において、植え付けられた容器毎、底面給水による水分管理と温度管理、光量管理とを所定期間実施して里芋塊茎からの発根を促進した上、徐々に外気に馴化させながら定植苗にまで育成するようにした定植用里芋苗の増殖育成方法である。
【0010】この基本的な構成からなるこの発明の定植用里芋苗の増殖育成方法には、里芋生長点を無菌状態で摘出して茎頂培養することにより、1生長点からウイルスフリー化した多芽体を多数育成、増殖した上、それら個々の多芽体を塊茎毎に分割し、それらの1個ずつを、無菌培養状態から解放した環境下にある用土の充填されたセルトレイの各セル毎に浅植え状として直接用土に植え付け、温度、光量管理可能な施設内において、植え付けられたセルトレイ毎、底面給水による水分管理と温度管理、光量管理とを所定期間実施して里芋塊茎からの発根を促進した上、徐々に外気に馴化させながら定植苗にまで育成するようにした構成を要旨とする定植用里芋苗の増殖育成方法を包含する。
【0011】同様に、里芋生長点を無菌状態で摘出して茎頂培養することにより、1生長点からウイルスフリー化した多芽体を多数育成、増殖した上、それら個々の多芽体を塊茎毎に分割し、それらの1個ずつを、無菌培養状態から解放した環境下にある用土の充填されたセルトレイの各セル毎に浅植え状として直接用土に植え付け、温床トンネル内において、植え付けられたセルトレイ毎、底面給水による水分管理と温度管理、光量管理とを所定期間実施して里芋塊茎からの発根を促進した上、徐々に外気に馴化させる管理を終えてから、完全に温床トンネルを外し、適宜灌水管理をしながら定植苗にまで育成するようにした定植用里芋苗の増殖育成方法も包含している。
【0012】そして、この基本的な構成からなる定植用里芋苗の増殖育成方法を、より具体的な構成のものとして示せば、次の5工程からなる構成を要旨とするものということができる。先ず、里芋生長点を無菌状態で摘出して茎頂培養し、ウイルスフリー化した多芽体を得た上、その多芽体の塊茎を1個ずつに分割してから再び無菌培養し、それら分割育成した多芽体を更に増殖することにより、1生長点から多芽体を多数育成、増殖するようにした工程。
【0013】前記工程から得た多芽体を1塊茎毎に分割し、それらの1個ずつを、無菌培養状態から解放した環境下に置いてある用土の充填されたセルトレイの各セル内に、その生長点が埋もれてしまわない浅植え状として直接用土に植え付けてしまう工程。
【0014】植え付けられたセルトレイ毎、底面給水可能とする給水容器内にセットした上、温度、光量と水分等の管理下で密閉状の温床トンネル内に所定期間設置しておき、里芋塊茎からの発根を促進する工程。
【0015】その後、温床トンネルの密閉状態を徐々に解除していき、所定期間に渡って20〜25℃程度の温度管理と光量管理、給水管理とを続けながら茎葉を徐々に外気に馴化させる工程。
【0016】完全に温床トンネルを外し、適宜灌水管理をしながら定植苗にまで育成する工程である。
【0017】そして、この5工程からなる定植用里芋苗の増殖育成方法を、更に具体的な構成のものとして示せば、里芋生長点を無菌状態で摘出して茎頂培養し、ウイルスフリー化した多芽体を得た上、その多芽体の塊茎を1個ずつに分割してから再び無菌培養し、それら分割育成した多芽体を更に増殖することにより、1生長点から多芽体を多数育成、増殖するようにした工程。
【0018】前記工程から得た多芽体を1塊茎毎に分割し、それらの1個ずつを、無菌培養状態から解放した環境下に置いてある用土の充填されたセルトレイの各セル内に、その生長点が埋もれてしまわない浅植え状として直接用土に植え付けてしまう工程。植え付けられたセルトレイ毎、底面給水可能とする給水容器内にセットした上、パイプハウス内に用意した密閉状の温床トンネル内に設置して25〜30℃程度の温度管理と光量管理、給水管理下で約2週間程度育成し、里芋塊茎からの発根を促進する工程【0019】その後、温床トンネルの密閉状態を徐々に解除していき、所定期間に渡って20〜25℃程度の温度管理と光量管理、給水管理とを続けながら茎葉を徐々に外気に馴化させる工程。完全に温床トンネルを外し、適宜灌水管理をしながら定植苗にまで育成する工程、以上の5工程からなる定植用里芋苗の増殖育成方法となる。
【0020】茎頂培養は、里芋の芽先を切り取り、消毒をしてから無菌作業台で実体顕微鏡下、芽先を解剖し、生長点を0.2〜0.5mm程度、望ましくは0.3mm程度に切り取り、コニカルビーカーまたは培養ビン内の初代倍地、例えばLS培地(ショ糖3%,pH5.8)上に置き、茎頂を無菌状態で培養するものであり、この無菌培養により、ウイルスフリー化された多芽体の塊茎にまで成長させた上、それら多芽体を更に1個ずつの塊茎に分割してからコニカルビーカーまたは培養ビン内の増殖倍地に置床し、振とう培養または静止培養による無菌培養を施し、所定期間を掛けて多数の多芽体に生長させることにより、夫々5〜7個、場合によっては7,8個もの塊茎を有する多芽体に生長させ、更に1塊茎毎に分割することにより、1生長点から遺伝的に均一なク―ロン塊茎を多数育成、増殖する。この間の茎頂培養技術は、従前からの手段と基本的な部分において変わるところはない。
【0021】こうして1生長点から多数に増殖されてなるウイルスフリー化した里芋の多芽体の塊茎は、全てコニカルビーカーまたは培養ビンから取り出し、図4の無菌増殖培養後、多芽体から塊茎に分割、置床する過程を示す工程図にあるように、1塊茎毎のものに分割し、望ましくは、葉や根の部分は取り除き、塊茎(いも)の部分と葉柄とからなる状態にした上、それらの1個ずつを、無菌培養状態から解放した環境下に置いてある、用土が充填され、底面吸水可能な構造の置床容器、望ましくは1塊茎毎の植え込みが可能になるように区画されたセル内に用土を充填するようにしたセルトレイの用土に、その生長点が埋もれてしまわない浅植え状として直接用土に植え付けてしまう、即ち「挿し芽」するような要領での植え付けを済ませてから、植え付けられた置床容器、例えばセルトレイ毎、底面給水可能とする給水容器内にセットした上、該置床用容器全体を、温度、光量管理可能な施設、例えば無菌室を設置してあるバイオファクトリーに余裕があれば当該バイオファクトリー内でもいいが、そうでなければ別途パイプハウス等の一般的な温室を用意し、その中の密閉状の温床トンネルといった簡易な施設内に設置するようにした上、全体として約2週間程度に渡って25〜30℃程度の温度管理と給水管理とを続けることにより、里芋塊茎からの発根を促進する。この発根促進工程は、里芋の発根力と耐水性とが高いという特性によって初めて実現可能になるものである。
【0022】なお、この発根促進工程をより確実化するには、実用化段階の効率上に多少の影響がない訳ではないが、温床トンネル内に設置した直後の最初の約1週間程度の期間に渡ってラップで覆い、各セル毎に植え付けられた各塊茎の初期段階の乾燥を極力防止するようにし、その後、徐々にラップを外すようにした取り扱い、管理を実施するようにすると発根促進がより確実なものとなり、極めて好都合のものとなる。
【0023】以上のように、ウイルスフリー化した里芋多芽体の塊茎の発根促進工程を、1塊茎毎に分割した上、従前までに実施されたことのない、無菌培養状態から解放した環境下に置いてある用土に直接「挿し木」する要領で植え付け、密閉状とした温床トンネル内で25〜30℃の温度管理と光量管理、給水管理となるような育成管理を約2週間程度に渡って続けた後、当該温床トンネルの密閉状態を更に約2週間程度の間に徐々に解除していって、約20〜25℃程度の環境に馴化するようにし、最終的に温床トンネルを完全に取り払って15〜20℃程度の温度管理と光量管理、給水管理とを約1ケ月続け、都合約2ケ月間程度の期間を掛けて里芋塊茎の茎葉を完全に外気に馴化させて定植条件を満たすようにすることにより、この発明の新規な定植用里芋苗の増殖育成方法のための工程を完了することになる。
【0024】したがって、従前までの茎頂培養を利用した増殖栽培方法のように、発根促進、馴化までの管理をバイオファクトリー内という限られたスペース内に限定されず、温度、光量管理可能なパイプハウスといった簡易な施設においても実施できるため、増殖苗自体の大量生産が可能になり、生産効率を高めるための経済的負担を大幅に軽減できると共に、収穫時期の調整とそれに伴う有利な生産価格の確保とが可能になり、農家の里芋生産意欲を高める上で極めて有利な定植用里芋苗の増殖育成方法を実現し得たものである。以下、上記したこの発明の定植用里芋苗の増殖育成方法が、より明確に把握されるよう、代表的な実施例について詳述することとする。
【0025】
【実施例】図1は、発根促進、馴化過程の栽培状況を説明するための概略的な断面図、図2は、里芋芽先の切り取り、消毒過程を説明するための工程図、図3は、生長点の切り出しと初代無菌培養とを示す模擬的な全体斜視図、図4は、無菌増殖培養過程の後、多芽体から塊茎に分割、置床する過程を示す工程図であって、温度管理、光量管理可能な施設として、従前のようなバイオファクトリーではなく、簡易なパイプハウス内の温床トンネルを使って実施するようにしたこの発明の代表的な定植用里芋苗の増殖育成方法を具体的に説明するものであり、この実施例は、次のとおりのものである。
【0026】消耗の少ない種芋を選び、約20g程度あるいはそれよりもやや大きめに分割し、300倍に薄めたさらし粉溶液中に約1分間程度漬け、更にベンレートT水和剤(商品名)20倍溶液中に漬け、約15分程度経過した後、取り出して陰干したものから、それら種芋を連結ポットに入れた上、市販の培土を詰め、25℃程度の温度下で7〜10日間を掛けて芽出し、茎頂切り出し用の里芋とする。
【0027】芽出しした里芋Tは、図2の工程図に示すように、先ず、茎頂切り出し前の準備作業として、中性洗剤Dを使ってその表面全体を手で揉むようにしてよく洗って汚れを落とした上、十分の水で中性洗剤Dを洗い流し、二枚重ねの濾紙を敷いたシャーレ内で十分に水切りしてから、その芽出しした里芋Tをアルミホイル敷き濾紙上にピンセットでしっかりと保持したまま、両刃カミソリを使ったメスで、芽先部分をその付け根下約2cm程度の芋部分を付けた状態となるように切り取って芽先部T1とした上、該芽先部T1を1%次亜塩素酸ナトリウム溶液N中に約15分間程度漬けて殺菌、消毒し、無菌水で洗浄する作業を3回程繰り返した上で水切りをする作業を終え、次の茎頂切り出しに備える。
【0028】完全に滅菌された芽出し部T1は、続いて、無菌作業台の実体顕微鏡下で、芽先を解剖し、0.3mm程度の生長点(茎頂)1を切り取り、図3の初代無菌培養を示す模擬的な全体斜視図に示すとおり、培養ビン2内の初代培地K、例えばLS培地(ショ糖3%、pH5.8)を基本とし、支持体がペーパーウィックでホルモン条件をNAA0.1mg/リットル×BA0.02mg/リットルの上に注意深く移され、25℃、16時間日長(6,000Lux)で約40日間程度無菌培養して幼葉を約5cm前後にまで生長させ、ウイルスフリー化した塊茎に育成する。
【0029】初代無菌培養によって生育させたウイルスフリー化した塊茎は、更に、夫々の塊茎毎、コニカルビーカーまたは培養ビン2内の増殖培地K1上に置床し、夫々5〜7個の塊茎31,31,……を有するウイルスフリー化した多芽体3となるよう、1〜2ケ月間程度に渡って再び無菌培養する。この段階の増殖培養には、液体培地による振とう培養か、固形培地による静止培養の何れによっても実施することができる。
【0030】液体培地による振とう培養では、基本培地としては、例えばLS培地(ショ糖3%、pH5.8)、ホルモン条件をBA0.25mg/リットルとした培地を、100ミリリットルコニカルビーカー内に30ミリリットル程度注入し、100rpmで振とうさせながら約1ケ月間程度を掛けて無菌培養し、また、固形培地による静止培養では、基本培地として、例えばLS培地(ショ糖3%、pH5.8)、支持体が寒天0.8%またはゲルライト0.15%でホルモン条件をBA0.5mg/リットルとした培地を詰めた培養ビン内で、約2ケ月間程度、25℃、16時間日長(6,000Lux)の条件下で無菌培養することにより、次の工程に必要な5〜7個の塊茎を有するウイルスフリー化した多芽体が得られる。なお、これまでの工程で無菌培養に必要となるシャーレや濾紙、アルミホイル、茎頂切り出し用メス、培養ビンまたはコニカルビーカー等といった各種器具類は、当然厳重に殺菌、消毒したものを使用しなければならず、また、芽出し作業で使用するシャーレや濾紙等についても同様である。
【0031】こうして、1生長点から始まり、初代培養、それに続く増殖培養を経て5倍から14〜16倍の塊茎にまで殖やし、ウイルスフリー化してなる多芽体3,3,……は、全てそれまでの培養ビンまたはコニカルビーカーから取り出してしまい、各1個ずつの塊茎31,31,……に分割する。その際、各塊茎31,31,……から伸びる根と葉とを取り除き、「芋+葉柄」状態にして取り扱うようにすると、この発明の特徴的な構成の一つであるウイルスフリー化した塊茎31の用土内での発根、馴化工程をより一層確実なものとすることができ、極めて好都合のものとなる。
【0032】分割し、「芋+葉柄」状としたウイルスフリー塊茎31,31,……の1個ずつを、置床用容器として予め用意してあるセルトレイ4で、発根馴化用用土5の詰められた1セル41内毎に植え付ける。その植付けは、セル41内の発根馴化用用土5に穴を開け、生長点が隠れない程度の浅植え、即ち「插し芽」の要領によるものとし、その後、植え穴を軽く押さえておく。全てのセル41,41,……内にウイルスフリー塊茎31,31,……の1個ずつを植え終えたセルトレイ4は、図1の発根促進、馴化過程の栽培状況を説明するための概略的な断面図が示すとおり、底面給水を可能とするよう、所定深さまで注水7してある給水容器6内にセットし、セルトレイ4底面からの吸水が可能な状態とする。なお、発根馴化用用土5としては、メトロミックス350(商品名)とバーミキュライトとを1:1の割合で混合したものに、肥料としてマイクロロングトータル100日タイプ(商品名)を、1.5g/リットルの割合で加えたものを使用している。
【0033】給水容器6内にセットしたセルトレイ4は、望ましくは初期段階の約1週間程度は置床直後の乾燥を確実に防止するためラップで覆う等して、パイプハウス内に設けた密閉状の温床トンネル8の中に設置し、25〜30℃の温度に保持すると共に、不織布9で覆って光量を調節し、十分な水分管理を行い、略1週間を経過した辺りで徐々にラップを外していって、全体として略2週間程度の期間で各ウイルスフリー塊茎31,31,……からの発根を促進する。
【0034】発根促進工程の2週間を経過させた後は、徐々に不織布9を外していくと共に、約2週間程度の期間を掛けて温床トンネル8の密閉状態も徐々に開放していくようにし、その間、20〜25℃の温度管理と、セルトレイ4の場合には乾燥し易くなるため十分な給水管理を施し、こうして略1ケ月を経過した頃から、完全に温床トンネル8を取り払って外気に当て、更に約1ケ月間程度の期間、パイプハウス内で略15〜20℃の温度範囲に維持しながら外環境に馴らしていくことにより、里芋塊茎31の茎葉を徐々に外気に馴化させ、仕上げ段階には適宜灌水管理も実施して定植条件に慣らし、ウイルスフリー化した塊茎31,31,……を直接用土5内に置床後、約2ケ月で最終的に大量の優良な定植苗にまで育成する。
【0035】
【作用効果】以上のとおりの工程によって実施されるこの発明の定植用里芋苗の増殖育成方法は、里芋収穫時期の9月上旬から下旬に掛けて、収穫時期の早晩性、収穫性、形状、品質(食味)等といった点を吟味して優良系統の種芋を選抜し、4月下旬から5月上旬の定植苗の生産に合わせて逆算した最適な時期に、それら選抜した種芋から茎頂摘出、置床を行って初代無菌培養を実施し、引き続き、増殖無菌培養を経過した後の3月上旬から4月下旬に至る約2ケ月間に、ウイルスフリー化した多芽体から1塊茎毎に分割したものを、無菌培養状態から解放した環境下に置いてある用土に「插し芽」の要領で直接浅植えして発根促進し、その後、徐々に外環境に馴化させていって優良な定植苗に育て、4月下旬から5月上旬に圃場に畝立て定植し、所定の栽培管理と病害虫防除、それに肥大期の7〜8月の乾燥が収穫に大きく影響することから、この時期に適切な畝間潅水を行うことにより、9月上旬から中旬期の、従前からの早堀り里芋収穫期に負けない時期に、確実に里芋の収穫が可能になる。
【0036】この発明の増殖育成方法によって生産された定植用里芋苗は、種芋部分がないコンパクトな苗で、特に置床用容器としてセルトレイを採用して生産したものでは、苗根周りの土や毛根が落ち難く、定植苗として極めて秀れており、圃場に定植後の生育では、従前からの種芋によるものと比較して草丈は幾分小型ではあるものの、芋の着生が早く、しかもその肥大化傾向も強く、早掘り、多収穫に非常に適しており、試験栽培結果では、その収穫量の比較で、従前からの種芋苗によるものの1.8倍にも達し、しかも大玉比率もかなり高くなることが、山形県立園芸試験場の試験結果で立証されている。
【0037】この試験結果は、従前からの種芋苗の場合には、栄養生長となって茎葉の生長が優先し、その分、子芋の付きは遅れ、しかもその数もそれ程増えないのに対し、ウイルスフリー化したこの発明の定植苗の場合には、選抜された優良な種芋から大量のクーロン苗が生産される上、それら全てが優良な品質のクーロン苗には、芋(栄養)部分が無いため、子孫を残そうとする植物本能で、根からの養分が、茎葉の生長に回される前に、子芋を作る方を優先し、その結果、子芋の収穫量は増え、反対に草丈はその分だけ従前からの種芋苗によるものに比較して劣勢になってしまうものと予想されている。
【0038】また、この発明の定植用里芋苗の増殖育成方法は、従前までの発根馴化工程とは異なり、茎頂培養によるウイルスフリー化した多数の塊茎を、無菌培養環境から開放された状態下にある発根馴化用用土に直接浅植えし、給水管理と所定の温度管理、光量管理をしてしまう画期的な発根馴化工程を採用し得るようにしたものであって、バイオファクトリー内という限られた施設環境に限定されることなく、パイプハウスのような簡易な施設内においての定植苗の生産をも可能にするものとなることから、増殖苗自体の大量生産のために必ずしも特別な施設を用意しなくても済み、生産効率を高めるための経済的負担を大幅に軽減できるという大きな利点が得られると共に、収穫時期に合わせた定植苗の提供が極めて容易になるという秀れた特徴を奏することになる。
【0039】その結果、例えば里芋大量消費地である山形県の「芋煮会」行事が始まる9月初旬に合わせた早掘り新里芋として、地元生産農家からの調整出荷も十分可能になって、他地域からの早取り新里芋に頼る必要がなくなり、「地場産里芋による芋煮会」としてふるさと行事の意味合いを強め、観光宣伝効果に一役を買って地域興しに寄与する効果が得られると共に、何よりも、早掘り新里芋として有利な生産価格の確保が可能になり、地元生産農家の生産意欲を刺激し、新たな生産品目として農家経営を安定させ、地域活性化に大いに役立つことになるという特徴が期待できることになる。
【0040】特に、実施例に取り上げたこの発明を代表的する定植用里芋苗の増殖育成方法によれば、特別な施設を用意することなく、パイプハウスのような簡易施設によっても、高品質の定植苗の大量育成、増殖を確実化することが可能になり、従前からの里芋生産農家にとっては勿論のこと、新たに参入しようとする生産農家にとっても、初期投資に過大な負担を要することなく、早掘り収穫可能で、しかも増収が略保証される魅力ある里芋生産に取り組むことが可能になり、それだけ里芋生産農家数を増やし、良質の里芋供給体制を安定する上で威力を発揮することになる。
【0041】叙述の如く、この発明の定植用里芋苗の増殖育成方法は、里芋固有の植物特性に着目した極めて新規な構成によるものであって、所期の目的を遍く達成可能とするものであり、農産物の自由化、農政の転換等、様々な要因で厳しい環境に直面する農家の経営基盤の安定化対策に極めて有効な技術であって、担当行政機関や関係試験研究機関の指導の下、多くの農家から高い評価を得て里芋生産の普及、拡大に大きく貢献するものになると予想される。
【出願人】 【識別番号】593022021
【氏名又は名称】山形県
【出願日】 平成11年6月10日(1999.6.10)
【代理人】 【識別番号】100083437
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 實
【公開番号】 特開2000−350525(P2000−350525A)
【公開日】 平成12年12月19日(2000.12.19)
【出願番号】 特願平11−164009