| 【発明の名称】 |
自動変速機の変速制御装置 |
| 【発明者】 |
【氏名】遠藤 弘淳
【氏名】大場 秀洋
|
| 【要約】 |
【課題】クラッチツウクラッチ変速において、変速ショックを低減させる。
【解決手段】係合側クラッチの油圧を増加させ、イナーシャ相開始と同時に該係合側クラッチの油圧を入力軸回転速度が所定の態様で変化するようにフィードバック制御を行うときに、フィードバック制御の初期値としてフィードバック制御の開始される直前における指示値を所定量下げた値を用いることにより、変速ショックを緩和する。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】係合側クラッチの油圧を増加させることによってイナーシャ相を開始させ、該イナーシャ相の開始の検出後、前記係合側クラッチの油圧を自動変速機の入力軸回転速度が所定の態様で変化するように、フィードバック制御する自動変速機の変速制御装置において、該フィードバック制御の開始時点における初期値として、該フィードバック制御の開始される直前における指示値より所定量下げた値を用いる手段と、を備えたことを特徴とする自動変速機の変速制御装置。 【請求項2】請求項1において、前記フィードバック制御の開始時点における初期値を下げる前記所定量を、前記フィードバック制御開始時点から所定時間経過後における、前記自動変速機の入力軸回転速度の変化態様に応じて学習補正することを特徴とする自動変速機の変速制御装置。 【請求項3】請求項1において、更に、解放側クラッチと係合側クラッチの掴み替えのタイミングを当初タイアップ気味に設定しておき、学習によって該タイアップの度合を低減してゆく学習システムを備え、該学習システムの学習進度が低いときほど、前記所定量を大きく設定することを特徴とする自動変速機の変速制御装置。 【請求項4】請求項1において、更に、当該変速の終了直前を検出する終了直前判定手段を備え、該判定手段が変速の終了直前を検出後、前記フィードバック制御を、それから変速終了後に亘る所定時間継続することを特徴とする自動変速機の変速制御装置。 【請求項5】請求項1において、更に、前記係合側クラッチの入力トルクを検出する手段と、前記係合側クラッチの油圧のフィードバック制御中に、該クラッチの入力トルクが変化したことが検出された場合に、前記フィードバック制御の指示値を、該クラッチの入力トルクに応じて可変とする手段と、を備えたことを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
|
【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、係合側クラッチの油圧を増加させることによってイナーシャ相を開始させ、該イナーシャ相の開始の検出後、前記係合側クラッチの油圧を自動変速機の入力軸回転速度が所定の態様で変化するように、フィードバック制御する自動変速機の変速制御装置に関する。 【0002】 【従来の技術】従来、自動車では、自動変速機の変速制御装置や車両の制動装置(ABS、TRCあるいはVSC制御)等の制御を油圧を用いて行っており、様々な油圧制御機器や、それを制御する制御装置が開発されている。 【0003】一般に、自動変速機を搭載する車両は、エンジンから出力された回転出力トルクを流体を内蔵するトルクコンバータを介して、その回転出力トルクを自動変速機に伝達する。 【0004】自動変速機は、遊星歯車機構の各部材の固定状態と回転状態を切換えることによって変速を行う。このときに、動力(回転出力トルク)を伝達する際に係合側クラッチと解放側クラッチ等の摩擦係合要素の油圧の制御を適切に行わないと、出力軸トルクが落ち込んだり、エンジンが吹き上がったりすることにより、変速ショックが大きくなる。 【0005】特開平6−341535号の公報には、クラッチツウクラッチ変速の際にトルク相では、係合側クラッチの油圧は予め運転状態等にて設定された設定値に基づいて制御し、その後のイナーシャ相では、自動変速機の入力軸回転速度が目標値になるように、係合側クラッチの油圧をリニアソレノイドバルブを用いてフィードバック制御を実行している。 【0006】しかしながら、リニアソレノイドバルブを用いるためには、電子制御装置からのデジタル信号をアナログ信号に変換しなければならない等、装置構成が複雑となり、コストもかかるため、近年では電子制御装置からのデジタル信号でそのまま制御できるデューティソレノイドバルブが広く用いられるようになってきている。 【0007】即ち、所定のデューティパルス周期でオンとオフを繰り返すデューティパルスに応じた油圧を発生するデューティソレノイドバルブを備え、各デューティパルス周期におけるデューティパルスのオン時間とオフ時間の割合を制御することによって、被制御油圧をデューティ制御する油圧制御機器が開発されている。 【0008】ところで、前記特開平6−341535号の公報で開示された装置を含め、従来の装置においては、イナーシャ相の開始から始められるフィードバック制御における係合側クラッチ油圧の初期の値(油圧初期値)が、トルク相で行っていた予め設定された設定値に基づいた値(直前の指示値)と同じ値で制御が開始されている。これは制御の連続性を確保するために必須のことと考えられていたためである。 【0009】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、発明者らの研究の結果、イナーシャ相開始と同時に行われるフィードバック制御の初期値において、これを直前の値と同じに設定すると、むしろ制御が不適正になることがわかった。即ち、油圧の応答の遅れ等により、指示した値と実際の油圧値との間には若干の開きが発生しており、又、後述する理由により却って適正な設定値ではなくなってイナーシャ相でのフィードバック制御が良好に行われないことがわかった。 【0010】又、前記「直前の指示値」による油圧を、イナーシャ相開始時のタービン回転速度に応じて学習補正する技術も提案されているが、この学習制御をクラッチツウクラッチ制御に適用した場合、該「直前の指示値」による油圧を、学習補正によって変更すると、クラッチのつかみ替えのタイミングのそのものがずれてしまうことがわかった。 【0011】本発明は、このような知見に基づいてなされたものであって、特に係合側クラッチにおけるフィードバック制御を適正化することによって、出力軸トルクを安定させ、変速ショックの低減を実現すると共に、クラッチツウクラッチの変速においてもクラッチのつかみ替えタイミングをずらすことなく、スムーズな変速を可能とする自動変速機の変速制御装置を提供することをその課題とする。 【0012】 【課題を解決するための手段】請求項1に記載の発明は、係合側クラッチの油圧を増加させることによってイナーシャ相を開始させ、該イナーシャ相の開始の検出後、前記係合側クラッチの油圧を自動変速機の入力軸回転速度が所定の態様で変化するように、フィードバック制御する自動変速機の変速制御装置において、該フィードバック制御の開始時点における初期値として、該フィードバック制御の開始される直前における指示値より所定量下げた値を用いる手段と、を備えたことにより、上記課題を解決したものである。 【0013】請求項2に記載の発明は、前記フィードバック制御の開始時点における初期値を下げる前記所定量を、前記フィードバック制御開始時点から所定時間経過後における、前記自動変速機の入力軸回転速度の変化態様に応じて学習補正することにより、製品間のばらつき等に拘らず、変速開始時の油圧の最適化が図れる。 【0014】請求項3に記載の発明は、更に、解放側クラッチと係合側クラッチの掴み替えのタイミングを当初タイアップ気味に設定しておき、学習によって該タイアップの度合を低減してゆく学習システムを備え、該学習システムの学習進度が低いときほど、前記所定量を大きく設定することにより、掴み替えタイミング学習初期での変速ショックを低減することができ、少ない学習回数でスムーズな変動が可能になる。 【0015】請求項4に記載の発明は、更に、当該変速の終了直前を検出する終了直前判定手段を備え、該判定手段が変速の終了直前を検出後、前記フィードバック制御を、それから変速終了後に亘る所定時間継続することにより、クラッチの係合終了時の変速ショックを低減することができる。 【0016】請求項5に記載の発明は、更に、前記係合側クラッチの入力トルクを検出する手段と、前記係合側クラッチの油圧のフィードバック制御中に、該クラッチの入力トルクが変化したことが検出された場合に、前記フィードバック制御の指示値を、該クラッチの入力トルクに応じて可変とする手段と、を備えたことにより、変速中にアクセル操作が発生した場合の変速特性の設定自由度を大きくすることができる。 【0017】 【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。 【0018】以下に説明する実施形態は、クラッチ係合圧をデューティソレノイドバルブにより制御することによって、クラッチ・ツウ・クラッチ制御を行う自動変速機の変速制御装置に関する。 【0019】図8は、本発明の一実施形態に係る自動変速機の変速制御装置の概略構成図である。ここでは、パワーオンアップシフトの例を示す。 【0020】この自動変速機は、トルクコンバータ2及び変速部4を備える。トルクコンバータ2は、図示せぬエンジン出力軸10と連結されたポンプ12と、一方向クラッチ14により変速機のケース15に連結されたステータ16及びタービン18を含む。タービン18は変速機の入力軸20と連結され、変速機の入力軸20は、ハイギヤクラッチCH(高速段側クラッチ)を介してハイギヤ対22に連結されると共に、ローギヤクラッチCL(低速段側クラッチ)を介してローギヤ対24に連結されている。ハイギヤ対22は駆動側ギヤ22aと従動側ギヤ22bとからなり、ローギヤ対24は駆動側ギヤ24aと従動側ギヤ24bとからなる。 【0021】各ギヤ対22、24の従動側ギヤ22b、24bは変速機の出力軸26に連結され、常時同一回転をしている。 【0022】各クラッチCH、CLの解放あるいは係合は、油圧制御装置30内のデューティソレノイドバルブ(後述)がコンピュータ40からの指令に基づいて駆動されることによって実行される。コンピュータ40には、各種センサ群50からの信号、例えば車速センサ51からの車速信号(出力軸26の回転速度の信号)、スロットルセンサ52からのスロットル開度信号(アクセル開度信号:エンジン負荷信号)、シフトポジションスイッチ53からのシフトポジション信号、ブレーキスイッチ54からのフットブレーキ信号等の基本的な信号の他に、入力軸速度センサ55からの変速機入力軸20の回転速度(タービン回転速度)NTの信号や油温センサ56からの油温検出信号等が入力されている。 【0023】図9に、ハイギヤクラッチCHの油圧制御回路を示す。なお、ローギヤクラッチCLの構造も基本的にはこれと同一である。この実施形態では、パワーオンアップシフト(運転者がアクセルペダルを踏んで加速している際に行われるアップシフト)のクラッチ・ツウ・クラッチ制御に本発明を適用している。この場合ハイギヤクラッチCHが係合側クラッチ、ローギヤクラッチCLが解放側クラッチとなるが、パワーオフ・アップシフトやパワーオフ・ダウンシフトにも本発明は適用できる。更には解放側のクラッチの代わりにワンウェイクラッチを用いたタイプの自動変速機にも適用することができる。 【0024】コンピュータ40によって制御されるデューティソレノイドバルブ60(60h、60l)には、油路L1よりライン圧PLが導入される。デューティソレノイドバルブ60は、そのデューティパルス周期におけるオン信号、オフ信号の割合に応じて、油路L2からローギヤクラッチCLの油圧室62へライン圧PLを導入すると共に、油路L3からドレンする。 【0025】ハイギヤクラッチCHあるいはローギヤクラッチCLは、多板式クラッチであり、油圧室62に油圧PhiあるいはPloが導入されるとピストン63が移動し、クラッチ板66が押圧された結果、該クラッチ板66と相手側のクラッチ板68が係合する構成とされている。なお、油路L2にはアキュムレータ70が設けられている。 【0026】ここで、ピストン63が移動してクラッチ板66が相手側のクラッチ板68に接触するまでの空走期間は、いわば無駄時間に相当するものであるため、この期間をできるだけ短くするために変速初期にデューティソレノイドバルブ60にデューティ比100%の信号(完全油圧供給指令)を所定時間T0 だけ出力する。これがいわゆる「ファーストクイックフィル」と呼ばれる操作である。 【0027】本発明は、ハイギヤクラッチCHとローギヤクラッチCLの油圧の制御を適正に行うことによってクラッチツウクラッチ変速をよりスムーズに行うようにする。 【0028】図1は、アップシフトの変速タイムチャートである。このタイムチャートは高速段側デューティ比SCDUH(ハイギヤクラッチCHの油圧制御のためのデューティソレノイドバルブ60(60h)へ出力するデューティ比)と、低速段側デューティ比SCDUL(ローギヤクラッチCLの油圧制御のためのデューティソレノイドバルブ60(60l)へ出力するデューティ比)と、タービン回転速度NT(=変速機入力回転速度)と出力軸トルクTOと、係合側クラッチの入力軸と出力軸の相対回転速度NDEF(以後、入出力軸相対回転速度という)との相互の関係を示している。 【0029】図のAで示す部分がファーストクイックフィルに相当しており、デューティ比が100%とされることによりハイギヤクラッチCHにライン圧が100%供給される。なお、デューティ比が0%のときは各クラッチCH、CLの油圧はドレンされる。 【0030】但し、回路構成によっては、デューティ比が100%のときに完全ドレン、0%のときに完全供給とされることもある。これはオン(100%)、オフ(0%)に対するドレンポートと供給ポートとの対応が逆になっているときに生じるもので、この場合はデューティ比を0%とすることによってファーストクイックフィルが実現される。 【0031】このクラッチツウクラッチアップシフトは、ハイギヤクラッチCHが解放、ローギヤクラッチCLが係合の状態から、ハイギヤクラッチCHが係合、ローギヤクラッチCLが解放の状態に切換えることにより実現される。 【0032】時刻t0 において、このアップシフトを実行すべき走行状態であると判断されると、公知の多重変速に対処するためのタイマT1 が経過した後、時刻t1 において低速段側デューティ比SCDULを50%程度の値(Plo1 )に低下させる指令を出す(変速制御開始指令)。 【0033】ローギヤクラッチCLの油圧はしばらくこの約50%の値(Plo1 )を維持する。一方、ハイギヤクラッチCHは、時刻t2 までデューティ比0%を維持し、時刻t2 からファーストクイックフィルを開始するべくデューティ比100%の状態にする。時刻t1 からt2 まで時間Ts だけデューティ比0%を維持するのは、次の理由による。クラッチツウクラッチに関わる2つのクラッチ圧を独立に制御するタイプの自動変速機においては、ハイギヤクラッチCHとローギヤクラッチCLの同時係合によるダブルロック状態(調圧ソレノイドのフェイル等で発生する)を回避するために、通常ダブルロック防止用のフェイルセーフバルブが設けられている。このフェイルセーフバルブは、一方のクラッチ圧が所定値以下にならない限り、他方(もう一方)のクラッチへのアプライ(油圧供給)を禁止する構成となっている。従って、変速開始時点で先ずローギヤクラッチCLのクラッチ圧が所定値以下になるのを待ってからハイギヤクラッチCHのクラッチ圧のファーストクイックフィルを開始する必要があり、この待ち時間のためにt1からt2 の間は高速段側デューティ比SCDUHを0%としている。 【0034】ファーストクイックフィルは、ここではタイマセットした所定時間T0 だけ作動させる。ファーストクイックフィルが終了したら高速段側デューティ比SCDUHは、該ハイギヤクラッチCHが容量をもたない程度のレベルPhi1に一旦落としておき、時刻t3 から高速段側デューティ比SCDUHを漸次上昇させる。ローギヤクラッチCLは、これを解放させるためのデューティ比の低下を時刻t4 から開始する。 【0035】このときに、エンジンが吹き上がる状態(図示せず)が発生した場合には、それに基づいて低速段側デューティ比SCDULをフィードバック制御し、エンジンの吹き上がってしまう状態や、2つのクラッチが同時に係合する状態にならないようにする。やがて、ハイギヤクラッチCHは、徐々に容量を持っていくようになり、時刻t5 で、高速段側デューティ比SCDUHを一旦、Phi2に維持しておく。なお低速段側デューティ比SCDULは、ハイギヤクラッチCHの係合が進んでエンジン吹きが収束した時刻t6 で0%(完全ドレン)とする。 【0036】ハイギヤクラッチCHは、時刻t7 でタービン回転速度NTが低速段側同期回転速度より所定値γより小さく(差が所定値γ以上に)なったことにより、イナーシャ相が開始されたと検出されると、(本発明に係る)フィートバック制御を開始する。このフィードバック制御によりタービン回転速度NTが、高速段同期回転速度付近になるまで所定の速度で低下するように、高速段側デューティ比SCDUHが上昇してゆく。 【0037】ここで、図1におけるフィードバック制御区間(期間T2 )のV部の拡大図を図5に示す。 【0038】従来は、係合側クラッチ(この場合、パワーオン・アップシフト変速なので高速段側クラッチCH)の入出力軸相対回転速度NDEFが零(時刻t11)になる前にフィードバック制御を終了している。つまり、図5で示すように、入出力軸相対回転速度NDEFが所定値β以下になったことが検出されたときにフィードバック制御を終了させている。本来は、入出力軸相対回転速度NDEFが丁度零(時刻t11)と判定される時点で、フィードバック制御を終了させるのが好ましい。しかし、入出力軸相対回転速度NDEFが零になるまでフィードバック制御を行うように構成した場合は、制御機器の精度上、検出装置が入出力軸相対回転速度NDEFが零であることを判定することは現実には難しく、例えば互いに入出力軸が安定した回転速度(収束値)に達していながらも、検出装置(センサ類)のわずかな検出誤差により入出力軸相対回転速度NDEFが零と判定されない状態が続き、フィードバック制御の終了判定がされない事態が発生してしまうことがある。そのため、従来は高速段側デューティ比SCDUH(クラッチ圧の指示値)のフィードバック制御が、いつまでも継続されてしまってハイギヤクラッチCHがいつまでも係合できない状態となることを防止するため、係合側クラッチの入出力軸回転速度NDEFが所定値β以下になったことが検出された時点でフィードバックを終了させていた。 【0039】このため従来ではフィードバック制御終了後は運転状態や予め設定された値により見込み制御されている。そのためこの設定された値が適切でないと、例えば、破線で示すように出力軸トルクTOが急激に盛り上がり、変速ショックを与えていた。 【0040】本実施形態においては、フィードバック制御の終了時点付近に、出力軸トルクTOを急激に盛り上がらせないようにするために、入出力軸相対回転速度NDEFが所定値βとなる時点(時刻t10)で係合側クラッチの係合終了直前の判定を行い、更に、その判定から係合終了時点後に亘る所定時間T3 が経過する時点(時刻t12)までフィードバック制御を継続させるようにする。こうして、入出力軸相対回転速度NDEFが零になる前に必ず通過する所定値β(従来と同様)以下となった時点(時刻10)から、所定時間T3 を経過するまでフィードバック制御を継続することにすることにより、完全に係合が終了するまで確実にきめ細かな制御を実行することが可能となり、出力軸トルクTOが急激に盛り上がることを防止でき、クラッチ係合終了時の変速ショックが低減され、スムーズな変速を実現できる。なお、ハイギヤクラッチCHが係合する瞬間はショックが発生し易いが、今日の油圧機器の応答性ならば十分に対応可能である。この場合、フィードバック制御の目標値が係合完了の時点(時刻t11)で折れ線とならないように配慮すれば一層ショックを低減できる。 【0041】図1に戻る。時刻t12において、フィードバック制御が終了した後に、更に所定時間T5 (ドレン完了タイマ)が経過した時刻t13をもって変速完全終了時と判断する。以後は高速段側デューティ比SCDUHを100%、低速段側デューティ比SCDULを0%に固定する。以上でクラッチツウクラッチ変速を終了する。 【0042】ここで図1のII部の拡大図を図2に示す。 【0043】フィードバック制御を開始する以前は公知のトルク相制御を行っており、予め設定された設定値や、運転条件等に応じてマップ等で設定された値により制御されている。その後に、入出力軸相対回転速度NDEFが下がり始めてイナーシャ相が開始され、該イナーシャ相が開始されたことが検出された後に該入出力軸相対回転速度NDEF(入力軸回転速度と同義)に基づいて、クラッチ圧指示値(高速段側デューティ比)SCDUHをフィードバック制御することを開始する。その場合にもしフィードバック制御の初期値を直前の指示値のままとしておくと破線で示すように入出力軸相対回転速度NDEFがフィードバック制御の開始初期に目標より早く低下してしまうことが発生する。 【0044】この第1の原因として、次のようなことが挙げられる。 【0045】イナーシャ相が開始されるまで、高速段(係合)側クラッチは入力トルクを持ち得るぎりぎりの状態になるようにその高速段側デューティ比SCDUHが制御されるのが理想である。しかし、現実として、高速段側クラッチが「丁度」容量を持ち得る状態になるように高速段側デューティ比SCDUHを設定しておくと、待機時の油圧(Phi2)のばらつきにより、所定値に到達できずにいつまでも変速(イナーシャ相)が開始されない恐れがある。そのため、高速段側デューティ比SCDUHはこれより若干高めに設定し、「確実にイナーシャ相が開始できる」(所定量以上の容量をもてる)状態で待機する必要がある(図2のC部で示すSCDUH1)。 【0046】しかしながら一度イナーシャ相が開始してしまえば、この確実に開始できる油圧は最適な油圧(図2のD部で示すSCDUH2)に対して当然に高過ぎる油圧ということになる。 【0047】従って、従来はイナーシャ相が開始された後のフィードバック制御の初期値が高すぎるために、入出力軸相対回転速度NDEFは破線のような特性を示してしまい、出力軸トルクTOも破線のように盛り上がってしまっていた(E部)。そのため変速ショックが大きくなり、更には、油圧を安定させるために、フィードバック制御に長時間を要してしまい、結果的に、変速時間を長くしてしまっていた。 【0048】そこで、本実施形態では出力軸トルクTOの急な立ち上がりを防止するために、イナーシャ相開始直後は、高速段側クラッチを係合し得るのに十分な少しでも低い値に設定し、係合し得るぎりぎりの油圧で係合させるように制御するようにする。 【0049】即ち、イナーシャ相が開始が検出された時刻t7 でフィードバック制御を開始する際の指示値(初期値)をフィードバック制御が開始される直前における指示値より下げるようにする。 【0050】その結果、実線のように、目標どおりの(理想的な)フィードバック制御を開始するための油圧値に戻すことによりフィードバック制御開始時の入出力軸相対回転速度NDEFの低下や、急激な出力軸トルクTOの盛り上がりを抑制することができる。 【0051】一方、入出力軸相対回転速度NDEFがフィードバック制御を開始初期に目標より速く低下してしまう第2の原因として、「油圧の応答の遅れ」が考えられる。これは、指示した値に対して実際の油圧が遅れて追従してくるため差が発生してしまうためである。 【0052】ここで、便宜上同じ図2を利用して説明すると、フィードバック制御の開始時点におけるクラッチ圧指示値(高速段側デューティ比)SCDUHをSCDUH1(図2のC部)とすると、油圧の応答遅れが発生したときに、実際の油圧は(図2のD部で示すように)SCDUH2であるとする。その時の油圧差(SCDUH1−SCDUH2)をαとすると、この油圧差αは、目標値より実値がαだけ低いことを意味することになるため、ハイギヤクラッチCHを係合方向に向かわせる働きをしてしまい、急激な出力軸トルクTOが発生してしまう原因となると考えられる。 【0053】そこで、本発明の実施形態では上記第1、第2の原因を考慮してフィードバック制御の初期値として、該フィードバック制御の開始される直前における指示値(高速段側デューティ比SCDUH)を所定量αだけ下げた値を与えることにより、出力軸トルクTOの急激な盛り上がり(E部)を防ぎ、クラッチ係合開始時での変速ショックを低減する。 【0054】なお、ここでいうフィードバック制御開始時の油圧の指示値を下げる所定量α(低減量α)を設定するにあたって、前記第1の原因と第2の原因とを分けて考える必要はなく、フィードバック制御により安定して入力軸相対回転速度NDEFが低下できるように予め実験等で得られた値を与えてもよいし、又、運転状況に応じてマップ等によって与えてもよい。このようにして、フィードバック制御の初期値(油圧指示値)を直前の指示値より下げ、特にイナーシャ相開始直後におけるフィードバック制御が安定して実行できるように設定する。 【0055】図3は、低減量αをフィードバック制御開始時点から所定時間T6 経過後における自動変速機の係合側クラッチの入力軸回転速度Ninの変化態様に応じて決定する(学習する)制御法を示している。 【0056】入力軸回転速度Ninの変化の態様とは、ここでは、フィードバック制御開始時点(時刻t7 )から所定時間T6 が経過するまでの間の、入力軸回転速度Ninの変化量もしくはその勾配を表している。その入力軸回転速度Ninの変化量もしくはその勾配のどちらか一方を利用し、その変化の割合や傾きによってフィードバック開始時の低減量αを設定し、学習補正をする。 【0057】なお、低減量αを設定する際に、前記変化の割合や傾きに応じてマップ等を与えてもよい。 【0058】ここで、図3について、更に詳しく説明する。 【0059】フィードバック制御が開始(時刻t7 )されてから、所定時間T6 経過後における係合側クラッチの入力軸回転速度Ninの変化量(の例)を図3で示すように、ΔNin1 、ΔNin2 、ΔNin3 とし、その勾配をそれぞれθ1 、θ2 、θ3 とする。この場合、係合側クラッチのクラッチ圧指示値(高速段側デューティ比SCDUH)の低減量αは図のようにそれぞれα1 、α2 、α3 とされる。 【0060】今、指示値の低減量をα2 としたときに、係合側クラッチの入力軸回転速度Ninのフィードバック制御開始時点(時刻t7 )から所定時間T6 経過後の変化量がΔNin2 (勾配θ2 )となり、出力軸トルクは太線で示したような(適正値である)TO2になるとする。この場合に、入力軸回転速度Ninの変化量(傾き)がΔNin2 (θ2 )に比べて大きいΔNin3 (θ3 )であったと検出されたときは、入力軸回転速度Ninが速く減少していることであるため、ハイギヤクラッチ(係合側クラッチ)CHの係合が速すぎる、即ち低減量αが小さすぎたということになる。その結果、出力軸トルクTOは太線のTO2に比べ急速に上昇するTO3のようになる傾向となる。そのため、この場合には出力軸トルクTOが太線のTO2のように滑らかにするべく、ハイギヤクラッチCHの指示値(デューティ比)をα2 より下げた低減量α3 とし、より解放側からフィードバック制御を開始することにより、急激な出力軸トルクTOを抑制する。 【0061】同様に、逆のパターンでΔNin1 (θ1 )のときは出力軸トルクTO1となり、変速時間が長くなりすぎる恐れがあるとして低減量をα2 より小さなα1 と設定するように学習制御をする。 【0062】ところで、クラッチの掴み換え替えのタイミングは、変速する環境や状態、個体ばらつき等によりフィードバック制御の初期における低減量αはかなり異なる。そこで、一早く、変速ショックの少ないクラッチの掴み換えを実現するために、(前記学習とは異なる) 学習機能を設定することがある。この掴み換えに関する学習機能は、一般に当初、(例えば、工場で初めて取付けたとき、あるいは、バッテリが外され、再度接続時等)故意に、タイアップ(係合側クラッチと解放側クラッチの同時係合による引き摺り状態)気味に設定しておき、学習によって該タイアップの度合を低減していくシステムが採用される。それは当初若干タイアップぎみにセットしておかないと、ばらつきによって変速が開始しないことが考えられるためである。 【0063】図4に示されるように、この場合、前記掴み換えの学習システムの初期(学習進度が低いとき)ほど高速段側デューティ比(クラッチ圧指示値)SCDUHの低減量αを大きく設定し、掴み換え不良に伴う変速ショックを少しでも緩和し、掴み換えの学習進度が進むに連れ、低減量αを小さく設定するようにすると、掴み換えの学習の初期でタイアップの程度が強くてもそれを緩和して変速ショックを低減できる。 【0064】図6の(a)、(b)は、係合側クラッチの入力トルクを検出する手段( 図示せず) を備え、係合側クラッチ油圧のフィードバック制御中に、ドライバのアクセル操作によりスロットルが更に開にされ、該クラッチの入力トルクの変化したことが検出された場合に、フィードバック制御の指示値(クラッチ圧の指示値)SCDUH又はフィードバックゲインを該クラッチの入力トルクに応じて可変としたことを表した図である。 【0065】今、図6の(a)(b)共に、時刻t7 から時刻t9 の間の時刻t8 において、ドライバのアクセル操作によりスロットル開度が更に開けられると、入力軸回転速度Ninが変化するのでそれに伴い、入出力軸相対回転速度NDEFも変化する。更に、入出力軸相対回転速度NDEFが変化すると、それに応じてクラッチ圧指示値(フィードバック制御の指示値)SCDUHが変化する。その場合において、入力トルクやスロットル開度に応じて、入出力軸相対回転速度NDEFの設定を仕様に応じて入出力軸相対回転速度NDEFの目標勾配を変化させる。 【0066】図6の(a)は、時刻t8 から時刻t9 までスロットルが開にされたときに、「摩擦材(公知のクラッチ板)の熱負荷低減を重視」することによってフィードバック制御の目標勾配を変化させた例を示す。 【0067】又、図6の(b)は、同様にスロットルが開にされたときに、「変速ショックの低減を重視」した例を示す。 【0068】図6(a)(b)共に入出力軸相対回転速度NDEFの目標勾配を変更させた場合を太線で示し、変更しない場合を破線で示し、入力トルクの変化がない場合を細線で示す。 【0069】初めに、図6(a)の「摩擦材熱負荷低減を重視」について説明する。 【0070】通常、変速を行う際に、クラッチは、公知のクラッチ板の係合や解放によって変速を行っているが、その摩擦材を係合する際に必ず摩擦により熱が発生する。この熱は入力トルクが大きいほど、又、半係合状態(完全係合ではなく、クラッチが滑っている状態)が長ければ長いほど多く発生する。 【0071】ここで、「摩擦材負荷低減を重視」とは、入力トルクが大きい状態で半係合状態が長く続くと熱が発生してしまうので極力半係合状態の時間を短く設定し、変速時間を全体的に短くするように設定するようにすることをいう。入力トルクが途中で増大すると係合側クラッチはより滑ってしまうため、相対回転速度NDEFは一時的に増大する(破線)。この場合目標値の変更がなければフィードバック制御によりやがて細線に収束してくるが、入力トルクが高い状態なのに高くないときと同じ時間滑らせることになり、それだけ摩擦材の熱負荷が大きくなってしまう。そこで入出力軸相対回転速度NDEFの太線で示すように、より速く入出力軸相対回転速度NDEFを零になるように設定し、それに応じてフィードバック制御の指示値(クラッチ圧指示値)SCDUHを変更させる。このことにより、係合側クラッチは速く係合されるため、出力軸トルクTOは太線で示すように急激に盛り上がる現象を示し、変速ショックは若干大きくなるが、変速時間を短縮でき、且つ摩擦材の耐久性向上が実現できる。 【0072】一方、図6(b)は「変速ショックの低減を重視」を表している。 【0073】前述したように破線が目標値を変更しなかったときの特性を示している。この場合、入力トルクが増大したにも拘らず同じ時間で変速が終了させられることから、発生する変速ショックは入力トルクが増大しないときに比べ当然に増大してしまう。そこで「変速ショックの低減を重視」する場合、変速ショックを低減するために、スロットルが開とされた後は、入出力軸相対回転速度NDEFの目標勾配を太線で示すようになだらかに(零に収束するまでの時間を長く)とることによって、フィードバック指示値(クラッチ圧指示値)SCDUHを太線で示すよう変更する。この結果、入力トルクが増大したにも拘らず出力軸トルクTOの急激に変化するのを防止し、変速ショックの増大を防止している。 【0074】図6(a)、(b)で示すような2つのパターンは、そのうちのいずれかを当該車両の性質(スポーツカーか、後部座席優先カーか等)によって選択する。あるいはセレクトスイッチ等によってユーザーがマニュアル操作で切り替えられるようにしてもよい。又、例えばパワーオフダウンシフトのようにアクセルペダルを緩めたことによって発生するアップシフトを行うときのフィードバック制御中に更にアクセルペダルが緩められたときには、より燃費を向上させるモード等を設定してもよく、特にこの「摩擦材熱負荷低減」と「変速ショック低減」の目的に限るものではない。即ち、入力トルクの変化があった場合にフィードバック制御の指示値やフィードバックゲインを入力トルクやスロットル開度に応じて所定の目的のために変更するものであればよい。 【0075】図7は、本発明の実施形態の全体の制御のフローチャートを示した図である。このルーチンは、図示しない変速制御のメインルーチンの周回前に実行される。 【0076】個々のルーチンの具体的内容は既に詳述しているため、ここでは手順の概略を説明するに止める。このフローがスタートすると、ステップ100でクラッチの入出力軸相対回転速度NDEFとスロットル開度の算出をし、102で変速中か否かを判定する。変速中の場合でないときは、リターンステップに進む。又、変速中の場合には、104のフィードバック制御開始判定成立か否かを判定し、成立しない場合は122のクラッチ待機状態時の制御(トルク相における制御)を行う。ステップ104のフィードバック制御開始判定が成立すると、前回はフィードバック制御が実行中であったか否かを判定する。 【0077】当初は、ステップ106で前回はフィードバック制御実行中でなかったと判断されるため、ステップ124に進んでフィードバック制御初期値を設定(クラッチ圧指示値の低減量αを算出)し、低減量αの学習値を読みにいき、クラッチの掴み替えタイミングの学習進度を読み込み、学習進度が少ないときは大きく低減量αを設定するようにしてフィードバック制御を開始する。この結果、次回の周回ではステップ106で「前回フィードバック制御が既に実行中であった」と判定されるためステップ108へ進み、クラッチの入出力軸相対回転速度NDEFが所定値βより小さいか否かを判定する。そのときに、所定値βより大きい場合はステップ126のフィードバック制御の実行を続け、アクセル開度の変化に応じたフィードバック目標値を算出し、又、ハイギヤクラッチCHの指示値の補正量を算出し、フィードバック制御開始時から所定時間後の係合側クラッチの入出力軸相対回転速度NDEFの変化量のサンプルをとり、次回変速でのステップ124における低減量学習に反映できるように記憶しておく。 【0078】やがて、ステップ108のクラッチの入出力軸相対回転速度NDEFが所定値βより小さいと判定されるとステップ110においてフィードバック制御終了判定を行うための回転同期判定タイマTfbe をスタートさせ、そのタイマTfbe が所定値T3 より大きくなったと判定された段階でフィードバック制御を終了する(ステップ114)。 【0079】フィードバック制御終了後はステップ116で、(ステップ126で記憶した情報に基づいて)フィードバック制御の初期値(低減量)αを学習するための演算を行い、ローギヤクラッチCLのドレンタイマが所定値T5 より大きくなった時点で変速終了判定をする。(ステップ118、120)。なおステップ128では各段階でのクラッチ油圧指示圧が出力される。。 【0080】 【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、係合側クラッチの油圧を増加させ、イナーシャ相開始検出と同時に開始するフィードバック制御開始時点において、該フィードバック制御の初期値としてフィードバック制御の開始される直前における指示値より所定量下げた値を採用するようにしたため、油圧の応答の遅れ、あるいは指示値自体が高すぎることによる変速ショックを低減させることができる。
|
| 【出願人】 |
【識別番号】000003207 【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
|
| 【出願日】 |
平成10年(1998)1月8日 |
| 【代理人】 |
【弁理士】 【氏名又は名称】牧野 剛博 (外2名)
|
| 【公開番号】 |
特開平11−201272 |
| 【公開日】 |
平成11年(1999)7月27日 |
| 【出願番号】 |
特願平10−2521 |
|