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【発明の名称】 金属Vベルト
【発明者】 【氏名】矢ケ崎 徹
【課題】薄い無端ベルト状の金属製リングシートを重ねて構成される金属リング部材が引っ張り強度および耐磨耗性で問題となる。

【解決手段】金属VベルトMVを、無端ベルト状の金属リング20と、この金属リング20に沿って支持された多数の金属エレメント10とから構成し、金属リング20を複数の薄い無端ベルト状の金属製のリングシートを径方向に重ねて構成し、これらリングシートのうちの最内周および最外周のリングシート20a,20bを耐摩耗性の高い金属材料から作り、残りの中間リングシート20cを引っ張り強度の高い金属材料から作る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 無端ベルト状の金属リング部材と、この金属リング部材に沿って支持された多数の金属エレメント部材とからなり、駆動プーリと従動プーリ間に掛け渡されて動力を伝達する金属Vベルトにおいて、前記金属リング部材が、複数の薄い無端ベルト状の金属製のリングシートを径方向に重ねて構成され、これらリングシートのうちの最内周および最外周のリングシートを耐摩耗性の高い金属材料から作り、残りのリングシートを引っ張り強度の高い金属材料から作ったことを特徴とする金属Vベルト。
【請求項2】 前記耐摩耗性の高い金属材料のヤング率が前記引っ張り強度の高い金属材料のヤング率より小さいことを特徴とする請求項1に記載の金属Vベルト。
【請求項3】 前記耐摩耗性の高い金属材料がマレージング鋼であり、前記引っ張り強度の高い材料がステンレス鋼であることを特徴とする請求項1もしくは2に記載の金属Vベルト。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、Vベルト式無段変速機等に動力伝達用として用いられる金属Vベルトに関し、特に、これを構成する無端ベルト状の金属リング部材の構成に特徴を有する金属Vベルトに関する。
【0002】
【従来の技術】このような金属Vベルトは従来から公知となっており、例えば、実開昭62−131143号公報、特開平2−225840号公報、特開平7−12177号公報等に開示されている。このような従来から用いられている金属Vベルトは、無端ベルト状のリング部材と、このリングに沿って支持された多数の金属エレメント部材(金属コマとも称される)とから構成され、駆動プーリおよび従動プーリ間に掛け渡されて動力伝達を行う。これら両プーリはそのV溝幅が可変制御できるようになっており、このV溝幅を可変制御することにより両プーリにおけるVベルトの巻き掛け半径を変化させ、変速比を無段階に変化させることができるようになっている。
【0003】このような金属Vベルトにより両プーリ間で動力伝達を行うときに、金属エレメント部材が押されながら動力伝達がなされ、金属エレメント部材に作用する圧縮力により動力を伝達する。但し、このときに多数の金属エレメント部材を繋げてリング状にリング部材には引っ張り力が作用するとともに、両プーリに巻き掛けられる状態では曲げ応力が作用し、さらに、金属エレメント部材と接触する部分には摩擦力が作用する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このため、リング部材はこのような各種の作用力を考慮し、これらの力に対しても十分な強度および寿命を有するようにその材質、形状等を最適に設定する必要がある。ここで、リング部材は一般的に薄い無端ベルト状の金属製リングシートを複数枚重ねて構成されており、最内周および最外周のリングシートは金属エレメント部材と接触するため、摩擦力を受けて磨耗しやすく、最内周および最外周のリングシートの耐久性が最も問題となりやすい。
【0005】本発明はこのような問題に鑑みたもので、薄い無端ベルト状の金属製リングシートを重ねて構成される金属リング部材が十分な強度および耐久性を有するような構成の金属Vベルトを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】このような目的達成のため、本発明においては、駆動プーリと従動プーリ間に掛け渡されて動力を伝達する金属Vベルトを、無端ベルト状の金属リング部材と、この金属リング部材に沿って支持された多数の金属エレメント部材とから構成し、金属リング部材を複数の薄い無端ベルト状の金属製のリングシートを径方向に重ねて構成し、これらリングシートのうちの最内周および最外周のリングシートを耐摩耗性の高い金属材料から作り、残りのリングシートを引っ張り強度の高い金属材料から作ることを特徴とする。
【0007】金属Vベルトを駆動および従動プーリ間に掛け渡して駆動力伝達を行わせている状態では、金属リンク部材は引っ張り力を受けるとともに両プーリに巻き掛けられている状態で巻き掛け半径に対応する曲げ変形による曲げ力を受け、さらに、最内周および最外周のリングシートは金属エレメント部材と接触して摩擦による磨耗が生じる可能性がある。ここで、本発明の金属Vベルトでは、最内周および最外周のリングシートは耐磨耗性の高い金属材料から作られるため、金属エレメント部材との接触によっても磨耗が生じにくく、さらに、残りのリングシートは引っ張り強度の高い金属材料から作られているため、これら残りのリングシートにより引っ張り力を受け持つことができる。このため、金属Vベルト全体として、引っ張り強度が高くなるとともに耐磨耗性も高くなり、強度および耐久性に優れた金属Vベルトを得ることができる。
【0008】このようにして金属Vベルトを構成する場合に、耐摩耗性の高い金属材料のヤング率が引っ張り強度の高い金属材料のヤング率より小さくなるような材料を用いるのが好ましい。ヤング率が小さければ引っ張り力を受けたときの伸び率が大きくなるため、金属リング部材に作用する引っ張り力はヤング率の大きな部材によりより多く受け止められ、作用する引っ張り応力はヤング率の小さな金属材料の方がヤング率の大きな金属材料より小さくなる。このため、耐磨耗性の高い金属材料製の最内周および最外周のリングシートの引っ張り応力が小さく、引っ張り強度の高い紺族材料製の中間リングシートの引っ張り応力が大きくなる。これにより、最内周および最外周のリングシートは主として耐磨耗性を受け持ち、中間のリングシートは引っ張り強度を受け持つことになり、全体としての強度耐久性が向上する。
【0009】なお、耐摩耗性の高い金属材料としてマレージング鋼を用い、引っ張り強度の高い材料としてステンレス鋼を用いるのが好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。まず、図2に示すように、本発明に係る金属VベルトMVは、無端ベルト状の金属リング20と、この金属リング20に沿って支持された多数の金属エレメント(金属コマ)10とから構成され、それぞれV溝幅が可変となった駆動プーリ1と従動プーリ5とに掛け渡されて駆動力を伝達する。
【0011】金属VベルトMVが駆動プーリ1に巻き掛けられた状態を図3に示しており、固定プーリ半体1aと可動プーリ半体1bとから構成される駆動プーリ1のV溝内に金属エレメント10が入り込んだ状態となる。可動プーリ半体1bを軸方向(X方向)に移動させる制御を行うことにより、金属エレメント10を径方向(Y方向)に移動させ、金属VベルトMVの駆動プーリ1に対する巻き掛け半径を可変させることができる。従動プーリ5についても同様にして金属Vベルトの巻き掛け半径を可変させることができ、両巻き掛け半径を制御することにより、両プーリ1,5間での変速比を無段階に調節可能である。
【0012】この金属VベルトMVを図1および図4に詳しく示しており、金属エレメント10は、左右両端にV面11b,11bを有したボディ部11と、このボディ部11の中央から上方に延びて左右に拡がったイヤー部12とを有した形状に作られている。ボディ部11の左右上面には平らなサドル面11aが形成されており、左右イヤー部12の下面にはそれぞれ平らな保持面12aが形成されており、サドル面11aと保持面12aとに挟まれて左右一対のスロットが形成されている。このスロットル内に左右一対の金属リング20が挿入されるようにして、金属リング20に沿って多数の金属エレメント10が配設されて金属VベルトMVが構成されている。
【0013】ここで金属リング20は、複数(例えば、12枚)の薄い無端ベルト状の金属製のリングシート20a,20b,20cを径方向に重ねて構成されている。これらリングシートのうち、最外周リングシート20aと最内周リングシート20bとは18Niマレージング鋼(ヤング率:18600kgf/mm2)から作られ、これらリングシート20a,20bの間に位置する複数の中間リングシート20cは全て析出硬化型ステンレス鋼(ヤング率:20400kgf/mm2)から作られている。なお、マレージング鋼はステンレス鋼に比較して耐磨耗性に優れ、ステンレス鋼はマレージング鋼に比較して引っ張り強度が優れる。
【0014】このような構成の金属リング20が、図2に示すように駆動および従動プーリ1,5間に掛け渡されて動力伝達が行われるときに受ける力を考える。両プーリ1,5が矢印B,Dで示すように回転され、駆動プーリ1から従動プーリ5に駆動力が伝達されるときには、矢印Aで示す直線領域(往き側弦領域Aと称する)では金属エレメント10が押されることにより動力伝達が行われる。このため、この直線領域Aにおいては金属リング20はこの押力の反力に対応する引っ張り力を受ける。
【0015】次に、矢印Bで示す従動プーリ5への巻き付き領域(DN側巻付領域Bと称する)では、金属エレメントの押力が徐々に低下し、矢印Cで示す直線領域に移行する位置で理論的には零となる。このため、直線領域Cの引っ張り力まで徐々に低下する。但し、この巻き付き領域Bでは、金属リング20、すなわち、各リングシート20a,20b,20cは従動プーリ5に対する巻き付け半径に対応した曲率で曲げ変形を受け、曲げ応力が発生する。さらに、直線領域C(戻り側弦領域Cと称する)では金属リング20は所定の引っ張り力を受ける。
【0016】矢印Dで示す巻き付き領域(DR側巻付領域Dと称する)では、金属リング20、すなわち、各リングシート20a,20b,20cは駆動プーリ1に対する巻き付け半径に対応した曲率で曲げ変形を受け、曲げ応力が発生する。同時に引っ張り力は徐々に増加する。
【0017】なお、全ての領域において、金属エレメント10のサドル面11aと最内周リング20bとの接触および保持面12aと最外周リング20aとの接触により最外周および最内周リング20a,20bが磨耗する可能性がある。
【0018】以上説明した各領域A〜Dにおける最内周の金属リング20bに作用する引っ張り応力σの変化を定性的に図5に示している。なお、この図5における実線L1が本発明に係る金属VベルトMVの金属リング20bの引っ張り応力変化を示し、鎖線L2が従来の金属Vベルト(全金属リングがステンレス鋼から作られる金属Vベルト)の引っ張り応力変化を参考までに示している。なお、この図には、最大応力と最小応力との差σa1(本発明),σa2(従来)と、その平均応力σm1(本発明),σm2(従来)とを示している。
【0019】以上のような引っ張りおよび曲げ応力が金属リング20に作用し、これらの応力が金属VベルトMVが両プーリ1,5に巻き掛けられて一周する度に繰り返し作用する。このため、金属リング20はこのような引っ張りおよび曲げ応力の繰り返しに対する強度(特に、疲労強度)および耐久性を考慮して設計する必要がある。さらに、最外周リングシート20aと最内周リングシート20bとはそれぞれ保持面12aとサドル面11aとの接触による磨耗が問題となるため、強度および耐久性について最も厳しい条件となる。
【0020】しかしながら、本例の金属VベルトMVの場合には、最外周リングシート20aと最内周リングシート20bとを耐磨耗性に優れるマレージング鋼から作っているため、磨耗による耐久性低下の抑制に対して有効である。しかも、中間リングシート20cはステンレス鋼で作っているため、これらは引っ張り強度に対して有効であり、耐久性(寿命)が向上している。
【0021】ここで、マレージング鋼のヤング率(18600kgf/mm2)は、ステンレス鋼のヤング率(20400kgf/mm2)より小さいため、金属リング20に作用する引っ張り力の負担割合がステンレス鋼の方が大きくなる。すなわち、定性的に言って、中間リングシート20cの引っ張り応力が最外周およぴ最内周リングシート20a,20bの引っ張り応力より大きくなり、最外周およぴ最内周リングシート20a,20bの引っ張り力に対する強度条件は緩やかとなる。
【0022】つまり、磨耗の問題があり強度条件が最も厳しい最外周および最内周のリングシート20a,20bについては耐磨耗性が高い材料で作る上にこれに作用する引っ張り応力が小さくなり、引っ張り応力が大きい中間リングシート20cについては引っ張り強度の大きな材料で作っているため、金属リング20全体としての耐久性が向上する。
【0023】具体的な例を図5の引っ張り応力について説明する。本発明の金属Vベルトを用いた無段変速機を、例えば、減速比が0.61(TOPの減速比)で、入力回転6000rpmで、入力トルク143Nmで駆動したときでの最内周リング20bの平均応力σm1=16.63kg/mm2 であった。これに対して、全金属リングをマレージング鋼から作った従来のベルトの場合には、同一駆動条件で平均応力σm2=17.86kg/mm2 であり、本発明の方が約7%程度平均応力が低下した。
【0024】この測定に用いた本発明に係る金属Vベルトは、最内周および最外周金属リング20a,20bがともにマレージング鋼製で、間の10枚の金属リング20cがステンレス鋼製である。ここで金属リング20が合計12枚のリング部材からなるとして、マレージング鋼製の金属リングの数N(YAG)と、ステンレス鋼製の金属リングの数N(SUS)とを変更した場合での最内周マレージング鋼製リング20bの応力変化を図6に示している。この図から分かるように、N(SUS)=0,N(YAG)=12、すなわち全てがマレージング鋼製の金属リングのときには、平均引っ張り応力σm=17.86kg/mm2 であり、ステンレス鋼製の金属リングの枚数が増加するのに応じてステンレス構成の金属リングが多くの引っ張り力を受けるため、最内周のマレージング鋼製の金属リングの引っ張り応力が低下する。但し、対磨耗性を考えると、最内周および最外周の金属リングをマレージング鋼製とするのが好ましい。
【0025】なお、マレージング鋼はステンレス鋼に比較してコストが高いため、中間リングシート20cをステンレス鋼とすることにより、全リングシートをマレージング鋼とする場合に比べてコストが低下するという利点もある。
【0026】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、金属Vベルトを構成する金属リング部材を、複数の薄い無端ベルト状の金属製のリングシートを径方向に重ねて構成し、これらリングシートのうちの最内周および最外周のリングシートを耐摩耗性の高い金属材料から作り、残りのリングシートを引っ張り強度の高い金属材料から作っているので、最内周および最外周のリングシートは金属エレメント部材との接触によっても磨耗が生じにくく、残りの中間リングシートにより引っ張り力を受け持つことができ、金属Vベルト全体として、引っ張り強度が高くなるとともに耐磨耗性も高くなり、強度および耐久性に優れた金属Vベルトを得ることができる。
【0027】このようにして金属Vベルトを構成する場合に、耐摩耗性の高い金属材料のヤング率が引っ張り強度の高い金属材料のヤング率より小さくなるような材料を用いるのが好ましい。ヤング率が小さいは引っ張り力を受けたときの伸び率が大きくなるため、金属リング部材に作用する引っ張り応力は、ヤング率の小さな金属材料の方がヤング率の大きな金属材料より小さくなる。このため、耐磨耗性の高い金属材料製の最内周および最外周のリングシートの引っ張り応力が小さく、引っ張り強度の高い紺族材料製の中間リングシートの引っ張り応力が大きくなる。これにより、最内周および最外周のリングシートは主として耐磨耗性を受け持ち、中間のリングシートは引っ張り強度を受け持つことになり、全体としての強度耐久性が向上する。なお、耐摩耗性の高い金属材料としてマレージング鋼を用い、引っ張り強度の高い材料としてステンレス鋼を用いることができる。
【出願人】 【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
【出願日】 平成10年(1998)6月8日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】大西 正悟
【公開番号】 特開平11−351334
【公開日】 平成11年(1999)12月24日
【出願番号】 特願平10−158772