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【発明の名称】 高接触疲労寿命歯車及びその製造方法
【発明者】 【氏名】戸田 正弘

【氏名】三木 武司

【氏名】加田 修

【要約】 【課題】自動車部品の小型軽量化,高出力化にともない、歯車は負荷が高くなり、ピッチング疲労寿命向上が最大の課題である。歯車鋼材の高合金化はコスト高となり、ショットピーニングによる残留応力付与による方法も表面の肌荒れを招くことになりその効果は不明であり、簡易で有効な対策が見出されていない。

【解決手段】表面硬化処理を施された歯車であって、この歯車に組み合わされる歯車との歯元側歯当たり位置より歯元側から、少なくとも歯元側歯当たり位置まで、少なくとも0.2mm深さまでの加工硬化層が設けられていることを特徴とする高接触疲労寿命歯車。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 表面硬化処理を施された歯車であって、この歯車に組み合わされる歯車との歯元側歯当たり位置より歯元側から、少なくとも歯元側歯当たり位置まで、少なくとも0.2mm深さまでの加工硬化層が設けられていることを特徴とする高接触疲労寿命歯車。
【請求項2】 加工硬化層表面の粗さRmax が3μm以下であることを特徴とする請求項1記載の高接触疲労寿命歯車。
【請求項3】 歯車に表面硬化処理を施した後に、この歯車に組み合わされる歯車との歯元側歯当たり位置より歯元側から、少なくとも歯元側歯当たり位置まで、予め実働面圧以上の負荷を与えることを特徴とする高接触疲労寿命歯車の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車および工作機械などに用いられる歯車に係わり、特に自動車のトランスミッション等の駆動伝達系に使用される鋼製の高強度歯車に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車の駆動系に用いられる歯車は、一般的に鍛造後、焼きならし、歯切り加工された後に浸炭或いは窒化処理などの表面硬化処理を行い、表面の硬さを上げている。しかし、車両重量の軽量化のための部品サイズの小型化、及びエンジンの高出力化等に伴い、歯車に対する負荷が大きくなり、とりわけ歯面に発生するピッチングに対する疲労強度向上が要求されるようになってきた。
【0003】歯車のピッチング疲労強度向上に関しては、特開平1−264727号公報に開示されるように熱処理後にショットピーニングを行い歯車に圧縮残留応力を付与する方法が提案されている。しかし、特開平3−107418号公報にはショットピーニングにより歯面のピッチング疲労はかえって低下するとの記載もある。また、ショットピーニング後は歯車表面が荒れるため、使用時の騒音問題も有している。
【0004】歯車表面にTiC,TiNなどの硬質皮膜を蒸着させる方法が、特開昭62−199765号公報あるいは”日本機械学会論文集(C編)59巻557号272頁(1993年)”に報告されている。しかし皮膜成膜時に950℃までの再加熱するため、騒音で問題となる熱歪みが生じる。しかし、硬質なセラミックス皮膜が形成されているため、研削等による熱歪みの除去が困難である問題を有している。
【0005】さらには、ピッチング疲労特性に優れた鋼材として各種鋼材が”特殊鋼44巻3号39〜48頁(1995年)”に報告されているが、いずれもCr,Mo,Ni等の合金元素を添加、成分調整を行っており、素材コスト高を招くことになる。この様に、高負荷荷重下における歯車のピッチング疲労特性に関して、その疲労強度を向上させる工業的に有益な技術は、未だ見出されていないのが実状である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、自動車のトランスミッション等の駆動伝達系に使用される歯車において、ピッチング疲労強度の優れた高強度歯車を提供せんとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明では、製造された歯車に単純な負荷を与えることでピッチング疲労特性を飛躍的に向上させる方法であり、その要旨は、(1)表面硬化処理を施された歯車であって、この歯車に組み合わされる歯車との歯元側歯当たり位置より歯元側から、少なくとも歯元側歯当たり位置まで、少なくとも0.2mm深さの加工硬化層が設けられていることを特徴とする高接触疲労寿命歯車であり、更に、(2)加工硬化層表面の粗さRmax が3μm以下であることを特徴とする(1)記載の高接触疲労寿命歯車である。また、(3)歯車に表面硬化処理を施した後に、この歯車に組み合わされる歯車との歯元側歯当たり位置より歯元側から、少なくとも歯元側歯当たり位置まで、予め実働面圧以上の負荷を与えることを特徴とする高接触疲労寿命歯車の製造方法、にある。
【0008】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。ピッチング寿命が課題となるのは、歯車の周速が速く、かつ歯車の接触面圧が高い条件下で使用される場合であり、この様な条件下で用いられる歯車では一般に浸炭処理、或いは窒化処理等の表面硬化処理が施されている。
【0009】組み合わされた歯車において、ピッチングによる剥離は歯底近傍の噛み合い開始部から発生し、歯先方向へ進展する。これは、”浸炭焼入れの実際(1979年)日刊工業新聞社刊 P227”に記載されているように、歯元側では接触面圧の移動方向と歯車の滑り方向とが異なり歯面に沿って引張応力が生じるため、歯元側でピッチングが発生すると考えられる。
【0010】図1に歯車歯面と歯当たり部分の模式図を示す。歯車の噛み合い開始部である歯元側の歯当たり位置をA点、歯先側の位置をB点とすると、歯車の接触は、A点から始まりB点で終了する。近年歯車の使用条件は厳しく接触面圧が高くなり、表面硬化処理が施されていても歯車同士の接触時には塑性変形を生じる状態で使用されることになる。特に、未使用の歯車が初めて歯車と接触するのはA点であり、A点は初めて接触面圧を受け、A点近傍の歯面は塑性ひずみを受けて硬化する。A点で歯車同士が接触した後A点からB点に荷重点は移行するが、A点以降は加工硬化された歯面上を荷重点が移行することになる。従って、A点近傍において歯面の塑性変形が最大となり、この塑性変形によって発生する歯面に沿った方向の引張応力もA点近傍で最も大きくなるる。さらにその後、歯車が繰返し負荷を受けることになっても、常に加工硬化された歯面が接触負荷を受けることになり、A点での塑性変形量が最も大きく、発生する引張応力も高く、A点でピッチングが発生しやすい。
【0011】そこで、未使用の歯車において、組み合わされる歯車での歯当たり位置であるA点に予め負荷を与え、加工硬化させておけば、実際の歯車使用時には常に加工硬化を受けた歯面が負荷を受けることになる。しかし、実際の歯車ではその精度上歯元側歯当たり位置であるA点を明確に規定できない。そのため、A点より歯元側から少なくともA点まで加工硬化層を設ける必要がある。即ち、本発明は、表面硬化処理を施された歯車であって、この歯車に組み合わされる歯車との歯元側歯当たり位置より歯元側から、少なくとも歯元側歯当たり位置まで、少なくとも0.2mm深さまでの加工硬化層を設けた高接触疲労寿命歯車である。
【0012】その加工硬化層が0.2mmより浅いと、その後に所定の歯車と組み合わせて使用した際にA点が塑性変形を受けることになり、予め加工硬化層を設けておく効果は小さい。加工硬化層は、歯当たり位置であるA点より歯元側からA点まで必要であるが、A点を越えて有っても何ら問題ない。但し、加工硬化させることによりA点で歯面が荒れるとそこからピッチンングが発生する可能性がある。そこで、加工硬化層表面の荒れによるピッチング疲労寿命の低下を抑制するため、粗さをRmax3μm以下とした。
【0013】なお、本発明において加工硬化層とは、後述する負荷方法によってビッカース硬さで30ポイント以上硬化した部分とする。硬化量が少ないと、実働時にA点において塑性変形により生じる引張応力が大きくなり、ピッチング寿命が向上せず、また、ビッカース硬さはバラツキもあることから、硬化量は30ポイント以上とする。
【0014】未使用の歯車への初期負荷、即ちA点より歯元側から予めかける負荷が実働面圧より小さいと、歯面に与えられる加工硬化が小さく、実働時にA点はさらに塑性変形を受けることになり、予め負荷をかける効果が無いからである。予め負荷する位置をA点より歯元側から少なくともA点までとするのは、実歯車ではその精度上A点を明確に規定できないこと、及び予め負荷を与える際の精度を考慮し、AA点が必ず加工硬化される様にするためである。
【0015】なお硬化層を得るための方法は、プレス等により歯当たり位置A点より歯元側に負荷した後に、その負荷を歯面に沿って滑らせて負荷を与えていく方法、またプレス等により、負荷を断続的に逐次歯元側から歯先側へ与える方法などがある。さらに、歯元側歯当たり位置より少なくとも歯元側に接触位置を有する歯車と組み合わせる予め接触駆動させることにより加工硬化層を設ける方法も考えられる。
【0016】
【実施例】用いた歯車の材質はSCr420であり、浸炭焼入れ焼戻し処理を行ってる。歯車形状はモジュール4、圧力角20゜、仕上げ精度はJIS0級、ないし1級の歯車である。駆動側歯車は、歯数21,ピッチ円直径φ84,歯幅10mmであり、受動側歯車は、歯数29,ピッチ円直径φ116,歯幅22mmである。各歯車とも浸炭焼入れ焼戻し後、歯切り加工、研削工程を経て作られており、表面粗さはRmax 2μm前後である。
【0017】ピッチング疲労試験は動力循環式歯車試験機により行い、ピッチング寿命の判定は、一定時間毎にピッチング損傷している面積を測定し、面積率で3%に達した時点を寿命とした。疲労試験は駆動側歯車回転数4000rpm、潤滑にはオートマチックミッション用オイルを用い、給油量は歯車のかみ込み側から2.21/minとし、油温は約40℃で行った。歯車の接触面圧計算はヘルツの式を用いた。
【0018】本歯車試験機に駆動側、及び受動側歯車を設置し1,600MPaの面圧で疲労試験を行った結果、1.0×107回でもピッチングは発生しなかった。ところが、2,100MPaの高面圧下で疲労試験を行った結果が表1の比較例1であり、ピッチング寿命は1.8×106回と短く、駆動側歯車からピッチング損傷していた。そして、比較例1での駆動側歯車の歯面接触跡から歯車の歯元側歯当たり位置であるA点、及び歯先側のB点位置を決定した。
【0019】加工硬化層を得るためには、φ0.5〜φ10.0の超硬製ピンを用い、ピンの両端にベアリングを設けた治具と、荷重制御可能なプレス機で負荷を与えた。A点より歯元側の所定の位置に超硬ピンで負荷した後、歯面に沿って超硬ピンを転がしながら負荷し、ピンを歯先側へ滑らせた。その際、ピンと歯面に油を塗布した。これにより、超硬ピンは歯面に転がりながら負荷を連続的に付与させている。
【0020】研削ままでの歯車の硬さはマイクロビッカース硬度計(MHv)50gで測定し、表面でMHv704,深さ0.2mm位置でMHv698であり、MHv700前後であった。加工硬化層の確認は、A点より0.4mm歯元側位置、A点位置において表面、及び深さ0.2mmでの硬さ測定した。表1に本発明例1〜6と比較例1〜7で硬さ分布、A点での表面粗さ、疲労試験結果を示す。
【0021】
【表1】

【0022】本発明例1〜5は加工硬化層がA点位置より0.4mm歯元側からA点位置まである。本発明例6,及び本発明例7は、加工硬化層がA点位置より0.4mm歯元側からA点位置より0.4mm歯先側まである。また、いずれもA点での粗さはRmax 3μm以下であり、ピッチングは1.0×107回まで発生しなかった。そこで、疲労実験は1.0×107回で中止して表中には≧10で表記した。
【0023】これに対し、比較例1〜3は加工硬化層を持たないためピッチング寿命は2.2×106回以下と短い。比較例4は、A点より0.4mm歯元側において深さ0.1mmではMHv730あるものの、深さ0.2mmでMHv715であり、加工硬化層が薄くなっている。この比較例4でのピッチング寿命も2.2×106回と短かい結果であった。比較例5,及び比較例6はA点より歯先側に加工硬化層が有るのの、A点位置より0.4mm歯元側では加工硬化層が無い場合であり、これらのピッチング寿命は4.4×106回以下であり、本発明例の半分以下であった。
【0024】比較例7は、研削後歯車にショットピーニングを行って加工硬化層を得た物である。加工硬化を施す部分であるA点位置より0.4mm歯元側からA位置より0.4mm歯先側にショット玉が照射されるように他はゴムによるマスキングを施してショットピ−ニングを行った。ショットピーニング条件は、φ0.8のショット玉を用いアークハイト0.6mmAで実施した。
【0025】表1には比較例7での粗さが示されているが、ショット後は歯面が荒れるためRmax 12.5であり、疲労試験でのピッチング寿命も3.1×106回と短い。表2には加工硬化層を得るための超硬ピン押し付け位置と押し付け時の面圧を示す。
【0026】
【表2】

【0027】本発明例ではいずれもA点位置より歯元側から押し付けを開始しており、押し付け荷重も疲労試験での負荷面圧より多くなるように設定した。押し付けは、A位置及びA点位置より歯先で徐荷するようにした。表2より、本発明例7〜11では1.0×107回でもピッチングが発生しなかった。比較例8は押し付けを行わない場合であり、ピッチング寿命は1.9×106回であった。比較例9,及び比較例10は押し付け位置は本発明例7〜11と同じであるが、負荷面圧が疲労試験時の面圧より低い場合であり、いずれもピッチング寿命は1.8×106回、1.8×106回と短かった。比較例11,比較例12は押し付け開始位置がA点、及びA点より0.2mm歯先からの場合であり、本発明例に比べピッチング寿命が半分以下であった。
【0028】
【発明の効果】本発明では、未使用の歯車に単純な負荷を与えることにより、使用時のピッチング寿命を飛躍的に向上することができる。このことは歯車の受ける負荷荷重を増大できる、或いは歯車自体の小型軽量化が可能となり、歯車を多く用いる自動車、建築用機械の小型軽量化を実現し、燃費改善など多大の効果をもたらす。
【出願人】 【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日本製鐵株式会社
【出願日】 平成10年(1998)2月13日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬 (外3名)
【公開番号】 特開平11−230312
【公開日】 平成11年(1999)8月27日
【出願番号】 特願平10−31689