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【発明の名称】 トルクリミッタおよびカーコンプレッサ用クラッチ
【発明者】 【氏名】山本 憲

【氏名】福島 茂明

【要約】 【課題】過負荷時のトルク遮断が図れる簡単な構成で、低コスト、軽量化が可能なトルクリミッタ、カーコンプレッサ用クラッチを提供する。

【解決手段】互いに同心に配置した入力側回転部材21および出力側回転部材22のいずれか一方に、ボール9を保持する保持器7を設ける。他方にはボール9が転動するカム溝14を有するトルクカム3を設ける。カム溝14の内部に、ボール9が嵌まり込み可能なボール収容凹部15を設ける。保持器7は、放射状に延びる複数のポケット8内でボール9を保持するものとする。背面から弾性体12で付勢されて円錐状の加圧面でボール9を加圧する加圧プレート11を設ける。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 互いに同心に配置した入力側回転部材および出力側回転部材のいずれか一方に、ボールを保持する保持器を設け、前記入力側回転部材および出力側回転部材の他方に、前記ボールが転動するカム溝を有するトルクカムを設け、前記ボールを前記カム溝に弾性的に付勢する加圧手段を設け、前記カム溝に、前記入力側回転部材と出力側回転部材とが所定の回転位相のずれを生じた状態で前記ボールが嵌り込み可能となりかつ嵌り込んだボールが自然脱出不能なボール収容凹部を設けたトルクリミッタ。
【請求項2】 前記保持器が、放射状に延びる複数のポケット内でボールを移動自在に保持するものであり、前記カム溝が周方向位置によって回転中心からの距離が変化するものであり、前記加圧手段が、回転中心側が凸または凹となる加圧プレートと、この加圧プレートを付勢する弾性体とからなる請求項1記載のトルクリミッタ。
【請求項3】 前記ボール収容凹部は、開口部よりも内部が、段差を持って広がるものとした請求項1または請求項2記載のトルクリミッタ。
【請求項4】 前記トルクカムが出力軸に相対回転不能に取付けられたものであり、前記保持器が、前記トルクカムの外周に軸受を介して回転自在に支持されたプーリの内径部に一体に形成されたものである請求項2記載のトルクリミッタ。
【請求項5】 トルクリミッタを装備し、このトルクリミッタは、入力側回転部材と出力側回転部材の間に介在して両回転部材間に回転を伝達する転動体を有し、この転動体を弾性体で押し付けて所定位置に保つことにより回転の伝達を可能とし、過負荷になった状態で前記弾性体に抗して転動体が移動することになってトルクを自動復帰が不可能な状態に遮断するものとしたカーコンプレッサ用クラッチ。
【請求項6】 前記入力側回転部材の外周部分をプーリとし、このプーリの内径部に形成された空間内に前記出力側回転部材を配置した請求項5記載のカーコンプレッサ用クラッチ。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、自動車エンジンの補機や、モータ等の原動機を動力とする回転体に使用されるトルクリミッタおよびそのトルクリミッタを装備したカーコンプレッサ用クラッチに関する。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】エンジンの補機は、一般にエンジンのクランクプーリより、VベルトまたはVリブドベルトによって駆動される。カーコンプレッサ用コンプレッサは、プーリとコンプレッサとの間に高価な電磁クラッチを介在させ、車室内の条件、あるいはエンジン回転数条件等によってコンプレッサのオン,オフ切換を行っている。最近のコンプレッサは、斜板を用いた可変容量型のものが多く、常時コンプレッサは回されている。そのため、従来の電磁クラッチは、ほとんど作動していない。電磁クラッチが作動する条件は、コンプレッサ内に異常が発生したときの過負荷によって、電磁クラッチをオフにし、エンジンへの過負荷を低減、あるいはコンプレッサ自体の保護のために作動する程度である。このように、ほとんど作動することのない場合に備えて、高価な電磁クラッチが使用されているため、経済性が悪い。そのため、簡単な構成のクラッチが望まれる。
【0003】この発明は、過負荷時のトルク遮断が図れる簡単な構成のトルクリミッタを提供することを目的とする。この発明の他の目的は、トルク伝達の遮断状態で異音が発生することを防止することである。この発明のさらに他の目的は、コンパクトで軽量化が図れるトルクリミッタを提供することである。この発明のさらに他の目的は、過負荷時の支障防止が図れる簡単な構成のカーコンプレッサ用クラッチを提供することである。この発明のさらに他の目的、コンパクトで軽量化が図れるカーコンプレッサ用クラッチを提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】この発明のトルクリミッタは、互いに同心に配置した入力側回転部材および出力側回転部材のいずれか一方に、ボールを保持する保持器を設け、前記入力側回転部材および出力側回転部材の他方に、前記ボールが転動するカム溝を有するトルクカムを設け、前記ボールを前記カム溝に弾性的に付勢する加圧手段を設け、前記カム溝に、前記入力側回転部材と出力側回転部材とが所定の回転位相のずれを生じた状態で前記ボールが嵌り込み可能となりかつ嵌り込んだボールが自然脱出不能なボール収容凹部を設けたものである。前記カム溝は、トルクカムの回転中心からの距離が変化する曲線となるものであっても、溝深さが変化するものであっても良い。この構成によると、通常の負荷時は、ボールを介して入力側回転部材から出力側回転部材に回転が伝達される。過負荷になると、加圧手段の付勢力に抗してボールがカム溝で移動し、ボール収容凹部に落ち込む。これにより、ボールが入力側回転部材または出力側回転部材から外れ、両回転部材間の回転やトルクの伝達が遮断される。トルクの遮断後、回転伝達が可能状態に復帰させるには、ボールを元の位置に戻すことが必要であるが、このボールの戻し操作は、人手で行うようにしてもよく、適宜のボール戻し手段を設けるようにしても良い。
【0005】上記構成のトルクリミッタにおいて、前記保持器が、放射状に延びる複数のポケット内でボールを移動自在に保持するものであり、前記カム溝が周方向位置によって回転中心からの距離が変化するものであり、前記加圧手段が、回転中心側が凸または凹となる加圧プレートと、この加圧プレートを付勢する弾性体とからなるものであっても良い。この構成の場合、通常の負荷状態では、ボールは、保持器のポケット内の外径側または内径側へ加圧プレートで付勢され、トルクカムのカム溝内の所定位置に保たれる。過負荷になると、ボールは、加圧プレートを付勢する弾性体に抗して、保持器のポケット内の内径側または外径側へ移動しながらカム溝内を移動し、ボール収容凹部に落ち込む。これによりトルクを遮断する。この構成の場合は、カム溝は一定深さのもので良いため、構成が簡単で製造が容易である。
【0006】また、これらの構成のトルクリミッタにおいて、前記ボール収容凹部は、開口部よりも内部が、段差を持って広がるものとしても良い。このように内側が段差を持って広がるボール収容凹部とすることにより、ボール収容凹部に嵌まったボールがカム溝に自然に戻ることが防止され、空転時に異音を発生することが防止される。
【0007】前記のポケットが放射状に延びる保持器を用いた構成のトルクリミッタにおいて、前記トルクカムを出力軸に相対回転不能に取付けられたものとし、前記保持器を、前記トルクカムの外周に軸受を介して回転自在に支持されたプーリの内径部に一体に形成されたものとしてもよい。このように、プーリと保持器とを一体化させてプーリの内側に保持器を設けることにより、コンパクト化が図れるうえ、部品点数が少なくなり、構成がより一層簡単になる。
【0008】この発明のカーコンプレッサ用クラッチは、トルクリミッタを装備したものであり、このトルクリミッタは、入力側回転部材と出力側回転部材の間に介在して両回転部材間に回転を伝達する転動体を有し、この転動体を弾性体で押し付けて所定位置に保つことにより前記回転の伝達を可能とし、過負荷になった状態で前記弾性体に抗して転動体が移動することになってトルクを自動復帰が不可能な状態に遮断するものとする。転動体は、例えばボールとしても良く、また転動体の移動によるトルクの遮断は、例えば転動体が孔に落ち込むことで入力側回転部材と出力側回転部材との係合を解くものとしても良い。このように、弾性体で付勢された転動体の移動で過負荷時にトルクを遮断するトルクリミッタを用いたカーコンプレッサ用クラッチとすることにより、簡素な構成として、軽量化、低コスト化を図りながら、コンプレッサの保護ができ、またコンプレッサ異常時のエンジンの過負荷防止が達成できる。トルクの遮断後、回転伝達が可能状態に復帰させるには、転動体を元の位置に戻すことが必要であるが、この転動体の戻し操作は、人手で行うようにしてもよく、適宜の転動体戻し手段を設けるようにしても良い。カーコンプレッサ用クラッチの場合、トルク遮断が必要なときは、ほとんどがエンジンまたはコンプレッサの異常時であるため、これらエンジンまたはコンプレッサの保守時に人手で転動体を戻すようにしても、使用上の不便はない。
【0009】この構成のカーコンプレッサ用クラッチにおいて、前記入力側回転部材の外周部分をプーリとし、このプーリの内径部に形成された空間内に前記出力側回転部材を配置しても良い。これにより、コンパクトでより一層簡素な構成とできる。
【0010】
【発明の実施の形態】この発明の一実施形態を図1および図2と共に説明する。図1(A)は、この実施形態にかかるトルクリミッタを示し、このトルクリミッタ自体でカーコンプレッサ用クラッチが構成される。プーリ1は、ベルト掛け部となる外周円筒部1aの内径側に離れて内周円筒部1bを有し、内周円筒部1bで軸受2によってトルクカム3の外周に回転自在に支持されている。軸受2は、玉軸受等の転がり軸受である。トルクカム3は、出力軸4に対して、セレーション5で嵌合して相対回転できないように取付けられている。出力軸4は、カーコンプレッサ6の入力軸となるものである。プーリ1にはエンジン(図示せず)のクラクシャフトに設けられたプーリとにわたり、ベルトが掛装される。
【0011】保持器7は、プーリ1の内周円筒部1bから続いてプーリ1と一体成形された円板状のものであり、半径方向に延びる長孔状のポケット8が、円周方向に並んで放射状に複数個設けられている。図示の例ではポケット8は3個が等配されている。各ポケット8には、ポケット幅よりも僅かに小径の転動体であるボール9が組み込まれている。ボール9は、保持器8を介して対向するトルクカム3と加圧プレート11とで挟み込まれている。加圧プレート11は、円錐状の加圧面を有し、背面より弾性体12で付勢されている。弾性体12には、皿ばね状の板ばねを用いている。これら加圧プレート11と弾性体12とで、加圧手段13が構成される。前記保持器7とプーリ1とで入力側回転部材21が構成され、トルクカム3と出力軸4とで出力側回転部材22が構成される。
【0012】トルクカム3は、ボール9の転走面となるカム溝14を形成したものであり、カム溝14の深さは一定で、トルクカム3の回転中心からの距離が正弦波状に変位する円周溝形状を呈している。カム溝14の正弦波の波山の数は、ボール9の個数と同じとされる。このカム溝14の底面には、ボール9が嵌まるボール収容凹部15が、ボール9と同じ個数だけ設けられている。ボール収容凹部15の位置は、カム溝14の最小半径部(すなわち、トルクカム10の回転中心から最も近い位置)とされている。ボール収容凹部15の形状は、入口がボール径よりも若干大きく、奥側が拡径された段付き円筒面状とされ、その貫通した底部には、キャップ16が嵌められている。
【0013】前記の加圧プレート11は、出力軸4にナット17により幅締め固定されたスペーサ18に対して、軸方向移動および回転自在に支持され、伝達トルクの大きさに応じて、ボール9が保持器7のポケット8を移動するときに軸方向移動可能となっている。カバー19は、トルクカム3の正面を加圧手段13およびボール9と共に覆う部材であり、プーリ1の内周円筒部1bに嵌合して保持器7の外面にビス止めで固定されている。カバー19の中心開口には出力軸4の先端およびナット17が突出し、カバー19の中心開口の近傍部とスペーサ18との間に、オイルシール等のシール部材20を設け、内部の潤滑剤をシールしている。
【0014】上記構成の動作を説明する。エンジンのクラクシャフトの回転(トルク)は、ベルトを介してプーリ1に伝達される。プーリ1は保持器7と一体となっているため、保持器7に伝えられた回転がボール9を介してトルクカム3に伝えられる。このとき、保持器7の回転により、ボール9は保持器7に案内されながら、トルクカム3のカム溝14に沿って移動することで、回転中心から半径の小さい側に移動し、弾性体12の復元力に抗して加圧プレート11を軸方向に移動させる。弾性体12の復元力に応じたトルク値までは、トルクカム3のカム溝14の最小半径部分に達することなく、プーリ1とトルクカム3の間は、遅れ角が生じるだけで相対回転は生じない。すなわち、弾性体12のばね定数等で予め設定されたトルク値までは、プーリ1とトルクカム3を支持している出力軸4の回転速度は一致している。図1(A)はこのトルク伝達時の状態を示す。
【0015】出力軸4側のコンプレッサ6の異常等で、加圧プレート11の弾性体復元力を超えるトルクが入力された場合は、図2(A)のように、ボール9がカム溝14の最小半径部に設けられたボール収容凹部15に嵌まり込み、回転およびトルクの伝達が遮断される。トルク遮断後のボール9は、図2(B)のように、ボール収容凹部15への嵌まり込み状態で、内部が広がるボール収容凹部15の段部で開口側への移動が阻止され、保持器7に当たる位置まで戻って来ない。そのため、空転中にボール9と保持器7とが接触することがなく、異音の発生がない。
【0016】図2(B)のように空転状態となった後、トルク伝達可能な状態に戻すには、キャップ16を外すか、トルクリミッタを分解してボール9を元のカム溝14の最大半径部分に戻すことで行う。カーコンプレッサ用クラッチの場合、トルク遮断状態となるのは、コンプレッサ6等に何らかの異常が発生したときであるため、コンプレッサ6等の保守時に前記のボール9の戻し作業を行えば良い。
【0017】このカーコンプレッサ用クラッチによると、高価な電磁クラッチを廃止し、上記構成のトルクリミッタを用いたため、次の各利点が得られる。
a.低コスト化ができる。
b.軽量化ができる。
c.コンプレッサの保護ができる。
d.コンプレーサ異常時のエンジンの過負荷防止が達成できる。
【0018】なお、前記実施形態では、トルクカム3のカム溝14の最小半径部分にボール収容凹部15を設けたが、トルクカム3のカム溝14の最大半径部分にボール収容凹部15を設け、加圧プレート11を内径部が凹となる円錐状の加圧面を有するものとしても良い。また、カム溝14は、正弦波状とする代わりに、真円の円周状とし、その深さが変化するものとしても良い。その場合、保持器7は、ポケット8を底付きとしたもので良く、またポケット8を凹球面状等の円形のものとできる。ボール収容凹部15は、カム溝14の最も浅い箇所に設ける。さらに、前記実施形態において、保持器7にプーリ1を一体に形成する代わりに、ギヤやスプロケット等の回転伝達部材を一体化させても良い。
【0019】
【発明の効果】この発明のトルクリミッタは、互いに同心に配置した入力側回転部材および出力側回転部材のいずれか一方に、ボールを保持する保持器を設け、前記入力側回転部材および出力側回転部材の他方に、前記ボールが転動するカム溝を有するトルクカムを設け、前記ボールを前記カム溝に弾性的に付勢する加圧手段を設け、前記カム溝に、前記入力側回転部材と出力側回転部材とが所定の回転位相のずれを生じた状態で前記ボールが嵌り込み可能となりかつ嵌り込んだボールが自然脱出不能なボール収容凹部を設けたものであるため、簡単な構成で過負荷時のトルク遮断が図れる。前記保持器が、放射状に延びる複数のポケット内でボールを移動自在に保持するものであり、前記カム溝が周方向位置によって回転中心からの距離が変化するものであり、前記加圧手段が、回転中心側が凸または凹となる加圧プレートと、この加圧プレートを付勢する弾性体とからなるものとした場合は、より一層簡単な構成で、製造も容易なトルクリミッタとできる。前記ボール収容凹部を、開口部よりも内部が、段差を持って広がるものとした場合は、トルク遮断後の空転時にボールが戻りかけることによる異音の発生が防止される。前記トルクカムが出力軸に相対回転不能に取付けられたものであり、前記保持器が、前記トルクカムの外周に軸受を介して回転自在に支持されたプーリの内径部に一体に形成されたものである場合は、コンパクト化が図れるうえ、部品点数が少なく、構成がより一層簡単になる。
【0020】この発明のカーコンプレッサ用クラッチは、トルクリミッタを装備し、このトルクリミッタは、入力側回転部材と出力側回転部材の間に介在して両回転部材間に回転を伝達する転動体を有し、この転動体を弾性体で押し付けて所定位置に保つことにより前記回転の伝達を可能とし、過負荷になった状態で前記弾性体に抗して転動体が移動することになってトルクを自動復帰が不可能な状態に遮断するものとしたため、簡素な構成で、過負荷時の支障防止が図れ、低コスト化、軽量化が図れる。特に、電磁クラッチと異なり、電気的制御系を必要としない。また、前記入力側回転部材の外周部分をプーリとし、このプーリの内径部に形成された空間内に前記出力側回転部材を配置した場合は、コンパクト化およびより一層の簡素化,コスト低下が図れる。
【出願人】 【識別番号】000102692
【氏名又は名称】エヌティエヌ株式会社
【出願日】 平成9年(1997)10月31日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士 (外1名)
【公開番号】 特開平11−132306
【公開日】 平成11年(1999)5月21日
【出願番号】 特願平9−300195