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【発明の名称】 トルクコンバータのスリップ制御装置
【発明者】 【氏名】安達 和孝

【氏名】渡辺 晃

【要約】 【課題】入力トルクの低下があっても、目標スリップ回転に対し実スリップ回転が大きく低下することのないようにし、もってショックの発生を防止する。

【解決手段】31からの目標スリップ回転ωSLPTと、32からの実スリップ回転ωSLPRとの偏差ωSLPTを33で求め、34で、偏差ωSLPER をなくすのに必要なスリップ回転偏差用ロックアップクラッチ締結圧PLUCDを算出する。36では、35で推定したエンジン出力トルクtEHと、目標スリップ回転ωSLPTと、タービン回転速度ωTRとから、エンジン出力トルクtEHのもとで目標スリップ回転ωSLPTを達成するためのロックアップクラッチ締結圧基準値PLUCSを算出する。37では、PLUCSとPLUCDの和値をもってロックアップクラッチ締結圧指令値PLUC とし、38で対応するソレノイド駆動デューティDを出力する。故にエンジン出力トルクが考慮され、その低下時もスリップ回転の大きな低下を生じない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 原動機からの回転を伝達するトルクコンバータに用いられ、該トルクコンバータの入出力要素間におけるスリップ回転をロックアップクラッチの締結により目標スリップ回転に制御するための装置において、前記ロックアップクラッチの締結力を、原動機出力トルクに応じた、前記目標スリップ回転のためのロックアップクラッチ締結力基準値と、前記目標スリップ回転および実スリップ回転間のスリップ回転偏差に応じたスリップ回転偏差用ロックアップクラッチ締結力との和により決定するよう構成したことを特徴とするトルクコンバータのスリップ制御装置。
【請求項2】 請求項1において、トルクコンバータの伝動性能から予め求めておいた原動機出力トルクと、スリップ回転と、ロックアップクラッチ締結力と、トルクコンバータ出力回転との関係をもとに、前記スリップ回転に前記目標スリップ回転を当てはめて検索したロックアップクラッチ締結力を前記ロックアップクラッチ締結力基準値と定めるよう構成したことを特徴とするトルクコンバータのスリップ制御装置。
【請求項3】 請求項1において、トルクコンバータの伝動性能から予め求めておいた、流体伝動により伝達されるコンバータトルクに対するスリップ回転の比であるスリップ回転ゲインと、トルクコンバータの出力回転速度との関係を基に、トルクコンバータの出力回転速度に対応したスリップ回転ゲインを検索し、前記目標スリップ回転を該検索したスリップ回転ゲインで除算することにより、該目標スリップ回転を達成するための目標コンバータトルクを算出し、原動機出力トルクから該目標コンバータトルクを減算して求めた目標ロックアップクラッチ締結容量に対応するロックアップクラッチ締結力を前記ロックアップクラッチ締結力基準値と定めるよう構成したことを特徴とするトルクコンバータのスリップ制御装置。
【請求項4】 請求項3において、前記検索したスリップ回転ゲインをローパスフィルターにより処理し、該フィルター処理後のスリップ回転ゲインを前記目標コンバータトルクの算出に資するよう構成したことを特徴とするトルクコンバータのスリップ制御装置。
【請求項5】 請求項1乃至4のいずれか1項において、原動機の運転性能から予め求めておいた運転負荷と回転速度と出力トルクとの関係を示すデータを基に、運転負荷および回転速度から前記原動機出力トルクを推定して、前記ロックアップクラッチ締結力基準値の算出に資するよう構成したことを特徴とするトルクコンバータのスリップ制御装置。
【請求項6】 請求項5において、前記推定して求めた原動機の出力トルクを、原動機の動的な遅れに対応したフィルターにより処理し、該フィルター処理後の出力トルクを前記ロックアップクラッチ締結力基準値の算出に資するよう構成したことを特徴とするトルクコンバータのスリップ制御装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動変速機などに用いられるトルクコンバータの入出力要素間における相対回転、つまりスリップ回転を、原動機の出力トルクが変化した時も、走行状態に応じて定められた目標値に維持するためのスリップ制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】トルクコンバータは、流体を介して入出力要素間で動力伝達を行うため、トルク変動吸収機能や、トルク増大機能を果たす反面、伝動効率が悪い。これがため、これらトルク変動吸収機能や、トルク増大機能が不要な走行条件のもとでは、トルクコンバータの入出力要素間をロックアップクラッチにより直結するロックアップ式のトルクコンバータが今日では多用されている。しかして、かようにトルクコンバータを入出力要素間を直結したロックアップ状態にするか、該ロックアップクラッチを釈放したコンバータ状態にするだけの、オン・オフ制御では、トルクコンバータのスリップ回転を制限する領域が狭くて十分な伝動効率の向上を望み得ない。
【0003】そこで、ロックアップクラッチを所謂半クラッチ状態にして、要求される必要最小限のトルク変動吸収機能や、トルク増大機能が確保されるような態様で、トルクコンバータのスリップ回転を制限するスリップ制御領域を設定した型式のトルクコンバータも多々提案されている。そして、走行条件に応じ決定された目標スリップ回転にトルクコンバータをスリップ制御するに技術としては従来、例えば社団法人・自動車技術会が発行した「学術講演会前刷集954 1995−9」の第81頁〜第84頁における(21.自動変速機ロックアップクラッチのスリップ制御システム)に記載されたごとき、以下のようなものがある。つまり、エンジンのスロットル開度、車速、自動変速機の作動油温などから求めた目標スリップ回転を入力とし、トルクコンバータの実スリップ回転を出力としたパラメータ同定法により、目標スリップ回転を達成するロックアップクラッチの締結圧指令値(要求締結力)をいきなり求め、当該締結圧指令値に対応した制御信号を出力するというものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、かかる従来のスリップ制御技術では、エンジンの出力トルク変化がスリップ制御に際して考慮されていないため、エンジンの出力トルクがアクセルペダルの戻し操作により低下した時に、トルクコンバータを目標スリップ回転に維持することが困難で、以下のような問題を生ずる懸念が考えられる。つまり図9(b)に示すように、目標スリップ回転ωSLPTを110rpm に維持すべき45km/hでの走行中にスロットル開度TVOを20°から10°に減少させた場合につき述べると、上記スロットル開度の減少によるエンジン出力トルクの低下にもかわらず、これに見合ってロックアップクラッチ締結圧指令値PLUC が低下されずに実ロックアップクラッチ締結圧が高いままにされ、実スリップ回転ωSLPRが目標スリップ回転ωSLPTに対し極端に小さくなり、ロックアップクラッチがほとんど締結状態に至ることがある。この場合、トルクコンバータのスリップ回転が一時的に不足して、ショックやこもり音が発生し、スリップ制御式トルクコンバータの商品価値に少なからず影響を及ぼす。
【0005】請求項1に記載の第1発明は、原動機の出力トルクをも考慮したスリップ制御方式とすることにより、上記の問題解決を実現することを目的とする。
【0006】請求項2に記載の第2発明は、第1発明における原動機出力トルクに応じたロックアップクラッチ締結力基準値を検索のみにより求め得るようにすることを目的とする。
【0007】請求項3に記載の第3発明は、第1発明における原動機出力トルクに応じたロックアップクラッチ締結力基準値を求めるに際してスリップ回転ゲインの概念を導入し、これにより第1発明のスリップ制御を一層正確に行い得るようにすることを目的とする。
【0008】請求項4に記載の第4発明は、第3発明におけるスリップ回転ゲインが変化する場合の影響をなくすようにすることを目的とする。
【0009】請求項5に記載の第5発明は、第1発明〜第4発明のスリップ制御に際して用いる原動機の出力トルクを一層的確に推定し得るようにすることで、当該スリップ制御の精度を高めることを目的とする。
【0010】請求項6に記載の第6発明は、第5発明による原動機出力トルクの推定を、原動機の動的な遅れをも考慮して行うようにすることで、当該スリップ制御の精度を更に高めることを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】これらの目的のため、先ず第1発明によるトルクコンバータのスリップ制御装置は、原動機からの回転を伝達するトルクコンバータに用いられ、該トルクコンバータの入出力要素間におけるスリップ回転をロックアップクラッチの締結により目標スリップ回転に制御するための装置において、前記ロックアップクラッチの締結力を、原動機出力トルクに応じた、前記目標スリップ回転のためのロックアップクラッチ締結力基準値と、前記目標スリップ回転および実スリップ回転間のスリップ回転偏差に応じたスリップ回転偏差用ロックアップクラッチ締結力との和により決定するよう構成したことを特徴とするものである。
【0012】第2発明によるトルクコンバータのスリップ制御装置は、上記第1発明において、トルクコンバータの伝動性能から予め求めておいた原動機出力トルクと、スリップ回転と、ロックアップクラッチ締結力と、トルクコンバータ出力回転との関係をもとに、前記スリップ回転に前記目標スリップ回転を当てはめて検索したロックアップクラッチ締結力を前記ロックアップクラッチ締結力基準値と定めるよう構成したことを特徴とするものである。
【0013】第3発明によるトルクコンバータのスリップ制御装置は、上記第1発明において、トルクコンバータの伝動性能から予め求めておいた、流体伝動により伝達されるコンバータトルクに対するスリップ回転の比であるスリップ回転ゲインと、トルクコンバータの出力回転速度との関係を基に、トルクコンバータの出力回転速度に対応したスリップ回転ゲインを検索し、前記目標スリップ回転を該検索したスリップ回転ゲインで除算することにより、該目標スリップ回転を達成するための目標コンバータトルクを算出し、原動機出力トルクから該目標コンバータトルクを減算して求めた目標ロックアップクラッチ締結容量に対応するロックアップクラッチ締結力を前記ロックアップクラッチ締結力基準値と定めるよう構成したことを特徴とするものである。
【0014】第4発明によるトルクコンバータのスリップ制御装置は、上記第3発明において、前記検索したスリップ回転ゲインをローパスフィルターにより処理し、該フィルター処理後のスリップ回転ゲインを前記目標コンバータトルクの算出に資するよう構成したことを特徴とするものである。
【0015】第5発明によるトルクコンバータのスリップ制御装置は、上記第1発明乃至第4発明のいずれかにおいて、原動機の運転性能から予め求めておいた運転負荷と回転速度と出力トルクとの関係を示すデータを基に、運転負荷および回転速度から前記原動機出力トルクを推定して、前記ロックアップクラッチ締結力基準値の算出に資するよう構成したことを特徴とするものである。
【0016】第6発明によるトルクコンバータのスリップ制御装置は、上記第5発明において、前記推定して求めた原動機の出力トルクを、原動機の動的な遅れに対応したフィルターにより処理し、該フィルター処理後の出力トルクを前記ロックアップクラッチ締結力基準値の算出に資するよう構成したことを特徴とするものである。
【0017】
【発明の効果】第1発明においては、原動機からの回転を伝達するトルクコンバータの入出力要素間におけるスリップ回転をロックアップクラッチの締結により目標スリップ回転に制御するに際し、上記ロックアップクラッチの締結力を、原動機出力トルクに応じた、上記目標スリップ回転のためのロックアップクラッチ締結力基準値と、目標スリップ回転および実スリップ回転間のスリップ回転偏差に応じたスリップ回転偏差用ロックアップクラッチ締結力との和により決定する。
【0018】かかるロックアップクラッチの締結力制御により、トルクコンバータのスリップ回転を上記の目標値に一致させることができるが、上記のよれば、スリップ制御に供するロックアップクラッチ締結力基準値が原動機出力トルクに応じたものであることによって、スリップ制御に原動機出力トルクが考慮されていることとなる。従って、原動機出力トルクがアクセル操作により低下した時、これに追従するロックアップクラッチ締結力基準値の変化でロックアップクラッチの締結力も原動機出力トルク変化に対応して低下することができ、トルクコンバータを目標スリップ回転に維持することが可能となる。これがため、原動機出力トルクがアクセル操作により低下した時も、トルクコンバータのスリップ回転が一時的に不足して、ショックやこもり音が発生するといったことがなくなり、従来装置で生じていた当該問題を回避してスリップ制御式トルクコンバータの商品価値を高めることができる。
【0019】上記ロックアップクラッチ締結力基準値の算出に際しては第2発明におけるように、トルクコンバータの伝動性能から予め求めておいた原動機出力トルクと、スリップ回転と、ロックアップクラッチ締結力と、トルクコンバータ出力回転との関係をもとに、前記スリップ回転に前記目標スリップ回転を当てはめて検索したロックアップクラッチ締結力をロックアップクラッチ締結力基準値と定めることができ、この場合、ロックアップクラッチ締結力基準値を検索のみにより簡単に求めることができる。
【0020】ロックアップクラッチ締結力基準値の算出に際しては第3発明におけるように、トルクコンバータの伝動性能から予め求めておいた、流体伝動により伝達されるコンバータトルクに対するスリップ回転の比であるスリップ回転ゲインと、トルクコンバータの出力回転速度との関係を基に、トルクコンバータの出力回転速度に対応したスリップ回転ゲインを検索し、前記目標スリップ回転を該検索したスリップ回転ゲインで除算することにより、該目標スリップ回転を達成するための目標コンバータトルクを算出し、原動機出力トルクから該目標コンバータトルクを減算して求めた目標ロックアップクラッチ締結容量に対応するロックアップクラッチ締結力を前記ロックアップクラッチ締結力基準値と定めることができ、この場合、ロックアップクラッチ締結力基準値を一層正確に求めることができる。
【0021】第4発明においては、第3発明において検索したスリップ回転ゲインをローパスフィルターにより処理し、当該フィルター処理後のスリップ回転ゲインを上記目標コンバータトルクの算出に資することから、スリップ回転ゲインの検索値が急激に変化したり、高い頻度で変化する時も、これによるスリップ制御への悪影響を回避することができる。
【0022】第5発明においては、第1発明〜第4発明においてロックアップクラッチ締結力基準値の算出時に用いる原動機の出力トルクを求めるに際し、原動機の運転性能から予め求めておいた運転負荷と回転速度と出力トルクとの関係を示すデータを基に、運転負荷および回転速度から当該原動機出力トルクを推定するため、原動機出力トルクを一層的確に推定し得ることとなり、スリップ制御の精度を一層高めることができる。
【0023】第6発明においては、第5発明において推定により求めた原動機の出力トルクを、原動機の動的な遅れに対応したフィルターにより処理し、かかるフィルター処理後の出力トルクをロックアップクラッチ締結力基準値の算出に資することから、原動機出力トルクに応じたロックアップクラッチ締結力基準値が原動機の動的な遅れをも考慮して決定されることとなり、スリップ制御の精度を更に一層高めることができる。
【0024】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本発明の一実施の形態になるスリップ制御装置を具えたトルクコンバータを含む車両の駆動系を示し、1は原動機としてのエンジン、2はトルクコンバータ、3は自動変速機の歯車変速機構、4はディファレンシャルギヤ装置、5は車輪で、これらを順次図示のように結合して車両の駆動系を構成する。
【0025】トルクコンバータ2は、エンジン1で駆動される入力要素としてのポンプインペラ2aと、歯車変速機構3の入力軸に結合された出力要素としてのタービンランナ2bと、これらポンプインペラ2aおよびタービンランナ2b間を直結するロックアップクラッチ2cとを具えた、所謂ロックアップ式トルクコンバータとする。ロックアップクラッチ2cの締結力は、その前後におけるアプライ圧PA とレリーズ圧PR の差圧(ロックアップクラッチ締結圧)により決まり、アプライ圧PA がレリーズ圧PR よりも低ければ、ロックアップクラッチ2cは釈放されてポンプインペラ2aおよびタービンランナ2b間を直結せず、トルクコンバータ2をスリップ制限しないコンバータ状態で機能させる。アプライ圧PA がレリーズ圧PR よりも高い場合、その差圧に応じた力でロックアップクラッチ2cを締結させ、トルクコンバータ2をロックアップクラッチ2cの締結力に応じてスリップ制限するスリップ制御状態で機能させる。そして当該差圧が設定値よりも大きくなると、ポンプインペラ2aおよびタービンランナ2b間の相対回転がなくなり、トルクコンバータ2をロックアップ状態で機能させる。
【0026】これがため、トルクコンバータ2はスリップ制御状態で、ポンプインペラ2aおよびタービンランナ2b間の相対回転(スリップ回転)に起因した流体伝動によるコンバータトルクtCNV と、ロックアップクラッチ2cによる機械的伝動に起因したトルク(ロックアップクラッチ締結容量tLU)との和値に相当するトルクを伝達することとなり、この和値に相当するトルクがエンジン出力トルクtEHに等しい。従って、上記のコンバータトルクtCNV と、ロックアップクラッチ締結容量tLUと、エンジン出力トルクtEHとの関係から、エンジン出力トルクtEHよりコンバータトルクtCNV を減算すれば、ロックアップクラッチ締結容量tLUを求め得ることとなる。
【0027】本実施の形態においては、本発明が狙った所定のスリップ制御を行うべくアプライ圧PA およびレリーズ圧PR を決定するためのスリップ制御系を以下の構成とする。スリップ制御弁11は、コントローラ12によりデューティ制御されるロックアップソレノイド13からの信号圧PS に応じてアプライ圧PA およびレリーズ圧PR を決定するもので、これらスリップ制御弁11およびロックアップソレノイド13を図2に明示する周知のものとする。
【0028】即ち、ロックアップソレノイド13はパイロット圧Pp を元圧として、コントローラ12からのソレノイド駆動デューティDの増大につれ信号圧PS を高くするものとする。一方でスリップ制御弁11は、上記の信号圧PS およびフィードバックされたレリーズ圧PR を一方向に受けると共に、他方向にバネ11aのバネ力およびフィードバックされたアプライ圧PA を受け、信号圧PS の上昇につれて、アプライ圧PA とレリーズ圧PR との間の差圧(PA −PR )で表されるロックアップクラッチ2cの締結圧を図3に示すように変化させるものとする。ここでロックアップクラッチ締結圧(PA −PR )の負値はPR >PA によりトルクコンバータ2をコンバータ状態にすることを意味し、逆にロックアップクラッチ締結圧(PA −PR )が正である時は、その値が大きくなるにつれてロックアップクラッチ2cの締結容量が増大され、トルクコンバータ2のスリップ回転を大きく制限し、遂にはロックアップ状態にすることを意味する。
【0029】コントローラ12にはスリップ制御のために図1および図2に示すごとく、エンジン1のスロットル開度TVOを検出するスロットル開度センサ21からの信号と、ポンプインペラ2aの回転速度ωI を検出する(検出値をωIRとする)インペラ回転センサ22からの信号と、タービンランナ2bの回転速度ωT を検出する(検出値をωTRとする)タービン回転センサ23からの信号と、自動変速機の作動油温TATF を検出する油温センサ24からの信号と、車速VSPを検出する車速センサ25からの信号と、変速比iP を算出する変速比計算部26から計算結果と、エンジン回転数Ne を検出するエンジン回転センサ27からの信号を入力する。
【0030】コントローラ12はこれら入力情報をもとに、図4に示す機能ブロック線図に沿った演算により、ロックアップソレノイド13の駆動デューティDを決定して以下に詳述する所定のスリップ制御を行う。図4における目標スリップ回転算出部31は、車速VSPと、スロットル開度TVOと、変速比iP と、作動油温TATF に基づき周知のごとく、トルク変動やこもり音が発生しない範囲内で最も少ないところに目標スリップ回転ωSLPTを定めて決定する。
【0031】実スリップ回転算出部32は、ポンプインペラ2aの回転速度検出値をωIRからタービンランナ2bの回転速度検出値をωTRを減算する以下の演算によりトルクコンバータ2の実スリップ回転ωSLPRを算出する。
ωSLPR=ωIR−ωTR・・・(1)
【0032】スリップ回転偏差算出部33は、瞬時(t)ごとに目標スリップ回転ωSLPTと実スリップ回転ωSLPRとの間のスリップ回転偏差ωSLPER を、 ωSLPER (t)=ωSLPT(t)−ωSLPR(t)・・・(2)
により算出する。
【0033】スリップ回転偏差用ロックアップクラッチ締結圧算出部34では、スリップ回転偏差ωSLPER を基に例えば周知の比例(P)・積分(I)制御により、スリップ回転偏差ωSLPER をなくして実スリップ回転ωSLPRを目標スリップ回転ωSLPTに一致させるのに必要なロックアップクラッチ締結圧変化分であるスリップ回転偏差用ロックアップクラッチ締結圧PLUCDを以下により算出する。
LUCD(t)=KP ・ωSLPER (t)+(KI /S)・ωSLPER (t)
・・・(3)
但し、KP :比例制御定数KI :積分制御定数S :微分演算子【0034】エンジン出力トルク推定部35では、先ず図5に例示したエンジン全性能線図を用いてエンジン回転数Ne およびスロットル開度TVOから、エンジン出力トルクの定常値tESを検索し、次いでこれを、時定数TEDがエンジンの動的な遅れに対応した値のフィルターに通してフィルター処理し、当該フィルター処理後の一層実際値に近いエンジン出力トルクtEHEH(t)=〔1/(TED・S+1)〕tES(t)・・・(4)
を推定して求める。
【0035】ロックアップクラッチ締結圧基準値算出部36は、当該エンジン出力トルクtEHと、タービンランナ回転速度ωTRと、目標スリップ回転ωSLPTとに基づき以下の処理により、現在のエンジン出力トルクtEHおよびタービンランナ回転速度ωTRのもとで目標スリップ回転ωSLPTを達成するためのロックアップクラッチ締結圧基準値PLUCSを算出する。つまり図6に例示するように、トルクコンバータの伝動性能から予め実験などにより、エンジン出力トルクtEHごとに、タービンランナ回転速度ωTRをパラメータとした、スリップ回転ωSLP とロックアップクラッチ締結圧PLUとの関係を示すデータを求めておき、同じく図6において、エンジン出力トルクtEHが最大の場合のマップに例示したが、スリップ回転ωSLP に目標スリップ回転ωSLPTを当てはめて検索したロックアップクラッチ締結圧をロックアップクラッチ締結圧基準値PLUCS定める。かようにして定めたロックアップクラッチ締結圧基準値PLUCSがまさしく、現在のエンジン出力トルクtEHおよびタービンランナ回転速度ωTRのもとで目標スリップ回転ωSLPTを達成するためのロックアップクラッチ締結圧を表すが、かかるロックアップクラッチ締結圧基準値PLUCSの決定要領によれば、これをマップ検索のみにより簡単に求めることができる。
【0036】なお、ロックアップクラッチ締結圧基準値PLUCSの決定に際しては、これを上記の代えて以下の方法により求めることもできる。前記したようにコンバータトルクtCNV とロックアップクラッチ締結容量tLUとの和がエンジン出力トルクtEHになり、従って、エンジン出力トルクtEHからコンバータトルクtCNV を差し引いてロックアップクラッチ締結容量tLUを求め得るが、本発明者等は更に、上記のコンバータトルクtCNV がトルクコンバータの伝動性能からトルクコンバータごとに、スリップ回転ωSLP と、タービン回転速度ωT との関係として予め求めておくことができるとの研究成果に基づき、以下のようにしてロックアップクラッチ締結圧基準値PLUCSを定めるようにした技術をもここに提案するものである。
【0037】つまり、トルクコンバータの伝動性能から予め求め得る、コンバータトルクtCNV と、スリップ回転ωSLP と、タービン回転速度ωT との関係を説明するに、図7に例示するごとくコンバータトルクtCNV に対するスリップ回転ωSLP の比をスリップ回転ゲインgSLPSLP =ωSLP /tCNV ・・・(5)
と定義すると、このスリップ回転ゲインgSLP は同図に示すようにタービン回転速度ωT に応じて変化することを確かめた。
【0038】そこで、図4のロックアップクラッチ締結圧基準値算出部36では先ず、図7に対応したマップを基にタービン回転速度検出値ωTRからスリップ回転ゲインgSLPCを検索して求める。この際、好ましくはスリップ回転ゲインgSLPCの高い頻度や急激な変化を抑制するために、これを、一時遅れ時定数がTSLP のローパスフィルターに通し、当該フィルター処理した後の値gSLPF(t)
SLPF(t)=〔1/(TSLP ・S+1)〕gSLPC(t)・・・(6)
を用いるのが、スリップ回転ゲインの急激な変化や、高頻度の変化によるスリップ制御への悪影響をなくして制御を安定に行わせる意味において良い。
【0039】図4のロックアップクラッチ締結圧基準値算出部36では更に、上記(5)式におけるgSLP にgSLPFを当てはめ、ωSLP に上記算出部31からの目標スリップ回転ωSLPTを当てはめることにより、タービン回転速度ωTRのもとで目標スリップ回転ωSLPTを達成するための目標とすべきコンバータトルクtCNVCをtCNVC(t)=ωSLPT(t)/gSLPF・・・(7)
により算出する。次いで、エンジン出力トルクtEHから当該目標コンバータトルクtCNVCを減算して目標ロックアップクラッチ締結容量tLUC を求める。
LUC (t)=tEH(t)−tCNVC(t)・・・(8)
【0040】そして、上記の目標ロックアップクラッチ締結容量tLUC を達成するための、つまり、現在のエンジン出力トルクtEHおよびタービン回転速度ωTRのもとで目標スリップ回転ωSLPTを達成するためのロックアップクラッチ締結圧基準値PLUCSを、図8に対応するマップから同図に例示するように検索する。ここで図8は、トルクコンバータごとにロックアップクラッチの締結圧PLUと、ロックアップクラッチ締結容量tLUとの関係を予め実験により求めておき、目標ロックアップクラッチ締結容量tLUC に対応するロックアップクラッチ締結圧の検索値をロックアップクラッチ締結圧基準値PLUCSとすることにより目的を達することができる。
【0041】かように、スリップ回転ゲインの概念を用いてロックアップクラッチ締結圧基準値PLUCSを求める場合、当該ロックアップクラッチ締結圧基準値PLUCSを一層実情にマッチした正確なものとなる。
【0042】ロックアップクラッチ締結圧指令値算出部37では、上記いずれか一方の方法で求めたロックアップクラッチ締結圧基準値PLUCSと、前記のスリップ回転偏差用ロックアップクラッチ締結圧PLUCDとの和値をもってロックアップクラッチ締結圧指令値PLUC とし、ソレノイド駆動信号算出部38では、実際のロックアップクラッチ締結圧を上記のロックアップクラッチ締結圧指令値PLUC にするためのロックアップソレノイド駆動デューティDを決定し、これを図1および図2のロックアップソレノイド13に出力する。
【0043】以上のロックアップソレノイド13のデューティ制御によれば、トルクコンバータのスリップ回転ωSLP を目標スリップ回転ωSLPTに制御することができるが、そのためのロックアップクラッチ締結圧指令値PLUC をロックアップクラッチ締結圧基準値PLUCSと、スリップ回転偏差用ロックアップクラッチ締結圧PLUCDとの和により定めることから、そして、ロックアップクラッチ締結圧基準値PLUCSがエンジン出力トルクtEHに応じたものであることによって、スリップ制御にエンジン出力トルクtEHが考慮されていることとなり、以下の作用効果が奏し得られる。
【0044】つまり図9(a)に示すごとく、目標スリップ回転ωSLPTを110rpm に維持すべき45km/hでの走行中にスロットル開度TVOを20°から10°に減少させた場合につき述べると、同じ条件で従来装置を作動させた時の図9(b)に示す動作タイムチャートとの比較から明らかなように、上記スロットル開度の減少によるエンジン出力トルクの低下に呼応して、ロックアップクラッチ締結圧指令値PLUC が確実に低下され、実ロックアップクラッチ締結圧を所定通りに低下させることができる。これがため、従来装置において生じていたような現象、つまり、アクセルペダル操作によるエンジン出力トルクの低下時も、実スリップ回転ωSLPRが目標スリップ回転ωSLPTに対し極端に小さくなるようなことがなくなり、当該エンジン出力トルクの低下時に実スロックアップクラッチが一時的にほとんど締結状態になってショックやこもり音が発生するという問題を解消することができる。
【0045】なお、算出部36でロックアップクラッチ締結圧基準値PLUCSを求めるに際し、当該算出部36につき前述したごとくスリップ回転ゲインを用いる場合、図7に対応するマップから検索したスリップ回転ゲインgSLP をそのまま使用せず、ローパスフィルターにより処理した後のスリップ回転ゲインgSLPFを用いるようにしたことから、スリップ回転ゲインの検索値が急激に変化したり、高い頻度で変化する時も、これによるスリップ制御への悪影響を回避することができる。
【0046】そしてエンジン出力トルク推定部35につき前述したように、エンジンの出力トルクを求めるに際し、エンジンの全運転性能から予め求めておいた図5に例示するごときスロットル開度TVO(エンジン負荷)とエンジン回転数Ne と出力トルクtESとの関係を示すデータを基に、スロットル開度TVOおよびエンジン回転数Ne からエンジン出力トルクtESを推定するため、エンジン出力トルクtESを一層正確に推定し得ることとなり、上記の作用効果を確実に達成させることができる。
【0047】なお、推定したエンジン出力トルクtESは定常値であることからこれをそのまま使用せず、エンジン出力トルク推定部35につき前述したように、この推定したエンジン出力トルクtESを、エンジンの動的な遅れに対応したフィルターにより処理し、かかるフィルター処理後の出力トルクtEHを使用することから、エンジン出力トルクの推定がエンジンの動的な遅れをも考慮してなされることとなり、上記の作用効果を更に確実に達成させることができる。
【出願人】 【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
【出願日】 平成9年(1997)9月19日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 暁秀 (外8名)
【公開番号】 特開平11−94067
【公開日】 平成11年(1999)4月9日
【出願番号】 特願平9−254989