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【発明の名称】 トロイダル型無段変速機
【発明者】 【氏名】山崎 淳

【氏名】井上 英司

【要約】 【課題】この発明は,入力ディスクを回転軸に支持するボールスプラインのボール同士の擦れ合いを回避してボールスプラインの摺動抵抗を低減したトロイダル型無段変速機を提供する。

【解決手段】ボールスプライン16は,ボール17の間に直径の小さいスペーシングボール18を設ける。入力ディスク4が回転軸3に対して軸方向に移動する時,ボール17はスプライン溝19,20の中で入力ディスク4からの荷重を受けて回転する。一方,スペーシングボール18はボール17よりも径が小さいので,入力ディスク4からの荷重を受けずにボール17の回転に伴って回転する。従って,ボール17とスペーシングボール18との擦れ合いを回避でき,ボールスプライン16の摺動抵抗を低減できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ケーシングに回転可能に支持された回転軸,前記回転軸にボールスプラインを介して軸方向に移動可能で且つ前記回転軸と一体回転可能に支持された入力ディスク,前記入力ディスクに対向して配置され且つ前記回転軸に相対回転可能に支持された出力ディスク,前記入力ディスクと前記出力ディスクとの間に配置され且つ前記両ディスクに対する傾転角度に応じて前記入力ディスクの回転を無段階に変速して前記出力ディスクに伝達するパワーローラ,入力トルクの大きさに応じたスラスト力を発生して前記入力ディスクを前記出力ディスクに向けて軸方向に移動させるカム機構を具備し,前記ボールスプラインの隣り合うボール同士の間に該ボールよりも直径の若干小さいスペーシングボールを介在させたことから成るトロイダル型無段変速機。
【請求項2】 前記スペーシングボールの材質又は表面処理は前記ボールスプラインのボールの材質又は表面処理と異なることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,自動車等の車両に適用されるトロイダル型無段変速機に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車等の車両に適用される変速機の一つにトロイダル型無段変速機がある。一般に,トロイダル型無段変速機は,入力軸により駆動される入力ディスク,前記入力ディスクに対向して配置され且つ出力軸に駆動連結された出力ディスク,及び両ディスクに摩擦接触するパワーローラから成るトロイダル変速部を有し,パワーローラの傾転角度を変えることによって入力ディスクの回転を無段階に変速して出力ディスクに伝達することができる。2組のトロイダル変速部を同一軸上にタンデム配置したものを,ダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機と称し,現在では該タイプのものが最も一般的となっている。
【0003】トロイダル型無段変速機においては,入力ディスクは回転軸に対して相対回転しないように支持され,これにより,入力ディスクに伝達されたトルクは回転軸に伝達される。入力ディスクは回転軸に対して軸方向に移動可能に支持され,入力ディスクに伝達されたトルクはパワーローラを介して出力ディスクに伝達される。トロイダル型無段変速機では,回転軸に対して入力ディスクを相対回転不能で且つ軸方向移動可能に支持する必要があり,そのため回転軸と入力ディスクとの結合手段として,スプライン結合が従来から一般に採用されてきた。しかし,スプライン結合によって入力ディスクと回転軸を結合した場合,スプラインの摺動抵抗により,両ディスク間の押圧力にヒステリシスが発生することになり,該押圧力が不足すると,両ディスクとパワーローラとの間に滑りが発生し,所定のトルクの伝達が行えない状態となる。
【0004】そこで,回転軸と入力ディスクとの間の摺動抵抗を減らすために,回転軸と入力ディスクとの間に,ボールスプラインを設けたものが開発された(例えば,実公平6−37222号公報,特開平2−163549号公報参照)。この種のトロイダル型無段変速機として,具体的には,例えば,図5に示すようなものがある。図5は従来のダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機における一方のトロイダル変速部1のみを図示したものであり,他方のトロイダル変速部2(図1参照)を省略したものである。
【0005】図5に示すように,入力ディスク4及び出力ディスク5は一本の中空に形成された回転軸3に支持され,回転軸3は変速機のケーシング25に対して軸方向に若干の移動が可能となるように取り付けられている。入力ディスク4はボールスプライン40を介して回転軸3に相対回転しないように且つ軸方向に移動できるように取り付けられている。出力ディスク5は,回転軸3に相対回転可能に嵌合されたスプロケットの軸部の連結軸22にスプライン嵌合され,出力ディスク5に伝達されたトルクはスプロケットを介して取り出される。
【0006】入力ディスク4の外側(図5中左方)には,カム機構41が設けられている。カム機構41は,フランジ状のローディングカム14と,ローディングカム14のカム面と,カム面と入力ディスク4の外側面との間に介在するカムローラ15とによって構成されている。ローディングカム14は回転軸3に相対回転可能に嵌合されるとともに,スラストベアリング42を介して回転軸3の左端に形成された鍔部43に係止され,ローディングカム14に作用する図中左方への押圧力は,スラストベアリング42及び鍔部43を介して回転軸3に伝達されるようになっている。また,入力ディスク4とローディングカム14との間には,皿ばね44がニードルベアリング45を介して介在され,皿ばね44の付勢力はローディングカム14で発生される押圧力と並列関係となる。
【0007】回転軸3の左端には凹部46が形成されており,凹部46に入力軸がニードルベアリングを介して回転自在に嵌合・支持され,入力軸のフランジ部が継手39を介してローディングカム14に連結される。
【0008】上記のトロイダル型無段変速機は,エンジンからのトルクは,入力軸から継手39を介してローディングカム14に伝達され,ローディングカム14と入力ディスク4との間で相対回転が生ずることにより,これら両者間にカムローラ15が圧接され,圧接力で入力ディスク4にトルクが伝達されると共に,その圧接力は入力トルクに比例して増大され,入力ディスク4の図中右方への押圧力としても作用する。入力ディスク4に伝達されたトルクによって,トロイダル変速部1が駆動される。トロイダル変速部1は,入力ディスク4の回転がパワーローラ6に伝達され,更にパワーローラ6の回転が出力ディスク5に伝達されるので,パワーローラ6の傾転角度を変えることによって,入力ディスク4の回転を無段階に変速して出力ディスク5に伝達することができる。入力ディスク4に伝達されたトルクは,ボールスプライン40を介して回転軸3に伝達され,回転軸3から他方のトロイダル変速部2の入力ディスク7にも伝達され,他方のトロイダル変速部2も駆動される。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】ところで,入力ディスク4がボールスプライン40を介して回転軸3に相対回転不能で且つ軸方向移動可能に取り付けられていることは,上記のとおりであるが,ローディングカム14と入力ディスク4との間で相対回転が生ずることにより,入力ディスク4は図5の右方向へ移動し,回転軸3は逆に左方向へ移動する。図6に示すように,入力ディスク4と回転軸3との間には,3個のボール17がスプライン溝19,20に嵌め込まれ,ボールスプライン40を形成している。入力ディスク4と回転軸3とが反対方向に移動すると,ボール17は図6に矢印Aで示すように,同一方向に回転する。図7に矢印A,Bで示すように,隣り合うボール17同士はお互いの摩擦力で反対方向に回転しようとする傾向があるにも拘わらず,同一方向Aに回転することになるので,隣り合うボール17同士で擦れ合い,摺動抵抗が発生する。該摺動抵抗のため,トロイダル変速部1に加わるべき押圧力が不足し,トロイダル変速部1でスリップが発生する。即ち,両ディスク4,5とパワーローラ6との間に滑りが発生し,所定どおりのトルクの伝達が行えない状態となる。
【0010】従って,ボールスプラインを介して入力ディスクを回転軸に支持した従来のトロイダル型無段変速機において,ボールスプラインに用いられる隣り合うボール同士の擦れ合いを回避することによってボールスプラインの摺動抵抗を低減することが課題となっている。
【0011】
【課題を解決するための手段】この発明の目的は,上記課題を解決することであり,ボールスプラインの摺動抵抗を低減し,トロイダル変速部に加わるべき押圧力が十分に得られるようにすることにより,トロイダル変速部でスリップが発生するのを防止し,入力ディスクとパワーローラと出力ディスクとの間に滑りが発生するのを防止し,所定どおりのトルクの伝達が行えるように構成したトロイダル型無段変速機を提供することである。
【0012】この発明は,ケーシングに回転可能に支持された回転軸,前記回転軸にボールスプラインを介して軸方向に移動可能で且つ前記回転軸と一体回転可能に支持された入力ディスク,前記入力ディスクに対向して配置され且つ前記回転軸に相対回転可能に支持された出力ディスク,前記入力ディスクと前記出力ディスクとの間に配置され且つ前記両ディスクに対する傾転角度に応じて前記入力ディスクの回転を無段階に変速して前記出力ディスクに伝達するパワーローラ,入力トルクの大きさに応じたスラスト力を発生して前記入力ディスクを前記出力ディスクに向けて軸方向に移動させるカム機構を具備し,前記ボールスプラインの隣り合うボール同士の間に該ボールよりも直径の若干小さいスペーシングボールを介在させたことから成るトロイダル型無段変速機に関する。
【0013】このトロイダル型無段変速機は,上記のように,スペーシングボールの直径をボールスプラインのボールの直径よりも若干小さくしたので,入力ディスク及び回転軸から受ける荷重は全てボールスプラインのボールが受け,スペーシングボールは受けない。しかも,スペーシングボールをボールスプラインの隣り合うボール同士の間に介在させたので,ボールの回転方向とスペーシングボールの回転方向は逆になり,ボールスプラインのボールとスペーシングボールとが互いに擦れ合うことはない。従って,ボールスプラインの隣り合うボール同士の擦れ合いを回避でき,ボールスプラインの摺動抵抗を低減できる。
【0014】また,上記トロイダル型無段変速機において,前記スペーシングボールの材質又は表面処理は前記ボールスプラインのボールの材質又は表面処理と異なるものである。このように,ボールスプラインのボールとスペーシングボールとで,材質又は表面処理を異ならせたことによって,両者の違いを簡単に識別することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】以下,図面を参照して,この発明によるトロイダル型無段変速機の実施例について説明する。図1はこの発明によるトロイダル型無段変速機の一実施例を示す概略図である。このトロイダル型無段変速機を構成する一方のトロイダル変速部1の詳細な構造は,ボールスプラインの構造を除いて,図5で説明した従来のものと基本的には同一構造であるから,同一の部品には同一符号を付し,それらの説明を省略する。
【0016】このトロイダル型無段変速機は,2組のトロイダル変速部1,2を同一軸上にタンデム配置した,いわゆる,ダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機と称されるものである。一方のトロイダル変速部1は,図5に示したものと基本的に同じ構造であって,入力ディスク4と,入力ディスク4に対向して配置された出力ディスク5と,入力ディスク4と出力ディスク5との間に配置され且つ両ディスク4,5のトロイド曲面に摩擦係合するパワーローラ6から構成されている。他方のトロイダル変速部2もトロイダル変速部1と同様に,入力ディスク7と,入力ディスク7に対向して配置された出力ディスク8と,入力ディスク7と出力ディスク8との間に配置され且つ両ディスク7,8のトロイド曲面に摩擦係合するパワーローラ9とから構成されている。各トロイダル変速部1,2には,パワーローラ6,9がそれぞれ2つずつ設けられている。パワーローラ6,9は,それぞれ自己の回転軸線10の周りに回転自在であり,且つ回転軸線10に直交する傾転軸11(紙面に垂直)の周りに傾転運動をする。
【0017】トロイダル変速部1,2における入力ディスク4,7は,回転軸3にボールスプライン16を介してそれぞれ取り付けられ(図5参照),回転軸3の軸方向に変位可能で且つ回転軸3と一体回転可能である。ボールスプライン16は,図2及び図3に示すように,隣り合うボール17同士の間にボール17よりも直径の若干小さいスペーシングボール18,18が設けられたものである。ここで,「若干小さい」とは,入力ディスク4,7にかかる荷重をボール17で受け,スペーシングボール18では受けないような大きさという意味である。具体的には,スペーシングボール18の直径は,ボール17及びスプライン溝19,20の弾性変形分だけボール17の直径よりも小さく形成すれば,スペーシングボール18が荷重を分担することはないので,その程度の大きさで十分である。
【0018】エンジンからの動力は,トルクコンバータ12を介して回転軸3と同一軸線上に配置されている入力軸13に入力される。入力軸13の先端は継手(図示せず)を介してローディングカム14に係合しており,ローディングカム14やカムローラ15等からなるカム機構41のカム作用によって,入力トルクの大きさに応じて,入力ディスク4,7をパワーローラ6,9に押し付けるスラスト力が発生し,入力ディスク4と,更に回転軸3を介して入力ディスク7とが回転する。従って,回転軸3は,入力ディスク4,7に対して入力軸となっている。上記スラスト力は,入力ディスク4,7と出力ディスク5,8との間でパワーローラ6,9を挟み付け,伝達トルクの大きさに応じた摩擦係合力を与える。
【0019】各トロイダル変速部1,2において,パワーローラ6,9は傾転軸11の周りに傾転可能であり,入力ディスク4,7の回転はそれぞれパワーローラ6,9を介して出力ディスク5,8に無段階に変速されて伝達される。パワーローラ6,9は,トラニオン(図示せず)に対して回転自在に且つ揺動自在に支持されている。
【0020】パワーローラ6,9の回転軸線10が回転軸3の軸線と一致している,即ち,両軸線が同一平面上にある中立位置では,パワーローラ6,9の傾転角はその時の状態を維持しており,変速比はその時の値を保持している。トルク伝達中に,トラニオンを傾転軸11の軸方向に移動させると,それに伴ってパワーローラ6,9も傾転軸方向に変位し,パワーローラ6,9と入力ディスク4,7及び出力ディスク5,8との接触位置が,上記中立位置における接触位置から変位する。その結果,パワーローラ6,9は,両ディスクから傾転力を受け,傾転軸11における移動方向と移動量に応じた方向と速さで傾転軸11を中心とした傾転が生じる。このような傾転が生じると,入力ディスク4,7におけるパワーローラ6,9との摩擦接触点が描く半径と,出力ディスク5,8におけるパワーローラ6,9との摩擦接触点が描く半径との比が変化し,これによって無段変速が行われる。パワーローラ6,9の傾転制御は,例えば,コントローラによって,目標変速比が達成されるように,アクチュエータの作動を介してトラニオンの傾転軸方向変位が制御される。
【0021】出力ディスク5,8は,一体回転できるように背面同士を連結軸22上にスプライン嵌合によって連結されている。連結軸22は回転軸3に相対回転可能に嵌合された中空軸であって,連結軸22の中間部にスプロケット24が一体的に形成されている。出力ディスク5,8は,連結軸22を介してスラスト方向及びラジアル方向の荷重を支持する軸受(図示せず)によってケーシング25に支持されている。出力ディスク5,8に伝達された動力は第1伝動手段であるチェーン伝動装置23,即ち,スプロケット24からチェーン26及び中間スプロケット27を経て,一端側に中間スプロケット27が取付けられたカウンタ軸28に取り出される。
【0022】カウンタ軸28の他端には,前進用クラッチ29が配設されている。前進用クラッチ29の出力側は歯車30に連結され,歯車30は変速機全体の出力軸32に取付けられた歯車31と噛み合い,減速機構を構成している。従って,前進用クラッチ29はカウンタ軸28と歯車30とを空転状態又はトルク伝達状態に切り換え可能である。歯車30,31は,第2伝動手段を構成しており,第2伝動手段は,カウンタ軸28の回転を出力軸32に逆転して伝達する逆転伝動手段となっている。第1伝動手段であるチェーン伝動装置23から,カウンタ軸28,第2伝動手段である歯車30,31までの機構は,出力ディスク5,8の回転を逆転して出力軸32に伝達する逆転機構を構成している。
【0023】回転軸3と出力軸32との間には,遊星歯車機構33が配設されている。遊星歯車機構33は,回転軸3に連結されたサンギヤ34,サンギヤ34と噛み合と共にキャリヤ35を備えたピニオン36,及びピニオン36と噛み合い且つ出力軸32に連結されたリングギヤ37から成る。キャリヤ35と変速機のケーシング25との間には,キャリヤ35をケーシング25に対して空転状態又は固定状態に切り換える後進用クラッチ38が組み込まれている。
【0024】次に,このトロイダル型無段変速機の作動について説明する。エンジンの駆動に伴って,エンジンからの動力がトルクコンバータ12を介して入力軸13に入力され,入力軸13に入力されたトルクは,ローディングカム14及びカムローラ15を介してトロイダル変速部1の入力ディスク4に伝達される。入力ディスク4はローディングカム14等のカム作用で出力ディスク5に向かって移動してパワーローラ6に押し付けられる。入力ディスク4の回転に伴ってパワーローラ6が回転し,その回転が出力ディスク5に伝達する。これと同時に,ローディングカム14等のカム作用によって回転軸3は入力ディスク4の移動方向と反対方向に移動し,入力軸13からのトルクは回転軸3を介してトロイダル変速部2の入力ディスク7に入力される。入力ディスク7の回転はパワーローラ9を介して出力ディスク8に伝達される。
【0025】ボールスプライン16によって支持された入力ディスク4,7が回転軸3に対して軸方向に相対的に移動するとき,図3に示すように,ボール17はスプライン溝19,20の中で入力ディスク4,7からの荷重を受けながら矢印A方向に回転する。一方,スペーシングボール18はボール17よりも径が小さいので,入力ディスク4,7からの荷重を受けないため,ボール17の回転に伴ってボール17と反対方向Bに回転する。従って,ボール17とスペーシングボール18とがお互いに擦れ合うことを回避することができるので,ボールスプライン16の摺動抵抗は大幅に低減される。
【0026】ボール17とスペーシングボール18との大きさが異なると,回転軸3の回転に伴って,スペーシングボール18は遠心力で外側即ちスプライン溝19の底面に押し付けられ,ボール17の中心点とスペーシングボール18の中心点とがずれるが,中心点が多少ずれても,スペーシングボール18は荷重を受けていないので,入力ディスク4,7の軸方向移動によって回転力を受けることはない。
【0027】前進走行時には,前進用クラッチ29を接続し,後進用クラッチ38の接続を解除する。この状態では,カウンタ軸28は歯車30に対してトルク伝達状態となっており,遊星歯車機構33のキャリヤ35はケーシング25に対して空転状態となっている。従って,出力ディスク5,8の回転は,連結軸22からチェーン伝動装置23を介し,更に,カウンタ軸28,前進用クラッチ29,歯車30,歯車31を経て,出力軸32に出力される。入力軸13の回転方向を正転とすると,カウンタ軸28は逆回転し,歯車30と歯車31とで更に反転されて,出力軸32には正転回転が得られる。一方,後進用クラッチ38は接続されていないので,キャリヤ35はケーシング25に対して空転状態にあり,回転軸3に連結されたサンギヤ34が回転しても,出力軸32と共に回転するリングギヤ37との間の回転差は,ピニオン36が遊星運動をして吸収する。
【0028】後進走行時には,前進用クラッチ29の接続を解除し,後進用クラッチ38を接続する。遊星歯車機構33のキャリヤ35はケーシング25に固定状態となるので,ピニオン36は公転不能となる。回転軸3の回転は,トロイダル変速部1,2を介さず,遊星歯車機構33に直接に伝達される。遊星歯車機構33では,サンギヤ34,自転のみが可能なピニオン36及びリングギヤ37を介して出力軸32に出力される。出力軸32と共に歯車31及び歯車30が回転しても,前進用クラッチ29はカウンタ軸28と歯車30とを空転状態としているので,出力ディスク5,8,チェーン伝動装置23,及びカウンタ軸28の回転と干渉することはない。入力軸13,即ち,回転軸3の回転方向を正転とすると,サンギヤ34の回転は正転であるが,キャリヤ35が非回転であるためにリングギヤ37は逆回転し,従って出力軸32は逆回転となる。
【0029】次に,図4に示したこの発明によるトロイダル型無段変速機の他の実施例について説明する。この実施例では,スペーシングボール21は,その材質又は表面処理をボールスプラインのボール17の材質又は表面処理と異ならせたものである。自動車用変速機は,ステアリングユニット(ボールスプラインを備えている)等の他の装置と異なり,修理工場で分解・組立を行うことが多い。従って,スペーシングボール21の材質又は表面処理をボール17のそれと異ならせることによって,例えば,スペーシングボール21に着色することによって,両者を簡単に識別することができるので,変速機を組み立てる際に,誤組立を防止することができる。また,材質又は表面処理を異ならせる別の例として,スペーシングボール21の表面の摩擦係数を小さくするようにしてもよい。その場合には,スペーシングボール21がより転がり易くなるという効果がある。
【0030】上記実施例では,2組のトロイダル変速部を同一軸上にタンデム配置したダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機とした例を示したが,これに限らず,本発明は単一のトロイダル変速部を有するシングルキャビティ式のトロイダル型無段変速機にも適用可能であることは明らかである。また,逆転機構に用いられる第1及び第2伝動手段として,チェーン伝動装置と歯車伝動装置を用いた例を示したが,ベルト伝動装置等の他の伝動装置を用いても良く,また,カウンタ軸の両端での組み合わせにおいても,出力ディスクの回転を逆転して出力軸に伝達するものであれば,任意である。
【0031】
【発明の効果】この発明によるトロイダル型無段変速機は,上記のとおり,ボールスプラインの隣り合うボール同士の間にスペーシングボールを介在させ,しかも,スペーシングボールの直径をボールスプラインのボールの直径よりも若干小さくしたので,ボールスプラインの隣り合うボール同士の擦れ合いを回避することができる。従って,ボールスプラインの摺動抵抗は従来のものに比べて大幅に低減し,トロイダル変速部に加わるべき押圧力が十分に得られるようになり,トロイダル変速部でスリップが発生するのを防止でき,即ち入力ディスクとパワーローラと出力ディスクとの間に滑りが発生するのを防止でき,所定どおりのトルクの伝達が行えるようになり,トロイダル型無段変速機のトルク伝達効率が向上する。また,ボールスプラインのボールとスペーシングボールとで,材質又は表面処理を異ならせることによって,両者の違いを見た目で区別することができるようになるので,修理工場などで分解・組立を行う際に,両者を識別することができ,誤組立を防止することができるという利点がある。
【出願人】 【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
【出願日】 平成10年(1998)2月18日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】尾仲 一宗 (外1名)
【公開番号】 特開平11−230292
【公開日】 平成11年(1999)8月27日
【出願番号】 特願平10−51297