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【発明の名称】 光機能材料
【発明者】 【氏名】佐々木 高義

【氏名】渡辺 遵

【要約】 【課題】半導体2次元結晶の新しい光機能材料を提供する。

【解決手段】半導体2次元結晶が懸濁されたゾル溶液、またはこれが塗布されてなる薄膜からなる光吸収もしくは発光機能を有する材料で、半導体2次元結晶は、層状結晶が層間剥離されたものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 半導体2次元結晶が懸濁されたゾル溶液からなる光吸収もしくは発光機能を有する材料であって、半導体2次元結晶は、層状結晶が層間剥離されたものである光機能材料。
【請求項2】 半導体2次元結晶が懸濁されたゾル溶液が固体基板上に塗布されてなる光吸収もしくは発光機能を有する薄膜材料であって、半導体2次元結晶は、層状結晶が層間剥離されたものである光機能材料。
【請求項3】 半導体2次元結晶が酸化チタン系結晶である請求項1または2の光機能材料。
【請求項4】 請求項1ないし3のいずれかの光機能材料を用いることを特徴とする光吸収方法もしくは発光方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この出願の発明は層状構造を剥離して得られる半導体2次元結晶による光機能材料に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、シャープで高効率な光吸収や発光により紫外線遮蔽材や発光材料等として有用な層状構造を剥離して得られる半導体2次元結晶による新しい光機能材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】従来より、光吸収や発光の機能を利用した遮蔽材や発光材が各種分野において広く一般的に用いられている。このような光吸収や発光機能を持つ遮蔽材料や発光材料としては、たとえば酸化チタン系等の無機物からなる半導体物質が知られている。
【0003】このような従来の酸化チタン系等の物質の場合には、アルコキシドなどを原料として加水分解法により合成された酸化チタンなどの半導体超微粒子が用いられることが多く、その材料の形状は一般的に粒状であることが多い。しかしながら、このような従来の半導体超微粒子の場合には、加水分解法により粒子サイズやその分布を揃えて結晶合成することは非常に困難であるため、その材料の可視・紫外吸収スペクトルは吸収端の立ち上がりがブロードであるといった大きな欠点があった。そのため、光吸収効率が非常に悪かった。
【0004】また、その吸収だけではなく、その発光についてもブロードであり、さらには、室温以下の温度でしか発光しないことが多かった。加水分解法で得られる微粒子は粒状であり、そのサイズを制御するのは困難である上にある程度の分布が生じるのは避けることができない。さらにナノメーターサイズの超微粒子をこの方法で結晶性良く、組成をコントロールした形で合成することは至難の技である。
【0005】そこで、この出願の発明は、以上の通りの従来技術の欠点を鑑みてなされたものであり、酸化チタン系等の半導体について、吸収端の立ち上がりがシャープであり、室温付近でも発光すること等が可能な、新しい光機能材料を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、半導体2次元結晶が懸濁されたゾル溶液からなる光吸収もしくは発光機能を有する材料であって、半導体2次元結晶は、層状結晶が層間剥離されたものである光機能材料を提供する。また、この出願の発明は、半導体2次元結晶が懸濁されたゾル溶液が固体基板上に塗布されてなる光吸収もしくは発光機能を有する薄膜材料であって、半導体2次元結晶は、層状結晶が層間剥離されたものである光機能材料を提供する。
【0007】さらにこの出願の発明は、半導体2次元結晶が酸化チタン系結晶である前記いずれかの光機能材料もその一例として提供する。この出願の発明は、以上のとおりの特徴のある光機能材料を提供するが、この光機能材料は、数原子層の厚みにまで薄くなった半導体2次元格子が実質的に関与するため、吸収バンドが紫外域に大きく移動するとともに、顕著なピークを伴うシャープな吸収端を持ち、その吸収は高効率であり、Lambert−Beerの法則に従うことに大きな特徴がある。
【0008】さらに発光においても、室温で発光すること、微細構造を示すことなどの特徴がある。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、この発明の実施の形態について説明するが、この発明において「2次元」との規定は、層状結晶が単一層まで層間剥離された薄片状としての2次元の広がりを持つことを特徴づけるためのものであり、従来の光機能材料としての超微粒子との差異を相対的に規定しているものである。
【0010】この規定を持つこの発明の半導体2次元結晶そのものの製造方法としては、たとえば、特許第2671949号などの方法を用いることができ、たとえば層状チタン酸類に液媒体中で塩基性物質などを作用させて単一層まで剥離することにより得られる。この方法は、様々な物質系に適用可能であるが、酸化チタン系ではレピドクロサイト型チタン酸(Hx Ti2-x/4 4 ・nH2 O)をはじめ、三チタン酸(H2 Ti3 7 )、四チタン酸(H2 Ti4 9 ・nH2 O)、五チタン酸(H2Ti5 11・nH2 O)などを出発物質として用いることができる。
【0011】たとえば、Hx Ti2-x/4 4 ・nH2 Oをテトラブチルアンモニウム水酸化物水溶液中に入れ強力に振盪すると、層状結晶がその基本単位である層1枚1枚にまで剥離し、水中に分散する。この場合は、酸化チタン2次元結晶
が懸濁したゾル溶液がえられる。
【0012】このような半導体2次元結晶によるゾル溶液もしくはこの溶液を固体表面に塗布してなる薄膜としてのこの発明の光機能材は、光吸収もしくは発光機能を有するものとしてこれまで報告のないものであって、以下に述べるように非常に特徴的なもので、様々な応用展開が期待される。図1は、層状チタン酸Hx Ti2-x/4 4 ・nH2 Oを剥離分散して合成したゾル溶液を希釈し、これをTEMグリッド上に滴下して乾燥した試料の透過型電子回折パターンである。他の層状構造物質でも、類似のパターンとなる。
【0013】この図1からは、シャープな回折リングを示すことがわかり、高結晶性試料であることがわかる。その回折リングのスペーシングは内側から0.378nm,0.237nm,0.190nm,0.15nm,0.118nmであり、10,11,20,02,22という2次元指数を与えることができる。これは、剥離後のコロイド粒子が0.38nm×0.30nmの2次元周期を有していることを示しており、たとえば図2に例示したように、出発物質のホスト層を構成する原子配列がそのまま保持されていることが確認できる。そして、厚み方向にはTiO6 八面体が稜共有で2個連鎖しており、外層酸素の端から端までを厚みとして計算しても0.75nmというサブナノメーターレベルのものとなる。一方、横方向のサイズは剥離前の板状微結晶の大きさをほぼ保っており、0.1〜1μmであることが透過型電子顕微鏡像より確認された。
【0014】この発明の2次元結晶を含むゾル溶液を適当な吸光度が得られる濃度に希釈して、透過法を用いて測定した紫外・可視吸収スペクトルは、あるエネルギー以上の光だけを吸収する。図3は前記のゾル溶液の場合について示したものであるが、酸化チタンパルク結晶や従来より知られていた粒状超微粒子などのデータと対比すると、(ア)Lambert-Beerの法則が成立すること、(イ)吸収の立ち上がりがシャープであり、吸収ピークを伴うこと、(ウ)高効率であること、(エ)吸収端がバルク結晶に比べて短波長側にシフトするという特徴がある。
【0015】まず(ア)に関してはゾル濃度と吸光度との間に良好な直線関係が見られ、剥離されてできた2次元結晶がほとんど相互作用のない状態で単分散していることを示している。これまで光吸収性について多くの研究が行なわれてきた酸化チタン超微粒子が懸濁したゾル溶液はチタン化合物(アルコキシドなど)を加水分解して合成されてきた。その典型的なデータを図4に比較例として示した。その吸収端はこの発明の2次元結晶によるものと比較してブロードであり、かつ短波長の光になるほど吸収強度は増大し図3に見られるような特徴的なピークは認められない。また同じ吸光度を与えるゾル濃度で比較すると2次元結晶の方が2倍程度効率がよいことがわかる。
【0016】加水分解法で得られる微粒子は粒状であり、そのサイズを制御するのは困難である上にある程度の分布が生じるのは避けることができない。さらにナノメーターサイズの超微粒子をこの方法で結晶性良く、組成をコントロールした形で合成することは至難の技である。これに対してこの発明の2次元結晶は高温で焼成することによって合成される組成の明確な高結晶性の層状結晶を単一層にまで剥離するという操作によって得られるので、結晶性、組成がしっかりしているうえに、厚みはサブナノメーターで一定のものであるという特徴がある。これを反映して図3に見られるような非常にシャープな吸収端を与えると考えることができる。また吸収ピークの出現はサブナノメーター領域まで微細化されたことにより励起子吸収が誘起されたと解釈できる。
【0017】アナターゼ、ルチルのバンドギャップはそれぞれ3.18,3.03eVであることが知られており、剥離前の層状チタン酸結晶のそれも3.24eVと求められたが、この発明の2次元結晶の吸収ピークはおよそ4.67eV程度であり、1.4eV以上もシフトする。このブルーシフトは半導体が微細化され励起子が閉じ込められたことに起因する量子サイズ効果に基づく結果と考えられる。
【0018】従来の加水分解法で合成された超微粒子の量子サイズ効果については、いくつかの報告があるがそのシフト量は、例えば、0.5eV以下という極めて小さいものである。このことは、既述のように信頼性の高いサブナノメーター径の超微粒子が合成されていないなどの事情によるものと考えられる。この発明の2次元結晶は、厚みが1nm以下で均一であることから、量子サイズ効果が顕著に発現すると考えられる。高効率の吸収も半導体の微細化に伴う振動子強度の増大(量子サイズ効果の一種)に帰することができる。
【0019】上記のような2次元結晶による光吸収特性は溶液状態だけでなく、様々な基板のうえに堆積させた薄膜についても得ることができる。たとえば、石英ガラス上に適当な濃度のチタニアゾル溶液を滴下しこれを乾燥させると透明な薄膜が得られる。図5はその光吸収性を透過法で測定した結果である。ゾル溶液の場合と同様な特徴を持ったスペクトルが得られることがわかる。
【0020】一方2次元結晶は発光に関しても特異な特徴を示し発光材料としての応用も期待できる。図6は様々な濃度のゾル溶液について200nmの励起光を用いて発光スペクトルを測定した結果を示している。濃度を低下させるにつれて発光端は見かけ上短波長側にシフトするが、これは高濃度試料では発光が再吸収されるためと解釈され、0.007gdm-3以下ではスペクトルに変化がないのでこれが本来のスペクトルであると考えることができる。室温で特に酸素を除去することもなく測定したにもかかわらず、非常に強い光がシャープな微細構造を伴って観測される。これまで知られていた酸化チタン超微粒子の多くは室温以下でしか発光しないし、そのスペクトルも非常にブロードなものである。この発明の2次元結晶では分子レベルまで薄くなっているためこのような顕著な違いが出るものと考えられる。
【0021】なお、以上の説明においては酸化チタン系の半導体2次元結晶について説明したが、この発明における半導体2次元結晶については、酸化チタン系のものだけでなく、各種のもの、たとえば酸化ニオブ2次元結晶やペロブスカイト2次元結晶がある。
【実施例】次にこの発明の実施例を示す。
【0022】(実施例1)層状チタン酸(H2 Ti2-x/4 4 ・H2 O)粉末1.0gを濃度0.0165moldm-3のテトラブチルアンモニウム水酸化物溶液250cm3 に加え、強力に振盪することにより、層状微結晶を剥離して2次元結晶が分散したゾル溶液を得た。
【0023】得られた溶液を400〜10000倍に希釈して、透過法で紫外・可視吸収スペクトルを測定した。その結果、300nm付近から吸収が始まり、急激に立ち上がって266nmでピークを持つスペクトルが得られた(図3参照)。またピーク位置での吸光度をゾル濃度に対してプロットしたところ、良好な直線関係が得られLambert-Beer則が成立することが明らかになった。また吸収バンドの位置は剥離前の母結晶(図中点線)やアナターゼ、ルチルのバルク結晶と比較して大きくブルーシフトしており、分子レベルまで薄くなったため量子サイズ効果が発現したと解釈された。
(実施例2)実施例1と同様に得られたゾル溶液を100倍に希釈し石英ガラス板上に滴下し、自然乾燥したところ透明な薄膜が得られた。このサンプルについて透過法で紫外・可視吸収スペクトを測定したところ、実施例1のゾル溶液の場合とほぼ同様な紫外線吸収が観測された(図5)。
(実施例3)実施例1と同様にし得られたゾル溶液およびこれを5〜100倍に希釈したサンプルについて励起波長200nmで蛍光スペクトルを室温で測定したところ、図6に示すようなスペクトルが得られた。濃度が薄くなるとともに見かけの発光はより短波長側にシフトしているが、これは発光の再吸収によるもので、0.007gdm-3以下のスペクトルが本質的な発光挙動を示していると解釈される。すなわち吸収端にほぼ一致する270nm付近より発光が始まり、可視光域にまで続く蛍光が認められる。さらに明瞭な微細構造を伴うことが特徴である。
(比較例1)四塩化チタンTiCl4 5cm3 を0℃に保ったイオン交換水200cm3 に攪拌しながらゆっくり滴下して加水分解を進行させたチタニアゾル溶液を合成した。それを希釈して実施例1と同一の条件で紫外・可視吸収スペクトルを測定した。結果を図4に示す。図3に比較して吸収端はブロードでピークも見られなかった。
【0024】以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、これまでに知られていない光機能材料としての光吸収あるいは発光特性をもつゾル溶液、このゾル溶液を塗布、乾燥して薄膜としたものが提供される。
【出願人】 【識別番号】591030983
【氏名又は名称】科学技術庁無機材質研究所長
【出願日】 平成10年(1998)5月15日
【代理人】
【公開番号】 特開平11−329001
【公開日】 平成11年(1999)11月30日
【出願番号】 特願平10−152320