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【発明の名称】 トロイダル型無段変速機
【発明者】 【氏名】今西 尚

【氏名】後藤 伸夫

【氏名】加藤 寛

【氏名】三田村 宣晶

【要約】 【課題】トラニオンの摩耗や塑性変形に対して材質を強固にしたトロイダル型無段変速機を提供する。

【解決手段】トラニオン6に支持され、入力側デイスク及び出力側デイスクの間に挟持されたパワ−ロ−ラとを備え、前記入力側デイスク及び出力側デイスクの互いに対向する内側面を、それぞれ断面が円弧形の凹面とし、前記パワ−ロ−ラの周面を球面状の凸面として、この周面と前記内側面とを当接させて成り、前記トラニオン6は、片面中間部に変位軸の基端部を結合支持する本体部分、及び前記本体部分から離れた縁を先端縁とした1対の板部を有する基部と、互いに反対方向に向いた各板部の外側面から突出した前記1対の枢軸とを備えているトロイダル型無段変速機において、少なくとも前記トラニオンの傾転を支持するラジアルニ−ドル軸受の転走面61がHRC55以上となっており、芯部がHRC20以上、HRC45以下となっている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】入力側デイスクと、この入力側デイスクと同心に配置されると共に、前記入力側デイスクに対する回転自在に支持された出力側デイスクと、前記入力側デイスク及び出力側デイスクの両中心軸に対して捩れの位置にある枢軸を中心として揺動するトラニオンと、このトラニオンに支持され、前記入力側デイスク及び出力側デイスクの間に挟持されたパワ−ロ−ラとを備え、前記入力側デイスク及び出力側デイスクの互いに対向する内側面を、それぞれ断面が円弧形の凹面とし、前記パワ−ロ−ラの周面を球面状の凸面として、この周面と前記内側面とを当接させて成り、前記トラニオンは、片面中間部に変位軸の基端部を結合支持する本体部分、及び前記本体部分から離れた縁を先端縁とした1対の板部を有する基部と、互いに反対方向に向いた各板部の外側面から突出した前記1対の枢軸とを備えているトロイダル型無段変速機において、少なくとも前記トラニオンの傾転を支持するラジアルニ−ドル軸受の転走面がHRC55以上となっており、芯部がHRC20以上、HRC45以下となっていることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】前記トラニオンの傾転を制限するストッパが前記トラニオンに当接する当たり部が高周波熱処理されていると共に、HRC55以上となっている請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項3】前記パワ−ロ−ラをバックアップしつつ、前記パワ−ロ−ラのピボット運動を可能とするスラストニ−ドル軸受の保持器が所定角度以上に揺動しないように設けられた軸受が当たる当接部分が高周波熱処理されていると共に、HRC50以上となっている請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項4】入力側デイスクと、この入力側デイスクと同心に配置されると共に、前記入力側デイスクに対する回転自在に支持された出力側デイスクと、前記入力側デイスク及び出力側デイスクの両中心軸に対して捩れの位置にある枢軸を中心として揺動するトラニオンと、このトラニオンに支持され、前記入力側デイスク及び出力側デイスクの間に挟持されたパワ−ロ−ラとを備え、前記入力側デイスク及び出力側デイスクの互いに対向する内側面を、それぞれ断面が円弧形の凹面とし、前記パワ−ロ−ラの周面を球面状の凸面として、この周面と前記内側面とを当接させて成り、前記トラニオンは、片面中間部に前記変位軸の基端部を結合支持する本体部分、及び前記本体部分から離れた縁を先端縁とした1対の板部を有する基部と、互いに反対方向に向いた各板部の外側面から突出した前記1対の枢軸とを備えているトロイダル型無段変速機において、前記トラニオンが炭素含有率0.25%以下の鉄鋼材料により形成されており、浸炭処理により表面がHRC55以上、芯部がHRC40以下となっていることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はトロイダル型無段変速機に関し、特にトラニオンの材質を強固にし、必要部分の表面を簡易な手法で硬くしたトロイダル型無段変速機に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば自動車用変速機として、従来図4及び図5に示す様なトロイダル型無段変速機を使用することが研究されている。このトロイダル型無段変速機は、例えば実開昭62−71465号公報に開示されているように、入力軸1と同心に入力側デイスク2を支持し、この入力軸1と同心に配置された出力軸3の端部に出力側デイスク4を固定している。トロイダル型無段変速機を納めたケ−シングの内側には、入力軸1及び出力軸3に対して捩れの位置にある枢軸5,5を中心として揺動するトラニオン6,6が設けられている。
【0003】トラニオン6,6は両端部外側面に枢軸5,5を設けており、トラニオン6,6の中心部には変位軸7,7の基端部を支持し、枢軸5,5を中心としてトラニオン6,6を揺動させることにより、変位軸7,7の傾斜角度の調節を自在としている。トラニオン6,6に支持された変位軸7,7の周囲には、それぞれパワ−ロ−ラ8,8が回転自在に支持されている。そして、パワ−ロ−ラ8,8は入力側デイスク2及び出力側デイスク4の間に挟持されており、入力側デイスク2及び出力側デイスク4の互いに対向する内側面2a,4aは、それぞれ断面が枢軸5を中心とする円弧を回転させて得られる凹面をなしている。球状凸面に形成されたパワ−ロ−ラ8,8は内側面2a,4aに当接されている。
【0004】入力軸1と入力側デイスク2との間にはロ−デイングカム方式の押圧装置9が設けられ、この押圧装置9によって入力側デイスク2を出力側デイスク4に向けて弾性的に押圧している。押圧装置9は入力軸1と共に回転するカム板10と、保持器11により保持された複数個のロ−ラ12,12とから構成されている。カム板10の片側面には円周方向に亙る凹凸面であるカム面13が形成され、入力側デイスク2の外側面にも同様のカム面14が形成されている。複数個のロ−ラ12,12を、入力軸1の中心に対して放射方向の軸を中心とする回転自在に支持している。
【0005】上述のような構成において、入力軸1に回転に伴ってカム板10が回転すると、カム面13によって複数個のロ−ラ12,12が入力側デイスク2の外側面のカム面14に押圧される。この結果、入力側デイスク2がパワ−ロ−ラ8,8に押圧されると同時に1対のカム面13,14とロ−ラ12,12との押し付け合いに基づいて入力側デイスク2が回転する。そして、入力側デイスク2の回転がパワ−ロ−ラ8,8を介して出力側デイスク4に伝達され、出力側デイスク4に固定の出力軸3が回転する。
【0006】入力軸1と出力軸3との間で減速を行う場合には、枢軸5,5を中心としてトラニオン6,6を揺動させ、パワ−ロ−ラ8,8の周面8a,8aが図4に示すように入力側デイスク2の内側面2aの中心寄り部分と、出力側デイスク4の内側面4aの外周寄り部分とにそれぞれ当接するように変位軸7,7を傾斜させる。反対に、入力軸1と出力軸3との間で増速を行う場合には、トラニオン6,6を揺動させ、パワ−ロ−ラ8,8の周面8a,8aが図5に示すように入力側デイスク2の内側面2aの外周寄り部分と、出力側デイスク4の内側面4aの中心寄り部分とにそれぞれ当接するように変位軸7,7を傾斜させる。変位軸7,7の傾斜角度を図4と図5との中間にすれば、入力軸1と出力軸3との間で中間の変速比を得られる。
【0007】更に図6及び図7に詳細に示すように、入力側デイスク2と出力側デイスク4とは、円管状の入力軸15の周囲にそれぞれニ−ドル軸受16、16を介して回転自在に支持されている。また、カム板10は入力軸15の端部の外周面にスプライン係合され、鍔部17によって入力側デイスク2から離れる方向への移動を阻止されている。そして、カム板10とロ−ラ12,12とにより、ロ−デイングカム型の押圧装置9を構成している。押圧装置9は入力軸15の回転に基づいて入力側デイスク2を、出力側デイスク4に向け押圧しつつ回転させる。出力側デイスク4には出力歯車18を、キ−19,19により結合し、これら出力側デイスク4と出力歯車18とが同期して回転するようになっている。
【0008】1対のトラニオン6,6の両端部は1対の支持板20,20に、揺動並びに軸方向に亙る変位自在に支持している。そして、トラニオン6,6の中間部に形成した円孔23,23部分に変位軸7,7を支持している。変位軸7,7は互いに平行で、且つ偏心した支持軸部21,21と枢支軸部22,22とをそれぞれ有する。支持軸部21,21を各円孔23,23の内側にニ−ドル軸受24,24を介して回転自在に支持している。また、枢支軸部22,22の周囲にパワ−ロ−ラ8,8を別のニ−ドル軸受25,25を介して回転自在に支持している。
【0009】尚、1対の変位軸7,7は入力軸15に対して180度反対側の位置に設けられている。また、変位軸7,7の各枢支軸部22,22が支持軸部21,21に対し偏心している方向は、入力側デイスク2及び出力側デイスク4の回転方向に対して同方向としており、偏心方向は出力軸15の配設方向に対してほぼ直交する方向としている。従って、パワ−ロ−ラ8,8は入力軸15の配設方向に亙って若干の変位自在に支持される。この結果、構成部品の寸法精度や弾性変形等に起因して、パワ−ロ−ラ8,8が入力軸15の軸方向に変位する傾向となった場合でも、構成各部品に無理な力を加えることなく、この変位を吸収できる。
【0010】また、パワ−ロ−ラ8,8の外側面とトラニオン6,6の中間部内側面との間には、パワ−ロ−ラ8,8の外側面の側から順に、スラスト玉軸受26,26とスラストニ−ドル軸受27,27とを設けている。スラスト玉軸受26,26はパワ−ロ−ラ8,8に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、各パワ−ロ−ラの回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受26,26はそれぞれ複数個ずつの玉29,29と、各玉29,29を転動自在に保持する円環状の保持器28,28と、円環状の外輪30,30とから構成されている。
【0011】スラストニ−ドル軸受27,27は図8及び図9に詳細に示すようなレ−ス31と保持器32とニ−ドル33,33とから構成される。レ−ス31と保持器32とは、回転方向に亙る若干の変位自在に組み合わされている。スラストニ−ドル軸受27,27はレ−ス31,31をトラニオン6,6の内側面に当接させた状態で、この内側面と外輪30,30の外側面との間に挟持している。更に、各トラニオン6,6の一端部にはそれぞれ駆動ロッド36,36を結合し、各駆動ロッド36,36の中間部外周面に駆動ピストン37,37を固設している。そして、各駆動ピストン37,37をそれぞれ駆動シリンダ38,38内に油密に嵌装している。
【0012】上述の様に構成されるトロイダル型無段変速機の場合には、入力軸15の回転は押圧装置9を介して入力側デイスク2に伝えられる。そして、入力側デイスク2の回転が1対のパワ−ロ−ラ8,8を介して出力側デイスク4に伝えられ、更に出力側デイスク4の回転が出力歯車18より取り出される。入力軸15と出力歯車18との間の回転速度比を変える場合には、1対の駆動ピストン37,37を互いに逆方向に変位させる。各駆動ピストン37,37の変位に伴って1対のトラニオン6,6がそれぞれ逆方向に変位する。その結果、各パワ−ロ−ラ8,8の周面8a,8aと入力側デイスク2及び出力側デイスク4の内側面2a,4aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。この力の向きの変化に伴ってトラニオン6,6が支持板20,20に枢支された枢軸5、5を中心として互いに逆方向に揺動する。
【0013】また、図10は変速時に各トラニオン6,6を枢軸5,5を中心に傾斜させるための機構として、米国特許第4,928,542号明細書に開示されたものを示している。枢軸5,5はニードル軸受16,16によりハウジング17に対して、回転及び軸方向にわたる若干の変位を自在に支持されている。変速時にはハウジング17に支持された油圧シリンダ18内に圧油を送り込み、トラニオン6を軸方向に変位させる。この変位に基づいて、パワーローラ9の外周面9aと入力側デイスク72及び出力側デイスク4の各内側面2a及び4aとの接触位置関係が変化し、トラニオン6が枢軸5,5を中心としていずれかの方向に揺動する。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】上述のようなトロイダル型無段変速機、更には本出願人による実開平6−43404号及び特開平8−240252号で示されるトロイダル型無段変速機では、内臓したトラニオンには硬さを要求される機能面がいくつかあるが、硬さが必ず必要となるのは、傾転を持軸するラジアルニ−ドル軸受の転送表面部と、傾転ストッパの当たり部である。転送表面部は軸受と同様な硬さが必要であり、HRC55以上が必要である。傾転ストッパの当たり部は摩耗や塑性変形すると、設計上の所定変速範囲を保持できないので、かなりの硬さが必要である。また、パワ−ロ−ラをバックアップしつつ、パワ−ロ−ラのピボット運動を可能とするスラストニ−ドル軸受の保持器が所定角度以上に揺動しないように設けられたストッパ部材の当接部にも所定の硬さが必要である。しかしながら、従来のトロイダル型無段変速機ではいずれも上記各部の材料、熱処理、硬さについては何ら言及していない。高負荷時においても耐磨耗性や耐久性に優れたトロイダル型無段変速機の出現が望まれていた。
【0015】本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、トラニオンの摩耗や塑性変形に対して材質を強固にし、容易な手法でコストアップを伴うことなく耐久性を増したトロイダル型無段変速機を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明は、入力側デイスクと、この入力側デイスクと同心に配置されると共に、前記入力側デイスクに対する回転自在に支持された出力側デイスクと、前記入力側デイスク及び出力側デイスクの両中心軸に対して捩れの位置にある枢軸を中心として揺動するトラニオンと、このトラニオンに支持され、前記入力側デイスク及び出力側デイスクの間に挟持されたパワ−ロ−ラとを備え、前記入力側デイスク及び出力側デイスクの互いに対向する内側面を、それぞれ断面が円弧形の凹面とし、前記パワ−ロ−ラの周面を球面状の凸面として、この周面と前記内側面とを当接させて成り、前記トラニオンは、片面中間部に変位軸の基端部を結合支持する本体部分、及び前記本体部分から離れた縁を先端縁とした1対の板部を有する基部と、互いに反対方向に向いた各板部の外側面から突出した前記1対の枢軸とを備えているトロイダル型無段変速機に関し、本発明の上記目的は、少なくとも前記トラニオンの傾転を支持するラジアルニ−ドル軸受の転走面がHRC55以上とし、芯部がHRC20以上、HRC45以下とすることによって達成される。
【0017】また、前記トラニオンの傾転を制限するストッパが前記トラニオンに当接する当たり部を高周波熱処理してHRC55以上とすることにより、更に前記パワ−ロ−ラをバックアップしつつ、前記パワ−ロ−ラのピボット運動を可能とするスラストニ−ドル軸受の保持器が所定角度以上に揺動しないように設けられた軸受の当接部を高周波熱処理してHRC55以上とすることにより、より有効に達成される。
【0018】一方、前記トラニオンを、炭素含有率0.25%以下の鉄鋼材料により形成すると共に、浸炭処理により表面をHRC55以上、芯部をHRC45以下とすることによっても達成される。
【0019】
【発明の実施の形態】本発明のトロイダル型無段変速機は、前記従来の技術で説明し、また、コストを高くすることなく、トラニオンの軽量化を図ると共に、トラニオンの傾斜角度を確実に制限するようにした実開平6−43404号公報に述べられているトロイダル型無段変速機にも適用できる。更に、特開平8−240252号公報に述べられているような、スラストニ−ドル軸受を構成するニ−ドルの転動面に過大な面圧が作用することを防止し、保持器のポケットからニ−ドルが脱落することを防止するようにしたトロイダル型無段変速機にも適用できる。
【0020】本発明では図1に示すように、トラニオン6を炭素含有率0.3〜0.6%の鉄鋼材料で形成すると共に、トラニオン6の傾転を持軸するラジアルニ−ドル軸受の転送表面部61と、傾転ストッパの当たり部62と、バックアップ軸受が飛び出さないようにするための軸受が当たる当接部分63とを高周波熱処理して、HRC55以上としている。そして、その他の部分は、調質熱処理によりHRC45以下としている。すぶ焼きにして芯部まだ硬くしてしまうと靭性がなくなって脆く、疲労破壊強度がなくなり、トラニオンが折れてしまう。そのため、芯部はある程度の靭性が必要であり、また、加工が容易な高周波熱処理を利用するためにトラニオン6の材質を炭素含有率0.4%以上の鉄鋼材料としており、硬さが必要な表面部分を高周波熱処理して、必要な硬さであるHRC50以上を得ている。硬さが必要な表面部分61,62,63は、高周波熱処理の他に浸炭処理としても、HRC55以上の硬さが得られる。浸炭処理の場合には、トラニオン6は炭素含有率0.25%以下の鉄鋼材料により形成されることが望ましい。
【0021】トラニオン6には、次に述べるようなトロイダル型無段変速機に特有な機能が要求される。即ち、トラニオン6には、最大負荷時には4t以上もの力がかかり、その上円滑な変速をするために、トラニオン6が滑らかに傾転する必要がある。先ず4t以上もの力が支持するときには図2のように力がかかるため、トラニオン6には大きな曲げ応力が作用し、この応力下でもトラニオン6が破壊しないように靭性が要求される。また、4t以上の力の下で円滑な傾転をするため、トラニオン6の首部(軸受の転送表面部61)にはラジアルニードル軸受が嵌合され(図10参照)、この部分は軸受の転送面としての強度が必要になる。この要求を満たす条件を、種々の硬さをもったトラニオンで実験して確認した。実験には一例としてトラニオンの全高さ(図2の寸法H)が140mmのものを使用した。実験結果は表1の通りである。
【0022】
【表1】

首部の硬さがHRC55未満では、この部分が破損する問題を生じ、また、芯部の硬さがHRC45を越える場合にもトラニオン6が破壊するなどの問題を生じた。この結果から、トラニオンには本発明(請求項1)に示すような条件が必要である。尚、芯部の硬さがHRC20より小さい場合にはトラニオンが塑性変形し、図2の破線のように変速に不調が生じるなどの不具合が生じる。表1において、No.1〜No.3は本発明の表面部硬さ及び芯部硬さを全て満たしているので、軸受転走部の剥離も折れ曲り部の破損も生じなかった。No.5及びNo.6はC%濃度が0.6%を越えているので、芯部の硬さが本発明のHRC45を越えたため、折れ曲り部100が破損した。また、No.7及びNo.8は芯部硬さが低い(調質時の焼戻し温度を高くして製作しているので)ため、X−X中心線に対して外湾(図2の破線のように)状の塑性変形が大となった。No.4は素材のC濃度%が0.3%を下回っているため、ニードル軸受との転走面となる軸受転走部が剥離した。
【0023】尚、表1の芯部硬さの定義はA点での定義である。即ち、断面においてバックアップ面側にあるコーナRが終了した点と、背面側104の面取りが終了したバクアップ面と、背面が平行となった付近を結ぶ垂線のほぼ1/2の位置で芯部硬さを測定した。表1の実験結果は、パワーローラ9の外周面に4tの荷重をかけ、その状態で枢軸5を±20°揺動させ、10揺動回後の軸受転走表面部の剥離の有無、背面104の曲り寸法(試験前後の寸法変化)を確認した。折れ曲り部100の破損は10揺動回までに破損したか又はしなかったかの結果を示している。
【0024】また、本発明のようなトラニオンを製作する方法として、コストや生産性を考えると、図3に示すように焼入れ→焼戻しでトラニオン全体を調質した後、硬さの必要な部位に900℃程度の高周波熱処理を行なうことが望ましい。材料としてはC濃度が0.3%以上から0.6%以下程度のものが望ましい。C濃度が0.6%以上では芯部に硬さが入り易くなり、目標でありHRC45以下を保持するには、調質時の焼戻し温度をかなり高温にせざるを得ないため熱処理変形が大きくなったり、熱処理コストが嵩むなどの不具合を生じる。また、表面硬さHRC55以上を得るためのC濃度は最低0.2%であるが(例えば「鉄鋼材料便覧」3.1節,P85)、焼き入れ時の質量効果等を考えると、余裕をみて0.3%以上としておくことが望ましい。
【0025】高周波焼入れ部の有効硬化層深さとしては、軸受の転動体(ころ)接触によって材料内部に生じるせん断応力が最大となる深さの2倍程度があれば良い。しかし、この部位はせん断応力が最大となる深さは比較的浅く、それほど深い硬化層深さは必要ないが、高周波焼入れでは硬化層深さを浅めに制御することはコストアップになるため、トロイダル型無段変速機のトラニオンでは硬化層深さを0.5〜2.0mm程度にすることが望ましい。
【0026】本発明のようなトラニオンを製作できれば調質、高周波加熱でなくても良い。例えば浸炭鋼に浸炭や浸炭窒化を施すなどの方法でも構わない。
【0027】尚、図1の実施例では転送表面部61、傾転ストッパの当たり部62、バックアップ軸受の当接部分63の3カ所を高周波熱処理してHRC50以上としているが、少なくとも転送表面部61を高周波熱処理してHRC55以上とすれば、低速用のトロイダル型無段変速機には適用可能である。また、本発明は、特開平8−14350号公報に開示されているような3ローラ式のトロイダル型無段変速機についても同様なトラニオンを用いることができる。
【0028】
【発明の効果】以上のように本発明のトロイダル型無段変速機によれば、トラニオンの材質を炭素含有率0.3〜0.6%の鉄鋼材料としているので、トラニオンそのものに靭性があり、折れることなく疲労破壊に対する強度を高くすることができる。また、硬さを要求される機能面を加工容易な高周波熱処理ないしは浸炭処理としているので、必要部分の表面の硬さを保持でき、自動車の部品として要求される耐摩耗性や耐久性を確保することができる。
【出願人】 【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
【出願日】 平成9年(1997)10月30日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】安形 雄三 (外1名)
【公開番号】 特開平11−132302
【公開日】 平成11年(1999)5月21日
【出願番号】 特願平9−297998