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【発明の名称】 無段変速機の制御装置及び記録媒体
【発明者】 【氏名】加藤 良文

【要約】 【課題】各種走行モードに応じて、頻繁に制御ゲインを調整する必要のない無段変速機の制御装置及び記録媒体を提供すること。

【解決手段】ステッフ゜100では、目標変速比TRtを演算し、目標プーリ位置xtを求める。ステッフ゜110では、実変速比TRrを演算し、実プーリ位置xrを求める。ステッフ120では、目標プライマリ油圧F/F項PP1を演算する。ステッフ゜130では、プライマリ油圧F/B項PP21を演算する。ステッフ゜140では、目標プライマリ油圧過渡補償項PP22を演算する。ステッフ゜150では、主補償器54によるプライマリ油圧F/B項PP21に、プライマリ油圧F/F項演算部52による目標プライマリ油圧F/F項PP1と、副補償器62による目標プライマリ油圧過渡補償項PP22を加えて、目標プライマリ圧PP0を演算する。ステッフ゜160では、目標プライマリ圧PP0が発生する様に、プライマリ油圧制御アクチュエータ26を制御する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 無段変速機の変速比が、所定の目標値となるように、該無段変速機のプライマリ油圧とセカンダリ油圧の一方または両方を変化させてフィードバック制御を行う無段変速機の制御装置において、目標変速比に実変速比がほぼ追従している定常状態において、系に加わる外乱に対する応答を指定する主補償器と、該主補償器とは独立に、前記目標変速比が変化する場合に、該目標変速比に対する実変速比の過渡的な応答を指定する副補償器と、を備えることを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】 前記主補償器は、前記無段変速機の変速比ハンチング周波数に対応する周波数帯のゲインが低減していること特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項3】 前記主補償器におけるゲインを低減する周波数帯が、3〜5Hzであること特徴とする請求項2に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項4】 前記変速比に代えて、プーリ位置を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無段変速機の制御装置。
【請求項5】 前記請求項1〜4のいずれかに記載の無段変速機の制御装置による制御を実行させる手段を記憶していることを特徴とする記録媒体。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば車両用のベルト式無段変速機の変速等を電子的に制御する制御装置に関し、詳しくは、無段変速機のプーリ位置やプライマリ回転数を制御する無段変速機の制御装置及び記録媒体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】この種の無段変速機においては、入力トルクに応じてセカンダリ油圧を設定するセカンダリ油圧制御系と、入力トルク及びセカンダリ油圧に応じて、所定の変速比を得るのに必要なプライマリ油圧を設定する変速比制御系とを有している。
【0003】ここで、変速比制御系では、目標変速比を実現するために、対応する目標プーリ位置、あるいは目標プライマリ回転数が演算され、実値との偏差に基づいてフィードバック制御によるプライマリ油圧が演算される。また、一般には、無段変速機は、高ゲインのフィードバックをかけると、定常状態において、変速比がハンチングを起こし易くなるため、制御ゲインを小さくせざるを得なかった。
【0004】このような状況のもとで、十分な応答性を得るために、キックダウン時や、急ブレーキ時等、目標変速比が急激に変化する場合には、制御ゲインを過渡的に増大させ、応答性を改善することが行われる。例えば、特許2505420号公報においては、急ブレーキ時には、通常の走行モードより制御ゲインを大きくし、変速比が大側に移動する速度を上げる手法を提案している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上述した先行技術においては、以下の様な不具合がある。
(1)各種走行モードごとに、制御ゲインを調整するために、制御ソフトウエアが複雑化する。
【0006】(2)各モードごとに最適な制御ゲインを設定する必要があるために、制御ソフトウエアの開発に時間がかかる。つまり、従来では、変速制御の応答性及び安定性を共に確保するために、各種走行モード(発進、定常、キックダウン、手動変速、ブレーキなど)に応じて、頻繁に制御ゲインを切り換えなければならないという問題があった。
【0007】本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、各種走行モードに応じて、頻繁に制御ゲインを調整する必要のない無段変速機の制御装置及び記録媒体を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段、及び発明の効果】前記課題を解決するために、請求項1においては、無段変速機の変速比が、所定の目標値となるように、無段変速機のプライマリ油圧とセカンダリ油圧の一方または両方を変化させてフィードバック制御を行う無段変速機の制御装置において、目標変速比に実変速比がほぼ追従している定常状態において、系に加わる外乱に対する応答を指定する主補償器と、主補償器とは独立に、目標変速比が変化する場合に、目標変速比に対する実変速比の過渡的な応答を指定する副補償器と、を備えることを特徴とする無段変速機の制御装置を要旨とする。
【0009】本発明では、例えば図1に示す様に、無段変速機(CVT)の制御装置として、主補償器と(主補償器とは別に)副補償器とを備えており、主補償器では、系に加わる外乱に対する応答を指定し、副補償器では、目標変速比が変化する場合に、目標変速比に対する実変速比の過渡的な応答を指定する。
【0010】例えば、目標変速比が一定の定常状態では、例えばアクセルペダルの瞬間的な操作があった場合には、それが外乱となって、例えば図2(a),(b)に示す様に、実変速比が変動することが考えられる。そこで、本発明では、図2(a)に示す様に、実変速比の変動が速やかに定常状態に落ち着く様に、即ち十分な安定性が確保できる様に、主補償器を設計しておく。
【0011】また、目標変速比がある定常状態から他の定常状態に変化する過渡状態の場合、即ち目標変速比が変化する場合には、例えば図2(c),(d)に示す様に、実変速比が変化することが考えられる。そこで、本発明では、図2(c)に示す様に、実変速比の変動が速やかに新たな定常状態に落ち着く様に、即ち十分な応答性が確保できる様に、副補償器を設計しておく。
【0012】これにより、外乱に対する応答特性(安定性)と目標変速比に対する応答特性(応答性)とを、従来の様に制御ゲインを切り換えることなく、独立に設定できる。つまり、本発明では、補償器を2自由度化することで、定常状態での安定性と、過渡状態での応答性とを共に確保することができる。
【0013】従って、本発明では、各種走行モードごとに、制御ゲインを調整する必要がないために、制御ソフトウエアを簡易化することができる。また、各モードごとに最適な制御ゲインを設定する必要がないために、制御ソフトウエアの開発に時間がかからないという利点がある。
【0014】請求項2の発明は、主補償器は、無段変速機の変速比ハンチング周波数に対応する周波数帯のゲインが低減していること特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置を要旨とする。本発明においては、特に、主補償器における、無段変速機の変速比ハンチング周波数に対応する周波数帯のゲインを低減し、定常状態における変速比のハンチングを防止するとともに、副補償器により、変速比が大きく変化するキックダウンや急ブレーキ時の変速応答性を、制御ゲインを切り換えること無く、共に向上することができる。
【0015】つまり、無段変速機においては、例えば変速比が1.0〜1.5の低トルクの定常状態にて、フィードバック制御を行うと、実変速比が振動するハンチングが発生することが知られている。このハンチングは、制御系設計時に用いた(例えば1次の伝達関数で示される)モデルの誤差に起因するのではないかと考えられるが、例えばキックバック時などにおいて、フィードバック制御を行う際の周波数が、例えば4Hz(変速比ハンチング周波数)近傍で多く発生することが分かってきている。
【0016】よって、本発明では、この変速比ハンチング周波数にて、変速比にハンチングが生じない様に、主補償器においては、例えば図15に示す様に、その周波数帯のゲインを小さく設定している。それにより、定常状態においてフィードバク制御を行う際の変速比のハンチングを防止することができる。
【0017】また、この様にゲインを小さく設定することで、その周波数帯における過渡状態の際の応答性が低下するが、本発明では、この応答性の低下を防止するために、副補償器を、過渡状態の際に十分な応答性を確保できる様に設定している。つまり、本発明では、ハンチングを、制御系設計時に用いたモデルの誤差に起因するととらえ、主補償器のゲインの周波数整形を行い、ハンチング周波数のモードを励起しなくすることで、定常状態での安定性を実現できる。また、副補償器の作用により、目標変速比が大きく変化するときの応答性を確保できる。
【0018】請求項3の発明は、主補償器におけるゲインを低減する周波数帯が、3〜5Hzであること特徴とする請求項2に記載の無段変速機の制御装置を要旨とする。本発明は、前記請求項2の発明を例示したものであり、例えばバンドストップフィルタを用いて、この周波数帯における主補償器のゲインを低減することにより、変速比のハンチングを効果的に防止することができる。
【0019】尚、この周波数帯にてハンチングが発生する変速比(プライマリ回転数NP/セカンダリ回転数NS)としては、0.7〜2.0の範囲が挙げられるが、1.0〜1.5の場合に、その発生の可能性が高い。請求項4の発明は、変速比に代えて、プーリ位置を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無段変速機の制御装置を要旨とする。
【0020】本発明では、前記請求項1〜3のいずれかにおいて、変速比をプーリ位置に置き換えたものである。つまり、後に実施例にて示す様に、通常は、目標変速比を目標プーリ位置に置き換え、実変速比を実プーリ位置に置き換えて制御を行なっているので、ここでは、より具体的に示したものである。
【0021】この変速比に代えてプーリ位置を採用した場合でも、対応する各請求項の発明の効果を奏する。請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の無段変速機の制御装置による制御を実行させる手段を記憶している記録媒体である。
【0022】例えば記録媒体としては、マイクロコンピュータとして構成される電子制御装置、マイクロチップ、フロッピィディスク、ハードディスク、光ディスク等の各種の記録媒体が挙げられる。つまり、上述した無段変速機の制御装置の制御を実行させることができる例えばプログラム等の手段を記憶したものであれば、特に限定はない。
【0023】
【発明の実施の形態】以下、本発明の無段変速機の制御装置の好適な実施の形態を、例(実施例)を挙げて図面に基づいて詳細に説明する。
(実施例1)
a)まず、本実施例の無段変速機の制御装置を、図3の無段変速機ユニットの概略構成図に基づいて説明する。
【0024】本実施例の無段変速機の制御装置を備えた車両は、図3に示す様に、エンジンEを動力源とし、この駆動力を、発進デバイス2(トルクコンバータ、電磁クラッチ、湿式多板クラッチ等)、前後進切り替え機構(図示しない)、プライマリプーリ4、金属ベルト6、セカンダリプーリ8を介して駆動輪に伝達している。
【0025】詳しくは、無段変速機10は、可動円錐盤12と固定円錐盤14とからなる駆動側のプライマリプーリ4(駆動プーリに相当する。)、可動円錐盤16と固定円錐盤18とからなる従動側のセカンダリプーリ8(従動プーリに相当する。)、駆動側のプライマリプーリシリンダ20、従動側のセカンダリプーリシリンダ22、およびプライマリプーリ4とセカンダリプーリ8との間に掛け渡された金属ベルト6、エンジンEにより駆動されるオイルポンプ24、プライマリ油圧制御アクチュエータ26、セカンダリ油圧制御アクチュエータ28、エンジンEからのトルクの伝達を調整するトルクコンバータ等の発進デバイス2を備えている。
【0026】制御装置30は、電子制御回路から成るコントロールユニット32、プライマリプーリ4の回転数を検出するプライマリ回転センサ34、セカンダリプーリ8の回転数を検出するセカンダリ回転センサ36、エンジンEへの吸入空気量を調整するスロットル開度を検出するスロットル開度センサ38、およびエンジンEの回転数を検出するエンジン回転センサ40を備えている。
【0027】コントロールユニット32は、CPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成され、前記プライマリ回転センサ34、セカンダリ回転センサ36、スロットル開度センサ38、およびエンジン回転センサ40の検出データに基づいて目標変速比を設定し、この目標変速比となるように、プライマリ油圧制御アクチュエータ26を調整して、オイルポンプ24にて発生しプライマリプーリシリンダ20に供給される油圧を制御している。
【0028】また、コントロールユニット32は、金属ベルト6がスリップを生じないように、セカンダリ油圧制御アクチュエータ28を調整して、オイルポンプ24にて発生しセカンダリプーリシリンダ20に供給される油圧を制御している。つまり、コントロールユニット32は、各種センサ信号をもとに、目標変速比を演算し、金属ベルト6がスリップすることなく、実変速比が目標変速比に一致するように、セカンダリ油圧制御アクチュエータ28及びプライマリ油圧制御アクチュエータ26を駆動し、変速制御を行う。
【0029】b)次に、コントロールユニット32により実行される詳細な制御を、図4,図5の制御ブロック図により説明する。
■まず、セカンダリ油圧制御系を図4に基づいて説明する。ここでは、セカンダリプーリシリンダ22のセカンダリ油圧制御アクチュエータ28の調整を実行して、セカンダリプーリ8に対して金属ベルト6が滑らないように、可動円錐盤16と固定円錐盤18との挟持力を十分に発生させるための制御処理を示している。
【0030】この内、入力トルク推定部42および目標セカンダリ油圧演算部44はコントロールユニット32のCPUが実行するプログラムとして実現されている。また、セカンダリ油圧制御器46は、セカンダリ油圧制御アクチュエータ28を駆動するための駆動回路である。
【0031】制御が開始されると、入力トルク推定部42は、スロットル開度センサ38から検出されたスロットル開度θとエンジン回転センサ40から検出されたエンジン回転数NEとに基づいて、図6に示すエンジン回転数NEおよびスロットル開度θと入力トルクTinとの関係を表すマップから入力トルクTinを推定する。この入力トルクTinは、エンジンEで発生し、エンジンEから発進デバイス2を介して無段変速機10へ入力されるトルクである。
【0032】次に、目標セカンダリ油圧演算部44が、入力トルク推定部42にて求められた入力トルクTinと、後述する目標変速比設定部48にて求められた目標変速比TRtとに基づいて、目標セカンダリ油圧PStを演算する。この目標セカンダリ油圧PStは、金属ベルト6がセカンダリプーリ8に対してスリップすること無くトルクを伝達できる油圧であり、図7に示す3次元マップから求められる。
【0033】こうして求められた目標セカンダリ油圧PStの信号に基づいて、セカンダリ油圧制御器46にて、セカンダリ油圧制御アクチュエータ28が駆動制御され、ベルトスリップしないセカンダリ油圧PSが実現する。つまり、入力トルク推定部42は、センサ信号に基づき、無段変速機10に入力されるトルクを推定し、目標セカンダリ油圧演算部44は、推定入力トルクTin及び目標変速比TRtに基づき、ベルトスリツプすることなくトルク伝達できるための目標セカンダリ油圧PStを演算し、セカンダリ油圧制御器46は、目標セカンダリ油圧PStが発生されるように、セカンダリ油圧制御アクチュエータ28を駆動する。
【0034】■次に、プライマリ油圧制御系を図5に基づいて説明する。ここでは、駆動側のプライマリプーリシリンダ20のプライマリ油圧制御アクチュエータ26の調整を実行して、プライマリプーリ4に対して、セカンダリプーリ8との間で金属ベルト6を介して行われる変速を、目標変速比TRtにする制御処理を示している。
【0035】この内、目標変速比設定部48、変速比−プーリ位置変換部50、プライマリ油圧フィードフォワード項演算部52、主補償器54、実変速比検出部58、変速比−プーリ位置変換部60、および副補償器62は、コントロールユニット32のCPUが実行するプログラムとして実現されいる。また、プライマリ油圧制御器56は、プライマリ油圧制御アクチュエータ26を駆動するための駆動回路である。尚、以下では、フィードフォワードをF/F、フィードバックをF/Bと記すことがある。
【0036】制御が開始されると、目標変速比設定部48は、スロットル開度センサ38から検出されるスロットル開度θ、およびセカンダリ回転センサ36から検出されるセカンダリ回転数NS等の、各種センサから得られる無段変速機10および無段変速機10を駆動するエンジンEの状態に基づいて、所定のマップ(図示せず)から目標変速比TRtを求める。
【0037】次に、この目標変速比TRt、目標セカンダリ油圧PSt、および入力トルクTinとに基づいて、プライマリ油圧フィードフォワード項演算部52は、目標プライマリ油圧フィードフォワード項PP1の演算を行う。この演算は、まず、目標セカンダリ油圧PStに基づいて、図8に示す、予め測定されているセカンダリ油圧PSと入力トルクTinとの関係を表すテーブルにより、セカンダリプーリ16にて金属ベルト22がスリップせずに伝達可能な最大トルクTmaxが求められる。次に入力トルクTinと最大トルクTmaxとの比から、トルク比Tin/Tmaxが演算される。
【0038】次に、このトルク比Tin/Tmaxから、図9に示すプライマリ油圧フィードフォワード項演算マップに基づいて、該当する変速比TRのラインから油圧比(プライマリ油圧PP/セカンダリ油圧PS)を求め、この油圧比と目標セカンダリ油圧PStとの積を計算し、その値をプライマリ油圧フィードフォワード項PP1とする。
【0039】具体的には、例えばトルク比Tin/Tmax=0.25、目標変速比TRt=2.0であった場合には、図9に示すごとく、油圧比(PP/PS)=0.41が求まり、PP1=0.41・PStにて、プライマリ油圧フィードフォワード項PP1が求まる。なお、図9は一例であり、無段変速機10の種類により異なるマップとなる。
【0040】一方、目標変速比設定部48で得られた目標変速比TRtは、変速比−プーリ位置変換部50により目標プーリ位置xt、すなわちプライマリプーリ10の可動円錐盤12の目標位置xtに変換される。次に、実変速比検出部58が、実際に無段変速機10のプライマリ回転センサ34とセカンダリ回転センサ36との検出から得られるプライマリ回転数NPおよびセカンダリ回転数NSの比(NP/NS)から実変速比TRrを得、変速比−プーリ位置変換部60が、この実変速比TRrを実プーリ位置xr、すなわち、プライマリプーリ4の可動円錐盤12の実位置xrに変換する。
【0041】変速比−プーリ位置変換部50からの目標プーリ位置xtと変速比−プーリ位置変換部60からの実プーリ位置xrとの偏差errが演算されて、この偏差errが主補償器54に入力する。主補償器54では、この偏差errに基づいて、偏差errが0となるように、プライマリ油圧フィードバック項PP21を演算して出力する。つまり、この主補償器54は、速やかに偏差を0として、定常状態における安定性を確保することができるように、後述する様にして設計してある。
【0042】また、副補償器62は、目標変速比TRtが大きく変化する過渡状態の場合の実変速比TRrの応答を改善するための目標プライマリ油圧過渡補償項PP22を演算する。つまり、副補償器62は、過渡状態の場合に、新たな目標変速比TRtに速やかに収束するように、後述する様にして設計してある。
【0043】尚、目標プライマリ油圧過渡補償項PP22については、ここではフィードフォワード項として記載されているが、等価変換により、フィードバック項として記載することも可能である。そして、主補償器54にて求められたプライマリ油圧フィードバック項PP21と、副補償器62にて求められた目標プライマリ油圧過渡補償項PP22とが加算されて、目標プライマリ油圧フィードバック項PP2が求まる。
【0044】更に、この目標プライマリ油圧フィードバック項PP2に、プライマリ油圧フィードフォワード項演算部52にて求められたプライマリ油圧フィードフォワード項PP1が加算され、目標プライマリ油圧PP0とされる。従って、この目標プライマリ油圧PP0の信号に基づいて、プライマリ油圧制御器56にて、プライマリ油圧制御アクチュエータ26が駆動制御され、ベルトスリップしないプライマリ油圧PPが実現するとともに、無段変速機10の実変速比TRrが目標変速比TRtへ向けて調整される。
【0045】c)以下、上述した制御系の設計手順について、図10〜図13に基づいて説明する。
■まず、図10に示す様な制御系を構成する。主補償器(C1)10は、目標プーリ位置xtと実プーリ位置xrの偏差errに基づいて、目標プライマリ油圧フィードバック項PP21を、下記式(1)の様に演算する。
【0046】
PP21=Kp1・err+Ki1・∫err+Kd1・derr …(1)但し、∫errは偏差の積分、derrは偏差の微分を示す。ここで、Kp1,Ki1,Kd1は、図10において、外乱dを故意に目標プライマリ油圧フィードバック項PP21に加算したときに、実プーリ位置xrが目標プーリ位置xtの値に速やかに復帰する様にチューニングする。
【0047】この様子を図11に示すが、本実施例では、外乱dが入力した場合に、図11の実線で示す様な復帰となるように、Kp1,Ki1,Kd1の値を設定する。
■次に、図12に示す様な制御系を構成する。主補償器54は、前記■項にてチューニングされたパラメータ(Kp1,Ki1,Kd1)を用いる。
【0048】副補償器(C2)62は、目標プーリ位置xtに基づき目標プライマリ油圧フィードバック項PP22を、下記式(2)の様に演算する。
PP22=Kp2・xt+Kd2・(d/dt)・xt …(2)ここで、Kp2,Kd2は、目標プーリ位置xtがステップ状に変化した場合に、実プーリ位置xrが速やかに追従する様にチューニングする。
【0049】この様子を図13に示すが、本実施例では、目標プーリ位置xtがステップ状に変化した場合に、図13の実線で示す様な復帰となるように、Kp2,Kd2の値を設定する。
d)次に、本実施例における制御処理を、図14のフローチャートに基づいて説明する。
【0050】ステップ100では、スロットル開度信号θ、セカンダリ回転数NSなどの車両の運転状況に応じた、望ましい変速比(目標変速比)TRtを演算し、これを対応するプーリ位置に変換し、目標プーリ位置xtを求める。ステップ110では、プライマリ回転数NP、セカンダリ回転数NSから、その比(NP/NS)である実変速比TRrを演算し、これを対応するプーリ位置に変換し、実プーリ位置xrを求める。
【0051】ステップ120では、各動作状態における目標セカンダリ油圧PSt、入力トルクTinに対し、目標変速比TRtを定常的に実現するプライマリ油圧PPを与えるマップ(図9参照)を検索し、目標プライマリ油圧フィードフォワード項PP1を演算する。
【0052】ステップ130では、以下に示す前記式(1)を用いて、プライマリ油圧フィードバック項PP21を演算する。
PP21=Kp1・err+Ki1・∫err+Kd1・derr …(1)
ステップ140では、以下に示す前記式(2)を用いて、目標プライマリ油圧過渡補償項PP22を演算する。
【0053】
PP22=Kp2・xt+Kd2・(d/dt)・xt …(2)
ステップ150では、下記式(3)を用いて,目標プライマリ圧PP0を演算する。
PP0=PP1+PP21+PP22 …(3)ステップ160では、目標プライマリ圧PP0が発生する様に、プライマリ油圧制御アクチュエータ26を制御する。
【0054】この様に、本実施例では、外乱に対する安定性を確保するための主補償器54とは独立に、例えば目標値がステップ状に変化する過渡時における応答性を確保するための副補償器62を備えている。従って、本実施例では、主補償器54によるプライマリ油圧フィードバック項PP21に、プライマリ油圧フィードフォワード項演算部52による目標プライマリ油圧フィードフォワード項PP1を加えるだけでなく、副補償器62による目標プライマリ油圧過渡補償項PP22を加える。
【0055】それにより、外乱に対する安定性を確保できるだけでなく、過渡状態における応答性をも確保することができる。従って、本実施例では、各種走行モードごとに、制御ゲインを調整する必要がないために、制御ソフトウエアを簡易化することができる。また、各モードごとに最適な制御ゲインを設定する必要がないために、制御ソフトウエアの開発に時間がかからないという利点がある。
(実施例2)次に、実施例2について説明する。
【0056】本実施例は、請求項2の発明にかかる実施例であり、前記実施例1と同様な部分の説明は省略する。本実施例においては、ハード構成は、前記実施例1と同様である。また、制御系の基本構成は、前記図5に示す構成と同様に、定常状態に対する外乱応答を指定する主補償器54と、過渡状態に対する応答性を指定する副補償器62とを備えている。
【0057】a)まず、本実施例の制御系の設計手順について説明する。本実施例においては、特に無段変速機10の変速比ハンチング現象を回避しつつ、十分な応答性を確保することを目的としている。つまり、本実施例では、ハンチングを、制御系設計時に用いたモデルに誤差に起因するととらえ、主補償器54のゲインの周波数整形を行い、ハンチング周波数のモードを励起しなくすることで、定常状態での安定性をはかる。
【0058】■具体的には、まず、前記図10に示した様な制御系を構成する。主補償器(C1)54は、目標プーリ位置xtと実プーリ位置xrの偏差errに基づいて、目標プライマリ油圧フィードバック項PP21を、下記式(4)の様に演算する。
【0059】
PP21=G1(s)err …(4)但し、G1(s)は主補償器54の伝達関数表現である。G1(s)は、無段変速機10のハンチング周波数f0に対応する帯域でのゲインが、図15に示すが如く低下する様に設計する。これにより、定常状態で、例えば変速比が0.7〜2.0(又は1.0〜1.5)変速比がハンチングする不具合を回避できる。
【0060】この様な主補償器54は、バンドストップフィルタを用いて、構成できるし、また後述する(実施例3参照)が如く、H∞制御の混合感度問題として、設計もできる。このG1(s)の効果を、外乱応答を例に取って図16に示すが、本実施例では、図16の実線で示す様に、外乱があった場合でも、ハンチングを起こすことなく、速やかに目標プーリ位置に収束する。
【0061】■次に、前記図12に示した様な制御系を構成する。ここで、主補償器54は、前記■項にてチューニングされたG1(s)を用いる。G1(s)は、無段変速機10のハンチング周波数f0に対応する帯域でのゲイン小さくなっているが、ハンチング周波数f0は通常数Hzオーダーの値(例えば4Hz近傍)であり、この帯域でのゲイン小さくなっていると、変速比が大きく変わるキックダウンなどの変速における実プーリ位置の応答性が不足する。
【0062】つまり、ハインチング周波数f0付近のゲインが小さい場合Aとそうでない場合Bとを比較すると、入力信号が主補償器54に入った場合、主補償器54により、入力信号のf0付近の周波数成分が取り除かれるので、Aでは、出力信号にはf0付近の周波数成分がなくなり、立ち上がりの遅い信号となる。これに対して、Bでは、そのようなことはないので、Aの出力信号に比べて立ち上がりが遅い。よって、Bに比べてAは応答性が悪いのである。
【0063】そこで、副補償器(C2)62を用いて、実プーリ位置の応答性を改善する。具体的には、副補償器62は、目標プーリ位置xtに基づき目標プライマリ油圧フィードバック項PP22を、下記式(5)の様に演算する。
PP22=Kp2・xr+Kd2・(d/dt)・xr …(5)ここで、Kp2,Kd2は、目標プーリ位置xtがステップ状に変化した場合に、実プーリ位置xrが速やかに追従する様にチューニングする。
【0064】この様子を図17に示すが、本実施例では、図17の実線で示す様に、目標プーリ位置xtがステップ状に変化した場合でも、実プーリ位置xrを速やかに目標プーリ位置xtに収束させることができる。
b)次に、本実施例における制御処理を説明するが、基本的には、前記図14のフローチャートと同様であるので、図14を参照して説明する。
【0065】ステップ100では、スロットル開度信号θ、セカンダリ回転数NSなどの車両の運転状況に応じた、望ましい変速比(目標変速比)TRtを演算し、これを対応するプーリ位置に変換し、目標プーリ位置xtを求める。ステップ110では、プライマリ回転数NP、セカンダリ回転数NSから、実変速比TRrを演算し、これを対応するプーリ位置に変換し、実プーリ位置xrを求める。
【0066】ステップ120では、各動作状態における目標セカンダリ油圧PSt、入力トルクTinに対し、目標変速比TRtを定常的に実現するプライマリ油圧PP与えるマップを検索し、目標プライマリ油圧フィードフォワード項PP1を演算する。
【0067】ステップ130では、以下に示す前記(4)を用いて、プライマリ油圧フィードバック項PP21が演算される。
PP21=G1(s)err …(4)
ステップ140では、以下に示す前記式(5)を用いて、目標プライマリ油圧過渡補償項PP22が演算される。
【0068】
PP22=Kp2・xr+Kd2・(d/dt)・xr …(5)
ステップ150では、以下に示す前記式(3)を用いて目標プライマリ圧PP0が演算される。
PP0=PP1+PP21+PP22 …(3)
ステップ160では、目標プライマリ圧PP0が発生する様に、プライマリ油圧制御アクチュエータ26を制御する。
【0069】本実施例では、特に、主補償器54において、変速比ハンチングが生じ易い周波数帯におけるゲインを低減している。それにより、定常状態においてフィードバク制御を行う際の変速比のハンチングを防止することができる。また、この様にゲインを小さく設定することで、その周波数帯における過渡状態の際の応答性が低下するが、本実施例では、この応答性の低下を防止するために、副補償器62を、過渡状態の際に十分な応答性を確保できる様に設定している。
【0070】つまり、本実施例では、ハンチングを、制御系設計時に用いたモデルの誤差に起因するととらえ、主補償器54のゲインの周波数整形を行い、ハンチング周波数のモードを励起しなくすることで、定常状態での安定性を実現できる。また、副補償器62の作用により、目標変速比が大きく変化するときの応答性を確保できる。
【0071】尚、ハンチングの生ずる変速比としては、変速比(NP/NS)が1.0〜1.5が考えられるが、0.7〜2.0の範囲でもハンチングが生ずる可能性がある。
(実施例3)次に、実施例3について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略する。
【0072】本実施例は、H∞制御の混合感度問題に基づく主補償器の構成例である。ここでは、文献「H∞制御の実プラントへの応用(計測自動制御学会編P1〜P23)」の記載に基づいて、主補償器の構成例を述べる。無段変速機のプライマリ油圧から、変速比(あるいは対応するプーリ位置)までの伝達関数をP(s)とすると、P(s)は下記式(6)の様に書き直せる。
【0073】
P(s)=(1+Q(s))・Pn(s) …(6)ここで、、P(n)は、P(s)の(振動的なモードを含まない)低次元近似伝達関数であり、Q(s)は、P(s)の(振動的なモードを含む)高次元の残余伝達関数である。
【0074】Q(s)は、一般に、図18のボード線図に示す様に、P(s)で無視された振動モードでピークを取る関数形を有する。ここで、図中に示す様に、下記式(7)で示す伝達関数WT(s)を選ぶことができる。
【0075】
【数1】

【0076】但し、ωは周波数ここで、先出の文献によれば、Q(s)なる残余伝達関数が存在しても、図19に示すフィードバック系が安定となるためには、下記式(8)が成立すればよい。
【0077】
【数2】

【0078】尚、G1は、主補償器54の伝達関数表現である。また、低周波域においては、目標プーリ位置xtに対する実プーリ位置xrの追従性を良くするために、【0079】
【数3】

【0080】但し、aは必要とする制御系の応答性が決まる値、ρは調整パラメータ【0081】
【数4】

【0082】として、下記式(9)が、なるべく大きなρに対して成立する様にすればよい。
【0083】
【数5】

【0084】以上をまとめると、Q(s)なる残余伝達関数が存在しても、図19のフィードバック系が安定で、かつ目標プーリ位置xtに対する実プーリ位置xrの追従を、なくべく良くするためには、前記式(7)と式(9)が、なるべく大きなρに対して成立する様なG1(s)を求めればよい。
【0085】尚、このG1(s)の計算は、例えばMathworks社製の制御系CAD「Matlab、Robust Control tool box」を用いれば可能である。尚、本発明は上記実施例に何ら限定されることなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。
【0086】例えば前記実施例では、無段変速機の制御装置について述べたが、この装置による制御を実行させる手段を記憶している記録媒体も、本発明の範囲である。例えば記録媒体としては、マイクロコンピュータとして構成される電子制御装置、マイクロチップ、フロッピィディスク、ハードディスク、光ディスク等の各種の記録媒体が挙げられる。
【0087】つまり、上述した無段変速機の制御装置の制御を実行させることができる例えばプログラム等の手段を記憶したものであれば、特に限定はない。
【出願人】 【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
【出願日】 平成10年(1998)1月16日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】足立 勉
【公開番号】 特開平11−201267
【公開日】 平成11年(1999)7月27日
【出願番号】 特願平10−7060