トップ :: C 化学 冶金 :: C23 金属質材料への被覆;金属質材料による材料への被覆;化学的表面処理;金属質材料の拡散処理;真空蒸着,スパツタリング,イオン注入法,または化学蒸着による被覆一般;金属質材料の防食または鉱皮の抑制一般

【発明の名称】 Fe−Ni系低熱膨張率合金製品の酸洗方法
【発明者】 【氏名】白井 政雄
【氏名】久保 尚重
【氏名】岩橋 拓
【氏名】山川 武人
【氏名】政友 弘明
【課題】Fe−Ni系低熱膨張率合金製品(板材、管材、線材、あるいはこれらを組み合わせて作られる機器)の脱スケールや錆落としのための酸洗を、孔食の発生なしに効率よく行う方法を提供する。

【解決手段】Fe−Ni系低熱膨張率合金製品を5〜10重量%の硝酸と1.5〜3重量%の弗酸を含み、温度が20〜45℃の水溶液に1〜15分浸漬する。この方法は、製品形状にかかわらず適用可能であり、従来の機械的な方法よりも効率的である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】5〜10重量%の硝酸と1.5〜3重量%の弗酸を含み、温度が20〜45℃の水溶液に1〜15分浸漬することを特徴とするFe−Ni系低熱膨張率合金製品の酸洗方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、Fe−Ni系低熱膨張率合金製品、例えば、板材、管材、線材、これらを素材として作製される各種の製品の脱スケール、錆落とし等を目的とする酸洗方法に関する。
【0002】
【従来の技術】30〜45重量%のNiを含むFe−Ni系の合金は、熱膨張率が著しく小さい。特に、36%Ni-Fe合金および42%Ni-Fe合金は、インバーと呼ばれて温度変化による熱膨張を嫌う種々の部品材料として実用に供されている。しかし、従来の用途は、バイメタルやブラウン管のシャドウマスクというような比較的小型の精密機器の部品が多い。
【0003】上記の低熱膨張率合金を液化天然ガス(LNG)のような低温物質の輸送用配管(低温配管)に応用すれば、きわめて大きな実益が得られる。低温配管は、通常、SUS304のようなオーステナイト系のステンレス鋼で作られているが、この材料は、熱膨張率が大きいので、配管の温度変化に起因する膨張・収縮量が大きい。従って、配管の所々にはこの膨張・収縮を吸収するためのループ管を挟む必要がある。このループ管の存在によって、■溶接継手の数が増え、ループ管の保冷作業にも手間がかかる、■ループ管用の高価なエルボ管が必要になる、■ループ管の張り出しの分だけ大きな敷設スペースを要する、トンネル内配管の場合にはトンネルの径を大きくしなければならない、■ループ管により流体の流れ方向が変化し、これに伴い圧力損失が増大する、といった数々の問題が生じる。
【0004】上記のFe−Ni系合金の熱膨張率は、オーステナイト系ステンレス鋼の約1/10である。このような合金を低温配管用の材料とすれば、配管の途中に、ループ管を設ける必要がなくなり、前記の問題は一挙に解決できる。しかしながら、低熱膨張率合金製の配管を実用化するには、解決すべき様々な課題がある。その一つがFe−Ni系合金の脱スケールや錆落としである。
【0005】Fe−Ni系合金は、加熱されると表面に酸化スケールが発生する。また、大気中に長時間放置されたり、水分に触れたりすると茶緑色の錆が生じる。これらの酸化スケールや錆は、合金の耐食性、表面処理作業性、外観等を損なうので、Fe−Ni系合金製の板や管を製造する場合、製造工程の途中あるいは最終の工程で酸化スケールや錆を除去する必要がある。
【0006】一般のステンレスを脱スケールする場合には硝酸と弗酸の混合液に浸漬する方法が広く使われている。しかし、Fe−Ni系低熱膨張率合金は、Crを含有していないので、表面にCr酸化物の保護皮膜を持たない。従って、ステンレス鋼の脱スケールに使用されているような酸液で処理すると容易に孔食を起こしてしまう。
【0007】上記のような事情から、Fe−Ni系低熱膨張率合金の脱スケールや錆落としは、通常は研削や切削によって行うことが多い。しかし、前記の低温配管のような大型構造物に使用する板材や管材の脱スケールをこのような機械的方法で行うのは効率的でない。特に管のような曲面で構成される製品や形状の複雑な製品では、バフ研磨のような機械的な方法は適用し難い。
【0008】なお、酸の代わりに塩化第二鉄を主成分とする処理液を使って脱スケールを実施することもあるが、やはり孔食の発生を伴うことがある上、脱スケール効率も悪い。そこで、例えば、特開平5-78788号公報には、塩化第2鉄を主成分とする処理液で酸洗する場合のピット状またはあばた状の腐食を防止する対策として、合金の成分を調整する発明が提案されている。しかしながら、大量に使用する合金の化学組成を、単に酸洗性の改善だけを目的として変更するというのも現実的ではない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、Fe−Ni系低熱膨張率合金製の板材、管材、線材(例えば溶接ワイヤ)あるいはこれらを組み合わせて作られる機器(本明細書ではこれらの素材、半製品、および製品を総称して「Fe−Ni系低熱膨張率合金製品」という)の酸洗を、前述の孔食等を発生させることなく、効率よく行う方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は「5〜10重量%の硝酸と1.5〜3重量%の弗酸を含み、温度が20〜45℃の水溶液に、1〜15分浸漬することを特徴とするFe−Ni系低熱膨張率合金製品の酸洗方法」を要旨とする。
【0011】なお、上記のFe−Ni系低熱膨張率合金とは、30〜45重量%のNiを含み、残部が実質的にFeから成る合金、および更にCo、Ti、Nb、Cr、Mo等の少量の副成分を含む合金を意味する。
【0012】硝酸濃度の望ましい範囲は7〜10重量%、弗酸濃度の望ましい範囲は2〜3重量%、液の望ましい温度は25〜40℃、処理時間の望ましい範囲は3〜8分である。
【0013】
【発明の実施の形態】前記の低温配管やタンク等の構造物に使用する管や板、あるいはこれらの溶接に用いる溶接材料(ワイヤ)等の脱スケールや錆落としは、処理量が多く、また形状も様々であるから、機械的な方法では効率が悪い。従って、一般のステンレスで広く使われているような、酸液に浸漬する方法(酸洗)が望ましい。しかし、ステンレス鋼の酸洗の条件をそのまま適用することはできない。前記のように、Fe-Ni系低熱膨張率合金は、基本的にはCrを含んでいないために、孔食を防ぐ酸化皮膜が材料表面に存在せず、従って、酸洗によりスケールや錆が除去されると同時に母材自身が局部的に腐食されてしまうからである。
【0014】本発明者は、この点に注目し、酸の種類、濃度、温度および浸漬時間について詳細な検討を行って、Fe-Ni系低熱膨張率合金でも孔食を起こさずに酸洗ができる条件を見いだした。即ち、酸化スケールや錆が完全に除去されて、しかも孔食を発生させないためには、酸洗液の硝酸濃度を5〜10重量%、弗酸濃度を1.5〜3重量%とし、処理温度(酸洗液の温度)を20〜45℃とし、更に処理時間(浸漬時間)を1分〜15分に管理する必要があることを確認した。以下、それぞれの限定理由を説明する。
(1)酸の種類と濃度について使用する酸としては、ステンレス鋼の酸洗に常用されている硝酸と弗酸を選んだ。それはFe−Ni系低熱膨張率合金の加工が、ステンレス鋼を取り扱う工場で行われることが多いので、ステンレス鋼の処理に使用する資材を流用するのが望ましいからである。そして、この硝酸と弗酸の混合水溶液であっても、その濃度や使用条件を適正に決定すれば、Fe−Ni系低熱膨張率合金の酸洗が効果的に実施できることを確認した。
【0015】硝酸濃度が10重量%を超えたばあい、また、弗酸濃度が3重量%を超えた場合、いずれも被処理材に孔食が発生し易くなる。一方、硝酸濃度が5重量%未満の場合、および弗酸濃度が1.5重量%未満のばあいは、酸洗能力が低下し、非効率的になる。なお、硝酸と弗酸の濃度比率が10:3程度の場合が最も効果的である。
【0016】(2)処理温度について処理温度(酸洗液の温度)が、20℃よりも低いと、酸洗の能力が低下し、処理に長時間を要して作業能率が落ちる。一方、処理温度が45℃を超える高温になると、被処理製品に孔食が発生しやすくなって、処理時間の調整だけでは孔食防止が困難になる。
【0017】(3)処理時間について上記(1)および(2)の条件下では、1分から15分までの処理時間(酸洗液中の浸漬時間)で、孔食発生無しに完全な脱スケールまたは錆落としを行うことができる。この時間内でスケールや錆の厚さ等に応じて、適正な処理時間を選定すればよい。なお、原則的には、酸洗液の酸の濃度および温度が高い時には処理時間は短くし、逆の場合は長くする。処理液の濃度ばらつきや、処理する合金の成分のばらつきも考慮して、浸漬時間は、3分〜8分で管理するのが望ましい。
【0018】
【実施例】
〔実施例1〕表1に示す試材1の熱間圧延のままの板を試験片として表2に示す種々の条件で酸洗を行い、処理後の試験片の表面を目視観察して、スケールの有無と孔食の有無を調べた。その結果を表2に併記する。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】表2に示すとおり、2分から13分の処理時間では、25℃、40℃のいずれの処理時間でも合格レベルの脱スケール効果が得られている。特に、3分から8分の間では、全く孔食の発生なしに、脱スケールができている。
【0022】なお、この実施例では、処理時間1分ではスケール残りが発生する場合があるが、酸洗温度を45℃まで高めることによってこのスケール残りも解消できた。一方、処理時間15分と20分で生じている孔食は、酸洗温度を20℃まで下げることによって防止することができた。
【0023】〔実施例2〕前記の表1に示した試材2の合金から外径508mm、肉厚9.5mmの管(溶接管)を製造し、下記の条件で酸洗してスケールと錆の残存の有無と孔食の発生状況を調べた。どの合金製の管にもスケールや錆は残存しておらず、また、孔食の発生もないことが確認された。
【0024】酸洗条件:■酸洗液・・・9%硝酸、3%弗酸の水溶液。
【0025】■処理温度(酸洗液の温度)・・・25℃■処理時間(酸洗液への浸漬時間)・・・5分【0026】
【発明の効果】本発明の方法を用いれば、一般のステンレス鋼の脱スケールに使用されている硝酸と弗酸を含む酸洗液によって、孔食を発生させることなくFe−Ni系低熱膨張率合金の酸洗を行うことができる。この方法は、被処理製品の形状にかかわらず適用でき、しかも効率的であるから、Fe−Ni系低熱膨張率合金を配管やタンク等の材料として実用化するのに大きく貢献する。
【出願人】 【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
【識別番号】000002118
【氏名又は名称】住友金属工業株式会社
【出願日】 平成9年(1997)10月6日
【代理人】 【弁理士】
【氏名又は名称】穂上 照忠 (外1名)
【公開番号】 特開平11−106969
【公開日】 平成11年(1999)4月20日
【出願番号】 特願平9−272331