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【発明の名称】 紙マルチシート
【発明者】 【氏名】内田 広美

【要約】 【課題】施行時に容易に機械展張でき、植物育成中に必要な強度を維持する紙マルチシートを提供する。

【解決手段】セルロースパルプからなる原紙の全領域にフミン酸またはフミン酸塩を有し、さらに乾性油を含有する紙マルチシートであり、さらに伸張性付与加工またはクレープ加工により紙の長手方向の伸びを大きくする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】セルロースパルプを主成分とする紙マルチシートにおいて、その全体または一部に乾性油を含有することを特徴とする紙マルチシート。
【請求項2】前記紙マルチシートにおいて、フミン酸またはフミン酸塩をマルチシートの全領域に含有することを特徴とする請求項1記載の紙マルチシート。
【請求項3】前記紙マルチシートの長手方向における(JIS P 8113による)破断伸びが3〜20%であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の紙マルチシート。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は紙マルチシートに関し、さらに詳しくは植物育成中に必要な強度を保持することができる紙マルチシートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来から農業分野においては、目的とする植物を育成する際に、雑草の発生防止、保温、土壌水分保持等のためにポリオレフィン系のプラスチックフィルムマルチが使用されている。しかし、これらフィルムマルチはほとんど生分解性が無いため、収穫後に使用済みのフィルムの回収、処分が必要となり、この回収作業が農業従事者の負担となっている。
【0003】一方、土中で腐食、分解する紙の特性を活かした紙製マルチシートに関する多くの提案もなされている。紙製マルチシートは土中の微生物による分解や、日照に伴う紫外線、熱などによる劣化が速いため、その速度を調節する手法が考えられている。特開昭55ー111734号公報には、湿潤紙力伸張紙または湿潤紙力クレープ紙に、防腐剤としてクレオソート油を含浸する方法が開示されている。この発明で用いられているクレオソート油は、一般に木材防腐剤として使用されているものであるが、特異な臭気と毒性を持っているためその使用はあまり好ましくない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、農業において植物育成のために用いられ、耐生分解性があり且つ取扱い性の優れた紙マルチシートを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、植物育成期間中に必要な強度をより有効に保持しつつ、機械展張性や雑草防止効果などのマルチ材として必要な性能を持った紙マルチシートについて鋭意研究した結果、その全体または一部に乾性油を含有する紙マルチシートを発案した。すなわち、土中に埋没した部分においては、菌や黴などの微生物により強度劣化を促進するだけの水分が常にあるため、紙マルチシートは生分解を受けやすい。そこで、耐水、撥水効果が高い上に、天然物であるため安全性も高く取り扱いも比較的容易な乾性油を含有させることにより、耐生分解性のある紙マルチシートを発案するに至った。
【0006】すなわち、本発明の第1は、セルロースパルプを主成分とする紙マルチシートにおいて、その全体または一部に乾性油を含有することを特徴とする紙マルチシートである。本発明の第2は、前記紙マルチシートにおいて、フミン酸またはフミン酸塩を紙マルチシートの全領域に含有することを特徴とする第1の発明の紙マルチシートである。本発明の第3は、前記紙マルチシート長手方向における(JIS P 8113による)破断伸びが3〜20%であることを特徴とする第1または第2の発明の紙マルチシートである。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明の紙マルチシートはセルロースパルプを主成分として湿式の抄紙機で抄紙して得られ、その際の木材パルプと古紙パルプの原料配合率は、古紙パルプの重量比率0〜100%の範囲から適宜選択される。紙の坪量は特に限定しないが、30〜200g/m2の範囲で適宜選択する。坪量30g/m2未満では、マルチ展張後一定期間の紙マルチシートの強度を保持できず、坪量200g/m2を越えると紙の重量、厚さの数値が大きすぎて展張作業が困難となる。なお、坪量が低い紙では、紙マルチシートの強度を向上させるために、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)を使用することが好適である。
【0008】古紙パルプは段ボール古紙、新聞古紙等いずれでも良く、古紙の種類による制限はない。また、古紙パルプは紙のリサイクル促進のために配合するが、同時に紙マルチシートのコストダウンにもつながる。
【0009】マルチシートの展張はハウス栽培等では手張りで行う場合が多く、特に伸張性は要求されない。一方、屋外栽培では機械展張が多く、マルチシートの伸張性が重要な作業適性となってくる。屋外ではマルチシートを展張する場所の形状が、平畦、平高畝、丸畦等様々であり、伸張性が要求される。紙マルチシートに伸張性を与える手段としては、伸張性付与加工、クレープ加工等いずれでも良い。縦方向の破断伸びは3〜20%の範囲で調製する。破断伸びが3%未満では機械展張の際に破れやすく、破断伸びが20%を越えても取り扱い性に差がなくなる。
【0010】乾性油を含有した紙マルチシートは、撥水性、耐水性が向上し、紙マルチシートに耐生分解性を与える。また、乾性油であるために乾燥性が良好で、紙マルチシートの製造工程でトラブルの発生が少ない。さらに、農家で使用される際にも作業者らの手や機械を汚すことがない。
【0011】乾性油は、ヨウ素価130以上で、薄膜にした時の乾燥性が高い植物油を指す。具体的には、亜麻仁油、桐油、荏油などの他にもアカスグリ油、オニグルミ油、カマラ油、カヤ油、ククイ油、ケシ油、シラキ油、ソシ油、バンジロウ油、マツ実油、モミ実油、アサ実油、ウルシ核油、コウヤマキ種油、コブシ種油、ザクロ種油、シソ種油、シャクヤク種油、ボタン種油、マンサク種油などが挙げられる。乾性油は成分中に不飽和脂肪酸を多く含むために酸化されやすく、そのため乾燥しやすい。よって、塗料やインキなどに混入して取り扱うのが容易である。植物油として一般的に知られているのは食用の胡麻油や菜種油であるが、これらはヨウ素価100〜130で半乾性油と呼ばれ、乾燥性でやや劣る。さらにヨウ素価100以下の不乾性油と呼ばれる植物油は乾燥性が全くない。椿油、オリーブ油、ヒマシ油等がこれに属する。
【0012】紙マルチシートに乾性油を含有させる方法としては、含浸や塗工、印刷など特には限定されないが、印刷の場合印刷適性向上のために乾性油以外にもフェノール樹脂、石油樹脂などの樹脂分、顔料等と混合され、単独で塗布するよりも原紙への浸み込みが少なく効率よく含有させることができ、取り扱いやすい。また、インキ中にフミン酸、フミン酸塩、カーボンブラックなどの着色剤を混入すれば、遮光率を向上させることもできる。さらに、両面印刷で紙の表面を乾性油で覆うことも可能である。印刷や塗工を行う場合、その範囲を自由に設定できるため、例えば土中に埋め込まれる端部のみに含有させることも可能であるから、経済的である。
【0013】本発明では、紙マルチシートにフミン酸およびフミン酸塩を含有させることができる。フミン酸およびフミン酸塩は紫外線を吸収し、熱や温度に対して安定であり、耐水性を有する特徴があり、乾性油と併用すると耐候性がより向上する。フミン酸またはフミン酸塩の含有量はパルプに対して0.05〜15重量%、好ましくは1〜5重量%である。含有量が0.05重量%未満ではフミン酸またはフミン酸塩を含有させた効果が得られず、含有量が15重量%を越えても効果は頭打ちとなる。
【0014】紙マルチシートにフミン酸及びフミン酸塩を含有させる方法としては、内添、含浸、塗工のいづれでもよい。内添方法としては、原料スラリーにフミン酸またはフミン酸塩を添加して抄紙すれば良い。また塗工方法としては、フミン酸またはフミン酸塩の溶液を直接紙に塗工すれば良い。この場合、様々な塗工方法が適用でき、なおかつバインダー類を添加することなく紙に定着できる。内添、含浸、塗工のいずれの方法で含有させても耐候性効果に変わりはない。
【0015】本発明の紙マルチシートは、作物の収穫後に土に鋤込めば土中で崩壊し、後作の作物の生育に悪影響を与えることはない。本発明によって得られる紙マルチシートは、使用に際して、早期に崩壊することなく植物の育成が完了するまで形状を保持する優れた耐生分解性、耐候性を有する。
【0016】
【実施例】本発明をいっそう理解しやすくするために、以下に実施例を示すが、下記の実施例は本発明を制限するものではない。文中の%は固形分重量%を示す。
【0017】実施例1下記の配合のスラリーを調成後、長網抄紙機によって抄紙し、坪量50g/m2の紙マルチシート原紙を製造した。
針葉樹未晒クラフトパルプ(CSF 350ml) 60% 古紙パルプ 40% 内添サイズ剤 対繊維0.6% (商品名 サイズパインE、荒川化学株式会社製)
硫酸バンド(pH4.5に調整するため) 対繊維5.0%次に、下記配合の乾性油含有インキを、上記紙マルチシート原紙全面に5g/m2フレキソ印刷し、紙マルチシートを得た。
乾性油含有インキ 顔料 27% フェノール樹脂 8% 亜麻仁油 27% 桐油 20% インキソルベント 16.5% ドライヤー 1.5%【0018】実施例2実施例1の紙マルチシート原紙と乾性油含有インキを用いて、原紙の両端部30cmに5g/m2フレキソ印刷し、紙マルチシートを得た。
【0019】比較例1実施例1で製造した紙マルチシート原紙に印刷処理を施さず紙マルチシートとした。
【0020】比較例2実施例1の紙マルチシート原紙全面に、以下の配合の不乾性油含有インキを5g/m2フレキソ印刷を試みたが、インキの乾燥性が悪く、巻き取りにした際貼り付いてサンプルが確保できなかった。
不乾性油含有インキ フェノール樹脂 34.5% ひまし油 34% インキソルベント 30% ドライヤー 1.5%【0021】比較例3実施例1の紙マルチシート原紙全面に、以下の配合の乾性油無添加インキを5g/m2フレキソ印刷し、紙マルチシートを得た。
乾性油無添加インキ 顔料 35% フェノール樹脂 35% インキソルベント 30%【0022】実施例3実施例1で得られた紙マルチシート原紙に、桐油を単独で5g/m2塗工して紙マルチシートを得た。
【0023】実施例4下記の配合のスラリーを調成後、長網抄紙機によって抄紙し、坪量50g/m2の紙マルチシート原紙を製造した。
針葉樹未晒クラフトパルプ(CSF 350ml) 60% 古紙パルプ 40% フミン酸ナトリウム 対繊維 4% (商品名CH−02、株式会社テルナイト製) 内添サイズ剤 対繊維0.6% (商品名サイズパインE、荒川化学株式会社製)
硫酸バンド(pH4.5に調整するため) 対繊維5.0%次に、実施例1と同様に、この紙マルチシート原紙全面に実施例1と同じ乾性油含有インキ5g/をフレキソ印刷し、紙マルチシートを得た。
【0024】比較例4実施例4で製造した紙マルチシート原紙に印刷処理を施さず、紙マルチシートとした。
【0025】実施例5原料、薬品の配合、坪量は実施例4と同様であるが、伸張性付与加工(縦方向6%収縮)を施し、破断伸びが7%の伸張性紙マルチシート原紙を得た。その後、実施例1と同じ乾性油含有インキを5g/m2フレキソ印刷し、紙マルチシートを得た。
【0026】比較例5実施例5の伸張性付与加工を施した紙マルチシート原紙に印刷処理を施さず、紙マルチシートとした。
【0027】(紙マルチシートの耐生分解性試験)実施例1〜5、比較例1、3、4、5で得られた紙マルチシートから、流れと直角方向に長さ25cm、幅3cmの試験片を4本サンプリングした。実施例2については端部印刷部分を使用した。試験片の一方の端を試験管立てのフレームに巻き付けてクリップで留め、もう一方の端も同様に反対面のフレームにクリップで留める。試験片4本すべてを同じように試験管立てのフレームに留めた後、角形容器に試験片が垂直になるように試験管立てごと立てる。あらかじめ水分33±1%に調整した培養土を角形容器いっぱいに詰めて試験片の一方を土に埋めた後、試験片表面に水分を噴霧して総重量を記録しておく(A)。この角形容器ごと、温度30℃、湿度80%に調整した恒温恒湿器内に16時間、さらに湿度条件を50%に変更して8時間放置して、模擬的な1日を経験させる。その後恒温恒湿器から取り出して水分を噴霧し総重量を(A)に合わせる。これを1サイクル日数として、試験片4本すべてが土の埋め込み際近傍で切れるまでに要したサイクル日数を測定し、各シートの耐生分解性を観察した。その結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】(紙マルチシートの展張試験)実施例1〜4、比較例1、3、4で得られた紙マルチシート各々について、屋外で幅0.8m、長さ10mの畝に手張りで展張し、その地際部分の崩壊がおこるまでに要した期間を測定した。また、展張の前後で遮光率を測定した。遮光率は、JIS K 7105の「5.5 光線透過率及び全光線反射率」に基づき積分球付き自記分光光度計で680nm及び700nmの波長の透過率を測定し、100%から差し引いて計算した。その結果を表2に示す。ただし、実施例2については端部のみの印刷のため、未印刷部分で測定した。
【0030】
【表2】

【0031】(評価)耐生分解性については表1より乾性油含有インキで印刷処理を施した実施例1〜5は印刷処理を施さなかった比較例1、4、5、乾性油無添加インキで印刷を処理を施した比較例3に比べ耐分解性が高いことが分かる。不乾性油含有インクで印刷処理を施した比較例2においては、印刷処理後のインクが乾かず巻き取りにした際に貼り付き、サンプルが確保できず、評価できなかった。不乾性油は乾燥性不良のため巻き取りの表裏がくっつき、取り扱いにくい。
【0032】表2より、乾性油を含む紙マルチシートである実施例1〜5は実際の畑でも地際切れの発生を抑えていることがわかる。また、フミン酸またはフミン酸塩を含有させた実施例4、5は、屋外展張後も遮光率の低下が抑えられており、さらに優れた紙マルチシートであることがわかる。
【0033】
【発明の効果】紙マルチシート原紙の全体または一部に乾性油を含有することにより、紙マルチシートの耐生分解性が向上する。不乾性油は乾燥性不良のため巻き取りの表裏がくっつき、取り扱いにくい。また、フミン酸またはフミン酸塩を含有させると紙マルチシートの耐候性も向上する。さらに伸張性を付与すると、機械展張時の作業性が良好な紙マルチシートの提供が可能になる。
【出願人】 【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子製紙株式会社
【出願日】 平成10年10月13日(1998.10.13)
【代理人】
【公開番号】 特開2000−116249(P2000−116249A)
【公開日】 平成12年4月25日(2000.4.25)
【出願番号】 特願平10−290412