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【発明の名称】 トロイダル型無段変速機の油圧制御装置
【発明者】 【氏名】久村 春芳

【要約】 【課題】油圧系の損傷等により急変速が発生した場合の変速ショックを抑制しながら車両の走行を可能にする。

【解決手段】入出力ディスク28、29に狭持されて傾転自在にパワーローラ30、31を支持するトラニオンと、トラニオンを軸方向へ駆動する油圧シリンダと、車両の運転状態に応じて決定した目標変速比となるように油圧シリンダへの油圧をライン圧に基づいて制御するステップモータ152及び変速制御弁と、変速制御弁へのライン圧を制御するライン圧ソレノイド弁528とを備え、実際の変速速度が所定値を超えたときに、ライン圧の設定値を低下させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 入出力ディスクに狭持されて傾転自在にパワーローラを支持するトラニオンと、前記トラニオンを軸方向へ駆動する油圧シリンダと、車両の運転状態に応じて決定した目標変速比となるように前記油圧シリンダへの油圧をライン圧に基づいて制御する変速制御手段と、前記変速制御手段へ所定のライン圧を供給するライン圧制御手段とを備えたトロイダル型無段変速機の油圧制御装置において、実際の変速速度を検出する実変速速度検出手段と、検出した実変速速度が所定値を超えたときに、前記ライン圧制御手段の設定値を低下させるライン圧低下手段とを備えたことを特徴とするトロイダル型無段変速機の油圧制御装置。
【請求項2】 入出力ディスクに狭持されて傾転自在にパワーローラを支持するトラニオンと、前記トラニオンを軸方向へ駆動する油圧シリンダと、車両の運転状態に応じて決定した目標変速比となるように前記油圧シリンダへの油圧を制御する変速制御手段とを備えたトロイダル型無段変速機の油圧制御装置において、実際の変速速度を検出する実変速速度検出手段と、検出した実変速速度が所定値を超えたときに、前記油圧シリンダを構成するピストンの前後差圧を低減または解消する前後差圧低下手段とを備えたことを特徴とするトロイダル型無段変速機の油圧制御装置。
【請求項3】 前記油圧シリンダは、ピストンで画成された増速側油室と減速側油室を備え、前記前後差圧低下手段は増速側油室を減速側油室へ、または減速側油室を増速側油室へ連通させることで前後差圧を低下させることを特徴とする請求項2に記載のトロイダル型無段変速機の油圧制御装置。
【請求項4】 前記油圧シリンダは、ピストンで画成された増速側油室と減速側油室を備え、前記前後差圧低下手段は増速側油室及び減速側油室にライン圧をそれぞれ供給することで前後差圧を低下させることを特徴とする請求項2に記載のトロイダル型無段変速機の油圧制御装置。
【請求項5】 前記油圧シリンダは、ピストンで画成された増速側油室と減速側油室を備え、前記前後差圧低下手段は増速側油室及び減速側油室をそれぞれタンクに接続することで前後差圧を低下させることを特徴とする請求項2に記載のトロイダル型無段変速機の油圧制御装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両などに採用されるトロイダル型無段変速機の油圧制御装置の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】車両に用いられるトロイダル型無段変速機の油圧制御装置としては、例えば、特開平8−233083号公報に開示されるものが知られている。
【0003】トロイダル型無段変速機では、トラニオンを支持する油圧サーボシリンダに加える油圧によって変速制御及びトルクの伝達を行っており、油圧配管系が損傷を受けた場合などで、正常な油圧が得られなくなると変速制御が不能になってしまう。
【0004】そこで、油圧系の損傷等により正常な油圧が得られず、目標変速比が維持できなくなると、強制的に変速モードを切り換えて変速比を最Lo変速比(=最大減速比)に設定して走行を可能にするものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来例では、油圧回路の制御弁の固着や制御プログラムの誤動作などによっても、目標変速比が維持できないと判断されて、変速比が強制的に最Loに設定されてしまうため、通常走行中に急変速が発生して大きな変速ショックが生じる可能性があった。
【0006】そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、油圧系の損傷や制御手段の誤動作等により急変速が発生した場合の変速ショックを抑制しながら、車両の走行を可能にする。
【0007】
【課題を解決するための手段】第1の発明は、入出力ディスクに狭持されて傾転自在にパワーローラを支持するトラニオンと、前記トラニオンを軸方向へ駆動する油圧シリンダと、車両の運転状態に応じて決定した目標変速比となるように前記油圧シリンダへの油圧をライン圧に基づいて制御する変速制御手段と、前記変速制御手段へ所定のライン圧を供給するライン圧制御手段とを備えたトロイダル型無段変速機の油圧制御装置において、実際の変速速度を検出する実変速速度検出手段と、検出した実変速速度が所定値を超えたときに、前記ライン圧制御手段の設定値を低下させるライン圧低下手段とを備える。
【0008】また、第2の発明は、入出力ディスクに狭持されて傾転自在にパワーローラを支持するトラニオンと、前記トラニオンを軸方向へ駆動する油圧シリンダと、車両の運転状態に応じて決定した目標変速比となるように前記油圧シリンダへの油圧を制御する変速制御手段とを備えたトロイダル型無段変速機の油圧制御装置において、実際の変速速度を検出する実変速速度検出手段と、検出した実変速速度が所定値を超えたときに、前記油圧シリンダを構成するピストンの前後差圧を低減または解消する前後差圧低下手段とを備える。
【0009】また、第3の発明は、前記第2の発明において、前記油圧シリンダは、ピストンで画成された増速側油室と減速側油室を備え、前記前後差圧低下手段は増速側油室を減速側油室へ、または減速側油室を増速側油室へ連通させることで前後差圧を低下させる。
【0010】また、第4の発明は、前記第2の発明において、前記油圧シリンダは、ピストンで画成された増速側油室と減速側油室を備え、前記前後差圧低下手段は増速側油室及び減速側油室にライン圧をそれぞれ供給することで前後差圧を低下させる。
【0011】また、第5の発明は、前記第2の発明において、前記油圧シリンダは、ピストンで画成された増速側油室と減速側油室を備え、前記前後差圧低下手段は増速側油室及び減速側油室をそれぞれタンクに接続することで前後差圧を低下させる。
【0012】
【発明の効果】したがって、第1の発明は、油圧系の損傷や制御手段の誤動作等により正常な油圧が得られず、目標変速比が維持できなくなって実変速速度が所定値を超える急変速を検知すると、ライン圧制御手段の設定値を低下させることで、変速制御手段を介して油圧シリンダへ供給される油圧の最大値が規制されることになり、トロイダル型無段変速機の変速は、トラニオンの軸方向変位に基づいて行われ、また、トロイダル型無段変速機のトルク伝達容量は、パワーローラのトラクション力に対抗する油圧力、すなわち、油圧シリンダのピストンの前後差圧で決定されるため、ライン圧を低下させることで無段変速機のトルク伝達容量も減少することになる。例えば、Lo側に急変速(ダウンシフト)する際では、無段変速機のトルク伝達容量が十分大きい場合、Lo側への変速速度と、入力系の慣性モーメントの大きさに応じて、変速ショック(減速ショック)の大きさが決まるが、急変速時のライン圧を低下させることで、発生する変速ショックを低減することができ、さらに、油圧系や制御手段に変速が不能となる異常が発生した場合であっても、低下したライン圧にい基づいて必要最低限のトルクを伝達することで車両の走行を可能にして、トロイダル型無段変速機を備えた車両のフェイルセーフを確保することができるので。
【0013】また、第2の発明は、実変速速度が所定値を超える急変速時には、油圧シリンダの前後差圧が小さくなるか、または差圧がなくなることになり、パワーローラのトラクション力に対抗する油圧力が減少または0になるため、無段変速機のトルク伝達容量が急減するとともに、油圧シリンダの前後差圧が非常に小さくなる、若しくは差圧がなくなることで急激な変速を行うことはできず、油圧系や制御手段に異常が発生した急変速時に変速ショックが発生するのを抑制することが可能となる。
【0014】また、第3の発明は、ピストンに画成された増速側油室と減速側油室のうちの一方を他方へ連通させることで油圧シリンダのピストンに加わる前後差圧を低下させ、無段変速機のトルク伝達容量が急減することで、急変速を抑制するとともに、油圧系や制御手段に異常が発生した急変速時に変速ショックが発生するのを抑制することが可能となる。
【0015】また、第4の発明は、ピストンに画成された増速側油室と減速側油室へライン圧をそれぞれ供給することで油圧シリンダのピストンに加わる前後差圧を低下させ、無段変速機のトルク伝達容量が急減することで、急変速を抑制するとともに、油圧系や制御手段に異常が発生した急変速時に変速ショックが発生するのを抑制することが可能となる。
【0016】また、第5の発明は、ピストンに画成された増速側油室と減速側油室をそれぞれタンクに接続することで油圧シリンダのピストンに加わる前後差圧を低下させ、無段変速機のトルク伝達容量が急減することで、急変速を抑制するとともに、油圧系や制御手段に異常が発生した急変速時に変速ショックが発生するのを抑制することが可能となる。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】図1〜図3は、ダブルキャビティのトロイダル型無段変速機10に、本発明を適用した一例を示し、図1は無段変速機の概略構成図を、図2、図3は油圧制御部の回路図を示す。
【0019】無段変速機10は、入力軸20側をロックアップ機構L/Uを備えたトルクコンバータ12を介してエンジン11に連結される一方、出力軸21側を図示しない駆動輪に連結しており、トロイダル型の無段変速機10の変速機構は前記従来例等と同様に構成され、変速制御コントローラ1の指令に応じてステップモータ152が変速制御弁150を駆動することで変速が行われ、変速機構に供給するライン圧PLは、変速制御コントローラ1の指令に応動するライン圧ソレノイド弁528によって制御される。
【0020】変速制御コントローラ1は、マイクロコンピュータを主体に構成されており、スロットル開度センサ4が検出したスロットル開度TVO、無段変速機10の出力軸21の回転数を検出する出力軸回転センサ3からの出力軸回転数No及び入力軸回転センサ2が検出した無段変速機10の入力軸20の回転数Ntに基づいて車両の運転状態に応じた目標変速比を演算するとともに、無段変速機10の実際の変速比がこの目標変速比と一致するような制御量STP(ステップ数)をステップモータ152へ指令するとともに、車速VSPや入力軸回転数Nt等の運転状態に基づいて、後述する油圧制御部のライン圧PLを決定して、ライン圧ソレノイド弁528をデューティ制御などにより駆動し、運転状態に応じたライン圧PLとなるよう制御する。なお、本実施形態では出力軸回転数Noに所定の定数を乗じたものを車速VSPとして用いるものである。
【0021】次に、図2、図3の油圧制御部について説明する。
【0022】エンジン11に駆動される油圧ポンプ15の吐出圧は、ライン圧回路534に配設されたプレッシャレギュレータバルブ2(ライン圧制御手段)によって所定のライン圧PLに調圧され、変速制御弁150、前後進切換弁524を介してトロイダル型無段変速機10の変速機構の駆動を行う。このライン圧回路534のライン圧PLはリリーフ弁512によって所定の上限値を超えないように設定される。
【0023】プレッシャレギュレータバルブ2は、変速制御コントローラ1によってデューティ比制御されるライン圧ソレノイド弁528からの信号圧PLsolに応じてライン圧回路534のライン圧PLの調圧を行っており、プレッシャレギュレータバルブ2は、信号圧PLsolに応じてライン圧回路534をトルコン圧回路535へドレーンすることで、ライン圧PLの調圧を行う。
【0024】ライン圧ソレノイド弁528のデューティ比に応じた信号圧PLsolは、油路601を介してアキュームコントロール弁514へ入力され、アキュームコントロール弁514が信号圧PLsolに応じて油路542の油圧を調整することで、プレッシャレギュレータ502を制御してライン圧PLを所定の値に設定している。
【0025】トルコン圧回路535へ供給された圧油は、供給される油圧がトルクコンバータ12の耐圧上限値を超えないように制御するリリーフ弁512を介してロックアップコントロールバルブ508に供給される。そして、ロックアップコントロールバルブ508の下流には、クーラ530を介して変速機構の潤滑油路38が形成される。なお、ロックアップコントロールバルブ508は、変速制御コントローラ1にデューティ制御されるロックアップソレノイド弁526からの信号圧に基づいて制御され、トルクコンバータ12のロックアップクラッチを締結または解放する。
【0026】一方、ライン圧回路534は前進用の変速制御弁150と後進用変速制御弁522へそれぞれ供給され、前後進切換弁524が選択した車両の進行方向に応じて、変速制御弁150または後進用変速制御弁522からの圧油を変速機構のHi側油路40とLo側油路41へ供給する。
【0027】ここで、トロイダル型無段変速機10の変速機構は、図1、図3に示すように、ハーフトロイダル型の第1トロイダル変速部22と第2トロイダル変速部24から構成されて2組の入出力ディスク28、32及び29、33を備えた例を示し、第1トロイダル変速部22の入力ディスク28と出力ディスク29との間に挟持される一対のパワーローラ30、31は、基端に設けた油圧サーボシリンダによって相互に反対方向へ駆動されるとともに軸回りに回動可能なトラニオン83、85に支持される。
【0028】トラニオン83、85を駆動する油圧サーボシリンダ87、89は図中ピストンの左右に画成されたHi側油室516(増速側油室)とLo側油室518(減速側油室)を備え、これら油室の差圧に応じてトラニオン83、85を軸方向へ変位させ、この軸方向変位に応じてパワーローラ30、31の傾斜角(傾転角)を変更することで変速比を連続的に変更する。
【0029】このため、油圧サーボシリンダ87、89は、Hi側油路40と連通したHi側油室516とLo側油路41と連通したLo側油室518の配置を逆転させており、変速比がHi側となる方向へトラニオン83、85を駆動するHi側油室516は、トラニオン83の油圧サーボシリンダ87では、図中ピストンの右側に配置されるのに対し、対向するトラニオン85の油圧サーボシリンダ89では、図中ピストンの左側に配置される。
【0030】変速時には、Hi側油路40とLo側油路41の油圧を相対的に変化させることで、油圧サーボシリンダ87、89のピストンの前後差圧(以下、差圧とする)、すなわちHi側油室516とLo側油室518の差圧を変化させることでトラニオン83、85は相互に反対の軸方向へ同期的に変位し、トラニオン83、85の軸方向変位に応じてパワーローラ30、31は傾転(トラニオンの軸回りの回動)することで、変速比を連続的に変更することができる。そして、所定の変速比に達した後には、Hi側油室516とLo側油室518の前後差圧に応じてピストンに加わる力が、トラニオン83、85に加わるパワーローラ30、31のトルク反力(トラクション力)を支持する。
【0031】したがって、パワーローラ30、31のトルク伝達容量は、トラニオン83、83を支持する油圧サーボシリンダ87、89の差圧に基づいて決定される。なお、第2トロイダル変速部24も同様に構成される。
【0032】このようなトロイダル型無段変速機10では、ステップモータ152と変速制御弁150及びプリセスカム136によって、油圧サーボをかけながら変速比の制御を行っており、変速制御弁150にはラックアンドピニオン152a、154cを介してステップモータ152と連結したスリーブ156と、スリーブ156の内周で相対変位可能なスプール158から構成され、スプール158は、第1または第2トロイダル変速部22、24のトラニオン83、85のうちのいずれか一つに設けたプリセスカム136と、このプリセスカム136に追従するフィードバックリンク142に駆動される。
【0033】例えば、前進状態のときには、前後進切換弁524が、変速制御弁152のHi側油路166と変速機構のHi側油路40を連通する一方、変速制御弁152のLo側油路168と変速機構のLo側油路41を連通しており、このとき、目標変速比がHi側の場合、ステップモータ152はスリーブ156を図3の下方へ駆動して、ライン圧回路534の圧油をHi側油路166、40へ供給する一方、Lo側油路168をタンクに接続して、トラニオン83を図中左側へ駆動する一方、対向するトラニオン85を図中右側へ変位させる。
【0034】そして、目標変速比が実変速比に一致するとプリセスカム136の回動に応じて揺動したフィードバックリンク142がスプール158を下方へ駆動して、Hi側油路166、Lo側油路168を封止することで、目標変速比を維持する。
【0035】このとき、油圧サーボシリンダ87、89のHi側油室516とLo側油室518の差圧によって、パワーローラ30、31及び36、37が伝達可能なトルクの容量が決定される。
【0036】次に、変速制御コントローラ1で行われる通常の変速制御は、スロットル開度TVO(または、アクセルペダルの踏み込み量)と車速VSPに応じて予め設定したマップに基づいて目標変速比を演算しており、上記したような油圧サーボに加えて、特開平8−270772号公報等と同様のPI制御によりフィードバック制御が行われている。
【0037】一方、前記従来例でも述べたように、油圧配管系の損傷等により正常な油圧が得られず、目標変速比が維持できなくった場合に急変速が発生するのを抑制するため、変速制御コントローラ1では、図4に示すような制御が行われる。
【0038】図4に示すフローチャートは、所定時間毎、例えば、10msec毎に実行されるものである。
【0039】まず、ステップS1では、入力軸回転数Ntと出力軸回転数Noを読み込むとともに、前回制御時の実変速比RRTOoldを読み込んで、ステップS2では、入力軸回転数Ntと出力軸回転数Noの比から、現在の実変速比RRTOを算出する。
【0040】そして、ステップS3では、現在の実変速比RRTOと前回の実変速比RRTOold差を、制御周期dt(この場合ではdt=10msec)で除した値を実変速速度φとして演算する。
【0041】ステップS4では、この実変速速度φの絶対値が所定値を超えているかを判定し、所定値を超えている場合には急変速が発生したと判定してステップS5へ進む一方、そうでない場合にはステップS7へ進む。
【0042】ステップS5では、急変速を抑制するためにライン圧回路534のライン圧PLを予め設定した最小値PLminに設定するとともに、ステップS6で、ライン圧回路534のライン圧がPLがこの最小値PLminとなるように、ライン圧ソレノイド弁528を駆動した後、ステップS7で、現在の実変速比RRTOを前回値RRTOoldへ代入して処理を終了する。
【0043】上記制御を行うことにより、油圧配管系の損傷等により正常な油圧が得られず、目標変速比が維持できなくなって実際の変速比がLo側またはHi側へ急速に変化を開始したのを検知すると、ライン圧回路534のライン圧PLは、図5に示すように、制御を開始した時間t1以降で、通常走行時のライン圧設定値PL0から所定の最小値PLminまで減圧することになる。
【0044】トロイダル型無段変速機の変速は、上記したように、トラニオン83、85の軸方向変位に基づいて開始されるため、油圧系の異常や制御プログラムの誤動作などによって急変速が開始された場合も、上記通常変速時と同様に変速機構のHi側油路40及びLo側油路41が、変速制御弁150を介してライン圧回路534及びタンクと連通することで変速することになる。
【0045】このとき、ライン圧回路534のライン圧PLを所定の最小値PLminへ低下させることにより、油圧サーボシリンダ87、89のピストンに加えることのできる油圧の最大値は制限され、上記したように、トロイダル型無段変速機10のトルク伝達容量は、パワーローラ30、31のトラクション力に対抗するピストンの差圧で決定されるため、ライン圧PLが最小値PLminに低下させることで、無段変速機10のトルク伝達容量も減少することになる。
【0046】例えば、Lo側に急変速(ダウンシフト)する際では、無段変速機10のトルク伝達容量が十分大きい場合、Lo側への変速速度−φと、入力系の慣性モーメントの大きさに応じて、変速ショック(減速ショック)の大きさが決まる。
【0047】そこで、急変速時の最小ライン圧PLminを、走行可能な最小のトルク伝達容量となるように設定しておけば、発生する変速ショックを低減することができ、さらに、油圧系や変速制御コントローラ1に変速不能となる異常が発生した場合であっても、必要最低限のトルクを伝達することで走行を可能にして、トロイダル型無段変速機10を備えた車両のフェイルセーフを確保することができるのである。
【0048】図6〜図10は第2の実施形態を示し、前記第1実施形態の変速機構を駆動するHi側油路40とLo側油路41に油路切換弁6を介装するとともに、この油路切換弁6を駆動する油路切換ソレノイド弁5を設けて、上記図4と同様の制御を行うもので、この場合では、ライン圧PLの設定値を変更するのに代わって(ステップS5、6)、急変速を検知したときには油路切換ソレノイド弁5を駆動するものである。
【0049】図6において、変速制御コントローラ1は、上記図4のフローチャートと同様に、急変速を検知すると油路切換ソレノイド弁5をONにして油路切換弁6を駆動するものである。
【0050】油路切換弁6は、図8、図9に示すように、前後進切換弁524と変速機構側である油圧サーボシリンダ87、89の間のHi側油路40に介装されるもので、スプリング62に付勢されたスプール61の他端に形成された信号圧ポート6pに加わる油圧に応じて、出力ポート6cに接続するポートを入力ポート6aまたは6bへ切り換えるものである。
【0051】油路切換弁6の入力ポート6aにはHi側油路40の上流側(前後進切換弁524側)が接続される一方、出力ポート6cにはHi側油路40の下流側(油圧サーボシリンダ87、89側)が接続され、入力ポート6bにはLo側油路41の油圧が供給される。
【0052】一方、油路切換弁6を駆動する油路切換ソレノイド弁5は、図7、図8のように、ライン圧ソレノイド528の油路601から分岐した油路601’に介装され、上流側(ライン圧ソレノイド528側)には絞り7が設けられる。
【0053】通常走行時には油路切換ソレノイド弁5がOFFとなって、油路切換弁6の信号圧ポート6pに所定のパイロット圧が加わるが、スプリング62はこのパイロット圧に抗してスプール61を付勢し、図9に示すように、入力ポート6aと出力ポート6cを連通する一方、入力ポート6bを遮断する。したがって、Hi側油路40の圧油は、油路切換弁6を介して前記第1実施形態と同様に油圧サーボシリンダ87、89に加えられ、通常の変速制御が行われる。
【0054】一方、変速制御コントローラ1によって急変速が検知されて油路切換ソレノイド弁5がONになると、油路切換弁6の信号圧ポート6pに加わるパイロット圧が増大するため、スプール61はスプリング62に抗して付勢され、図10に示すように、スプール61が図中右側へ変位して入力ポート6bと出力ポート6cを連通する一方、入力ポート6aを遮断する。したがって、Hi側油路40の下流の油圧は、Lo側油路41の油圧Plowと等しくなる。
【0055】すなわち、急変速時には、油圧サーボシリンダ87、89のHi側油室516とLo側油室518の差圧が小さくなるか、または差圧がなくなることになり、パワーローラ30、31のトラクション力を支持する力が減少または0になるため、無段変速機10のトルク伝達容量が急減するとともに、油圧サーボシリンダ87、89の差圧が非常に小さくなる、若しくは差圧がなくなることで急激な変速を行うことはできず、油圧系や変速制御コントローラ1に異常が発生した急変速時に変速ショックが発生するのを抑制することが可能となる。
【0056】ここで、油圧サーボシリンダ87、89の差圧が小さくなる、あるいは0になることでパワーローラ30、31はトルクの伝達を行うことができなくなって急変速の方向へパワーローラ30、31の傾転が継続するが、トラニオン83、85にはパワーローラ30、31の過大な傾転を防止するための図示しないストッパが形成されているため、パワーローラ30、31の傾転角、すなわち変速比は、このストッパに係止された最Lo変速比または最Hi変速比に設定され、ストッパに係止された反力によって最低限のトルク伝達を行うことで車両の走行を可能にすることができ、油圧系や変速制御コントローラ1に異常が発生した急変速時に変速ショックが発生するのを抑制しながら、最低限の走行を可能にして、トロイダル型無段変速機10を備えた車両のフェイルセーフを確保することができるのである。
【0057】図11、図12は第3の実施形態を示し、前記第2実施形態の、油路切換弁6に接続するHi側油路40とLo側油路41の関係を逆にしたもので、その他の構成は前記第2実施形態と同様である。
【0058】すなわち、油路切換弁6の入力ポート6aにはLo側油路41の上流側(前後進切換弁524側)が接続される一方、出力ポート6cにはLo側油路41の下流側(油圧サーボシリンダ87、89側)が接続され、入力ポート6bにはHi側油路40の油圧が供給される。
【0059】そして、急変速が検知されて油路切換ソレノイド弁5がONになると、油路切換弁6の信号圧ポート6pに加わるパイロット圧が増大し、スプール61はスプリング62に抗して付勢され、図12に示すように、スプール61が図中右側へ変位して入力ポート6bと出力ポート6cを連通する一方、入力ポート6aを遮断する。したがって、Lo側油路41の下流の油圧は、Hi側油路40の油圧Phiと等しくなる。
【0060】すなわち、急変速時には、油圧サーボシリンダ87、89のHi側油室516とLo側油室518の差圧が小さくなるか、または差圧がなくなることになり、パワーローラ30、31のトラクション力を支持する力が減少または0になるため、無段変速機10のトルク伝達容量が急減するとともに、油圧サーボシリンダ87、89の差圧が非常に小さくなる、若しくは差圧がなくなることで急激な変速を行うことはできず、油圧系や変速制御コントローラ1に異常が発生した急変速時に変速ショックが発生するのを抑制することが可能となる。
【0061】図13、図14は第4の実施形態を示し、前記第2実施形態の、油路切換弁6を、Hi側油路40とLo側油路41の下流側を選択的にライン圧回路534に接続する油路切換弁6’に置き換えたもので、その他の構成は前記第2実施形態と同様である。
【0062】油路切換弁6’の入力ポート6AにはHi側油路40の上流側(前後進切換弁524側)が、入力ポート6CにはLo側油路41の同じく上流側(油圧サーボシリンダ87、89側)がそれぞれ接続される一方、出力ポート6BにはHi側油路40の下流側(前後進切換弁524側)が、出力ポート6DにはLo側油路41の同じく下流側がそれぞれ接続される。
【0063】そして、油路切換弁6’の入力ポート6E、6Fはライン圧回路534が接続されて、ライン圧PLが供給される。
【0064】油路切換弁6’を駆動する油路切換ソレノイド弁5は、前記第2実施形態と同じく、ライン圧ソレノイド528の油路601から分岐した油路601’に介装され、上流側(ライン圧ソレノイド528側)には絞り7が設けられる。
【0065】そして、油路切換ソレノイド弁5がOFFのときには、油路切換弁6’の信号圧ポート6pに所定のパイロット圧が加わるが、油圧切換弁6’のスプリング62はこのパイロット圧に抗してスプール61aを図13の左側へ付勢し、入力ポート6Aと出力ポート6B及び入力ポート6Cと出力ポート6Dをそれぞれ連通させる。したがって、Hi側油路40とLo側油路41の上流側は、それぞれ前後進切換弁524に連通されて、変速制御弁150からの油圧に応じて油圧サーボシリンダ87、89の油室516、518に差圧を発生させることで通常の変速制御を行う。
【0066】一方、変速制御コントローラ1で急変速が検知されて油路切換ソレノイド弁5がONになると、油路切換弁6’の信号圧ポート6pに加わるパイロット圧が増大するため、スプール61aはスプリング62に抗して付勢され、図14に示すように、スプール61aが図中右側へ変位して変速制御弁524と連通した入力ポート6A、6Cを遮断する一方、油圧サーボシリンダ87、89と連通した出力ポート6B、6Dをライン圧回路534に連通した入力ポート6E、6Fに連通させて、Hi側油路40とLo側油路41の下流の油圧は、ライン圧PLに等しくなる。
【0067】すなわち、急変速時には、油圧サーボシリンダ87、89のHi側油室516とLo側油室518の差圧が小さくなるか、または差圧がなくなることになり、パワーローラ30、31のトラクション力を支持する力が減少または0になるため、無段変速機10のトルク伝達容量が急減するとともに、油圧サーボシリンダ87、89の差圧が非常に小さくなる、若しくは差圧がなくなることで急激な変速を行うことはできず、油圧系や変速制御コントローラ1に異常が発生した急変速時に変速ショックが発生するのを抑制することが可能となる。
【0068】そして、上記と同様に、油圧サーボシリンダ87、89の差圧が小さくなる、あるいは0になることでパワーローラ30、31はトルクの伝達を行うことができなくなって急変速の方向へパワーローラ30、31の傾転が継続するが、トラニオン83、85にはパワーローラ30、31の過大な傾転を防止するための図示しないストッパが形成されているため、パワーローラ30、31の傾転角、すなわち変速比は、このストッパに係止された最Lo変速比または最Hi変速比に設定され、ストッパに係止された反力によって最低限のトルク伝達を行うことで車両の走行を可能にすることができ、油圧系や変速制御コントローラ1に異常が発生した急変速時に変速ショックが発生するのを抑制しながら、最低限の走行を可能にして、トロイダル型無段変速機10を備えた車両のフェイルセーフを確保することができるのである。
【0069】図15、図16は第5の実施形態を示し、前記第4実施形態の、油路切換弁6’の入力ポート6E、6Fをライン圧回路534に代わってタンクに接続したもので、その他の構成は前記第4実施形態と同様である。
【0070】通常走行中には油路切換ソレノイド弁5がOFFとなって、油路切換弁6’の信号圧ポート6pに所定のパイロット圧が加わるが、油圧切換弁6’のスプリング62はこのパイロット圧に抗してスプール61aを図15の左側へ付勢し、入力ポート6Aと出力ポート6B及び入力ポート6Cと出力ポート6Dをそれぞれ連通させる。したがって、Hi側油路40とLo側油路41の上流側は、それぞれ前後進切換弁524に連通されて、変速制御弁150からの油圧に応じて油圧サーボシリンダ87、89の油室516、518に差圧を発生させることで通常の変速制御を行う。
【0071】一方、変速制御コントローラ1で急変速が検知されて油路切換ソレノイド弁5がONになると、油路切換弁6’の信号圧ポート6pに加わるパイロット圧が増大するため、スプール61aはスプリング62に抗して付勢され、図16に示すように、スプール61aが図中右側へ変位して変速制御弁524と連通した入力ポート6A、6Cを遮断する一方、油圧サーボシリンダ87、89と連通した出力ポート6B、6Dはタンクと連通した入力ポート6E、6Fに連通されて、Hi側油路40とLo側油路41の下流の油圧は、タンクに排出されてほぼ等しくなる。
【0072】すなわち、急変速時には、油圧サーボシリンダ87、89のHi側油室516とLo側油室518の油圧がタンクに排出されて差圧が小さくなるか、または差圧がなくなることになり、パワーローラ30、31のトラクション力を支持する力が減少または0になるため、無段変速機10のトルク伝達容量が急減するとともに、油圧サーボシリンダ87、89の差圧が非常に小さくなる、若しくは差圧がなくなることで急激な変速を行うことはできず、油圧系や変速制御コントローラ1に異常が発生した急変速時に変速ショックが発生するのを抑制することが可能となる。
【0073】そして、上記と同様に、油圧サーボシリンダ87、89の差圧が小さくなる、あるいは0になることでパワーローラ30、31はトルクの伝達を行うことができなくなって急変速の方向へパワーローラ30、31の傾転が継続するが、トラニオン83、85にはパワーローラ30、31の過大な傾転を防止するための図示しないストッパが形成されているため、パワーローラ30、31の傾転角、すなわち変速比は、このストッパに係止された最Lo変速比または最Hi変速比に設定され、ストッパに係止された反力によって最低限のトルク伝達を行うことで車両の走行を可能にすることができ、油圧系や変速制御コントローラ1に異常が発生した急変速時に変速ショックが発生するのを抑制しながら、最低限の走行を可能にして、トロイダル型無段変速機10を備えた車両のフェイルセーフを確保することができるのである。
【0074】なお、上記実施形態において、実変速速度φの演算を入力軸回転数Ntと出力軸回転数Noから算出したが、パワーローラ30、31の傾転速度やトラニオン83、85の変位速度等から実際の変速速度を求めてもよい。
【0075】また、上記実施形態において、無段変速機10をダブルキャビティで構成した一例を示したが、図示はしないが、シングルキャビティのトロイダル型で構成しても同様である。
【出願人】 【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
【出願日】 平成9年(1997)9月19日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜 (外1名)
【公開番号】 特開平11−94062
【公開日】 平成11年(1999)4月9日
【出願番号】 特願平9−255113