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【発明の名称】 蛍石の屈折率測定方法、蛍石の選別方法および蛍石
【発明者】 【氏名】佐久間 繁

【要約】 【課題】蛍石の屈折率を直接測定することなく、蛍石の屈折率を間接的に容易に測定する方法の提供。

【解決手段】ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光装置)を用いて蛍石の鉛含有率を測定し、この鉛含有率に基づいて蛍石の非鉛含有時の屈折率に対する屈折率増加量を算出することにより、蛍石の屈折率を求める。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 蛍石の屈折率を測定するにあたり、当該蛍石の鉛含有率を測定することを特徴とする蛍石の屈折率測定方法。
【請求項2】 請求項1に記載の蛍石の屈折率測定方法において、前記鉛含有率の測定範囲を、重量比で0ppm〜2000ppmとすることを特徴とする蛍石の屈折率測定方法。
【請求項3】 請求項1に記載の蛍石の屈折率測定方法において、前記鉛含有率の測定範囲を、重量比で20ppm〜2000ppmとすることを特徴とする蛍石の屈折率測定方法。
【請求項4】 蛍石の屈折率を測定するにあたり、当該蛍石の光の透過率を測定することを特徴とする蛍石の屈折率測定方法。
【請求項5】 請求項4に記載の蛍石の屈折率測定方法において、波長200nm〜210nmの光に対する前記透過率を測定することを特徴とする蛍石の屈折率測定方法。
【請求項6】 請求項4に記載の蛍石の屈折率測定方法において、前記透過率を測定するにあたり、前記蛍石の互いに対向する劈開面間を透過する光の透過率を測定することを特徴とする蛍石の屈折率測定方法。
【請求項7】 蛍石の鉛含有率を測定し、前記鉛含有率が重量比で370ppm以下の蛍石を選択することを特徴とする蛍石の選別方法。
【請求項8】 請求項7に記載の蛍石の選別方法において、前記鉛含有率が重量比で40ppm以下の蛍石を選択することを特徴とする蛍石の選別方法。
【請求項9】 波長200nm〜210nmの光に対する蛍石の1mmあたりの透過率を測定し、前記透過率が5%以上の蛍石を選択することを特徴とする蛍石の選別方法。
【請求項10】 請求項9に記載の蛍石の選別方法において、前記透過率が70%以上の蛍石を選別することを特徴とする蛍石の選別方法。
【請求項11】 請求項9に記載の蛍石の選別方法において、前記透過率を測定するにあたり、前記蛍石の互いに対向する劈開面間を透過する光の透過率を測定することを特徴とする蛍石の選別方法。
【請求項12】 鉛含有率が重量比で370ppm以下であることを特徴とする蛍石。
【請求項13】 請求項12に記載の蛍石において、前記鉛含有率が重量比で40ppm以下であることを特徴とする蛍石。
【請求項14】 波長200nm〜210nmの光に対する1mmあたりの透過率が5%以上であることを特徴とする蛍石。
【請求項15】 請求項14に記載の蛍石において、前記透過率が70%以上であることを特徴とする蛍石。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、光学材料としての蛍石(フッ化カルシウム(CaF2 )の結晶)、蛍石の屈折率の測定方法およびその測定方法を用いた蛍石の選別方法に関する。
【0002】
【従来の技術】蛍石は、低屈折率および高分散という光学的物性を有する。このため、蛍石は、色収差補正用の光学材料として光学機器に広く用いられている。このような光学機器としては、例えば、テレビカメラ、銀塩カメラ、望遠鏡および顕微鏡が挙げられる。
【0003】さらに、蛍石は、紫外線に対する高い透過率を有し、かつ、ソラリゼーション(光照射によって透過率が低下する現象)を起こさないという性質を有する。このため、蛍石は、近年、エキシマレーザ等の紫外光を光源とする半導体露光装置(「ステッパー」または「スキャナー」とも称する。)の光学系にも使われるようになった。
【0004】そして、蛍石は単一組成である。その結果、一般に、市販の蛍石は、ロット毎の屈折率のばらつきが一般の光学ガラスのロット毎の屈折率のばらつきよりも小さい。このため、光学部材として市販の蛍石を使用する場合には、通常、その屈折率の測定を行うことなく使用していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、色収差補正用の光学材料の屈折率には、設計上、高い精度が要求される。また、ステッパーの光学系に使用される光学材料の屈折率には、さらに高い精度が要求される。この屈折率の精度としては、例えば、小数点以下第6桁目の数値が要求される。
【0006】そこで、この出願に係る発明者が蛍石のロット毎の屈折率を測定したところ、測定値が設計上の屈折率から許容値以上ずれている場合があることが判明した。この許容値とは、例えば、可視光の色収差補正用の光学材料の場合、50×106程度である。また、例えば、ステッパー用の光学材料の屈折率の許容値は、さらに厳しく、5×106程度である。
【0007】そして、蛍石の実際の屈折率が、許容範囲内(設計上の屈折率からのずれが許容値以内)でない場合には、光学系の設計をやり直していた。設計のやり直しにあたっては、例えば、レンズの曲率半径を微妙に変更したりしていた。設計のやり直しを回避するためには、予め蛍石の屈折率を測定しておき、屈折率が許容範囲内の蛍石だけを選別して使用することが望ましい。
【0008】しかしながら、蛍石の屈折率を測定するにあたっては、蛍石に要求される設計上の精度が高いため、例えば小数点以下6桁までの値を測定する必要がある。その上、屈折率測定のためのテストピースの加工や研磨、さらには、屈折率の測定作業に大変手間がかかるという問題があった。
【0009】このため、この発明の第1の目的は、蛍石の屈折率を直接測定することなく、蛍石の屈折率を間接的に容易に測定する方法の提供にある。
【0010】また、この発明の第2の目的は、蛍石の屈折率を直接測定することなく、屈折率が許容範囲内の蛍石を容易に選別する方法の提供にある。
【0011】また、この発明の第3の目的は、屈折率が許容範囲内の蛍石の提供にある。
【0012】
【課題を解決するための手段】(第1の蛍石の屈折率測定方法)この出願に係る発明者は、種々の実験および検討を重ねた結果、蛍石の鉛含有率(鉛濃度)が高くなると、その蛍石の屈折率も高くなる傾向があることを見出した。即ち、鉛含有率が一定値以下ならば、その蛍石の屈折率は、鉛を含有しない蛍石の屈折率を設計上の屈折率とした場合の許容範囲内であることを見出した。そして、この発明者は、蛍石の鉛含有率を測定すれば、屈折率を直接測定することなく、蛍石の屈折率を間接的に知ることができることに想到した。
【0013】尚、垂直ブリッジマン法等により結晶成長した蛍石に鉛が含まれる理由は、結晶成長の際に、蛍石の原料中の酸化物を除去するためのスカベンジャーとしてフッ化鉛を使用するためである。そして、フッ化鉛の添加量が不適当であったり、製造条件が不適切であると、鉛成分が蛍石中に残留することになる。
【0014】そこで、この発明の第1の蛍石の屈折率測定方法によれば、蛍石の屈折率を測定するにあたり、当該蛍石の鉛含有率を測定することを特徴とする。
【0015】このように、蛍石の鉛含有率を測定すれば、屈折率を直接測定することなく、蛍石の屈折率を容易に知ることができる。
【0016】また、この発明の第1の蛍石の屈折率測定方法において、好ましくは、鉛含有率の測定範囲を、重量比で0ppm〜2000ppmとするのが良い。
【0017】この発明者の測定によれば、蛍石の鉛含有率5000ppm程度までの測定範囲では、鉛含有率と屈折率とが実質的に比例している。そして、2000ppm以下の測定範囲では、鉛含有率と屈折率増加量とがより線形関係を有している。このため、例えば、鉛濃度と屈折率増加量との関係を比例定数で容易に表すことができる。その結果、この測定範囲では、鉛含有率から屈折率増加量を容易に求めることにより、蛍石の屈折率を容易に求めることができる。
【0018】尚、鉛含有量が0ppmとは、鉛が含有されていない状態を意味する。上述のように、蛍石に鉛が含有されることにより、蛍石の屈折率が増加する。このため、蛍石に鉛が含有されていないことが最も好ましい。従って、鉛は、蛍石の必須構成成分ではない。
【0019】また、この発明の第1の蛍石の屈折率測定方法において、より好ましくは、鉛含有率の測定範囲を、重量比で20ppm〜2000ppmとするのが良い。
【0020】20ppm〜2000ppmの測定範囲では、鉛含有率と屈折率増加量とがより線形の関係を有する。このため、この測定範囲では、鉛含有率から屈折率増加量をより容易に求めることができる。その結果、蛍石の屈折率を容易に求めることができる。
【0021】(第2の蛍石の屈折率測定方法)ところで、蛍石の鉛含有率の測定は、その屈折率の測定よりは容易であるものの、一般に時間を要する。例えば、試料中の元素の定量分析に一般的に用いられているICP−AES(inductively coupled plasma - atomic emission spectrometer 、誘導結合プラズマ発光分光分析装置)を使用して鉛含有率を定量分析する場合には、通常数時間を要する。このため、より容易に蛍石の屈折率を知る方法の出現が望まれる。
【0022】そこで、この出願に係る発明者は、蛍石の鉛含有率が高くなると、蛍石の透過率が低下する現象に着目した。
【0023】そして、この発明の第2の蛍石の屈折率測定方法によれば、蛍石の屈折率を測定するにあたり、当該蛍石の光の透過率を測定することを特徴とする。
【0024】このように、蛍石の透過率を測定すれば、蛍石の鉛含有率を知ることができる。そして、上述したように、鉛含有率が分かれば、蛍石の屈折率を知ることができる。従って、この発明の第2の蛍石の屈折率測定方法によれば、蛍石の透過率を測定することにより、屈折率を直接測定することなく、蛍石の屈折率を容易に測定することができる。
【0025】さらに、この出願に係る発明者は、鉛を含有する蛍石が波長200〜210nmの波長帯域の紫外光に対して急峻な吸収ピークを有することに着目した。
【0026】そこで、この発明の第2の蛍石の屈折率測定方法において、好ましくは、波長200nm〜210nmの光に対する前記透過率を測定するのが良い。
【0027】このように波長200nm〜210nmの光に対する透過率を測定すれば、容易に、蛍石の屈折率を間接的に測定することができる。
【0028】また、この発明の実施にあたり、好ましくは、透過率を測定するにあたり、前記蛍石の互いに対向する劈開面間を透過する光の透過率を測定するのが望ましい。
【0029】蛍石は、劈開性を有するのため、容易に劈開面を生じる。そして、互いに対向した劈開面どうしは平行となる。このため、これらの劈開面間を透過する光の透過率を測定すれば、テストピースを研磨する必要がないため、より容易に蛍石の屈折率を求めることができる。
【0030】(第1の蛍石の選別方法)上述したように、この発明者は、蛍石の鉛含有率が高くなると、その蛍石の屈折率も高くなる傾向があることを見出した。そして、この発明者は、鉛含有率が一定値以下ならば、その蛍石の屈折率は、鉛非含有の蛍石の屈折率を設計上の屈折率とした場合の許容範囲内であることになることに想到した。そして、この発明者は、鉛含有率を測定することによって、屈折率が許容範囲内にある蛍石だけを選別して用いれば、許容範囲外の屈折率の蛍石のために光学系の設計をやり直すことを回避することができると考えた。
【0031】そこで、この発明の第1の蛍石の選別方法によれば、蛍石の鉛含有率を測定し、鉛含有率が重量比で370ppm以下の蛍石を選択することを特徴とする。
【0032】尚、上述したように、鉛は蛍石の必須構成成分ではない。従って、鉛含有率の下限値は0ppmである。
【0033】次に、この370ppmという数値の根拠について説明する。鉛含有の蛍石の屈折率と鉛非含有の蛍石の屈折率との差Δndと、鉛含有率cとの関係は、おおよそ下記の(1)式で表すことができる。
【0034】Δnd=K×c・・・(1)
ここで、Kは比例定数である。そして、後述の実施の形態において説明するように、測定結果、K=0.134×106(1/ppm)という値を得た。
【0035】また、上述のように、可視光の色収差補正用の光学材料の場合の許容値は、50×106程度である。そこで、上記の(1)式のΔndに、この許容値を代入すると、鉛含有率c=373≒370(ppm)という値が得られる。従って、鉛含有率370ppm以下の蛍石は、可視光の色収差用の光学材料に要求される屈折率精度をほぼ満足することが分かる。従って、一般の可視光の色収差用の光学材料として鉛含有率370ppm以下の蛍石を使用すれば、光学系の設計のやり直しを回避することができる。
【0036】さらに、この発明の第1の蛍石の選別方法において、好ましくは、鉛含有率が重量比で40ppm以下の蛍石を選択するのが良い。
【0037】次に、この40ppmという数値の根拠について説明する。上述のように、ステッパー用の光学材料の許容値は、一般の光学材料の許容値よりもさらに厳しい5×106程度である。従って、上記の(1)式のΔndに、この許容値を代入すると、鉛含有率c=37≒40(ppm)が得られる。従って、鉛含有率40ppm以下の蛍石は、ステッパー用の光学材料に要求される屈折率精度をほぼ満足することが分かる。従って、ステッパー用の光学材料として鉛含有率40ppm以下の蛍石を使用すれば、光学系の設計のやり直しを回避することができる。
【0038】(第2の蛍石の選別方法)上述したように、この発明者は、蛍石の鉛含有率が高くなると、蛍石の透過率が低下する現象に着目した。そして、この発明者は、透過率が一定値以上ならば、その蛍石の鉛含有率が一定値以下となることに想到した。鉛含有率は、上述したように、屈折率と相関関係を有する。従って、透過率が一定値以上ならば、その蛍石の屈折率は、鉛を含有しない蛍石の屈折率を設計上の屈折率とした場合の許容範囲内であることになる。
【0039】そして、この発明者は、蛍石の透過率を測定することによって、屈折率が許容範囲内にある蛍石を選別しておけば、許容範囲外の屈折率の蛍石のために光学系の設計をやり直すことを回避することができると考えた。
【0040】そこで、この発明の第2の蛍石の選別方法によれば、波長200nm〜210nmの光に対する蛍石の1mmあたりの透過率を測定し、透過率が5%以上の蛍石を選択することを特徴とする。
【0041】次に、この5%という数値の根拠について説明する。波長200nm〜210nmの光に対する蛍石1mmあたりの透過率Tと、蛍石の鉛含有率cとの間には、一般に、Lambert-Berrの法則と呼ばれる、下記の(2)式に示す関係が成り立つ。
【0042】
T=Io/Ii=exp{−acd}・・・(2)
上記の(2)式に示すように、透過率Tは、光の入射強度Iiと出射強度Ioとの比で与えられる。また、上記の(2)式において、aは吸収係数、cは鉛含有率、dはサンプルの厚さ(光が透過する部分の厚さ)をそれぞれ表す。そして、後述の実施の形態において説明するように、測定の結果、吸収係数a=0.08(1/(ppm・cm))という値を得た。
【0043】また、上述のように、可視光の色収差補正用の一般の光学材料の場合の屈折率の許容値は、50×106である。そこで、この許容値の屈折率差に相当する前述の鉛含有率370ppmという値を上記の(2)式のcに代入する。さらに、サンプル1mmあたりの透過率を求めるため、上記の(2)式のdに、d=0.1(cm)と代入する。その結果、透過率T=0.05という値が得られる。従って、透過率5%以上の蛍石は、鉛含有率が、ほぼ370ppm以下であることが分かる。その結果、透過率5%以上の蛍石は、可視光の色収差用の光学材料に要求される屈折率精度をほぼ満足することが分かる。従って、蛍石の透過率を測定することによって、その屈折率を容易に知ることができる。
【0044】そして、可視光の色収差用の光学材料としてこの透過率が5%以上の蛍石を使用すれば、光学系の設計のやり直しを回避することができる。
【0045】また、この発明の第2の蛍石の選別方法において、好ましくは、透過率が70%以上の蛍石を選別するのが良い。尚、透過率の上限値は、100%である。
【0046】次に、この70%という数値の根拠について説明する。上述のように、例えばステッパー用の光学材料の場合には、鉛含有率は、40ppm以下であることが要求される。従って、上記の(2)式のcに、c=40(ppm)と代入すると、透過率T=0.73≒0.70という値が得られる。従って、波長200nm〜210nmの光に対する透過率が70%以上の蛍石は、ステッパー用の光学材料に要求される屈折率精度をほぼ満足することが分かる。
【0047】従って、ステッパー用の光学材料として透過率が70%以上の蛍石を使用すれば、光学系の設計のやり直しを回避することができる。
【0048】また、この発明の第2の蛍石の選別方法の実施にあたり、好ましくは、透過率を測定するにあたり、蛍石の互いに対向する劈開面間を透過する光の透過率を測定するのが望ましい。
【0049】(第1の蛍石)また、この発明の第1の蛍石によれば、鉛含有率が重量比で370ppm以下であることを特徴とする。
【0050】上述のように、可視光の色収差用の一般の光学材料として鉛含有率370ppm以下の蛍石を使用すれば、屈折率が許容値範囲内の蛍石のみを使用することができる。その結果、光学系の設計のやり直しを回避することができる。
【0051】尚、鉛含有量370ppm以下の蛍石の用途は、色収差用の光学材料に限定する必要はない。
【0052】また、この発明の第1の蛍石において、好ましくは、鉛含有率が重量比で40ppm以下であるのが良い。
【0053】上述のように、例えば、ステッパー用の光学材料として鉛含有率40ppm以下の蛍石を使用すれば、屈折率が許容値範囲内の蛍石のみを使用することができる。その結果、光学系の設計のやり直しを回避することができる。
【0054】尚、鉛含有量40ppm以下の蛍石の用途は、ステッパー用の光学材料に限定する必要はない。
【0055】(第2の蛍石)また、この発明の第2の蛍石によれば、波長200nm〜210nmの光に対する1mmあたりの透過率が5%以上であることを特徴とする。
【0056】上述のように、例えば可視光の色収差用の光学材料として、この波長帯域の透過率が5%以上の蛍石を使用すれば、屈折率が許容値範囲内の蛍石のみを使用することができる。その結果、光学系の設計のやり直しを回避することができる。
【0057】尚、この透過率5%以上の蛍石の用途は、色収差用の光学材料に限定する必要はない。
【0058】さらに、この発明の第2の蛍石において、好ましくは、透過率が70%以上であるのが良い。
【0059】上述のように、例えばステッパー用の一般の光学材料として、この波長帯域の透過率が70%以上の蛍石を使用すれば、屈折率が許容値範囲内の蛍石のみを使用することができる。その結果、光学系の設計のやり直しを回避することができる。
【0060】尚、この透過率が70%以上の蛍石の用途は、ステッパー用の光学材料に限定する必要はない。
【0061】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して、この発明の実施の形態について説明する。尚、以下の説明に用いる数値的条件は単なる例示にすぎない。
【0062】この発明の第1の蛍石の屈折率測定方法によれば、蛍石の屈折率を測定するにあたり、当該蛍石の鉛含有率を測定する。また、この発明の第1の蛍石の選別方法によれば、蛍石の鉛含有率を測定し、鉛含有率が370ppm以下、より好ましくは40ppm以下の蛍石を選択する。そして、選別された蛍石が、この発明の第1の蛍石となる。
【0063】この実施の形態では、先ず、検出限界20ppm未満の鉛含有率の蛍石の屈折率を、鉛非含有の蛍石の屈折率として測定する。ここでは、ヘリウムのd線(波長587.562nm)の光を用いて屈折率を測定する。測定の結果、22.5℃の温度下でのこの蛍石の屈折率は、1.433852であった。以下、この実施の形態では、この数値を設計上の屈折率とし、この数値からのずれを屈折率増加量(屈折率差)として表す。
【0064】次に、複数の鉛含有率の蛍石について、鉛含有率とその屈折率とをそれぞれ測定した。鉛含有率の測定にあたっては、ICP−AESを用いた。
【0065】この測定結果を下記の表1に示す。表1では、蛍石の鉛含有率(ppm)とその鉛含有率の蛍石の屈折率増加量を示す。
【0066】
【表1】

【0067】上記の表1に示すように、鉛含有量が140,160,220,1000および1800(ppm)と増加するに伴って、屈折率も増加して、屈折率増加量は、それぞれ17,20,28,148および233(×106)となっている。
【0068】次に、この測定結果をプロットしたグラフを図1に示す。図1のグラフは、この測定の結果を表すものであり、蛍石の鉛含有率と屈折率増加量との関係を示すグラフである。グラフの横軸は鉛含有率c(ppm)を表し、縦軸は、鉛非含有の場合の屈折率を基準とした屈折率増加量Δnd(×106)を表す。また、グラフ中の直線Iは、各プロットの分布に基づいて描いたものである。この曲線Iの傾きを求めて、上記の課題を解決する手段の欄においても示した、下記の(1)式を得た。
【0069】Δnd=K×c・・・(1)
ただしK=0.134×106(1/ppm)
従って、蛍石の鉛含有率が分かれば、上記の(1)式から屈折率増加量を求めることができるので、蛍石の屈折率を容易に求めることができる。
【0070】尚、上記の(1)式を用いて屈折率を求めるにあたっては、例えば、0ppm〜2000ppm、より好ましくは、20ppm〜2000ppmの鉛含有率の蛍石の屈折率の測定に適応することが望ましい。
【0071】また、この発明の第2の蛍石の屈折率測定方法によれば、蛍石の屈折率を測定するにあたり、当該蛍石の光の透過率を測定する。また、この発明の第2の蛍石の選別方法によれば、波長200nm〜210nmの光に対する蛍石の1mmあたりの透過率を測定し、透過率が5%以上、さらに好ましくは70%以上の蛍石を選択する。そして、選別された蛍石が、この発明の第2の蛍石となる。
【0072】次に、複数の鉛含有率の蛍石について、鉛含有率とその鉛含有率の蛍石の透過率とをそれぞれ測定した。透過率の測定にあたっては、先ず、2つの劈開面間の厚さが2mmのサンプルを作成した。2つの劈開面は、互いに平行であり、かつ、研磨の必要がない。そして、この2つの劈開面に挟まれた部分に波長200nm〜210nmのいずれかの波長の紫外光を透過させて、透過率を測定した。
【0073】次に、この測定結果を下記の表2に示す。表2では、蛍石の鉛含有率(ppm)とその鉛含有率の蛍石の透過率とを示す。尚、表2では、透過率を自然対数のマイナス値(−ln(T))(以下、単に透過率とも称する。)で示している。
【0074】
【表2】

【0075】上記の表2に示すように、鉛含有量が35,58,74,91および118(ppm)と増加するに伴って、透過率Tの自然対数のマイナス値(−ln(T))も増加して、透過率は、それぞれ0.55,1.02,1.13,1.52および1.85と増加した。
【0076】次に、この測定結果をプロットしたグラフを図2に示す。図2のグラフは、この測定の結果を表すものであり、蛍石の鉛含有率と透過率との関係を示すグラフである。グラフの横軸は鉛含有率c(ppm)を表し、縦軸は透過率として、透過率Tの自然対数のマイナス値(−ln(T))を表す。
【0077】また、グラフ中の直線IIは、各プロットの分布に基づいて描いたものである。この曲線IIの傾きは、0.0161であった。この測定にあたっては、サンプルの厚さdを2mm(=0.2cm)としてあるので、0.0161を0.2で割った値の近似値である0.08を吸収係数aとする。
【0078】従って、蛍石の透過率が分かれば、上記の課題を解決する手段の欄にも示した下記の(2)式から容易に蛍石の鉛含有率を求めることができる。
【0079】
T=Io/Ii=exp{−acd}・・・(2)
そして、鉛含有率が求まれば、上述の(1)式により蛍石の屈折率を求めることができる。
【0080】次に、蛍石の透過率からその屈折率を直接求める例について説明する。
【0081】そのために、蛍石の透過率と屈折率とをそれぞれ測定した。測定結果を下記の表3に示す。表3では、蛍石の透過率とその透過率の蛍石の屈折率増加量(鉛非含有時の屈折率を基準とする。)とを示す。尚、表3では、透過率を自然対数のマイナス値(−ln(T))(以下、単に透過率とも称する。)で示している。
【0082】
【表3】

【0083】上記の表3に示すように、透過率の自然対数のマイナス値(−ln(T))が0.55,1.02,1.13,1.52および1.85と増加するに伴って、屈折率増加量も4.58,8.49,9.40,12.7および15.4(×106)と変化した。
【0084】次に、この測定結果をプロットしたグラフを図3に示す。図3のグラフは、この測定の結果を表すものであり、蛍石の透過率と屈折率の増加量との関係を示すグラフである。グラフの横軸は、蛍石の透過率として、透過率Tの自然対数のマイナス値(−ln(T))を表す。また、グラフの縦軸は、蛍石の屈折率増加量を表す。また、グラフ中の直線III は、各プロットの分布に基づいて描いたものである。
【0085】また、測定結果から下記の(3)式が得られる。
【0086】
Δnd=(1.66×106/d)×(−ln(T))・・・(3)
ただし、上記の(3)式の右辺のdは、サンプルの厚さ(cm)を表す。
【0087】従って、蛍石の透過率が分かれば、上記の(3)式から容易に蛍石の屈折率を求めることができる。
【0088】上述した各実施の形態では、これらの発明を特定の材料を用い、特定の条件で形成した例についてのみ説明したが、これらの発明は多くの変更および変形を行うことができる。例えば、上述した実施の形態では、透過率の測定の際にサンプルの厚さを2mmとしたが、この発明では、サンプルの厚さはこの厚さに限定する必要はない。
【0089】
【発明の効果】このように、この発明では、蛍石の鉛含有率を測定することにより、蛍石の屈折率を知ることができる。その結果、蛍石の屈折率を直接測定することなく、蛍石の屈折率を求めることができる。従って、屈折率が許容範囲内の蛍石のみを容易に選別して用いることができる。このため、蛍石の屈折率が許容範囲外であるために光学設計をやり直すことを回避することができる。
【0090】また、この発明では、蛍石の透過率を測定することにより、蛍石の屈折率を知ることができる。その結果、蛍石の屈折率を直接測定することなく、蛍石の屈折率を求めることができる。従って、屈折率が許容範囲内の蛍石のみを容易に選別して用いることができる。このため、蛍石の屈折率が許容範囲外であるために光学設計をやり直すことを回避することができる。
【出願人】 【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
【出願日】 平成10年(1998)3月5日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】大垣 孝
【公開番号】 特開平11−248625
【公開日】 平成11年(1999)9月17日
【出願番号】 特願平10−53583