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【発明の名称】 チェーン用スプロケット
【発明者】 【氏名】斉藤 豊永

【氏名】小桜 伸人

【氏名】萩野谷 力

【要約】 【課題】潤滑を必要とするチェーンの特定部位に潤滑油を集中的に供給することができるチェーン用スプロケットを提供すること。

【解決手段】スプロケット12は、両側面に潤滑油案内溝16が凹設されている。潤滑油案内溝16は、ボス部18の環状の潤滑油溜り20から径方向放射状に延びてそれぞれの歯底22に通じている。潤滑油案内溝16を介して歯底22に供給された潤滑油は、遠心力によってプレート26の歯先に飛び出し、プレート間の隙間を通じて潤滑を必要とするピン24とプレート26との間の摺動部に集中的に供給される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 チェーンが捲回されるスプロケットの少なくとも一方の側面に、歯底の縁部に通じる放射状の潤滑油案内溝を凹設したことを特徴とする、チェーン用スプロケット。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、スプロケットに捲回されるサイレントチェーンやローラチェーン等のチェーン用スプロケットに関する。本発明のチェーン用スプロケットは、潤滑を必要とするチェーンの特定部位に集中的に潤滑油を供給して、チェーンの摩耗及び伸びを防止するのに好適である。
【0002】
【従来の技術】従来のチェーン潤滑構造を図6を参照して説明すると、チェーン50は、クランクスプロケット52及びカムスプロケット54にそれぞれ捲回されており、このチェーン50を潤滑するために、クランクスプロケット52の近傍で且つチェーン50の軌道の間にオイルジェットのノズル56が取り付けられている。潤滑油はエンジンに連動して所定圧でノズル56から吹き付けられる。このようにしてノズル56から吹き付けられた潤滑油がチェーン50を潤滑するようになっている。
【0003】また、他の潤滑構造として、スプロケットの歯底の面の中央にボス部から通じる潤滑油の油孔を設けたものがある。歯底の面に穿設された油孔から潤滑油が供給され、この潤滑油がチェーンを潤滑するようになっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、前者の潤滑構造では、チェーン50がクランクスプロケット52に噛み込む部位に向け、潤滑油がエンジンに連動する作動圧で吹き付けられるので、その潤滑油は周囲に飛散しやすい。実際に潤滑を必要とする部位は、サイレントチェーンの場合、ピンとプレートの間の摺動面であり、ローラチェーンの場合、ピンとブシュの間の摺動面であるが、ノズル56を噛み込み部に向けただけでは、実際に潤滑を必要とする部位への潤滑油の供給量は全供給量の一部となり、潤滑油の消費効率・給油効率が極めて悪い。そのため、チェーンの潤滑を十分に行うには、潤滑油の消費量も多くならざるを得ない。また、ノズル56がクランクスプロケット52の近傍で、50チェーンの軌道の間に設けられているので、チェーン50が振動したり、チェーン50に摩耗や伸びが生じたりしたときは、チェーン50がノズル56に干渉してノズル56が破損・脱落する問題や、接触によって騒音を発生する問題があった。そして、オイルジェットへの潤滑油の油路を形成する必要があるため、潤滑構造を構成する部品点数が多くなり、製造コストも増大する。
【0005】後者の潤滑構造では、歯底の面から潤滑油が供給されるものの、スプロケットの厚みと強度を考慮すると油孔は極めて細くならざるを得ず、潤滑油の供給量が制限されてチェーンを十分に潤滑することは困難である。また、油孔が細いために、潤滑油の劣化や不純物の混入によって油孔が閉塞し、潤滑油が供給できなくなってチェーンの焼き付きを生じるという問題があった。さらに、油孔は機械的に穿設しなければならず、穿設加工において生じるバリを除去してやらなければならないため、潤滑油を供給する油孔の加工工数が多くなり、スプロケットの製造コストも増大する。特に、この潤滑構造では、潤滑油の供給がスプロケットの中心に集中する。ローラチェーンのように内プレートと外プレートの間を介してブシュとピンの間に潤滑油を供給してやらなければならないチェーンでは、スプロケットの中心から潤滑油を供給しても、実際に潤滑を必要とする部位まで潤滑油は十分に供給されない。
【0006】本発明の目的は、スプロケット自体を工夫することにより、実際に潤滑を必要とするチェーンの特定部位に潤滑油を集中的に供給することができるチェーン用スプロケットを提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明は、チェーンが捲回されるスプロケットの少なくとも一方の側面に、歯底の縁部に通じる放射状の潤滑油案内溝を凹設したチェーン用スプロケットにより前記課題を解決した。
【0008】
【作用】本発明のスプロケットは、主として、車両のエンジン内のように飛沫潤滑油の雰囲気下で使用され、必要に応じて強制的に潤滑油が供給される使用条件下で用いられるスプロケットに好適である。例えば、本発明は、車両用エンジンのクランクスプロケットからカムスプロケットに動力を伝達するサイレントチェーンやローラチェーンに使用される。
【0009】スプロケットの側面に凹設された放射状の潤滑油案内溝は歯底に通じており、飛沫潤滑油又は強制的に供給された潤滑油は回転するスプロケットの遠心力によって放射状の潤滑油案内溝を介して歯底に集中的に供給される。チェーンがスプロケットに噛み合っている際、歯底の径方向外側にはピンが位置しており、潤滑油を必要とするプレートとピンの摺動面付近に潤滑油が集中的に供給される。
【0010】飛沫潤滑油を雰囲気下で使用するスプロケットの場合、潤滑油案内溝は、スプロケットのボス部まで延びていても、スプロケットのボス部に閉じていてもよい。飛沫潤滑油は、スプロケットの側面に付着した後、潤滑油案内溝を通じて歯底に集中的に供給される。また、強制的に潤滑油を供給して使用するスプロケットの場合、それぞれの潤滑油案内溝に潤滑油を供給するため、スプロケットの側面に放射状の潤滑油案内溝が連通する環状の潤滑油溜りを形成し、この潤滑油溜りに潤滑油を供給することが好ましい。スプロケットが固定される軸から潤滑油溜りに潤滑油を供給することにより、それぞれの放射状の潤滑油案内溝に潤滑油が供給され、歯底からチェーンに潤滑油が供給される。
【0011】潤滑油案内溝はスプロケットの側面より凹んでいればよい。スプロケットの側面を部分的に凸状にして、結果的に潤滑油案内溝が凹設されるものでもよい。潤滑油案内溝の断面は、半円又は矩形のものが一般的であるが、これらに限定されるない。放射状の潤滑油案内溝は、回転中心から径方向に直線状に延びるものが一般的であるが、スプロケットの回転方向と逆方向に螺旋状に延びるものでもよい。また、潤滑油案内溝をそれぞれの側面でスプロケットの歯数と同じ数だけ凹設し、それぞれの潤滑油案内溝を歯底に通じさせることが好ましい。こうすることにより、チェーンは、スプロケットに捲回される度に、総てのピン位置に潤滑油が供給される。もっとも、潤滑油案内溝はスプロケットの歯数より少なく設けてもよい。スプロケットのボス側の側面では潤滑油案内溝同士の間隔が狭くなるので、多数の潤滑油案内溝が凹設されているとスプロケットを軸へ固定するのが困難になるが、潤滑油案内溝をスプロケットの端数より少なくすることにより、潤滑油案内溝同士の間隔が広がり、スプロケットを軸へ固定する際の面圧を下げることができる。この観点から、潤滑油案内溝を径方向外側で分岐させて、それぞれの潤滑油案内溝を歯底に通じさせてもよい。
【0012】チェーン潤滑油案内溝の幅は、径方向一定である必要はない。チェーン潤滑油案内溝の幅を径方向外側に向って狭まるようにすると、スプロケットのボス側で幅広の案内溝が飛沫潤滑油を捕捉しやすくなるとともに、スプロケットの歯底側で幅狭の案内溝が潤滑油の指向性を高め、潤滑を必要とする部位に集中的に潤滑油を供給することができる。
【0013】潤滑油案内溝の深さは、径方向一定である必要はない。潤滑油案内溝の深さを径方向外側に向って浅くなるようにすると、案内溝が潤滑油の指向性を高め、潤滑を必要とする部位に潤滑油を集中的に供給することができる。サイレントチェーンの場合、プレートが幅方向に積層されているので、その全幅に亘って潤滑油を供給するには、潤滑油案内溝をスプロケットの両側面に凹設し、表裏の潤滑油案内溝を歯底の面で互いに近接させることが好ましい。こうすることにより、潤滑油がチェーンの全幅に亘って歯底から飛び出し、チェーンの全幅に潤滑油を供給することができる。また、それぞれの潤滑油案内溝の深さを異ならせて、潤滑油案内溝の歯底側をスプロケットの幅方向で異ならせてもよい。こうすることにより、サイレントチェーンの幅方向の広い範囲に潤滑油を供給することができる。ローラチェーンの場合、内プレートと外プレートの隙間を介してブシュとピンの間に潤滑油を供給する必要がある。そのため、潤滑油案内溝の最も深い底部が内プレートと外プレートの間に位置するように潤滑油案内溝の深さを設定することが好ましい。こうすることにより、潤滑を必要とする部位に集中的に潤滑油を供給することができる。
【0014】
【実施例】図1は、車両用OHCエンジンを側面から見たときのスプロケット10,12、サイレントチェーン14、テンショナ装置Tを示している。クランクスプロケット10はエンジンのクランク軸に取り付けられており、カムスプロケット12はエンジンのカム軸に取り付けられている。クランクスプロケット10とカムスプロケット12の間にはサイレントチェーン14が捲回されている。テンショナ装置Tは、サイレントチェーン14の緩み側を押圧する。これらのスプロケット10,12、サイレントチェーン14及びテンショナ装置Tは、ハウジングHに内包されている。ハウジングH内は飛沫潤滑油の雰囲気下にある。
【0015】図2は、サイレントチェーン14が捲回された状態にある本発明のカムプロケット12の模式図である。なお、このサイレントチェーン14は、両側のガイドプレートを除いて示されている。図3に示すように、カムスプロケット12はカム軸13と同心上にナットNで固定されている。Wはスラストワッシャ、Eはエンジンヘッド、Bはベアリングである。ハウジングH内の飛沫潤滑油は、スプロケット12の両側面に引っ掛けられ、回転するスプロケット12の遠心力によって円周方向に流れようとする。
【0016】スプロケット12は、図4において詳細に示すように、側面に潤滑油案内溝16が凹設されている。なお、潤滑油案内溝16は、スプロケット12の両側面に形成されている。潤滑油案内溝16はスプロケット12の歯数と等しい。潤滑油案内溝16は、ボス部18の環状の潤滑油溜り20から径方向放射状に延びてそれぞれの歯底22に通じている。サイレントチェーン14は、ピン24が歯底22に対向してスプロケット12に捲回する。潤滑油案内溝16を介して歯底22に供給された潤滑油は、遠心力によってプレート26の歯先に飛び出し、プレート間の隙間を通じて潤滑を必要とするピン24とプレート26との間の摺動部に集中的に供給される。
【0017】本発明のスプロケットは、側面に潤滑油案内溝を形成したものであるため、焼結合金の型成形により容易に製造され得る。従って、削り加工等を行うことなく、スプロケットの側面に潤滑油案内溝を形成することができ、従来のように、歯底に潤滑油を供給するための小孔加工を行うことなく、歯底からチェーンに潤滑油を供給することができ、小孔加工では必要であったバリ除去作業も不要であり、スプロケット製造のコストダウンを図ることができる。また、小孔を通じてスプロケットの歯底に潤滑油を供給する場合には、潤滑油の劣化や不純物によって小孔が詰まって潤滑油が供給されないこともあったが、本発明のスプロケットでは、スプロケットの側面に形成した潤滑油案内溝を通じて歯底からチェーンに潤滑油を供給するようになっているので、安定した潤滑油の供給が可能である。
【0018】図5は本発明によるスプロケットをローラチェーン30に用いた例を示している。ローラチェーン30の場合、潤滑油を必要とする部位は、内プレート32に嵌合したピンと外プレート34に嵌合したブシュの間であり、ピンとブシュの間に潤滑油を供給するには内プレート32と外プレート34の間に潤滑油を供給することが必要とされる。本実施例では、潤滑油案内溝38を歯底に通じさせることに加えて、ローラチェーン30がスプロケット36に係合したとき、潤滑油案内溝38の最も深い底部40が内プレート32と外プレート34の間に位置するように潤滑油案内溝38を形成して、遠心力によって飛び出す潤滑油が内プレート32と外プレート34の間に浸入するようになっている。こうすることにより、潤滑油は内プレート32と外プレート34との間を介して、ピンとブシュの摺動面に集中的に供給される。
【0019】
【発明の効果】本発明は以上詳述したように、チェーンが捲回されるスプロケットの少なくとも一方の側面に、歯底の縁部に通じる放射状の潤滑油案内溝を凹設したので、この潤滑油案内溝を通じて歯底からチェーンの潤滑を必要とする部位に集中的に潤滑油を供給して、小量の潤滑油でチェーンの摩耗や伸びを防止することができる。そして、潤滑油を供給する経路を従来に比べて簡単且つ廉価に形成することができ、ノズルの設置が不要であり、このノズルがチェーンと干渉することもなく、また、小孔加工の際のバリ除去も不要で、経済的にスプロケットを製造することができる。
【出願人】 【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
【出願日】 平成9年(1997)10月28日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】祐川 尉一 (外3名)
【公開番号】 特開平11−132315
【公開日】 平成11年(1999)5月21日
【出願番号】 特願平9−295677