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【発明の名称】 自動変速機の制御装置
【発明者】 【氏名】湯浅 弘之

【要約】 【課題】摩擦係合要素に対する指示油圧に対して実油圧に応答遅れがあっても、入力軸トルクに見合った油圧に制御できるようにする。

【解決手段】吸入空気量Q(S1)とエンジン回転速度Ne(S2)とに基づいてエンジンの発生トルクを推定する(S3)。前記推定されたエンジンの発生トルクに対して位相進み処理を施し(S4)、該位相進み処理された発生トルクと、トルクコンバータのトルク比(S6)とから、変速機の入力軸トルクを推定する。そして、該位相進み処理がされた入力軸トルクに応じて摩擦係合要素に対する指示油圧を決定し、ソレノイドを制御する(S7〜S9)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】指示油圧に応じて摩擦係合要素に対する供給油圧を制御する構成の自動変速機の制御装置において、変速機の入力軸トルクを推定する入力軸トルク推定手段と、前記入力軸トルクに位相進み処理を施す位相進み処理手段と、該位相進み処理手段で位相進み処理された入力軸トルクに基づいて前記指示油圧を設定する指示油圧設定手段と、を含んで構成されたことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】指示油圧に応じて摩擦係合要素に対する供給油圧を制御する構成の自動変速機の制御装置において、変速機の入力軸トルクを推定する入力軸トルク推定手段と、予め設定されたモデルに従って前記入力軸トルクに基づき油圧制御したときの実油圧を推定する油圧推定手段と、該油圧推定手段で推定された実油圧に位相進み処理を施す位相進み処理手段と、前記入力軸トルクに基づいて前記指示油圧を設定する指示油圧設定手段と、前記位相進み処理手段で位相進み処理された実油圧に基づいて前記指示油圧を補正する指示油圧補正手段と、を含んで構成されたことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項3】2つの摩擦係合要素の締結と解放とを同時に油圧制御して変速を行う構成であって、前記油圧推定手段が締結側及び解放側の油圧をそれぞれ推定し、前記位相進み処理手段が前記推定された締結側及び解放側の油圧にそれぞれ位相進み処理を施し、前記指示油圧補正手段が、前記位相進み処理された締結側の油圧と解放側の油圧との差又は比に基づいて、前記締結側と解放側との少なくとも一方の指示油圧を補正することを特徴とする請求項2記載の自動変速機の制御装置。
【請求項4】指示油圧に応じて摩擦係合要素に対する供給油圧を制御する構成の自動変速機の制御装置において、エンジンの負荷を検出するエンジン負荷検出手段と、該エンジン負荷検出手段で検出されたエンジンの負荷に基づいてエンジンの発生トルク相当値を求めるエンジン発生トルク演算手段と、前記エンジン発生トルク相当値に位相進み処理を施す位相進み処理手段と、該位相進み処理手段で位相進み処理されたエンジン発生トルク相当値に基づいて変速機の入力軸トルクを推定する入力軸トルク推定手段と、該推定された入力軸トルクに基づいて前記指示油圧を設定する指示油圧設定手段と、を含んで構成されたことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項5】前記エンジン負荷検出手段が、吸入空気量とスロットル開度との少なくとも一方に基づいてエンジンの負荷を検出することを特徴とする請求項4記載の自動変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は自動変速機の制御装置に関し、詳しくは、入力軸トルクに応じて摩擦係合要素の指示油圧を設定する構成の自動変速機の制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から、1方向クラッチを用いずに、2つの摩擦係合要素の締結と解放とを同時に油圧制御して変速を行う自動変速機が知られており(特開平2−37128号公報等参照)、また、変速機の入力軸トルクに応じて摩擦係合要素の油圧を制御する自動変速機が知られている(特開平7−127721号公報等参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、油圧の制御には応答遅れがあるため、入力軸トルクに応じた指示油圧(目標油圧)を設定しても、実際に前記指示油圧が得られるまでに遅れを生じるという問題があり、特に、上記のように2つの摩擦係合要素の締結と解放とを同時に油圧制御して変速を行う自動変速機においては、油圧の応答遅れによって前記回転の吹き上がりやトルクの引け等を生じさせてしまう可能性があった。
【0004】本発明は上記問題点に鑑みなれたものであり、入力軸トルクの変化に対して摩擦係合要素の油圧を応答良く追従させることができるようにして、変速性能を向上させることを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】そのため請求項1記載の発明は、指示油圧に応じて摩擦係合要素に対する供給油圧を制御する構成の自動変速機の制御装置であって、図1に示すように構成される。図1において、入力軸トルク推定手段は変速機の入力軸トルクを推定し、位相進み処理手段は前記入力軸トルクに位相進み処理を施す。そして、指示油圧設定手段は、位相進み処理手段で位相進み処理された入力軸トルクに基づいて前記指示油圧を設定する。
【0006】かかる構成によると、位相が進んだ入力軸トルクに基づき指示油圧を設定するが、前記指示油圧に実際の油圧が応答遅れをもって追従するので、結果的には、そのときの入力軸トルクに応じた実油圧が得られることになる。一方、請求項2記載の発明は、指示油圧に応じて摩擦係合要素に対する供給油圧を制御する構成の自動変速機の制御装置であって、図2に示すように構成される。
【0007】図2において、入力軸トルク推定手段は変速機の入力軸トルクを推定し、油圧推定手段は、予め設定されたモデルに従って前記入力軸トルクに基づき油圧制御したときの実油圧を推定する。そして、位相進み処理手段は、油圧推定手段で推定された実油圧に位相進み処理を施す。一方、指示油圧設定手段は、前記入力軸トルクに基づいて前記指示油圧を設定し、指示油圧補正手段は、前記位相進み処理手段で位相進み処理された実油圧に基づいて前記指示油圧を補正する。
【0008】かかる構成によると、入力軸トルクに応じた指示油圧の設定で得られると予測される実油圧に対して位相進み処理を施すことで、将来的な実油圧の誤差を推定し、該誤差に基づき予め指示油圧に対して補正を施して、入力軸トルクに応じた油圧が得られるようにする。請求項3記載の発明では、2つの摩擦係合要素の締結と解放とを同時に油圧制御して変速を行う構成であって、前記油圧推定手段が締結側及び解放側の油圧をそれぞれ推定し、前記位相進み処理手段が前記推定された締結側及び解放側の油圧にそれぞれ位相進み処理を施し、前記指示油圧補正手段が、前記位相進み処理された締結側の油圧と解放側の油圧との差又は比に基づいて、前記締結側と解放側との少なくとも一方の指示油圧を補正する構成とした。
【0009】かかる構成によると、締結側と解放側との実油圧の推定結果に位相進み処理を施し、これらの差又は比が所期値になるように、現時点における指示油圧を補正する。一方、請求項4記載の発明では、指示油圧に応じて摩擦係合要素に対する供給油圧を制御する構成の自動変速機の制御装置において、エンジンの負荷を検出するエンジン負荷検出手段と、該エンジン負荷検出手段で検出されたエンジンの負荷に基づいてエンジンの発生トルク相当値を求めるエンジン発生トルク演算手段と、前記エンジン発生トルク相当値に位相進み処理を施す位相進み処理手段と、該位相進み処理手段で位相進み処理されたエンジン発生トルク相当値に基づいて変速機の入力軸トルクを推定する入力軸トルク推定手段と、該推定された入力軸トルクに基づいて前記指示油圧を設定する指示油圧設定手段と、を含んで構成される。
【0010】かかる構成によると、変速機の入力軸トルクの推定値に位相進み処理を施す代わりに、エンジン発生トルクに位相進み処理を施し、該位相進み処理されたエンジン発生トルクに基づいて入力軸トルクを推定させることで、結果的に、位相進み処理された入力軸トルクを得るものである。請求項5記載の発明では、前記エンジン負荷検出手段が、吸入空気量とスロットル開度との少なくとも一方に基づいてエンジンの負荷を検出する構成とした。
【0011】かかる構成によると、エンジンの吸入空気量及び/又はスロットル開度に基づいてエンジンの負荷が検出され、更に、エンジンの発生トルク相当値が求められる。
【0012】
【発明の効果】請求項1,4,5記載の発明によると、位相の進んだ入力軸トルクに基づき指示油圧を設定させることで、指示油圧に対する実油圧の応答遅れがあっても、そのときの入力軸トルクに応じた実油圧に制御することができるという効果がある。
【0013】請求項2記載の発明によると、入力軸トルクに応じた指示油圧に基づく制御によって得られる将来的な油圧を推定し、該推定結果から現時点における指示油圧を補正するので、指示油圧に対する実油圧の応答遅れがあっても、そのときの入力軸トルクに応じた実油圧に制御することができるという効果がある。請求項3記載の発明によると、締結側と解放側との油圧の差又は比を予め推定し、該推定結果に基づいて入力軸トルクに応じた指示油圧を補正するので、指示油圧に対する実油圧の応答遅れがあっても、そのときの入力軸トルクに応じて前記差又は比を所期値に制御できるという効果がある。
【0014】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態を説明する。図3は、本発明に係る制御装置が適用される車両用自動変速機のシステム構成図であり、図示しない車両に搭載されるエンジン1の出力トルクは、自動変速機2を介して駆動輪に伝達される。
【0015】前記自動変速機2は、クラッチ,ブレーキなどの摩擦係合要素に対する作動油圧の供給をソレノイドバルブユニット3によって制御することで変速が行われる構成のものであり、具体的には、図4に示すように、トルクコンバータT/Cを介してエンジンの出力トルクを入力する構成であって、フロント遊星歯車組83,リヤ遊星歯車組84を備えると共に、摩擦係合要素として、リバースクラッチR/C,ハイクラッチH/C,バンドブレーキB/B,ロー&リバースブレーキL&R/B,フォワードクラッチFWD/Cを備える。尚、図4において、81は変速機の入力軸,82は変速機の出力軸を示し、また、Neはエンジン回転速度,Ntはタービン回転速度,Noは出力軸回転速度を示す。
【0016】上記構成において、図5に示すように、前記リバースクラッチR/C,ハイクラッチH/C,バンドブレーキB/B,ロー&リバースブレーキL&R/B,フォワードクラッチFWD/Cの締結,解放の組み合わせに応じて変速が行われ、例えば、3速→4速のアップシフト時には、フォワードクラッチFWD/Cの解放と、バンドブレーキB/Bの締結とが同時に行われることになる。即ち、本実施の形態における自動変速機2は、1方向クラッチを用いずに、2つの摩擦係合要素の締結と解放とを同時に油圧制御によって行わせる変速(所謂クラッチツウクラッチ変速)を実行する構成となっている(図6参照)。
【0017】尚、クラッチ等の摩擦係合要素の締結制御においては、図6に示すように、まず、プリチャージを行って摩擦係合要素を接触直前まで無効ストロークさせた後、作動油圧を締結力が発生するぎりぎりのリターン圧(臨界圧)に保持し、その後、摩擦係合要素の締結が所定のタイミングで進行するように作動油圧を制御する。
【0018】前記コントロールユニット4には、前記ソレノイドバルブユニット3の各ソレノイドの駆動電流と油圧との相関を示すテーブルが記憶されており、指示油圧を演算すると、この指示油圧に対応する駆動電流をテーブル変換によって求めて、前記ソレノイドの駆動電流を制御する。尚、ソレノイドに実際に流れる電流を検出し、前記テーブル変換によって求めた目標駆動電流に実際の電流が一致するようにフィードバック制御することが好ましい。
【0019】ここで、前記コントロールユニット4は、図7の制御ブロック図に示すようにして、前記指示油圧を設定する。まず、エンジン1の吸入空気量Qを検出するエアフローメータ11(エンジン負荷検出手段)からの検出信号を入力する(S1)。尚、エンジン1の吸気系に介装されて吸入空気量を調整するスロットル弁の開度TVOを、前記吸入空気量Qの代わりに用いる構成であっても良い。
【0020】また、エンジン1の回転速度Neを読み込む(S2)。そして、前記吸入空気量Q(又はスロットル開度TVO)とエンジン1の回転速度Neとに基づいて、エンジン1の発生トルク相当値を求める(S3:エンジン発生トルク演算手段)。次に、前記エンジンの発生トルク相当値に対して、一次の位相進み処理を施し(S4:位相進み処理手段)、該位相進み処理後の発生トルクを、リミッタ内に制限する(S5)。
【0021】ここで、前記リミッタにより制限を加えられた発生トルクを、エンジン回転速度NeとトルクコンバータT/Cのタービン回転速度Ntとから求められる速度比eに基づき、変速機の入力軸トルクに変換する(S6:入力軸トルク推定手段)。尚、上記S1〜S3,S6の機能が、入力軸トルク推定手段に相当する。そして、前記入力軸トルクに応じて変速中の締結側及び解放側の指示油圧を決定し(S7:指示油圧設定手段)、該指示油圧をソレノイドの駆動電流に変換し(S8)、該変換された駆動電流(駆動電流に相当する制御信号)をソレノイドに出力する(S9)。
【0022】前記入力軸トルクに応じた指示油圧の決定は、例えば、変速の種類毎に変速時間内における締結側と解放側とのトルク分担率を設定し、このトルク分担率と前記入力軸トルクとから各摩擦係合要素の必要トルクを求め、該必要トルクに応じて変速時における各摩擦係合要素の必要油圧を決定する構成とすることができる。
【0023】上記構成によると、指示油圧の変化に対する実油圧の応答遅れがあっても、位相進み処理された入力軸トルクに対して指示油圧を決定するから、そのときの実際の入力軸トルクに応じた実油に制御することが可能である。また、変速機の入力軸トルクの推定を、スロットル弁開度の遅延処理の一次遅れ処理とによって行うので、簡便に入力軸トルクを推定できる。
【0024】図8の制御ブロック図は、入力軸トルクに応じた指示油圧の設定制御の第2の実施形態を示すものであり、まず、前述の第1の実施形態と同様に、スロットル弁開度の遅延処理,一次遅れ処理によって推定されるエンジン発生トルクとトルク比とに基づいて変速機の入力軸トルクを推定する(S11:入力軸トルク推定手段)。
【0025】そして、前記変速機の入力軸トルクと、予め設定された自動変速機のモデルとに基づいて、前記入力軸トルクに応じた油圧制御結果としての実油圧を締結側及び解放側でそれぞれに推定する(S12A,S12B:油圧推定手段)。次に、前記モデルに基づき推定された締結側及び解放側の油圧に対して位相進み処理を施し(S13A,S13B:位相進み処理手段)、該位相進み処理された実油圧に対してリミッタをかける(S14A,S14B)。
【0026】リミッタ処理された締結側及び解放側の油圧はそれぞれにゲイン調整され(S15A,S15B)、ゲイン調整後の締結側の油圧と解放側の油圧との差又は比を演算する。ここで、前記差又は比は、変速中における締結側と解放側とのトルク分担率から設定される理想の油圧偏差又は油圧比(S16)と比較され、該理想の油圧変化特性に一致するように、締結側及び解放側の指示油圧の少なくとも一方を補正するための補正値が設定される(S17:指示油圧補正手段)。
【0027】一方、前記S11で推定される入力軸トルクに応じて締結側及び解放側の指示油圧が設定され(S18A,S18B:指示油圧設定手段)、前記補正値でいずれか一方の指示油圧が補正されて、締結側,解放側の各摩擦係合要素の油圧を制御するソレノイドに出力される(S19A,S19B)。上記構成によると、前記S13A,S13Bで位相進み処理された結果としての締結側,解放側の油圧の差又は比を演算し、前記差又は比が理想になるように現時点における指示油圧を補正すれば、指示油圧に対する実油圧の応答遅れがあっても、前もって指示油圧が補正されることになるから、前記差又は比が理想になるように実油圧を制御することが可能である。従って、変速中の締結側の油圧と解放側の油圧との差又は比を理想に近づけ、各摩擦係合要素の油圧を入力軸トルクに応じた必要トルクに相当する値に制御でき、以て、回転の吹け上がりやトルクの引けが発生することを抑制できる。
【出願人】 【識別番号】000167406
【氏名又は名称】株式会社ユニシアジェックス
【出願日】 平成9年(1997)10月30日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】笹島 富二雄
【公開番号】 特開平11−132322
【公開日】 平成11年(1999)5月21日
【出願番号】 特願平9−299169