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【発明の名称】 自動変速機の制御装置及び自動変速機の制御方法並びに記憶媒体
【発明者】 【氏名】小崎 哲司

【氏名】榎本 宏

【要約】 【課題】イナーシャ相開始前において、入力軸回転数のバウンドに起因するイナーシャ相開始の誤判定を防止し、イナーシャ相開始の検出の遅延を防止することができる自動変速機の制御装置及び自動変速機の制御方法並びに記憶媒体を提供すること。

【解決手段】ステッフ゜160にて、イナーシャ相制御の開始点か否かを判定する。開始点である場合は、ステッフ゜200にて、入力軸回転数のF/B制御を開始する。また、既にイナーシャ相制御が開始されている場合は、ステッフ゜210にて、判定期間が経過したか否かを判定する。経過した場合は、ステッフ゜220にて、イナーシャ相が進行しているか否かを、目標入力軸回転数と実際の入力軸回転数との差から判定する。そして、イナーシャ相が進行している場合には、ステッフ゜240にて、イナーシャ相の進行時の制御を行ない、そうでない場合は、ステッフ゜250にて、変速過渡制御の待機制御を行う。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 変速歯車機構の摩擦要素の係合動作に伴って該変速歯車機構の入力軸回転数が変化するイナーシャ相にて、該摩擦要素の作動液圧をフィードバック制御するイナーシャ相制御を行う自動変速機の制御装置において、前記イナーシャ相制御の開始点を判定する開始点判定手段と、該開始点判定手段により前記イナーシャ相制御の開始点であると判定された場合には、該イナーシャ制御を開始する制御開始手段と、該制御開始手段により前記イナーシャ相制御が開始されてから所定の判定期間後に、該イナーシャ相制御を継続するか否かを判定する継続判定手段と、を備えたことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】 自動変速機の入力軸回転数、出力軸回転数、及び変速前の入出力軸間のギヤ比から、前記イナーシャ相制御の開始点を検出することを特徴とする前記請求項1に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項3】 前記継続判定手段による判定まで、エンジンのトルクダウンを行うトルクダウン制御の開始を待機し、該継続判定手段による判定に基づいて、該トルクダウン制御の開始するか否かを判断することを特徴とする前記請求項1又は2に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項4】 前記継続判定手段による判定は、前記イナーシャ相の進行状態に基づいて行なうことを特徴とする前記請求項1〜3のいずれかに記載の自動変速機の制御装置。
【請求項5】 前記継続判定手段による判定は、前記イナーシャ相制御の目標値である目標入力軸回転数と実際の入力軸回転数との差に基づいて行なうことを特徴とする前記請求項4に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項6】 前記継続判定手段による判定は、前記イナーシャ相制御の目標値である目標入力軸回転数勾配と実際の入力軸回転数勾配との差に基づいて行なうことを特徴とする前記請求項4に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項7】 前記継続判定手段による判定は、前記イナーシャ相制御が理想的に進行しているものとして予測される入力軸回転数の値に基づいて行なうことを特徴とする前記請求項4に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項8】 前記継続判定手段による判定は、実際の入力軸回転数勾配が所定値に達したか否かの判定に基づいて行なうことを特徴とする前記請求項4に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項9】 前記判定期間毎に、前記継続判定手段による判定を行なうことを特徴とする前記請求項1〜8のいずれかに記載の自動変速機の制御装置。
【請求項10】 前記継続判定手段による判定の結果、前記イナーシャ相制御を中止する場合には、該イナーシャ相制御の目標値を現在の値に一致させ、該一致させた値からイナーシャ相制御を再開することを特徴とする前記請求項1〜9のいずれかに記載の自動変速機の制御装置。
【請求項11】 前記請求項1〜10のいずれかに記載の自動変速機の制御装置による制御を実行させる手段を記憶していることを特徴とする記憶媒体。
【請求項12】 変速歯車機構の摩擦要素の係合動作に伴って該変速歯車機構の入力軸回転数が変化するイナーシャ相にて、該摩擦要素の作動液圧をフィードバック制御するイナーシャ相制御を行う自動変速機の制御方法において、前記イナーシャ相制御の開始点を判定し、該イナーシャ相制御の開始点であると判定された場合には、該イナーシャ制御を開始し、該イナーシャ相制御が開始されてから所定の判定期間後に、該イナーシャ相制御を継続するか否かを判定することを特徴とする自動変速機の制御方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、イナーシャ相における液圧制御を行う自動変速機の制御装置及び自動変速機の制御装置並びに記憶媒体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、自動車に搭載される自動変速機は、トルクコンバータと変速歯車機構とを組み合わせ、この変速歯車機構の動力伝達経路をクラッチやブレーキなどの複数の摩擦要素の選択的動作により切り替えて、所定の変速段に自動的に変速するように構成したものである。
【0003】この種の自動変速機には、前記摩擦要素に対する作動圧の給排を制御する油圧制御手段が備えられ、特に変速動作中に、該油圧制御手段による作動圧の給排を精密に制御することにより、良好な変速フィーリングを実現することが行われている。
【0004】例えば、変速過渡のイナーシャ相における変速ショックを低滅するために、イナーシャ相期間に変速機の入力軸回転数を目標値に追従させるフィードバック制御を行い、また、変速ショックの原因となるイナーシャトルクを低減するために、エンジンのトルクダウン制御が行われる。
【0005】このようなフィードバック制御及びトルクダウン制御は、イナーシャ相の開始に合わせて実行されるのが望ましいので、これらの制御を行う場合には、イナーシャ相の開始を検出する必要がある。このイナーシャ相開始の検出には、車両の加速分を考慮するために、入力軸回転数Nt、出力軸回転数No、変速前のギア比grを用いて、下記式(1)からFを算出し、F≧0の場合に、イナーシャ相の開始とする方法が用いられる。
【0006】
No・gr−Nt=F ・・・(1)
また、より現実的には、回転信号検出値のふらつきやノイズの影響を考慮して、F≧Δn(△nは所定の判定値)の場合、即ち、下記式(2)が成立した場合に、イナーシャ相の開始とする方法が優れている。
【0007】
No・gr−Nt≧△n ・・・(2)
例えば、特開平1一226025号公報には、この方法によりイナーシャ相の開始を検出し、その条件成立(前記(2)式)に合わせて、エンジンのトルクダウン制御を開始する技術が提案されている。
【0008】一方、特開平2一80853号公報によれば、前記(2)式の成立によって直ちにフィードバック制御を開始するのは、入力軸の回転挙動の観点から好ましくなく、所定時間の遅延、又は入力軸回転数の低下勾配が所定値に達してからフィードバックを開始するのが好ましいとされ、更に、特開平8一270780号公報では、この入力軸回転数の低下勾配の判定値を、変速時の入力トルクが大きいほど、大きい値に設定するように提案されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】ところが、本発明者らは、自動変速機の制御の研究を行っている際に、上述のような方法では、イナーシャ相の開始、即ち、フィードバック制御及びトルクダウン制御の開始点を好適に検出できない条件に遭遇した。
【0010】つまり、図17に示すように、イナーシャ相開始前において、入力軸回転数Ntがバウンドする現象である。そこで、この現象に対する研究を行うことにより、入力軸回転数Ntがバウンドする現象は、下記■,■の2つの状況(原因)において発生することを突き止めた。
【0011】■1つ目は、変速クラッチの摩擦係数の特性によるものである。つまり、図17(b)に示す様に、摩擦材は一般的に係合する初期に一時的に摩擦係数が大きい値となる性質を持つ。そのため、変速初期に一時的に摩擦力が大きな値となり、それによって変速が進行しようとし、入力軸回転数Ntは図17(a)に示す様に、いったん低下し始める(トルク相における低下)。しかし、この時期にはまだ油圧が十分高くないため、その後に本来の摩擦係数にまで低下した時点では、変速を進行させるのに十分な係合力(摩擦力)を維持できず、エンジンから加えられるトルクによって入力軸回転数Ntは再び上昇する。そして、その後、クラッチ油圧の上昇に伴って実際の変速が開始し、それによって入力軸回転数Ntも真に低下していく。これが、図17(a)に示す、1つ目の原因による入力軸回転数Ntのバウンドの現象である。
【0012】■2つ目は、ワンウェイクラッチを持つ変速段からの変速で、踏み込んでいたアクセルを少し戻して変速線を過ぎらせた時の変速で発生する。このとき、図17(c)に示す様に、まず、アクセルを戻すことによるエンジンブレーキ効果により、入力軸回転数Ntはいったん低下する。その後ワンウェイクラッチが車両側から負荷トルク(出力軸トルク)を伝達しなくなり、結果として入力軸につながるイナーシャが低下する。それによって、入力軸回転数Ntの低下が止まり、あるいは若干上昇する。さらに、その後、真の変速の進行によって入力軸回転数Ntは低下していく。これが、図17(c)に示す、2つ目の原因による入力軸回転数Ntのバウンドの現象である。
【0013】以上述べたような原因によって入力軸回転数Ntにバウンドが発生する状況にあって、前記(2)式によってイナーシャ相開始を判定すると、例えば前記図17(a)に一例を示すように、最初の入力軸回転数Ntの低下のところ(図のアの部分)で、イナーシャ相の開始であると誤判定してしまう。
【0014】そのため、この誤った判定が成立した時点からフィードバック制御やトルクダウン制御を開始させると、本来これらの制御を行うタイミングではない(変速クラッチの状態はまだトルク相の終了期であり、イナーシャ相にまで変速は進行していない)ため、油圧制御では入力軸回転数Ntの動きを適切に調整できない。また、イナーシャトルクも発生していないため、トルクダウン制御を行なうと大きな変速ショックを引き起こすことになる。
【0015】このような誤検出を防止する一つの方法として、イナーシャ相を検出するための例えば前記式(2)の判定値(Δn)を十分に大きい値とする方法が考えられるが、この方法では、イナーシャ相開始の検出が遅れること、即ちイナーシャ相制御の開始点が遅延されることになり、変速ショックの十分な低減を実現できないという問題がある。
【0016】また、これとは別に、単に入力軸回転数Ntの低下勾配を検出する方法を採用する場合には、車両の加速分の影響が反映されないため、同様に、イナーシャ相開始点の検出が遅れてしまう。本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、イナーシャ相開始前において、入力軸回転数のバウンドに起因するイナーシャ相開始の誤判定を防止するとともに、イナーシャ相開始の検出の遅延を防止することができる自動変速機の制御装置及び自動変速機の制御方法並びに記憶媒体を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段、及び発明の効果】請求項1の発明では、変速歯車機構の摩擦要素の係合動作に伴って変速歯車機構の入力軸回転数が変化するイナーシャ相にて、摩擦要素の作動液圧をフィードバック制御するイナーシャ相制御を行なう。そして、開始点判定手段によって、イナーシャ相制御の開始点であると判定された場合には、制御開始手段によって、イナーシャ制御を開始し、この制御開始手段によりイナーシャ相制御が開始されてから所定の判定期間後に、継続判定手段によって、イナーシャ相制御を継続するか否かを判定する。
【0018】つまり、本発明では、従来の様に、単にイナーシャ相制御の開始点(即ちイナーシャ相の開始)を判定してからイナーシャ相制御を実行するだけではなく、イナーシャ相制御の開始から所定の判定期間後に、そのイナーシャ相制御をそのまま継続するか否かの判定を行っている。
【0019】これにより、上述したバウンド現象によってイナーシャ相制御の開始点を誤判定した場合でも、所定の判定期間後にその判定で正しいか否かを再検討することができる。その結果、誤判定により開始されたイナーシャ制御を例えば中止することができるので、不適切なイナーシャ相制御による変速ショックを防止することができる。
【0020】また、この継続判定手段の採用により、従来のバウンド現象による誤判定を防止するための過大な判定値を用いる必要がないので、イナーシャ相制御の正確な開始点を検出でき、よって、イナーシャ相制御の開始が遅延することがない。請求項2の発明では、自動変速機の入力軸回転数Nt、出力軸回転数No、及び変速前の入出力軸間のギヤ比grから、イナーシャ相制御の開始点を検出する。
【0021】本発明は、イナーシャ相制御の開始点(即ちイナーシャ相の開始)を検出する手段を例示するものであり、例えば上述した下記式(2)を満足した場合に、イナーシャ相制御の開始点であると判断することができる。
No・gr−Nt≧△n ・・・(2)
請求項3の発明では、継続判定手段による判定まで、エンジンのトルクダウンを行うトルクダウン制御の開始を待機し、継続判定手段による判定に基づいて、トルクダウン制御を開始するか否かを判断する。
【0022】従来の様に、イナーシャ相制御の開始点を検出した場合に、イナーシャ相制御と同時に、(イナーシャトルクを低下させるために)トルクダウン制御を実行すると、仮にイナーシャ相制御の開始点の判定が誤判定だったときには、大きな変速ショックが発生する。
【0023】そこで、本発明では、イナーシャ相制御の開始点を検出した場合には、まず、イナーシャ相制御であるフィードバック制御のみを開始し、その後、継続判定手段による判定結果が出るまでは、トルクダウン制御の実行を待機する。そして、所定の判定期間後に、イナーシャ相制御を継続してよいと判定された場合にのみ、トルクダウン制御を開始するのである。
【0024】つまり、トルクダウン制御を実行すると、イナーシャ相制御の開始点の判定が間違っていた場合には、その影響が大きい(即ち変速ショックが大きい)ので、継続判定手段によって再度チェックした場合にのみ、トルクダウン制御を実行するのである。
【0025】これにより、イナーシャ相制御の開始点の検出後、ある程度効果のあるフィードバック制御(追従制御)を実施することができるとともに、誤判定の場合の大きな変速ショックを防止できる。また、判定が正しい場合には、トルクダウン制御を開始するので、その後はイナーシャ相における一層好適な制御を実行することができ、この点からも変速ショックを低減できる。
【0026】請求項4の発明では、継続判定手段による判定は、イナーシャ相の進行状態に基づいて行なう。つまり、イナーシャ相制御の開始点の判定が正しい場合には、既にイナーシャ相制御が開始されていることもあり、所定の判定期間後には、例えば入力軸回転数のある範囲での低下などの様に、イナーシャ相における状態の変化が進行しているはずである。
【0027】そこで、本発明では、イナーシャ相制御の開始点の判定から所定の判定期間の後に、継続判定手段によって、判定の適否を再度チェックしている。これにより、トルクダウン制御を実行するか否かの判断を行うことができるので、変速過渡時における好適な制御を行うことができる。
【0028】請求項5の発明では、継続判定手段による判定は、イナーシャ相制御の目標値である目標入力軸回転数と実際の入力軸回転数との差に基づいて行なう。本発明は、前記請求項4の発明を例示したものであり、目標入力軸回転数と実際の入力軸回転数との差に基づいて、イナーシャ相制御を継続するか否かを判定する。本発明では、入力軸回転数の目標値への追従というイナーシャ相制御(フィードバック制御)の効果から継続判定を行っているので、正確な継続判定ができるという利点がある。
【0029】請求項6の発明では、継続判定手段による判定は、イナーシャ相制御の目標値である目標入力軸回転数勾配と実際の入力軸回転数勾配との差に基づいて行なう。本発明は、前記請求項4の発明を例示したものであり、目標入力軸回転数勾配と実際の入力軸回転数勾配との差に基づいて、イナーシャ相制御を継続するか否かを判定する。本発明では、入力軸回転数勾配を用いるので、より実際の入力軸回転数の変化に対応しており、正確な判定、及びそれにより精密な制御を行うことができる。
【0030】請求項7の発明では、継続判定手段による判定は、イナーシャ相制御が理想的に進行しているものとして予測される入力軸回転数の値に基づいて行なう。本発明は、前記請求項4の発明を例示したものであり、イナーシャ相制御が理想的に進行しているものとして予測される入力軸回転数の値に基づいて、イナーシャ相制御を継続するか否かを判定する。それにより、請求項5の発明と同様に、イナーシャ相制御の効果に基づく判定であり、正確な継続判定ができるという利点がある。
【0031】請求項8の発明では、継続判定手段による判定は、実際の入力軸回転数勾配が所定値に達したか否かの判定に基づいて行なう。本発明は、前記請求項4の発明を例示したものであり、実際の入力軸回転数勾配が所定値に達したか否かの判定に基づいて、イナーシャ相制御を継続するか否かを判定する。それにより、制御のための演算処理が軽減されるという利点がある。
【0032】請求項9の発明では、判定期間毎に、継続判定手段による判定を行なう。本発明では、最初にイナーシャ相制御の開始点を検出してから判定期間後にイナーシャ相の進行状態を判定するだけではなく、判定期間毎に同様なイナーシャ相の進行状態の判定を行なう。
【0033】そのため、実際の入力軸回転数の変化に応じた判定を何度も行うことができるので、上述したバウンド現象による誤判定を確実に防止することができる。請求項10の発明では、継続判定手段による判定の結果、イナーシャ相制御を中止する場合には、イナーシャ相制御の目標値を現在の値に一致させ、この一致させた値からイナーシャ相を再開する。
【0034】本発明では、判定期間後に、イナーシャ相が進行していないと判定された場合には、イナーシャ相制御の目標値を現在の値に一致させている。この簡単な手段により、イナーシャ相制御をリセットして再開することができる。また、イナーシャ相制御の再開時には、目標値と現在の値が一致しているので、その後のフィードバック制御を行う際に、目標値と実際の値とが大きく離れることなく、より好適に行うことができる。
【0035】請求項11の発明は、請求項1〜10のいずれかに記載の自動変速機の制御装置による制御を実行させる手段を記憶している記憶媒体である。例えば記憶媒体としては、マイクロコンピュータとして構成される電子制御装置、マイクロチップ、フロッピィディスク、ハードディスク、光ディスク等の各種の記憶媒体が挙げられる。
【0036】つまり、上述した自動変速機の制御装置の制御を実行させることができる例えばプログラム等の手段を記憶したものであれば、特に限定はない。請求項12の発明では、変速歯車機構の摩擦要素の解放動作に伴って該変速歯車機構の入力軸回転数が変化するイナーシャ相にて、摩擦要素の作動液圧をフィードバック制御するイナーシャ相制御を行う自動変速機の制御方法において、イナーシャ相制御の開始点を判定し、イナーシャ相制御の開始点であると判定された場合には、イナーシャ制御を開始し、イナーシャ相制御が開始されてから所定の判定期間後に、イナーシャ相制御を継続するか否かを判定する。
【0037】これにより、上述したバウンド現象によってイナーシャ相制御の開始点を誤判定した場合でも、所定の判定期間後にその判定を再検討することができる。その結果、誤判定により開始されたイナーシャ制御を例えば中止することができるので、不適切なイナーシャ相制御による変速ショックを防止することができる。
【0038】また、従来のバウンド現象による誤判定を防止するための過大な判定値を用いる必要がないので、イナーシャ相制御の正確な開始点を検出でき、よって、イナーシャ相制御の開始が遅延することがない。
【0039】
【発明の実施の形態】以下、本発明の自動変速機の制御装置の好適な実施の形態を、例(実施例)を挙げて詳細に説明する。
(実施例1)
a)まず、本実施例の自動変速機の制御装置の構成について説明する。
【0040】図1に示す様に、自動車に搭載されて電子制御されるエンジン1は、自動変速機2とデファレンシャルギア3を介して駆動車輪4に接続されている。前記エンジン1は、エンジン制御用コンピュータ5を備え、このエンジン制御用コンピュータ5には、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ6、車速(自動変速機2の出力軸回転数)を検出する車速センサ7、エンジン1のスロットル開度を検出するスロットルセンサ8、及び吸入空気量を検出する吸入空気量センサ9の各信号が入力される。
【0041】エンジン制御用コンピュータ5は、これら入力情報を基に燃料噴射量を決定してエンジン1に指令を出し、また図示しないが点火信号をエンジン1に供給する。そして、この指令に応じて、図示しない燃料供給装置、点火装置が作動し、エンジン1の回転に合わせて燃料の供給と燃焼が行われ、エンジン1の駆動及びその制御が行われる。
【0042】前記自動変速機2は、トルクコンバータ10及び変速歯車機構11を備えており、エンジン1から供給される動力は、エンジン出力軸1a(図2参照)やトルクコンバータ10を経て変速歯車機構11の入力軸12に伝達される。そして、入力軸12への変速機入力回転は、変速歯車機構11の選択変速段に応じ増減速されて出力軸13に至り、この出力軸13からデファレンシャルギア3を経て駆動車輪4に達して、自動車を走行させることができる。
【0043】尚、前記自動変速機2は、図2に示す如く公知のものであるため、その詳細な説明は省略するが、変速歯車機構11は、入力軸12から出力軸13への動力伝達経路(変速段)を決定する各種のクラッチ(R/C,H/C,LO/C,OR/C,F/C,FO/C)やブレーキ(B/B,LR/B)などの各種摩擦要素を内蔵している。
【0044】前記変速歯車機構11には、図1に示す様に、変速制御用コンピュータ14からの指令に基づき駆動されるコントロールバルブ15が接続されており、コントロールバルブ15から適宜油圧が供給され、その油圧を各種摩擦要素に作動させることで変速を実現している。
【0045】このコントロールバルブ15には、変速制御用コンピュータ14の指令で変速段毎に油圧を供給する経路を切り換える2本の変速制御用ソレノイド15a,bと、油圧の大きさを制御するライン圧制御用ソレノイド16が配置されている。尚、本実施例においては、2本の変速制御用ソレノイド15a,bを用いる構成としたが、変速段数やコントロールバルブ15内部の構成に応じて、変速制御用ソレノイドの本数を増やしても良い。また、変速過渡時の作動油の急速な充填、排出のためのタイミングを調節するソレノイドを追加しても良い。更に、ライン圧制御用ソレノイド16としては、本実施例では以下デューティソレノイドとして説明するが、油圧を可変にできる機構であればリニアソレノイドなど他の手段を用いても良い。
【0046】前記変速制御用コンピュータ14は、図示しないがCPU,ROM,RAM,I/O装置からなるマイクロコンピュータで構成されており、前記車速センサ7、スロットルセンサ8に加え、入力軸12の回転数を計測する入力軸回転数センサ17の各信号が入力される。
【0047】さらに、エンジン制御用コンピュータ5と変速制御用コンピュータ14は、通信ライン18で結ばれ、制御情報や指令を双方向に通信できるようになっている。この通信ライン18は、LAN(Local Area Network)の様な多重通信機構を用いても良いし、必要な通信毎に制御用コンピュータの入出力ポートを接続する配線でも良い。
【0048】b)次に、本実施例においてエンジン制御用コンピュータ5と変速制御用コンピュータ14が実行する制御内容について説明する。尚、以下に示す制御処理は、一定期間(例えば8〜25msec)毎に繰り返し実施される。
(i) まず、変速制御用コンピュータ14による変速機制御について、図3〜図5のフローチャート、及び図6〜図8の説明図に基づいて説明する。尚、図3は、本実施例の制御のメインルーチンを示し、図5はイナーシャ相の進行時の制御を示し、図6は変速過渡時の待機制御を示している。
【0049】■最初に、本実施例の制御のメインルーチンについて説明する。図3に示す様に、変速制御用コンピュータ14では、ステップ100にて、変速判断に必要なスロットル開度θacc、車速V、入力軸回転数Ntを読み込む。続くステップ110では、変速線図に基づいて変速の有無を判定する。
【0050】変速線図としては、車速とスロットル開度をパラメータとしたマップを変速制御用コンピュータ14が予め記憶している。このマップは、図6に示す様に、変速段決定の際のチャタリング防止のため、第n速(n=1,2,3)から第n+1速への変速(アップシフト)と第m通(m=2,3,4)から第m−1速への変速(ダウンシフト)で、アップシフトの場合は実線で、ダウンシフトの場合は破線で示すように異なる判定線を用いるように構成されている。
【0051】変速制御用コンピュータ14は、この変速線図を用いて、前回の演算における車速−スロットル開度の関係位置と今回の演算におけるその関係位置とを結んだ線が、実線または破線の変速線を横切った場合に変速有りと判定する。そして、前記ステップ110で、変速有りと判定された場合には、ステップ120にて、変速線図から求められる新たな変速段に対応するように、変速制御用ソレノイド15a,bのON(オン)/OFF(オフ)状態を切り換える。
【0052】変速制御用ソレノイド15a,bのON/OFF状態は、例えば下記表1の様に制御される。この関係も、予め変速制御用コンピュータ14に記憶してある。
【0053】
【表1】

【0054】こうして変速制御用ソレノイド15a,bのON/OFF状態を、新たな変速段に対応するように切り換えると、コントロールバルブ15を介して変速歯車機構11内部の各種摩擦要素に加えられる油圧が変化し、必要なクラッチやブレーキが作動して、変速段が切り換えられる。
【0055】次に、ステップ130では、実際のイナーシャ相が進行中であることを示すフラグFlag2が1にセットされているか否かを判定し、ここで肯定判断されるとステップ235に進み、一方否定判断されるとステップ140に進む。ステップ140では、イナーシャ相が開始されたことを示すフラグFlag1が1にセットされているか否かを判定し、ここで肯定判断されるとステップ210に進み、一方否定判断されるとステップ150に進む。
【0056】これらFlag1及びFlag2は、変速制御用コンピュータ14に電源が投入された最初の初期化処理によって、予めゼロにセットされている。ステップ150では、ライン圧制御用ソレノイド16の駆動デューティを制御して、ライン圧を変速時用の初期圧力Piに設定する。
【0057】この初期圧力Piは、例えば図7に示す様に、スロットル開度に対するマップとして予め関係を求めておき、これを変速制御用コンピュータ14に記憶させておく。本実施例では、この関係は、点線で示される変速時用と、実線で示される変速時以外用の2つが記憶されている。さらに、図8に示す様に、ライン圧とソレノイド16への駆動デューティとの関係を表すマップも変速制御用コンピュータ14に記憶しておく。これら二つのマップを用いることにより、変速時のスロットル開度から初期圧力Piを求め、さらに、このPiを維持するため駆動デューティを求め、ライン圧制御用ソレノイド16の駆動デューティを制御するのである。
【0058】尚、本実施例では図7及び図8の二つのマップを用いたが、これらを一体化して、スロットル関度からデューティ値を直接求める構成としても良いことは言うまでもない。こうしてライン圧を初期圧力Piに設定できたら、次に、ステップ160にて、イナーシャ相の開始であるか否か、即ちイナーシャ相制御であるライン圧に対するフィードバック制御(F/B制御)の開始条件が満たされたか否かを判定する。このフィードバック制御とは、実際の入力軸回転数Ntを所定の時間以内にイナーシャ相を終了させるために設定する目標入力軸回転数Ntrに追従させる油圧(ライン圧)の制御である。
【0059】前記フィードバック制御の開始条件の判定は、新たな変速段に対応する摩擦要素がトルクの伝達を始めると、入力軸回転数Ntが低下を始めるので、この入力軸回転数Ntの低下を検出することによって行っている。従って、例えば下記式(2)により判定する。
【0060】
No・gr−Nt≧Δn ・・・(2)
但し、Nt;入力軸回転数No;出力軸回転数gr;変速前のギア比Δn;判定値尚、この式(2)のフィードバック制御の開始条件が満たされるまでは、ステップ150にて、ライン圧をPiに維持し続ける。
【0061】そして、前記式(2)により、イナーシャ相の開始、即ちイナーシャ相制御の開始点であると判断された場合には、ステップ170にて、イナーシャ相制御の開始を示すために、Flag1に1をセットする。続くステップ180では、演算周期を示すカウンタnに0をセットする(tnはt0となる)。
【0062】続くステップ190では、イナーシャ相制御であるフィードバック制御を行うための入力軸回転数の目標値(目標入力軸回転数)Ntrの算出を行う。具体的には、現在の入力軸回転数Ntと変速の前後におけるギア比の関係から、変速にともなう入力軸回転数の変化幅ΔNtrを算出し、これを摩擦要素の熱容量やエンジン特性などから定まる目標時間Ttで除して、目標とする軌跡の勾配値を求める。そして、この勾配値から1演算周期間の入力軸回転数の変化量Δntrを計算し、下記式(3)によって、目標値Ntr(tn)を求める。
【0063】
Ntr(tn)=Ntr(tn-1)−Δntr ・・・(3)
但し、Ntr(tn-1)は、1演算周期前の目標値、また、n=0のとき、Ntr(t0)=Nt(t0)とする。こうして目標入力軸回転数Ntr(tn)が求められたら、次に、ステップ200にて、入力軸回転数Ntのフィードバック制御を行う。
【0064】即ち、Nt<Ntr(tn)の場合には、ライン圧を低下させることによって変速の進行を抑制してNtをNtr(tn)に近づけ、逆に、Nt>Ntr(tn)場合には、ライン圧を高めることによって変速の進行を推進してNtをNtr(tn)に近づける。尚、この制御対象は、ライン圧制御用ソレノイド16である。
【0065】具体的には、目標入力軸回転数Ntrと実際の入力軸回転数Ntとを用いて得られる偏差、即ちΔNt=Ntr(tn)-Nt(tn)に基づく、周知のフィードバック演算により制御を行う様に構成される。例えばPID制御では、フィードバック補償油圧DFB(tn)は、次式(4)で計算される。
【0066】
【数1】

【0067】但し、tnは現在の入力、出力の状態を示し、tn-1は1演算周期前の状態を示す。Kp,Ki,Kdは、PID制御におけるP項(比例項)、I項(積分項)、D項(微分項)のゲインを示す。kは、ゲインの低下係数で、エンジンの特性などによって適切な値が選ばれる。例えば、0(ゼロ)〜1/2程度の範囲で適切な値を選び、予め設定しておく。
【0068】尚、このフィードバック演算は、PD,PI,Pの構成だけでも良いし、他の制御理論の何れの手段でもかまわない。また上記実施例では、ゲイン低下係数を1つだけ設定したが、より細かな調整を可能なようにkp、ki、kdなどと制御要素毎に設定しても良い。
【0069】一方、前記ステップ140でFlag=1であると判断されて進むステップ210では、既に、イナーシャ相制御が開始されているので、イナーシャ相が開始されてから、判定期間Δt0が経過したか否かを判定する。ここで肯定判断されるとステップ220に進み、一方否定判断されると前記ステップ190,200にて進み、そのままフィードバック制御を継続する。
【0070】この判定期間Δt0とは、一旦イナーシャ相の開始の判定を行った後に、イナーシャ相の進行の状態をチェックするための待機期間である。ステップ220では、イナーシャ相が進行しているか否かを判定する。ここで肯定判断されるとステップ230に進み、一方否定判断されるとステップ250に進む。
【0071】例えば下記式(5)が満たされた場合には、イナーシャ相が進行していると判定する。
Nt−Ntr≦ΔN ・・・(5)
但し、△N;判定値つまり、既にイナーシャ相におけるフィードバック制御を実施しているので、前回のイナーシャ相の判定が適正で現在実際にイナーシャ相であるならば、実際の入力軸回転数Ntと目標入力軸回転数Ntrとの差が所定の判定値ΔN以下となっているはずである。従って、この式(5)が満たされた場合には、フィードバック制御を行なうことが適切である状態、即ちイナーシャ相が進行していると判断するのである。
【0072】ステップ230では、イナーシャ相が進行しているので、Flag2を1にセットする。さらにステップ235に進んで、カウンタnの値をインクリメントする。続くステップ240では、後に図4にて詳述するイナーシャ相の進行時の制御を行なって、一旦本処理を終了する。
【0073】一方、前記ステップ220にて、イナーシャ相が進行していないと判断されて進むステップ250では、後に図5にて詳述する変速過渡制御(油圧のフィードバック制御や後述するエンジンのトルクダウン制御)の待機制御を行なって、一旦本処理を終了する。
【0074】尚、前記ステップ110の判定で、変速開始と判断されなかった場合には、ステップ260にて、図7のマップの実線の関係からライン圧を求め、図8のマップにて駆動デューティに換算し、このデューティでライン圧制御用ソレノイド16を制御することにより、スロットル開度に見合った所定のライン圧を維持する変速時以外のライン圧制御を実行する。この場合は、変速制御用ソレノイド15a、bのON/OFFは現在の状態を維持することになる。
【0075】■次に、前記ステップ240におけるイナーシャ相の進行時の制御について、図4に基づいて説明する。この制御処理は、イナーシャ相の進行時に、必要に応じてトルクダウン制御を実行するとともに、フィードバック制御を継続又は終了するための処理である。
【0076】ステップ300では、フィードバック制御に伴うトルクダウン制御を行なうために、まず、トルクダウンが必要なエンジン高出力領域にあるか否かの判定を行う。この判定は、スロットル開度が25%以上であるか否かによって行ない、スロットル開度が25%以上の場合をトルクダウンが必要な領域(トルクダウン領域)にあると判定する。
【0077】そして、トルクダウン領域にある場合は、ステップ310にて、エンジン制御用コンピュータ5に対してトルクダウン制御の指令値を算出する。この指令値は、下記表2に示す様に、スロットル開度に応じて予めコード値を設定されている。この関係は、変速制御用コンピュータ14が記憶している。各コード値は、それぞれ、同表に示したトルクダウン制御の内容と1対1に対応している。
【0078】
【表2】

【0079】こうしてトルクダウン制御の指令コードを求めたら、次に、ステップ320にて、トルクダウン制御が禁止中か否かの確認を行う。これは、エンジン制御用コンピュータ5から送信されて来るトルクダウン禁止フラグによって確認する。エンジン制御用コンピュータ5は、暖気制御中、フェールセーフ制御中など、トルクダウンの実行が不可能な場合には、トルクダウン禁止の情報をトルククダウン禁止フラグとして送信するようになっている。
【0080】そして、トルクダウン禁止中でないと判断された場合には、ステップ330にて、変速の進行具合から、トルクダウン制御を終了するタイミングであるか否かを判定する。このタイミングは、エンジンの特性やトルクダウン制御の応答速度等に応じて、トルクダウン開始からの時間や入力軸回転数の値、変速過渡中のギア比による変速終了割合等によって設定される。
【0081】この判定で終了タイミングに達していないと判断されたときには、ステップ340にて、通信ライン18を通してエンジン制御用コンピュータ5にトルクダウン要求を行う。即ち、前記ステップ310で求めた指令コードをエンジン制御用コンピュータ5に送信する。
【0082】一方、変速過渡制御が十分進行して、トルクダウンの終了タイミングを経過していると判断されたときには、前記ステップ340をパスする。その後ステップ350に進んで、フィードバック制御を終了するか否かを、変速終了判定によって判断する。ここで肯定判断されるとステップ380に進み、一方否定判断されるとステップ360に進む。
【0083】この変速終了判定は、今説明しているアップシフトの場合には、入力軸回転数Ntの変化の向きが反対になる点、つまり変速の進行によって回転数が低下していたものが再び増加に転じる点を検出すればよい。あるいは、入力軸回転数と車速に変速歯車機構11の変速が進行している段のギア比を掛けた値との差が所定値(例えば50rpm)以下になったときを検出するといった方法で判定しても良い。
【0084】ステップ360では、上述した図3のステップ190の処理と同様にして、フィードバック制御を行うための目標入力軸回転数Ntrの算出を行う。続くステップ360では、前記図3のステップ200の処理と同様にして、目標入力軸回転数Ntr(tn)を用いて、入力軸回転数Ntのフィードバック制御を行ない、一旦本処理を終了する。
【0085】一方、前記ステップ350で、フィードバック制御の終了と判定された場合には、Flag1及びFlag2をリセット(0に設定)し、一旦本処理を終了する。次に、前記ステップ300でトルクダウン領域ではないと判定された場合、及び前記ステップ320でトルクダウン禁止中と判定された場合の制御を説明する。
【0086】これらの場合には、ステップ400に進み、フィードバック制御の終了か否かを判定し、終了でない場合は、ステップ410にて、目標値である目標入力軸回転数Ntr(tn)を算出し、ステップ420にて、フィードバック制御を実行する。
【0087】ここで、前記ステップ410の処理は、前記ステップ360と全く同一内容の処理である。ただし、前記ステップ420の処理は、前記ステップ370と若干異なり、次式(6)の様に、ゲイン低下係数の掛かっていない式によりフィードバック補償油圧DFB(tn)を求めるように構成されている。
【0088】
【数2】

【0089】ここで、tn,tn-1,Kp,ti,Kdは、前記式(4)と同じ意味である。また、このフィードバック演算も、PD,PI,Pの構成だけでも良いし、他の制御理論の何れの手段でもかまわないことは、言うまでもない。尚、前記ステップ400で、フィードバック制御の終了と判定された場合には、Flag1及びFlag2をリセット(0に設定)し、一旦本処理を終了する。
【0090】本実施例では、トルクダウン制御が実行できるときと実行できないときとで、フィードバック制御の補償油圧DFB(tn)の計算方法を変更するように構成したが、フィードバック制御の目標勾配△ntrを、トルクダウン不可のときの方が小さくなるように設定するだけで、DFB(tn)の計算方法を変更しない方法をとってもよい。更に、このやり方では、トルクダウン不可のときに、クラッチの係合速度を緩やかにして変速ショックを抑制しているが、クラッチの熱容量が小さく、イナーシャ相時間を延ばせないときには、変速ショックを許容して、トルクダウンの有無にかかわらず、同一の目標勾配△ntrと補償油圧DFB(tn)による制御としてもよい。
【0091】■次に、前記ステップ250における変速過渡制御の待機制御について、図5に基づいて説明する。この制御処理は、イナーシャ相が進行していると判定されるまでは、所定の判定期間Δt0毎に、イナーシャ相制御の初期値を再設定して何度も再開する処理である。
【0092】図5のステップ500では、前記図3のステップ220にて、イナーシャ相が進行していないと判断されたので、その判定時点から新たにイナーシャ相制御を開始するために、イナーシャ相制御の初期値を設定する。即ち、イナーシャ制御を実施する際の初期値として、実際の入力軸回転数Nrを目標入力軸回転数Ntrとする。
【0093】続くステップ510では、変速時用の初期油圧Piとフィードバック補償油圧DFB(tn)に係数Kを掛けた値とを、新たな初期油圧Piとする。ここで、Kとは、1/2≦K≦1の範囲であり、判定期間△t0が長いほど小さい値を選ぶ。また、フィードバック補償油圧DFB(tn)とは、前記式(6)によって得られる値であり、時刻tn(t1,t2,t3…)におけるフィードバック補償油圧DFB(tn)である。
【0094】続くステップ520では、ライン圧を初期油圧Piに設定する。続くステップ530では、カウンタnを0に再設定し、一旦本処理を終了する。
(ii)次に、エンジン制御用コンピュータ5で実行される制御内容について、図9に基づいて説明する。図9(a)はメインルーチンで実行される制御のフローチャート、図9(b)はエンジン1の回転に同期した割り込みルーチンで実行される制御のフローチャートである。
【0095】まずメインルーチンについて説明すると、吸入空気量,エンジン回転数を読み込み(ステップ600)、吸入空気量に比例する値として、燃料噴射量すなわちインジェクタへの通電時間を算出する(ステップ610)。そして、さらにエンジン回転数の関数として点火時期を求める(ステップ620)。点火時期は、シリンダの大きさによって決まる火炎伝搬時間に相当するエンジンクランク軸の回転角度(進角量)として求められる。
【0096】以上の演算を各燃料噴射タイミング及び点火タイミングに間に合うように繰り返し実行する。一方、図9(b)に示したルーチンは、エンジン回転に同期した割り込み処理としてエンジンクランク軸の回転角度120度(6気筒エンジンの場合)毎に起動される。
【0097】このルーチンでは、最初に噴射気筒の判別を行う(ステップ700)。本実施例の直列6気筒エンジンの場合、エンジンの前面側から#1,#2,・・・#6として、#1,#5,#3,#6,#2,#4の順序で噴射を行う。この順序で、現在のクランク軸の回転位置から吸入工程が始まる直前の気筒番号を選ぶ。
【0098】次に、メインルーチンで求めたインジェクタ通電時間が、所定のクランク角位置までに終了するように、インジェクタ通電開始タイミングを求める(ステッ710)。そして、変速制御用コンピュータ14からトルクダウン指令コードとして、0〜3のいずれが送信されてきたかを判定する(ステップ720)。指令コードは、変速制御用コンピュータ14の制御フロー(図4)中のステップ310で決定され、ステップ340でエンジン制御用コンピュータ5に送信されたものである。何も送信されてこない場合は、ステップ720でコード=0と判定することとしている。
【0099】この判定で、指令コード=3と判定された場合には、全気筒に対して燃料カットが必要なので、今回の燃料噴射量すなわちインジェクタ通電時間をゼロとする(ステップ730)。また、指令コード=2と判定された場合には、1/2の気筒数(本実施例では3気筒)の燃料カットを行う必要があり、今回の燃料噴射気筒が#1,#2,#3の時は、燃料噴射量すなわちインジェクタ通電時間をゼロとし、燃料噴射気筒が#4,#5,#6の場合は、メインルーチンで求めた値のままとする(ステップ740)。
【0100】指令コードが0または1の時には、このようなインジェクタ通電時間の変更を行わない。こうして指令コードに応じてインジェクタ通電時間の変更等を行ったら、いよいよインジェクタへの通電を実行する(ステップ750)。この処理では、今回の燃料噴射気筒と判別された気筒のインジェクタに対して通電を開始し、設定された通電時間が経過した後は、マイクロコンピュータのI/Oのタイマ機能により、通電を終了する。
【0101】次に、エンジンクランク軸の回転位置から点火する気筒を判別する(ステップ760)。そして、点火遅角要求の有無を指令コードによって判定する(ステップ770)。指令コードが点火遅角要求に対応する1である場合だけ、ステップ780に進み、それ以外の場合には、直接ステップ790に進む。ステップ7800では、メインルーチンで求めた点火時期を所定値θddegだけ遅角側に変更する。
【0102】そして、最後に、点火制御を実行する(ステップ790)。具体的には、設定された点火時期に点火が実行されるように、イグナイタへの通電を開始すると共に、マイクロコンピュータに内蔵された終了タイマを起動する。終了タイマがタイムアップすると通電が停止される。こうして、このタイマによって、所定時間だけイグナイタへの通電が行われ、点火が実施されるのである。
【0103】c)次に、上述した制御処理による本実施例の動作、及びイナーシャ相の進行を判定する方法について、図10に基づいて説明する。図10(a)は入力軸回転数Ntにバウンドが現れる場合、図10(b)は現れない場合を示している。
【0104】■変速指令がなされると、上昇していた入力軸回転数Ntは、上述したバウンド現象に伴って、一旦低下し始める。この入力軸回転数Ntの低下により、前記式(2)のイナーシャ相制御(フィードバック制御)の開始条件が満たされた場合には、その時刻T0において、イナーシャ相の開始と判定され、同時にFlag1がセットされる(ステップ160,170)。
【0105】そして、所定の判定期間Δt0経過後の時刻T1において、前の演算周期(時刻T0)で設定した目標入力軸回転数Ntrと実際の入力軸回転数Ntとが比較され、その差が判定値ΔN以下の時(前記式(5)を満たす時)には、イナーシャ相が進行している判定する。つまり、イナーシャ相制御により、目標入力軸回転数Ntrと実際の入力軸回転数Ntとの差が、好ましい範囲内に納まっており、このまま同様なイナーシャ相制御を継続してよいと判定する。一方、その差が判定値ΔNを上回る時には、イナーシャ相が進行していないと判定する(ステップ220)。
【0106】図10(a)に示す場合には、時刻T1では、Nt-Ntr>ΔNのため、イナーシャ相の進行が始まっていないものとして、変速過渡制御の待機制御(ステップ250)に進む。この待機制御では、目標入力軸回転数Ntrを実際の入力軸回転数Ntに戻す。つまり、時刻T1において、イナーシャ相制御の初期値を実際の入力軸回転数Ntとして、新たにイナーシャ相制御を再開するのである。
【0107】このとき、例えば判定期間Δt0を長く設定するなどして、フィードバック制御の補償量が大きく、変速機の挙動に影響を与えるような場合、即ち油圧を戻す場合のショックが大きくなる様な場合には、補償量を1/2 程度まで戻す処理も同時に行う。
【0108】その後、時刻T3までは、前記式(5)の関係が成立しないため、ステップ210,220,250の処理を繰り返している。そして、時刻T4において始めて、前記式(5)の関係が成立し、イナーシャ相の進行が検出できたものとして、Flag2をセットし(ステップ230)、以降のイナーシャ相の進行時の制御、即ちエンジントルク制御を伴うイナーシャ相制御に進む(ステップ240)。
【0109】この間、図3〜図5で用いているカウンタnの値は、T0からT3までは0(ステップ180,530)であり、時刻T4においてはじめて1(ステップ235)となる。
■一方、図10(b)の場合には、時刻T0においてイナーシャ相の開始と判定され(ステップ160)、FLag1をセットしている(ステップ170)。
【0110】そして、ここではバウンド現象がないので、最初の判定期間Δt0経過後の時刻T1において、前記(5)の関係が成立する。よって、Flag2をセットし(ステップ230)、そのまま、イナーシャ相の進行時の制御に進むのである(ステップ240)。
【0111】尚、ここで時間間隔Δt0は、前記図3に示した制御プログラムの1実行間隔から数実行間隔の時間として設定され、具体的には10〜100msec程度の間隔に設定される。この値は、入力軸回転数センサ17の性能に依存して設定される。本実施例では、時間間隔△t0は、制御プログラムの1実行時間間隔と一致するようにしている。
【0112】この様に、本実施例では、変速指令後に、入力軸回転数Ntに基づいて、一旦イナーシャ相の開始(イナーシャ相制御の開始点)か否かを判定した後、判定期間Δt0経過後に、このままイナーシャ相制御を継続するか否かの判定を行っている。つまり、目標入力軸回転数Ntrと実際の入力軸回転数Ntとの差が判定値ΔN以下か否かの判定により、イナーシャ相が進行しているか否かを判定している。
【0113】それにより、変速過渡時に、上述した入力軸回転数Ntのバウンド現象が発生した場合でも、イナーシャ相制御の開始点を誤判定することを防止できる。また、イナーシャ相制御の開始点の検出が遅延することがない。そして、イナーシャ相が進行していると判断された場合には、イナーシャ相制御を継続するとともに、必要に応じてトルクダウン制御を実施している。このトルクダウン制御の判定及びその実施により、イナーシャトルクを低減して、実際の入力軸回転数Ntを目標入力軸回転数Ntrにできる限り近づけることができるので、大きな変速ショックが起こることを防止できる。
【0114】一方、イナーシャ相が進行していないと判断された場合は、再度判定期間Δt0後に、同様なイナーシャ相の進行の判定を行っている。これにより、実際の入力軸回転数Ntの変化に対応して、誤判定及びそれに基づく誤った制御を確実に防止することができる。
【0115】また、イナーシャ相が進行していないと判断された場合は、イナーシャ制御の目標入力軸回転数Ntrを現在の入力軸回転数Ntの値に設定し、その値を開始点として同様なイナーシャ相制御を再開しているので、その後の制御において、両回転数が大きくずれた制御を行う恐れがない。
【0116】尚、本実施例では、前記ステップ220のイナーシャ相が進行しているか否かの判定を行う場合に、実際の入力軸回転数Ntと目標入力軸回転数Ntrとの差を用いているので、イナーシャ相制御(フィードバック制御)の効果が得られているか否かという状態を見てイナーシャ相の進行を判定していることになるため、正確に進行判定ができるという利点がある。
(実施例2)次に、実施例2について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。
【0117】本実施例では、イナーシャ相制御の開始点を検出した後に、イナーシャ相における制御として、前記実施例1とは異なり、実際の入力軸回転数勾配dNtを目標入力軸回転数勾配dNtrに追従させるフィードバック制御を行なう。そして、このフィードバック制御を開始してから判定期間Δt0後に、イナーシャ相の進行の判定を行う。この場合、前記実施例1では、前記図3のステップ220にて、イナーシャ相の進行の判定を、実際の入力軸回転数Nt及び目標入力軸回転数Ntrとの関係を示す前記式(5)を用いて行ったが、本実施例では、下記式(7)の関係式を満たすか否かによって、その判定を行う。
【0118】
dNt-dNtr≦ΔdN ・・・(7)
即ち、実際の入力軸回転数勾配dNtを目標入力軸回転数勾配dNtrと比較して、その差が判定値ΔdN以下に収まっているか否かを判定し、収まっている場合は、イナーシャ相が進行していると判断する。
【0119】a)この式(7)に基づく制御処理を、図11のフローチャートに基づいて説明する。本実施例における制御処理は、前記図3に示す制御処理とほぼ同様であり、前記ステップ220に代えて、下記の制御処理を行うものである。
【0120】まず、ステップ800にて、時刻Tmにおける入力軸回転数Nt(Tm)と時刻Tm-1における入力軸回転数Nt(Tm-1)との差から、入力軸回転数勾配dNtを求める。ここで、Tmは、最初にステップ160でイナーシャ相開始を検出した時刻からm番目の時刻を表している。
【0121】続くステップ810では、時刻Tmにおける目標入力軸回転数Ntr(Tm)と時刻Tm-1における目標入力軸回転数Ntr(Tm-1)との差から、目標入力軸回転数勾配dNtrを求める。続くステップ820では、入力軸回転数の勾配dNtと目標入力軸回転数Ntrとの差が、所定の判定値ΔdN以下であるか否かを判定する。ここで肯定判断されると、イナーシャ相が進行しているとして、前記ステップ230,240と同様に、イナーシャ相の進行時の制御を行う。一方、ここで否定判断されると、イナーシャ相が進行していないとして、前記ステップ250と同様に、変速過渡制御の待機制御を行う。
【0122】b)次に、上述した制御処理による本実施例の動作について、図12に基づいて説明する。変速指令がなされると、上昇していた入力軸回転数Ntは、上述したバウンド現象に伴って、一旦低下し始める。この入力軸回転数Ntの低下により、前記式(2)のイナーシャ相制御(フィードバック制御)の開始条件が満たされた場合には、その時刻T0において、イナーシャ相の開始と判定され、同時にFlag1がセットされる。
【0123】そして、所定の判定期間Δt0経過後の時刻T1において、目標入力軸回転数勾配dNtr(T1)と実際入力軸回転数の勾配dNt(T1)とが比較され、その差が判定値ΔdN以下の時(前記式(7)を満たす時)、イナーシャ相が進行している判定する。一方、その差が判定値ΔNを上回る時、イナーシャ相が進行していないと判定する(ステップ820)。
【0124】この図12に示す場合には、時刻T1〜T3では、Nt-Ntr>ΔNのため、イナーシャ相の進行が始まっていないものとして、変速過渡制御の待機制御(ステップ250)に進む。そして、時刻T4において始めて、前記式(7)の関係が成立し、イナーシャ相の進行が検出できたものとして、以降のイナーシャ相の進行時の制御、即ちエンジントルク制御を伴うイナーシャ相制御に進む(ステップ,230,240)。
【0125】この様に、本実施例では、変速指令後に、入力軸回転数Ntに基づいて、イナーシャ相の開始(イナーシャ相制御の開始点)であると判定された場合には、入力軸回転数勾配dNtを目標入力軸回転数勾配dNtrに追従させる制御を行っている。そして、イナーシャ相制御の開始点の検出から判定期間Δt0経過後に、このままイナーシャ相制御を継続するか否かの判定を行っている。つまり、目標入力軸回転数の勾配dNtrと実際の入力軸回転数の勾配dNtとの差が判定値ΔdN以下か否かの判定により、イナーシャ相が進行しているか否かを判定している。
【0126】それにより、前記実施例1と同様な作用効果を奏するとともに、特に、イナーシャ相の進行の判定を、入力軸回転数Ntではなく入力軸回転数勾配dNtを用いて行なっており、より実際の入力軸回転数Ntの変化(即ちイナーシャ相の変化)に対応していると考えられるので、正確な判定、及びそれによる精密な制御を行うことができるという利点がある。
(実施例3)次に、実施例3について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。
【0127】本実施例では、イナーシャ相制御の開始点を検出した後に、前記実施例1と同様に、実際の入力軸回転数Ntを目標入力軸回転数Ntrに追従させるフィードバック制御を行なう。そして、フィードバック制御を開始してから判定期間Δt0後に、イナーシャ相の進行の判定を行うが、本実施例では、フィードバック制御が理想的に進行しているものとして予測される入力軸回転数の値に基づいて、イナーシャ相の進行を判定している。
【0128】a)まず、本実施例の制御処理を、図13のフローチャートに基づいて説明する。本実施例における制御処理は、前記図3に示す制御処理とほぼ同様であり、前記ステップ220に代えて、下記の制御処理を行うものである。
【0129】まず、ステップ900にて、時刻Tmにおける目標入力軸回転数Ntr(Tm)と時刻Tm-1における目標入力軸回転数Ntr(Tm-1)との差から、時刻Tmにおける目標入力軸回転数の勾配dNtr(Tm)を求める。続くステップ910では、時刻Tm-1における出力軸回転数Noとギヤ比grとの積から、時刻Tm-1における入力軸回転数Nt(Tm-1)を引き、更に、それらに、時刻Tmにおける目標入力軸回転数の勾配dNtr(Tm)と係数k1との積を加えた値から、時刻Tmにおける判定値Δn(Tm)を求める。
【0130】続くステップ920では、下記式(8)の関係式を満たすか否かによって、その判定を行なう。
No(Tm)・gr-Nt(Tm)≧Δn(Tm) ・・・(8)
即ち、時刻Tmにおける出力軸回転数Noとギヤ比grとの積から、時刻Tmにおける入力軸回転数Nt(Tm)を引いた値が、前記判定値Δn(Tm)以上か否かを判定する。ここで肯定判断されると、イナーシャ相が進行しているとして、前記ステップ230,240と同様に、イナーシャ相の進行時の制御を行う。一方、ここで否定判断されると、イナーシャ相が進行していないとして、前記ステップ250と同様に、変速過渡制御の待機制御を行う。
【0131】c)次に、上述した制御処理による本実施例の動作、及びその原理について、図14に基づいて説明する。図14(a)はバウンドがある場合を示し、図14(b)はバウンドがない場合を示す。
【0132】まず、図14(b)に示す様に、例えば、時刻T1においては 前記式(8)に時刻T1における値を代入した下記式(9)を満足するかどうかで、イナーシャ相の進行の判定を行う。
No(T1)・gr−Nt(T1)≧Δn(T1) ・・・(9)
ここで、Δn(T1)は、下記式(10)から求める。
【0133】
Δn(T1)=Δn+dNtr(T0)・k1 ・・・(10)
つまり、時刻T0における判定値Δnに、時刻T0において設定した目標入力軸回転数の勾配dNtr(T0)のk1倍(ここでk1は1から1/2の範囲で設定されるセンサの誤差を考慮した定数)を加えた値とする。
【0134】この意味は、時刻T0でイナーシャ相が開始されたとすると、入力軸回転数Ntは、その時に設定された目標入力軸回転数Ntrに従って低下するものと予想され、よって時刻T1において、入力軸回転数Nt(T1)の値は、No(T1)・grの値から前記(10)式でk1=1としたときのΔn(T1)分だけ低下したところ付近にあるものと予想できるからである。
【0135】より厳密には、判定期間Δt0間の車両の加速分、すなわち(No(T1)−No(T0))・gr分も低下したところとするほうがよい。尚、実際には、追従誤差が発生するので、前記式(10)の判定値の算出には、その誤差分を考慮するための補正係数kを作用させている。
【0136】以上は、図14(b)のように、入力軸回転数変化にバウンドが発生しなかった場合で、時刻T1においてイナーシャ相の進行を判定できる。ところが、図14(a)のようにバウンドが発生する場合には、図14(b)にくらべて入力軸回転数Ntの十分な低下が見られない分、前記式(9)の判定が成立しない。
【0137】そこで、前記式(9)の判定が成立しない場合には、目標入力軸回転数Ntrを低下させることを停止し、時刻T1にて、Ntr(T1)=Nt(T1)にリセットし、目標入力軸回転数の勾配dNtr(T1)を設定する。そして、時刻T2における判定値Δn(T2)は、前記式(10)ではなく、下記式(11)によって求める。
【0138】
Δn(T2)=No(T1)・gr-Nt(T1)+dNtr(T1) ・・・(11)
以下、判定が成立するまで、前記式(11)の一般式である下記式(12)から、時刻Tm+1の判定値Δn(Tm+1)を求める。Δn(Tm+1)=No(Tm)・gr-Nt(Tm)+dNtr(Tm) ・・・(12)つまり、m=1,2,3…により、演算時刻毎に判定値Δnを更新し、この判定値Δnを用い、前記式(8)によって判定を繰り返す。
【0139】尚、図14(a)では、時刻T4において、前記式(8)による判定が成立している。この様に、本実施例では、イナーシャ相の開始判定から判定期間Δt0経過後に、イナーシャ相の進行を判定する場合には、前記式(12)から求めた判定値Δnを用い、前記式(8)により判定を行っている。つまり、フィードバック制御が理想的に進行しているものとして予測される入力軸回転数の値に基づいて、イナーシャ相の進行を判定している。
【0140】それにより、前記実施例1と同様な効果を奏するとともに、この判定方法を採用することにより、イナーシャ相制御の実行効果に基づく判定であるため、正確なイナーシャ相の進行判定ができるという利点がある。
(実施例4)次に、実施例4について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。
【0141】本実施例では、イナーシャ相制御の開始点を検出した後に、前記実施例1と同様に、実際の入力軸回転数Ntを目標入力軸回転数Ntrに追従させるフィードバック制御を行なう。そして、フィードバック制御を開始してから判定期間Δt0後に、イナーシャ相の進行の判定を行うが、本実施例では、実際の入力軸回転数Ntの変化が所定値(勾配を示す判定値dN)に達したか否かに基づいて、イナーシャ相の進行を判定している。
【0142】a)まず、本実施例の制御処理を、図15のフローチャートに基づいて説明する。本実施例における制御処理は、前記図3に示す制御処理とほぼ同様であり、前記ステップ220に代えて、下記の制御処理を行うものである。
【0143】まず、ステップ1000にて、時刻Tmにおける入力軸回転数Nt(Tm)と時刻Tm-1における入力軸回転数Nt(Tm-1)との差から、入力軸回転数の勾配dNtを求める。続くステップ1010では、下記式(13)の関係式を満たすか否かによって、その判定を行なう。
【0144】dNt≦dN ・・・(13)
即ち、入力軸回転数の勾配dNtが所定の勾配値dN以下か否かを判定する。ここで肯定判断されると、イナーシャ相が進行しているとして、前記ステップ230,240と同様に、イナーシャ相の進行時の制御を行う。一方、ここで否定判断されると、イナーシャ相が進行していないとして、前記ステップ250と同様に、変速過渡制御の待機制御を行う。
【0145】c)次に、上述した制御処理による本実施例の動作、及びその原理について、図16に基づいて説明する。図16(a)はバウンドがある場合を示し、図16(b)はバウンドがない場合を示す。
【0146】図16(a)に示す様に、各時刻T1〜T4では、それぞれ入力軸回転数勾配dNtと所定の判定値dN(定数)とを比較する。この場合、各時刻T1〜T3では、前記式(13)が満たされないので、イナーシャ相が進行していないと判断して、フィードバック制御の初期値を、その時刻における入力軸回転数Ntとして、フィードバック制御を行う。そして、時刻T4では、前記式(13)が満たされるので、イナーシャ相が進行していると判断して、そのまま、フィードバック制御を継続する。
【0147】一方、図16(b)に示す様に、バウンドがない場合には、時刻T1にて前記式(13)が成立するので、そのままフィードバック制御を継続する。この様に、本実施例では、実際の入力軸回転数勾配dNtが、ある固定の判定値dNに達したか否かに基づいて、イナーシャ相の進行を判定している。よって、前記実施例1と同様な効果を奏するとともに、イナーシャ相の進行を判定する式として、簡易な前記式(13)を用いるので、演算が簡易化できるという利点がある。
【0148】尚、本発明は前記実施例に何ら限定されることなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。
(1)前記各実施例では、イナーシャ相の進行を判定したら、イナーシャ相の制御、例えば実際の入力軸回転数Nt(又はその勾配)を所定の時間以内にイナーシャ相を終了させるために設定する目標入力軸回転数Ntr(又はその勾配)に追従させるライン圧のフィードバック制御を行ったが、クラッチ圧のフィードバック制御を行なってもよい。
【0149】(2)前記実施例2〜4では、前記実施例1と同様に、入力トルクの大きい運転条件でのエンジンのトルクダウン制御を実行する。
(3)前記実施例1〜4では、自動変速機の制御装置について述べたが、この装置による制御を実行させる手段を記憶している記憶媒体も、本発明の範囲であるある。
【0150】例えば記憶媒体としては、マイクロコンピュータとして構成される電子制御装置、マイクロチップ、フロッピィディスク、ハードディスク、光ディスク等の各種の記憶媒体が挙げられる。つまり、上述した自動変速機の制御装置の制御を実行させることができる例えばプログラム等の手段を記憶したものであれば、特に限定はない。
【出願人】 【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
【出願日】 平成9年(1997)10月16日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】足立 勉
【公開番号】 特開平11−118032
【公開日】 平成11年(1999)4月30日
【出願番号】 特願平9−283696