トップ :: G 物理学 :: G21 核物理;核工学




【発明の名称】 反射鏡およびその製造方法
【発明者】 【氏名】村上 勝彦

【氏名】加藤 登樹雄

【氏名】品田 邦典

【要約】 【課題】形状誤差および表面粗さが小さく、しかもX線などの照射光に起因する熱変形を充分小さく抑えることのできる反射鏡とその製造方法を提供する。

【解決手段】金属製基板1の上に非晶質2の薄膜が形成され、その上に所定波長のX線を反射する多層膜3が形成されている。反射鏡に入射するX線によって発生する熱を反射鏡の裏面に設けられた冷却装置側に効率よく逃すために、基板として金属性基板1を使用している。よって、熱変形によって生じる形状誤差が小さくなる。金属製基板1はその表面粗さを小さくすることが困難である。よって、これらの金属製基板1の上に表面が光学的に平滑に研磨された非晶質物質2を形成し、その上にX線を反射する多層膜3を設ける。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 入射する光線から多量の熱を吸収する場所に使用される反射鏡であって、金属製基板または合金基板と、前記基板の表面に形成され、表面が光学的に平滑に研磨された非晶質物質の薄膜とを有してなることを特徴とする反射鏡。
【請求項2】 入射するX線から多量の熱を吸収する場所に使用される反射鏡であって、金属製基板または合金基板と、前記基板の表面に形成され、表面が光学的に平滑に研磨された非晶質物質の薄膜と、前記薄膜の表面に形成され、所定波長のX線を反射する多層膜とを有してなることを特徴とする反射鏡。
【請求項3】 請求項1又は請求項2に記載の反射鏡であって、前記非晶質物質の表面粗さが0.5nm(rms)以下とされていることを特徴とする反射鏡。
【請求項4】 請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載の反射鏡であって、前記非晶質物質又は前記非晶質物質の主成分をニッケル又はニッケル合金としたことを特徴とする反射鏡。
【請求項5】 請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載される反射鏡であって、前記基板の熱伝導率をη [W/mK]、線膨張係数をα [1/K]、光線又はX線から反射鏡に熱流束をQ [W/m2]、反射鏡の平均厚さをd [m]とするとき、α2/(2η)≦10-9 [m]が成立することを特徴とする反射鏡。
【請求項6】 請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載される反射鏡であって、前記基板の熱伝導率が200 [W/mK]以上であることを特徴とする反射鏡。
【請求項7】 請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載される反射鏡であって、前記基板の材料が、アルミニウム、アルミニウムを含む合金、銅、銅を含む合金、ベリリウム、ベリリウムを含む合金、銀、銀を含む合金、金、金を含む合金からなる群のうちいずれか1つからなることを特徴とする反射鏡。
【請求項8】 金属製基板または合金製基板を用意する工程と、前記基板上に、ニッケル合金の非晶質薄膜またはニッケル合金を主成分とする非晶質薄膜を形成する工程と、前記非晶質薄膜の表面を光学的な平滑面に加工する工程とを有してなる反射鏡の製造方法。
【請求項9】 金属製基板または合金製基板を用意する工程と、前記基板上に、ニッケル合金の非晶質薄膜またはニッケル合金を主成分とする非晶質薄膜を形成する工程と、前記非晶質薄膜の表面を光学的な平滑面に加工する工程と、前記平滑な面に加工された非晶質薄膜の表面に、所定波長のX線を反射する多層膜を形成する工程とを有してなる反射鏡の製造方法。
【請求項10】 前記非晶質薄膜をメッキ法により形成することを特徴とする請求項8又は請求項9に記載に記載の反射鏡の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光又は軟X線を用いた投影露光装置等の光学系等、入射する光線又はX線から多量の熱を吸収する場所に用いられる反射鏡に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、半導体集積回路素子の微細化に伴い、光の回折限界によって制限される光学系の解像力を向上させるために、従来の紫外線に代わってこれより波長の短いX線を使用した投影リソグラフィー技術が開発されている。この技術に使用されるX線投影露光装置は、主としてX線源、照明光学系、マスク、結像光学系、ウェファーステージ等により構成される。
【0003】X線源には、放射光光源またはレーザープラズマX線源が使用される。照明光学系は、斜入射ミラー、多層膜ミラー、および所定の波長のX線のみを反射または透過させるフィルター等により構成され、マスク上を所望の波長のX線で照明する。マスクには透過型マスクと反射型マスクとがある。透過型マスクは、X線を良く透過する物質からなる薄いメンブレンの上にX線を吸収する物質を所定の形状に設けることによってパターンを形成したものである。
【0004】一方、反射型マスクは、例えばX線を反射する多層膜上に反射率の低い部分を所定の形状に設けることによってパターンを形成したものである。このようなマスク上に形成されたパターンは、複数の多層膜ミラーで構成された投影結像光学系により、フォトレジストが塗布されたウェファー上に結像して前記フォトレジストに転写される。なお、X線は大気に吸収されて減衰するため、その光路は全て所定の真空度に維持されている。
【0005】X線の波長域では、透明な物質は存在せず、また物質表面での反射率も非常に低いため、レンズやミラーなどの通常の光学素子が使用できない。そのため、X線用の光学系は、反射面に斜め方向から入射したX線を全反射を利用して反射させる斜入射ミラーや、多層膜の各界面での反射光の位相を一致させて干渉効果によって高い反射率を得る多層膜ミラー等により構成されている。
【0006】斜入射光学系は収差が大きいために回折限界の解像力を得ることはできない。一方、多層膜ミラーはX線を垂直に反射することが可能であり、回折限界のX線光学系を構成することが可能である。従って、軟X線投影露光装置の結像光学系は、すべて多層膜ミラーで構成される。
【0007】このようなX線多層膜ミラーは、シリコンのL吸収端(12.3nm)の長波長側でモリブデンとシリコンからなる多層膜を用いたときに、シリコンによる吸収が少なくなるので最も高い反射率が得られるが、それでも波長13〜15nmでは入射角によらず70%程度である。シリコンのL吸収端よりも短波長側では、垂直入射で30%以上の反射率が得られる多層膜は殆ど開発されていない。多層膜ミラーの基板材料には、形状精度が高く表面粗さの小さい加工が可能な、石英等のガラス材料が用いられている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】上記のようなX線投影露光装置において、実用的なスループット(例えば、8インチウェファーで30枚/1時間程度)を得るためには、結像光学系を構成する多層膜ミラーの表面には、ある程度の強度のX線(例えば、10 [mW/cm2]程度)を照射する必要がある。一方、前述したように、多層膜ミラーの反射率は最も高くても70%程度であり、残りは多層膜で反射されずに吸収、透過、散乱される。散乱による損失はわずかであり、多層膜を透過したX線はミラー基板によりほぼ完全に吸収される。
【0009】即ち、多層膜ミラーで反射されなかったX線の大部分は多層膜ミラーに吸収されて、そのエネルギーは熱に変換される。この熱によって多層膜ミラーの温度が上昇して熱変形を生じることになる。
【0010】一般に、光学系で回折限界の解像力を得るためには、使用する光の波長と比較して光学系を構成するミラーやレンズの形状誤差を充分小さくする必要がある。そして、X線を用いた光学系では、可視光や紫外線を用いた光学系よりも、波長が短い分だけ形状誤差の許容範囲は狭くなる。そうしてみると、前述したX線照射による多層膜ミラーの熱変形は、多層膜ミラーの結像特性に大きな影響を与えることになり、設計通りの解像力が得られなくなる恐れがある。
【0011】そこで、このような熱変形による結像特性への影響を防ぐために、基板の裏面からミラーを冷却することが行われているが、充分な効果を得ることはできないという問題がある。(なお、X線光学系は真空中で使用されるので、ミラーの表面からの放熱はほとんど無い。)
【0012】従って、熱変形による結像特性への影響を防ぐためには、ミラーへ入射するX線の強度を抑制する他はなく、そうすると当該ミラーを用いた軟X線投影露光装置のスループットが低下するという問題があった。即ち、従来のミラーでは、軟X線投影露光装置の高解像力と高スループットとを両立させることができないという問題があった。
【0013】以上は、軟X線露光装置のX線光学系についてその問題点を説明したが、反射鏡の熱変形に伴う問題は、それ以外のX線光学系やX線波長域とは異なる波長域の光線を使用する光学系においても、程度の差はあれ生じていた。
【0014】本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、形状誤差および表面粗さが小さく、しかもX線などの照射光に起因する熱変形を充分小さく抑えることのできる反射鏡とその製造方法を提供することをを課題とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するための第1の手段は、入射する光線から多量の熱を吸収する場所に使用される反射鏡であって、金属製基板または合金基板と、前記基板の表面に形成され、表面が光学的に平滑に研磨された非晶質物質の薄膜とを有してなることを特徴とする反射鏡(請求項1)である。
【0016】ここに、「表面が光学的に平滑に研磨された」とは、少なくとも完全平坦面における反射率の80%以上の反射率を有するような平滑さに研磨されていることをいう。
【0017】本手段は、X線以外の光線を使用する投影露光装置等に使用されるものであって、反射鏡に入射する光によって発生する熱を反射鏡の裏面に設けられた冷却装置側に効率よく逃すために、基板として金属性基板又は合金製基板を使用している。よって、熱変形によって生じる形状誤差が小さくなる。また、金属性基板又は合金製基板は加工が容易であり、よって、製作の際の形状誤差を小さくすることができる。
【0018】しかしながら、金属製基板又は合金製基板はその表面粗さを小さくすることが困難であり、そのままでは本発明の目的とする反射鏡として使用できない。よって、本手段においては、これらの基板の上に表面が光学的に平滑に研磨された非晶質物質を形成する。非晶質物質は、表面を平滑に研磨することができるので、それを反射面として使用することにより、本発明の目的を達することができる。
【0019】すなわち、本手段によれば、形状誤差及び表面粗さを小さくし、かつ照射光による熱変形を充分小さく押さえることができる。よって、強度の強い照明光を使用することができるので、投影露光装置等の高解像力と高スループットとを両立させることができる。
【0020】前記課題を解決するための第2の手段は、入射する光線又はX線から多量の熱を吸収する場所に使用される反射鏡であって、金属製基板または合金基板と、前記基板の表面に形成され、表面が光学的に平滑に研磨された非晶質物質の薄膜と、前記薄膜の表面に形成され、所定波長のX線を反射する多層膜とを有してなることを特徴とする反射鏡(請求項2)である。
【0021】ここに、「表面が光学的に平滑に研磨された」とは、少なくとも完全平坦面における反射率の80%以上の反射率を有するような平滑さに研磨されていることをいう。
【0022】本手段は、X線を使用する投影露光装置に使用されるものであって、X線を反射するために、多層膜が形成されていることのみが、前記第1の手段と異なっている。その作用は、前記第1の手段と同じであるが、X線を使用する場合には特に入熱量が大きいので、本手段の効果は大きい。
【0023】前記課題を解決するための第3の手段は、前記第1の手段又は第2の手段であって、前記非晶質物質の表面粗さが0.5nm(rms)以下とされていることを特徴とするもの(請求項3)である。
【0024】後に述べるように、非晶質物質の表面粗さが0.5nm(rms)以下とすることにより、実用的なX線に対して、反射率を完全平坦面における反射率の80%以上の反射率を有するようにすることができる。なお、非晶質物質を表面粗さを0.5nm(rms)以下としているので、その上に形成される多層膜の凹凸も同程度になり、光学的に平坦な反射体とすることができる。
【0025】前記課題を解決するための第4の手段は、前記第1の手段から第3の手段のいずれかであって、前記非晶質物質又は前記非晶質物質の主成分をニッケル又はニッケル合金としたことを特徴とするもの(請求項4)である。
【0026】ニッケル合金はメッキにより金属製基板又は合金製基板上に容易に成膜することができ、かつ、加工によりその表面粗さを0.4nm(rms)程度にすることができるので、前記非晶質物質として採用することが好ましい。
【0027】前記課題を解決するための第5の手段は、前記第1の手段から第4の手段のいずれかであって、前記基板の熱伝導率をη [W/mK]、線膨張係数をα [1/K]、光線又はX線から反射鏡に熱流束をQ [W/m2]、反射鏡の平均厚さをd [m]とするとき、α2/(2η)≦10-9 [m] …(1)が成立することを特徴とするもの(請求項5)である。
【0028】(1)式は、熱変形による反射鏡の変形が1nm以下に収まることを意味する式である。(1)式について、図2を用いて説明する。図2は厚さd [m]の反射鏡(簡略化のために平面と仮定)の裏面を一定温度T [K]に保ち、その表面にX線を照射した場合の熱変形Δx [m]を示すものであり、基板の表面の一部に定常的な熱流束Q [W/m2](照射されたX線のうち、反射せずに基板に吸収される分のエネルギー)が投入されたときの、投入部分における基板に垂直な方向(x方向)の伸び(または縮み)Δxを考える。
【0029】ここでは、横方向の熱伝導は考えないこととして単純化する。このとき基板の内部には、図2(b)に示すように、x方向に一様な温度勾配が生じるので、位置xにおける温度(熱浴との温度差)T(x)は、熱伝達率をη [W/mK]として、T(x) = Qx/η …(2)となる。
【0030】そして、基板内の薄い層(厚さδx)の伸びΔ(δx)は、Δ(δx) = αT(x)δx …(3)で与えられる。ここで、αは基板材料の熱膨張係数(線膨張率 [1/K])である。
【0031】従って、基板全体の伸びΔxは、【0032】
【数1】

となる。
【0033】よって、(1)式を満足すれば、熱変形による反射鏡の変形(伸び量)が1nm以下に収まるので、特にX線を使用した投影露光装置の反射鏡として十分な精度のものが得られる。
【0034】前記課題を解決するための第6の手段は、前記第1の手段から第5の手段のいずれかであって、前記基板の熱伝導率が200 [W/mK]以上であることを特徴とするもの(請求項6)である。
【0035】通常熱膨張率を有する金属又は合金を基板として用いた場合、熱伝導率が200[W/mK]以上でないと、特にX線を使用した投影露光装置の反射鏡として使用した場合に、変形が大きくなり、十分な精度のものが得られない。
【0036】前記課題を解決するための第7の手段は、前記第1の手段から第6の手段のいずれかであって、基板の材料が、アルミニウム、アルミニウムを含む合金、銅ま、銅を含む合金、ベリリウム、ベリリウムを含む合金、銀、銀を含む合金、金、金を含む合金からなる群のうちいずれか1つからなることを特徴とするもの(請求項7)である。
【0037】これらの材料は、熱伝導率が高いので、基板の材料として用いるとX線等の入射による熱変形が小さくなり、投影露光装置の反射鏡として好適なものを得ることができる。
【0038】前記課題を解決するための第8の手段は、金属製基板または合金製基板を用意する工程と、前記基板上に、ニッケル合金の非晶質薄膜またはニッケル合金を主成分とする非晶質薄膜を形成する工程と、前記非晶質薄膜の表面を光学的な平滑面に加工する工程とを有してなる反射鏡の製造方法(請求項8)である。
【0039】本手段により、熱変形の小さい金属製基板または合金製基板上に、表面粗さの極小さいニッケル合金の非晶質薄膜またはニッケル合金を主成分とする非晶質薄膜を形成することができ、X線以外の光線を利用した投影露光装置に好適な反射鏡を得ることができる。
【0040】前記課題を解決するための第9の手段は、金属製基板または合金製基板を用意する工程と、前記基板上に、ニッケル合金の非晶質薄膜またはニッケル合金を主成分とする非晶質薄膜を形成する工程と、前記非晶質薄膜の表面を光学的な平滑面に加工する工程と、前記平滑な面に加工された非晶質薄膜の表面に、所定波長のX線を反射する多層膜を形成する工程とを有してなる反射鏡の製造方法(請求項9)である。
【0041】本手段は、前記第8の手段に、所定波長のX線を反射する多層膜を形成する工程が付加されたものであり、本手段により、熱変形の小さい金属製基板または合金製基板上に、表面粗さの極小さいニッケル合金の非晶質薄膜またはニッケル合金を主成分とする非晶質薄膜を形成することができ、従って、X線を反射する多層膜の凹凸も小さくなるので、X線を利用した投影露光装置に好適な反射鏡を得ることができる。
【0042】前記課題を解決するための第10の手段は、前記第8の手段又は第9の手段であって、ニッケル合金の非晶質薄膜またはニッケル合金を主成分とする非晶質薄膜をメッキ法により形成することを特徴とするもの(請求項9)である。
【0043】メッキ法、特に無電解メッキ法を利用すれば、ニッケル合金の非晶質薄膜またはニッケル合金を主成分とする非晶質薄膜は、金属製基板または合金製基板の上に、容易に形成することができる。
【0044】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態の例を示す概略図であり、1は金属製基板、2は非晶質薄膜、3は多層膜である。金属製基板1の上に非晶質2の薄膜が形成され、その上に所定波長のX線を反射する多層膜3が形成されている。X線以外の光線を使用するときは、多層膜3を設ける必要はない。
【0045】金属製基板1は、合金製のものであってもよく、熱伝導率が高く、熱膨張係数の低いものが望ましいが、一般に金属、合金は熱膨張係数が大きいので、熱伝導率が200 [W/mK]以上であることが好ましい。熱伝導率が200 [W/mK]以上の基板材料としては、熱伝導率が非常に大きいアルミニウム、銅、ベリリウム、銀、金、もしくはこれらの少なくとも一つの材料を含む合金がある。
【0046】光学系の波面収差を波長の四分の一以内とするレイリーの条件を用いると、光学系を構成するミラー一枚あたりの形状精度は、(λ/4×1/2)×1/n1/2 …(5)以内に抑えなければならない。ここで、nは光学系を構成するミラーの枚数であり、1/2を掛けてあるのは反射系であるためである。
【0047】(5)式によれば、例えば4枚のミラーによりで構成された光学系を波長13nmで使用する場合、1枚のミラーに許容される形状誤差(許容形状誤差)は0.81nmとなる。
【0048】紫外光を用いた投影露光装置の屈折光学系に広く用いられている溶融石英(SiO2)の熱伝導率は1.38 [W/mK]、熱膨張係数は0.5×10-6 [1/K]である。ここでは、基板へ投入される熱流束Qは10 [mW/cm2]とする。X線投影露光装置において実用的な露光領域の寸法を確保するためには、ミラーの直径は50mm程度は必要である。そして、ミラーの形状を精度良く維持するためには一般に厚さは直径の四分の一程度必要であるで、基板の厚さdは12.5mmとする。
【0049】これらの数値を(1)式に代入して溶融石英の熱変形量を計算すると2.83nmとなる。このように、溶融石英を基板に用いた場合には、熱変形量は、許容誤差である0.81nmからはかけはなれた大きな値になるので、溶融石英を基板に用いたミラーにより構成したX線光学系では回折限界の解像力を得ることはできない。
【0050】(1)式から明らかなように、変形量Δxはα(熱膨張係数)/η(熱伝導率)に比例する。溶融石英では、α/ηは3.62×10-7 [m/W]である。アルミニウムの熱膨張係数は25×10-6/K、熱伝導率は237 [W/mK]なので、α/ηは1.05×10-7 [m/W]となる。銅の熱膨張係数は16.6×10-6/K、熱伝導率は401 [W/mK]なので、α/ηは4.14×10-8 [m/W]となる。ベリリウムの熱膨張係数は12×10-6/K、熱伝導率は201 [W/mK]なので、α/ηは5.95×10-8 [m/W]となる。銀の熱膨張係数は19×10-6/K、熱伝導率は429 [W/mK]なので、α/ηは4.43×10-8となる。金の熱膨張係数は14.2×10-6/K、熱伝導率は318 [W/mK]なので、α/ηは4.47×10-8 [m/W]となる。
【0051】以上のように、アルミニウム、銅、銀、ベリリウム、金などの金属を用いると、溶融石英の場合と比較してα(熱膨張係数)/η(熱伝導率)の値を、1/3〜1/9に低減することができ、従って、変形量Δxもそれだけ小さく抑えることができる。
【0052】しかしながら、一般に金属には微細な結晶粒界が存在するので、その表面をナノメートルオーダーの平滑な表面に研磨することは困難である。Alan G.Michette著のOptical Systems for X Rays (1986 Plenum Press, New York)の74頁に、X線用のミラー材料の候補となる物質について、研磨加工により得ることできる表面粗さが記されている。それによると、各材料で得られた最小の表面粗さのrms値(二乗平均値)は、溶融石英とCVD(Chemical Vapor Deposition)法で作製したSiCで最も小さく0.4nmである。これらの材料は、微細構造を持たない非晶質物質なので平滑な表面を得ることができる。
【0053】しかし、金属の場合には、アルミニウムは1.0nm(rms)程度、銅では1.3nm(rms)程度の表面粗さまでにしか加工することができない。金、銀、ベリリウムについても、これらと同程度以下の表面粗さまでにしか加工することができない。
【0054】X線用の多層膜ミラーの基板に必要な表面粗さの大きさは次式により見積もることができる。
R/R0 = exp{-4π(σsinθ/λ)2} …(6)ただし、R0:表面粗さが無いときの反射率R:表面粗さによる散乱損失があるときの反射率σ:表面粗さのrms値λ:X線の波長θ:斜入射角ここで、λ=13nm、θ=90゜(垂直入射)としたときの、表面粗さσに対するR/R0の値を図3に示す。
【0055】この図より明らかなように、表面粗さ0.4nm(rms)のSiCや溶融石英を多層膜ミラーの基板に使用すれば、粗さが無い理想的な場合の9割近い反射率が得られるが、表面粗さ1nm程度以上の金属を基板に使用した場合には、X線の反射率は半分以下に低下してしまう。
【0056】そこで本発明者らは、鋭意検討の結果、高熱伝導率の基板(例えば、アルミニウム、銅、ベリリウム、銀、金、もしくは、それらを含む合金)の表面に、表面粗さを小さくできる非晶質物質層を形成すれば、熱変形と表面粗さのいずれも充分に小さいミラー基板を製造できることを見い出した。
【0057】即ち、図1に示すように、アルミニウム、銅、ベリリウム、銀、金、もしくは、それらを含む合金等の金属の上に非晶質物質の薄膜層(例えば、ニッケル合金の非晶質薄膜層またはニッケル合金を主成分とする非晶質薄膜層)を形成し、この表面に加工(例えば、切削、研削、研磨)を施してミラーとするか、あるいは前記加工を施した非晶質物質の薄膜層上にさらにX線反射多層膜を形成して多層膜ミラーをとすれば、熱変形と表面粗さのいずれも充分に小さいミラーを製造できる。
【0058】そして、図3から明らかなように、前記非晶質物質の薄膜層の表面粗さ(rms)を0.5nm以下とすれば、反射率の低下を20%以下に抑えることができるので好ましい。表面粗さがこれを超えると反射率は急激に低下する。
【0059】前記Michetteの書物には、無電解メッキにより形成したニッケルの表面粗さは1.1nmとされているが、最近の加工(例えば、切削、研削、研磨)技術の進歩によりSiCや溶融石英に匹敵する表面粗さの小さい加工が可能になってきた。
【0060】そこで、本実施の形態では、前記非晶質物質の薄膜層として、ニッケル合金の非晶質薄膜層またはニッケル合金を主成分とする非晶質薄膜層を採用する。
【0061】(1)式により、アルミニウムの表面にニッケル薄膜を形成した基板の熱変形Δxを調べる。基板に投入される熱流束Qは10 [mW/cm2]、基板全体の厚さは12.5mmとする。このときのアルミニウム基板のみの変形量は0.83nmである。この表面に1mmの厚さのニッケル薄膜層を形成しても、ニッケル薄膜層の熱変形は0.007nmであり、熱変形Δxはアルミニウムだけの場合とほとんど変わらないので、許容される形状誤差よりも充分小さく熱変形を抑えることができる。
【0062】(1)式により、銅の表面にニッケル薄膜を形成した基板の熱変形Δxを調べる。基板に投入される熱流束Qは10 [mW/cm2]、基板全体の厚さは12.5mmとする。このときの銅基板のみの変形量は0.32nmである。この表面に1mmの厚さのニッケル薄膜層を形成しても、ニッケル薄膜層の熱変形は0.007nmであり、熱変形Δxは銅だけの場合とほとんど変わらないので、許容される形状誤差よりも充分小さく熱変形を抑えることができる。
【0063】(1)式により、ベリリウムの表面にニッケル薄膜を形成した基板の熱変形Δxを調べる。基板に投入される熱流束Qは10 [mW/cm2]、基板全体の厚さは12.5mmとする。このときのベリリウム基板のみの変形量は0.47nmである。この表面に1mm の厚さのニッケル薄膜層を形成しても、ニッケル薄膜層の熱変形は0.007nmであり、熱変形Δxはベリリウムだけの場合とほとんど変わらないので、許容される形状誤差よりも充分小さく熱変形を抑えることができる。
【0064】(1)式により、銀の表面にニッケル薄膜を形成した基板の熱変形Δxを調べる。基板に投入される熱流束Qは10 [mW/cm2]、基板全体の厚さは12.5mmとする。このときの銀基板のみの変形量は0.35nmである。この表面に1mmの厚さのニッケル薄膜層を形成しても、ニッケル薄膜層の熱変形は0.007nmであり、熱変形Δxは銀だけの場合とほとんど変わらないので、許容される形状誤差よりも充分小さく熱変形を抑えることができる。
【0065】(1)式により、金の表面にニッケル薄膜を形成した基板の熱変形Δxを調べる。基板に投入される熱流束Qは10 [mW/cm2]、基板全体の厚さは12.5mmとする。このときの金基板のみの変形量は0.35nmである。この表面に1mmの厚さのニッケル薄膜層を形成しても、ニッケル薄膜層の熱変形は0.007nmであり、熱変形Δxは金だけの場合とほとんど変わらないので、許容される形状誤差よりも充分小さく熱変形を抑えることができる。
【0066】基板上に形成した非晶質薄膜の表面を加工(例えば、切削、研削、研磨)技術により必要な表面粗さに研磨するとミラー基板が完成する。なお、X線用のミラーとして使用するときには、加工した非晶質薄膜の表面にさらにX線を反射するための多層膜を形成すればよい。この多層膜の厚さは0.数μm以下しかないので、その熱変形は無視することができる。
【0067】ニッケル合金等からなる非晶質薄膜層は、メッキ法、特に無電解メッキ法により形成することができる。
【0068】
【実施例】以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
(実施例1)本実施例では、アルミニウムの表面に無電解メッキによりニッケル合金(Ni90wt%−P10wt%)の非晶質薄膜を形成し、その表面を加工(切削、研削、研磨)して必要な表面粗さとし、さらに加工した非晶質薄膜の表面にX線反射多層膜を形成して、直径50mm、曲率半径500mm、中心厚さ12.5mmのX線多層膜反射ミラーを製造した。図1を参照して、その製造工程を順に説明する。
【0069】まず、アルミニウム素材を切削加工して直径50mm、中心厚さ12mm、表面が曲率半径500mmの凹面で裏面が平面のアルミニウム製基板1を作製した。そして、基板表面(薄膜を形成する面)を電解研磨加工により表面粗さ10nm(rms)以下の鏡面に仕上げてから、この表面に無電解メッキ法によりニッケル合金(Ni90wt%−P10wt%)からなる非晶質薄膜2を厚さ500μmとなるように形成した。
【0070】次に、非晶質薄膜2の表面を切削および研磨して、表面粗さが0.4nm(rms)になるまで平滑にした。このようにして、アルミニウム製基板1上にニッケル合金からなる非晶質薄膜2を形成したX線ミラー用の基板を作製した。
【0071】最後に、イオンビームスパッタリングにより、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)からなる周期長6.7nm、積層数50層のX線反射多層膜3を基板の表面に形成してX線多層膜ミラーを完成した。
【0072】この多層膜ミラーは、裏面を冷却して一定温度に保っておけば、10 [mW/cm2]の熱流束がその全面あるいは一部に入射しても、熱変形は0.1nm以下となり、波長13nmのX線を用いた回折限界の光学系を構成することができた。
【0073】高熱伝導率の金属製基板1の材料に、アルミニウムの代わりにアルミニウムを含む合金材料を用いても同様の結果が得られた。
【0074】(実施例2)本実施例では、銅の表面に無電解メッキによるニッケル合金の非晶質薄膜を形成し、その表面を加工(切削、研削、研磨)して必要な表面粗さとし、さらに加工した非晶質薄膜の表面にX線反射多層膜を形成して、直径50mm、曲率半径500mm、中心厚さ12.5mmのX線多層膜反射ミラーを製造した。図1を参照して、その製造工程を順に説明する。
【0075】まず、銅素材を切削加工して直径50mm、中心厚さ12mm、表面が曲率半径500mmの凹面で裏面が平面の銅製基板1を作製した。
【0076】そして、基板表面(薄膜を形成する面)を電解研磨加工により表面粗さ10nm(rms)以下の鏡面に仕上げてから、この表面に無電解メッキ法によりニッケル合金(Ni90wt%−P10wt%)からなる非晶質薄膜2を厚さ500μmとなるように形成した。
【0077】次に、非晶質薄膜2の表面を切削および研磨して、表面粗さが0.4nm(rms)になるまで平滑にした。このようにして、銅製基板1上にニッケル合金からなる非晶質薄膜2を形成したX線ミラー用の基板を作製した。
【0078】最後に、マグネトロンスパッタリングにより、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)からなる周期長6.7nm、積層数50層のX線反射多層膜3を基板の表面に形成してX線多層膜ミラーを完成した。
【0079】この多層膜ミラーは、裏面を冷却して一定温度に保っておけば、10 [mW/cm2]の熱流束がその全面あるいは一部に入射しても、熱変形は0.1nm以下となり、波長13nmのX線を用いた回折限界の光学系を構成することができた。
【0080】高熱伝導率の金属製基板1の材料に、銅の代わりに銅を含む合金材料を用いても同様の結果が得られた。
【0081】(実施例3)本実施例では、ベリリウムの表面に無電解メッキによるニッケル合金の非晶質薄膜を形成し、その表面を加工(切削、研削、研磨)して必要な表面粗さとし、さらに加工した非晶質薄膜の表面にX線反射多層膜を形成して、直径50mm、曲率半径500mm、中心厚さ12.5mmのX線多層膜反射ミラーを製造した。図1を参照して、その製造工程を順に説明する。
【0082】まず、ベリリウム素材を切削加工して直径50mm、中心厚さ12mm、表面が曲率半径500mmの凹面で裏面が平面のベリリウム製基板1を作製した。そして、基板表面(薄膜を形成する面)を電解研磨加工により表面粗さ10nm(rms)以下の鏡面に仕上げてから、この表面に無電解メッキ法によりニッケル合金(Ni90wt%−P10wt%)からなる非晶質薄膜2を厚さ500μmとなるように形成した。
【0083】次に、非晶質薄膜2の表面を切削および研磨して、表面粗さが0.4nm(rms)になるまで平滑にした。このようにして、ベリリウム製基板1上にニッケル合金からなる非晶質薄膜2を形成したX線ミラー用の基板を作製した。
【0084】最後に、イオンビームスパッタリングにより、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)からなる周期長6.7nm、積層数50層のX線反射多層膜3を基板の表面に形成してX線多層膜ミラーを完成した。
【0085】この多層膜ミラーは、裏面を冷却して一定温度に保っておけば、10 [mW/cm2]の熱流束がその全面あるいは一部に入射しても、熱変形は0.1nm以下となり、波長13nmのX線を用いた回折限界の光学系を構成することができた。
【0086】高熱伝導率の金属製基板1の材料に、ベリリウムの代わりにベリリウムを含む合金材料を用いても同様の結果が得られた。
【0087】(実施例4)本実施例では、銀の表面に無電解メッキによるニッケル合金の非晶質薄膜を形成し、その表面を加工(切削、研削、研磨)して必要な表面粗さとし、さらに加工した非晶質薄膜の表面にX線反射多層膜を形成して、直径50mm、曲率半径500mm、中心厚さ12.5mmのX線多層膜反射ミラーを製造した。図1を参照して、その製造工程を順に説明する。
【0088】まず、銀素材を切削加工して直径50mm、中心厚さ12mm、表面が曲率半径500mmの凹面で裏面が平面の銀製基板1を作製した。
【0089】そして、基板表面(薄膜を形成する面)を電解研磨加工により表面粗さ10nm(rms)以下の鏡面に仕上げてから、この表面に無電解メッキ法によりニッケル合金(Ni90wt%−P10wt%)からなる非晶質薄膜2を厚さ500μmとなるように形成した。
【0090】次に、非晶質薄膜2の表面を切削および研磨して、表面粗さが0.4nm(rms)になるまで平滑にした。このようにして、銀製基板1上にニッケル合金からなる非晶質薄膜2を形成したX線ミラー用の基板を作製した。
【0091】最後に、マグネトロンスパッタリングにより、モリブデン(Mo)とシリコンカーバイド(SiC)からなる周期長6.7nm、積層数50層のX線反射多層膜3を基板の表面に形成してX線多層膜ミラーを完成した。
【0092】この多層膜ミラーは、裏面を冷却して一定温度に保っておけば、10 [mW/cm2]の熱流束がその全面あるいは一部に入射しても、熱変形は0.1nm以下となり、波長13nmのX線を用いた回折限界の光学系を構成することができた。
【0093】高熱伝導率の金属製基板1の材料に、銀の代わりに銀を含む合金材料を用いても同様の結果が得られた。
【0094】(実施例5)本実施例では、金の表面に無電解メッキによるニッケル合金の非晶質薄膜を形成し、その表面を加工(切削、研削、研磨)して必要な表面粗さとし、さらに加工した非晶質薄膜の表面にX線反射多層膜を形成して、直径50mm、曲率半径500mm、中心厚さ12.5mmのX線多層膜反射ミラーを製造した。図1を参照して、その製造工程を順に説明する。
【0095】まず、金素材を切削加工して直径50mm、中心厚さ12mm、表面が曲率半径500mmの凹面で裏面が平面の金製基板1を作製した。
【0096】そして、基板表面(薄膜を形成する面)を電解研磨加工により表面粗さ10nm(rms)以下の鏡面に仕上げてから、この表面に無電解メッキ法によりニッケル合金(Ni90wt%−P10wt%)からなる非晶質薄膜2を厚さ500μmとなるように形成した。
【0097】次に、非晶質薄膜2の表面を切削および研磨して、表面粗さが0.4nm(rms)になるまで平滑にした。このようにして、金製基板1上にニッケル合金からなる非晶質薄膜2を形成したX線ミラー用の基板を作製した。
【0098】最後に、イオンビームスパッタリングにより、モリブデン(Mo)とシリコンカーバイド(SiC)からなる周期長6.7nm、積層数50層のX線反射多層膜3を基板の表面に形成してX線多層膜ミラーを完成した。
【0099】この多層膜ミラーは、裏面を冷却して一定温度に保っておけば、10 [mW/cm2]の熱流束がその全面あるいは一部に入射しても、熱変形は0.1nm以下となり、波長13nmのX線を用いた回折限界の光学系を構成することができた。
【0100】高熱伝導率の金属製基板1の材料に、金の代わりに金を含む合金材料を用いても同様の結果が得られた。
【0101】なお、以上の実施例では高熱伝導率の金属製基板1の材料としてアルミニウム、銅、ベリリウム、銀、金を用いたが、金属製基板1の材料はこれらに限定されない。但し、その熱伝導率は200 [W/mK]以上であることが好ましい。
【0102】これらの実施例にかかる反射鏡によれば、形状誤差及び表面粗さを小さくし、かつX線などの照射光による熱変形を充分小さく抑えることができた。そして、これらの実施例にかかる反射鏡は、これをX線光学系として用いたとき、X線投影露光装置の高解像力と高スループットとを両立させることができる。
【0103】これらの実施例にかかる反射鏡は、X線投影露光装置以外のX線光学系や、X線以外の波長域で使用する高精度の反射光学系にも適用可能であり、同様の効果が得られる。なお、X線以外の波長域で使用する高精度の反射光学系に適用する場合には、X線を反射する多層膜3は不要である。
【0104】(実施例6)本実施例では、実施例1で作製したX線多層膜反射ミラーを、軟X線投影露光装置の投影光学系に適用した。図4を用いてこの軟X線投影露光装置への応用について説明する。図4において、11はX線源、12、13はX線多層膜ミラー(照明系)、14はマスクステージ、15は反射マスク、16〜19はX線多層膜ミラー(投影系)、20はウェハステージ、21はウェハである。
【0105】X線源11にはレーザープラズマ光源を使用した。X線源11から放射された光束は、2枚のX線多層膜ミラー12,13からなる照明光学系で集光され、マスクステージ14上に保持された反射マスク15を照明する。反射マスク15で反射した光束は、4枚のX線多層膜ミラー16〜19で構成される投影光学系を通り、ウェハステージ20上に保持されたウェハ21上に到達する。投影光学系は、反射マスク15上に形成されている回路パターンを、1/4に縮小した像をウェハ21上に転写する。
【0106】照明系および投影系を構成するX線多層膜ミラー12、13、16〜19及び反射マスク15には、波長13nm付近の軟X線を反射するモリブデン(Mo)/シリコン(Si)多層膜が使用されている。
【0107】X線多層膜ミラーの反射率は70%程度であり、残りの30%はミラーに吸収されて熱になる。X線の強度は、X線多層膜ミラーを反射する毎に、吸収による損失分だけ低下していく。従って、それぞれのX線多層膜ミラーへ入射するX線の強度は、X線源11に近い上流側のミラーほど大きい。吸収した熱を逃がすために、各ミラーは水冷等の手段により冷却されている。
【0108】投影光学系を構成する4枚のミラー16〜19の反射面の形状は、いずれも光軸lの周りに回転対称である。ミラー18は光軸l上に配置され、ミラー18の有効径が投影光学系の絞りとなっている。ミラー18は、投影系の中でも下流(4枚中3番目)にあるので入射するX線強度はあまり強くはないが、X線の照射される面積が小さいために、単位面積あたりの照射X線強度は、投影系を構成する4枚のミラーの中で一番大きい。
【0109】そこで、投影系の中で最も熱負荷の大きいミラー18に、実施例1で作製したアルミニウム製基板上にニッケル合金(Ni90wt%−P10wt%)からなる非晶質薄膜を形成し、その上にモリブデン(Mo)/シリコン(Si)多層膜を成膜してなるX線多層膜反射ミラーを採用した。30枚/時間のスループットを得る条件では、ミラー18へ入射するX線強度は約30 [mW/cm2]であった。ミラー18へ入射したX線の内30%の約9 [mW/cm2]が吸収されて熱負荷となるが、熱変形は0.8nm以下となり波長13nmのX線を用いた回折限界の光学系を構成することができた。
【0110】(実施例7)本実施例では、実施例2で作製したX線多層膜反射ミラーを、軟X線投影露光装置の照明光学系に適用した。図4を参照して、本実施例を説明する。
【0111】前述のように、X線多層膜ミラーの反射率は70%程度であり、残りの30%はミラーに吸収されて熱になる。X線の強度は、X線多層膜ミラーを反射する毎に、吸収による損失分だけ低下していく。従って、それぞれのX線多層膜ミラーへ入射するX線の強度は、X線源11に近い上流側のミラーほど大きい。特に、X線源11の直後に配置される照明系のX線多層膜ミラー12,13へ入射するX線強度は大きく、これが熱負荷となりミラーの変形や多層膜の劣化の原因となる。
【0112】そこで、照明系を構成するミラー12およびミラー13に、実施例2で作製した銅製基板上にニッケル合金(Ni90wt%−P10wt%)からなる非晶質薄膜を形成し、その上にモリブデン(Mo)/シリコン(Si)多層膜を成膜してなるX線多層膜反射ミラーを採用した。30枚/時間のスループットを得る条件では、ミラー12およびミラー13へ入射するX線強度は約100 [mW/cm2]であった。ミラー12及びミラー13へ入射したX線の内30%の30 [mW/cm2]が吸収されて熱負荷となるが、熱変形は1nm以下となり波長13nmのX線を用いた、ほぼ回折限界に近い光学系を構成することができた。また、熱負荷による多層膜の劣化(経時変化)も生じなかった。
【0113】
【発明の効果】以上説明したように、本発明にかかる反射鏡によれば、形状誤差および表面粗さを小さくし、かつX線などの照射光による熱変形を充分小さく抑えることができるので、高精度の光学系を提供できる。そのため、本発明にかかる反射鏡は、これをX線光学系に用いたX線投影露光装置の高解像力と高スループットを両立させることができる。
【0114】また、本発明にかかる反射鏡は、X線投影露光装置以外のX線光学系や、X線以外の波長域で使用する高精度の反射光学系にも適用可能であり、同様の効果が得られる。
【出願人】 【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
【出願日】 平成10年(1998)5月8日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】細江 利昭
【公開番号】 特開平11−326598
【公開日】 平成11年(1999)11月26日
【出願番号】 特願平10−140405