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【発明の名称】 有毒なハロゲン化物の検出および監視
【発明者】 【氏名】チャン・サムエル・エッチエスユー

【要約】 【課題】ゴム(特にブロモブチルゴム)中の様々な有毒ハロゲンのレベルおよびタイプを正確に検出し、ゴムの生産、取扱い、または加工の間にゴムの取扱者が有害なレベルのこうした有毒物質に暴露されることがないようにする方法を提供する。

【解決手段】(a) 質量分析器の多色イオン源を用いて、0eV〜10eVの熱エネルギーを有する熱電子を生成可能な試薬ガスをイオン化し、熱電子を生成する工程と;(b) ハロゲン含有化合物を用いて該熱電子を捕獲し、ハロゲン原子アニオンまたはハロゲン原子クラスタアニオンを生成する工程と;(c) 該ガスクロマトグラフと該質量分析器の併用により得られたマスクロマトグラムを使用して、該ハロゲン原子アニオンまたは該ハロゲン原子クラスタアニオンの化学種の識別および定量を行う工程と;を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ハロゲン化物を含有するサンプル中のハロゲンの毒性レベルの検出および定量を行う方法であって、(a) 質量分析器の多色イオン源を用いて、0eV〜10eVの熱エネルギーを有する熱電子を生成可能な試薬ガスをイオン化して、0eV〜10eVの熱エネルギーを有する熱電子を生成する工程と;
(b) ハロゲン含有化合物を用いて該熱電子を捕獲し、ハロゲン原子アニオンまたはハロゲン原子クラスタアニオンを生成する工程(ただし、該ハロゲン含有化合物をガスクロマトグラフに通した後、該熱電子の捕獲を行い、更に、該熱電子の捕獲の後、マススペクトログラムを測定する)と;
(c) 該ガスクロマトグラフと該質量分析器の併用により得られたマスクロマトグラムを使用して、該ハロゲン原子アニオンまたは該ハロゲン原子クラスタアニオンの化学種の識別および定量を行う工程と;を含む前記方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ハロゲン化材料中に存在するハロゲン化有毒物質のレベルを測定する方法に関し、より詳細には、ハロゲン化ゴム、特に、ブロモブチルゴム中に存在するハロゲン化有毒物質のレベルを測定する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】毎年、数百万トンのブロモブチルゴムおよびクロロブチルゴムが生産され、タイヤ業界で使用されている。このようなゴムの調製に利用される方法では、ハロゲン化溶剤が使用され、ブロモブチルゴムおよびクロロブチルゴムの生産サイクルにおいて再利用されることが多い。これらのゴムには、化合物の置換基として、Br、Br2、BrCl、およびBr2Cl(この順に毒性が強くなる)などの化学種が含まれている。これらの化学種は、ゴムの取扱者の健康を害したり、障害を引き起こしたりすることがないレベルにまで、生成するゴムから除去しなければならない。
【0003】ゴム中のハロゲンのレベルを測定する方法がいくつか存在するが、いずれの方法にも欠点がある。例えば、電子捕獲型検出器やホール電気伝導度検出器を使用することもできるが、これらの検出器では、BrとClの化学種を区別することができない。原子発光検出器はBrとClを区別できるが、分子中のハロゲン原子の数(例えば、Br2中のBrの数)を区別または測定することはできない。正確な毒性レベルを調べる対象となるハロゲン化材料のクラスは様々であり、その毒性レベルもいろいろに変化するため、すべてのハロゲン化種を識別し、しかも各化学種によって生じる毒性のレベルを定量できるようにすることが必要である。
【0004】米国特許第5,493,115号には、低速の単色電子ビームによって発生させたイオンの質量分析を行うことにより、サンプル中の対象化合物を分析する方法が開示されている。サンプルそのものを電子モノクロメータ中に通し、その分子集団の少なくとも一部分のイオンを発生させる。次に、発生したイオンを質量分析器にかけて質量スペクトルを測定し、そのスペクトルに対応するイオンに分析対象物質のイオンが含まれているかを調べる。該特許には、電子モノクロメータにサンプルを通す前にガスクロマトグラフを使用してサンプルの分離を行ってもよいと記されている。緩衝ガスは必要でない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ゴム(特にブロモブチルゴム)中の様々な有毒ハロゲンのレベルおよびタイプを正確に検出し、ゴムの生産、取扱い、または加工の間にゴムの取扱者が有害なレベルのこうした有毒物質に暴露されることがないようにする方法が、依然として必要とされている。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、好ましくは、ブロモブチルゴムに対して利用されるが、当業者により、他のハロゲンを含有するゴム(例えば、クロロブチルゴム)、樹脂、および薬品へ容易に拡張することができる。
【0007】本発明では、ガスクロマトグラフィーと質量分析法の併用(これ以降ではGC/MSと記す)により、ハロゲン原子アニオン、ハロゲンクラスタアニオンなどの種々のハロゲン化種の識別および定量に利用できるマスクロマトグラムを測定する。この質量分析法では、対象となるハロゲン化種の検出感度をppbレベルにまで向上させることのできる多色熱電子を利用する。
【0008】従って、本発明は、電子捕獲条件下で作動する質量分析器中で発生させた熱電子を利用して負イオンを生成し、ハロゲン化物を含有するサンプル(特に、ハロゲン含有ゴム)中のハロゲンの毒性レベルを測定する方法を指向するものである。本発明の方法により、有毒種をppbレベルまで検出することができる。
【0009】本発明の方法には、(a) 質量分析器の多色イオン源を用いて、0eV〜10eVの熱エネルギーを有する熱電子を生成可能な試薬ガスをイオン化して、0eV〜10eVの熱エネルギーを有する熱電子を生成する工程と;(b) ハロゲン含有化合物を用いて熱電子を捕獲し、ハロゲン原子アニオンまたはハロゲン原子クラスタアニオンを生成する工程(ただし、ハロゲン含有化合物をガスクロマトグラフに通した後、熱電子の捕獲を行い、更に、熱電子の捕獲の後、マススペクトログラムを測定する)と;(c) ガスクロマトグラフと質量分析器の併用により得られたマスクロマトグラムを使用して、ハロゲン原子アニオンまたはハロゲン原子クラスタアニオンの化学種の識別および定量を行う工程と;が含まれる。
【0010】本明細書中で使用される用語「ハロゲンクラスタアニオン」とは、ハロゲン原子の複数ユニット(同じユニットであっても異なるユニットであってもよい)を含有するイオンを意味し、例えば、Br2、BrClなどが挙げられる。「ハロゲン原子アニオン」とは、単一ハロゲンユニットを意味し、例えば、Cl-、Br-などが挙げられる。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明において、試薬ガスとしては、質量分析器中でのイオン化により熱電子を生成することのできるものが選ばれる。熱電子のエネルギーは、0eV〜10eV、好ましくは0eV〜5eVである。このようなガスとしては、メタン、イソブタン、およびアンモニアが挙げられるが、これらに限定されるものではない。しかしながら、当業者は、必要な熱電子を生成しうる任意のガスが使用可能であることが分かるであろう。本発明に関与する機構であると本発明者が考える以下の式を参照すれば、本発明の方法をより容易に理解できるであろうが、本発明は、こうした機構に拘束されるものではない。例えば、試薬ガスとしてメタンを選択した場合、以下のような反応が進行するものと考えられる。
【0012】ステップ1:熱電子の発生CH4 + e- → CH4+* + e-* + e-CH4+* + CH4 → CH5+ + CH3*CH5+ + CH4 →C2H5+またはC3H5+e-*=熱電子ステップ1では、質量分析器のイオン源において試薬ガスが電子衝撃を受ける。これには、通常、約50eV〜約100eVの電子ビームによる衝撃が必要である。しかしながら、試薬ガスから熱電子を発生させることのできる電子線イオン化源であれば、いずれも利用することができる。
【0013】ステップ2:熱電子の解離性捕獲M + e-* → [M-] →Xn-M=ハロゲン化有毒物質を含有する材料Xn-=ハロゲン原子クラスタアニオン(ただし、nは1以上の整数である)
ステップ2では、ハロゲン含有分子が熱電子を捕獲することによって分子アニオンが形成され、続いて、解離性電子捕獲によってハロゲン原子アニオンまたはハロゲン原子クラスタアニオンが形成される。
【0014】本発明は、非芳香族ハロゲン化物に対して選択的に利用される。非芳香族ハロゲン化物では、分子アニオンが不安定であるため、電子捕獲による解離機構を介してハロゲン原子アニオンが形成される。量子力学的な観点から見ると、芳香族ハロゲン化物により捕獲された過剰の電子は、より安定な反結合性π*軌道を占有し、安定化される。非芳香族ハロゲン化物により捕獲された過剰の電子は、より安定性の低い、すなわち、更に高いエネルギーの反結合性σ*軌道を占有する。非芳香族ハロゲン化物は、芳香族ハロゲン化物よりも軌道安定性が低く、利用可能なエネルギーが多いので、本発明の解離によりハロゲン原子アニオンを発生させることができる。これが負イオン化学イオン化(NICI)であることは、当業者には分かるであろう。
【0015】1,2位(β位)または1,4位(δ位)にハロゲン原子を有する非芳香族化合物または非共役化合物では、一原子ハロゲンアニオンのほかに二原子ハロゲンアニオンが生成するため、ハロゲンの複数ユニットを含む化合物の存在を確認することができる。「複数ユニット」とは、同じかまたは異なるタイプの2つ以上のハロゲンを意味する。
【0016】本発明に利用されるガスクロマトグラフの作動条件は、当業者により容易に決定可能である。分析対象サンプルからハロゲン化物を分離可能な条件であれば、いずれも許容できる。しかしながら、個々のハロゲン化物をサンプルから分離し、しかもハロゲン化物同士の分離も行うことが好ましい。また、本発明に利用されるサンプルの調製は、当業者によって容易に行うことができる。実際には、分析されるサンプル中のハロゲン成分をガスクロマトグラフへ注入可能にするサンプルの調製であれば、いずれも許容できる。例えば、ゴム中に含まれるハロゲン化物は、好適な溶剤(好ましくは、ペンタンまたはヘキサン)へのゴムの熔解、続いて、アセトンなどの極性溶剤の添加によるゴム塊の沈殿を行うことにより、抽出することができる。その後、本明細書中に記載されているように、ヘキサン/ペンタンの溶液を回収して分析にかける。
【0017】こうして得られたGC/MSマスクロマトグラムにより、同一および異なるハロゲン(例えば、Br2、BrClなど)のクラスタアニオンが識別される。従来の方法では、このような化学種の識別を行うことはできない。異原子クラスタが最も強い毒性を呈することを考慮すると、ハロゲン含有化合物の毒性レベルを検出する場合、このような化学種の識別は重要である。このほか、当業者は、得られたクロマトグラムから、化合物中に存在する各タイプの原子アニオンまたは原子クラスタアニオンの量をppbレベルまで、既知の技法により容易に定量することができる。このような技法では、ピーク積分が行われ、続いて、積分された化学種の標準値との比較が行われる。
【0018】本明細書中に記載の方法は、ゴムなどのハロゲン含有製品の製造中にオンラインで利用することができる。ハロゲン化物を含有する製品の製造工程中に、本発明の方法をオンラインで利用し、化学種の識別および定量の結果を、ハロゲンの導入または生成を行う工程にフィードバックし、そのフィードバックに応じて加工パラメータの変更を行うことにより、所望のハロゲンレベルの最終製品を得ることができる。
【0019】
【実施例】次に、以下の実施例を参照して、本発明について具体的に説明する。ただし、これらの実施例は、単なる例示にすぎず、本発明を制限するものではない。
【0020】(実施例1)ブロモホルム、1,2-ジブロモ-2-メチルプロパン(Br2C4)、1,2-ジブロモ-3-クロロ-2-メチルプロパン(DBCMP, Br2ClC4)、1,2,3-トリブロモ-2-メチルプロパン(Br3C4)、1,2-ジブロモヘキサン(Br2C6)、2,3-ジブロモヘキサン(Br2C6)、3,4-ジブロモヘキサン(Br2C6)、およびイソプレンジブロミド(Br2C5)をそれぞれ100ppmずつ含有するブレンドを、負イオン化学イオン化を用いて試験した。本発明において、モノハロゲン化物では、ハロゲンアニオンが優位となった。ハロゲンの複数ユニット(2つ以上の同じかまたは異なるハロゲン原子)を含有するハロゲン含有化合物では、ハロゲン原子クラスタアニオンも存在した。1,2位または1,4位にハロゲン原子を含む化合物に対する典型的なスペクトルを、図1に示した。この図はDBCMPのスペクトルである。電子捕獲およびそれに続く解離の結果として、ハロゲン化物に対して、ハロゲン原子およびハロゲン原子クラスタを含有するイオンだけが得られた。例えば、塩化物では、異性体の天然の存在比3:1で35Clイオンおよび37Clイオンを生じ、一方、臭化物では、異性体の天然の存在比1:1で79Brイオンおよび81Brイオンを生じた。最も重要なことは、2つ以上の臭素原子を含有する化合物では、79Br2(m/z 158)、79Br81Br(m/z 160)、および81Br2(m/z 162)の原子クラスタもまた存在したことである。同様に、塩素および臭素の両方を含有する化合物では、35Cl79Br(m/z 114)、35Cl81Br/37Cl79Br(m/z 116)、および37Cl81Br(m/z 118)の原子クラスタが生成した。ガスクロマトグラフィーを使用して混合物中の個々の成分を分離し、これらのハロゲン化イオン種の存在を、図2に示すように、原子および原子クラスタのマスクロマトグラムにより検出することができた。例えば、NICIのマスクロマトグラム中のm/z 114および158(または160)のピークはそれぞれ、少なくとも1つの臭素と1つの塩素を含有する低レベルの毒性物質および少なくとも2つの臭素原子を含有する低レベルの毒性物質をモニタする高感度で選択性のある手段として使用することができた。ブロモホルムの場合、すべての臭素原子が同じ炭素原子に結合しているため、Br2アニオンが生成しなかったことは注目に値する。図示したデータは、質量35から500までをフルスキャンモードで測定したものである。このモードを使用して、ハロゲン化物を低ppmレベルまで検出することができた。数個の特定のイオン種だけをモニタすることにより、感度(すなわち検出限界)を更に増大させることができた(感度は約2桁増大した)。この場合、特定のイオンをモニタすることにより、労働条件下での暴露レベルとして要求されるものよりも低いサブppmレベルの複数のハロゲン化種の検出を行うことができた。
【0021】図3は、原子発光検出(AED)を用いたガスクロマトグラフィーの結果を示している。塩素と臭素の両方を含有する化合物の例として、1,2-ジブロモ-3-クロロ-2-メチルプロパン(DBCMP, Br2ClC4)は、塩素チャネルと臭素チャネルの両方でシグナルを呈した。しかしながら、これらの2つの元素が同じ分子中に存在するか、または同じ保持時間を有する2つの異なる分子中に存在するかは明らかでない。更に、AEDでは、ジブロモ化合物とモノブロモ化合物とを区別することができない。これは、本発明を利用することの利点を示唆するものである。
【0022】(実施例2)ブロモブチルゴム2gをヘキサン50mlに添加し、3〜4時間かけてすべてのゴムを溶解させた。このヘキサン溶液にアセトン30mlを添加し、ゴムを沈殿させて除去した。残りのヘキサン/アセトン溶液を、NICIモードで作動する質量分析器と連動させたガスクロマトグラフにより分析した。痕跡量レベル(数ppm程度)のハロゲン化物の存在が容易に検出された。必要に応じて、数種のイオン(例えば、ブロモクロロ化合物に対しては質量114のイオン、ジブロモ化合物に対しては質量160のイオン)だけを選択的にモニタすることにより、感度を更に増大させることができた。これらの化合物の同定は、電子衝撃イオン化(EI)スペクトルにより行った。EI条件下で得られたクロマトグラムは、痕跡量のハロゲン化種が存在することを示した。他の分析手段を用いた場合、対象となるハロゲン化物が多くのより大量に存在する非ハロゲン化物中に「包埋」されてしまい、検出が難しいであろう。
【出願人】 【識別番号】390023630
【氏名又は名称】エクソン・リサーチ・アンド・エンジニアリング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【出願日】 平成10年(1998)9月16日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】池浦 敏明 (外1名)
【公開番号】 特開平11−174027
【公開日】 平成11年(1999)7月2日
【出願番号】 特願平10−261664